5月の新舞子サンデーにてすばるっちさんの
愛車ジャスティに試乗させてもらった。
●ジャスティ概要
ジャスティは1984年2月に富士重工(スバル)が
発売したリッターカーである。
現在もダイハツトールのOEM版としてジャスティの名称は残るものの、
今回取り上げる初代ジャスティとの間に技術的な連続性は無い。
ジャスティは省資源・省エネが叫ばれる時代に
合理的なハッチバック2BOXスタイルと、
シャレードが切り開いた1L、3気筒エンジンという技術が
小型車を得意とするメーカーに伝播して
先にあげたシャレード、マーチ、
カルタスなどのリッターカー市場に対する富士重工の回答であった。
当時の開発の狙いは
(1)扱い易さ、経済性といった軽自動車レックスのメリットの継承と、
走行性能・静粛性といった小型車メリットの付与により、
基本商品性の高いリッターカーとする。
(2)レックスの量産メリットを生かし、
蓄積技術の「4WD」という独創性の高い商品要素により、
他銘リッターカーとはひと味違った特徴ある車を目指す。
(3)軽と小型の中間を埋める車種として位置付けし、
拡大しつつある乗用4WD市場においては
スバル4WDのフルライン化を図る。
(4)国際的に通用する車にする。
とのことだ。
ジャスティは拡大傾向にあったリッターカー市場では後発組であった。
そこでスバルのコア技術である4WDを奢り、
軽自動車レックスと可能な限り部品を共通化することで差別化を図ろうとした。
車体形状は3ドアHB/5ドアHBが選べ、
駆動方式はそれぞれ4WD/FFの組合せで4種類。
グレード構成は明快で、
4WDは英語のRapidlyの「R」、FFはLuxuryの「L」が先頭に来て、
スポーティ仕様の3ドアはSportsの「S」、
ファミリー仕様の5ドアはJoyfulの「J」が後につく。
面白いのは、この手の車にしてはグレード展開がシンプルで、
明らかに価格重視の廉価グレードはラインナップされていない。
今回試乗したLJはFFのファミリー仕様という事になるが、
他のグレードでは選べないエコエンジンのオプション設定があったり、
当時高級装備の類であったクオーツデジタル時計が装備されるなど、
決してイメージキャラクター的な4WDを前面に出す為に、
FFを廉価グレードに留めない点はスバルらしいマジメさを感じる。
(ラジアルタイヤやRrワイパーも全車標準装備であった)
リッターカーなるジャンルは軽を擁するメーカーと
登録車専業メーカーではアプローチの仕方が異なっていた。
スズキやダイハツはリッターカーを
軽自動車の資産・ノウハウを活かし、
軽自動車+αの登録車として開発したので、
出来上がったリッターカーはある種の割切りや潔さを感じる。
スバルの場合もレックスのコンポーネントを活用しながら
新開発の3気筒エンジンとお家芸の4WD技術を組み合わせた。
後にECVTを追加したり1.2Lを追加したり商品力強化に余念が無かったが、
結果論から言えば、競合のシャレード、マーチ、カルタスは
フルモデルチェンジを受けることが出来たが、
ジャスティはビッグマイナーチェンジはあれど、
2代目からは輸出専用のカルタスのOEM版になってしまい、
最近は日本国内でもトールのOEM版として名前が残るのみだ。
明暗を分けたものが何か考えてみると、
競合が軽顔負けの低価格モデル(60万円台~)を用意したり、
女性ユーザーを意識したファッショナブルなまとめ方を
していたのに対し、
ジャスティは、基本装備は充実しているものの
スタート価格が割高(80万円台~)で、
まだヘビーデューティなイメージが残る4WDを売りにした戦略が
市場で理解されなかったのかもしれない。
(もっとも、積雪地では4WDは嬉しいだろうから地域性はあるはず)
コンパクトカーは価格競争力が無ければならないが、
台数が稼げないと投資ほど収益は見込めない。
ジャスティでリッターカー市場に参入したものの、
小規模なスバルにリッターカーを続けることは過酷だったのかもしれない。
ジャスティ以後はレガシィのヒットを経て、
小型車は水平対向エンジンのインプレッサに絞られ、
軽自動車は2気筒エンジンから一気に4気筒化して
独自色を強めた。
(ドミンゴはライバル不在の恩恵を受けて2代目が作られた)
●ジャスティの内外装
ジャスティは実車を見ると軽自動車かと思うほどコンパクトだ。
全長3535mm/全幅1535mm/全高1390mmという小ささは
当時のリッターカーと類似したサイズ感である。
ボディスタイルは直線的でシャープな印象で
黒バンパー、ドアミラー、低いベルトラインは80年代の
健康的なリッターカーの定石通り。
スタイリング上の特徴としてはPP樹脂バンパで
空力的に有利なエアダム形状をし、
ボディ周辺を黒いサイドプロテクタで覆っていたが、
4WDのチッピング対策として採用されてものであろう。
また、欧州車の間で流行していたブラックアウト塗装が採用され、
カウル、ウィンドゥ周りとルーフドリップモール(ゴム製)、
ワイパーアームが黒く塗られて引き締められている。
個人的なジャスティ最大の見所はフロントマスクだと感じており、
角目2灯式にクリアランスランプがついて男らしい顔つきだ。
グリルもハニカム形状でレックスよりも十分差別化された
ワイドでスポーティなスタイルである。
デザインテーマは俊敏な走りと機動性というテーマらしく
カッチリとした面で俊敏さをイメージさせ、
低いベルトラインで機動性を感じさせる。
当時は空気抵抗の少なさの指標であるCD値が注目されており、
ジャスティの場合は0.38という数字が公表されている。
当時の感覚なら全長が短いリッターカーで0.4を切れば上出来だった。
内装はメータークラスタにヘッドライトの上下、ワイパースイッチが
取り付けられた80年代に流行した様式だ。
当時子供ながらにカッコいいと憧れていた。
これからの車はみんなこうなるんじゃないかと思い込んでいた。
操作性上のメリットは少なく、頻度の高いスイッチは
レバーに戻されて流行は廃れてしまった。
ヘッドライトの点灯状況など車両状況は速度計右のグラフィカルモニタで
車両平面視の絵に各種警告灯が配置され分かり易い。
こちらはレオーネでも似たことをやっており、
現代の液晶画面が一等地を占めるメーターデザインよりも自由度があった。
●ジャスティのメカニズム
ジャスティは技術オリエンテッドなスバルのリッターカーゆえに、
技術面では競合を凌駕するメカニズムが奢られている。
エンジンはドミンゴが最初に採用したEF10-S型で、
バランスシャフトを採用した水冷直列3気筒SOHCエンジンである。
特筆すべきはシリンダブロックの各気筒の冷却水路が
近接したサイアミーズタイプの鋳鉄ブロックにアルミ合金製、
多球型燃焼室のクロスフロー型シリンダヘッドを持つ。
スペックは63ps/6000rpm、8.5kgm/3600rpmと競合を凌ぐ。
特にLJグレードにはエコ仕様がメーカーオプションで選択できた。
エコ仕様専用のEF10-E型エンジンはパワーが57psに落とされるものの、
吸気にスワールを発生させるポート形状がつき、
カムプロフィール変更、減速時燃料カット、フリクション低減、
最終減速比のハイギアード化(4.058)を組み合わせて
10モード燃費が標準モデルが20km/Lであるのに対し、
23km/Lという低燃費を誇る。
特筆すべきは、この手のエコ仕様は
カタログに書かれる燃費を彩る為に装備を徹底的に省いて軽量化し、
実用に値しないグレードになっていることが多いが、
ジャスティの場合、実用に値する仕様設定である部分もマジメさを感じる。
シャシーも独特だ。
Fr:ストラット Rr:ストラットという4輪独立懸架であることは
上でも述べたのだが、競合に対しては明らかな優位点であった。
FF第一世代は4輪ストラットが多かったが、
スペース効率の良さからトレーリングアーム式を採用するモデルや、
潔くTBA(トーションビームアクスル)を採用するモデルが多かった。
ライバルのリッターカーではシャレードが5リンク式リジッド、
マーチが4リンク式リジッド、カルタスはリーフリジッドだったらしく、
ジャスティのハイテクっぷりが際立った。
また、アームはボディに直接取り付けるのではなく
サブフレーム(クロスメンバーと呼称)に取り付ける
現代的な方式を採用している。
路面から受ける力をサブフレームでしっかり受けることで
モノコックに直接アームを取り付けていた
当時一般的だった方式より走りにしっかり感が出る。
ロアアームはプレス成型で作られた開き形状で、
アーク溶接で閉じ断面を成型した方式より
剛性で劣るが軽量さ、コスト、防錆性能では優れる。
防錆と言うキーワードが出たが、
ジャスティは亜鉛メッキ鋼板の採用やカチオン電着塗装により
レオーネ相当の防錆性能を確保しているという。
現代の目で見ればサスタワーやカウルなど重要な部位に
エッジシーラー処理されておらず、エッジ錆に対する配慮が
十分でないような部分も見受けられたが、
1984年デビューの車としては十分な対応と言えそうだ。
このほか、ブレーキ配管を2系統とし、室内配管とするなど
安全性という面でもスバルらしい内容だ。
●ミニインプレッション
私を含めて4人乗車にて試乗した。
試乗コースは交通量の少ない自動車専用道路と周辺道路である。
運転席に乗り込んだ。
コンパクトカーとして十分な広さのキャビンである。
当時のFFコンパクトカーの定石どおりの設計で
フロアが低くシフト前のセンターコンソールが無い為、
足元が広々としている。
ステアリングのオフセットやペダルレイアウトは特に不満も無い。
唯一、ステアリングのシャフト自体が傾斜しており、
ステアリングと右手と左手が来る位置が異なる点は違和感があった。
レックスと何らかの部品が共用化されている可能性もあるが、
エンジンを始動するのだが、キャブレター車ゆえに少しアクセルを
踏んであげながらキーを捻ると快調にエンジンが始動した。
アイドリング振動が無いのは流石バランスシャフトを採用しただけの事はある。
この部分は現代の3気筒車を凌駕している。
クラッチを踏み1速にシフトした瞬間、
懐かしのヴィヴィオ・バンの記憶が甦った。
横方向に異様にストロークの大きな節度感の無いシフトは
まさしくスバルの味そのものなのだ。
レガシィB4やWRXのコリコリしたシフトとは一線を画す
MTフィーリングは10年以上前の懐かしい感触である。
発進し、道路に出る際に重ステであることに気づく。
タイヤが転がってさえいれば決して重くは無いのだが、
車重660kg、145R12という軽自動車サイズのタイヤであっても
据え切りやUターン操作は中々筋力を要した。
幹線道路で加速させるのだが変速がやりやすい。
リズミカルに加速し2速、3速とギアを上げていった。
現代の電スロやらEFIになれた身にはワイヤー引きのキャブ車は
ものすごく俊敏な反応を見せてくれ、ダイレクト感が桁違いだ。
ペダルに載せた足の親指の微妙な角度変化で車速調整が
出来るほど車との一体感が味わえた。
ライバルより強力な63ps/8.5kgmを誇る
1リッターEF10-Sエンジンは扱い易いトルク特性でぐんぐん車速を上げた。
シャレードに端を発する3気筒エンジン特有の力強さは
コンパクトカーにピッタリの特性を持っている。
今回は4人乗車ゆえに鋭い加速とは言い難かったが、
それでも十分に走らせることが出来る点はさすがである。
1名乗車は試していないが、十分な実力を誇るだろう。
思えば、660ccの軽自動車で4人乗車すると
いかにも精一杯と言う感じで緩慢な加速を強いられるし、
当時のターボつきの軽なら絶対値としてのパワーはあれど、
ピーキーさが目立ち自然吸気で低速から実力がある
ジャスティの方が余裕は無くとも十分な動力性能と感じられた。
FF車は最終減速比も4.437と
4WDの5.285よりもハイギアードな設定で
1~2名乗車で高速道路をミズスマシのように
オーバードライブでスーっと走らせるのに向いているだろう。
サスペンションは4輪独立懸架を採用しているが、
車重の軽いジャスティに4名乗車では
サスが沈んでしまったようで
比較的ダイレクトに路面のうねりが伝わった。
ボディ剛性感と言う視点ではノウハウが無い時代だ。
一般的な道路を20万km走っても亀裂なし、
という強度基準ならマルが取れるようになってきた時代だが、
剛性感ある乗り味を語る時代には
まだまだ突入していなかったのだ。
また、スバル360から使い続けている
ラックアンドピニオン式ステアリングは正確な舵取りが出来る一方、
こちらも経年変化と思われる操舵時のフリクションが認められた。
ステアリングを操作する際に、動き出しが渋いため、
恐らくどこかの摺動部、回転部の摩擦が増大しているのだろう。
基本的には強いトルクステアを感じることも無く、
どっしりとした乗り味であった。
複数の方が試乗したが、皆「5速がいい」と口にしていた。
この頃のリッターカーは最上級グレードなら5速が用意されていても、
量販グレードは4速が当たり前だった時代に
全車5速のジャスティはクラスを超えていた。
思えば私が所有していたヴィヴィオ・バンも、
友達が乗り回す軽ボンバンは皆4速だったのに、
私だけが5速で勝手に優越感に浸っていたが、
ヴィヴィオの場合は小排気量4気筒という
低速トルクの細さに対応した設定だったが、
ジャスティの場合、十分にトルクがある為、
ハイギアードな5速は余裕を感じ魅力的だった。
●まとめ
キャブ・MT・パワステレスというスパルタンなスペックのジャスティは
当時のターゲットユーザーである20代~30代の
ドライバーの指示にダイレクトに呼応し、
ファン・トゥ・ドライブな走りを提供しただろう。
特に4WDを選べば日常性能に加えて雪道などの悪路も
安心して走れる、というライバルに無い個性も発揮した事だろう。
子供の頃、ジャスティはほとんど見かけなかったし
ヴィヴィオを買った頃、お世話になっていたディーラーで
ジャスティが好きだ、などという話をすると「あれはねー」と
困り顔だったことを思い出すが、ECVTで苦労したのかもしれない。
それにしても、まさか私の人生でジャスティを運転する機会に恵まれるとは
微塵も思わなかったのに、それが叶う人生とは数奇なものだと思った。
この年代だと
シャレード、マーチに乗せて頂き、
うどん屋さんの
コルサにも乗せてもらったのだが、
ジャスティは全体のトータルバランスやファッション性と言うより、
流行に流されないポリシーを持っている車のように感じた。
最後に、貴重なジャスティを運転させていただいた
すばるっちさんに大感謝。
(また機会がありましたらカローラとRAV4にも乗ってみてください)