MINI原人昆虫記も専門的な内容ながら好評のようなので、木に登るサルの気持ちで調子にのり、今日も昆虫記をお送りします。
クルマにおいてはシャシーとボディで作られるクルマの頑丈さ=剛性がとても大事である。本日は本日は昆虫のボディ剛性、すなわち身体の硬さ・強さについて解説する。
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まず、この写真をみていただこう。2013年7月6日サンフランシスコ空港で着陸に失敗したアシアナ航空機である。これをみると飛行機というものは、衝突安全性能というものがないことがわかる。飛行機の強度を決める重要な要素は、(1)上向きまたは下向き突風および操縦(たとえば大迎角引き起こし)によって働く最大荷重と,(2)運用中に働く大小さまざまの荷重のパターンであると言われる(
JAL 航空実用事典)。すなわち飛んで、離着陸するのに十分な強度があればいいのであり、落ちたり、着陸に失敗したりしたときはどうせ全員絶望なのだから、乗客の安全を確保するための強度は設計には入れられない。こういうサッパリした考えを原人は好きだ。
一方自動車ではよく衝突するので、前方が壊れやすく、乗員スペースが頑丈になるような剛性が必要だ。また、ポルシェボクスターのようなオープンカーでは前輪と後輪の間に生じるねじれに対する剛性も重要である。
M1 エイブラムス戦車のような車両では、敵の砲弾、ミサイル、地雷に対して貫通させない強さが必要であり、F1 カーでは外側は壊れても、ドライバーを守るモノコックという軽くて丈夫な中の殻が重要だ。 余談が長くなったが、ここからは昆虫の話だ。
(1) 昆虫の外骨格のしくみ - 多層構造のキチン質
昆虫などの節足動物は外側に硬い外皮があり、内側に筋肉や内臓がある外骨格を持つ動物だ。身体の内側に骨がある人間などの脊椎動物の内骨格とは異なる。この外骨格を作るのが外皮(クチクラ cuticle)である。昆虫のクチクラはタンパク質の母材とキチンのナノ繊維との繊維強化複合材だ。
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このタンパク質はグラスファイバー複合材やカーボンファイバー複合材の樹脂に相当する。すなわち、上記のF1モノコックシェルに使われるカーボンファイバー複合材と同様に、非常に軽く、柔軟性に富みながら強靭である。昆虫は硬いが通常の自動車の鉄板やM1エイブラムスの鋼板とは違うすぐれた素材でできている。
(2) 巨大昆虫がいない理由 - 都市伝説
昆虫がある程度以上大きくなれないのは、外骨格であるクチクラの強度が足りないため、ある程度以上大きくなると重力によりぺしゃんこになってしまうからだという説が流布されている。 しかし、最近の研究ではそうではなく、前回
MINI原人昆虫記14にてにとりあげた酸素の供給での限界が昆虫の大きさの限界であるという。
タイタンオオウスバカミキリ。おかりしました。
Kaiser Aらの研究(
PNAS, 2007)では、各種サイズの昆虫の気管が体内を占める容積を高エネルギーX線を用いて測定したところ、気管の容積は昆虫のサイズが大きくなればなるほど増していき、その限界を計算したところ、タイタンオオウスバカミキリの大きさが限界であることが判ったという。
その証拠に酸素濃度が高かった時代には体長50cmのゴキブリが存在できたのである。
実際以下の例をみると、カーボンファイバー強化繊維複合材と同様の構造を持つ昆虫のクチクラの強度の問題で昆虫が大きくなれないのではないことがわかるだろう。
(3) 最も硬い虫 - カタゾウムシ
クリストファー・マーレー:世界一うつくしい昆虫図鑑よりおかりしました。
この美しいひょうたんのような形の虫たちは東南アジアのカタゾウムシ(硬象虫)という昆虫だ。美しいがその名のとおり、最も硬い昆虫である。どのくらい硬いかというと、大人の指では到底つぶせないほどであり、昆虫針を通すことができないほどだ。まさに石のように硬い。従って、堅さが足りないため昆虫は大きくなれないわけではない。
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こちらはダイヤモンドゾウムシ。 背中にダイヤがちりばめてあるように見える。クチクラが光を反射することによりこう見える。 しかし地球上で最も硬い炭素の結晶であるダイヤモンドほどは硬くない。
(4) 最も強い虫 - タウルスエンマコガネ
では、外部に骨格があり、内部に筋肉があることで、自分の体重を支えるほど力がだせないのではないかという疑問はどうであろう。
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この甲虫はタウルスエンマコガネ(Onthophagus taurus)という糞虫だ。この糞虫は自分の体重の1,141倍もある糞の玉を引っ張ることができる。体重70kgの人間に換算すると、2階建てバス6台をいっぺんにひっぱるほどの怪力である。 したがって力が足りないために大きくなれないわけではないのだ。
(5) 最も硬い部分 - オオアゴのひみつ
昆虫の外皮はすべて同じ硬さではない。下側の腹部は柔らかく、鳥などから攻撃を受ける上側は硬い。そしてもっと硬い部分がある。他の雄との戦闘、食物を噛み切ったり、磨り潰したりする昆虫の大顎のクチクラは強化されている。この硬さは歯のエナメル質と同程度である.このクチクラの強化は亜鉛やマンガン,ときには鉄といった重金属を取り込むことで実現されている.これらの金属は最大でクチクラの全乾燥質量の16%と比較的大量に存在する。 これはスーパーカーやF1カーにおいてカーボン線維とマグネシウム複合体を作ってより強度を高めるような高度な技術に相当する。 昆虫は進化の過程で、人間がようやくだどりついたことをはるか昔からやってのけている。
(6) 最も小さい虫 - Scydosella musawasensis
では、このような外骨格で昆虫はどれほど小さくなれるのだろうか? なんと体長 0.325 mmという極小サイズの甲虫が最近発見された(
Zookeys, 2015)。
これがその昆虫Scydosella musawasensisである。このサイズは自立生活ができる昆虫としておそらく最小という。
寄生生活を送る昆虫ではもっと小さいものがいて、Dicopomorpha eschmepterigis は0.14mmしかない。 こんなに小さくても動けるのが不思議である。
(7) 全重量で最も重い昆虫は - アリの惑星
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昆虫のうち最も繁栄しているのはアリである。地球上のアリのの重さをすべて足し合わせると、ヒトを含む全脊椎動物を足し合わせた重さをはるかに多いという。 100億人もいる人間よりアリのほうが繁栄しているのだ。 地球はアリの惑星といっても過言ではない。
自分がいちばんエライと思っているのは人間のウヌボレだ。
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2016/11/24 22:10:19