
天皇陛下が、お気持ちを表明され、退位されるというニュースが流れた。
同じ頃、我らが
スギレン氏が陛下がプライベートで愛用されていたのと
同じモデルの
ホンダインテグラ4ドアハードトップを手に入れた。
陛下のインテグラはRXi(5速MT)というグレードだそうだが、
スギレン氏のインテグラはトリノレッドパールのZXi(4速AT)だ。
新車価格は182万2200円とのことで、
1600ccという価格からすれば強気な価格設定と言えるだろう。
スギレン氏と陛下はお誕生日が同じとの事で親近感を持たれていたそうだ。
スギレン氏とホンダ車のマッチングは新鮮かつと良好。
新年号の検討、退位後は上皇になられるなど着々と準備が進む中、
天皇陛下とお揃いのインテグラを体験する機会を得た。
●当時のスタイリッシュを体現した外装
DA7型インテグラは1989年にデビュー。
当時の若者車らしくスポーティな3ドアクーペと
スタイリッシュな4ドアハードトップの二本立て。
当時の自分はマイケルJフォックスのCMが
おぼろげに記憶にあるくらいだが、
よく売れていて街でよく見かける車であった。
私が物心つくようなころには、世間はすっかりRVブームで
当時の私から見たインテグラは旧さが際立って見えた。
スマートで薄くてスタイリッシュな車よりも、
ごつくて遊べる機能満載のRV車が求められている時代だったからだ。
しかし、一通り時代が過ぎ2017年に改めてインテグラを見ると、
なんとも言えないかっこよさがある事を認めざるを得ない。
薄くてワイドなヘッドライトも昔は寄り目に見えたが、
インテグラ独特のシャープなフォルムとマッチしている。
特にフード形状はリトラクタブル式ヘッドライトだった
先代のモチーフを活かしている。
薄型ヘッドライトが可能になったからこそできる表現といえよう。
ウエッジシェイプを描いているが、フードの低さが功を奏して
ベルトラインが低い為、リアが分厚くなりすぎていない。
この意匠がインテグラらしさとして広く認識され、
3代目インテグラでフロントフェイスを手直しする際のネタ元となった。
4ドアハードトップは85年のカリーナEDが先鞭をつけたジャンルである。
比較的遅めの参入であるがブームが熟した時期の選択肢の一つに
加わることが出来て販売状況は悪くなかった。
サイドから見たインテグラのスマートさはボディサイズを忘れる程。
シビックベースと言われながらも、
全長4480mm、全幅1695mm、全高1340mm、
ホイールベース2600mmというサイズは、
180系カリーナED(全長4485mm、全幅1690mm、全高1315mm、
ホイールベース2525mm)に近い。
アコードと比べると一クラス小さいながら十分な存在感がある。
個人的には斜め前から見たときのサイドビューが美しい。
低く長いフードと延長線がフロントホイールセンターに交わるAピラー、
小ぶりなキャビンとラウンドしたリアガラス。
昔のスペシャルティ良さを余すところなく伝えている。
また、ホイールサイズが185/65R14という今では小径タイヤに入る部類なのに、
フードが低い恩恵で必要十分なサイズに感じられる。
今なら19インチや20インチを履かないとこのプロポーションは得られないだろう。
見れば見るほど細長い車が好き、
と公言するスギレン氏のツボを押さえた車といえよう。
思わず
カッコインテグラ、と独り言を呟いてしまった。
●広くは無いが、広く感じさせる工夫のある内装
早速運転席に着座。
寝そべった姿勢が想定されたドラポジなのだろう。
居住性としては悪くない。
シートは上級グレードではセンター部だけモケット、
サイド部はソフトウィーブという、ざっくりとした手触りの生地が採用されている。
モケット一辺倒ではないカジュアルな選択はかえってインテグラらしい。
ちなみにファミリーユースの量販グレードであるZXエクストラだけは全面モケットを採用している。
フロント席の室内空間はこのセグメントでは
常識的で特に狭くはない。
シートに腰を下ろすと現代車とは視界が異なる事に気づく。
低いところにペタッと座らされる割に閉塞感を感じないのは
カウルやベルトラインが低く、ピラーも細いからであろう。
幹線道路沿いの店舗に入る際に生垣が邪魔になる他はデメリットを感じない。
そして意外とリア席も中央以外は何とか実用に耐えそうだ。
確信犯的にリア席の居住性を無視する車も少なくないが
インテグラ4ドアハードトップは165cmの私には十分なスペースであった。
しかし、屈強な護衛や侍従を乗せるには少し狭いかもしれない。
インテグラの場合、Rrのニースペースを稼ぐために
Frシートのシートバック形状を膝の前だけ抉ってある。
「ニーエスケープデザイン」とカタログに記されているが、
実際に座ってみて効果を感じることが出来た。
また、前後とも言えることだが、
ルーフヘッドライニングの厚みが十分薄く、
デザインと居住性を両立している。
特にリアは頭が来るエリアはペタペタに面を叩いて
端末は黒いゴムで上手に隠している。
成形天井だが、表皮はビニール系の素材を使用。
経年劣化でパリパリになりそうなものだが、この個体は綺麗に残っている。
面白いのはサンバイザーの裏側が植毛で表がビニールになっている点だ。
ルーフヘッドライニングの材質と合わせてあって、裏の植毛は異音対策か。
インパネは圧迫感を軽減する為に低くフラットなデザインで、
メーターフードだけが飛び出すような意匠になっている。
I/Pアッパーはソフトパッドが奢られ高級感を確保、
エアコンはオート、マニュアル共にステアリング左の
手が届きやすい一等地にスイッチがある。
今回試乗したZXiはオートエアコンが標準装備されているが、
手元で温度調整とオート作動のオンオフが出来る。
マニュアル操作をしたい時はレジスター下のリッドを開けて
ボタンで操作するのだが、普段はオート使用で十分なので
リッドを閉めておいて下さいということらしい。
同様の試みはEFシビックでも実施しているが、
実際はマニュアル操作をしたい人が多かったようで
後世には残らなかった。
空調で面白いのは運転席のレジスターは走行中の動圧で
新鮮な空気をドライバーに当てる
ラム圧ベンチレーションが装備されていることだ。
恐らく専用のダクトを引いており、強めのスポット風が得られる。
熱線吸収ガラスやプライバシーガラスの無い時代の
グラスエリアの大きい車ゆえに、空調には配慮がなされていて、
ダクトはステアリングに当たって冷風が淀まないように
レジスターの位置を調整しているという。
低めのインパネゆえに縦方向の余裕が少なく収納は少なめ。
飲み物を買ってもカップホルダーの設定が無いのだが、
代わりにグローブボックスダッシュのトレーにくぼみがある。
試しに置いてみたが意外と使える。
一般道路を普通に走っているレベルの加速度であれば
飲み物が落ちることは無かった。
●先代から大幅に進化した走り
私は幸運にも初代クイントインテグラを
過去に数回運転した
経験がある。
2代目のインテグラでも
車両キャラクターや着座感は変わっていないが、
乗り味が大きく進化している。
市街地では存外に乗り心地がよく、
4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションが良い仕事をしていた。
店舗から歩道をまたいで本線に合流するようなシーンで、
ソフトに衝撃を受け止める瞬間に4独を感じる。
先代と比べるとボディも随分しっかりとした印象を受け、
車として大きな進化を感じた。
ただし、現代の車と比べるとステアリング中心と
ヒップポイントの幅方向のズレが大きい。
インテグラの場合、真直ぐの道を走っている時は
自然と片手運転になってしまう。
体がズレに対処しているのだろう。
ステアリングをたえず操作するようなワインディングを走っていると
特に気にならなかったが、直線的な農道を走ると気になった。
エンジンはエンジン屋の面目躍如。
普段使いの回転数でもトルクフルなのに
高回転まで淀みなく回り、パワーが湧いてくる。
カローラGTの4A-GEを凌ぐ実力だと感じた。
インテグラと言えば世界初のVTEC DOHCエンジンに
注目が集まりがちだが、
SOHCながら16バルブ化して
DOHC並みの性能を発揮するこのエンジンには恐れ入った。
ロッカーアームを介した複雑な機構ゆえ
部品点数は多くなるものの、
機械加工を要するカムシャフトが一本減るというのは
コスト的に有利なのではないか。
高回転が楽しいエンジンは
下がスカスカという印象を持っていたが、
このエンジンは見事に想像を裏切る。
走行距離が13万kmを超えているにも関わらず機関は絶好調。
思わず
調子インテグラ、と独り言を呟いてしまった。
注目はエンジンだけではない。
電子制御ロックアップ機構付き4速オートマチックはロックアップ走行した後、
アクセルオフ時にもロックアップを継続する。
実際に中速域から40キロ位まではエンブレが効いて運転しやすい。
スポーティなオートマチックは好印象だった。
89年当時はアクセルオフでロックアップを
解除して惰性走行する方が燃費は良かっただろうが
インテグラにはこちらの方が合っている。
100km/hでのエンジン回転数は2800rpm位。
車格を考えると高めだが、6750rpmからレッドゾーンが始まる
高回転型のエンジンの実力から考えれば妥当か。
都市高速を走らせた。
ETCゲートをくぐってフル加速をさせた。
6000rpmを境に規則正しくシフトアップする。
レッドゾーン付近はさすがに回っているが速さは感じない。
流れに乗って走るとそこそこの速度になるが、
橋の継ぎ目のいなし方は洗練度で現代車に一歩譲る。
また、サッシュレスドアの泣き所である風切り音は
各部の経年劣化もあり、かなり気になるレベルである。
エンジン音も比較的キャビンに侵入する為、
快適なクルージングという訳にはいかないが、
これが何故か快適なのだ。
都市高速ではRの小さいコーナーに出くわすことが多いが、
そんな時こそインテグラは生き生きとしてくる。
ATのセレクターレバーをD3に落とすと、
適度なエンブレを聞かせながらコーナーに侵入。
立ち上がりでアクセルを開けると胸すく加速が味わえる。
コーナーではロールはほとんどさせないのが当時のホンダ流、
大したタイヤサイズでは無いのにグイグイ曲がってしまう。
例えば首都高速をドライブ目的で走らたりすると楽しいのではないだろうか。
あたかも、プールのスライダーを楽しむようなワクワク感である。
ルーレット族(死語)のように命を掛けて走る必要は無い。
流れに乗って走るだけで適度なドーパミンが出る。
コーナーを一つ越え、二つ越え、
思わず
気持ちインテグラ、と独り言を呟いてしまった。
こんな車をワインディングに
持ち込んでしまうとどうなってしまうのだろう。
やめておけば良いのにやってしまった。
舞台は超田舎の農道の一部区間、
エンジンがどんどん回転を上げようとする、
高回転を維持し良いペースでコーナーに侵入しても
相変わらずロールする感覚がない。
旋回中も姿勢が安定し、
舵を切り増した操作にも涼しい顔で対応してしまう。
コンパクトなボディと相まって水を得た魚の様だ。
ついぞタイヤが鳴くことは無かった。
ひと走りさせてみてこれはスポーツカーだと思った。
ところが、私が試乗したのは
フラッグシップのVTECでもないSOHCエンジンで、
ホイールベースの長い4ドアハードトップなのだ。
スポーティさよりもスタイルと高級感を訴求したい車のはずなのに。
10年前のアルバイト先の先輩は
インテグラの3ドアクーペVTECに乗っていたそうだが、
奈良県の奥山という知る人ぞ知る峠でインテグラを廃車にしたという
エピソードを思い出した。
私が試乗した個体ですら、あんなに安定して走れるのに
先輩は余程無茶な運転をしたんだろうなと思われた。
興奮を冷ますために窓を全開にして流してコンビニへ。
ドアを閉めようと手をかけると、
ちょうどクリアが剥がれている処に手がかかった。
きっと最初のオーナーは頻繁に窓を開けて
タバコでも楽しみながらドライブされていたのだろう。
そして窓を開けたまま車を止めて乗降したのではないか。
クリアが剥がれた理由が分かった。
この車が最も輝くのはコーナーが連続するワインディング路だ。
しかし、郊外のワインディングよりも都市高速を進めたい。
インテグラが持つスタイリッシュな高級感が都市に似合うからだ。
夜の大都市を効果の高い位置から縫うように走る姿が容易に想像できる。
空いた首都高速をインテグラで流すと最高の気分だろう。
渋滞中の首都高速では平べったい車体が災いして防音壁と
周囲の大型トラックに囲まれると景色が楽しめない。
ところで燃費は291.2km走行して21.95L給油した。
13.26km/Lという記録はカタログ値(11.8km/L)を超える好成績だった。
力強い割りに、そしてAT車であるにも関わらず経済的といえよう。
比較的軽量な車体、投影面積の小さいボディも貢献したはずだ。
思わず燃費インテグラ、と独り言を呟いてしまった。
●まとめ
連休中、基本的には赤ちゃんのお世話をしながら家にいたのだが
細切れの時間を駆使してインテグラと触れ合った。
この個体は一般的な感覚で程度は
さほど良くない中古車かもしれないが、
乗れば乗るほど「もっと走りたがっている」と強く感じる。
元オーナーはこの車を中々処分できずに居たようだが、
これもインテグラが持つ魅力のせいなのかも知れない。
思えば、元オーナーがインテグラを買い換えるとして
一体何を薦めれば良いのか躊躇してしまう。
アコードでもグレイスでもない、
かといってメルセデスのCLAでも無いのだ。
小柄だが存在感があり、元気でカッコよくて・・・・
カジュアルだけど安っぽくない・・・
まるでマイケルJフォックスの様だ。
CMがピッタリのキャスティングだったと言うことだろう。
そして26年前に天皇陛下(当時56歳)が
インテグラを愛車にされるという選択も粋に感じられた。
私の中でもインテグラ像ががらりと変わった。
何となく中途半端な車というイメージを持っていたが、めちゃ良い。
めちゃインテグラ・・・・スギレンさんに返却した後、こう呟いてしまった。
貴重なお車を貸してくださったスギレン氏に感謝。
(いや、忙しい?自分に代わりRAV4を修理してくださって更に感謝)