<暴力的な加速を味わう当時の何でもあり車>
1台目がダイハツムーヴ。先代は売れていたが規格変更に対応してたった3年でFMC。規格変更は新商品投入の絶好のチャンスかつ、ここで出遅れるとライバルに出し抜かれてしまう大切な時期故にまだ新鮮味のあったムーヴをFMCさせることとなった。当時は一気にFMCを遂行しなければならないダイハツのデザイン開発工数削減の為にイタルデザインへデザイン開発の外部委託を実施。ダイハツはジウジアーロデザインをアピールしていた。
試乗車は当時もてはやされた「エアロダウンカスタム」ではなくCR。標準形の上級グレード車である。聞くところによると、新車販売されていた当時、スギレン青年が本気で購入を検討していたらしい。
当時のダイハツのターボエンジンは3気筒のEFと4気筒のJBがあったが、あくまで主流は3気筒であった。(JBは後のコペン用エンジンとなり、異例のロングライフを果たすこととなる。)CRの搭載エンジンは3気筒でミラターボと同じスポーティなエンジンである。
先代を継承しながら、当時の標準車種であるミラやアルトとは明らかに異なる背の高いプロポーションをしている。現代ほどキャブフォワード化、ワンモーションフォルム化されておらず、エンジンルームの存在感がある事に当時は気づかなかった。
インタクーラー吸気口が目立つ位置に配置され、標準車との違いをアピールしていたが、現代では逆に吸気口が目立たないことの方がかっこいいとされる現代とは一線を画す。ドアフレームでセンターピラーを覆わない処理もセンターピラー付近の処理は現代とは異なっている。ウレタン接着ではなくガスケット式のクオーターガラスも当時の普通車とは工法が異なる軽らしい処理だ。ドアアウトサイドハンドルもメッキだが、隙間が広く、段差があるフラップ式で「ああ、当時はコレで良かったんだな」と思う。リアビューが見所だと個人的には思う。バックドアガラスの両端に縦型リアコンビランプを配置する手法は90年代に流行した。リアビューをワイドに見せるからだろうか。バックドアガラスの下端見切りが緩やかにV字を描く部分も、ライバルのワゴンRの直線的な見切りとは異なり豊かさを感じる。ガラスの歩留まりが悪くなるがデザインが頑張ったのだろう。横開きバックドアも当時流行した。縦か横かの論争は今のところ縦の勝利だが、わくわくゲートがどれくらい人気が出るかは注目したい。
乗り込んでみる。ベンチシートが採用されて従来の軽セダンとは一線を画す居住空間を誇るのが軽トールワゴンたるムーヴだ。
サイドウォークスルーを実現する為にフロアシフトからコラムシフトに移行したのもこの時代の流行であった。インパネシフト全盛の現代への過渡期として一度はオールドファッションと受け取られたコラムシフトが日の目を見ることとなった。今ほど収納数に青筋を立てていた時代ではないが、ある程度のものは収納できる。
I/Pは硬質樹脂の打ちっぱなし。特に部品端部のRが大きく、各部品の段差や隙が大きい為、現代の目で見ると随分とチープに映ってしまう。ただ、当時のコンパクトカーところか5枠キャブワゴンでもも似たようなものなのでムーヴのそれも十分水準内にあることは事実だ。組み付け誤差に対するロバスト性を確保するためには、部品端を丸くしておいた方がズレに鈍感で見栄え上いい方向に向かうが、精巧感が出ない。
2000年のカローラではそこにメスを入れてドアトリムとI/Pの隙を詰めまくった。これに類する活動の結果、見栄えはよくなったのだが、その影には部品単品の精度をあげる努力があったことが想像できる。軽自動車は遠出をすることをあまり考えていないのでカーナビの配置も比較的無頓着でI/Pアッパーの平たい面に
両面テープで液晶を置いてくれといわんばかりだ。とは言え、かつての軽自動車と比べればA/Cは当たり前でベンチシート+コラムシフト(+足踏みPKB)でゆったり室内。当時の軽セダンとは違い、「広さで我慢しない軽」という点でユーザーに新しさが伝わっていたと思う。
はやる気持ちを抑えられる試乗へ。スギレンさんを助手席に乗せ、幹線道路へ向かう。市街地での運転は車幅の狭さや大きな縦型ミラーの恩恵で昨今の新型車よりも扱いやすい。いくら空力が悪いとはいえ、高価なカメラを4つも付けることを考えたら鏡の値段が倍になったほうがよっぽどお客様の為になるような気がするが。
加速車線ではターボも本領を発揮する。気分が高揚するエンジン音の高まり、強烈なG。ロックアップ無しの4速ATは適切にトルクを増幅させながら加速を続ける。当時のNA系ハイトワゴンを運転したことがあるが、広さでは我慢しないが走りでは大いに我慢させる部分があったし、それは今も変わらない。
排気量660ccを超えられない軽自動車にとって走りの実力を上げるには過給が最も効果的だ。例えばダイハツでもL200Sの時代から、軽のパワー不足を補う為に量販グレードのJグレードにターボを設定していた。これは、極端なスポーツ性よりもエンジンの余裕に重点を置いたグレードである。
重量が重くなるムーヴも同様にターボを用意している。ムーヴの場合は走り重視と言っても、高速道路や登坂時の余裕を考えている思想のように感じる。
実際に80km/hまでの動力性能を考えればムーヴのターボ車は普通車の代替となりうる実力がある。車幅の狭さはハンデだが、適度に堅められた脚のおかげでそこまで怖い思いはしないで済むだろう。
高速道路へ行き速度を上げ、当時の制限速度である80km/hで走行してもかなりの安定感があり、そのまま現行の最高速度を迎えてもその印象はほぼ変わらない。エンジン回転数も3500rpm程度でカローラの回転数と変わらないレベルだ。
ただし、そこから追い越し車線レベルに速度粋に入ると、空気抵抗が大きくアクセル開度はどんどん大きくなる。またホイールベースとトレッドの関係で真直ぐ走らせるには細やかな修正舵を加える必要がある。
枠組みとしては旧規格の商品性を引き継いだもので軽セダンにあったドッカンターボをハイトワゴンに持ち込んだグレード故に暴力的な加速は楽しめるものの、ゆとりのある普通車の代替車となり得るかと言えば私の歯切れはよくない。
(2021年追記)
後年スギレン氏は理想通りのムーヴカスタムRS(4WD)を購入し、こちらは数日間借りて試乗した。このとき、後席をフル活用して子供を遊びに連れて行くなどしたが、印象はこのときよりかなり良かった。グレードの違い(カスタムターボの4WD)とスギレン氏のモディファイも良かったのだろう。2015年当時はL900の持つパッケージングの良さには気づけていなかったようでその意味で2020年にしっかりお借りしてレポートできたことは大変良い経験となった。
<背伸びした軽自動車>
次に乗ったのが初代プレオ。1998年の規格改正時にヴィヴィオに変わるメイン車種としてデビューした。4輪独立懸架、4気筒エンジンというFHI軽自動車憲法を遵守した上で流行のハイトワゴンを志向したプレオはヴィヴィオと比べると、明らかに背が高いが、あまりにも背を高くしすぎると従来型軽セダンからの代替が望めない為、中間的な全高としていた。
スタイリングはスバルの伝統を受け継ぐレガシィを思わせる6ライトのワゴンスタイル。軽のプロポーションでレガシィを感じろ、というのは無謀にも思えるが、意外にすんなりとレガシイの血統を感じられた。
全高が高いものの、クオーターピラーを隠した6ライトウィンドウのおかげで車体が長く見える点で、当時人気のあったワゴンRやムーヴよりも落ち着いたエクステリアに見せる事に成功している。
インテリアもムーヴ同様に当時のニーズに合致したベンコラ。I/Pも当時の軽自動車の質感を越えた本格的なものであった。確かにPWスイッチが壁スイッチであったり、ハザードスイッチがヴィヴィオ譲りの位置にある(そして吹っ飛びやすい)など軽自動車を感じさせる部分はあれど、基本的には普通車志向を感じさせる。
試乗車はエアロとマイルドチャージエンジンの組み合わせのLSと言うグレード。当時のプレオのエンジンラインナップは贅沢でヴィヴィオRX-R譲りのDOHC+SCエンジン、SOHC+SCエンジン、ベーシックなEMPIエンジン、SPI(シングルポイントインジェクション)エンジンに加えてマイルドチャージエンジンなるエンジンをラインナップに加えた。
マイルドチャージエンジンはホットモデルに比べると、SPIで過給圧も低く、インタークーラーも無いが、圧縮比が高められている。
スペックは60PS/6400rpm、7.6kgm/4000rpmと劣るが、その分街中で扱いやすく、現代のダウンサイジングエンジン的な性格を持たせている。つまり、最低限の投資で重くなったボディを引っ張れる街乗りエンジンを開発したと言うわけだ。
プレオが発売された頃、免許も持たないスペック小僧であった筆者にはプレオのマイルドチャージエンジンのコンセプトを知識として理解できてもその思想に共鳴することは無かった。ところがその後、スズキはMターボと称して類似したスペックの低過給ターボエンジンを搭載したモデルを追加したことからも、スバルのマイルドチャージエンジンの先見性は他社にも認められていたようだ。
現代になるとVWはTSIの名称で直噴ダウンサイジングターボを開発。2015年にはついにトヨタまで対抗商品を出すようになったダウンサイジングコンセプトの先駆けのようなエンジンである。このようなエンジンを最初から世に問うあたり、スバルはプレオを軽自動車として他社に横並ぶ商品ではなく、普通車ライクな軽を志向している。軽自動車の定石である低出力3気筒エンジン+4AT+Rrトーションビームではなく、4気筒マイルドチャージエンジン+i-CVT+Rrパラレルリングストラットを採用した事からもその意欲が伺える。
走らせたときに感じるのは1998年デビューの軽自動車としては意外なほど素直なCVTの味付けの良さであった。プレオのCVTは従来の故障しやすい電磁クラッチに変えて日産が先鞭を付けたトルコン式CVTを採用した。この改良は日本の多くの自動車メーカーの変速機を一気にCVTに引き込んだ画期的な改良と言えるが、
当時はまだロックアップ無しの4ATが主流で廉価グレードではまだまだ3ATで十分と言われた時代に商用グレードにまでCVTを展開。今度こそは!という意気込みを感じる。
市街地走行をしていると、多少CVT的ともいえるビジーな変速を感じるがインパネにあるECOスイッチを押すと万事がうまく収まる。ECOスイッチを操作すると、CVTはハイギアード側に変速する為に「元気さ」を出そうとしてむやみに変速比を低めなくなる。その分、絶対値としての加速感はスポイルされるものの、MTライクな右足との接続感が高まるのだ。エンブレもしっかりかかる点も好印象。プレオを設計した会社の近年の作品では、CVTの味付けが1600ccもある割りに軽自動車レベルにとどまった結果、大いにドライバビリティを損なった例を思い起こすと1998年のプレオの良さをもっと研究して欲しいと思う。
特に高速域ではその印象が高まる。ノーマルモードではどうしても「元気さ」を確保する為にアクセル操作とともにロー側へ変速してCVTフィールを感じるが、ECOモードではそれがグッと抑えられるので副産物的なものだが違和感無く気持ちのよいドライブが出来る。というのも、低回転で力のあるマイルドチャージエンジンの恩恵でそもそもアクセルを思い切り踏むシーンが少ないからである。
絶対的な加速Gで考えれば古典的ターボを積むムーヴの方が刺激的で投資効果がGに表れている事が分かりやすいが、プレオの場合、全域でトルクフル―ムーヴと比較すれば、低速でトルクフル、高速で勢いが鈍る―であると言えるだろう。
このプレオ、実はE/Gオイルのフィラーキャップを点検したら縁にマヨネーズ上の物体が付着しているような死にかけの個体であったが、それでもこのような上質な走りを提供するというのだから面白い。後年、FMC扱いでR2が出たものの、プレオの人気が再燃して縮小したバリエーションが復活した理由もわかる。
ついつい運転が面白くて100kmほど運転してしまった。(そして筆者が試乗して1週間ほどで廃車になってしまった・・・・合掌)
(2021年追記)
ヴィヴィオに乗っていた私は後継機種であるプレオには興味はあれども乗る機会が無かった。スギレン氏の代車として運転させて貰ったのだが、母を亡くしたという報告をこの車の中でしたことを思い出した。国道23号線を走りながら、この経緯を話し続け、結局浜松まで走り続けてしまい、ここまで来たんだからとスズキ本社近くのさわやかでハンバーグステーキを食べて帰ってきたのだ。重苦しい話を聞かせてしまいスギレン氏には申し訳ないことをした。当時はまさに旧車とも言えず「代車」などとしてプレオをよく見かけた時代である。最近になって友人の大虎氏が定額給付金で買える車としてプレオを買い求めたという大きなニュースがあった。ムーヴ同様に、今改めてプレオに乗れば気づくことが出来る魅力があるかも知れない。この個体にもいつか必ず試乗してレポートしたい。
●強引なまとめ
1998年にデビューした2台の過給エンジンを搭載したトールワゴンに試乗した。ワゴンRと共に軽セダンには無い室内空間を得たムーブ、ダウンサイズ志向を先取りして上質な走りを得たプレオ。
ムーヴのユーティリティ志向はタントやウェイクに引き継がれ、ムーヴは高級志向の軽自動車になり、プレオの場合はFHIがそもそも自社開発をやめてしまったが、軽自動車マーケットのダウンサイジング志向の受け皿という現在の立場の礎を気づいたと言っても過言ではない。
軽よシンプルであれ!というのも正論だが、軽でも豊かでありたい!というのも正論である。近年ではミラe:sやアルトが前車の立場を引き継いでいるが、タント、N-BOXが後者を引き継いでいる。
1998年の秋と言えば筆者は中学3年生で受験まで半年を切った頃である。あの頃に軽自動車がここまで進化して受け入れられるとは思わなかった。
そしてあの頃のニューカーを運転できる機会に恵まれて幸運であった。スギレンさんに感謝。
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