VOLVO V40
「安全性能が個性」
●欧州メークのコンパクトCセグメントが押し寄せてくる
欧州の新車販売状況は90年代初頭に調査が始まって以来、
1月としては最低の成績となっているらしい。
そもそも、不況のせいで民衆の消費意欲が低いなか、
欧州の政府が実施したスクラップインセンティブで
一時の台数は増えたものの需要を先食いしてしまっていて、
しかも、欧州は自動車メーカーが多く競争も激しい。
(あのアメリカ合衆国ですら3メーカーあれば十分?なのだから)
工場を削減したいのは山々だが、
たくさんの雇用を喪失してしまうわけだから
簡単に工場を閉鎖することは困難を極めるだろう。
そうなると、彼らは欧州以外で車をたくさん販売するために知恵を絞る必要がある。
台数が出るであろう中国をはじめとする新興国も当然重要だが、
日本でも販売を伸ばしたい。
今回ボルボが日本で販売を開始したV40は、
そもそも三菱自動車と合弁で車両生産をしていたネッドカーで生産されていた
S40/V40のネーミングを復活させたものである。
(ちなみに三菱カリスマとプラットフォームが共通)
今回の復活にあたり、欧州の本流たるCセグメントのHB車として生まれ変わり
欧州では2012年にデビューを果たしている。
(ちなみに今度はフォードフォーカスやアクセラとプラットフォームが共通らしい)
日本ではゴルフが良く売れており、
実はトヨタが世界戦略車と位置づけて開発したオーリスよりも販売台数が多い。
現在のわが国ではメインで売れているのがBセグメントのHBである。
車幅が1700mmを超えてしまう欧州調CセグメントのHBは
まだまだ日本メーカーの車が不得意な分野と考えられる。
一方で、マーケットは完全に二極化してしまって
ひたすら車両価格が安くて燃費がいいエコカーと
こだわりを持った人が買うプレミアムカーと二分化してしまった。
こうなると、もともと割高だが、こだわり層への
アピールが強い輸入車は有利に仕事が進むわけで、
ベンツAクラスも戦略的な価格を引っさげて日本での販売を開始している最中だ。
V40は世界初の歩行者エアバッグや50km/hまでなら追突しないシティセーフティの
装備など安全装備の充実度合いの高さを売りに市場に参入してきた。
●北欧のモダンなハッチバック
ショールームに案内されて実車と初めて対面した。
なかなか凝縮感があってかっこいいデザインだと思う。
ショルダーが張っている部分などがボルボらしく感じるが、
私のようなおっさんがボルボに抱くような水平貴重のプロポーションではなく
躍動感のあるウエッジシェイプのプロポーションは
確かにスポーティで若い人をひきつけそうだ。
ちょっとまえのC30はパーソナルカーとしては
もっとスポーティでもおかしくなかったのに、
かなりすっきりした意匠となっていたのとは対照的だと感じた。
グリルを見ると見慣れない樹脂カバーが目立つ。
これはシティセーフティという「ぶつからない技術」のためのレーダーなのだという。
日本の自動車メーカーの技術者が見たら
「あんなところにつけたら目立ってしまい、見栄えが悪くてエラいさんに怒られる」
と卒倒してしまうだろう。
ゴルフは完成度が高いけど、みんなが乗っている・・・。
Aクラスや1シリーズはちょっとギラギラしているしな・・・。
ジュリエッタほどエロエロなのはちょっと・・・・。
という痒いところに手が届くキャラクターだと思った。
●あのお泊りを期待したのにバスタブで寝かされるやつでしょ?
それはノルウェー。(分かる人だけ分かってください。)
こういうのを雑誌ではハイセンスなスカンジナビアンデザインと
書くのだろうが、ディスプレイとレジスターのあたりがちょっとごちゃごちゃしすぎている。
センタークラスターがすっきりしているのにセーフティパッドのボリューム感がありすぎて
素人が感じる北欧的な清涼感には一歩届かなかった印象。
4つのダイヤルとセンターのボタン群はちょっとHMI的には疑問が残る。
ちょっとオッと思ったのはリア席の座り心地。
ベルトラインが後ろの行くに従い上がる関係で
決して広々感をアピールするつもりがなさそうなくせにきっちり座れる。
特に太ももがあたる部分の角度が適切でこれは疲労が少なそう。
ヘッドレストの位置も非常に適切で気持ちいい。
つくづく真面目だなぁと思う。
また、シフトレバーは斬新な照明がインテグレートされていた。
V40は室内の照明色が切り替えられるようになっており、
シフトレバーもそれに追従して切り替わるらしい。
シフトパターンが刻まれたシフトノブ自体が発光すれば、
法規上必要なシフトパターン表示機構とその照明が廃止でき、
センターコンソールもATとMTを分ける必要がなく、
部品種類数削減にも一役買っている。
しかしながら、残念なことにボルボの担当者はこれに気をよくしてしまい、
サイドブレーキを右ハンドル用に移動させることを忘れてしまったようだ。
左ハンドル用の位置のままの為、
操作にはセンターコンソールを越えて手を伸ばす必要がある。
電子式のPKBにすればよかったのに・・・。
V40はボルボ初のTFT液晶製スピードメーターが採用されている。
まさしくレクサスのLFAそっくりなデザインで驚いた。
カリブのテールライトも引用された実績があり、
ボルボはトヨタデザインの良き理解者なのかもしれない。
V40のスピードメーターは針も文字盤もすべてTFT液晶が映し出す画像である。
ECO、ノーマル、パフォーマンスの3種類のインターフェースを楽しむことが出来るが、
他社の様な本格的なドライブモードセレクトという訳ではない。
内装全体としては標準グレードはブラックの布シートが標準。
上級グレードは部分本革のシートが標準でオプションで本革が選べる。
さすがに北欧の車らしく上級グレードには布シートであっても
シートヒーターが標準で備わる。
ちょっと変わっているなと思える点がある。
上級グレードにおいて内装色を白か黒か、或いは白ベースの黒、
黒ベースの白など色々と選べるシステムがあるのだが、
ルーフヘッドライニングが白一色しかなく、センターピラーガーニッシュも
上下で分割の構成になっているにも関わらず上下で同じ色しか選べない。
一般的な車種の場合はベルトラインでピラーガーニッシュを見切っていて
ベルトライン下はドアトリムと同系色、
ベルトライン上はルーフヘッドライニングと同系色にすることが多い。
V40の場合はピラーガーニッシュが黒くなる仕様を選ぶと、
黒い柱が白い天井に刺さった不思議な見栄えになってしまう。
デザインの意図なのかもしれないが、誤組付けと疑われるかも。
V40のインテリアは他社と比べると独自性の強さが垣間見られる。
好きな人にはたまらないと映るかもしれない。
●誰も見ないような細かい部分もチェックしてみた。
ドアを開けてみると、その準外板面が非常に美しかった。
外から見てすっきりした印象にするには
非常に手間のかかることをしている可能性が高い。
たとえば、ドアのシール性能やヒンジ配置を工夫しなければ、
或いはドアカーテシランプのスイッチを廃止するなどの
コストをかけなければすっきりとした見栄えにはならない。
V40の場合はドアヒンジに高級な型鋼ヒンジが採用されていた。
一般的な車のヒンジはプレスヒンジというものが使われているが、
V40は高級車などに採用が多い削りだしの型鋼ヒンジが使われている。
この方が小さな面積で取り付けができ、見栄えにも
デザイン成立性にもうれしいし、剛性も上がり性能も高くなる。
一方、ルーフを見てみると、レーザー溶接を使って
サイドストラクチャとルーフを接合している事が分かるが、
その合わせ目は外から見たところ、
ヘラ仕上げでシーラーを打っているだけのようにしかも見えない。
ドイツ車のように合わせをロウ付けして美しくに仕上げて
継ぎ目のないボデーをアピールしているわけではなく、
多くモヒカン構造をとるモデルのようにモヒカンモールをつけて
段差を目立たないようにするわけでもない。
こんな構造をしているのは商用車の日産キャラバンと
新興国向けのトヨタエティオスくらいのものだ。
この二車はいずれもスポット溶接でサイドストラクチャとルーフを接合しているために
打点スペース(凹形状)が幅広く、見栄えは意識していないが、
V40はレーザー溶接を採用することでその幅を最小限に縮めている。
この構造はモヒカンモールを廃止できるし、ロウ付けで神経を使う作業もない。
コストという面では有利に作用するだろう。
見栄えに関しては幅を狭くすることで影響なしと考えたと思われる。
この構造はショールームに展示されていたS60も採用しており、
これがボルボのやり方なのだろう。
この見栄えが気になる場合はオプションのパノラマルーフを選択すれば、
ガラスルーフが端までカバーするため問題にならないことが確認できている。
Cセグメントではいくらでもお金をかけて良い訳ではなく、
どこかをアピールするためにはどこかを切り捨てなければならない。
もちろん、性能が切り捨てられることは原則としてあってはならないが。
●乗ると分かるライバルとの違い
試乗させていただいた。
試乗したのは上級グレードのT4 SE。
パワーシートを調整してスタートスイッチを押す。
走り出してすぐに感じるのは
エンジンのパワフルさだ。
1.6Lの直噴ターボという欧州車のど真ん中ともいえるエンジンだが、
ライバルと比較して明確に力強さを感じる。
メルセデスのAクラスやBクラスと比較すれば明らかに優れている。
出力が180psということもあるが、その実力は2.4L級といったところか。
カタログ燃費は逆にメルセデスのエンジンを上回っており、魅力度が高い。
試乗コースの関係でそれほどスポーティな走りは出来なかったが、
6速DCTはスムースで特に不満を感じることはない。
スポーティなパワートレーンが奢られている割にはパドルシフトが付かない。
BMW1シリーズに続いて惜しいところだ。
走行中、ウォッシャーノズルが運転席から見えることに気づいた。
近年、見栄えのためにウォッシャーノズルをフードとカウルルーバーの
空間に隠す処理が多く見受けられるがV40の場合、
潔くフード上にカラードのノズルが鎮座している。
わざわざボデーカラーに塗装しているわけだからお金もかけているのだが、
恐らく世界初の歩行者エアバッグのためにそうせざるを得なかったのだろう。
よく見たらノズルは3つも付いている。
走行中思いっきりワイパーを良く使う私には非常に魅力的に感じた。
なぜなら視界の確保はもっとも重要な安全に対する行動だからだ。
また、走行中の目印にもちょうど良かった。
そしてV40が最もアピールしたい装備であるセーフティパッケージを体感した。
1.追従機能つきクルコン
2.ヒューマンセーフティ
3.ドライバーへの注意力低下警報
4.レーンキーピングエイド(斜線逸脱警報+修正)
5.アクティブハイビーム
6.ブラインドスポットモニター
7.道路標識認識装置
8.BSM(車線変更時に後方に居る車を検知する)
9.クロストラフィックアラート
という9つの秘密道具がセットになっている。
今考えうるほとんどの安全装備がセットになっていると考えてよい。
2のヒューマンセーフティというのはミリ波レーダーとカメラを併用して
前方の警戒に当たり、緊急時にブレーキをかけてくれる。
この手の装置が弱点とする歩行者も10人までなら検知してくれるのが驚異的。
別オプションの歩行者エアバッグとセットでわが国の交通死亡者数の36%を占める
歩行者保護へのアクションは日本メーカーも見習うべきところがある。
走行中、クルコンを設定すると前車に追従して加減速に追従する。
また、信号で停止すると一緒に停止してくれる。
このとき他社と異なるのは
デバイスによって停止した後で
そのまま停止状態を維持できる点である。
他社製品は停止するとシステムが解除されてクリープで前に進んでしまう。
考え方によっては判断が分かれるだろうが、これが他社との違いである。
また、信号が青になった際はステアリングの復帰ボタンで
再度システムを利用することができて扱いやすい。
さすがにパイオニアだけあって制御中のフィーリングは自然である。
2020年までに新しいボルボ車において
交通事故での死者と重傷者を0にするという
ビジョン2020を掲げるボルボの本気度が伝わってきた。
カーテンエアバッグを前車標準にすると高らかに宣言した後で
こっそりと撤回してその理由をユーザーのせいにしてるメーカーと対照的だ。
もちろん、こんな素晴らしい装備もドライバー自身が今までどおり
注意深く運転していれば必要の無い装備だろう。
しかしながら、人間なら一度位は運転でひやりとした経験があることと思う。
そこをケアしたいというのは人間なら誰でも魅力的に映るはずなのだ。
20万円という安くはないオプション価格だが、
安全な車に乗りたいという顧客の要望には最大限応え得る内容だと感じる。
個人的にはUP!やムーヴのように自動ブレーキのみでも十分な内容だと思うが、
V40のやりきった感のある全力投球っぷりも見ていて清清しい。
●なぜナビがないのだ
これまで燃費のCT200h、走りの1シリーズ、商品性のAクラス、
と勝手にレッテルを貼ってきたがそこに「安全のV40」が参入してきた。
後出しということもあり、商品的には弱点もそれほどなく
ブランド力の無さも「知る人ぞ知るハイセンスな北欧ブランド」
と解釈すればプラスに変えられるはずだ。
カタログとにらめっこして買うべきグレードを探すことにした。
最も安くV40を買うには標準グレードのV40(269万円)に
フロアマットすら付け無い場合287万円と出た。
269万円という車両本体価格はDS3のスポーツシックと同じ価格である。
ゴルフコンフォートライン(279万円)よりも10万円も安い。
これは狙ってつけられた価格なのだろうが、非常に戦略的だ。
VWも次期ゴルフの価格設定は非常に悩ましく感じることだろう。
ブランド価値を考えると割高につけられるはずだが、
上位ブランドだと思っていた他社製品が明らかに値下げしているからだ。
V40の269万円からという価格は本当に安い。Aクラスの284万円も驚いたが、
ボルボはさらに価格競争力がある。
この標準グレード、16インチアルミホイールが標準で選べ、
ステアリングも本革が標準。8スピーカーのオーディオも標準で
シティセーフティ(自動ブレーキ)も標準装備されている。
V40の魅力である安全装備を追加したとしても
セーフティパッケージ(20万円)+歩行者エアバッグ(6万円)で
295万円という価格になる。
(現在、セーフティパッケージは発売特典でただなので実質275万円だ)
カーナビは20万円だと雑誌で読んだので本体価格315万円、
ライバルのプレミアムブランドよりも遥かに安い価格で
パワフルな走りと先進の安全デバイスが手に入るじゃないか!
・・・と鼻息が荒くなったのだが、残念ながらそうでは無い。
T4にはカーナビがつけられない設定になっている。
本国ではつけられる設定になっているらしいが、日本向けT4には
どうしてもカーナビがつけられず、
モニターはあるくせにもう一個ポータブルナビが必要だというのだ。
なんじゃそら・・・
カーナビは軟弱ものが見るものだ!という男気のある方も居られるだろう。
だが、現代の乗用車にとってカーナビはあって当たり前の必需品になりつつある。
しかもせっかく液晶ディスプレイが標準装備されているにも関わらず、
ナビが付いていないというのは先代アクシオのイケてないバックモニターを想起させる。
しかし、この不可解な設定はインポーターの戦略のようだ。
上級のT4 SEには20万円でカーナビの設定があり、
インポーターはこれを売りたいがために
敢えて標準グレードのナビ外しを行ったというわけだ。
ちなみにT4 SEの本体価格は309万円で標準グレードの40万円高。
この価格は1シリーズと並ぶレベルだ。
T4からT4 SEになることで追加される装備は
・キセノンヘッドライト(CTベースで10万円)
・パワーシート+シートヒーター(マークX推定で7.5万円)
・部分本革シート(オーリスベースで12万円)
・クルコン
・パークアシスト(3万円)
・スカッフプレート
・リアアームレスト+リアカップホルダー
・17吋アルミホイール(CTベースで3.6万円)
想定価格36.1万円を差し引いても残りの装備で
3.9万円というのはどうにも割高だと感じられる。
これは実質的に
「カーナビをオプション設定できる権利代」と考えていいだろう。
他社の上級グレードはもう少しサービスしてくれているようにも思えるがV40はどうだろう。
269万円でターゲットの目を引いて
上級グレードに目移りさせる作戦を使うにしてももう少し上手なやり方があるはずだと思う。
ちなみに、V40のT4 SEにカーナビ(20万円)、セーフティパック(20万円)、
歩行者エアバッグ(6万円)で335万円となる。(実際はキャンペーンで315万円)
この仕様で支払い総額はざっくり353万円。
269万円~というスタート価格から考えると支払い総額はずいぶんな開きがある。
恐らく、発売後しばらくたつとテコ入れのために
カーナビが選べるように仕様変更が入ると予想する。
標準グレードにカーナビとセーフティパック、歩行者エアバッグがついて295万円、
初回輸入分でセーフティパック20万円分をサービスする余力があるのなら
キセノンとオプションの別デザインアルミホイールで17インチにインチアップして
300万ポッキリなんてやればみんな確実にこちらを選ぶと思われる。
それをやっちゃうと利益が出なくなるというのは理解できるが、
V40の持つ走りの力強さと安全装備の充実度と比べると
仕様設定の稚拙さがどうしても気になってしまう。
もちろんセーフティパックや歩行者エアバッグを諦めれば価格は26万円安くなる。
しかし、V40の魅力の多くを占めるこの
安全デバイスをつけないのであれば
V40をわざわざ選ぶ理由は希薄になるのではないかと考える。
今後の動向に注目したい。