●流行った理由に納得
サニトラと言えば1971年から1994年までの23年の長きに亘り生産され続けたロングセラーモデルである。長く作られた商用車であることから、町中のいたるところで見かけた車だ。
酒屋さんでよく使われているのを見かけたものだが、レースの世界で名を上げたB110系サニークーペと共通設計の部分が多いことから、チューニングパーツも豊富に存在。走りを楽しむ趣味の為の車としての需要もあった点が面白い。
小排気量ハイカムシャフトのOHVだから高回転まできっちり回る。軽量なFRレイアウトだから軽快なコーナリングができる。旧き良きライトウェイトスポーツカーの資質を現代に伝えている存在とも言える。
だから、いわゆる古典的な車好きなお兄さんがサニトラを伝説のB110の末裔としてブンブン乗り回す光景は良く見かけた。(私の場合、むしろそちらの方をよく見かけた方だ)
今回、オーナーさんのご厚意で後期サニトラ(90年式)を試乗する機会を得た。同じ様な89年式カローラに乗っているが、トレンドセッターのカローラと当時既にロングセラーだったサニトラは共通する点がほとんど無いといって過言ではない。
特に1971年から1989年のときの流れは早く、どんどん車が良くなっていく時代だったのでサニトラの旧さはそれはもうひたすらに旧く感じてしまうものだ。ところが面白い事に趣味として考えた場合はその旧さは個性や魅力と言うものに変換可能だ。
そこを楽しめる人がサニトラを買い求め、思い思いのカスタムを施したのだろう。AE86だけにあらず、かつてはこのような自動車文化があった。(内容は置いといてトヨタハチロクはそこに切り込んだ功績は小さくないと思う)
さて、現代人の目でサニトラを眺めると、低く長くフラットなフード、必要最低限のキャビンに長い荷台が存在している。プロポーションからも荷物マキシマム・マンミニマムな思想が伺える。
その印象は運転席に座ったときにも体感することができる。オーナーの好みでステアリングはナルディ、シートはレカロに交換されていてスポーティだ。ドラポジを合わせようとすると、足元スペースの狭さに気付く。決して私の脚が長いわけではないが、これも当時の小柄な日本人にフォーカスした設計なのであろう。加えてレカロの潤沢なクッション圧によるものが大きいと思われる。
エンジンを始動させると、軽快なエンジン音が聞こえてくる。商用車ゆえにNVで良い得点はあげられないが車の息吹を感じるアイドリングである。4気筒ゆえにそれほどバイブレーションは感じない。
縦置きトランスミッションの4速シフトレバーを1速に入れ、早速発進させるが、発進はとてもしやすい。現代の電子制御スロットルではなくワイヤー式のスロットルがリニアに空気を送り、キャブレターで燃料と混合される。アナログだからこその感覚にあう操縦感覚は洗練はされていないが、思いのままだ。
現代にもMTは残されているが、電子制御スロットルとの相性はお世辞にも良いとは言えない。本来の電子制御スロットルは従来のワイヤー式では問題とされていたワイヤーの伸びの問題をも解決する可能性があったにも関わらず、単純にVAの名を借りたコストカットの手段として用いたため、微妙な操作が求められるMTに対して冷淡な反応しかしないモデルが実に多い。
サニトラは、何も考えず当時の常識であったワイヤー式を選んだに過ぎないが、2014年の目で見るとスポーティなデバイスを贅沢に使用している。
駐車場から大通りへ出るのだが、ステアリングは非常にダイレクト。ラックアンドピニオンではないとは言え、衝撃吸収装置すらないシンプルな機構なので、手応えに違和感がない。勿論パワステなど着いていないが、軽量なサニトラにそもそも不要。
パワステ自体は、操舵装置のダイレクト感を阻害する装置ではあるが車種によってはずいぶんと使い方が上手になってきたものもある。しかし、ノンパワステのダイレクト感もサニトラをスポーティに演出している。
大通りに出る為に強めの加速をする。FRゆえにステアリングフィールに違和感を出さずに後ろから蹴られる様な小気味良い加速をしてくれる。
2速、3速とシフトアップするが速度が出ていないにも関わらずとても楽しい。この楽しさはサニトラが自分の手の内にある感覚が強いからだろう。
積載時の性能を確保しなければならない商用車ゆえにローギアードでトップギアで走行していて気持ちいいのは一般道の速度レンジまで。高速道路の速度域ではエンジンが回りすぎて騒音が容赦なくキャビンに侵入する。
私も含めた現代人が文献で読んだOHVに対して抱くイメージはA12型エンジンには当てはまらない。高回転までストレス無く回り気持ちよい。現代の軽自動車レベルのパワーしか無いにも関わらず、サニトラは何とも言えない楽しさがある。
ロングボデーなので直進安定性はオリジナルよりも良くなっているだろうが、
これでもレーンチェンジが俊敏だ。いわゆる走り重視のサニークーペGX-5あたりだとどんな刺激的な挙動を見せてくれたのか興味深いところだ。
コーナリングもある程度の領域まではフワフワした曖昧な領域があるが、ある舵角からは車がググッと曲がろうとする。繊細な操作をすると何となく感じられる微小領域の挙動だが、エイヤッとステアリング操作すると手ごたえ無くスッと抜けたような挙動になる。そもそもの操作が間違っているとは言え、いわゆるリニア(線形)な反応ができないあたりは現代の車の方が上だ。
とは言え、峠道を走るシチュエーションでは、状況に応じたシフト選択、丁寧なステアリング操作を駆使すれば現代車のような速さで走ることができるだろう。しかも、現代車よりもドライビングプレジャーは大きい。もちろん、サニトラを遥かに超えるドライビングプレジャーを実現したモデルは幾らでもあるのだが、この何の変哲も無い廉価な商用車でこの走りができるというのは面白い。
そもそもストイックなまでにランナバウトに徹したモデルは、とことんアナログであるべきという考え方がある。人間の感覚を狂わせる介在物はないほうが好ましい。自分の意思で走りたいからMT。反応が変わるからパワステも電スロもEGIもいらない。ほとんど一人で乗るから後席も要らない。快適性はいらないから重いインシュレーターもいらない。
それを100%かなえる車は無いにせよ、限りなく近いのはケータハムセブン位のもの。そこから、現代のテクノロジーを利用しながら、若干の実用性を与えたものがマツダロードスターだ。
今回試乗したサニトラはキャブ仕様のハイカムOHVエンジン(チューニングパーツ豊富)、4速MT、Frストラット&Rrリーフリジッドの単純な脚を軽量なボデーに載せたことから、自ら望まなかったスパルタンな走りの素質を得ている。
現代的なスタイリングや快適性、衝突安全性など、犠牲にしたものは小さくはないが得たものはとても大きい。
サニトラは高速域以外で走るなら、常に十分な性能と絶大な運転する喜び(あえてこう書く)が得られる。これは、ハマってしまう人が多いのも当たり前だなぁと思う。試乗後、ニヤニヤしながらオーナー氏に鍵を返した。
車がダイレクトに反応する、とか軽い、ということは車の運転を楽しみたい人にとってはとても大切なことで、長きに亘って販売されたサニトラやミニ(イシゴニスさんの方)にはそれが備わっている。だから熱狂的なファンが居るのだろう。
初めてサニトラに乗せてもらったが、とても楽しいドライビング体験だった。