その昔、1960年代までは自動車のグレード戦略は
必要十分のスタンダードと豪華なデラックスの
二種類しかなかった時代があった。
1960年代以降、
ユーザーニーズの発掘や
収益改善を目的として様々なグレード体系が作られた。
(パブリカデラックスの成功が有名)
消費者達はモータリゼーションの発達からバブル崩壊が起こるまでの間
複雑な装備表を睨めっこしながら自分の予算の範囲で、
或いは嗜好にあったグレードを選択する苦悩と楽しみがあった。
そもそもかつての
廉価(れんか)グレード、
例えばスタンダード(標準)は
その名が示すとおり、
機能面ではこれで十分です!という
人や荷物を運ぶという機能に徹したグレードであった。
車に夢やステータス、快適性を求めるならデラックス(豪華)を選び、
エクストラコストを払うという仕組みであった。
いつしか、自動車の販売はある程度の快適性と経済性をバランスさせた
量販グレード(カローラで例えるならGLやXE)がメインとなり、
最も装備が厳選され価格の安い廉価グレードは、
法人向けや吝嗇家向けとなった。
そんな廉価(れんか)グレードに
侘寂(わびさび)の要素を
見出した特定のカーマニアを興奮させてきた。
敢えて廉価グレードに乗る、或いはファミレスで廉価グレードについて
何時間でも話が盛り上がるほど特定の人には気になるのが廉価グレードなのだ。
廉価グレードの存在意義について考えた。
1.どうしても廉価グレードしか購入できないユーザーの需要を満たす
2.法人などの営業用途のため経済性が最重要視される需要を満たす
3.装備を省くことで軽量化に徹し、燃費性能を誇示する
4.モデルミックスを考えて下級車種との価格差を埋める
5.低価格を訴求して客寄せパンダに使う
6.本当に売りたい最量販グレードとの差別化
7.モータースポーツ用途などの特殊用途を満たす
実際は複合的なものであろうが、これを読んでくださる方の頭の中に
特定の車種の最廉価グレードを思い浮かべて頂ければ
上記7項目のどれかに当てはまる部分があるはずである。
現代ではあからさまに寂しい廉価グレードは少なくなったが、
カタログ値40km(当時)を出す為にRr手動式の窓や
Rrワイパーレスとした上でボディカラーを絞った車。
170万円以下で買えるクリーンディーゼルを謳いつつ
マフラーカッターやアルミホイールを装備した車。
そしてオプションどころかエアコンが着けられない状態でデビューした車など、
最廉価グレードと言えども各社が各社の思惑を持って仕様設定を行っている。
前置きが長くなったが、
今回テーマにした初代RAV4の場合、
最量販グレードとして「標準」、
価格訴求の為の廉価グレードとして
「E仕様」が存在した。
E仕様 5MT 159.8万円 /4速ECT-S 172.7万円
標準 5MT 176.9万円 /4速ECT-S 189.8万円
当時、
2リッター、フルタイム4WDのクロカン的なクルマが
160万円弱で買えると言うのは大変なバーゲンプライスであった。
同時代のカローラIIのティアラ4WDでは153万円だったので、
まさに4と5の目的で設定されたグレードと考えられる。
個人的に初代RAV4はコンパクトカーと
クロカンのクロスオーバーという解釈なので、
E仕様がコンパクトカーと微妙にラップした価格設定は巧みだと思う。
標準とE仕様では17.1万円の価格差がある。
新型車解説書やカタログを読み込んでみたが、
実はE仕様とは標準仕様にて選択できる
パッケージオプション扱いだったらしい。
そのセット内容は
・マニュアル式エアコンレス
・チルトステアリングレス

エアコンが付かないと言うのは当時から有名な話であった。
当時はカローラあってもエアコンレスの仕様は当たり前で
上級グレードでようやく標準装備となっていた。
この理由は見かけ上の車両本体価格を安く見せるためだけではなかった。
別に
物品税課税額を安くする目的もあり、
ディーラーオプションで後付けする事が当たり前であった。
私のメインカーのカローラでも標準ではエアコンレスなので
オートエアコンとマニュアルエアコンも選び放題だった。
1989年に消費税導入と引き換えに物品税が廃止されて
エアコンを工場で装着する車が増えた。
つまり1994年発売のRAV4では
価格を安く見せるための方便に過ぎないが、
夏でも暑さが厳しくない地域では
エアコン無しのままで使用するユーザーも一定数存在したと言う。
まあ設定の真意を想像するに価格を安く見せるためだったのだろう。
ちなみに
E仕様にもエアコンのディーラーオプション設定があるため、
エアコンを取り付けることが出来た。
(セットオプションを付けた上でのメーカーオプションと言うのが難解)
メーカーオプションも標準グレード同様に選べたので、
アルミホイールやトルセンLSD、ツインサンルーフなども選べ、
エアコンさえつけてしまえばチルトステアリング以外は同一仕様と言えた。
現に、RAV4の広報資料に目をやると
写真のRAV4はE仕様と書かれている。
同じ写真は本カタログで標準グレートと説明されているが、
写真の範囲内ではE仕様と標準グレードとの差はなく、
オプションでサンルーフやアルミホイールを選べば
確かに写真と同じE仕様を作ることが出来た。
当時のディーラーオプションのA/Cの価格は、
価格表によると
18.5万円で取り付けできたようだ。
0.74万円の取得税が加算され、合計で19.24万円で後付け可能だったらしい。
この価格が正だとすると、
A/Cが必要になった瞬間にE仕様が候補から外れてしまう。
客寄せパンダの本領発揮である。
1995年7月には待望のロングボデーである
V(ファイブ)がデビューした。
同じくVにもE仕様が選択できた。(ただし、以降も本文では3ドアのみを扱う)
このとき、驚くべきことが起こった。
価格の変更は無いのに装備品の大幅見直しが行われたのだ。
従来のE仕様ではエアコンとチルトステアリングが外されているが、
更なる変化点を下記にまとめた
・パワーウィンドー → 手巻きウィンドー
・集中ドアロック → バックドアのみ電気式
・16cm Frドアスピーカー → 12cm Frドアスピーカー
・電動リモコンドアミラー → 手動式
・ランプ消し忘れブザー → 廃止
・キーシリンダー照明 → 廃止
・間欠Frワイパー → ミスト機能付きFrワイパー
・MOPのライブサウンドシステム選択可 → 選択NG

ついに使い勝手に大きな影響を与えるようなレベルで装備が省かれてしまった。
Rrワイパーは間欠式なのに、Frワイパーから間欠が省かれてミスト機能に
格下げされるようなケースはRAV4 E仕様しか私は知らない。
余談になるが私が通勤に使っているRAV4は標準仕様なのに、
なぜか
E仕様用のリレーが入っているらしく、
キー照明とランプ消し忘れブザーが鳴らない。
地味に不便なため早急に修理したいのだが、なぜE仕様の部品がついていたのか・・・・。
さて、これほどの装備が省かれながらも調べたところ、
価格は据え置き、
実質値上げである。
E仕様がいよいよ本気を出してきた。
なぜ急に装備が省かれてしまったのかは謎が深まるところである。
手持ちの輸出仕様のカタログによると欧州向けの
ベーシックグレード用の部品を転用しているようだが、
デビュー時期がずれ込んで足並みが揃わなかったものを揃えたのかも知れない。
(先に日本デビューした際には欧州GSグレード向けの部品が完成していなかった?)
状況が一変したのは
1996年8月にスポーツツインカムのtypeGが追加され、
デュアルエアバッグとABSが標準化された時だ。
安全装備の全車標準化により
プライスリーダーのE仕様にも装備が追加されて原価が上がってしまう。
初期は運転席エアバッグとABSはメーカーオプションであったが、当時のオプションオプション価格はそれぞれ12万円と5万円であった。今回の標準装備化で各グレードの価格は下記の通りになった。
E仕様 5MT 160.3万円 /4速ECT-S 173.2万円
標準 5MT 181.9万円 /4速ECT-S 194.8万円
エアバッグとABSが標準装備となった事で
標準車が5速MTで5万円、4速ECT-Sが4.8万円アップしているにも関わらず、
E仕様に限り0.5万円しかアップしていない。
本来17万円以上のアップに相当する変更が5万円アップに留まるのは相当なコストダウンがあったのか、量産効果による仕入価格カットを行ったのだろう。或いは両者の元々の原価が丁度5万円だった可能性もある。
V追加時に価格据え置きで装備が剥ぎ取られた分が、
4.5万円だったのだろうか。確かにパワーウィンドウと電気式ドアロック(ここまでで3.5万円相当)と電動ドアミラーを合わせれば、販売価格ではなく、原価ベースで先行実施した仕様ダウンで賄えたのかもしれない。
金のかかる安全装備の標準装備化にも関わらず実質値上げしなかったE仕様はメーカーがプライスリーダーとしての役割を期待したと感じざるを得ない。
手元に価格表があったので、
3ドアE仕様5速MTで選択できるオプションを選択して標準車に近づけたい。
マニュアルエアコンは前述の本体18.5万円、
パワーウィンドゥ+電気式ドアロックは3.5万円である。
結果、
160.3万円+18.5万円+3.5万円=182.3万円となり、
E仕様で頑張る位なら標準車を買ったほうがマシと言わしめる結果となった。
1997年9月には初の大規模な
マイナーチェンジが敢行された。
ボデーがCIASからGOA対応の為、
ボデー構造部材のゲージアップやパッチ追加が行われた。
素地色だったバンパーモール類がカラード化され、
灯火類がマルチリフレクターになり、90年代後半らしい意匠になった。
内装も質感向上・装備向上が図られた。
更なるワイドバリエーション化が加速してついに
FF車追加、
ソフトトップの追加となった。
スモールSUVという金脈を見つけ出し、たパイオニアゆえに
後続の強力なライバルと戦う為に
商品力アップが必要になったのである。
ここでもE仕様は下記の変更を受ける
・MOPのアルミホイール選択可 → 選択NG
・ライト消し忘れブザーなし → ブザーあり
このほか、標準車がグレードアップされた部分(例えばカラードドアハンドル)も
E仕様だけはマイナー前据え置きとなった。
FFの追加はRAV4の低価格という特徴を語る上で大きな出来事であった。
重い4WD専用部品を外せるため、低価格を訴求出来るようになった。
4WDの希望小売価格は全車10万円ダウンとなった。デビューから3年が経ち、
デビュー時に投資した型の減価償却が終わったのではないだろうか。
装備が充実したのに価格が下がるのは極めて珍しいことだ。
E仕様 5MT 150.3万円 /4速ECT-S 163.2万円
標準 5MT 171.9万円 /4速ECT-S 184.8万円
デビュー当初よりも価格が下がっている。
新規追加されたFFは
E仕様 5MT 128.2万円 /4速ECT-S 138.2万円
標準 5MT 149.8万円 /4速ECT-S 159.8万円
参考までに
FFと4WDの価格差は22.1万円で、
これならライトユーザーは4WDオンリーだった時代のE仕様の予算でも
FFであれば装備を充実させられる。
当時、私は
RAV4 FFの低価格に度肝を抜かれた記憶がある。
こんなコンパクトカー級の価格設定のSUVは後にも先にも見たことがない。
(泣く子も黙る79万円のスイフトもSUV風だが車格は異なる)
例えばコンベンショナルな2BOXの
カローラIIの1500ティアラ5MTが133.8万円、
カローラレビンの1500FZ5MTでも129.8万円と近接している。

しかし、RAV4に関して言えばE仕様の存在は
あまりにも低価格過ぎたのだろう。
1998年8月のエアロスポーツパッケージ追加の際に
E仕様はカタログ落ちしてしまった。
結果、最廉価グレードはFFが担うことになり、
下記の通り、標準がボトムエンドとなった。
標準FF 5MT 149.8万円 /4速ECT-S 159.8万円
そのまま初代RAV4は2000年5月に2代目にバトンを渡すのである。
一体E仕様は何台売れたのだろう、
そして現存するE仕様はあるのだろうか。
まだまだ興味は尽きないのが
これにてひとまずE仕様に関する調べ物は終了。
ご精読ありがとうございました。