●カローラの代車はカローラだった
カローラを板金修理に出す際、代車として貸してもらったのが、表題のAE110系後期型XEサルーンだ。このお店では過去に
AE100や
NZE120を借りたことがあり、私のカローラ運転暦コンプリート活動にも協力してくれている。(残すは初代と2代目)
このカローラは1995年にデビューした8代目カローラの商業的失敗を受けて
1997年にクオーターパネルやインパネを新設するという大規模な手直しを受けたマイナーチェンジ後のモデルだ。その後2000年8月に9代目、いわゆるNCVカローラにバトンを渡すまでの三年間に亘り販売されたカローラの代表的なモデルだ。
このカローラを借り受け、毎日の通勤や遠乗りに使用したので記録として文章に残したい。
●シェイプアップしてスリムで健康的な前期型

1995年5月15日、トヨタの看板車種カローラ/スプリンターはフルモデルチェンジを受けて8代目となった。その4年前、バブル期に企画開発された7代目は感性品質の向上と安全性の強化を達成する為に大型化・高級化を図った。スーパストラットサスペンション、20バルブツインカムVVTエンジンなどの分かり易い高級メカニズムの採用に留まらず、例えば主要回路のコネクタへの金メッキの採用、電気式メーターの採用などマジメな信頼性の追及も行われた力作であった。ところが、急激な景気減速のあおりを受けた7代目は「背伸びしすぎた」と見なされてしまい思うような販売成績を上げることができなかった。
今まで右肩上がりの成長を信じてより良い車を求めてきた私たち日本人は、悟りを開いたように華美を戒め、お金を節約し始めたのだ。価格破壊をキーワードに今まで当たり前だったモノの値段を画期的に下げるプライベートブランド等のアイデアが生まれ、豊かなものより安いものを求める時代の空気が醸成された。
自動車業界も例外では無かった。例えば、1994年のカムリ、カローラIIは基本メカニズムは先代をキャリーオーバーし、先代モデルのグレード構成を縮小、優しい曲面で構成されたフォルムを直線的な質素なものに改め、内装に掛けられたコストも目に見えてレベルダウンした。触ると柔らかかった内装が、硬質樹脂に変えられ、種々の部品は良く見ると先代と変わらない形状をしていた。
不景気でもお客さんに買い換えてもらえる価格にするために、先代モデルとできる限りの部品を共用化し、それ以外にも部品の価格を下げていき、低価格を実現していた。当時の新聞記事の経済欄でフルモデルチェンジの記事が出ると部品共用化率**%みたいな数値が必ず出てくるほど無駄遣いをしないフルモデルチェンジは繰り返しアピールされた。
今ではちょっと信じられないがバブルの雰囲気を切り替えられずゴージャス気分なままフルモデルチェンジをしようものなら「旧い」「時代の空気が読めてない」と袋叩きに遭う可能性は十分あった。
そんな1995年、8代目カローラをポストバブルの大衆セダンとして時代の空気を読みすぎるくらい読んでデビューした。極力先代モデルのコンポーネントをキャリーオーバーしながらも地道にルーフを高くしてヘッドクリアランスを確保したり、フードやラゲッジドアの端部を持ち上げて運転席からの視認性を高めた他、エンジンを従来のカタログ値重視からトルク重視に切り替えて実用域の走りを追求した。
またトータルコストオブオーナーシップ(購入から維持にかかる経費を含めたコスト)の低減として修理費用の低減を図る為にサイドプロテクションモールの黒素地化、前後バンパーを上下2分割化し、傷ついた側だけ交換できるような意欲的な試みを形にした。また、進みすぎて品質が追いつかなかったワイヤー式ウィンドウレギュレータをXアーム/Iアーム式に戻し、ノブが取れ易かったダイヤル式スイッチが組み込まれたヒーコンパネルはレバー式に戻された。それらはコストダウンだけでなく、品質向上させ維持費の低減も実現したのだ。素材費を節約でき、NVH以外のあらゆる性能が向上する軽量化も推し進められ、セダンで-50kgも軽量になり、購入時の重量税負担額が安くなるグレードも増えた。
●痛切な反省を表明した後期モデル
8代目カローラの前期モデルは中学生だった私の目にも寂しさが漂ったし、世間の評価も似たようなものでセールス的には決して成功策とは言えなかった。特に2分割バンパーは否定的な意見を持った人が多かったようで、登場後一年の一部改良で早くもカラード化されたほどだ。豪華すぎても質素すぎてもうまくいかない、カローラは苦しんでいた。
若者向けに先代の化粧直しに加えて4WDを追加して人気が出たツーリングワゴンがその穴を埋めてくれていたのだが、カローラブランドの本流たるセダンもマイナーチェンジで大きく手直しを施すこととなった。
ヘッドライトはマルチリフレクター化し、ラジエーターグリルもメッキが増えてゴージャスになった。2分割バンパー一体化され、黒素地部品は一気にフルカラード化され、クオーターパネルを新設し、ラゲッジドアには歴代で初めてRrコンビランプ(クリアランス、バックアップランプ)が設定されたが、これも10代目までの歴史で唯一の仕様でコストがかかっている。
内装も、カチカチの硬質樹脂は改められてフルソフトパッド化、少し暗めだった内装色も明るい色調に改めた。Rrシートのピローは立派なヘッドレストに進化し、衝突安全に配慮してボディはGOAを採用。室内もトリム内部に衝撃吸収リブを持ったソフトアッパーインテリアも備わることとなった。
特筆すべきはスポーツツインカムを搭載したGTが新開発の6速マニュアルを得て復活するなど力の入ったマイナーチェンジとなった。
余談だが、2009年にデビューして大ヒットとなった3代目プリウスのカタログに後期型カローラがカメオ出演している。しかもマッドガードが付いていないからXE-Saloonと思われる。(クオーターガーニッシュが黒いが、
ドアハンドルがカラードなのでLX用を使っているかCGで消したのだろう)
●エクステリア
車を引き取り、翌朝じっくりと代車を見た。
フロントマスクを特徴付けるフルカラードバンパー、カローラ初となるマルチリフレクターヘッドライトは既にDXも含めて全車標準装備となっており時代の進化を感じる。ラインナップ中、上級タイプのXE-Saloonは最上級のSE-Saloonと較べてタイヤサイズが異なり、カラードマッドガードが着かないくらいで後はほとんど見分けがつかない。
フロントマスクは高級感のあるキラキラしたヘッドライトとラジエーターグリルのお陰でカローラらしい高級感が味わえる。バンパーが上下一体化され、ロアーグリルのワイド幅が広がったことで視覚的な安定感も同時に付与された。
サイドビューはAE110が過去のクルマであることを強烈に印象付ける。25年前の典型的なセダンスタイル、すなわちフードが、カウルが、ベルトラインが低いのである。クルマはスマートに見えるほうが格好良い、という原則に則ってセダンもワゴンも実用性の許す限り車高を低く設定していた。カローラもその例からもれず、7代目より全高が上がっていても現代の目から見ると異質なくらい車高が低い。それでも狭そうに見えないのはベルトラインが低くバランスが取れているからだ。無理に大径タイヤを履いていないから全体的なプロポーションも良い。全長4315、全幅1690mm、全高1385mmでホイールベースが2465mmとは思えない。
例えば現代的なハッチバックをベースとしたコンパクトなセダンは、歩行者保護要件の為ボンネットを低くすることが出来ず、パッケージ的な流行もあり背が高く、その流れでベルトラインが高い(もしくは前下がり)ため、どうしてもトランクスペースが高くなり、上記の価値観で見ると不格好と言わざるを得ない。ロアーボディとグリーンハウスのバランスや各モールの位置などセダンの魅力の出し方を心得た手慣れた仕事を味わった。
特にルーフとピラーの接合部はロウ付けされて継ぎ目がなく、雨垂れ対策の為のドリップチャンネル構造が採用されているので目隠しモールにメッキが入り、SUS製ベルトモールと相まってキラキラしたモールがぐるっと一周窓枠を覆っているが、見た目の高級感は現代の同セグメントを凌駕している。
リアビューがAE110の最もAE110らしい部分である。既に触れた通りクオーターパネルを新設してラゲッジの開口幅を大きく取りつつ、ワイドなリアビューをも手に入れている。このクオーターは海外仕様(欧州や一般国)と同形状となっていてWRCでおなじみの個性的な丸目仕様にマッチしたRrコンビランプが収まるように設計されている関係で日本仕様も若干ファニーな丸さが目立つものの、点灯部分を下半分にまとめて四角く光るようにするという細かい配慮のお陰で大きな違和感に繋がらないように調整してある点はさすがだ。
日本向けとしてのマッチングでは前期方の方がカッチリしているのだが、Rrコンビランプが大きく見えてリアのボリューム感が出過ぎる面もあったし、そのRrコンビランプが開口幅へのハードになっていた。ラゲッジドア側にもランプを設けることでラゲッジ開口がストレート化して実用性が大幅に向上した。後期型ではこの部分でデザイン性と実用性のバランスが取れたように思う。
カローラのエクステリアは、マイナーチェンジゆえにスタイリストのやりたい事の全てがやれたかは疑問だが、前期型で質素に見えたことに対するリカバリーは十分出来ている。この頃、クロカンブームが一段落し、セダンの次はミニバン、
MPVにファミリーカーの定番の座を奪われつつある中で十分豪華で嫌味の無い温厚なスタイルを実現しており、次期でキャビンフォワードの背高パッケージを採るカローラにとっては旧来型FF大衆セダンの集大成とも言えよう。
●インテリア
マイナーチェンジでインパネに手が入った。カラーリングの変更、2DINカーナビへの対応や質感対応は行われたが、基本的な配置関係は前期型を踏襲している。
カローラのよき伝統だったオーディオが最上段にある様式を守りつつ、インパネの上に飛び出すようにスペースを確保したのは2019年の目で見れば現代の流行を先取りしたかの様に感じられ、金型新設のメリットを十二分に生かしている。
インパネは上面がフルソフトパッドでしっとりと柔らかい。前期型でパッセンジャー型のみソフトパッドであったことを考えると
飛躍的に質感が向上した。
この触感に注目すれば、ドアトリム(フルトリム)のベルトライン部分を触ると柔らかい事に気づく。現代の常識だとこんな部分はカチカチの硬質樹脂だと相場が決まっているのにソフトパッドなのだ。指で押すとソフトに撓むが決して底付きしないので驚いた。アームレスト上のエリアはシート生地と同じ柄のファブリックがあしらわれて統一感がある。また、使い心地もドアの開閉やパワーウィンドゥの操作などで一切の不満を挟む隙を与えない。デザインの為に使いにくいドアトリムを採用する現代車の作り手にはカローラの精神を学びなおしていただきたい、とドアトリムを見て触っただけで言いたくなるほど機能的だった。
XE-Saloonはフルトリムで運転席のみドアポケットが装備されるが、それより下級のLXでは同形状ながらドアポケットは省かれる。ドアポケットはビス止めになっており、細かい仕様差でも金型を使い分けなくても良いようになっている。しっかりしているなあと感心したのだが、逆に上級のSE-Saloonではドアポケットが一体になった成型ドアトリムを採用しデザイン性がさらに向上する。なんというコダワリ・・・・。(成型ドアトリムはパワーウィンドウ専用なのでアームレストのデザインも微妙に洗練されている)この成型トリムは先代の7代目ではXEにも採用されていたが、8代目では過剰と判断されたようで格下のフルトリムになった。しかし確かに必要十分だと思う。
驚きはシートにもあった。身長165cmの私でもはみ出してしまうほど小ぶりなシートは昭和の大衆車でよく見られるが、その代わり、シート生地がフワフワで優しい触り心地である。前期では乗員の肌が触れる部分以外はビニールレザーだが、後期型のXE-Saloonはほとんどの部分が豪華なシート生地で覆われている。この触感、新型クラウンでも味わうことが出来ないレベルだがカローラ、それも最量販グレードでこれをやるなんて・・・・・
現代ならクラウンクラス?と言っても差し支えない位の配慮が行き届いていて、これが車両本体価格130万円程度(A/Cなし)のクルマの内装なのだろうか。と感心した。
ドアトリムとシートの連続感があるとすれば、シートとシートの間にあるコンソールボックスも布巻きなのは現代の車ではちょっと考えられないお金の使い方だ。
さらに面白いのはRr席のドアトリムも触ると同様に柔らかいのだ。Rrトリムの仕様はPWスイッチがアームレスト式ではなく、あまり評判の良くないシーソー式になるものの、上段から下段までの構成はドアポケットが無いが他はFrと変わらない。足が当たりがちな下段をビニールで覆って傷つきにくくするあたり、これ程まで優しくして戴いても宜しいのですか?と恐縮してしまいそうだ。
●メカニズム
FFになって以降のカローラのメカニズムは5代目(FF初代)にて前後ストラット式サスペンションの採用、6代目でサスメン導入し、ハイメカツインカム初搭載、
7代目でハイメカツインカム(第二世代)の全面展開と進化を続けたが、8代目では基本的にキャリーオーバーされており、大きく注目すべきすべき新機軸は無い。
しかし、コンセプトは進化しており、今回試乗した1.5Lの5A-FE型エンジンもカタログ馬力を5psダウンの100psとした上で5000rpmまでの全域でトルクを向上、バルブスプリングを柔らかくする、シリンダブロックのリブを廃止する、フューエルカット領域を拡大するなどの地道な方策を採用して軽量化やコストダウンだけでなく、燃費の向上(25%向上)や扱い易さと言うメリットもユーザーが享受できるようにした。
その後の歴史から「8代目カローラは7代目カローラのコストダウン版」と考える人が多いのでは無いかと考えられるが、全てがそうかと言われればそれは誤りだ。

例えばカローラの方向指示器レバーは現代のクルマと同じオール樹脂構造になっている。反対側のワイパーレバーも同様に樹脂製だ。確か先代のAE100は鉄製の芯棒が付いていたから新型でコストダウンと軽量化が実施されたのだが、普段乗っているRAV4(金属製)と全く遜色ない操作フィーリングであったので改めて気づくまで何も考えなかった。
TNGAが採用された現行のプリウス以降のステアリングコラムに締結されるレバーも樹脂製だ。しかし、新しい方は剛性がグニャグニャで操作すると撓みが大きくて操作の節度間も感じられず、操作力のせいでステアリングコラムカバー本体もだらしなく歪む、という情けないシロモノである。
仮に単品剛性が高くとも車両状態での剛性「感」が無いと車そのものの商品性や品質感を損なうものだ。今回の例は目視でも変形が見えて最低最悪の設計なのだが。
一方、今回取り上げたカローラは樹脂化するに伴い金属製相当の剛性感を目標に設計されたのだろう。車両になった後も従来の金属棒と変わらぬ操作フィーリングを達成している。
決して8代目カローラが、7代目から引き算をしただけの原価低減カーでないことが分かっていただけると思う。(ただしワイパーレバーは裏面の剛性リブ丸出しという格好悪い状態で世に出してしまい、後期型では目隠しカバーが付いたし、ATシフトレバーのボタンは車両下方向がリブ剥き出しだった)
●居住性/パッケージング
運転席に座った。2000年代以降に流行した高めのヒップポイントとカウルが前進し傾斜したAピラーから成るパッケージングが一般的になって20年が経とうとしている。その目線でカローラの運転席ドアを開けて乗り込んでみると、少し低めのヒップポイントなのが逆に新鮮だ。
決してクッションがつぶれて底付きしない立派で手触りの良いシートに座り、前後位置と角度を調整した。一発でドラポジが決まった。かつては背もたれ角度を一番立てた状態にしても角度が寝過ぎだと指摘されていたが、この世代ともなるとリクライニング角度も立たせ気味でも調整できる。
それ以外の調整機構はテレスコピック機構はおろかチルトステアリングも備わらない。シート高さも調整できないという現代の軽自動車にも劣るような旧態依然とした構造にも関わらず不思議とカローラのドラポジが合うので不思議な感覚だ。
ドアミラーは電動格納は備わらないものの立派にリモコン電動ミラーである。左右方向は端の1/3に車体が、上下の半分に地面が来る様に合わせた。ドアミラー越しにRrのホイールアーチが確認し易かった。
このまま後席に移る。着座してみると、ヒップポイントが低いものの、ホイールハウスが邪魔になる事無く座面は広い。またカタログ値の室内長を追いかけたような寝そべったシートバックではなく、正しく座れる位置関係になっている。後期型のXE-Saloon以上は別体式のヘッドレストが備わっており、前期型のピローよりも安全性が向上し、実際の乗車中は頭を支えてくれて非常に楽である。
XE-Saloonよりも上級のSE系ではセンターアームレストが、GTでは6:4分割可倒機構が装備されている。一般的な使用ならXE-Saloonの別体ヘッドレストで十分以上の機能がある。本来はCTR席分もヘッドレストを備えたいところだが、これは後年、法規で縛られるまで待たねばならない。
特に感銘を受けたのは、室内長が狭いが脚の納まりが良く、つま先が綺麗にシートの下に入る事だ。前席シート下の空間が広く、シート取り付け部品がロッカー、CTRトンネルから生えておりフロア面が広いのである。その恩恵でよっぽど身長が高い人で無い限りホイールベースが短くても十分座ってくつろげるのだ。
最新型のTNGA世代のカローラスポーツの場合、前席取り付けブラケットが床から上方向に生えているので足を置く自由度が極めて少なく、私はくつろげなかった。これはシート自身がもはや衝突部材と化した事やシートを直接ボディに取り付けた方が、乗り味が向上する為と想像されるが、これにより失った後席の快適性は小さくない。
8代目カローラの後席は狭いながらもよく検討された緻密な空間設計だと感じる。Rrドアトリムの豪華さもさることながら、「どうせ前しか乗らない」という作り手目線の重み付けでは無い平等さ、「後席も使って下さい」というトヨタの生真面目さを感じ取ることが出来て嬉しくなった。
●市街地走行
車に乗り込む前にカローラをまじまじと眺める。うーん、懐かしい。うーん、スーパーホワイト(040)がまぶしい。うーん、当時そこまでプロポーションが良いと感じなかったけど、今の目で見ると相当スタイルが良いなぁ。などと色々考えてなかなか出発できなかったが、意を決して乗り込んだ。
バタンというドア閉まり音は決して高級感は無いが、自分の6代目と較べればドアの重さのおかげで安心感がある。また、弱い力で閉めて半ドアにならないドア閉まりの良さが心地よい。ドアが綺麗に閉まらない理由は色々あり、一概に剛性とか建付けだけのせいではないのだがカローラのドア閉まり性能の高さは毎日開閉する際のストレス軽減に大いに役立った。
RAV4と同時代・同形状の鍵を差込みエンジンをかけた。自分のカローラのような「よよよよよ」という弱々しいセルではなく力強く安定感のあるセルモーターが
当時既に旧く感じられたハイメカツインカムの5A-FEを目覚めさせた。
タコメーターは未装備なのだが、ちょっとしたアイドルアップ状態の中、Dレンジに入れて、軽いガレージシフトショックを感じた後、出発した。
住宅地を徐行しているとATのイージーさがありがたい。路地を曲がる際に油圧パワステを操作して曲がるのだが、しっかりした手ごたえを感じるのは電気パワステとの大きな違いだ。
旧来のセダンらしく、低く座って手足を投げ出すドラポジである事は事実だが、まだこの時代はベルトラインが低く、ピラーも細く、角度も立っている為に右左折の死角は小さくスポーツカーのような閉塞感は無い。
信号を超えて県道に入った。アクセルを軽く踏むだけでシフトアップを繰り返しあっという間に50km/hまで到達する。かつて運転した1800ccクラスのカムリで経験した、アクセルに足を載せているだけで無意識に50km/hに到達する感じではなく、積極的にアクセル操作をしてやる必要がある。
のんびり走らせている限りシフトショックも皆無でスルスルーと加速してアクセルを抜けばスルスルーと惰性走行する。普段はMTを愛して止まない私だが、たまにATに乗るとそのイージーさにやられそうになる。「イージーだ!すごい」→「思い通りに運転したい」→→「100%意のままは難しい」→「やっぱMTだ」という不毛なサイクルを回し続けてしまう。
8代目カローラのATは油圧式ATとしても最後の世代であるが、ちょっと面白いのは特定の条件化ではアクセルオフで自動的に3速にシフトダウンする制御が追加されている。60km/h近傍でアクセルをオフにすると、明確に減速感が強まり微かにE/G音が大きくなる。ホンダの電子制御ATほど賢くシフトダウンは出来ないが、後にフレックスロックアップや登降坂制御などを駆使して燃料カットやブレーキの多用によるロスを減らす試みが取り入れられている。
田舎の県道を走っていると、アクセルペダルを薄く踏んで50km/h+αの速度域でのんびりするとこのクルマのゾーンに入れる事に気づいた。
165/80R13という現代では軽自動車レベルのタイヤを履いているが、乗り心地は角が取れていて全く不快感が無い。舗装のうねりが酷い区間をそれなりの速度で通過してもステアリングに強いキックバックも無く真っ直ぐ走り抜けた。
聞こえてくるノイズはロードノイズが主でラジオさえ掛けておけば無視できるレベルだ。コーナリングも多少ステアリングがスローだなと感じ、キビキビ感は感じないが許容レベルでコーナーをクリアする。

市街地の交通量の多い道路でもカローラの見せ場がある。信号ダッシュではアクセル開度50%程度で先頭集団の流れをリードできる。多少のE/Gノイズを響かせながら加速しても巡航するとすぐにシフトアップしてE/Gの存在感は小さくなる。
店舗に入るため停止した車両を見つけて強めのブレーキをかける。確か自分の6代目カローラGTと同じ13インチベンチレーテッドディスクだが、こっちの方が利きが良いように感じた。ただし、サスが柔らかいのでノーズダイブは大きめだ。
カローラで走る市街地は、俊敏な加速と十分なブレーキ、柔らかいサスの恩恵でかなりイージーな走りが可能だ。クルマとの対話、なんてことよりもドライバーが安全運転や他の事に集中できるように車側から妙な主張はしないのがカローラらしい。
●高速走行
カローラでETCゲートを潜るとランプウェイのコーナーを抜けて本線に流入する。40km/h制限が終わりウインカーを右に出して100km/hまで加速させる。アクセルをじわじわ踏めば早めにO/Dに入ってE/Gトルクを使って加速していくが、キックダウンさせれば2速を有効活用して俊敏に加速をこなす。90km/h-100km/hの範囲内で3速にシフトアップし、アクセルを緩めるとO/Dロックアップまで一気に切り替わる。
7代目カローラで報告したとおり、ロックアップしてしまえば後はもうひたすらロックアップ状態で走り続けようとする。そのため、伊勢湾岸道の名港トリトンのようなだらだら続く上り坂ではうっかり失速してしまい、慌ててアクセルを踏み込んでシフトダウンさせるという失態を演じてしまうため、坂に差し掛かる時は事前にアクセルを開けて勢いをつけていかねばならない。名阪国道のようなきつい上り坂ではドライバーの操作によってO/DスイッチをOFFにしておけば軽快に追越し車線を走行できるが、そうでなければビジーシフトを繰り返して走りのリズムは一気に崩れる。
100km/hでの走行感覚は風雨に見舞われなければ、十二分に安定して巡航できまるし、高速道路のカーブ走行や割り込みに対するブレーキにも対応できうる実力を持っている。
意外なほど静粛性が高く、巡航時の騒音はロードノイズが6割、風切り音が2割という印象でE/Gからの音はほとんど聞こえない。カローラでこれほどまでに静かにする必要があるのかと思うレベルだった。
120km/h走行が許される区間をカローラを走らせた。100km/h区間ではトラックの後ろについてイージードライブを楽しんでいたが、いざ日本で一番速度が出せる区間に入りアクセルを踏み込むが、油圧ATの反応が鈍く変速がワンテンポ遅れるものの、3速に落ちるとグワァッと加速し、すぐに120km/hに達した。
真っ直ぐステアリングに手を添えてあげればまだまだ速度を上げていけると感じる程ビシッと走るという現実に驚きを隠せなかった。1500ccの100psエンジンでタイヤ幅はたったの165しか無いにも関わらず十分に立派だと認めざるを得ない。
一方で、カローラは外乱への弱さを感じさせる場面もあった。元々道路のうねりに対する反応はぽわーんとマイルドなのだが、この速度帯になってくると少々手応えが欲しくなる。明らかにクルマが浮き上がっているような感覚でステアリングインフォメーションが希薄になっているのだ。
この傾向は100km/h程度で横風が強い橋梁を走る際にも感じられた。風に煽られて修正舵を当てるのだが反応が鈍くて少々ハッとする。もちろん速度を下げればよいだけの事なのだが。
基本的によく調律された走りだが、スイートスポットを外れたエリアでの挙動の変化率は現代のモデルよりも高いと気づく。このあたりがカローラの弱点の一つかもしれない
●山道走行
山坂道にカローラを持ち込んだ。まず山を登るのだが、実用域のトルクが太いカローラはストレス無く坂道を登っていく。スローなステアリングをせっせと操作していくつかのコーナーを抜ける。頂上を越えて今度は下り坂に入るのだが、タイヤが鳴くほどではない常用域だがコーナリングの軌道が遠心力で外に膨らんでいく感覚が他の車より強めの傾向ある。

決して破綻するような感じではないが、意のままに走るというよりは、「危なくないように頑張って耐えてます」感があった。一般ドライバーの運転を模してDレンジのままだとどんどん速度が上がってしまうので、ステアリング操作がどんどん忙しくなる。カローラ自体が曲がりたがる性格ではないので、コーナーでステアリングを切る、或いは切り足したり戻したりする操作のゲインが鈍い。鈍いのでさらに操作しなければならずちょっと忙しくなってしまう。加えてカーブ手前で減速というセオリーを守ってやる必要がある。そのブレーキもあと少ししっかり感が出れば良いのになという感じで、私が楽しいなぁと思う乗り味ではなかったが、これはこれでトヨタは重々理解した上でこうしたのだろう。
●遠乗り
せっかくの8代目カローラなので、遠乗りに供する事にした。いつものETCゲートを抜け、いつもと違う方向に方向指示器を出した。交通量が少なめの合流路ではO/Dのままじわじわ加速して本線に合流した。
100km/hで巡航して1時間強、眠くなるほど快適に走った。カローラの得意分野から外れないように運転すれば「疲れさせない性能」のお陰でストレスフリーのドライブが楽しめる。つまり、過度に速度を出さない、JCT等のコーナー手前でしっかり減速する、登降坂時はO/Dオフを適宜活用という気配りさえあればカローラの守備範囲から外れないから相当快適なのだ。
一般道(市街地走行)かつ、信号少な目・適度なカーブ・オレンジセンターライン・50km/h制限、という相当気持ちいいドライブコースを走らせた。さほど急カーブがないのでじわりじわりステアリングを操作して順調にコーナーを抜けていく。
アップダウンがあるのでO/Dスイッチオフを駆使してスムースな走行を心掛けた。上り坂ではハイメカツインカムの豊かな中速域のトルクを使って3速で登坂車線のトレーラーをオーバーテイクできた。
ひたすら気持ちよく走ってみた結果、燃費は15.6km/Lと好成績を記録した。(10・15モードは14.6km/L)
3時間以上運転して腰やお尻が痛くならなかったのは、自分のカローラGTが30分も乗れば確実に腰が痛くなってくることを考えれば進化を感じる。
●家族でちょっと移動
せっかく代車が来ているので家族でカローラに乗った。近隣の町まで一般道のみでくるっと一周したが、3人乗車だと信号ダッシュはアクセルを踏む量が少々増える。ただ、決して力不足ではなく極めて適正な範囲内だ。少々ブレーキの甘さが目立ってくるが、これも飛ばさなければ許容範囲だ。
助手席の妻は「なんか豪華で広いね」とまんざらでも無さそうだ。デミオでは助手席を前に出さないといけないが、カローラならある程度自由度がある。さらに独立したトランクルームがあるので家族4人ならカローラがあれば十分じゃないか!という当たり前過ぎてここに書くことも憚られるような感想が涌いてきた。元々家族4人の為の車なのだから当たり前なのだ。
妻にステアリングを渡し、私は後席に座った。後席は前述したように脚の収まりが良く、私には十分なレッグススペースがある。加えてサイサポートが適切で太ももをしっかりサポートしてくれ、足引き性も良いから足を伸ばし気味でも引き気味でも足を開いても足を左右のどちらかに揃えても座れる。シートバックも適切でヘッドレストがしっかり頭を支えてくれる。これならある程度距離がある移動もこなせるなぁと感じた。
妻は「オートマが久しぶりすぎて怖い」「アクセルを離したら惰性で走るのが怖い」とまるでMTドライバーの様なコメントをしてくれた。(MT乗りです)
市街地を流した後、ドラッグストアの駐車場でステアリングを回して車庫入れを試みたが、油圧式パワステは妻にとっては重いらしく「回せない」とギブアップされてしまった。EPSに乗りなれていると据え切り性能が劣る油圧PSは重いステアリングに分類されるらしい。
●結論
マジメな車、カローラはそんなクルマだ。びっくりするような新機構を持たず、デザインの為のデザインをしていないが、実用性と実用性に関わる性能はピカイチだ。通常の使用範囲では、高級感のある内外装と必要十分な装備水準を持ち、走る曲がる止まるも十分。
運転を楽しむ為の運転はあまり得意ではないが、行かねばならないところがある、誰かを連れて行かねばならない場所がある、などと目的がある時、快適な移動を約束してくれるのがカローラだ。
この車を捕まえて、面白くないだの没個性だのと言うことは容易だ。しかしこのクルマのオールマイティーさは他の追随を許さない。
中学生で例えれば国語、数学、理科、社会、英語、保健体育、音楽、技術家庭科、テストは全て80点、身長も平均より高いほうで、サッカーも野球もダンスもある程度できて、部活もキャプテンでは無いけどレギュラー。世間の流行もそれなりに押さえていて友達との会話もついて行ける。
クラスの中の女子とも、物怖じせずそれなりに話せ、リア充グループともオタクグループともそれなりに会話が出来る、もしそんな中学生「花冠くん」が居ればスーパー中学生と言って良いだろう。特出した何かが無くてもそのステータスの総和は高い。
そのステータスを調整すれば、倹約家のDXにも、いぶし銀スポーツのGTにも、バランス重視のXE-Saloonにもなれる。私はXE-Saloonに乗っていると車はこれで良いじゃないか、と言うカローラからの囁きが聞こえるような気がした。
子供を乗せてもチャイルドシートでご機嫌にしており、自宅に着いて下ろす際に運転席に座らせると、キャッキャ喜んでいた。「幸せなカーライフ」なんて使い古されたコピーは確かにカローラの根底にあるものであった。
しかし、不幸なことに8代目カローラが売られていた時代はファミリーカーがセダンからミニバンにシフトする過渡期であり、セダンを求める層は価値観が固まった中高年か営業車としてのフリートユーザーしか望めない状況だった。それなのに年間ベストセラー1位を死守しなければならず、ヴィッツやフィットと言う強力な21世紀型大衆車や豊富なラインナップから成るミニバン、或いはSUVを前にカローラは極めて旧時代的に映っていた様に思う。
スライドドアでも3列でもないカローラは、コンパクトだけど中も広くて十分な快適装備を備えながら、性能もそこそこで誰もが買える低価格を実現していた。こういう正攻法の商品がもう無くなりかけている。移り気な消費者には優等生に飽きた様子だし、自分たちの合理性を重んじる作り手の双方の意思でいよいよ市場からフェードアウトしそうだ。
いやいやカローラみたいなマジメなクルマを本当に無くしていいのだろうか。そういうクルマを評価する人が居ないけれど本当にそれでいいのだろうかと思う。「花冠くんは真面目でいい人なんだけどね」で終わらせておいて良いのか、と。
最新のコネクティビティを装備したグローバルでエモーショナルなモデルをローンチするのは結構だが、仕向け先の地域最適化を理由にサイズを拡大するクルマがあるのなら、日本の為にこのサイズ感を死守していて、しっかり現代の性能を持った車があっても良いのでは無いか。
ごちゃごちゃと書いてしまったが、カローラXE-Saloonは、使いやすく便利で快適なクルマだった。
昭和型大衆セダンの集大成は幸せなファミリーカー。
結論としてはそういうことになる。
2019年に運転してみると、何だか子供の頃よく遊んでもらった親戚のおじちゃんに会った様な嬉しい気持ちにさせてくれた。そんな暖かい気持ちにさせてくれる代車に感謝。