~引き継いだものと引き継いで欲しいもの~
●要約
中島飛行機をルーツとするスバルは、
80年代末にレガシィを発売。
レガシィはスバルのDNAを
時代の波にうまく乗せて
空前のヒットを記録した。
2000年代の改革により、
企業としての収益は大きく躍進したが、
レガシィ時代の売り上げは下降線をたどる。
インプレッサの車台をベースに
日本におけるレガシィツーリングワゴン後継として
レヴォーグを開発した。
私はレガシィが持っていた魅力は
1.ツーリングワゴンであること
2.憲法「ハイパワー水平対抗エンジン+
シンメトリーAWD」を遵守すること
3.大きすぎないミドルサイズの寸法と
クラスレスな質感を持つこと
と考える。
レヴォーグはその魅力を引継ぎつつ、
低燃費と扱いやすいボディサイズで
「何となくレガシィ」層と
輸入車に流れていた層への訴求に力を入れている。
エクステリアは現代の潮流を意識しつつ、
スバルらしい力強さとデザインに対する配慮のなさが同居する。
FrマスクはスバルらしいがRrコンビランプが
メガーヌエステートに酷似してしまっている。
サイドビューも配慮が足りない部分があるが、
「ちょっとカッコ悪い」ところもスバル流なのかも。
インテリアは質実剛健で装備水準も高いが、
ベースのインプレッサと代わり映えしない部分が惜しい。
シルバー、ピアノブラック加飾、TFT液晶、
カラーステッチ、E-PKBなど近年のトレンドは抑えている。
パッケージングも良好だが、カーゴネットが装備されないのは疑問。
10年以上前の自社製品に負けている。
1.6GTに試乗してみると1.6車のCVTのセッティングが
あまりにも燃費重視しすぎる点に閉口した。
SIドライブのSモードを選ぶことで解決したが、
ハンドリングにも不満が残る。
1.6GT-Sはビル脚装備。乗り味が飛躍的に進化。
レヴォーグの真髄は1.6GT-Sに宿ると判断。
2.0GT-Sは、かつてのスバルらしい暴力的な加速。
すごいことはすごいが扱いきる自信なし。
総じてレヴォーグはかつてのレガシィが大切にしてきた
顧客層に振り向いてもらうために
小型化し、新開発エンジンで燃費も磨いた。
レガシィの世襲はまずまず成功か。
ただし、個人的な不満点も残るので年次改良に期待。
●スバルの歴史とレヴォーク開発の経緯
スバルといえば、戦時中は戦闘機を開発生産していた
中島飛行機をルーツとし、
戦後は航空技術者たちが知恵を結集して本格的軽自動車スバル360を開発。
その後、水平対抗FFのスバル1000を開発。
更にAWD技術にも早くから目をつけた。
80年代末にはレガシィを発売した。
「大いなる伝承物」との意味を持つレガシィは
商用仕様の無い専用ワゴンボディに対し、
比類なき圧倒的な走行性能を持った水平対抗エンジンと
シンメトリーAWDを与えることで、
従来のヒエラルキーに属することの無いクラスレスな魅力を持った。
輸入車と戦える魅力を持ったレガシィは空前のヒットとなり、
名実ともに80年代以降のスバルの屋台骨であり続けた。
熱狂的にスバルの持つ技術を愛するスバリストだけではなく、
「なんとなくレガシィ」層の心も掴んだのだと思われる。
玄人好みする車が、時代の波にうまく乗り、
バンドワゴン効果でどんどん販売が伸びたのがレガシィの姿だと考えられる。
レガシイの下にはWRCで名を馳せたインプレッサがあり、
インプレッサベースのフォレスターもある。
そしてスバルが自動車メーカーとして歩んだ第一歩である
軽自動車(vivio、プレオ、R2、ステラ、サンバー系など)もあった。
そのどれもが玄人好みする独特な高級メカニズムを採用した
内容的にはかなり個性的な車をたくさん作っていた。
スバルが持つ独特の技術は
「ハイパワー水平対抗エンジン+シンメトリーAWD」
という憲法に集約される。
軽自動車は「4気筒+4輪独立懸架」という憲法を持つ。
90年代のスバルにはいつもこの憲法が存在していた。
軽には軽の、普通車には普通車の憲法があり、
スバル車は憲法を遵守することでスバルのアイデンティティを保っていた。
ところが、私が学生だった2000年代からスバルの動きは変わり始めた。
事件1:スバルは4代目レガシィを3ナンバー化(2003)、
事件2:トヨタ自動車と提携し、北米でカムリの生産を委託(2005)、
事件3:北米にてトライベッカB9を発売(2005)、
事件4:WRC撤退(2008)
事件5:5代目レガシィを北米市場に向けて開発(2010)
事件6:軽自動車撤退発表(2008)
・・・などなど往年のスバリストの胸に
6連星の傷跡を残すような事件が続発。
軽自動車を見限り、トヨタと近づき、
レガシィの軸足を北米に移した。
その経営的判断はほぼ全てが目論見通りとなり、
スバルの経営状態は右肩上がり。
2013年度は最高益をたたき出し、
経営的な判断が正しかったことを内外にアピールした。
例えば、軽自動車の開発生産をやめたことで
空いた人員をインプレッサの開発に注ぎ込み、
わずか4年でFMCすることができた。
(初代は8年、二代目は7年売った)
レガシィも初代から3代目までは5ナンバー枠を死守したが、
4代目からは3ナンバー化。
それでも国内でギリギリ扱いやすいサイズを保ち、
すっきりとしたスタイルで好評を得ていたが、
フルモデルチェンジで更に大型化。
主力エンジンも2500ccになり、日本人にとっては
もはや大きすぎると感じる国際的Dセグメントサイズに成長。
この理由はレガシィは北米を重視したためとしている。
1987年に設立されたアメリカインディアナ州のSIAの従業員が
「ここで自分たちが作る車の性能がよい事は認めるが、
自分たちが乗ると窮屈すぎて欲しいとは思わない」
といった趣旨の指摘を受けたためだとしている。
5代目レガシィは北米のカムリやアコードに匹敵するボディサイズを得た。
確かに天井が高く、幅もワイドなので居住性は文句なしのレベルだった。
SIA従業員の指摘は的確で、大きくなったレガシィは北米で売れた。
スバルの人の話によれば、レガシィは衝突安全アセスメントで
良好な成績を収めており、北米ではそれが評価されて販売が伸びたとのこと。
確かに
CMを見ると、
北米でトップセーフティピックに全モデルが選ばれたことをアピールしている。
(CMに出てくるレガシィがMT!とかシフトレバーを記念にするのってやるよねー、
じゃなくて背景の解体車に目が言ってしまった貴方は名乗り出るように。)
かつてSIAでは生産する車が少なすぎてカムリを生産していたが、
その委託生産を打ち切る必要が出るまで北米でのレガシィは成長した。
6代目となるレガシィは現行路線を踏襲し、北米での持続的成長を狙う。
北米事業はスバルの読みが当たり、ジャストサイズのレガシィと
土臭いSUVのフォレスターを磨くことで収益を拡大した。
一方、日本市場では巨大すぎるレガシィに対し、ユーザーは拒否反応を示した。
ワゴンブーム終了と3ナンバー化した事で4代目から徐々に下降線をたどり始め、
北米市場に特化した5代目では明らかに販売台数が低下した。
スバルを愛する人々だけでなく、「何となくレガシィ」層も
大きすぎるレガシィを敬遠する動きが現れたということだ。
モデルチェンジのたびに大きくなり、国際的な潮流に乗ろうとすると、
国内市場は拒否反応を示すのはレガシィといえども例外ではなかったのだ。
そして2013年にはレガシィツーリングワゴンの発展的廃止を発表した。
レガシィを北米の販売に特化させてセダンとアウトバックのみ残す。
(レガシィセダンは国内での販売予定あり)
その代わり、レガシィツーリングワゴンの心を受け継ぐべく
「レヴォーグ」という後継車種を開発したと発表し、
2013年の東京モーターショーで展示した。
レヴォーグはざっくり言ってしまうと、
インプレッサの車台をベースに
WRX(セダン)の設計を生かしつつ、
日本を主戦場としたステーションワゴンである。
レガシィと比べて小さいインプレッサの車台を用い、
全高は45mm、全長を100mmも縮小した。
全幅は変化が無いため5ナンバー枠に入らないものの、
確かに実車を確認するとちょうど良いサイズ感に落ち着いたと思われた。
日本からレガシィツーリングワゴンが無くなる、
というだけでも胸に7つ目の傷を付けられた気持ちになったスバリストは
スバルに対し「不買」という秘孔を突くのか・・・・・
スバルがこのたび発売したレヴォーグはスバルにとっても
スバリストにとっても重要な一台だ。
●レヴォーグの企画
先にも述べたがレガシィの魅力をまとめると
1.ツーリングワゴンであること
2.憲法「ハイパワー水平対抗エンジン+
シンメトリーAWD」を遵守すること
3.大きすぎないミドルサイズの寸法と
クラスレスな質感を持つこと
であろう。本来は「燃費」や「ぶつからない車」は
スバリストにとってさほど重要な問題ではなかった。
しかし、レヴォーグは「何となくレガシィ」層への
魅力を訴求するために、
新開発の1600ccダウンサイジングターボエンジンを搭載。
これに5代目レガシイで開発したCVTを組み合わせて
航続距離1000kmを誇る低燃費を実現して見せた。
1600ccという排気量で自然吸気2500cc並みの
パフォーマンスを発揮しつつ、ターボでありながら
レギュラーガソリンの使用可も相まって
ダウンサイジングの要請にも応えつつ、
先行する欧州ダウンサイジング車を超える経済性を身に着けた。
4駆でターボという車種で17.4km/Lは立派な数値。
また、今やスバルの代名詞と言っても過言ではない
「アイサイト」もVer.3となり、
速度差50km/hで停止させることができるようになっただけでなく、
車線逸脱修正や飛び出し防止制御も追加された。
安価なステレオカメラを使い画像処理で
前方の状況を確認するアイサイトだが、
今回はカラー化することでストップランプの光をも
検知することができるようになったのだとか。
そして大きくなりすぎたレガシィの後継ということで
ボディサイズはインプレッサの車台を流用し、
全長の100mmカットを達成した。
これによりDセグというよりもC+とも呼べるセグメントに属することになった。
北米偏重で停滞したレガシィの顧客に再び振り向いてもらうだけではなく、
台頭する輸入車を視野に入れて検討中のユーザーに訴求できる商品性を
確保することで、レガシィの価格帯を受け継ごうとした新商品がレヴォーグだ。
インプレッサベースでボディサイズも排気量も小さくなっている割りに
レヴォーグのスタート価格は247万円とレガシイの240万円よりも7万円高い。
つまり、クラスレスなレガシィの顧客層は排気量やボディサイズではなく、
クルマの内容に対して価値を認めるとスバルは考えているのだ。
●25年後に引き継がれた不連続ベルトライン
レヴォーグのエクステリアは、
現代のスバルらしいデザインでまとめられている。
顔つきは追ってデビューするWRXと同じ顔つきだ。
インプレッサよりも切れ長のヘッドライト、
アイデンティティのグリル形状、そして
今やオールドファッションとのそしりを受けかねない
インタークーラー導風口はいかにもスバルらしさ全開である。
この処理についてスバルは
「このインテークありきでフロントマスクはデザインされている。
もしインテークが無いと、グリルやヘッドライトが下にありすぎる。
インタークーラーを最大限冷やしたいという思いも
あり現在の位置とした」とのこと。
私のようなちょっと旧い人間にとっては
高性能を象徴する力強い顔つきだと評価する。
Bピラー以降は専用のワゴンボディとなっている。
5代目レガシィ譲りのDピラーの処理は4代目までの
ヒドゥン化(隠し処理)されたものとは異なる。
Dピラーの角度のどこと無く5代目レガシィ風で少し傾斜している。
サイドビューはインプレッサとの血縁を強く感じる部分だ。
ドアミラーの配置や内臓物の配置が共通のためだろう。
ただ、SUS製のドアベルトラインモールは引っかかるものがあった。
ドアフレームがレガシィ系とインプレッサ系では構造が異なる。
レガシィはDLOを一周するようなSUSモールは走っているが、
インプレッサ系はドアサッシュはサッ黒テープと呼ばれる
黒テープで仕上げられている。
サッシュは昔はボディ同色が普通で、
気の効いた車はブラックアウト塗装だったが、
後につや消し黒のテープ張りに変更され、
現代ではモール+簡易テープ張り構造になりつつある。
レヴォーグはインプレッサ系でありながら、
テープの色味を高級感があるとされる艶ありピアノブラックに変更。
更にベルトラインモールをインプレッサの樹脂ゴム製ではなく、
キラキラ光るSUS製を採用している。
ところが、Frフェンダーに着いた三角パッチはまだしも、
クオーターガラスまでもSUSモールが着いておらず、
明らかにデザイン上、モールだけが浮いている構造になる。
一般的に固定式クオーターガラスの構造には3種類がある。
第一にレヴォーグが採用するモール無しタイプ。
メリットはコストがモール分有利。
また、ガラス取り付け構造面が車両外側に出せるメリットもある。
第二は樹脂ゴム製のモール付きタイプ。
4代目レガシィが採用していたタイプだ。
メリットはデザインとの連続性だ。
第三はSUS製モール付きタイプ。
5代目レガシィが採用していたタイプで
現状最もコストがかかるタイプだ。
SUSモールを精巧にプレス成型で作り、
それを樹脂ゴム製のモールにASSYする。
最もコストがかかる構造であるが、近年はこのような表現の車が多い。
このなかでレヴォーグは何故かモール無しタイプを採用してる。
三角パッチと相まってドアベルトラインモールだけが浮いて見える。
本当は水平基調のベルトラインを光らせることで長さを強調して
低くスポーティに見せてもよかったのでは?と私は思う。
1989年、初代レガシィもドアベルトラインを部分的に下げて
違和感のあるベルトラインであったが、
まさか敢えて引き継いだ訳では・・・・無いと信じたい。
そもそも初代レガシィはアルシオーネSVX同様に
航空機のキャノピーをデザインしたものであったが、
レヴォーグのそれはケアレスミスのようにしか感じない。
個人的には高級感が分かりやすいSUS製のモールを使いたいなら、
三角パッチとクオータガラスもSUSを奢るべきであり、
それができないなら、いっそのことベルトラインモールを黒にすべきである。
それも二代目ハリアーのようなピアノブラックにすれば統一感も出たであろう。
フォレスターはそこをしっかり配慮しており、配慮が足りないと感じた。
Rrビューは若干Rrコンビランプが
ルノーメガーヌエステートを思わせるが、
樹脂製ガーニッシュをうまく使い、
コンビランプとの合わせ部は精緻なものとなっている。
レヴォーグの外装は少々気になる部分もあるが、
見慣れてしまえば「そんなものか」と思えるものだった。
従来の穏健派のレガシィファンならOKを出しそうであるほか、
ゴルフヴァリアントやメガーヌエステートを検討するような層も
ある程度納得できるだろう。
そもそもスバル車の魅力は「ちょっとかっこ悪いところ」であり、
先代フォレスターや4代目レガシィが
ちょっと洗練されすぎていただけなのだ。
レヴォーグは優良可で言えば良レベルだと考える。
●インプレッサそのまんまの内装だが装備は充実。
インテリアに目を移すと、その視界に入ってくる光景は
インプレッサそのものだ。
贅沢にソフトパッドを奢ったI/Pアッパー、
I/P上下を分割するオーナメントや空調ダクトの配置など、
完全にインプレッサがベースであることに否応無しに気付かされる。
実はステアリングもメータもI/Pのセンタークラスターも、
ことごとく違うのだが、共用化しすぎて差別かできていない。
「レヴォーグのためにしつらえた」感じが欲しかったが、
それは今後の課題かもしれない。

↑レヴォーグのインテリア

↑こちらはインプレッサ
実はコックピットに収まってみると、
操作系も操作しやすく、実用上全く問題が無く
よく考えられたコックピットだ。
インテリアもシルバー加飾やピアノブラック塗装が奢られて、
ダイヤトーンナビ専用の操作パネルも中々かっこいいだけに
残念に思う。目新しさは無いが必要なものは全て揃った内装といえる。
パッケージングも日本人には必要十分だ。
運転席でドラポジを合わせて後席に移ると、
足元スペースもヘッドクリアランスも十分だ。
一点だけ、荷室フラット化のため犠牲になったと思われるが
太もも裏の角度が水平過ぎてサポート感に欠ける部分が気になるが、
簡易リクライニングもあり、後席のゲストもまずまず満足してもらえるだろう。
インプレッサを基準に考えると、オーナメントの色味変更、
ステアリングの変更、メーターが新設品
(せめてオプティトロンは欲しかった)となり、
S仕様にはブルーステッチがトリム類に配された。
また、最廉価グレードを除いて
PKBレバーが廃されてレガシィ譲りの電気式に改められている。
シートは最廉価グレードにおいてもパワーシートが採用されて、
実利面の差別化は徹底している。
だから、見た目のインパクトが無いというよりも
質実剛健としたインテリアという風に好意的に
見てくれる人も数多く居るだろうし、私自身はこちらに属する。
見た目はすごいが、触るとがっかり、
使い込んでがっかりする内装とレヴォーグの内装は明らかに違う。
ワゴン性能としては積載性能があるが、
荷室容量は522Lという大容量を誇る。
横並びを調べると、
フィットシャトル:469L
カローラフィールダー:407L
V40:335L
レガシィ:520L
メガーヌ:486L
ゴルフ:605L
アベンシス:543L
アテンザ:506L
ゴルフヴァリアントがトップだが、
先代の505Lに勝っている。
大柄なレガシィと同等の荷室容量を
確保した点は評価されるべきだろう。
HBと比べると明らかに広く、
Dセグメントに肩を並べる荷室容量である。
ゴルフバッグも4つ詰めるというのは
近年、20代の若者もゴルフをたしなむ時代には
アピールポイントとなるだろう。
ただ、用品カタログを確認してもラゲージネットの設定が無い。
こちらの記事にあるように、
過去のレガシィでは設定があった安全装備の
ラゲージネットの設定が無いという点は
スバルのポリシーと比べると疑問符がつく。
10年以上前の自社製品に負けてどうするのか。
ラゲッジに荷物を搭載する際は最低限、
ヘッドレストを高く調整しておくことを薦める。
●エンジンによって明らかに違う乗り味
[1.6GT 装備は実用十分 CVT EPSに不満が残る]
まず試乗したのは1.6GT。
シリーズ中唯一アイサイトが装備されない素のレヴォーグである。
運転席に座り、パワーシートを調整、
トヨタ車と共通のスタートスイッチでエンジンを始動させ、
セレクトレバーをDに入れてレバー式のPKBレバーを解除する。
レギュラーガソリン使用ながら2.5L自然吸気並の1.6Lターボエンジン。
レガシィのスピリットを受け継ぐ・・・・といった背景を
知ってただけに期待して乗ったものの、
素の状態で乗ると少しがっかりしてしまった。
SIドライブがIの場合、加速時のパワー感は確かに力強いが、
CVTが変速優先という感じで、深くスロットルを踏み込むと
エンジン回転がポーンと上がって急加速。
平坦路の準パーシャル領域ではイケてないトヨタ車のように
1000rpm付近を堅く守った変速をする。
上り坂などでアクセルを踏み込むと、
エンジン回転が先に上がるような変速をする。
長い下り坂を下がる時は燃料カットできる
最低限の回転数を保持するために空走感が気になった。
十分なトルクがあるエンジンなのに、
その実力は燃費のために無理してるリッターカーのような味わいなのだ。
私の期待はもろく崩れ去った・・・・。
スバルまでもが燃費のためにドラビリを捨てるとは驚きであった。
ステアリングにあるSIドライブスイッチを
Sモードにしたところ、CVTのセッティングも変更される。
変速を抑え気味になり、アクセルを踏み込むと
エンジンのトルクの盛り上がりを感じることができるほか、
アップダウンがあっても適当なエンジン回転数を維持することができ、
リズミカルに運転する事ができた。
おそらくSが本命なのだろう。
ちょっとハイペースで走行してみたが、
高速合流を想定した加速では1.6Lとは思えない加速性能を見せてくれた。
125kW(170ps)/250Nmというスペックはこちらで発揮されるもので、
逆に17.4km/Lという低燃費はIモードで
発揮されると言うことを改めて体感した次第。
もし私がレヴォーグの1.6Lに乗るなら、
Sモードボタンの塗装が剥がれるまで毎回押すことになるだろう。
結果論は卑怯と思いながらも、
スバルも2009年にリニアトロニックとしてCVTを採用したことが悔やまれる。
今後しばらくはCVTを使い続けることになるわけだが、
マツダのようにATを磨いたり、DCTを開発したほうが
結果としてスバルが目指す信頼できる乗り味に近づいた気がしてならない。
もう一点、ステアリングフィールにも注文を付けたい。
切り始めにふにゃっとした妙な手応えがある。
そこから車が向きを変えるまでに不連続感があるのだ。
あらゆるステアリング操作において切り始め領域は存在するはずだ。
ここが気持ち悪いというのはいけない。まだEPSを使いこなせていないのか。
乗り心地はいたって普通だが、荒れた路面と越える際に
ドシンとキャビンに打撃を与えないあたりに安心感があって良い。
[1.6GT-S これが本命ビル脚最強説]
次に1.6L GT-S Eyesight(以下ES)に試乗した。
GT-SはGTに加え、LEDヘッドランプ(ブラックベゼル付き)、
ダークメッキ、SUSスカッフプレートに代表される見た目、
18インチアルミホイール、ビルシュタイン製ダンパー、
アルミ鍛造Frロアアーム、というシャシーに手が入ったほか、
専用ステアリング、スポーツシート、ブルーステッチ、
アルミペダルなど内装も充実する。
足回りに関してはWRXからの流用品であろう。
運転席に座るとブルーステッチが目を引く。
S仕様ならインプレッサとの違いが出てくる。
またシートもソフトな標準シートと一線を隠した堅めのもので
肩甲骨付近の保持がありコーナリング時に有効。
運転してみると、Iモードの情けなさは残るものの、
ステアリングフィールが別物に進化する。
確かに堅くなるのだが、それ以上にステアリングの操作の
応答性が上がって好印象だ。
シートとサスの違いで同じ車がこうも変わるのか?という思いだ。
28万円という価格差は悩ましいが魅力的だった。
[2.0GT-S 全部乗せは速すぎて笑える]
1.6GT-Sに加えて47万円もの価格差がある2.0GT-S ES。
レヴォーグのフラッグシップであるとともに、
実質的にWRX_WGNの役割を担うであろう一台。
ステアリングのSIドライブのスイッチには
I、Sに加えS#モードが加わる。
シートも本革とアルカンターラの部分本革シートとなる。
そしてエンジンは221kW(300ps)/400Nm、を発揮する。
その力強さは全域で一貫して感じることができる。
試乗時はあいにくの天気であったが、
その4輪のタイヤは感想路と同じようにグリップし、
途方も無いトルクを受け止め続けた。
全開加速は早すぎて笑ってしまうほどだ。
私はこの車の性能を使い切って走らせる自信が無い。
ただ、高速道路においてレヴォーグ2.0GT-Sのパッシングを
受けたなら大人しく道を譲った方が賢明だろう。
個人的にはレガシィの2.0Lターボの性能を
高速道路で我が物顔でひけらかす輩が少なからず居るが、
悪天候でも安定して速く走ることができる性能を考えると、
周りの車がやけに遅く感じてしまいそうになることは想像に難くない。
●お買い得グレードは1.6L GT-S ES
試乗を終えてカタログをじっくり読み込んだ。
既に述べたようにレヴォーグの装備水準は高い。
最廉価グレードの1.6L GTであっても、
本革ステアリング、クルーズコントロール、
パワーシート、オートワイパー、オートライト、
ヒーター付きドアミラー、テレスコなど充実している。
これで税抜き車両本体価格247万円は安い。
そもそもこの車はAWDなのだ。
ざっくりとFFと比べて25万円ほど高くなるので、
222万円ほどということになるが、価格競争力は高い。
1.6L GT ESは10万円高の257万円で
アイサイトが着くだけのグレードになる。
駐車ブレーキが電気式になるだけで大きな変更は無い。
せっかく新車を買う機会に恵まれた際には
ぜひ旬の装備を選んでいただきたいと思うので、
個人的にはアイサイト付を推す。
そし1.6L GT-S ESが私の考えるベストバイグレードだ。
レガシィが持つクラスレスな質感、操縦安定性能を持ち、
エンジンはレギュラー使用可能で使いきれる出力特性。
CVTは要改良だがSモード仕様で目をつぶれる。
基本価格283万円だが、私はこれに13万円プラスで本革シートを選ぶ。
結果296万円と効果だが、暴力的な加速が無いだけで、
スバルの世界を最も効果的に味わうことができると思う。
営業担当の方に伺ったところ、最も受注が多いのは
この1.6GT-S ESなのだそうで、皆さん良い仕様を選んでいると思う。
上級の2.0Lは私には扱いきれない。
2.0GT ESは1.6GT-S ESの17万円高、310万円という価格で
異次元のパフォーマンスを味わえるが、ダウンする装備もあり薦めにくい。
そうなると2.0GT-S ESになってしまうがフラッグシップは
330万円と37万円差となる。
ローンを組めばまぁ変わらないのかもしれないが、
個人的にはあくまでの1.6GT-S ESで十分。
●まとめ 年次改良に期待
先代よりも扱いやすいサイズ、
先進的なエンジンと低燃費、
時代を象徴するアイサイト、
クラスレスな装備類などから、
レヴォーグが5代目レガシィよりも
セールス的に成功しそうな手ごたえを感じた。
何となくレガシィ層には
かなりのアピールになるだろうし、
CVTに不満がないユーザーなら積極的に選んでみて欲しいモデルだった。
国内でライバルになりそうな車は無い。
(シビックワゴンもオーリスワゴンは国内導入されていない)
輸入車ではVWゴルフヴァリアントやメガーヌエステートだが、
水平対抗+シンメトリカルAWDは大いに武器になる。
レガシィからの世襲はまずまず成功と感じる。
ただし、個人的にはEPSの洗練度や
CVT、ラゲージネットの不採用など大いに不満な点もある。
最も不満なのはMT車が一切用意されていないことだ。
すぐ後にはWRXが控えているのだから、
流用前提でMTを用意すべきだと思う。
CVTはSモードで許容レベルというだけで、
気持ちよくスコスコ入るスバルのMTで
レヴォーグを味わいたい人は相当数居るものと思う。
カタログ燃費は低くとも、レヴォーグ1.6GT-S ESには
ハイギアードな6MTがよく似合うと思う。
実は会社の同期がレヴォーグに多大なる関心を寄せていたが、
MTの設定が無いために「アテンザかメガーヌエステートにしようかな」
と言っていた。
彼は元々レガシィのMTに乗っていたので期待してたそうだ。
レガシィツーリングワゴンの名前がなくなっただけで怒り心頭の
過激派のスバリストも居る一方で、
せめてMTで気持ちよく乗りたいという穏健派のスバリストも居る。
全員のスバリストの願いをかなえることは難しいかもしれないが、
限定車でも良いのでMTを設定してあげて欲しいと願う。
話が少し横道に逸れてしまったが、
レヴォーグは2014年のスバルの商品としては、
力作だと思うが、個人的には年次改良に期待したい。
年次改良をコツコツ真面目に行うこともスバルの隠れた伝統である。
セッティングで済む問題、或いは流用で済む問題はそこで
解決される可能性は大いに期待できるため、敢えて年次改良に期待したい。