●超小型モビリティとは
豊田市で超小型モビリティの実証実験があり、C+pod(シーポッド)に試乗できる機会があった。
<豊田市プレスリリース抜粋>
豊田市は、脱炭素社会を目指し、豊田市つながる社会実証推進協議会の取組として、トヨタ自動車株式会社及びNTPグループ株式会社トヨタレンタリース名古屋とともに、超小型電気自動車「C+pod」を活用した、カーシェア実証を開始します。この実証では、トヨタ自動車が提供する会員制カーシェアサービス「TOYOTA SHARE」を活用し、同社の社用車のうちC+pod 20台をシェアリング車両として市民等にも貸出します。なおこの車両は、出発ステーションと違うステーションで返却できる「ワンウェイ利用」が可能です。実証を通して、カーシェアリングに関する利用実態やニーズを検証し、市民や来訪者の新たな移動手段として提案するとともに、電気自動車の普及促進につなげます。
C+podは「超小型モビリティ」である。超小型モビリティとは国土交通省の定義では「自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ、地域の手軽な移動の足となる1人~2人乗り程度の車両」である。現代の自動車を取り巻く環境の中で、例えば高齢ドライバーの免許返納の一歩手前の受け皿、過疎地域のガソリンスタンドが閉店していく中での地域の足、物流のラストワンマイルの担い手、或いは観光地のゲタ代わりとしてこのような超小型モビリティが求められているという。
また国土交通省の調査によれば一般ドライバーの乗車人数は2名以下で10km以内が7割。更に5割が高速道路を走らないので、超小型モビリティの潜在的な需要があるとされ、超小型モビリティの普及によって運輸部門からのC02排出を削減できるのではないかという考えが背景にある。
その区分は下記の様になっており、今回取り上げるC+podは超小型モビリティ(型式指定)となる。
表を見ると分かる通り、C+podは原付扱いのミニカーと同じ寸法関係でありながら、ミニカーよりパワフルな原動機を搭載しても良い分、高速道路の走行はできず、最高速度は60km/h以下に絞られた軽自動車の一種である。最高速度を絞り、高速道路の走行を諦める代わりに衝突安全基準もフルラップ衝突が50km/h→40km/hに、オフセット衝突が56km/h→40km/hに緩和され、更にポール側突が免除される。
購入時にCEV補助金は貰えるが、免許は普通運転免許が必要で車検も軽自動車税も必要である。つまり、ユーザー目線では小型モビリティは不自由な軽自動車にしか映らない。上記を反映したのかC+podは個人で購入はできずリース契約のみの車種となっている。
現状でもコンビニエンスストアの配送車両や郵便配達車に超小型モビリティを使用している事例はあるが、これら車種はスクーターやスリーターより対候性が良く、コンパクトでちょっとした路上駐車は容易い点が営業車に向いているという。
●トヨタの超小型モビリティ
トヨタはかねてから、CO2削減のためにはHEV・PHEVが向いている。BEVは近距離コミューターに適しているという考えを発表してきた。
私が若い頃は、日産がハイパーミニ(2000年)、トヨタはe-com(1999年)を発表し限定的な用途で世の中に存在していた。特にハイパーミニは当時400万円という価格も普及には繋がらなかった。
2003年にはBEVでは無いもののスズキが軽自動車企画のツインを発売。かなり専用設計の部分が大きい車だったが、50万円を切るスタート価格で市販されるも、わずか2年で販売を終えている。
そんな中、C+podは新しい超小型モビリティの規格を活用し久々のコンパクトなBEVを世に出した。少量生産を前提とした小規模メーカーの製品とは一線を画したハイテンを活用したアンダーボディを奢っている。Frエンドは衝突安全のためのスペースとし、フロア下にインバータや薄型Liイオンバッテリーを搭載。モーターが後輪を駆動するレイアウトとした。昨今のBEVやPHEVはフロアが高いため手足を投げ出すような姿勢を強いられるがC+podでは自然なフロア位置と健全な着座レイアウトが心地よい。航続距離を150kmに焦点を当ててバッテリー容量を減らしたことと小径タイヤ(13インチ)が功を奏しているのだろうか。
P/Fは汎用性を考えて一般的なプレス成型品をスポット溶接して組み上がっているが、Aピラー~ルーフサイド、B-Cピラーなどの上屋はパイプフレームをリベット加工するなどして金型代をかけずに簡便に済ませているのが特徴的である。衝突エネルギの管理はプラットフォーム側に任せて衝突安全でトクした分を活用していると言うわけだ。美観に関わる外板は樹脂成形で作られておりカラーバリエーションやツートンカラーも容易に拡張しやすいことが特徴である。
諸元を見ていると第二次世界大戦後のバブルカーにも似たスペックを感じる。しかし、スバル360やミゼットIIよりも小さいサイズであり、相当に小さい。2名乗車だが、荷室はほぼ皆無でリュックサックくらいしか乗せられないだろう。衝突安全性能面で比較にならないがスバル360は実際に4人乗れるパッケージを実現しており、まだまだBEVはスペース効率が悪いと言うことを感じざるを得ない。
上にも書いたがC+Podは2024年夏を目処に生産中止となるという。これまでの生産台数は2000台程度と言われており、お世辞にも商業的に成功したとは言いがたい。クルマとしての粗さ、コンセプトの粗さなど実際に乗ってみても支持が得られる要素が何一つ無い点に寂寞感があった。
個人的には自動車を一台だけ持つとしたら、一切高速道路を走らない自信が無いので近距離専門だったとしても超小型モビリティには辿り着かない。フリートユースやカーシェアリングなど別にどうでも良い車の一つとしてこの手の超小型モビリティが求められるのかも知れないが、同じコストで衝突安全基準も高く、4人乗れて高速道路も走れる軽自動車があるのなら、わざわざこちらを選ばないといけない理由は何処にあるのだろうか。
唯一この手の超小型モビリティを選ぶ可能性があるとしたらとしたら、年老いて高速道路など存在しない公共交通機関の脆弱な地域に住んで、免許返納直前に仕方なく手を出す可能性があるが、それならもう少し自動運転のレベルを引き上げたい。
補助金無しで160万円を超える価格を考えれば、通勤の為だけに使いたいとも思えないし、通勤に使っても高速道路を使う社外出張にも転用できないのは不便である元々スクーターだったピザ屋さんの配達とか、レンタサイクルの代わりにC+Podだったらうれしいかもしれないが。
超小型モビリティ調査のために生まれてきたかの様なC+Podは結局2024年夏に生産を終えるという。町で殆ど見かけないまま役割を終えると言うことは、C+Podそのものの商品性の乏しさだけでは無く、まだ人々はBEVに夢を見たいと思っているし、本当に使っているシチュエーションの+αの機能が未だ必要であることを暗に物語っている。誕生の背景が違うと言えども、日産サクラと、C+Podを含んだBEV超小型モビリティ群の目撃頻度を比較すれば自明である。
何となくトヨタが作りたくて作った車という感じがしないし、だからなのか総合的な商品としての魅力にも乏しい。今後、超小型モビリティ自体も充分認知され、行政機関によって大量購入されるとか、特定の人たちに補助金を出して半額以下で供与するとか何か公的な目的のために存在するならば許容できるだろうが、そのためには価格競争力が必要だ。正直、この内容ならコムスの価格で売って欲しい。
下の写真は1970年の東京モーターショーに出品されたEVコミューター。結局、この時代からEVコミューターが提唱されているが、54年が経過しても、完全に実用化されることはない様だ。
