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2024年07月16日 イイね!

2020年式MIRAI感想文

2020年式MIRAI感想文●水素はすごくこれから人間を救っていく(笑)

我が国はエネルギー資源に乏しく、石油などを輸入に頼ってきた。今後環境負荷の小さいエネルギーを使わねばならない時代になっている。

そこに目をつけたのが水素である。自然界に水素は単体で存在しないが、プラントで作り出すことができて燃料のように扱うことができる。

トヨタは水素を使って電気を起こし、その電気を使って電気自動車を走らせるFCV(現在はFCEVと呼称)の開発を進めてきた。

2014年、研究開発が実を結びMIRAIを市販した。MC P/Fを改造した専用シャシーを開発し独特のプロポーションを纏って現われたMIRAIは、その存在だけでも独自性があった。

可燃性で分子量が小さくて、金属を脆くする性質を持った水素をボンベに詰めて、水素と大気中の酸素を反応させて電気を取り出して走り、排出するのは水だけという究極のエコカーとされている。

水素インフラが整っていない、という否定的な意見もあるが、航続距離が長く充填(じゅうてん)時間も3分程度とICEと遜色のない使用性は我々にとってはBEVよりも馴染みやすい素性を持っているのは確かだった。

ところが初代MIRAIが世界で大ヒットを記録したかと問われるとそうでは無い。前人未踏の水素を燃料にして電気で走るエコカーよりも、欧州や中国で政策的に推進されるBEVの方が普及した。

それもそのはずでBEVのエネルギー源の電気は既に産業的に発電する仕組みがあり、エネルギー補給に対してのハードルが低い。水素の場合、水素の供給網から準備せねばならず投資に二の足を踏むのだろう。また、先行するトヨタにわざわざニッチな市場で挑戦状を突きつけるような会社も限られており仲間作りに失敗した感がある。

初代MIRAIはモデルライフで1.1万台の販売に留まっているが、その理由は未知技術への忌避感、生産体制の問題など原因は一つだけではないだろう。2020年に2代目がデビューした際には彼らなりに初代の反省をしっかり活かしたものなった。



ちょっと変わったプロポーションなのは、FCスタックの上に座っているから、とか巨大な水素貯蔵タンクを持っているから、という理由があるのだが顧客側からすればそんなことは買う理由にならない。「たまたま欲しい車がMIRAIだった」と言って貰えるように商品力を磨く、という正論に至った。

個人的にはFCEVは長距離が得意な特性を活かして大型車や高級車に似合う技術だと思う。その意味でMIRAIの車格をHS級からLS・クラウン級にしたことは正しい。それにしても10年前のICE車がFMCなしで現役で売られている昨今、たった6年でALL NEWになるMIRAIはさすがに進化が速い。



期待を込めて走らせた結果は、おっとりしたBEVだ。BEVに慣れてきた私にとっては特筆すべき感動が有るわけでも無い。決して悪いわけではないが、良くも悪くも大きなトヨタ車だ。イマドキは「クラウンですね!」「レクサスだ!」とわざわざ注目する人も居ないが、MIRAIなら「水素自動車ですか!(間違い)」みたいなアイキャッチな感じはあるだろう。

しかし、実用車としてMIRAIを見てしまうと、デカいとか荷物が積めないとか、後席が狭苦しいとかそういうことが気になってくる。

2代目MIRAIが出たときにどうしてレクサスLSの兄弟車にしなかったのか。トヨタブランドよりレクサスブランドの方が売りやすいし、高い値付けも許容されただろうに・・・。中途半端な乗用車を普及させる前に実用性を突き詰めたり、高いブランドイメージを確立した方が良い。

MIRAIはいささか中途半端で価格やサイズは高級車でありながら、冷静に見つめていくとクラウン級と言うよりカムリ級の質感表現に留まる。

競合他社が見れば「0が一つ少ない」という価格でも、「エキセントリックで高額なのに普通の車」という評価に甘んじてしまうのは勿体ない。

例えばBEVの二大巨頭の一つTESLAの場合、「伝統」や「しがらみ」がない分商品は自由差を感じる。バカみたいな機能と競合が冷や汗をかくような高性能が同居する存在だ。手押し剛性とか建付けとかそういう部分は無茶苦茶、人間工学とか信頼性など過去の知見がない分、奇抜な機能を恐れもせず採用するので無鉄砲な商品に思えつつ、自動運転へのアプローチや航続距離の長さ、革新的な販売手法とギガキャストに代表される生産技術など意外と真面目なアプローチも行っているところが凄い。

そして世界中のエンジニアを雇用することで彼らの出身メーカーのノウハウがテスラに複合的に取り込まれていることも恐ろしい。こういう車は消費者から見て分かり易く、所有しているだけで一目置かれる感はある。富裕層はTESLAの先進性や分かりやすさを評価してブランドが伸びたのだと思う。一方、トヨタがMIRAIでTESLAをそのまま真似できるかと言えば到底できるものではない。

BEVですら今は富裕層向けのイメージ先行型商品なのに更に小型化も難しく価格も高くなるFCEVを普通の人に向けて出すというのは最初から困難な道を選びすぎなんじゃないか。

一応、一般ユーザーでは無く公用車や社用車として選んでもらおうと言うことで「エグゼクティブPKG」なる仕様があるが、そういうフォーマルな場に相応しくないエグ目の意匠だし、水素社会を実現したい日本の中で先に普及させて練習した方が良かったのでは無いか。税金を無駄遣いしてる感じがしないステルス性のあるトラディショナルなデザインの方が適していたと思う。

BEVが徐々に我が国でもよく見かけるようになりつつあるのにMIRAIの販売は右肩下がり。グローバルでの総販売台数は横ばいだが、確かにMIRAIは日本では選ばれにくい。MIRAIが買える収入のある日本の普通の人たちはそのお金があれば輸入車を買うだろう。


画像はここから拝借した。

トヨタはMIRAIをどうしたいのか、その意志を明確に感じさせないままではMIRAIの未来は明るくない。

2023年秋には往年の高級車のブランドを引用したクラウンFCEVがデビューし、大型化し、価格アップしながらも分かり易さのあるセグメンテーションはFCEV普及に多少は寄与するだろう。(ただ、相変わらず意匠はアレだし、内装質感もアレで後席居住性もアレだが)

中国がBEVを国の強い支援で普及させたことに倣い、我が国でも例えば公用車・社用車・タクシーなど国や行政で水素活用を支援するフォーマルな車で普及させても良いだろう。

そうであるのならミライだけでなく、FCEVのライトバンやパトカー、消防車など作って、一定数をそれに巻き替えることで地元の水素供給網を育てる事ができる。人々の暮らしの裏方で‘水素はすごくこれから人間を救っていく'だろう。或いはトヨタ関連企業だって工場の発電を水素で行うとかFCEVフォークリフト使うとかトヨタ輸送の車載トレーラをFCEVにするとかしなければならないが、いかんせんコストが過大である。

2023年秋にクラウンFCEVが出て、MIRAIの立ち位置は更にビミョーなものになった。ワンパターンなスポーツコンセプトなど出してる場合ではない。プリウスもHEVの普及を見届けて急にスペシャルティシフトしたがトヨタの商品企画上の癖なのだろうか。すぐエモーショナル(笑)なデザインとニュルに学んだテストコースで鍛えた操縦性で「豊田氏の愛車」になろうとする。

次期MIRAIがあるとするならばトヨペットマスターの様にクラウンの裏方に回って汎用性の高い実用的な車になるべきだ。まず、個人ユース以外でフリートユーザーに使ってもらい、台数を増やして徐々にインフラを整えないと本来のFCEVの個人ユーザーは増えないと私は思う。大柄で荷物も載らないMIRAIを営業車に使うなんて不便で仕方ない。

2代目MIRAIは、個性的だった先代と比べてもっと自動車らしくなったのは結構だ。しかし、自動車らしくなったがゆえ後席の狭苦しさはもはや許されない。上級グレードで800万円台後半の全長4.9mクラスの乗用車で不満な点が残るのは商品として厳しい。



家族には薦めないし、会社の同僚がエコイメージだけで検討するなら止めるだろう。日々エネファームで発電した電気を使い、水素水を飲み、水素入浴剤を風呂に入れるような水素MANIAにこそお薦めすべきだが、彼らからすれば水素で車を走らせるくらいなら体内に取り入れたいだろう。
Posted at 2024/07/16 00:48:52 | コメント(2) | クルマレビュー
2024年07月08日 イイね!

2022年式タントファンクロス感想文

2022年式タントファンクロス感想文●染みついたイメージからの脱却

ファンクロスは2022年にデビューしたタントベースのSUVルック仕様だ。実は今のタントは販売競争の中ではN-BOXやスペーシアの後塵を拝している。それは、現行型でオラついた意匠から脱却しようと試みた結果、N-BOXみたいじゃなくなってしまい、見事なコバンザメ作戦のスペーシアにも競り負けてしまって「二位じゃダメなんですか?」どころか三位に甘んじているのだ。

タントのユーザー層をグラフにしても「祝 子育て満開」だけではお客様のニーズが取り切れない時代になったのである。個人的にはタントの不振は「育児用品色」が強くなったことで、シングル・カップル層やダウンサイザー層が手を出しにくくなってしまった事も一因ではないかと考えている。



ダイハツは百も承知でタントの乗降性の良さを要介護1・2の高齢者ユーザーに向けて訴求し始めた。乗降しやすいステップやグリップを開発し、オプションとして設定するなどして生活の道具としての側面を追求しているのが特徴である。今後高齢化社会は加速し、本格的な介護に行かないまでも足腰の悪い高齢者を乗せる機会が増えることを見越した商品展開をしている。



ただ、タント自体は特にカスタムを中心に迫力不足と思われてしまい、マイナーチェンジでカスタムのフード、ヘッドライト、バンパーを新設する大がかりな改良を施した。(内装トリムもキルティング風パターンが不評だったのか金型新設?して修正している)



ヘルメットをモチーフにしたツルンとした標準系のテック感のある顔つきは決して悪くないのに「N-BOXみたいじゃないから」という理由で市場から受け入れられていないのが残念だった。

2022年にテコ入れのために投入されたファンクロスはカスタム用のフードやヘッドライトを拝借し、ルーフレールを始め、専用のホイールやSUVチックなモール、ツートン塗色を与えた。更に防水内装やタフトのシート生地を拝借し、インパネにオレンジ色を挿してスペーシアギアやekクロスを手本にした、・・・いや、かつてのウェイクのようなキャラクターを手に入れることになった。



これなら、育児用品にも介護用品にも見えない。(実用一直線のフリートではなく、粗利の取れる一般ユーザーに売りたい)

スライドドアで悪路走ったらボディが歪む!なんて指摘もあるが、あくまで雰囲気を楽しむモデルだからターボや4WD以外にも価格の安いFF自然吸気モデルもある。

今回試乗したのはFFのNA(172.2万円)。両側電動スライドドアやEPBが標準で備わっている。一人、ないし家族を乗せて走ったが、スライドドアを開ければ充分乗降できて、わざわざミラクルオープンドアを活用するようなシーンは余り見られなかった。ここまでは2代目タントと変わりない。そもそも、センターピラーがなくても、同時に自分の手でFrドアを開けなければ大開口のメリットがないなんて七面倒くさい。そのために世界初?センサーで側面のクリアランスを図りながらヒットせずに開く自動ドアを搭載するのも何だか馬鹿らしい。

どうせならもっとシンプルに日産クルーに学んで助手席側のセンターピラーを前出しした方が素直じゃないだろうか。助手席の乗降性が少し犠牲になるが、衝突安全だけならボディ構造で克服できる。或いはスライドドア側に骨格構造を残して助手席ドアをもっと簡素化できないだろうか。どうしてもセンターピラーレスでなければいけないのだろうか。(もしかすると、今のスライドドアの開口を保ったままセンターピラーを前出しすると乗降できないレベルまで前に動かさないといけない可能性もある)

結局ポルテ方式(助手席スライドドア一枚化)に行き着くが、あれは助手席が本当に気の毒なので避けたい。



●まとめ

軽スーパーハイトのパイオニアであるタントは20年以上の歴史の中で子育てツールとしての立ち位置を確立して一時期は競合の挑戦をはねのけてきた。

デビューから5年が経過しようとしている現行タントはALL NEWのコンポーネント群により基礎的な性能を鍛えてきた感は確かにある。

ただし、絶対的な実力はよくできた昔の軽自動車より悪い箇所も残る。例えば着座姿勢の気持ちよさ、ドライバビリティ、ブレーキ性能などである。

私が「発泡酒を目指したビール」と称している登録車群と比べればタントは肩を並べるレベルだろうが、実際に妻子を乗せて運転しても、私にとっては歪(イビツ)なバランスに映ってしまった。これでは少なくとも運転体験の差でN-BOXには勝てない。



また、参考試乗した前期型カスタムRSでは後席座面前端を持ち上げて大腿部のサポートを強化することで座り心地改善を図るなど好ましい挑戦も見受けられたが、マイナーチェンジ後には座面をフラットに改悪した。

競合とのmm単位の競争の末、せっかく呪縛から逃れたのかと思いきや、エクステリアデザインが市場から評価されず(恐らく)想定外のフェイスリフトに追い込まれた。投資を回収するかのようにしれっと前述の後席シートのリンク機構が廃止された。更に二番煎じと言われようがSUVライクなバリエーションを持つに至ったタントファンクロスは市場創出のパイオニアとしてはあまりにも辛い現状であると実感した。

タントは初代から子育て層のセカンドカー需要を狙って「子育てツール」を訴求してきた。初代の背高パッケージ、2代目でピラーレス構造のスライドドア、そして3代目で両側スライドドアなど己の世界観を磨いてきたのだ。



諸般の事情でまだ世に出ないムーヴがスライドドアを纏うと噂されているのはタントの「子育てツール」イメージの底堅さをダイハツも自覚しているかも知れない。今後の高齢者に向けたアプローチとアウトドア指向によるイメージの刷新が図れるか?が20年後にタントのブランドが生き残れるかを決定する。

本来は子育て人口が多く、健全な出生率を維持している国なら今のタントのイメージを守り続けていても長きに亘って新しい顧客を取り込み続けて新陳代謝が進んだかも知れないが、さすがにダイハツだけの責任でもあるまい。

モデルライフ後半に差し掛かり、新しいタントの準備が進められているはずだ。「ライフパートナー」としてもっと人に優しいスーパーハイトになるためには、自動運転技術を磨くとか電動化も大事だが基礎的な動力性能の底上げも必要だ。

或いはお年寄りや子供を乗せたときの身体の揺れが少なくなるような動力の与え方や酷暑化する環境に対応した車内空調や豪雨への対処などスペックではなく人を中心に性能開発やり切って新しいタント像を見せて欲しい。もっと全高を上げれば良い訳ではないことはウェイクで既に分かっているはずだ。

ここ1ヶ月ほどで初代2代目・4代目ファンクロス(と前期カスタムRS)に乗ってみて「挑戦」と「挫折」「切迫」「迎合」などキーワードが思い浮かんだが、次期モデルでは創造性を発揮してくれることに期待したい。
Posted at 2024/07/09 00:09:14 | コメント(2) | クルマレビュー
2024年07月04日 イイね!

2011年式タントL ミニ感想文(2009年式タントXも追記)

2011年式タントL ミニ感想文(2009年式タントXも追記)2003年にデビューした初代タントは1700mmを超える全高と、Aピラー前に固定窓を設ける車体構造によって従来の軽乗用車では得られなかった広大な居住性と、市街地程度であればなんとか走れる動的性能を持つタントはファンを増やし続けた。

そして2007年12月、満を持してタントは2世代目に突入した。

●原動機付き“たまひよ“

試乗車は2007年にデビューした2代目の後期となる2010年式のLだ。最大の特徴は助手席FRドアをピラーレス構造とし、RRドアをスライドドアにしたことで得られる大開口スペースである。(右側はコンベンショナルなヒンジドア)



最大のライバルスズキがスライドドアのパレットを出してきた時点でダイハツは着々と準備を進めていた。2001年東京モーターショーのカタログを見ていると初代タントの要素技術であるA'ピラーを有する固定窓を採用したMUSEと同じページにFF-US(ウルトラスペース)というショーモデルがある事に気づく。

FF-USはワンモーションフォルムかつガラスルーフを特徴としながら、乗用車の乗降性や乗り心地とキャブワゴンの持つ快適性を特徴としたワゴンモデルでセンターピラーレスのスライドドア構造が公表されていたのである。




この技術をタントは「ミラクルオープンドア」名義で採用した。

センターピラーを廃止するために助手席シートベルトをシート内蔵とし、側面衝突に対応してドア無いに強固な補強材を仕込んだ上でドアロックを3つ設定して横からの入力でドア解放から防御している。

加えて、初代の親子向けのちょっと上質でキャビン広い車というキャラクターから「祝 子育て満開」というキャッチコピーによって子育てツールとして再定義された。この傾向は3代目まで継続されていくのだが、この2代目タントによって現代のタント像が直接的に決まってしまった発端と考えて良いだろう。

室中の広さが好評だった事と、スズキとの熾烈なライバル競争に打ち勝つためにホイールベースを初代と較べて50mm延長して2490mmとなった。この数値は初代ファンカーゴ(2500mm)に匹敵する立派なものである。

室内長は2160mmと先代比較で+160mm。この結果、明らかにシート着座位置が後方に追いやられて後頭部にバックドアガラスが迫っている状況で膝前スペースの広さをアピールするナンセンスな状況になった。後席足元スペースの後端には燃料タンクが配置され、段差生じる。一般的なセダンは足引き性を考慮して段差に対して適切な位置にヒップポイントを決める。2代目タントを始めとする現代のスーパーハイトワゴンは競合上の優位性を競うために安易に座面だけ長くしてヒップポイントを後方に引いてしまった。このため足引き性が悪いだけでなく、レイアウトを成立させるために乗員の足は前に投げ出した姿勢が必要になり、ヒールヒップ段差も先代比で下がっている。大人がしっかり座れた初代と較べて明らかに志が低くなった瞬間だった。



確かにCRSに未就学児を座らせている層にとって後席の出来映えはさほど重要視されない。どうせ子供は直接的にはCRSに座るので、所詮後席はCRSを固定する台でしかないからだ。だからと言って私は160mm後席を広くするために人が気持ちよく座れなくなる事は肯定できない。




この写真は、ダイハツヒューモビリティワールトに展示されていた3代目タントのカットモデルの写真だ。

今は展示車が変わっていたので、https://ameblo.jp/ryuzixx/entry-12471846171.html
から引用し、説明のために二次加工させていただいた。

燃料タンクを動かそうにも前後をクロスメンバーやイータビームのつなぎ部に行く手を阻まれて
身動きが取れない事が分かる。写真のRrシート位置はカタログでよく出てくる室内長MAXとは異なる位置にあるのはダイハツ自身も後ろめたさを感じているのだろうか。(当時の新車カタログではRrモーストの写真ばかりだが)

タントの場合は更に助手席の背もたれを倒して前にスライドしてしまうことでミラクルオープンドアの特徴を活かした大開口が楽しめるようになっているのだが、これも助手席自体の快適性も損なっている。

タントをセカンドカー扱いにして助手席を畳んで使う事を推奨しており、カタログ写真を見ていても、「策士策に溺れる」という感じで子供が通う保育園の駐車場や街ゆくタントを見ていても助手席を畳んでいる人は余り見かけない。更に言えば保育園で子供を送迎している父母は助手席をわざわざ開けて子供を乗降させていない。



それでも、2代目タントの後から出たパレットに販売競争で勝った。ターゲット層にフォーカスした仕様設定とそれを支える技術開発の手を緩めなかった結果、スズキの追撃を防御できたのは攻めの姿勢に対する市場からの報酬とも言える。

その後のタントにとって不幸だったのはスズキとの競争に明け暮れた挙げ句、数値上の競争にとらわれてしまった。「子育てツール」としての進化のみに執心し、諸元合戦・装備合戦に夢中になった事だ。

後出しジャンケンながら巧みなブランディングで「大人も乗れるイイモノ感」という砂糖(佐藤?)をまぶしたN BOXに負けてしまった。

現代に続くタントの苦戦の原因の一つはターゲットユーザーをフォーカスしすぎてブランドに色が着き、周辺のシングル層やカップル層、男性がタントを選びにくくなってしまっている事も考えられる。

私の視点(男性・既婚・子育て中)で見ても、一見便利そうに見える種々の使い勝手はさほどでもない。結局、自動車として必要な性能がスポイルされていて思想的に退化したように感じた。

便利そうな装備を追加し、競合との販売競争を優位に進めようとするあまり元々タントが提供していた4人が乗れる軽乗用車の趣が薄れた。ダイハツもヒンジドアを残しながら後席の快適性を向上させた「タントEXE」を開発したが、タントの売れ行きの良さに流されてFMCを受ける事無く廃止された。

2代目タントは思い切って育児ツールに徹し、「室内長が・・・」「燃費が@%向上」「便利そうなミラクルオープンドア」「収納が○箇所」といった分かり易い「改良」が行われる一方で最上級Gグレード以外のアルミホイール廃止やRrヒートダクトやチルトステアリングがOPT設定となるなど「適正化」されてしまったのは残念だ。

●狭すぎるターゲティングと横並び競争

我が家が2016年に母子手帳を貰ったときには自治体から貰った各種案内の協賛広告には粉ミルクなどベビー用品に混じってタントの広告があった。商品としての積極的な攻めの姿勢によってタントは独自のポジションを保った。

その後、スズキとの戦いの末勝利を収めた。各社の競争が技術の進化を促すことは否定しないが、その競争が重箱の隅をつつくようなものに終始したり、分かりやすいものだけ小手先の対策を実施するような姑息なものばかりでは、お客様よりもライバルを見た開発になってしまい、初代が切り拓いたスーパーハイトの可能性を狭めてしまったのではないかと危惧した。

強力な競合車に対してダイハツは「子育てツール路線」を進化させ、カスタム系との二本立てで対抗したが、その後もホンダに勝てなかった。2代目タントに試乗し、改めてレッドオーシャンでの競争の厳しさやライバルを意識するあまり、消費者のニーズが見えにくくなってしまう危険性を痛感した。

Posted at 2024/07/04 00:31:55 | コメント(4) | クルマレビュー
2024年06月30日 イイね!

2006年式タントVS感想文

2006年式タントVS感想文 ●今の軽自動車市場を作った立役車
いま日本で最も売れている車種は軽自動車、それも全高1700mmを超える様なスーパーハイトワゴンと呼ばれるボディタイプだ。

今の売り上げトップはN-BOX(ホンダ)、他にもスペーシア(スズキ)、ルークス(日産)、ekスペース(三菱)などがあるが、その源流は2003年にダイハツが発売したタントである。

初代タントは大きな車と小さな軽、2台を所有しなくても、一家に一台のメインカーとして家族のあらゆる生活シーンで活躍できる新しいジャンルの軽を提案した。



タント発売から遡ること10年前の1993年、スズキは人をアップライトに座らせて背高パッケージで包んだワゴンRで軽自動車に革命を起こした。その2年後、ダイハツはムーヴを発売。ミラをベースに類似した意匠であからさまなパクリと言われて批判を受けたが、実はダイハツもムーヴをワゴンRとほぼ同時期に発売できるように準備していたものの、開発が遅れたためにハイトワゴンのパイオニアの座をスズキに譲らざるを得なかったのである。

しかも、スズキはフロアも新設して着座姿勢も整えたが、ダイハツはミラのコンポーネントを流用したかったのか全高の高さの割に着座姿勢に大きく手を加えなかったことも批判的な意見があった。

新規格となった2代目ムーヴでは初代のネガを解消したが、ダイハツは初代ムーヴの過剰な頭上空間について何かを掴んでいたのかも知れない。タントの諸元を下記に示すが、当時のハイトワゴン「ムーヴ」の1630mmを大きく超える1725mmの超トールボディを持ち、ヘッドクリアランスは座高が高い人でも使い切れないほど(私が座って握りこぶし4つも入る)。



これら諸元を比較して分かるのはタントの室内スペースがキャブオーバー1BOX並みであることが分かる。それでいてキャブオーバー型1BOXとは比較にならないほど足元が広く、低床ゆえに乗降性も優れており、子育て世代の日常生活のお供としての全く新しい価値を見いだすことができた。

デビュー当時、私はこういう車に対して否定的な立場をとり、広さが欲しいならステップWGNなどのミニバン御三家を買えば良いし、「過ぎたるは及ばざるが如し」だと固く信じていた。確かに当時、ムーヴもミラアヴィも完成度が高く普通車を喰うほどの内容に近づいていた。その方向性から外れて座って乗車するには明らかに無駄な頭上スペースに活路を見いだしたタントはナンセンスに思えた。

それなのに、世の中の子育てファミリーを中心にタントはヒット。当時スズキを追いかけていた軽No.1争いに勝利する立役者の1つとなった。ホイールベースも長く、室内も広い。頭上の過剰なスペースを得たときに軽自動車のキャビンの自由度が大きく拡がることを世の中に知らしめたのである。



ところでイタリア語でたくさんを意味するタントだが、関西地方でも同じ意味で「タント」を使うことがある。

「たこ焼きぎょうさん買うてきたから、たんと食べや!」(たこ焼きをたくさん買ってきたから、たくさん食べなさい)

という感じになるはずである。

そして同じ在阪企業であるナショナル(当時)も冷蔵庫にタントという名前をつけていた。私なんかは冷蔵庫の名前の方が先に馴染みがあったので「なんや、車にもタントて名前つけるんかいな」と関西地方の方言を話していた当時の私は思ったものである。



初代タントと生活を共にして軽ハイトワゴンがこれほどまでに受け入れられたポテンシャルを感じることが出来た。

例えば、3歳児が一人で乗り込めるフロア。小学2年生が室内で立てる室内高、週末の買い出しで1週間分の食料と日用品が乗せられる荷室など、どれもが実用的でありながら、市街地だけなら走行性能や静粛性もガマンできるレベルであり、更にA/Cもよく効いた。

子供達はすっかりタントが好きになり娘は街を走る初代タントを見つける度に「たんと!」と言うし、息子も「あのタントは何代目?」と訊いてくるようになるほど我が家の子供達にも刺さったようだ。



彼らを虜にしたタントが持つ軽キャブワゴンの室内空間と軽セダンに近い乗降性が両立した使い勝手は確かに新しい。子供だけでなく、大人4人が乗っても満足できるフル4シーターパッケージと荷室の使い勝手は、誰にでも優しいユニバーサルデザインだ。

例えば忙しい朝の時間帯、親である私がタントのドアを開けてあげれば子供達は自分で乗り込んでくれる。そして回転機構の着いていない簡素なCRSでも子供を抱きかかえてCRSに乗せてセットしやすい。



更に保育園に到着後、ドアを開けてCRSから子供をフロアに立たせておけば水筒やショルダーバッグをかけて身支度を済ませてから降車できるのは、雨の日にはありがたい。晴れていたとしても、CRSから降りた子供を車の後や脇に立たせて
身支度をさせるのはあまりスマートではないが、デミオやプログレでは普通にそれをやっていたので新鮮だった。

ただ、自動車である以上避けては通れない動的性能に関してはお世辞にも良いとは言えず不足気味。カップホルダーに置いたコーヒーがこぼれるほどの突き上げのひどさ、登坂車線の常連になれる駆動力など動的性能が明らかに割切られており、不満があるならターボモデルを買うしか無いが、乗り心地の悪さについては恐らく打つ手がないだろう。



この広さを知ってしまうと、家族を乗せて帰省できちゃうな!とか東京ディズニーリゾートへ行けちゃうな!と夢が膨らむのだが、走りの質感から来る長距離ツーリングでの疲労感が大きく、期待に応えてくれそうにない。あくまでも「近所の用事を済ます」「行っても隣町」レベルなら普通車に負けない使い勝手を享受できるだろう。

初代タントは「走らせてナンボ」の自動車としての実力で評価するならバランスの取れた軽セダンよりも2段は落ちる。しかし初代タントがヒット作となり、今の軽スーパーハイトワゴン市場の礎を築いた歴史的事実を振り返れば自動車らしさよりも、使い勝手を求めるユーザーの方が多かったという(≒Rが廃止された)事実を直視しなければならない。

総評としては初代タントは先例のないダイハツオリジナルの企画なので作りたい商品が作れた自由な風を感じた。BMCに拠って重箱の隅をつつくレッドオーシャンではなく、ブルーオーシャンに活路を見いだすクリエイティブな戦略が光る。競合より先にハイトワゴンを世に出せなかった悔しさをバネにして大きな市場を創出した功績は大きい。

この企画の良さで4★を進呈したかったが、一般ドライバーにはあまりにも過酷な動的性能が看過できず1減じて3★とする。
気兼ねなく思い切り試乗させてくれたオーナーに感謝。

Posted at 2024/07/01 00:27:03 | コメント(4) | クルマレビュー
2024年06月11日 イイね!

2024年式WR-V Z+感想文

2024年式WR-V Z+感想文●現代に蘇ったロゴ?いいえJムーバーです

私が近年、しつこく言い続けているのがN-BOX一本足打法の国内販売問題である。N-BOXが日本人の生活にぴったり寄り添った軽スーパーハイトワゴンの決定版である事は同意するが、それ以外のホンダ製登録車は、割高であと一歩の惜しい面があっても商品力強化のやる気すら見せないモデルが多く、私だけかも知れないが勝手に危機感を持っていた。



そもそも日本市場は北米や中国市場と較べて市場が小さく特異なため、ホンダ以外の自動車メーカーも日本を無視したクルマ作りを続けている。経営規模が大きいトヨタは何とか小型車枠の商品を残しているが、ルーミーもライズも小型車を知り尽くしたダイハツのOEMである。

そんな中でホンダは他国で生産する向けモデルを日本市場向けに同時開発し、輸入するという手慣れた手段をとった。

元々ホンダはアコードの逆輸入を・・・なんて昔話をしなくても、つい4年前まで小型セダンのグレイスをタイから日本に輸入し、最近だとオデッセイを中国から輸入している。

今回は新興国向けP/Fを使って作る都市型SUVをインド市場に向けて作り、インドで生産した。その仕様設定を日本市場向けにアレンジした日本仕様車を仕立てて2024年3月から日本で販売している。



現地名エレベイト、日本名WR-Vは先代ヴェゼルのガソリン車の市場を受け継ぐ廉価なSUVスタイルのエントリーモデルである。個人的にはフィットが市場で理解されないのが残念だな、と言う思いがありつつも、なるほどWR-Vは商品として分かり易い。

軽からステップアップするときに、頼もしく見えるエクステリア。硬質プラスチックを多用しながら細かく高触感素材を使ったアクセントでみすぼらしくもない。ドラポジはSUVらしい視界の良さが楽しめて家族を乗せても快適な室内と軽ハイトワゴンでは望めない荷室と居住性の高バランス。走らせて直ぐ分かる1.5リッターE/Gの力強さがもたらす動的質感。高速道路での挙動の落ち着きの無さは玉に瑕だが、それをも納得させられる特徴が残価設定型クレジットを組まなくても現金やローンで買える身近な価格帯(税抜価格190.8万円)。ホンダの中でフィット以外で軽からステップアップできる貴重な一台になった。



一方、見る人が見れば明らかに(技術的・市場的に)時代遅れな諸元が並んでいるのも特徴だ。

・ハイブリッドがない?3気筒E/Gじゃないの?
・PKBが未だにレバー式?
・全車速追従ACCついてないの?
・ブラインドスポットフィンフォメーションないの?
・全面液晶メーターじゃないの?
・スライドドアじゃないの?
・この見た目で4WDないの?
・アルミホイールが17インチなの?


などなど、模範的自動車販売業の人たちからすると2024年の当たり前が備わっていないので否定的な見方をされかねない。この手の「当たり前」は自動車メーカー自身によって醸成されていく空気であり、それがないと困るという実態は案外無かったりするもので、無いと困るような人命に関わる安全装備などはWR-Vにも着いている。

だから実際WR-Vに乗ってみても感動がない代わりに扱いに困ることはないし、至らぬ点を目くじら立てて叩く気にもならなかった。そもそも2040年までにE/Gを辞めると言っているホンダの新型車がガソリン車オンリーという点も叩きたい人は叩きたいだろう。

でも、国内市場で背に腹は代えられないホンダはSUVブームという販価が取れる流行をうまく使いながらも、原価に直結するところでは流行に乗らずに節約をすることでN-BOXからの代替に誘導できそうなエントリーSUVを持つことが出来た。

これで不満が残るならヴェゼルやフィット、フリードを買えば良いし、盤石な支持を集めるN-BOXもある。

WR-Vの大胆な割り切りは恐らく、ホンダ自身の事情によるものが大きかったと思うが怪我の功名的な結果オーライに結びついているのは面白い。

かつてクリエイティブ・ムーバーと称して独自のRV車を世に出してヒットを連発した当時のホンダ車もスライドドアなし・ステッキ式PKB・ディーゼルなし・簡易的4WDのみ、という大胆な割り切りがありながら市場の支持を受けていた。

WR-Vの割り切りもまた、売る側の論理ではなく買う側が納得できそうなものに留め、浮かせた分を便利な道具を安く売ることに繋げている。安っぽさよりも楽しげに見えるところは、かつてのシンプルすぎて埋没したロゴをベースにしたJムーバー(コンパクトで楽しさのある楽しさ創造車)の発展系的なコンセプトとも言えそうだ。



この車は私達、普通の日本国民が今までの様な気持ちで買える貴重な新型車だと思う。勿論、安いなりの作りの甘さや性能面の不満はある。しかし「小型キャブワゴンは総額450万円」とか「軽ハイトワゴンは総額300万円」というメーカー都合による残価スキームの中で現状は現金で買えるマイカーが手が届かない遠いところに行って行きつつあった。でも、WR-Vなら総額250万円以内で軽自動車以外の車が買える。この現実感のあるリアルなワクワク感は私達にとって大切な感覚だと考えている。

買えない車を論じるより、買える価格でありながらエアコンもよく効いて室内も広くてみすぼらしくないSUVルックは花より団子だ。今度のJムーバーは平成のそれらより市場の支持が得られるのではないかと思う。



WR-Vは発売後1ヶ月で1.3万台の受注があったという。月間3000台の目標の中で4倍以上の実績は
試乗車などの予約分もあったとは思うがホンダにしては良いスタートダッシュだった。インドからの輸入車なので、輸送タイムラグなど需要に急に対応するのは難しいところだが。トヨタのヤリスクロスは発売後1ヶ月で4万台の注文があったようで数字ではボロ負けだが、ホンダにとっては重要な車種になると思われる。

イマドキ求められているコスパ(好条件での下取り、保険・税制の優遇)の良さで軽スーパーハイトワゴンに勝てる見込みはない。実質賃金が下がり続けている中でWR-V(普通車)の余裕・快適性に対してお金を払って貰えるような状況でもないので、20年前の状況より寧ろ難しい戦況ではある。だが、ここで安易に売れ行きに陰りが見え始めたN-BOXに頼るのではなく、W-RV、フィットやヴェゼルを育てることも忘れないで欲しい。

総評は3★。取り立てて悪くないがぶっちぎりの部分もない。新しくもないけどその分安心感もある。ホンダのモデルミックス的に必要だったモデルだが、WR-Vそのものの評価は3だ。
Posted at 2024/06/11 09:26:39 | コメント(4) | クルマレビュー

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「@キャニオンゴールド さん 恐ろしい。北斗の拳のザコキャラが⚫︎ぬ前みたいな💦」
何シテル?   06/15 14:19
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