中華街には、横浜スタジアムから、首都高沿いに歩き、西門の先の一方通行を逆に入った
目抜き通りである 長安ストリートを超えると
目的地である 関帝廟がある
地方の人には知られていないが、三国志の猛将 関羽 関聖帝君を主神とした神社である
関羽といえば、数々の武勇伝で、三国志で一番人気の武将だが、実は算盤の発明者である、中国の商人は関羽を祀り
世界中 どこの中華街にも、必ず 関帝廟があるという
横浜中華街の関帝廟には
関聖帝の守護神として
周蒼 関平 観音菩薩 福徳正神
四人も一緒に祀られている
横浜で一番中国の歴史を感じられるので、もし彼女が出来、中華街にデート来たならば、是非、一度は訪れてたいと思っていたが、この歳になってしまった
「裏の裏は表 おもっとったら、死ぬで」
公務員時代の、豚子ちゃんの台詞を忘れずに
最新の注意を払って、中華街に入ったが、尾行らしき気配はない
石段を上り
線香と金紙を買ってお祈りの為、目を閉じると
「何を、今更 願っとんねん、ヘタレが」
懐かしく、聴き覚えのある 関西弁で振り返った
「ど、どうも」
「元気そうやの〜」
トレードマークの偏光サングラスを外さずに、口元が笑う
「豚子ちゃんも」
ヒロトが 笑いながらがら返すが、彼女は、お祈りもせずに、スタスタ歩きだす
「たまには、お祈りしなって」
後を追うように、ヒロトは 豚子の背中に叫ぶが
「ウチは神仏は好きやけど、信じてはおらんねん」
「相変わらずだね〜」
昔と、同じ答えを返す豚子に、ヒロトは追いつき並び、一緒に歩きだす二人
参拝なれした地元の夫婦のように、二人は関帝廟を出ると、グルメガイドや SNS で評判の店には見向きもせずに、スタスタと歩きだす
狭い路地に入り、中華街の外れ
古呆けた 小籠包の店の前で足を止めた
「百龍飯店 」
色褪せた金看板をヒロトが見上げると
豚子は躊躇いもなく、スッと店内に入った
店は三十畳ほど、入って左側の壁際は 仕切られたボックス席になっている
「いらっしゃいま、あれ〜珍しいシャン(美人)が来たよおお〜」
香港のカンフー映画に出てくるような帽子を チョコンと被った、痩せた小さな老人が豚子に近寄る
「ワインとパンに飽きただけや」
「相変わらず、小姐は面白いね~」
老人は 嬉しそうに 豚子の手を引っ張り
挨拶もそこそこに左奥、厨房に一番近いボックス席に案内した
「舎弟も久しぶりですの」
背の低い老人は ヒロトにも 懐かしそうに声をかける
「お陰様で」
「見てみぃ〜この中年の醜い腹」
豚子はヒロトにボディーブロー
「うっ」
ヒロトが 内臓脂肪の塊で出来た腹を抑えると
「小姐ご注文は?」
「適当で」
「お酒は?」
「バイクやからノンアル」
豚子が答えると
老子は笑って頷き、厨房と店の仕切りのカウンターから
「ママ〜客人に、いつもの!」
老子が叫び、立ち去ると
「懐かしいな〜」
ヒロトは店内を見回し、香港版の広東語で書かれた ポスターを見て呟く
「こんなんでも、今 メッチャ ええ値段すんねんで」
豚子も 燃えよドラゴンの鏡の部屋でポーズをとる ブルース リー見ていう
「そうそう、昔はジャキーチェンとか、ロッキーとか 沢山売ってたのにね」
ヒロトがこの店を知ったのは、豚子が神戸の反社会組織と、神奈川県警の大物が連んでたのを内定してた時である
真実は、神奈川県警の上の警察庁の誰かなのだが、事件はトカゲの尻尾切りで、神奈川県警で終わってしまった
恐らく、豚子は黒幕をしっている
そして退職した
リベンジするのか
墓場まで持っていくのか
あの事件の事は、死ぬまで豚子に聞かないと自分自身に誓い
今、10年振りに
豚子本人を前にしても、それは変わっていなかった
この 百龍飯店、豚子は決して 自分にも喋らないが、
ヒロトの予想は青幇である
それは、あの事件で確信を得て、豚子にそとなく聞いた事を、飲茶を飲みながら思い出したので、豚子に思い切って
他の客に聞こえないように、囁くように切り出した
「ねぇ、この店、昔、教えてくれた青幇だよね、そうでしょ?」
「うっさいな、今は退職したんやから 関係ないやろ〜」
「そんな事、いったって、あの女将さん、昔、メッチャ強かったじゃん!」
「大姐は 詠春拳のマスターなんよ」
「詠春拳って、あのブルースリーが香港で学んだ拳法のっ?」
「せや、元々、詠春拳は 北派より北の武術で 南に逃れて来たんやて」
「そうなの?」
「始祖はオナゴやで」
「その説だと、ブルースリーは最初、女性の拳法を習ったて事になるけど」
「その始祖の女性の弟子が、イップマン でブルースリーの師匠やないか」
「おおぉ〜理解」
「合気道は、太極拳にも似とるけど、詠春拳にもにとんねん」
「うん、うん、」
「手を出してみい」
カンフー映画の様に、豚子は 手刀をヒロトの前にだす
ヒロトも 豚子の相方になってから、合気道をかじったので豚子の手刀にそっと合わせると
触れた瞬間にクルッと豚子の手首が一回転し、小手返しから、豚子の必殺技の三教に変化した
「いたっ!痛っ痛っ!痛いってえぇー」
ヒロトが叫ぶと、真っ赤なネイルの太い指が 豚子の手首を掴み
「痛っ、痛たたた」
豚子も悲鳴をあげ、ヒロトの手首を離すと
「はいよ〜小籠包に海老チャーハン」
乱暴にテーブルに置かれた、チャーハンと化粧の臭いに、ヒロトが見上げると
でっぷり、太った 中年のオバさんが、二人を見下ろし
「小豚姐、久しぶりだね」
ニッコリ、豚子に微笑んだ
「オバちゃんこそ、年とらんで」
豚子が 手首を摩りながら、挨拶を返すと
ヒロトは でっぷり太ったオバちゃんが、昔と全く変わらないのに気付き驚いた
豚子の方は 月日が経ち、歳をとっている、ただ老けてはいるが老いてはいない
そんな、年相応の美人なのだが
この百龍飯店の女将さんは
体型も 肌の艶も 目の色も 昔のまんまだった
「舎弟も一緒で、小豚姐 復帰したの?」
「ちゃうねん、遊びや 遊び」
豚子は大袈裟に、小籠包を口でモグモグしながら、中国箸を振る
「なんだ、つまんない」
「こっちの方や」
豚子が バイクのアクセルを捻る真似をすると
「バイクといえば、大豚姐の 次女イイわね〜」
太った女将の、いう大姐豚とは、豚猫モータースの豚子の姉の豚美の事だと、すぐにヒロトが気づくと
向かいの空いた席から 椅子を引っ張りだし
腰掛けだす、でっぷり女将
「好豚ちゃんか、僕も試合、全部観たよ!」
ヒロトも 好豚が 総合格闘技デビューした事を言い出す
「あの娘は、まだ 敗北を知らんねん」
豚子は箸を置き、飲茶を啜ると
「負けたら、ウチに連れて来なさい、いつかの 小豚姐みたいに鍛えてあげるから」
でっぷりオバちゃんは、笑いながら椅子を立ったので、豚子は囁くようにヒロトに顔を近づけて
「ウチのオネーに勝てるのは、あの妖怪デブだけやろ」
「いやいや〜豚美さんも 僕には恐ろし過ぎるけど」
豚子の顔を間近に見た、ヒロトはドキッとし、豚子こそ、妖怪のように、昔より綺麗なっていると確信したが、口には出さずに
「コッチの遊びって、どんな案件なの?」
ヒロトは、バイクのアクセルを捻る真似をして質問を続ける
「品ナンの黒いアルピナと 浜ナンのモスグリーンのアルピナB7 調べて欲しいねん」
「ナンバーは?」
「古くて珍しい車やから、色と地域で分かるやろ」
「探すのは簡単だけど、誰の引きネタ?」
「服部さんや」
「じぇじぇじぇ〜!マジで」
大学時代、豊子目当てで 豚猫モータースのイベントは全て参加してたから、服部の恐ろしさも、豚猫メンバーも全て知ってるので、ヒロトは驚嘆した
「そのアルピナ、服部さんに何したの?」
「なんも、しとらん、ただのバトルや」
「それならイイけど、そんなに速いの?」
「品ピナには豊子が負けて、浜ピナには涼子さんも負けとるんよ、あと裕也も」
「裕也君もおおぉ〜」
裕也とは、同じ溝口の地元なので、ヒロトは裕也が一番苦手で怖い存在だったのを思い出し、ひよりだす
「暴走しとる、アルピナに覆面が追いつくとな、赤橙消して減速するらしいで」
「それって、まさか?」
「そのまさかや」
唯一、豚子の過去を知り、共に、数々の修羅場を潜りぬけたヒロトは感が良く、話のテンポが途切れない
「プロ中のプロか、やっかいだね」
「館先輩が プレスの頃からの 都市伝説らいしで」
「館先輩って、あの、館ひろし先輩?」
この店の、女将と豚子
一体皆んな、何歳なんだよ
心でヒロトは叫ぶと、豚子が
「亡霊のように最近、二台で走り回っとるらいしで」
「プロのトランスポータなら、ベンツの 190 AMG が裏社会では有名だけど」
「なんや、それ?」
「関西ナンバーだよ、ある時は神戸、またある時は、なにわ、そして三河」
「なんなんっ?」
メルセデス 190E 2.5-16 AMG
「薬でも屍でも何でも運ぶ、裏の裏のトランスポーターが、最近、復活したらしいよ」
ヒロトが囁くと、豚子は 小籠包を口に放り込み
「そっちも、おもろそうやんか」
豚子が不敵な笑いを浮かべるので、ヒロトは恐る恐る
「どっちにする?」
「総動員で的にかけとる、アルピナが先や」
豚子が答えると、ヒロトは内心安堵の溜息をついた
メルセデス 190E 2.5-16 AMG
裏社会では、真っ黒な凄腕のトランスポータである
しかも、豚子は以前のように、ダーティーハリーな公務員ではない、危ない話はスルーに限る
ヒロトは、メルセデス 190E 2.5-16 AMG
を 豚子に教えた事を、心底後悔しながら
「豚子ちゃんのバイクってなに?」
話題を変えたくて、普通の質問をした
「Z650RSや、そっちは?」
「昔のまんま、手に終えないから乗ってないけど」
「放置プレイか」
「そうだったんだけど、試しに現車オークションに出してたら、思わぬ人が買ってくれたよ〜ん ♪」
「だれや?」
「中島店長〜」
「マジかや!」
「振り込まれたから、来週の水曜には、豚子ちゃんちにあると思うよ」
「それってもしかして?」
「服部さんが乗るなら、アルピナの話と、ドンピシャじゃない?」
「アルピナはいつ分かる?」
「三日もあれば」
「木曜、ウチに来いや」
「いいね!豊子ちゃんは?」
「焼肉屋は 水曜が定休日や」
「ガビーン、じゃあ水曜にしない、それまでに調べとくから」
「ええけど、自分で誘えや」
「豚子ちゃ〜ん!お願いしますよおぉ〜」
ヒロトは豚子に懇願し泣きついたが
「アルピナの情報次第や」
豚子は冷たく、突き放した
麻婆ライスを食べ終え、一足先に店を出て
豚子とヒロトの会話を 盗聴器で外で聴いていた銭形は、店の看板を振り返り
百龍飯店の看板を、改めて見上げた
百龍飯店
どこかで、聞いた事がある
豚子に教えられ、二人が来る前から飲茶をしていた銭形は、今一度、考えてみた
百龍飯店・・・
日本語に翻訳してみる
ワンハンドレッド ドラゴン
そうだったのか!
インターボール時代に、伝説のように噂になった
青幇 最強の 伝説の殺し屋軍団
ONE hundred Dragon
続きま~す🐷