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2011年08月30日

『それから』を読んで 勤労のエートス(倫理)ってなんだろう?

『それから』を読んで 勤労のエートス(倫理)ってなんだろう? 文豪夏目漱石の『それから』という作品をお読みになったことがありますか。
私は作品に言及する評論などでなんとなく筋は掴めていたものの、読破したのは初めてです。

主人公は実家が事業に成功していているため、経済的に不自由のない生活を送る代助という人物。不自由がないために、労働もしていない。
ただし、世間の定石というものをあまり好まぬ性質らしく、父親から勧められる縁談を、のらりくらりとうまくかわしていつも断っている。もっとも、彼の頭は非常に明晰で彼なりの結婚をしない論理的な理由はある。それは作中を参照していただきたい。
物語は友人の平岡やその妻(平岡と代助との共通の友人の妹である。友人は既に亡くなっている)との関わりと、既述したとおり、代助が縁談を断ることを主軸にして進む。
物語の終盤で(私には展開が唐突に思えたが)代助は彼が愛していた女性と暮らす道を選ぶ。
つまり、父からの縁談を断ることで経済的な自由を手放すことを強く決意したのだ。また、その道を選ぶことにより、既存の人間関係も崩壊する必然にあるのだが、代助は物語前半ののらりくらりぶりとは裏腹に強い決意を以て、愛する女性と暮らそうとする(この辺りの心境の変遷が唐突なのだが、「私小説」と思えば違和感はない)。

筋書きはざっとこのようなもの。
漱石の作品に登場する主人公はいわゆる一般大衆の視点とはやや様相を異にする。インテリ層が主人公である場合がほとんどである。おそらくそれは漱石の分身のようなものだと思う。なぜなら、彼こそは当代きってのインテリだったからだ。

『それから』の代助のような経済的富者についても、父や兄とは異なり、思索を通じて物事を理解しようとする点が多く、この点で代助をインテリと呼んでもよいだろう。
もっとも彼は労働をしないのだから、経済的富者は扶助によって成立している。
当時の言葉に即して「高等遊民」と呼んでよかろう。
因みに、代助の友人の平岡も思想的には代助の父や兄に近い。つまり、「パンのために働く」という思想が原理となっている。

私は物語後半の特に愛する女性のために経済的な安定を捨て去り、職業に就くことを決意する件などを読むと大げさなと思わざるを得ないが、それもまた明治末期の時代性であろう。
それとは別に、代助の父や兄、平岡が奉じるないしはやむを得ず受け入れている勤労というものの価値普遍性が跋扈している中での代助の違和感はなんとなく理解できる。

かつて、イエスは「人はパンのみに生きるにあらず」と述べた。
私も同感である。「パン」は必要だろう。しかし、「パン」だけが人生ではない。
少なくともパンを求めることが目的となる人生が存在するとすれば、それはよくよく考えてみたら随分と本末転倒ではないか。
生活のために働く。このこと自体はいい。
しかし、それが昂じると働くこと自体が目的化するような気がする。
それで、生活が向上するのであれば良いだろうが、どうもずっと勤労を目的化したままで、生活というものの内実(家族で楽しく暮らすとか)を検討しないままに、人生を過ごしてしまう人々もたくさんいるのではないだろうか。

勤労が楽しいのであればよい。しかし、いやいや勤労をして生活も汲々とするような状態であれば、それは一体誰のためのなんのための人生だろうかと思う。
少なくとも、近代市民社会以後においては、個々人は個々人の幸福を追求するのが普通だろうと私は考えている。因みに、私は主義やイデオロギーに関心はないが、まあ、近代市民社会を肯定している人間である。
さて、幸福の種類はそれこそ山ほどあるはずだ。幸福には選択の自由が担保されているからだ。よって、パンのために働くことが幸福だという考え方もあっていい
だが、それは少なくとも幸福だと思えてこそ許容される論理に過ぎないと思う。

代助の生き様は「パン」のために勤労する必要のない世界があることを示した。
だが、その代助にしても縁談の勧めなどのしがらみがあるわけで、自由とは思えない。宙ぶらりんとした存在のようにしか見えない。
だから、後半部で代助が愛するもののために、今の豊かな生活を放擲しようと決意したことはなまじ否定されるべきではないだろう。代助なりの解決策であったといえなくもない。

本当の幸福や喜びとは何か。自由とは何か。
どんどん追求してみたいが、私は自分の選択によってそれらは決定づけられるものだと考えている。だから、作中のなかでは代助に対する親近が比較的強い。
彼は彼なりに考え抜いて選択をしたわけだから。彼の行動自体に対する是非というよりも、彼の主体的な選択を私は評価したい。

夏目漱石の作品は現代の人が読んでも非常に読みやすく、お勧めです。
偉大なる国民作家と称される所以でありましょう。







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Posted at 2011/08/30 00:21:06

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この記事へのコメント

2011年8月30日 5:29
「それから」を読みましたか…。

若いころは「高等遊民」に憧れたものでした。

最近漱石を読んでいないなぁ…。
コメントへの返答
2011年8月31日 1:07
ずっと書庫に眠らせておきましたが、ようやく読破しました。

私もかつては「高等遊民」に憧れました。あとは「竹林の七賢」にも憧れました。

私は今でも労働が必須だとは思っていません。楽しくない労働であれば、それこそ遊民になったほうがいいとさえ思います。
私の価値観では、人生を形成する重要な要素として「楽しさ」を置くので、私は仕事(労働)をするときは楽しんでやりますし、楽しんでできないようなものであれば、仕事の良い点を見つけますし、それも叶わなければとっとと見切りを付けます。
「食欲を満たすためにパンがあるのではなく、楽しさを味わうためにこそパンがある」と私は考えています。

ツゥさんは「坊ちゃん」を読むという感じではないですね(笑)
「こころ」を読まれてはいかがでしょうかね~
2011年8月30日 9:49
実家の本棚から、何を読もうか?といくつかの本を選択してきたのだけれど、『それから』を一度手に取り、また、置いてしまったな(^-^;


本当の幸福や喜びとは何か。自由とは何か? 永遠のテーマのような感じがする。

その時は楽しいけど、それは持続しない。

嬉しいと、感じてもそれは持続しない。

でもそういう気持ちを小さくても、毎日味わうことができるならそれでいいんじゃないか?

と、私は思う。



※ 焼きそばを推奨するわが町にいらしてくださいね^^



コメントへの返答
2011年8月31日 1:23
ほほぉ。
『それから』を手にとって、置いてしまって、それからどうしました?(笑)
最近は現代語文章で平易に書かれた訳文が出ているので、気が向いたら読むのも良いかと思います。
漱石の作品ならば糧になります。

幸福・喜び・自由に関するご意見に関して。
「持続しない」と限定している点に違和感を感じますね。
楽しみや嬉しさは刹那的に感じるものであるに過ぎないと自らを表明したことになります。
言葉は自分が潜在的に思っていることを浮き彫りにさせてしまうものなのですよ。
だから、私の見立てでは、乙女さんの思考の基礎に、楽しさや嬉しさに永続性がないということを前提にしていることが浮き彫りにされているように感じられます。
小さいものなれど、毎日味わうことができれば、「持続しない」ものであっても心は安定しますか?
感情の浮き沈みもなく、平静に過ごせればそれで良いと思います。

どんなに小さいことと感じても、毎日味わえればそれでいいじゃないかという意見には賛成です。
しかし、楽しさや嬉しさが持続しないという意見には賛成しません。
あくまで、私の意見ですが。
それは、どんなに楽しさや嬉しさがあったとしても、その次に寂しさとか虚無といった感情が支配的になるのを許容にしているのではありますまいか?

乙女さんに相応しいアファーメーション(肯定的な唱え言葉)を考えてみました。
「その時々で、楽しいことや嬉しいことを感じる。それは時間の経過とともに、常に変わるけれども、私は常に楽しいことや嬉しいことが、日常の中に入り込んでいることを知っていることを知っており、そのことが自分に安定をもたらす」

モノは言い様ですし、言葉は言霊です。ほんの微細な表現にも細心の注意を払いましょう。
バイブルにも「はじめにことばがあった」という記述があります。世界の始めは言葉のみであったということです。
言葉という概念操作が無ければ、私たちは何も考えられないのです。想像してみてください。
しかし、逆に言えば、言葉に関して意識的になれば私たちは、神の領域に達することもできるでしょう。
少しそのことに意識的になってみてください。

と偉そうなことを書きましたが、とりあえず焼きそばをご馳走してください(笑)
気が向いたら群馬に行きますんで~


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サクラムのマフラー音は最高。なんだかんだいっても各所をカスタムしているので、ピックアップが非常に良い👍」
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