トヨタ博物館の企画展
「30年前の未来のクルマ」を見てきました。
この企画展はN兄さんから存在を教えられ、
行きたい気持ちMAXだったのですが
外出制限と博物館臨時閉館に阻まれて行けず、
先日ようやく家族で行ってきました。
この日は通勤用RAV4 Lでトヨタ博物館までドライブしました。
家族三人+手荷物が収まる最小サイズです。
久々のトヨタ博物館ですが、観光客が少ない為、
館内が静かに展示物を楽しめる・・・と思いきや
子供を連れているとあちこちに行ってしまうので
連れ戻すのに必死でなかなか苦労しました(笑)
ご迷惑にならないようにこっちも汗だくでした。
やっとの思いで企画展会場へ。
●トヨタ GTV (1987年)
低公害のガスタービンエンジン搭載パーソナルGTコンセプトカー
まず、目に飛び込んできたのは3代目ソアラを思わせる
曲面的かつ伸びやかなプロポーションの2ドアクーペです。
いまやシリーズハイブリッドや燃料電池、
外部充電式の純EVなどの違いはあれど電動車こそが
次世代パワートレーンという空気が醸成されていますが
30年以上前は、ガスタービンエンジンも研究されていたようです。
思えばヨタハチベースのガスタービンハイブリッドもありましたから
細く長く基礎研究のような形で複数の選択肢が研究されていたのでしょうね。
燃料の自由度が高く、高速連続走行であれば高効率とされた
ガスタービンエンジンの特性を生かした商品を
2ドアのパーソナルカーにしてしまうところは当時らしいと感じます。
ガスタービンエンジンに4速ATを組み合わせて
最高出力150ps、最高速度200km/hを実現していたそうです。
プロジェクター式ヘッドライトだけで構成された
ナマズのような顔つきに視線が集中してしまいそうになるんですが、
ショーモデルらしく各部の見栄えにも配慮されたボデー
(トヨタなのでボデーですね)は
現代のプレミアムカーに通じる部分もあります。
チリは極限まで詰めてあり、ホイールアーチはツメ折らずですよ。
子供の頃、ベストモータリングでGTVに試乗するVTRを見たことがあり、
当時の記憶が脳裏に焼きついていましたが、
その記憶を頼りに後方に目をやるとカメラがありました。
インナーミラーを廃止してメーター内の液晶画面に表示する試みも
30年以上経過すると特に驚くような技術ではありませんが、
当時のノイマイヤー少年は驚いたものです。
映像の中でジェット機のような音を立てて走る様はまさに未来の車でした。
(今回の記事を作成するに当たり、映像を発見。凄い世の中になりました)
いまもガスタービンエンジン自動車は研究されているんでしょうか。
●トヨタ 4500GT (1989年)
「先進技術と遊び心」を、高次元で調和させたスポーツカー
トヨタ2000GTの志を現代(30年前)で!というコンセプトで
V8 40バルブ 4.5Lエンジンが300psを発揮し、最高速度も300km/h、
ゼロヨン13秒台のFR車(T/Mが後方に配置されるトランスアクスル)に
空力的にも有利なワゴン風のプロポーションがとても記憶に残っています。
セルシオのV8エンジンをベースに吸気効率を上げる為に追加された
5バルブの技術は1991年のカローラに搭載される2年前ですね。
もうセルシオが世に出ており、
90年代トヨタの曲面的で大らかなスタイリングからは
1993年のスープラの下敷きになるかと思いきや、
内容的にはスープラの更に上を狙っているようです。
(そもそも初代のスープラは広告でTOYOTA3000GTと謳っていましたね)
フードはあくまでも低く長く鳥の様に尖った形状をしていますが、
このフロントマスク、どこかで見た記憶があると思ったら
2017年のショーモデル「GR HV SPORTS concept」と被ります。
もしかしたら担当者の頭の中にこいつがいたのかも。
サイドビューはロングノーズでスポーツカー的な印象ですが、
リアビューはルーフを長く引いた影響で少々重たさが出ています。
バックドアの開口は高く、荷物の出し入れは体勢がキツそうに感じました。
バンパーが完全にボデーにインテグレートされたのは、
独立した4灯のRrコンビランプ同様2000GTの姿を意識したのかも。
他にもホイールはマグテックホイールと書かれており、
トヨタ2000GTのオマージュがこんなところにも。
タイヤはダンロップかなと思ったらDENLOCと書かれていました。
まさかダンロップのパチもん?とネットで調べてみたら
「ポルシェ959用に採用されたDUNLOP DENLOC SP SPORT D40/M2」
でした。当時の一級品が奢られていたんですね。
2010年にTOYOTA 4800GTでは無いけれど
V10エンジンと搭載したLFAが市販されて定期的にトヨタは
スポーツカーを世に送り出したくなるのでしょうか。
次も数億するスーパースポーツを世に問う様ですが、
写真を見る限りはサーキット直系のスパルタンな車になりそうです。
そういうサーキット生まれのスポーツカーは
現トップの趣味も大いに反映されているのでしょうが、
歴史的には2000GTと4500GTのように快適性も大切にした
本格的なグランドツーリングカーも見てみたいですね。
スタディ中の技術を使って
国際級のGTカーを作ろうという試みは
誰しもが簡単に思いつくかも知れません。
しかし、それを試作車レベルとは言え
実走可能なショーモデルに纏め上げたことは
当時のトヨタの気概を感じました。
●トヨタ AXV-IV (1991年)
超軽量・高効率、リサイクルまでも考えたパーソナルコミューター
私はこのコンセプトカーを子供の頃に見ています。
新型コロナ(190系)のカタログをもらった記憶があるので
1992年頃だったと思いますが、奈良競輪場の駐車場で
県内のディーラーが合同で開催した「オールトヨタモーターショー」の
目玉として展示されていたのでした。
田舎の小学生だった私は東京モーターショーに連れて行ってもらえる訳もなく
奈良の様な田舎にこんな凄い車が来たことに興奮したものです。
久しぶりに再会した黄色いAXV-IVは
こんなにちっちゃかったんだ!と驚きました。
スリーサイズは3400mm×1600mm×1205mm、WB2300mmという
軽自動車に毛が生えたようなサイズ感ですが、
軽量な450kgという軽自動車を超える車重を実現しており、
当時の材料技術のデパートのようなコンセプトカーでした。
ボデーはアルミ材を多用し、ダッシュに発泡アルミを採用して遮音材を廃止、
フロアに軽量で面剛性の高いハニカムを採用して
クロスメンバを廃止したそうです。
ダメ押しでドアにマグネシウムを採用するなど全方位で軽量化され、
とてつもなくお金がかかっています。
さらにブレーキはアルミ合金製として軽量化しただけでなく、
フロントブレーキローターを大径化して性能を確保した上で
ブレーキブースターを廃止するという思い切った部品点数削減をやっています。
エンジンは、当時のトヨタが研究を続けていた
2ストロークエンジン「S-2」です。
解説に拠れば水冷二気筒804ccにS/Cを組み合わせた
64psエンジンが搭載されていますが、
450kgしか無いボディには十分なパワーでしょう。
有名な話ですが初代エスティマは元々、
小型高出力の2ストロークエンジンを搭載して
ウォークスルーと低重心を実現しようとしていましたが、
2ストロークエンジンが実用化できず、
コンベンショナルな4ストロークエンジンを傾けて搭載しました。
私のような素人はいつか排ガス規制をクリアするような
2ストエンジンが出ると期待していましたが、
以後、2ストロークエンジンの技術発表は私の記憶にはありません。
グラスファイバーをエポキシ樹脂で固めた
FRP製のリーフスプリングを前後力を支える
アームとしても活用したサスペンションは
展示車の状態でも分かりました。
覗いてみたところ黄色い板バネが見えます。
曲げ剛性に配慮して薄いH型断面が確認できました。
当時、日産がセレナのRrサスに採用した例がありましたが、
トヨタでも研究されていたんですね。
私が少々驚いたのは、2代目トヨペットコロナで採用されて
「色々あった」カンチレバー式サスペンションと類似した
バネの使い方をしていると言うことです。
(コイルスプリングとリーフスプリングの併用はしていませんが)
かつて大失敗を喫した技術でも応用できるとなると
(実験車ではあるが)チャレンジする点は、
同じく1965年トヨペットコロナで5ドアセダンを諦めずに作り続けて
2003年の2代目プリウスでようやく5ドアのリフトバック形状を
普及させた執念深さにも通じます。石の上にも38年。
それにしても1991年のコンセプトカーですが
見事に1994年くらいまでの曲面デザインとつながりが感じられます。
少し先の未来を暗示するコンセプトカーらしいなと思える意匠です。
更に直接的な関連は無いかもしれないものの、、
Rrコンビランプの意匠が初代RAV4に類似しているのも興味深いです。
●トヨタ AXV-V (1993年)
「ハーモニックエアロサルーン」がコンセプトの次世代都市間ツアラー
AXV-IVから2年後、次なるAXVは2リッターセダンとなりました。
当時、低燃費エンジンとして盛んに開発競争が行われた
直噴リーンバーンエンジンの「D-4」エンジンが搭載されています。
当時、ついにキャブレターからEFIに置き換わりつつあった当時、
次の高性能エンジンの一つが直噴でした。
1996年に三菱自動車がGDIエンジンとして実用化に漕ぎ着けていますが、
トヨタは1998年からD-4エンジンを投入しましたので、
1993年当時は「5年先の未来」を投影したのがAXV-Vだったのでしょう。
(いかに三菱がGDIで時流に先んじたかがわかると思います)
都市間ツアラーなので東京~名古屋など高速道路で
数時間クルージングするような使い方を想定していますので
当時はゆったりとくつろげるセダンが最適解でした。
衝突被害軽減ブレーキやタイヤ空気圧警報システムなどの
将来的に実用化された装備が複数盛り込まれていました。
エクステリアデザインが直線的でエッジの効いた空力フォルムで
CD値は驚きの0.2を実現していました。
床下は驚愕のフラットフロア。熱害が心配になりますし、
有識者に言わせれば、高速道路で横をトラックが走ってると
床下に乱れた空気の流れが入ってしまい
走行安定性が損なわれるのではないか等と疑問も涌いてくるようですが
コンセプトカーにその突っ込みは野暮と言うものでしょう。
(一応、AXV-Vはエアサスが装備され、走行時は20mm車高が下がります)
また、ルーフには減速時に上昇して抵抗力を減速に使うための
ルーフフラップが設定されていますが、
これも2Lセダンの速度域では無用の長物でしょう。
(洗車のあと、水がたまりそうですね)
エッジの効いたスタイリングはこれまでのトヨタデザインと一線を画す
都会的でけれん味の無いスッキリしたテイストでした。
空力の為にグリル開口を極限まで埋めた
未来的なフロントマスクは当時の現行型に似ていますが、
この車は1994年のカムリ/ビスタの予告編とも受け取れます。
特にバブル崩壊後に企画が始まったと見えて
商品性にまで踏み込んだ仕様ダウンによる原価低減は
当時の私たちの度肝を抜きました。
祖母が1.8XJに乗っていたので良く乗せてもらい、
免許取得後に運転もしましたが、
当時理解できなかったスタイリングの狙いが
このAXV-Vによって感じられるようになりました。
特にサイドビューやクオーターからラゲージまでの切り立ったエッジ、
ウインドウグラフィック、空力のため絞り込まれたRrエンドなどを見ると、
カムリ/ビスタのセダンとハードトップの意匠を
暗示されているように見えてなりません。
都市間ツアラーゆえ内装も凝っています。
前後位置調整可能なペダルや
シフトノブはコラムに移されてシフトバイワイヤを採用。
オーディオ等のスイッチはドライバーの手元に集約
スロットのサイズからはCDデッキではなく
MDの様にも見え時代を感じます。
他にハンズフリーやTVチューナーも備わりますが、
手元のPKBリリースノブが当時らしくて良いですね。
●トヨタRAV-FOUR (1989年)
乗用車ライクのコンパクトSUVコンセプトカー
今回、この車を見に来たと言っても過言ではないこのコンセプトカー。
子供の頃、ビッグワンガムで何度も組み立てた
あのRAV-FOURの実車が見られるとは思いませんでした。
長生きしてよかったなととしみじみ。
1989年のRAV-FOUR、1994年の生産型RAV4-J、
2019年にFMCされた5代目が並んでいましたが、
トヨタとしても都市型ライトクロカン転じてSUVを
他社に先んじて作り上げた自負があるトヨタは
うまいアピールをしていると思います。
この手のアピールは欧州メーカーが上手だと感じますが
トヨタもこの分野でキャッチアップできるか。
展示車はカタログに出ていた赤いモデルではなく紺色のモデルです。
ボデーサイズ3485mm×1695mm×1635mm、W/B2200mmというサイズは
生産型の3695mm×1695mm×1655mm、W/B2200mmとほぼ同一です。
このショーモデルはAE95G系スプリンターカリブをベースに
製作されているので1600ccハイメカツインカムを搭載しています。
そもそものコンセプトが砂地を走るサンドバギーなので、
軽量かつ走破性が高く、その性能を生きる為ではなく
楽しみの為に使う点こそが
従来のフルフレーム型の4WDと異なり新しいのです。
カリブはステーションワゴンからクロカンにアプローチした事に対し、
RAV-FOURはクロカン側から乗用車側にアプローチした提案です。
生産型は「クロカンに見える限界」に仕立てられていますが、
ショーモデルはフロントマスクはカリブベースで
どこまでジープっぽく見せるかを考えたのか
丸目がチャームポイントののJEEPルックです。
近づいてみると、ボディカラーに塗られた面とシルバー塗装された
ロワー部の塗り分けを境にして上は乗用車らしく、
下はクロカンらしい力強さを感じます。
縦スリットの冷却口の隣には緊急用のウインチが備わっていますが、
当時の4WDはウインチが良く付いている例が多く、
真面目なスバルはかつてレオーネ4WDにまでウインチをつけていました。
ウインチはクロカンらしさをアピールするアクセサリーだったのですね。
Frバンパーもランクルの様に足かけられるよう縞鋼板模様が入っています。
サイドビューもロワーボディにプロテクター機能を持たせ、
アッパーキャビンは乗用車然としています。
ブラックアウト塗装とボディカラーのBピラーをうまく使って
ロールバー風の意匠にしていますが
これこそが生産型との最大の共通点です。
ショーモデルはAピラーまでブラックアウトし、
ドアミラーも縦型のクロカン風の意匠になっています。
(生産型もコチラの方が便利なのだが、
乗用車デザインとは確かにマッチしない)
ショーモデルはFrドアサッシュ(縦)が後に倒されていて、
実は生産型とは逆方向の傾向を持っています。
ショーモデルの方が根元が太く力強さを感じるのですが、
ドアサッシュの後退量が大きくなり、
ドアを開けると顔にドアがぶつかるのでは?と懸念されます。
生産型ではドアサッシュが前傾するように修正してありますが、
確かに狭い場所での開閉は(ドアがでかいものの)便利です。
また、クオーターウィンドゥの面積がショーモデルでは小さく、
それが躍動感や凝縮間に繋がっているのですが、
この形状では死角が相当大きいと想像します。
実際に生産型に乗っている身からすると、
振り向いて目視する際に、目に入る大部分はセンターピラー。
現状のクオーターウインドゥでも小さく感じるのに
ショーモデルではそれすら見えなさそうで、
死角が大きくなりすぎて不便だったことでしょう。
Bピラーを細く、クオーターウィンドゥを広く、
Frドアサッシュを前傾に直したのは英断と言えます。
ショーモデルの味を残しつつ実用性を向上させたあたりは
スタイリストが良い仕事をされたと言うことなのだと思います。
ホイールはベースのカリブは4穴ですが5穴になっています。
クロカン色の強いトレッドパターンのタイヤとアルミホイールは
生産型と印象が異なります。
当時の4WD車はホイールハブが付いていることが多く、
ハブ付近がゴツいことがクロカンらしさでもありました。
そこに合わせるホイールの意匠も無骨なものが多かった為、
RAV-FOURに乗用車然としたアルミホイールを履かせると、
てんでサマにならなかったのだろうと想像しました。
タイヤサイズは215SR15と生産型のよりも分厚いタイヤを履いています。
リアビューはあまり見る事が出来なかったものの、
特徴的なRrコンビランプではなく、横一文字の汎用テール風。
背負いタイヤの角度で生産型とは異なり、斜めについています。
面白いのは、ルーフがツインガラスサンルーフになっていて、
必要に応じて取り外しが可能でオープン感覚も楽しめる点です。
写真を撮ろうと思いカメラを持ち上げて撮影したところ
RAV-FOURのロゴが印字されており、アピールに余念がありません。
ご存知の通り生産型ではアルミ合金製ツインサンルーフが設定され、
後期型ではショーモデルに近い開口面積が得られる
ソフトトップが追加されました。
せっかくなので下回りを覗いたら、Frフロア下に
ルーフと同じにRAV-FOURのロゴが浮出し文字で表現されておりました。
さすがショーモデル!本当に隙が無い。
(実際のフロアでこれをやるとアンダーコートで
文字が見えないだけでなく、チッピング錆を誘発するかも知れない)
初代RAV4に乗っているということもあり、じっくり観察しましたが
RAV-FOURはショーモデルらしい演出を差し引いても生産型と良く似ており、
逆に生産型はショーモデルの魅力を残していると感じました。
一方で内装はショーモデルと生産型では全く違うテイストです。
生産型がCDラジカセをイメージした
センタークラスターを採用している他は、
スターレットや旧コロナ、カローラの流用部品でお金を使わずに作った
チープな内装ですが、ショーモデルは現実味がありながら
クロカンらしい非日常間を演出するような違いがあります。
ステアリングやシフトノブ、などに専用デザインが採用されて
生産型よりもスポーティでホールド性の高いシートと合わせて
アクティブな雰囲気でまとめられています。
(間欠時間調整式ワイパーは羨ましい限りです)
メーターフードには左にハザードスイッチ、
右にデフロックスイッチを装備され、
スピードメーターにはデフロック作動灯が備わります。
また生産型には無い車高調整装置のインジケーターがあり、
カリブのシステムが移植されていると思われます。
悪路で手荷物が落下しないように助手席のトレイ部にネットが装備され、
敢えてアナログ時計を置くなど
細かい演出がワクワク感を後押ししていました
すべて本によると、チーフエンジニアはオフロードバイクが趣味で
そういう楽しい雰囲気を自動車に投影した結果が
サンドバギーをイメージしたRAV-FOURとなり、
エンジニアリング的にはモノコックで副変速機を持たず、
4輪独立懸架のM151型ジープをお手本にしたとされています。
RAV-FOURと較べると生産型のRAV4は随分と乗用車寄りになったものの、
元々パッケージが持つ健全さ、部分的にショーモデルの良さを残しました。
販売戦略でも当時人気急上昇の木村拓哉氏を
前面に押し出したCFシリーズで大ヒットを記録しました。
ちょうど良いところにベンチがあり、
本当に細部までじっくりとなめる様に見てしまいました。
●トヨタセラ(1989年)
1987年のモーターショーにて参考出品されたAXV-IIの市販型として
あまりにも有名なのがトヨタセラです。
会場の中央の特設ステージで
魅力一杯のバタフライドアを羽ばたかせていました。
(モーターショー出品時のディスプレイを再現しています。)
もはや私から何かをコメントする必要が無いくらい有名な車ですが、
私が子供の頃はたまに見かける変わった車、位の認識しかありませんでした
当時読んでいた雑誌の新車登録台数のページでも常に最下位を争う
不人気車のエリートのような車でもあったのです。
人と違うものが欲しいという80年代的価値観と
イケイケムードのバブル的価値観がセラを生んだのですが、
当時のトヨタらしく、真面目に纏め上げましたが、
程々の動力性能でお洒落に乗るセラのコンセプトは
あまり理解されなかったように思います。
展示車のセラはマイナーチェンジ後ですが、
あまりの不人気でマイナーチェンジでもほとんど
見た目が変わらず放置の様相を呈していましたが、
カーマニア的には見た目が変わらなかったことで
ファンが前期でも後期でも
等しく手を出すことが出来る点はむしろ評価できます。
ツルンとした曲面スタイルは水滴の様にスポーティですから
何やら走りそうな雰囲気を出している割に大容量エアコンと
バラフライドア、グラスルーフが相まって動力性能に余裕が無い点が
少々のアンマッチを感じさせます。
当時のビデオカタログで開発の状況を見たことがありますが、
真冬に氷が張った状態でドアを開けてもドアが開けられ、
氷が室内に入り込まないように確認したり、
高温状態でも低温状態でもキチンとドアが開くことを確認していました。
そういう真面目な部分も含めてセラの魅力と言えるでしょう
ちょっと面白いと思ったのはRrのガラスハッチを
車体と接続するロックが左右に一ずつ設定されていることです。
もしかすると車体がよじれた際にシールアウト
(ウェザーとガラスハッチが浮いてしまう)
するような不具合対策かもしれません。
●トヨタ MRJ (1995年)
ミッドシップながら4人乗り、電動メタルトップを備えたコンセプトカー
1989年に2代目MR2がデビューして6年、
トヨタはミッドシップスポーツの未来を模索し始めます。
当時のマガジンX誌ではMR2ベースでロングホイールベース版の試作車が
撮影されており、MR4などと呼ばれていましたが、
このMRJはホイールベースをMR車としては異例に長く採って
ピーキーな挙動をマイルドに抑えつつ、
方便としての後席を追加した2+2モデルです。
2代目MR2がフェラーリルックで2000ccターボを搭載して
リアルスポーツ方面にポジショニングさせた事に対し、
運動性とボデー剛性に不利な電動ルーフのオープンスタイルを採った事は
当時の小型スポーツカー市場で世界的ヒットを記録した
ユーノスロードスターの存在が無視できなかったのでしょう。
(1800cc自然吸気の170psエンジンも
4A-GEベースでロードスターを意識してそう)
丸っこいエクステリアは欧州デザイン拠点のEPOC製。
ロングホイールベースによって間延びしがちな
Frドア後見切りラインから後輪までを
エンブレムと横長エアダクトで緩和するあたりも
EPOCのデザイナーが良い仕事をしていますね。
下手すると生産型(MR-S)よりも良いかもしれません。
内装は2000年頃の新世代トヨタを予感させる曲線と
色彩のテイストは間違いなく当時のトヨタらしいもので
従来の黒一色の旧態依然としたスポーツカーらしさではなく
明るく楽しげな新時代スポーツカーのイメージを打ち出していました。
小型のタコメーターは最後のタコIIの1.5L用か
コースター用を持ってきたのかな?などと勘ぐってみたり。
センターコンソール手前の一等地に
小さいながらも灰皿がキチンと配置されているのも時代ですね。
実際の生産型であるMR-Sは、
ロングホイールベースとオープンボディを継承しながら
プアマンズボクスター的なキャラクターに
収斂して行った事はまだ記憶に新しいです。
生産型のロングホイールベース+オープン+自然吸気の
方向性を決定付けたMRJは重要なショーモデルです。
●トヨタモーグル(1995年)
急斜面でも走行できるアクティブサスペンションを搭載した実験車
当時のトヨタは自然環境保護活動の一環で
トヨタの森という森を保有していましたので
その一環で森林管理に使えそうなコミューターを開発し、
参考出品していました。
モーグルという名の小型トラックは
油圧アクティブサスペンションを採用することで
森林の斜面を車両側で平坦に均して走行できるという
人体拡張型のコンセプトカーです。
1500ccのOHCエンジンを積みますが、駆動は油圧式モーター。
恐らく油圧を生むためにある程度の排気量を持つE/Gが
必要だったのだと想像します。
気分的にはフォークリフトなのかもしれません。
私は普段乗っている乗用車で斜面にある駐車場に停めた際、
ドアを開けるのが酷く大変だったり、ものすごい斜面でシートベルトを
外しにくく凄い角度だ!と思い、車を降りてみると
大した事無かった経験があります。
外から見るより人は斜面の影響を感じているようですがモーグルなら、
上記不安を解消しつつ徒歩よりも楽に森林維持活動が営めます。
面白いのは斜面を下る際に微妙なアクセルワークも
ブレーキも要せず斜面を安定して降りる機能が備わっています。
この機能は2005年のRAV4で採用された
ダウンヒルアシストそのものと言えそうです。
●トヨタe-com(1997年)
実証実験にも用いられた軽自動車枠のEVコミューター
初代プリウスが発表された1997年秋のモーターショーで展示された
e-comは近距離コミューターとしてのEVの提案でした。
このこと自体は使い古された面白くも無いコンセプトなのですが、
新しかったことはこの車を一定数生産し、
カーシェアリングの社会実験に活用した点です。
展示車のe-comはショーモデルですが、
後の一般供用を見据えて現実味が高められました。
ライトエースノアに採用されていたイージーコラムシフトや
ワイパーのエンドキャップやお馴染みの
イグニッションキーなどに現実味を感じます。
私はショーモデル時代から内装など各部が異なるタイプのe-comには
メガウェブで乗せてもらったことがあります。
自動運転されるe-comに乗せてもらった記憶がありますが、
遊園地の乗り物の様にゆーっくり走り、カクカク動くステアリングをみて
「凄い時代になったなと感心したものです」
現在でもHa:moというEVシェアリングの社会実験が行われていますが、
供用されるコムスは自動車と呼べるレベルの快適性を持っていません。
それより20年前のe-comは良い意味で自動車らしく、
悪い意味では思いきれていないEVコミューターと言えますね。
近距離の用事を済ますためのレベルで
どれくらいの快適性を与えるべきかは永遠のテーマなのかもしれません。
●まとめ
新型コロナウイルスによる混乱で
企画展の開始が遅れてしまいましたが、
待つ価値のある素晴らしい展示内容でした。
お祭りを彩る車たちが集まったこともあって華やかな雰囲気は
私たちの心を明るく前向きな方向に方向付けてくれるようでした。
会場BGMも明らかに当時を意識した懐かしい曲が
たくさんかかっておりましたが、
妻からの「RAV4に入ってるCDと一緒じゃん」
と笑いながら指摘されました。
私のRAV4は90年代へのタイムスリップ用でもあるので
それは当然と言えば当然です。
今回の企画展は単純に楽しもうと思えば楽しめますし、
ねっとりじっくり車を見ていくとショーモデルならではの
市販車の予告編デザイン、予告編技術が隠されており、
それらを探していく事も発表から
30年経った私たちだからこその楽しみ方なのだと思います。
これらのコンセプトカーのほとんどは床下を見ても
本当に走れそうな状態で作られていました。
ある程度のリアリティも与えられており、
市販車の流用部品を巧みに使ってリアリティが出ていました。
就職してから、東京モーターショーに複数回見に行きましたが、
コンセプトカー達の立ち位置が変わってしまったのか、
ショー栄えする観音開きで、スマホみたいな見た目で
4輪操舵のEVみたいなのばっかりになって
全然楽しめなくなってきてしまった感があります。
(テンションが上がったのはS-FR位でしょうか)
昨年のモーターショーも行きましたが、トヨタのコンセプトカーは
ハリボテだらけで全く楽しめませんし、記憶にも残りませんでした。
どうせ走らなくともホンダの不夜城くらいアクが強ければいいのですが。
実際に走れて近日発売の技術も予告するような
私たち自動車ファンがワクワクするような
ショーモデルがもっと増えることを期待してしまいます。
30年前のショーモデルでもこんなにワクワクするわけですから。
長々書いてしまいましたが、見ごたえのある企画展でしたので、
皆さんも、是非足を運んでみてください。オススメです。
長文お疲れ様でした。