●日本ではアメリカ車はあまり走っていない
アメリカ合衆国のトランプ大統領は日米自動車販売の不均衡に対して
「アメリカでは日本車が大量に走っているのに、
日本ではアメリカ車はほとんど走っていない。不公平だ」
という類の批判をしている。
私はアメリカに行ったことは無いが、
現地の映像や写真を見ていても日本ブランドの車を多数見かける。
80年代の貿易摩擦により、日本メーカーは輸出の自主規制をした一方、
ホンダやトヨタ、日産などはアメリカに工場を建設し、
サプライヤーを育てて現地生産を開始。
1980年代は日本設計の車のアメリカ仕様車を
現地生産していたに留まっていた。
しかしアメリカナイズは加速し、アメリカ専用のモデルを開発、
アメリカの拠点で開発を行うだけではなく、
アメリカ人開発総責任者が誕生するに至っている。
このような経緯を知る私たちは大統領の発言に対し、
それは違う!と反論し、現実を理解してもらいたい気持ちにもある。
輸入車全体が市場から締め出されているのではなく、
欧州ブランドの車は好調で日本車からシェアを奪っている、
という事実も大統領にとっては都合が悪い。
ついこの間、フォードが日本市場は閉鎖的だとして
日本からの撤退をしてしまったが、
販売・サービス網が弱いことも販売が広がらない原因だと考えることが出来る。
例えば今あるシボレーの正規ディーラーは日本に22拠点。
(BMWの場合186件なのだそうです)
全国に無数に存在する国産ブランドのディーラー網に
対抗する事は相当難しいのではないか。
どこまで頑張ればアメリカ産の車を日本で販売できるか、
と言うテーマに過去に真剣に取り組んだ例として
トヨタ・キャバリエを思い出した。
●貿易摩擦に対する一つのチャレンジトヨタキャバリエ
私が中学生の頃だったが1996年、ゼネラルモータースの
シボレーキャバリエをトヨタ自動車が高級車を中心に扱う
トヨタ店とトヨペット店(1083社)で販売するという試みがあった。
当時のプレスリリースによると平成5年11月にGMと合意したプロジェクトで
アメリカ車の中でも比較的コンパクトな部類のキャバリエが選ばれた。
ボディサイズは全長:4595mm 全幅:1735mm 全高:1395mmという
現代の目からするとコンパクトなサイズに2.4Lエンジンに
4速ATを組み合わせている。
しかも、2.4Lという排気量に対して181万円からという
スタート価格はヤケクソ気味にも思えた。
一方でトヨタが販売する上で少なくない変更点が加えられていた。
右ハンドル化し、方向指示器レバーも右へ移設。
日本人の体格に合わせてペダルレイアウトの見直しや
専用インパネ(質感対策?)を設定する力の入れ様はトヨタの本気を垣間見た。
販売台数の規模の割に広告も意欲的に投稿したものの販売は振るわなかった。
年間2万台を目論んだが1996年以降の累計販売台数は3万6228台との事。
モデルライフ終盤はキャバリエ=捜査用車両のイメージに。
あのトヨタの販売力を以ってしてもアメ車は売れないのだと
多くの人は感じたのではないだろうか。
当時の自分から見ても同価格帯にカリーナやブルーバードがあるのに
何処にキャバリエを選ぶ理由があるのだろうかという印象であった。
車そのものの良し悪し、というよりも、
日本人から見た車の良し悪しという評価軸で
キャバリエはいい車ではなかった。
これと同じ話で、北米市場に日本市場で支持されるような
軽自動車やコンパクトカー、5ナンバーミニバンを輸出したところで
アメリカ人の支持が得られそうにない。
たくさんの車を販売する為にはやはり売れる車を作ることが肝要で
日本ブランドでは莫大な投資をしてアメリカの消費者
が買ってくれそうな車を開発し、生産し、販売している。
●トヨタが自ら開発したアメ車
キャバリエ以後、アメリカの現地法人で生産されたアバロンを
プロナードとして日本で販売したり、GMとの合弁企業NUMMI
で生産されていたカローラ・マトリクスの兄弟車ポンティアック・ヴァイヴを国内に投入して
様々なチャレンジを行っていたが、成功したとは言いがたい。
アメリカよりもドイツ的な車を良しとして来た日本人にとって
いまやアメリカ的な魅力は大規模な販売増には繋がらないのだろうか。
●ビッグ3の日本生産
実は1920年代にフォードもシボレーも日本に工場を持っていた。
GMは大阪に、フォードは横浜に工場を設けてノックダウン生産を行っていた。
街にフォードとシボレーがたくさん走っていたからこそ、
トヨダAA型セダンは最先端のデソート・エアフローのデザインを
日本流に解釈したボデーの中のメカニズムは堅実な
シボレーのエンジンとフォードのシャシーをコピーしたのだろう。
(補給用部品が入手しやすいことも一因)
本国仕様車を生産していたが、戦争の影響で工場を閉める事になり、
戦後は国産車保護政策をとった事からアメリカの自動車メーカーは一気に疎遠になった。
彼らは彼らで内需の拡大で十分ビジネスができており、
わざわざ日本で車を作る必要も売る必要も無かった。
再びアメリカのビッグ3が日本に工場を建てたりすることも無いだろうし、
日本市場を真剣に考えた商品を投入することはなさそうなので、
いまのアメリカらしさ(力強くて楽観的)に共感する人向けの商品を
地道に販売するしか無いのだろうと考える。
(ダッヂダートやシボレーヴォルトは面白いと思うのだが・・・)
大型SUVやマッスルカーはやっぱりアメリカ車がカッコいい。
こういう車を日本に紹介し続けて欲しいと思う。
●もう一度逆輸入をやらないか!
一方で、日本のメーカーもアメリカの現地工場から
日本に輸入できる車があると面白いのではないだろうか。
批判されている日系メーカー自らが現地で生産するモデルを日本で売れば
貿易赤字に対するエクスキューズになるのでは?と
ひらめくも、そんな事は1988年からやっていた。
左ハンドルのアコードからスタートし、
セプター、クエスト、エクリプスなどの
北米生産モデルが日本に輸入されてきた。
彼らも売れ行きとしてはさっぱりだが、
そもそも売る気もなかったというのもあったのではないか。
例えばツイッター攻撃されているトヨタなら、
カムリやカローラも現地仕様は独特の世界を持っていて
面白いのではないか。
例えば日本のカムリはハイブリッドだけでアジア仕様なので
北米意匠を別グレードとするのも面白いでは無いか。
キャラの立ったXSEグレード(V6が楽しめる)などどうだろう。
マークXと共食いしてしまう危険性があって悩ましい。
そうなると、ハイランダー、4ランナーなど過去に
日本でも販売していた車種の最新モデルを左ハンドルでも限定で輸入すれば、
今でも個人輸入するコアなユーザーが居るほどなので有りだと思う。
もちろん、法規適合や認証の手間は発生する為、
無責任な事は言えない事は重々承知しつつ想像してみた。
例えばイギリスから輸入しているアベンシスはカローラフィールダーの様に
販売に貢献していないが、知人が数人所有しており満足度は押し並べて高い。
ラインナップにある事でユーザーを繋ぎとめられることもあるだろう。
小規模な変更で日本市場に出しているが、独特の地位を確保できており、
実際に運転してみると欧州を向いて作った車なのでトヨタ車とは思えないくらい濃い。
個人的にもアメリカ市場を向いて作られたSUVを運転したことがあるが、
これも一般ユーザー受けはしなさそうだが濃い個性を放っていた。
過去はかゆいところに手が届く、と言われたトヨタもグローバル化と
合理化の波で一部のニッチなニーズを切り捨てざるを得ない状況が十数年続いている。
現地生産車を有効活用しつつ我々自動車ファンの胸が熱くなるような
現地生産モデルの投入があればこんなに嬉しいことは無いだろう。