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2024年05月28日

2016年式アストンマーティンV8ヴァンテージN430感想文

2016年式アストンマーティンV8ヴァンテージN430感想文
レビュー情報
メーカー/モデル名 アストンマーティン / V8ヴァンテージ クーペ V8ヴァンテージN430 クーペ (2014年)
乗車人数 2人
使用目的 その他
乗車形式 その他
総合評価
おすすめ度
4
満足している点 1.やり過ぎない妖艶なスタイル
2.V型8気筒4.7Litreの雄叫び
3.普段使いでも苦にならない乗り心地
4.高速走行時の風切音
5.ワインディングでの軽快な身のこなし

一歩引いた控えめな性格なのに実力は折り紙付き。こういうキャラクターは好き。
不満な点 1.高性能すぎて高速道路が退屈
2.発進時に気を遣うクラッチ
3.ガラ音が目立つ
4.たった3時間で40Lを燃やしてしまう中毒性
5.電子キーを落として壊すと15万円

ここに上げた欠点は決して致命的なものではなくこの車を買える人なら気にするほどのことはないのだろうと思う。
総評 ●普段使い出来るレーシングカー

遠方に住んでいる友人のカーガイからLINEがあった。気になっていた車を見てきた、と。

彼の「俺にはまだ早いかなぁ」というある種の自制心を受けて私は「体力ある内にV8後輪駆動マニュアル車を知っておいた方が良いんじゃ無いですか?」「歳取った後の方がサマになるけどその能力を引き出す体力が無かったりタマが無いかも知れないですよ!」「まぁでも判断難しいよね・・・」と私見を述べたのだが、彼の契約駐車場には高貴でありながら男臭いクーペがついに納車されたのである。

今回の主役アストンマーティンV8ヴァンテージN430を解説する前に、簡単にアストンマーティンとは何なのかWikipediaで調べておいた。

アストンマーティンは1913年に英国で設立された高級スポーツカーブランドである。創設者は、「ロバート・バムフォード」と「ライオネル・マーティン」でレーサーだった「ルイス・ズボロフスキー伯爵」の援助で「バムフォード・アンド・マーティン」を設立した。

二人は(富士モータースポーツミュージアムに展示されている)イソッタ・フラスキーニをベースにしたチューニングカーを製作したという。

1915年に制作したレースカーが「アストン・クリントン」という村で行われたレースでマーティンが成功を収めたので「アストン・マーティン」というブランド名となった。(バムフォードは・・・?)

1925年にはズボロフスキー伯爵がレース中に事故死してしまった。結果、アストン・マーティン社は倒産の憂き目に遭いマーティンは会社を去ることになった。

その後複数の経営者によってブランドが維持されてきたが、今のブランドイメージに影響を影響を与えたのは1947年に実業家「デイヴィッド・ブラウン」傘下となり、モータースポーツで活躍し、1960年代のDB5が007シリーズのボンドカーに採用されて広くアストンマーティンブランドが拡がった時代だ。有名なモデル名「DB」とはデイビッド・ブラウンのイニシャルである。

ところが、1967年のDBSを最後に1970年代にデイビッド・ブラウンは経営権を手放し、「DB」は「V8」に改名された。1977年に発売されたV8の高性能版はヴァンテージと命名され英国初のスーパーカーとなっている。

以後、1990年以降はフォード傘下となり2007年には投資家グループに売却され、2023年には中国資本も入って現在に至っている。元々が高級スポーツカーブランドゆえに、投機対象としても人気が高く出荷された台数の9割が実動車として現存しているいう。




今回試乗したのは板東英二・・・ではなくヴァンテージである。正式名称V8ヴァンテージは2005年、フォード時代に開発されて世に出たブランドの中では小型の2人乗りスポーツクーペだ。その中でもN430は「西部警察」で活躍したパトカーとは関係なく、V8ヴァンテージの高性能モデルでNは「ニュル」、430は英国馬力430HPに由来する。

つまり、V8ヴァンテージの中でも高性能なE/Gを積み、そのままでもサーキットを走れるファインチューンを施したのがN430というわけだ。

更に言及すると2016年には自社製E/GではなくメルセデスAMG製E/Gの供給を受けると決まったため、2016年式の試乗車は最後の純アストンマーティン製E/Gのマニュアル車となる。最後のナントカと言うのは不思議と魅力的な響きがある。私の周囲のマニアなら「最後のペリメターフレームの・・・」とか「荻窪で開発された最後の・・・」とかそういうものを魅力的に感じる人は多いはずだ。



V8ヴァンテージは今までのアストンマーティンよりもやや低い価格帯(と言っても1500万円クラス)ながら、廉価モデル扱いではなく充分に本格的な2座クーペである。

ボディサイズは全長とホイールベースだけならCT200hと同等。車幅は現行型NX350hと簡単にイメージし易いだろうか。



同時代のV8を積んだスポーツカー達と較べると少々ヘビーなのが特徴的である。


デザイン的にも伝統的なアストンマーティンのアイコンを残しつつも、プロポーションの良さを活かした彫刻的に美しいフォルムを身に纏う。

走らせてみると発進時のクラッチミートに気を遣う以外は、近所のAEONにも行けそうな扱いやすさを持っている。決して気難しさをもウリにしているのではなくフレンドリーだが、本領を発揮するのは無論サーキットやハイウェイである。乾いたV8のサウンドを楽しみながら何処までも加速していく。

V8ヴァンテージN430に乗ってみると、何か特別に奇を衒っている訳ではないのにあらゆるシーンで自信が漲る感覚を覚えた。デザイン的なトリックに頼らないエクステリア。丁寧にしつらえられた内装トリム。そして乾いた咆吼と共にどこからでもトルクが湧き上がる大排気量のV8E/G。



過酷な走りに応えるための機能を持ちながら、大切な人を助手席に乗せてゆったりと都市を流してもサマになる。この多彩な才能をひけらかさないのに余すところなく発揮するところがアストンマーティンらしい高級スポーツカーの姿なのだろう。

ハンサムで頭脳明晰、さらに少々荒っぽいこともこなせるセクシーな銀幕の007の様な車、というのが薄っぺらい私の感想だ。どことなくマスキュリンな薫りが漂うのも特徴で妖艶なラテン系スーパーカーとここが最も違う。

なんともそのまんまの感想で気恥ずかしいのだが、推敲を重ねても結局これが分かり易いのでそのまま書いた。

一生のうちでまさかアストンマーティンに思い切り乗せて貰える機会が車とは思わなんだが、長生きしてみるものだ。

私が満足いくまでとことん乗せてくれたオーナーのカーガイに感謝。

項目別評価
デザイン
☆☆☆☆☆ 5
歴代のアストンマーティンを見ていると、例えばボンドカーで有名なDB5は繊細さを持った優雅でミステリアスなデザイン、初代のV8ヴァンテージは英国初のスーパーカーという名にふさわしい男臭さを持っていた。

試乗したヴァンテージも436PSの最高出力で305km/hを出せる強烈なパフォーマンスを持ちながらも、エクステリアは高貴という言葉が相応しい洗練された意匠で、例えば艶めかしさ、或いは奇を衒うことで見る人を圧倒する為だけのスタイルとは一線を画している。

モスグリーンとは違うメタリックで微妙なニュアンスのグリーンはアロッローグリーンと言うそうだ。真っ赤やボンドカーっぽい銀も良いが英国車なら緑を選んでみたい。そこをいかにもなグリーンではなく蛍石の様な地味でちょっとくすんだニュアンスカラーというのがまた私の好みだ。デザインが優れていてもあくまでもひけらかさない。



ボディ構造はVHプラットフォームと呼ばれるバスタブ型のアルミシャシーにアルミ押し出し材やマグネシウム製の骨格を接着し外殻が組み合わされるというものだ。ドア内部はマグネシウム、Rrコンビランプ付近はカーボンを採用するなどマルチマテリアル・ボディである。何となくこれはカーガイの前所有車のロータス・エリーゼとも近い思想のボディ構造で私は調べていくうちに開発にロータスが関与していたという情報にも触れた。ロータスもそうだが彼らイギリスの伝統的なスポーツカーブランド達は内外装の機能部品、時にはE/Gですら他社の流用品を使う彼等だが、ボディ構造にはこだわる傾向があるらしい。



エクステリアデザインは各パーツのバランスは美しく、駆動力が発揮される後輪周りの緊張感は陸上選手の太腿のようにも見える。えぐい形状的処理やキャラクターラインに頼ることなく光の反射や比で美しさを表現しているのは気品がある。ただ、それだけだと無国籍というかレースゲームの架空の車の様にカッコいいけど味気ない車になってしまう。



スッキリした見た目でありながら、ラジエーターグリル、フェンダーサイドの熱気抜きなどアストンマーティンのMUSTを守ることでDB7以降守られてきたアストンマーティンらしい伝統と彫刻的なプロポーションが相乗効果を発揮していると思う。どこからみても美しいが、特にリアは私の好みだ。



インテリアはスポーティな本革のフルバケットシートに太めのグリップの3本スポークステアリング、センタークラスターはカーボンパターンで空調はダイヤル式、インフォテイメントは懐かしいポップアップ式だ。



2005年デビューという事情もあり、フル液晶メーターや大画面のディスプレイやEPBも無いのだが、内装トリムは全て丁寧に革やスエードで縫い合わされている。しかもそのステッチが美しく表皮のヨタリも全く感じさせない。量産車ならインジェクション成型でバコンでお仕舞いのところを、わざわざ柔らかい布を慎重に縫い合わせて包み込まれている。うっかり靴の先で傷をつけてしまうこともはばかられる。また、スエード生地が太陽光の反射で眩惑されない様にメーターバイザーに設定されているのは機能的にも優れている。



最新の車と比べるとコネクテッド系の装備に差があるものの、二人のための快適な空間と運転に必要なものは全て揃っている。そしてサンバイザーを使うだけで、或いは給油口を開けるだけで分かる細部へのクラフトマンシップは高級スポーツカーらしい。これなら魅力がパッセンジャーにも充分伝わるだろう。

想像力の乏しい私がこのデザインを表現するならミケランジェロのダビデ像がビシッとスーツを身につけた美しい肉体と端正さを兼ね備えた様に感じる。
走行性能
☆☆☆☆☆ 4
運転席に座る。シフトを確認し、ブレーキとクラッチペダルを踏みながらセンタークラスターのスリットに電子キーを差し込む。キーはクリスタルガラス製で奥にアストンマーティンのロゴが入っている。落として割ってしまうと15万円ほどすると聞いて緊張しながら電子キーをスリットに奥まで押し込んだ。押し込むとセルが回るのだが、ビビって直ぐに離すとE/Gは始動してくれない。IG-ON判定でセルを回しきるトヨタ車とは違い、しっかり押し続けないと4.7Lという大排気量のE/Gは目を覚まさない。アストンマーティンは私に覚悟を求めてくるかの様だ。




改めて押し込むとキー周辺が赤く光りセルがしっかりと回って始動する。ドロドロとした音質のE/GはV型8気筒らしいものだ。

少し重めなクラッチペダルを踏むとシングルプレートφ267mmのクラッチが切れ、1速を選択した。シフトフィールは意外とフツーでFR的なダイレクト感の強さがないのはヴァンテージがトランスアクスルレイアウトでFFの様なリモートコントロール式だからだと思われる。

E/Gからプロペラシャフトを介してRr側に搭載されたT/Mを操作するので少々操作系統が長いのだろう。ワイヤー式を改めてリンケージの精度良く作ったところでテコの原理でガタが増幅されるためFFやFRには敵わない。むしろ、フツーのフィーリングが実現出来ているだけでもさすがと言わねばならないのだろう。

初代エスティマと同じ運転席右側にあるPKBレバーは驚くほどワークスペースがない。乗降の邪魔にならない様にPKB作動中もレバーが下に降りる様になっている。解除する場合はボタンを押しながら少し引き上げて下ろせば良い。



恐る恐るクラッチミートをするが、少々気を遣うフィーリングで油断するとエンストが待っている。低速トルクが豊富なはずの大排気量E/Gなのに意外だ。ちなみにリバースは1速よりもハイギアードな為、更なる繊細さが求められることを付け加えたい。

エンストした場合は、クラッチとブレーキを踏んだままセンタークラスターの電子キーを一度抜いてもう一度差し込むと再始動できる。

再始動後、発進させると低速でガラ音の発生が認められた。ガラ音とは、トルクがかかっているかいないか微妙な領域(正負のトルク変動がある)でギアのガタ(バックラッシ)により歯打ち音がガラガラと聞こえる現象である。



市街地走行レベルだと2速か3速で充分で、4.7LもあるE/Gのお陰でどのギアでも充分パワーが発揮される。大排気量マニュアル車の運転はつまらないのか?と思われがちだが日常的な市街地でも充分扱えるドライバビリティがある。どこからでも交通の流れに乗れるから、思いのほかイージーだ。

ヴァンテージの街乗り性能は、ドライバーを煩わせる事の無いレベルだと感じる。乗り心地は我が家のデミオの突き上げ感に近いレベルで、オーナー曰く「アルピーヌA110よりは悪い」というコメントに納得感がある。それでもパワステの重さも普段油圧式パワーステアリングのRAV4に乗っていれば気になるレベルではなく、充分に日常使い出来る範囲内に留められている。一番厄介なのは発進時の繊細さくらいである。もっともEPSの軽自動車にしか乗ったことがない腕力に自信の無い人には相当スパルタンなモデルに感じるだろう。

30分ほど市街地走行を行った後は最も速度の出せる高速道路に向かう。

ランプウェイからの加速でもう異次元の世界に突入する。巨大なV8がノーズに収まっている割にフロントヘビーさを感じさせず旋回でき、立ち上がりの強い加速Gのなかでも身体はフルバケットシートでガッチリホールドされながら、野太く乾いたサウンドでキャビンが満たされて高揚感がある。

V型8気筒4735cc、オールアルミ製のボアスト91mmのスクエアE/Gは3500rpmを境にトルクがモリモリと湧き上がる。市街地走行では充分なトルクがあると思ったのに、ヴァンテージの本番は3500rpm以降だったのである。実は可変バルブ付きマフラーも4000rpm以上では開いて背圧を下げて更にパワーが上がっていく。自然吸気なので高回転まで自然なトルクの立ち上がりが10W-60という堅い指定オイルの撹拌抵抗に打ち勝って7300rpm程度まで続く。



最高出力が436ps@7300rpm、最大トルク50.0kgm/5000rpmという自分史上で最もパワフルな車だ。私の4A-GEと同じような官能的にレッドゾーンまで吹けきる快楽を桁違いのスケールで実現しているのがヴァンテージである。ゼロ発進で1速7000rpm時70km/h、2速6000rpmで100km/hに達するのだが、そこまでに要する時間は4.8秒。レブらないようにメーター中央の液晶にシフトアップインジケータが付いている。

ヴァンテージのメーターは特殊な動きをする。速度計は時計回りだが、タコメーターは半時計回りに動くのだ。6速でクルージングしているときの回転数は計算上2475rpmだが、メーター読みでは2250rpm程度を刻む。丁度メーターの中心の線対称になる様な文字盤のレイアウトになっており、偶然ではない意図した調和が楽しめる。参考までに120km/hで2970rpm、130km/hで3218rpmなので高速道路を淡々と走っているときもE/Gノイズが気になるような回転数には入らない。



加速を終えて定常走行するヴァンテージは快適そのもの。路面の凹凸や橋の継ぎ目を超えても目線がブレる事無くショックをいなしてくれる。ミシュランパイロットスポーツ4(前:235/40ZR19 後:285/35ZR19)という薄く硬いタイヤを履いていてもこれなのだからレベルが高い。ハードな走りを求めてロールを減らしたくても、車高が低いのでいたずらにバネを固めなくて良いという事情もあるだろうが、ボディ構造の接着剤の持つ減衰作用やシートのクッション性が良く、スポーツとコンフォートの程良い塩梅は長年の経験に基づくレシピがあるのだろう。

高速域でのヴァンテージは意外と静かに感じる。定常運転ではE/G音も一定で騒がしくなく、風切り音も小さく、ドアや各部から負圧で吸い出されるようなリーク音も聞こえない。フロアやダッシュから入ってくる騒音は無いとは言わないが指摘したくなるレベルを下回っている。この辺りが親しみやすいライトウェイトスポーツとの違いではないだろうか。聞こえて欲しい音が聞こえて聞こえて欲しくない音は減らす。これがやれていて格の違いを感じる。それでいて本来、NV対策が難しいサッシュレスのドアガラスは板厚が4ミリ程度。一般的な大衆的乗用車レベルの板厚で済ましているのに不快ではない。

しばらく注意深く観察すると風切り音はゼロではなく、実際には風切り音が出ているが、その発音レベルに変動感がないので気にならないのである。外形が悪く、渦が出来て車体にぶつかり、離れる、を繰り返すと音が大きくなったり小さくなったりを周期的に繰り返すことになる。ヴァンテージは建付けレベルが良く、更にスッキリした外形で空力特性が良いから気流が剥離しにくいのだろう。かつて大衆車の世界では造りの悪さが指摘されがちだった英国車だが、アストンマーティンの領域だとさすが!というほかない。

6速に入れておけば大抵の高速道路なら安心してクルーズが可能だが、寧ろ退屈に感じてしまうかも知れない。アストンマーティンV8ヴァンテージN430はサーキットはオーナーが望めばレースにだって出られる性能を持っている。取扱説明書の中にも「本車両は高性能車であり、(中略)経験の浅いドライバーはこの車両を運転しないでください」とまで明記されている。



最高速度は305km/h。100km/h巡航から高回転のパワーバンドを繋ぐ様にシフトアップを繰り返せば、およそ13秒もあれば200km/hに達するだろう。200km/hはただの到達点に過ぎないが。

これならアウトバーンの追い越し車線を思うがままに堪能できることは間違いなさそうだ。計算上、最高速度は6速7540rpmで発揮されるという。閉鎖された直線が続く海底トンネルの様な場所ならその速度を確かめることが出来るだろう。
乗り心地
☆☆☆☆☆ 4
(走行性能の続き)

次に向かった先は私のお気に入りのワインディング路である。川沿いから段々と坂道を上り始め、長いトンネルを抜けると一気に景色が変わってくる。

交通量が殆どゼロだったのですかさず私はハイビームに切り替える。Lo:ディスチャージ Hi:ハロゲンという懐かしい構成のヘッドランプは当時としては常識的なものでその境目ではハッキリと色が違うのも面白い。

前述の通り車幅は1865mmあるのでテストコースでは少し慎重に走らないとキャッツアイを踏みそうになる。3ナンバー車はライン取りの自由度が小さくなる点がデメリットだが、意外なのはヴァンテージはデカイものを振り回す感覚が小さいことだ。

コーナーでV8E/Gがノーズにあると思えないほど鼻先がインを向いてくれるのは、巨大なV8E/Gがダッシュパネルギリギリまで迫ってきていて重心に近づけられ、ドライサンプにすることでオイルパン分E/Gを低く搭載出来ている効果が出ていると思われる。3→2ダウンシフトをしながら進入するヘアピンカーブなどではタイヤの性能により横Gが高く出るシーンもあるが、ステアリングを持ち替えずにクリアするスラローム的コーナーの身のこなしは軽い。

車幅が狭くてライン取りが自由なテンロク並みにとまでは言わないが国産スペシャルティ的な身のこなしで想像よりも軽々とコーナーを抜けていくのは驚いた。時々タイヤが太い分轍にステアリングが取られるが保舵するとそのまま走り抜けていくので問題は無い。



300km/hを超える超高速域まで性能が確保されていながら、ワインディングでも楽しさが保たれている。法規がなく、私の腕がもっと良ければ道路幅を目一杯使ってレースの様な走りもこなせるのだろうが、この日は双方の折り合いが付く範囲内で楽しんだが、それでも楽しい。

舵が一発で決まるし動力性能・レスポンスも申し分ない。この身軽さは49:51という前後重量配分の良さから来ているのではないかと感じた。その秘密は巨大なV8の後方に本来来るはずのT/Mがないトランスアクスルレイアウトの恩恵だと思われる。このレイアウトは2名乗りだからこそ実現しうるレイアウトでスケベ根性を出して2+2にしてしまうとRr席のスペース、ラゲージスペースが割を食ってしまうだろう。

この手の走りをする時、クルマ側の曖昧さを切り詰めるためにドライバーはレベルの高い正確な操作やガタ、応答遅れを見越して早めに操作を仕掛けていくなど腕でクルマを補う必要がある。誤解を招くかも知れないが、アストンマーティンは全てにおいてレベルが高いので、前述の普通のクルマと同じペースで走るならば遥かにリラックスしながら運転そのものを楽しむ事ができる。調子に乗ってアクセルを踏みすぎなければライトウェイトスポーツカーサーキットを見据えた安全余裕度の差が、格の違いだ。

自分なりにヒールアンドトウを駆使してリズミカルに駆け抜けるが少しも怖いと思う要素がない。436psのパワーを受け止めるスリット入りディスクブレーキは社外のパッドが着いているのだとか。後からロードスターに付かれたので道を譲ったが、水を得た魚がみるみる消えていく。彼等のホームグランドは間違いなくここ(ワインディング路)なのである。

同じ道をR32型スカイラインGTS-tで同じコースを走ったと話すと、「比較してどうですか?」とオーナーに訊かれたので「走れる速さは私の腕の問題で同程度。その中で気持ちよく性能を使い切れるのはR32かな。」と答えた。

実際、このコースは120psのカローラなら十分使いきれるし、ターボがついた215psのスカイラインになると、このコースを走る上ではマシンの性能を何とか使い切っている感覚が心地よい。確かにヴァンテージと比べるとボディ剛性の差で撓む感覚を感じるが、それも含めてこのコースには丁度良い。

ヴァンテージの伸びの良い加速や直進安定性と両立したコーナリング時の鼻先の軽さとどっしりしたスタビリティは峠道よりサーキットでこそ適度ないい汗がかけることが容易に想像できる。この個体の初代オーナーは西日本在住のアストンマーティンファンであり、サーキット走行を楽しむためにV8ヴァンテージN430を購入したという。実際、N430はサーキット走行を主眼に置いたチューニング方向と言うことだが長距離ツーリングや旅先のワインディング路など十二分に楽しめる実力を持っている。

サーキットで本格的な走りをした後、そのまま運転して自宅まで優雅にクルージングが出来るクルマはそう多くない。

積載性
☆☆☆☆☆ 3
2ドアクーペの居住性をどれくらい求めるのかは難しい問題だ。ピュアなミッドシップスポーツの様にE/Gを中心に置くためにドライバーを極力前に座らせたいわけではなく、大きなV8をフロントに積むFR高級スポーツクーペである。

比較的ドライバー中心なパッケージングが取られている。ヘッドルーム長が933mm、レッグルームは1086mmと十分な値である。ただ、私の足がもっと長ければシートを後ろに引けて綺麗に手足を投げ出し、Aピラーから頭部が十分離れるのだがドラポジ的には私の身長(165cm)がギリギリ収まっている。足元スペースもトランスアクスルのおかげで、左脚を圧迫するベルハウジングが無い。タイトなペダルレイアウトにならずに済んでいる。



ちゃんとRHD車が尊重されて日本が英国と同じ左側通行で良かったなと思う。

全面じゅうたんが敷き詰められたラゲージは239L。バックドアを持つハッチバックボディの割に容量が小さいが、燃料タンクやT/Mを避けた張り出しがある。



イマドキこんな張り出しはFCV位しか見かけないレベルなのだが、開口部は広くゴルフバッグやスーツケースなどなら問題なく積み込めそうである。

バックドアに付いている乳白色の取っ手に注目した。これは万が一人がラゲージルームに閉じ込められたとき緊急脱出が可能になるハンドルにつながっている。

樹脂が乳白色なのは蓄光性があり暗いラゲージの中で光らせる為である。過去に子供がラゲージに閉じ込められた事故の再発防止のために主に北米で装着が義務づけられている。



日本でお目にかからないのは法規がないからで、普通のメーカーなら法規に無ければ廃止して少しでも粗利を稼ごうという考え方になるところ、アストンマーティンは敢えて血眼になって排しないのは決して進んだ安全意識を持っているからという訳ではなく、少量生産の規模ゆえに部品種類を増やして組み合わせ数を増やすより、世界の法規を包括するようなシンプルな仕様にした方がソフト面ハード面共に経済的だと考えてた結果だと思われる。
価格
☆☆☆☆☆無評価
2016年式V8ヴァンテージN430の新車当時の価格は1561.8万円だそうだ。同時代のセンチュリーは5.0リッターV12で1277万円だったらしいのでそれよりも高い。

3.8リッターV6ターボで4輪を駆動するGT-R NISMOは1544.4万円と近い価格である。3リッターB6ターボ911カレラSは1519万円と近接している。

総額1600万円程度の予算でスポーツカーを買うなら、速さだけならGT-Rが、分かりやすさだけなら911があるのに、V8が楽しめるとは言えども比較的地味なアストンマーティンを選ぶのはもうマニアックと言うほか無い。このくらいの予算があれば心からのエゴイズムを自動車にぶつけることが可能なんだなぁとしみじみと思った。

一般的なサラリーマンの私の年収を遙かに超えた価格の高級スポーツカーだが、確かにこの領域では2ドアパーソナルカーとしてある程度のオールマイティさを楽しみながら、伝統とセンスに基づいた周囲からの羨望をも同時に集めることが出来る。

この車がお買い得かどうかはその議論がナンセンスなため評価対象外とした。
その他
故障経験 オーナー曰く、このモデルは目立ったウイークポイントが無いとのことである。

唯一の弱点は7速セミオートマ(シングルクラッチのロボタイズドMT)のクラッチが逝き易いという事くらいなのだそうだ。試乗車は6速MTのためさらに信頼性が高いことになるが整備代金はそれなりにかかる事だろう。
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Posted at 2024/05/28 23:37:11

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この記事へのコメント

2024年5月29日 20:01
某カー〇ラ〇ィック誌ですら書いていないレポート、興味深く読みました。

ジェームズ・ボンドの片手運転前提と思い込んでいたので(笑)こんな新しめの世代にもMT車があったのは意外でした。
「不満な点」に書かれたことは私も欠点にはならないと思います。
そんなこと言うんなら、他を買えば良いし、何なら複数台所有するオーナーが多いのでしょうし。

レポートからは完成度の高いクルマに見えます。
フォーマルから狂気の性能までイケるなんて、素敵…。
本個体のボディカラーも渋くてお洒落ですし。
こういう抑えの利いた落ち着きこそ、欧州車の大人びた姿だったように思うのですが、昨今のエグエグ&キラキラ路線ではもう望めないですね…。
日本車でもLFAやGT-Rを超える新しく大人の為のハイエンドが出てきて欲しいな、とも思います。良いんです、買えなくても。買える買えないなんて問題ではなく、そういう新しい時代の幕開けに立ち会いたいのです(LFAには感動しました)。

アストン、私も乗ってみたくなりましたが、これに似合うライフスタイルから手に入れなければならないような気がしますww
コメントへの返答
2024年5月30日 22:45
コメント有り難うございます。

実はカーグラ誌は一応、某資料室で探して読んでみました。意外と感想は近いものになるんですが彼等は海外の高速道路やサーキットを取材しているのでもっと色濃くV8ヴァンテージの世界を味わったのだろうなと思います。

個人的にはAA63カリーナやA175ランタボの様な硬派な味のクーペなんですが、それがとんでもなく洗練されている印象でした。

ボディカラーはセンスの塊で、安易にハッキリしたモスグリーンとか、N430の象徴的な黄色いアクセントを入れてしまいがちなのに敢えてのモノトーン。元オーナーはV12も持っていたとか(汗)

能ある鷹は爪を隠すとはよく言ったもので、敢えてオラオラと見せるつける様なエモーショナル路線が早く終わらないかなと願う日々です。LFAやGT-Rを超える存在・・・・何処かが出して欲しいですね。

アストンマーティン、気に入る人は多いと思います。バランスが取れているのに総合的に実力が高いというので「つまらない」と言える余地がありません。セカンドカーに是非!(無責任)
2024年5月29日 22:17
↑の学芸員と私が崇拝して止まない福野礼一郎氏がかつてヴァンテージの登場時、
「大衆メーカーのジャガーから出たXKが800万もするのに、王様アストンが1400万だなんて安過ぎる!」
などと絶賛してたヴァンテージ。

サーキットも攻めれるスペックを持ちながらも
あくまでジェントルな佇まい。
いまの姿と値段だけ立派なスーパーカーとは違いますね。

コメントへの返答
2024年5月30日 22:49
コメント有り難うございます。

福野さん、そんなにこの車を買っていらっしゃったんですね。800万円のジャガーでも充分高いので何とも・・・ですが高価格帯は何とか富裕層のお陰でスーパーカーの類いは残っていますが、気筒数削減とか他社との共用化など世知辛さが顕在化しつつあるのが辛いところです。

試乗車はエゴイスティックなところが良いです。

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