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2025年11月25日 イイね!

1991年式セルシオB仕様 感想文

1991年式セルシオB仕様 感想文






●日本製の自動車が上り詰めた頂点の一つ
マニアの知人情報で初代セルシオのレンタカー情報を入手した。初代セルシオは私が生涯のうちに運転しておきたい車リストの上位に記載されていた超メジャーな一台である。

遡ること1983年、北米の販売トップから“We need something bigger, and we need it today.”というメモを受け取ったトヨタは1984年に15人から成る企画チームが編成された。法人需要メインのセンチュリーとは異なり海外市場で戦えるオーナードライバー向けのフラッグシップカーを「マルF」と呼び、企画を開始した。



当時は直6を積むクレシーダ(約1.7万ドル≒212万円)が北米におけるフラッグシップであったが売れ行きも期待以下で、トヨタ車ユーザーが上級移行する際にメルセデスベンツやBMW、キャディラックに移行してしまう点が経営的な課題となっていた。そこで3万ドル以上のV8を積んだ本格高級車の調査を行った。

当時、中高年の顧客層は伝統的なアメリカブランドの高級車を選ぶが、比較的若い「ヤッピー」と呼ばれる新しい富裕層(弁護士や投資家など専門職が多かった)が「他の人とは違う」とアピールするため、積極的に欧州ブランドを選ぶ傾向をつかんだ。そこでトヨタは欧州ブランドを超える機能・性能と日本ブランドが得意とする信頼性と経済性を併せ持つ新しい高級車を作ることにした。

開発コードは380D、メルセデスベンツ380SEを意識した数字に設定していた。(ちなみにこの頃のカローラは240Dでコロナは310D、クラウンは300D、マークIIは430Dである)380SEを仮想的とし、これに並ぶのでは無く明確に超える車を作り出す事を目指した。そもそも、こんなに明確に開発車種のキャラクターを数字に込めたプロジェクトは恐らく希有な存在である。開発機種の内容を秘密にするための暗号なのに見る人が見れば380SEを仮想的にしたクルマだとすぐに分かってしまう。(この他には富士重工と共同開発した086Aがある程度だ。)

自動車には性能を追求する上で二律背反する要素をたくさん持っている。例えば動力性能と燃費、乗り心地と操縦安定性のようなもので全てのクルマはそのキャラクターに合わせて妥協を余儀なくされるのが常識であった。これを安易に妥協せず、高いレベルで両立できる解がないか当時のエンジニア達は追い求めた。動力性能と燃費を両立するために空力性能を磨き、高速性能と燃費を両立させた。これを「YETの思想」と呼んでいる。或いは、静粛性のためにエンジンによる騒音の対策を行う際に通常は防音材を検討するのが常であるが、エンジンそのものの
改良により静粛性を担保してやれば重い防音材の必要性が無くなり高いレベルに到達できる。これを「源流対策」と呼んだ。

1986年にCEとして鈴木一郎氏が就任し、世界の一流プレステージサルーンと競合しうる開発目標を定めた。すなわち、ガスガズラー法による罰金を払わずに最高速度155MPH(≒250km/h)以上、CD値0.29、58dB@60MPH(≒96.7km/h)という有名な定量目標である。YETの思想や源流対策というのは「マルF」をよく表現したキーワードなのだが、実現することは並大抵の努力では不可能だ。

1986年頃にはマルFをどのように売るかという検討も始まった。彼らがターゲットにしたのは北米市場だ。端的に輸入ブランドに寛容で良いものは良いとフェアに評価してくれる市場ゆえ、新規参入のトヨタにも機会があると考えられていた。

カローラやコロナに乗っていた顧客は、収入が増えたときにクレシーダには移行せず他ブランドの高級車に乗り換えてしまうことを食い止めるだけで無く、メルセデスベンツやBMW、キャディラックやジャガーといった一流の高級ブランドからも顧客を吸引できるような販売サービスを模索した。開発チームメンバーは北米で一定期間を過ごし、ターゲット層の生活を見つめ、熱心なインタビューを行った。

彼らが保有する一流ブランドのサルーンを徹底的に調べる中で信頼性とサービスに課題がある事を突き止めた。この頃のトヨタは右肩上がりで後の生命線とも言われる「信頼性」を磨いているなかで、競合のアキレス腱はマルFにとって追い風になった。

日本の自動車販売店の強みだったおもてなしの心と、初代クラウンが生まれる前から既に取り組まれていたSQC(Statistical Quality Control 統計的品質管理)をベースにした高い品質は元々トヨタをはじめとする日本ブランドが強みとしてきた部分であり、品質を良くする為には「検査を増やして不具合を摘出すること」では無く「検査の理念は検査しないことにあり」と豊田英二氏は社内で品質に関して指針を出していた。単に検査を省くのではなく、工程を見つめ、良品しか作れないようなプロセスに作り込むことにで不具合を予防的に不具合を排除していくという考えである。さらにマルFはその品質を「機械が壊れないこと」だけでなく、顧客の所有体験を豊かにするものとして昇華させていった。

具体的な一例の一つは経年変化だ。経年によって見た目が劣化する「やつれ」に対して隣り合う樹脂部品の仕入れ先を可能な限り揃えて素材や顔料を同じにすることで部品間で色調に差が現われることを防いだ。Aピラーとルーフサイドのトリムを一体化したのも分割線を減らし、部品間の退色度合いの差を減らすための施策だ。



マルFはサイドメンバー周りの大型プレス部品としては世界で初めてとなる「テーラードブランク工法」を採用して材質・板厚の異なる資材をレーザー溶接で接合し、それを素材に一体成型した。テーラーは「仕立屋」、ブランクは「素材」を意味する英語である。調べてみるとホンダN360はTIG溶接でサイドパネルのブランクを生産した事例もあるらしいが、セルシオの場合、異種材を繋いだ点が技術的なポイントである。Aピラー・ロッカー・Bピラー・ルーフサイド・クオーターを一体化して大型プレス機で一括成型した。当時はまだ個別の金型であり、部分的に成型してあとで溶接し、シーラーで目隠ししていた。一体化することで金型が大きくなってしまうが、経年によるシーラー割れの心配が無く、錆に強くなる。そして部品接合しないことでサイドアウタ自体の精度も向上した。しかし、複数ある部品を一体化すると、最も弱い(材質・板厚を奢らないといけない)部位に引きずられて全体の材質板厚が決まってしまうものである。

メッキの厚みを増やして輝きを失わないように気を配り、本革シートの革も荷重のかかる場所には伸びの少ない革を使うなど長く使用しても新車の品質を保つための配慮が各部に注がれている他、マニホールド・エキパイやマフラーにも錆に強いステンレス製を採用して耐久性に気を配るなど見えないところにも及ぶ。

北米市場で経年減少として無視できないものに防錆性能がある。融雪剤によって車体が腐食し無残な姿になることを防ぐために厚目付け亜鉛めっき鋼板の開発・実用化も行った。単に表面の亜鉛付着量を増やすだけでは無く、亜鉛が引っかかることによる損傷脱落を防ぎ、プレス成型性の課題を克服した。

走らせた際の経時劣化に対してもショックアブソーバーは一本ずつ検査を行った上で車両組み付けを実施、あるいはAT内を満たすATFもμ特性の経時変化を小さくした新ATFを採用することで安定した変速特性を発揮するように配慮している。

こうした品質オタク的な追求は設計・仕入れ先だけの努力だけでは無く生産部門も巻き込む必要がある。このための組織がFQ委員会だ。「フラッグシップクオリティ」を意味し、開発・生産・工場の3部門の担当役員を頂点とする特別委員会であり、それぞれの部門がマルFの為に新しい技術を開発し、高性能・高品質・高精度を達成した。

こうして完成したマルFこと380Dは専用のディーラー網で販売とアフターサービスを行うことを決めた。日本的なおもてなしの心を表現した接客や洗車・納車・引き取りなどの利便性を重視したサービスである。



マーケティング調査の結果、トヨタブランドでは全く競合性がないと言うことが分かった。トヨタというブランドは「バリューブランド」であり、いいものを安く売るというブランドだ。とにかく安く、というディスカウントブランドではないが、間違ってもプレミアムブランドでは無かった。そこで顧客の所有体験を豊かにする新しいブランドをゼロから構築するため下記のように命名案を検討した。

VECTRE(ベクター)、VERONE(ヴェローネ)、CALIBRE(カリバー)、ALEXIS(アレクシス)・・・

トヨタ関係者はアレクシスの語感がラグジュアリー(LUXURY)に近く、有力候補としたが米国で放映されていた「ダイナスティ」というTVドラマの悪役「アレクシス・コルビー」の名前と同じであり、そのままは使えないということで語感を活かしてLEXUSとなった。ドイツ語で贅沢品を意味するLUXUS(ルクスス)もヒントになった。LEXUSに決まったあとも、コンピューター関連企業から訴訟を起こされるなど、大変な難産だった。

1989年、北米で380DはレクサスLS400として発売された。LS一本ではなく、下位クラスにはカムリベースのV6を積んだES250も用意して二段構えの門出となった。



完全への飽くなき追求というキャッチコピーも有名だが、特にTVCMは歴史に残る有名なものだった。CMではシャシダイに置かれたLS400にシャンパングラスが積み上げられた。その状態で240km/hまでフル加速を行ってもシャンパングラスが揺れて落ちないという驚異的なスムースさがTV視聴者に向けてアピールされた。



余談だが、このCMを見てインチキだと言わせないために撮影準備から記録した映像を別に用意する慎重さはレクサスらしい。

販売価格は3.5万ドル~3.98万ドル(455万円~517.4万円)というトヨタの北米仕向車としては高額だが、競合するプレミアムブランドの格下モデル(Eクラスや5シリーズ)よりも1万ドル(130万円)以上安かった。挑戦者のレクサスは、確実に足場を固める上でもハッキリと良い商品を作り、それを競合よりも安い価格で売るしか無かった。しかし、当初の目論見通りレクサスLS400は北米市場で着実に根を張り、トヨタ車ユーザーの流出を防ぎ、他プレミアムブランドの顧客を吸引した。



遅れること10ヶ月、日本でも「トヨタ・セルシオ」としてトヨタ店・トヨペット店にて販売が開始された。当時、すでに待ちきれない層は並行輸入でLS400を手に入れる人もおり、幼少期を過ごした関西地方の田舎でも左ハンドルのLS400を見かけたことがあるほど注目の存在だった。モデルライフを通じて16万台を超えるLS400が生産され、日本版のセルシオも11.5万台が生産された

このクルマの誕生が世界の自動車メーカーに与えた影響は大きい。高級ブランドに必要な「伝統」を持たずに徹底的な機能性の追求によって高級ブランドとして消費者に選ばれるという初めての事例になったからだ。存在を脅かされた既存高級車ブランドもレクサスLS/セルシオをベンチマークし、再挑戦を誓うこととなった。いままでプレミアムを上乗せして高収益を上げてきた欧州ブランドはレクサスの良品廉価の前では値下げせざるを得なくなり、彼らを大いに混乱させたらしい。

このクルマが偉大なのは、競合相手から逃げずに真っ向から勝負を挑んだことだ。当時のトヨタは今よりも愚直だったので、真面目に技術開発競争をして、真面目な車を作って真面目にライバルに勝とうとしたのだ。ライバルの中心的モデルに真っ直ぐ挑戦し、北米において勝利を収めたこと高級車市場に大きな影響を与えている。



もしかすると、高級セダンであることや4輪タイヤから離れるようなオリジナリティーを出して正面から競合することを避ける手段もあったのかも知れない。しかし、今のレクサスの地位はLS400が、メルセデスベンツやBMWと正面からぶつかって認められたことで得られたのだと私は考える。特に燃費と静粛性と品質とサービスで戦うというゲリラ戦だったのかも知れないが、それでも真っ向勝負してそれに勝利したことは、誰も目にも明らかだった。初代セルシオ/LS400はメルセデスベンツSクラスやBMW7シリーズと同じセグメントの商品だが、決してパクリでは無いと私は断言できる。

●エクステリア
当時の実質的フラッグシップだったクラウンは小型車枠に縛られていたが、北米市場を見据えてゼロから作ったセルシオは3ナンバー専用ボディを持つ。全長4995mm、全幅1820mmというのは当時としてはとてもワイドな寸法だった。



ほとんど5ナンバーサイズの経験しかなかったスタイリスト達にとってマルFの意匠開発は困難を極めた。高級車らしくすると空力性能が成り立たず、空力を成り立たせると威厳が無くなる始末だった。挙げ句の果てに空力担当者自ら「俺にやらせろ」とクレイを削って空力性能を維持できる形を示すという前代未聞の出来事もあったという。



最終デザインの参考にしたのは奈良の東大寺南大門にある仁王像。激しい表情を通じて肉体の力強さと美しさを表現しながら、人間の温かさを感じさせる作品として高級車としての格調高さや威厳とCD値0.29という当時としては驚異的な空力性能との両立を目指した。



フロントマスクは前述の通り大きくラウンドさせることで立体的かつ空力的に優れ、フォグランプを内側に配したヘッドランプは、クラウンやマークIIとの連続性を感じさせるトヨタの高級車らしさも忘れていない。ラジエーターグリルは高級車らしい威厳が感じられる大型にしたのはクラシカルな表現ながら高級車である事をシンプルに示している。サイドターンレンズも本来はフェンダーに取付けられることが多いが、ラウンドしたフロントマスクを利用してバンパーからレンズが繋がる様にサイドターンレンズが配置された。



サイドビューは全長5m級ゆえ、伸びやかでキャビン容積を確保しながらセダンらしい優雅さも両立している。それでいて本格スポーツカーよりCD値が良いのだから恐るべしだ。外形デザイン上の特徴はプレスドアによる一体感や曲面ガラスの活用、Rrドアの三角窓廃止、ガラス段差を極力削減した面一感など空力への配慮があり、高級車としてのエレガントさにも貢献している。さらに細部に目をやっても継ぎ目のない亜鉛ダイカスト製メッキモールや普通は穴が空いたままのベルトモール端部の隙間に型部を設けて隙詰めを行うなど徹底的な空力対策がそのまま見栄え品質にも大いに寄与している。また、ドア下にウレタン樹脂製のモール(サッコプレート)を設定する事で塗り分けのマスキング作業を要せず2トーンカラーを容易に実現し、石跳ねによる塗装のチッピングに対処した。たかが石跳ねと言えど、速度域の高い欧米で高速で走るとヒットする砂や小石の速度も高くダメージが大きい。そこにクッション性に優れたウレタン塗装を施すと今度はゆず肌になりセルシオが目指す精緻な印象をスポイルする。また傷が付いたあと冬場の凍結防止剤で一気に錆びてしまうことを一挙に解決できるため、サッコプレートは非常に優れたアイデアだった。



リアは空力性能とセダンらしい優雅さを両立させている。一般的に空力を意識するとトランクリッド面が上がる傾向があるが、それではラグジュアリーセダンらしい優雅さを出しにくい。キャビンを丁寧に絞り込み徐変させながら気流が車体表面から剥がれないようにキャビンからの気流をトランクリッドに滑らかに繋ぐことで、ルーフからの段差を大きく(=トランクリッドを低く)できた。さらにダックテール形状で飛ばすことにより渦を後方で発生させ抗力を下げている。また平面視では大きく絞っているので真後ろから見るとRrが細く弱々しく見える懸念があるがRrコンビランプは横一文字の三次元曲面レンズを採用することでボリューム感を付与した。

Rrバンパー下には左右2本出しのマフラーカッターがアクセントになっている。左右どちらかにまとめず均整の取れた美しさがある。この世界観を1991年のカローラ/スプリンターGTやレビン/トレノが再現しているのはバブル時代ならではの思い切りである。

セルシオのエクステリアは燃費性能や高速性能のための空力を最大限追求しながらセダンとしての優雅さを両立させている。挑戦者として北米市場や欧州市場のジャーナリストからは「メルセデスの顔とBMWのケツを着けた」などと必ずしも賞賛されなかったが、骨太な欧米の高級車と伍して戦えるプロポーションに加え日本らしい繊細さも残されて私はいつ見ても好きなエクステリアデザインだ。このテイストは後のカムリやウィンダムでも最大限活用され、トヨタの高級車らしい特徴にもなった。

●インテリア

インテリアもエクステリア同様にYETの思想の塊である。空虚感無くゆとりある居住空間を実現したり、機能的な操作性と心理的に豊かで大らかなイメージの両立といった難しさがあった。これら課題を解決するのに役立ったのが人間工学モックと呼ぶ原寸モデルで、内装のパッケージングレイアウトとフォルムの両立を実現できたという。スイッチレバー類の配置やフィーリングに気を配るだけに留まらず、夜間照明も備えられ、レオスタットと同期して照度が変えられた。



さらに素材にも吟味を加え、本革シートウォールナット本杢パネルに関しては手作りの作業に委ねなければ本物の味わいを出すことができなかったのでじっくり時間をかけて高い品質レベルを実現した。シートに関して、馬車文化を受け継ぐ欧米には伝統的な本革を求める声が強い。ただ本革シートの泣き所は経年劣化による見栄えの悪化(やつれ)である。

実際、8年落ちの中古車やクレシーダを確認してみて伸びてしまい塗装が割れるなどの悪さがあった。セルシオは材料から吟味し、伸びやすい部位に本革の中でも伸びが少ない部位を選び、なめし方も変えた。張りが必要な場所、しなやかさが必要な場所など適材適所で使い分けを行っている。ステッチも極めて均一で見た目にも美しく、座ってみてもクッション性の高いスポーティな形状でありながらゆったり座れる疲れないシートを実現した。現代ではフルウレタンのシートが普通だが、セルシオにはまだコイルスプリングが必要であったが、単にスプリングを置くのでは無く事前に縮めてから取付けることで着座した時に最もクッション性が良くなるように調整されている。



内装パネルにはウォールナット本杢パネルが使われている。24種類の候補の中から選ばれたのはクラロウォールナット。欧州産と北米産の原木による接ぎ木で生まれた品種だという。着色して磨き上げて透明感のある鏡面パネルになっている。

インパネは人間工学を重視し、あらゆるスイッチが届きやすく、操作フィーリングまで作り込まれている。少し事務的に映るが、所々に高級車らしい魅力が付与されている。

その筆頭がオプティトロンメーターだ。乗り込んだ時には真っ暗でデジタルメーターのようだが、鍵を挿し、E/Gを始動すると、真っ白な指針が映り、時間差で文字盤と奥まった位置に各種警告灯が現われる。



オプティトロンメーターが他のアナログメーターと違うのは日中であっても針のメカニカルな部分はほどんど見えずに指針や目盛りが明るく光っているところだ。これは、通常のアナログメーターが透明な樹脂カバーをスモーク塗装し、内部を見えにくくして、明るく光る冷陰極管(蛍光灯のような原理)によって目盛りや針の動きを光だけで表現するというものである。目盛りはφ9.5mmの円形冷陰極管が白色に発光し文字盤を高輝度で透過照明する。低温時に輝度不足にならないようにヒーターまで備えている。指針は小型の冷陰極管を使用し、内部にはネオン(Ne)とキセノン(Xe)の混合ガスを封入し白色に高輝度発光する。

いずれも複雑なメカ部分は見えないようにスモークフィルターが前面に設けられて光だけが見えるようになっているから文字盤の動き自体は慣れ親しんだアナログメーターの見易さが残されるも、その表現方法はテック感に溢れドラマチックですらあった。このメーターは開発に4年を費やし、指針寿命も2万時間(一日4時間使用で13年余り)という充分なものである。

オプティトロンメーターは液晶を使ったデジタルメーターとは違い、アナログメーターによる直感的な使用とテック感を両立させたエポックメイキングな技術である。相当コストのかかるメーターだったようで、後年はスモークフィルターの透過率を下げて内部機構が多少見えるようになったり、文字盤を有機ELバックライト風にして指針を影で表現する。光源をLEDとしてスモーク塗装をやめるなど、VE(原価低減)を織り込みながらトヨタ車全体に普及した。2005年の2代目ヴィッツではオプティトロンメーターが全車標準装備になるまで普及した。その過程で、「日中も指針が光っている」程度の定義に簡素化されてしまったのは初代セルシオの感動を考えると寂しさを禁じ得ない。今後はこんなにお金のかかるメーターは採用されないだろう。フル液晶メータが最先端という印象だが、汎用の液晶を使いメカニカルな部分を持たないので実際のコストを算出してみればきっと安くなっている。



話題をセルシオのメーターに戻そう。走行中に異常を検知したら点灯する警告灯類は「虚像ウォーニングシステム」が採用されている。空きスペースを活用してメーター上部に警告灯を設置し、メーター表面のスモーク処理された表面に反射してドライバーの目に入るが、これは実際の像では無く反射した虚像になっている。実際にはないメーター文字盤から40mm遠い位置にある様に見えるので運転中に焦点が合いやすい点も瞬時に情報を把握したい警告灯には向いていた。この結果、左から燃料系・速度計・E/G回転計・水温計は大径化して視認性を高めている。まだ世界を見渡してもこの様なスピードメーターは存在しなかった。残念ながらオプティトロンメーターのキーテクノロジーだった冷陰極管は蛍光灯と共に2025年にその製造輸出が禁止される予定で、恐らく純正部品での修理も不可能になりそうだ。

セルシオの内装は当時の米国ジャーナリストは好意的に受け止められていた。本杢パネルがあれども全体的に樹脂が多い、という指摘もあったが「樹脂は樹脂だが質の良い樹脂だ」と同じ記者が打ち消している。子供の頃からセルシオが存在していた私にとっては、これがトヨタらしくて落ち着くという印象に変わる。このフィーリングは2000年代くらいまでの全トヨタ車に何かしらのエッセンスが活用されていた。

●一般道から高速道路まで試乗

鍵を受け取り、セルシオに乗り込んだ。試乗車は1991年式のB仕様で本革シート仕様である。B仕様は世界初のピエゾ式TEMSや本革ステアリングが標準装備されたスポーティな仕様でボディカラーも珍しい。

ドラポジを合わせるが、違和感なく決まる。シート位置は勿論、シートベルトのアンカー位置もボタン操作で上下できる。立派な国際的ラグジュアリーサイズゆえ、やれることはぜんぶやっているのだろう。



内溝キー(世界初)を差し込んでSTARTまで回すと白い指針と警告灯が先に点灯し、時間差で文字盤が点灯する。現代だと常時点灯式メーターと言い換えられる「オプティトロンメーター」(世界初)はデジタルメーターに変わる高級感の表現手法として一気にセルシオの世界に引き込んでくれる。

Dレンジに入れ、PKBリリースレバーを引くと「パキ」という音と共に駐車ブレーキが解除される。なんでもバコンと大きな音が出るのを嫌い、BRKTをアルミダイカストで軽量高剛性に仕上げたそうである。

平成のセルシオは令和の路上を走り出した。V8DOHC32バルブという一級品のE/Gに乗るのは久しぶりで、アストンマーティン以来である。エキサイティングなそれとは違い、セルシオは持てる性能を全て「スムース」につぎ込んでいて、信号待ちでは間違えてキーを捻りそうなほど静かだ。



発進も1000rpm(注:タコメーター故障だが、以下すべてメーター読み)に到達する前に2速に上がってしまう。そのまま、900~1200rpmの間でシフトアップを繰り返して60km/hにすぐ到達してしまう。この回転数でも走れてしまうのは低速トルクが充分あり、トルコンの食いつきも良いからだ。E/Gノイズなどが聞こえるような余地はない。ちょんと脚に力を入れてスッと抜いて巡航し、停止のためにブレーキを踏む、万事がそんな感じである。



さらに余談だが、エンジンルームは黒とシルバーで統一され、80年代の車としては驚くほど整ったエンジンコンパートメントをしている。特にバッテリー取り付け部は、カラフルなバッテリーの見栄えを整えるために黒いバッテリーカバーが設定され、クランプはなんと鋳物製が奢られている。まさに唯一無二のこだわりを見せている。「こんなとこ誰も見ないんだから安くしとけ」などという勢力は瞬殺されるんじゃないだろうか。

セルシオは令和の今見ても大きいと思う。現行クラウンセダンFCEVより35mmも短く、車幅は70mm狭い程度なので当時としては相当大きい車だったが、運転し始めると余り大きさを感じさせない。フードはよく見え、邪魔なワイパーアームは見えない。高すぎないベルトラインは視界を助け、振り向いてもクオーターピラーは太くてもRrドアに三角窓がないので見えるところがよく見える。ドアミラーに映るのはRrホイールアーチであり、後端は見えないのは空力のために絞り込まれているからだ。しかし、インナーミラーから車両感覚を助けてくれるのはスポイラー状につまんだRrエンドだったりもする。アラウンドビューモニターどころかバックモニターすら存在しない時代の全長5mクラスのセダンだが、扱いに困るほど大きくないと感じたのは意外だ。そもそもセルシオは空力を考えて全長を決定する車両中央断面をピークに平面視でオーバーハングを大きく絞り込んでいる。



また、小回り性能も最小回転半径が5.5mと悪くないので、ミスコース時のUターンも一発は難しくとも、一度の切り返しで事足りる。ミシュランを履いている影響か路面のざらつきはよく拾う感覚がある。エアサスではないので「魔法の絨毯」とは呼べないまでもB仕様はA仕様の標準コイル脚よりも減衰力が高めてあるのでふわふわせず、クラウン的ではない。一方、店舗から車道に出る際など、段差を乗り越えるシーンで大きな突き上げはない。

その秘密はピエゾ式TEMSが握っている。一般的なTEMSは減衰力切り替え式ダンパーを乗り心地重視にしておき、急制動や急加速、旋回時に自動で堅めの減衰力に切り替えるか、ドライバーの好みに応じてスイッチ操作で堅めの設定を選べるようになっている。一方、ピエゾ式TEMSはピエゾセンサを使って従来よりも速い検知ができ、速度で切り替えが出来る特性を使って、普段から操縦性重視の減衰力にしておきながら、大入力を素早く検知して減衰力を乗り心地重視に切り替え、再び元の堅めに戻すという瞬間芸を行うのだ。

まるで「足が水に沈む前に次の足を引き上げて・・・を繰り返せば水の上を歩ける」級の屁理屈のように思えてしまうが、事実、フワフワしないけど突き上げも無い乗り心地を実現しているのだ。ピエゾと言うのは鉛とジルコニウムチタンから成るセラミックで4μという薄さの素子を88枚重ねることでセンサーとして使っている。このピエゾ素子は圧力を感じると電圧が立つ(=信号が出る)ので大入力に瞬時に対応できるのである。



メーター右下にピエゾ式TEMSの作動が一目で分かるインジケーターが装備されている。前だけや後だけなどの作動もあるが、基本前進している限り前→後の順で作動している。淡々と走る幹線道路ならまだしも市街地ではとにかくせわしなく光りまくる。せっかく装備品にお金をもらっているのだから、有り難みを示したいという真面目な気持ちの表れだが、人によってはチラついてイライラが貯まるかも知れないのでスイッチ操作で表示を消すことも可能だ。

このまま高速道路へ向かった。限られた試乗時間を考えるとセルシオが似合うのは山道では無くハイウェイだと判断した。本線に合流した。ちょっと元気に加速させると1UZ-FEのちょっとドロドロした音が聞こえるが、走行車線を100km/hで走らせると、途端にE/G音が聞こえなくなる



市街地でも顕著だったハイギアードなギア比のお陰で100km/h時のE/G回転数は2200弱ということになるのだが、試乗車はタコメーターの調子が悪く、何故か1400rpm程度を指していた。いずれにせよ、セルシオは平坦路どころか登り坂でも涼しい顔をして、2200rpmであろうはずなのに1400rpmと言われても信じてしまうほどE/Gの音は小さかった。世界が驚愕した静粛性、そうは言っても35年前の高級車であり、イメージしたような聴力検査ブースのような静けさはない。過去に試乗した現行モデルのLS500hだって「音がする」のだから、当たり前と言えば当たり前である。

しかしながら、そのボリュームは明らかに小さい。風切り音も聞こえるのだが、「ピュー」という笛吹き音であるわけも無く、「バサバサバサ」という変動音でも無く「サーーーー」という一定の音なので聞いている内に慣れて気にならなくなる。気になる高い周波数でも無く、常に変化している訳でも無いデザインされた風切り音であることは容易に分かった。

ウインドシールドガラスとルーフの繋ぎの滑らかさや、ドアフレームとサイドドアガラスの段差の小ささなど空気を滑らかに後方に流す、という物理的に正しい誰でも分かるようなことを馬鹿正直にやり切っているのがセルシオなのだ。




追い越し加速も確認してみたのだが、アクセルを踏み増すと4速ロックアップ状態を維持したまま回転数が緩やかに上昇するが、車速はみるみる上がっていき安全な追い越しが可能だ。高回転でV8らしい咆吼を轟かせながら背中がシートバックに押しつけられるような・・・・なんてエモーショナルでドラマチックな感覚は一切ない。レスポンスも良いし、恐怖を抱かせない程度に俊敏に加速して用事が終わればさっさと定常運転に戻る。これこそがセルシオの「ドライバーを疲れさせない」という美点が発揮された瞬間である。

長いトンネルに入り、「ガクッ」(意訳)となる直前の超高速領域まで確認したがシンメイ工業のレストアの甲斐もあってビシッと走る。その領域でも100km/hで走っているかのような感覚が持続する点で今までの超高級スポーツカーとは全く違っていた。例えばトンネルに反響するエグゾーストノートによって高まる高揚感のようなものは無い。それがセルシオの高性能の見せ方なのだ。



そしてその高性能を使い切るために必要なブレーキも80年代の国産車というイメージからすると、遙かにコントローラブルで効き自体も全く安心できる性能を発揮しており驚いた。もしかするとレンタカー用にいいブレーキパッドが奢られている可能性もあるが、試乗車は現代の目で見ても申し分ないブレーキだった。

しつこいがセルシオは空気抵抗が低い。空気抵抗の小ささを示す抗力係数CD値を比較すると、メルセデスベンツ420SELで0.37、BMW735iで0.32という状況の中でセルシオは当時としては頭一つ抜けた0.29という超弩級の空力性能を誇っていた。



アウトバーンを250km/hで走るためにはCD値が0.35の場合、290psが必要だが、その高出力を発揮するためには排気量を上げる必要があり燃費が犠牲になる。セルシオは260psでそれを実現出来ている理由は空力がずば抜けて良いからだ。セルシオの床下を覗くと左右対称の美しい排気管の中でも嵩張る太鼓部分の直前でヒートインシュレーターにキック形状が与えられて気流を滑らかに飛ばす工夫が織り込まれている。これほどまでに細やかな空力対策をセルシオは行っているのだ。



そもそも開発当初は燃費を意識してV8ながら3.5Lで開発がスタートしていた。その頃はMX73クレシーダをベースに切り貼りして作った試作車で8.7km/L程度しか発揮できなかったという。北米のレクサスというネーミングが決定した頃には3.8Lに排気量アップされていたが、むやみに排気量を上げると「馬鹿みたいなデカイE/Gより賢いE/Gを好む」というヤッピーの傾向にそぐわないものになるというジレンマの中で最終的には日産との競合も考えて公称4L台になるまで成長させたが、それでも燃費性能を達成させている。



帰路、環状交差点で少しだけ余分に旋回してきたが車幅の広さにも助けられて安定した旋回挙動を示す。決してスポーツカー的でも無いが、ステアリング操作に対して前輪が横滑りするような物足りなさは感じられず、わざと切り足してみてもスキール音も出さずにドライバーの意志に忠実だった。このあたりが、スポーツカー顔負けのキビキビ感を持つ現行LS500hで感じたものとの大きな違いだった。

LS400が北米で狙ったのはクルマの運転を楽しみたい自動車趣味人向けの「ロードアンドトラック誌」ではなく公正な消費者情報を提供する「コンシューマーレポート(CR)誌」で評価される車だ。日本では前者の立ち位置のメディアが多いが、北米では自動車のみならず有益なバイヤーズガイドとしてCR誌を購読している人は多い。企業から一切広告料を受け取らず公正な評価を行っていることで定評があり、自動車評価用に自前のテストコースを持っているほどだ。

セルシオを運転していると、第一級のパフォーマンスを持ちながら、それをひけらかすようなことはなくエレガントに全振りしたような乗り味に躾られていることが分かる。それを人によっては「退屈で刺激が無い」と評される可能性があるが、自動車に道具としての機能を求める人には「静かで疲れない」と映るのではないだろうか。特にセルシオやLS400は一流の実用品を目指しているのでむしろ後者の層に評価されるべきだろう。



さらに静粛性が高いのでオーディオにも凝っている。レクサスLS400も「ナカミチ」の名を冠したシステムが売りになっているが、主戦場である北米では渋滞が厳しい通勤時や、単調な長距離移動の環境ではオーディオに対するニーズが高い。日本仕様のセルシオもパイオニア製のセルシオライブサウンドシステムとしてウーハーを積み、7スピーカー(2つのツイーターとウーハー含む)のチューナーとカセット、6連奏CDチェンジャーという内容だ。DINサイズにとらわれない専用の意匠とし、特性も本革とファブリック使用でアンプを変えている。キャビンに合わせた音響設計が施されているというが、確かにNHKFMでクラシックを聴いているだけでその良さが分かる。リラックスした気持ちで試乗を楽しんでいた。

もうすぐ、目的地に到着する時間になったが少し早かったので、ここぞとばかりもう一区間高速道路に乗ってしまった。必ずしも新車同然とは言えないコンディションだが、それでもセルシオの持つ凄みは充分伝わった。返却する頃にはすっかり降りるのが嫌になってしまった。



セルシオは登場以来、あらゆる人がそう評したように「スムースで静粛性が高い」という評価が私の中でも経験として身に沁みて分かった。私にこの感想を持たせるために、一体どれだけのエンジニアが心血を注いできたのだろう。令和になった現代なら簡単に使える手段が使えない昭和末期の技術を使って愚直に真正面からライバルに挑んだという凄みがある。

世界最高のものを生み出すという一人ひとりのエンジニア達の絶え間ない努力の背景に昭和的な空気があったであろう様子は後年出版された書籍類の記述からも窺い知れる。平成時代に会社員になった私の上司達「昭和の残党」が若かりし頃に働き盛りだった「24時間戦える」人たちの働き方がそれだったようだ。それらのネガティブな面がある事を知っているが、だからこそあの時代にこのレベルのものを生み出すことが出来たのだ。不器用ながら純粋さや真面目さ、質実剛健さを感じる。セルシオは見かけ倒しの高級車では無い。走らせた実力も現代の車と較べても未だに高いレベルにある。

●居住性



まず運転席に座った時、妙な安心感があった。それまでに経験したトヨタ車と雰囲気がよく似ていたからなのかも知れないが着座し、ドラポジを合わせてもピッタリと合うポジションが見つかるからかも知れない。ペダルとの関係でスライド量を決め、適度にリラックスしたリクライニング姿勢にステアリングを合わせていくが、チルト角15.25deg、リーチ45mmの範囲内で無段階調整が可能で普段私が気にするシート中心とステアリング軸のずれメーター被りも気にならない。そんなこと、余裕のあるボディサイズだからそんなことは当たり前なのかも知れないが。

少なくとも前席は身長165cmの小柄なアジア人には何の不満もない居住空間だ。空力を意識したとはいえどAピラーがおでこに迫ってくるようなことも無く、過剰さのない広々とした運転席だった。

初代セルシオは完成度の高さゆえ、10年はFMCしないとまで言われていたのにたった5年でFMCされることになった理由の一つとして後席の狭さが挙げられていた。全長5mもあるセダンでそんなことあり得るのか?とかねてから疑問を感じていたが、遂にその真偽を確かめる時が来た。



前席で合わせたポジションのまま後席を確認した。現代の視点で見ればヒールヒップ段差が小さめで脚を投げ出すような座らせ方の割に膝前にはなんとこぶし4個分の余裕があった。座面の前を持ち上げて太腿をしっかり支持してあげようという心的なシートは安心して身を預けられる。もう少しヒールヒップ段差を着けてアップライトに座れないものかと思うが、もしかすると、空力のためにフロア面を最下面にし、強度のためのハット断面部材を室内側に入れている影響でフロアが幾分か上がってしまったのでは無いかとも思われるが、脚長の欧米人の体格で調整した前席位置では少し膝前が狭くなるかも知れない。



一方、座高は人並み以上にある私が座ってもヘッドクリアランスもこぶし1個が残る。空力を意識してルーフを早く終わらせたいはずのセダンとしては充分な広さがあるが、ルーフサイドはほんの少し近いかなと感じられるのは空力的にキャビンを絞り込んだ影響かも知れない。

それでも日本国内のショーファードリブンとしては充分な居住空間を持っているとは言える。後席重視のFパッケージならリクライニング機構を使ってさらに快適に過ごすことができるだろう。



ラゲージはサムソナイト大型2個、中型2個を収納できる大容量を確保。ラゲージ容量は意外に控えめな408Lとされているが、おそらくデッキサイドに収納式ツールボックスやCDチェンジャーを配置されているからだろう。工具セットは、当時のトヨタ車に搭載されていた内容の工具だが、表面処理をつけた光沢のある工具が納められる。「どうせ使わないから」などと手を抜くことが無い点は素晴らしい。




スペアタイヤを使う際にトランクマットをめくりやすいように折りたたみ式にしている点や、ラゲージドアヒンジはアルミ製にして充分な剛性を確保しつつ、断面に凹みを設けてワイヤハーネスをその部分に収納してスッキリ見せるなどの配慮を見せており、魂は細部に宿るという言葉の意味を教えてくれる。

●価格

1989年デビュー当時のセルシオの価格は下記である。



開始価格が455万円というのには驚いた。現代の目で見ればアルファード2.5X(THS)の税抜き価格463.6万円よりも安いわけだが、1989年式クラウンセダン4Lは417.8万円、同じく1989年式センチュリーDタイプの451.7万円よりもセルシオは高い。今まで日本最高の高級車クラウンや公用車としてフォーマルなリーダーやエグゼクティブ達を運ぶセンチュリーよりも高いというのは相当な高級車であると言えよう。

グレード構成はオーナードライバー向けのA仕様スポーティなピエゾTEMSを採用したB仕様エアサス搭載の豪華C仕様、さらに後席重視のFパッケージがある。全て後輪駆動の4L V8を積んだ4速ATのみ。

目的に応じて選びやすいグレード構成になっているので簡単に解説すると、

A仕様は15インチアルミホイールやオプティトロンメーター、電動チルト・手動テレスコ、ウォールナット本杢パネル、SRSエアバッグ、パワーシート、カセット一体AM/FMチューナーが備わる。

試乗車でもあるB仕様は目玉装備のピエゾTEMS、ABS、TRC、熱線反射ガラス、超音波雨滴除去ミラー、液晶防眩ミラー、ハイマウントストップランプ、電動チルテレ、ワイヤレスドアロック、本革ステアリング+シフトノブ、電動アジャスタブルベルトアンカー、ウールファブリックシート、CDオートチェンジャーなど走行や運転に関わる装備のレベルアップが多い。

75万円の価格アップはあるが確かにABSを着けたA仕様で満足出来るかといえば本革ステアリングが欲しいとか、CDが聞きたいとかちょっとした装備だが、高級車を象徴する装備が標準で着くB仕様は悩ましい。



C仕様はエアサスとなり、マイコンプリセットドラポジ、上級ウールファブリック、ヘッドレストの電動調整機構が備わる。価格差は20万円でほぼエアサス代と考えて良いだろう。B仕様は減衰力を高めた操安チューンなので、高級車らしいふんわりした世界観はエアサスで実現される。その意味で当時の富裕層ならC仕様をまず選ぶのではないだろうか。

C仕様に追加できるFパッケージは後席重視のショーファー仕様だ。Rr大型センターアームレスト、Rrパワーシート、Rrシートバイブレータ、Rrシートヒータ、Rr電動上下調整式ヘッドレスト、助手席制御システム、後席用クーラー吹出し口(ルーフサイド)、Rr専用カセットデッキ、Rrオーディオコントローラがセット装着されるが、70万円高という価格もオーナードライバーはまず選ばないだろうが、
後席重視の高級ミニバンが市民権を得る前の高級セダンならではのセット仕様だ。



ところで北米仕様は開始価格3万5000ドル(当時のレート130円/ドルで455万円)であった。こうしてみると、A仕様はレクサスLS400と価格を揃えたアリバイ的なグレードである事が分かる。レザーシートやムーンルーフを追加した上級仕様は3万9800ドル(同レートで517.4万円)である。

これは当時のトヨタにとっては未開拓の高級車領域であるものの、仮想敵の西ドイツ製高級車より1万ドル安い価格設定だ。一方、国内向けセルシオは既に確固たる地位を築き上げたトヨタが放つ渾身の国際派高級車であり、しっかり収益を上げるための価格設定であったと言えよう。



自分だったらどの仕様を選ぶか・・・とても悩ましい。新車でC仕様のエアサスフワフワ感覚を味わってみるもの楽しいし、クラウンとは違う欧米流の高速域性能という意味ではBタイプが似合うし、装備のバランスも良い気がする。しかし、装備が貧弱なもののA仕様の素直なコイルサスこそが神髄なんじゃないかという気がする。販売現場では「せっかく買うならC仕様ですよ」って言われそうな気もするが。

●燃費

嘘かホントか知らないがこの時代の西ドイツのプレミアムカーは時間を金で買うために速く走れるようになっていたとか。限られた時間でたくさんの仕事をこなすため有能なビジネスマンがプレミアムカーを運転してアウトバーンを疾走し、出張していたらしい。だから、西ドイツのプレミアムカーは安楽なだけで無くツーリングカーとしても優秀だったとされている。



セルシオは北米のガスガズラー法に対応して22.5MPG(=9.57km/L)以上を達成することを目標にした。ガソリンが安い北米ゆえ、日々の燃費が気になるというよりも石油の浪費による大気汚染やエネルギー政策上の理由で22.5MPGを下回る車両には段階的に税金がかる事に目をつけた。

ガスガズラー法では最大で3850ドルもの罰則的税金が設定されていた。税は車両価格に上乗せされる事となる。当時の常識としては高級車を所有すると言うことは燃費の悪い車を所有するということであり、高級車のオーナーはその罰金も払える余裕のある人であるという証でもあった。



LS400は徹底した空力性能の追求によって高速燃費の改善を達成。ガスガズラー税免除という快挙を成し遂げた。最高速度250km/hと22.5MPGの両立は電動化技術が皆無でE/Gの可変技術が未熟だった当時としては並大抵のレベルで行えることではない。カタログで確認するとセルシオはファイナル比が3.916だが、北米では3.615というハイギアードな仕様が選ばれている。上記画像はLS400がガスガズラー税免除になっているエビデンスである。Gas Guzzler Noと書かれていることが分かる。(combined燃費が18MPGなのでどういう計算で免税になるのかまでは見つけきれなかった)

日本では北米ほど状況が厳しくなかったが、参考のため当時のトヨタ車の日本国内での燃費性能をまとめてみた。



全て4速ATの6気筒以上の車両である。興味深いことにマークIIとクラウン、或いはクラウンとセルシオで同一ユニットの組み合わせでは燃費性能が同一となっている。セルシオとセンチュリーを比較したとき、同じ4.0L V8を積むとはいえ、基本設計が旧いのと車重の重さによってセルシオの燃費の良さ16%良好である。

クラウン同士で比較すると、L6とV8で排気量は排気量は1.33倍であり、最高出力も1.3倍である。最高出力が単純に比例しないのも気筒数の違いによる摩擦の違いなどもあるだろうが、燃費性能は1/1.33=0.75倍≒3Lの75%となるのかと言えば、実際には88%を達成している。これは1UZ-FEとECT-iがいかに燃費に腐心したかがよく分かる結果である。



今回の試乗では満タンとされる状態から81km試乗に使い11.64L給油した。燃費は満タン法で6.95km/L。精度に関してはさておき、ほぼカタログ燃費を達成している。時間の都合で試乗コースの8割が高速道路、または信号のないバイパスだったことも好材料だが、セルシオの空力性能の良さが効いていると思われる。

●まとめ~その技術はトヨタの血となり骨となった

セルシオの開発の為の投資は恐らく大規模なものだったと思う。試作車の数が多いなんて話ではなく、そのための設備(士別テストコース)まで用意したというのだから。或いは田原工場内に専用の生産ラインをひくというのも、前例が無く単に新規モデルの生産準備では済まなかっただろう。



1980年代という日本の自動車産業の良い季節をフルに使って開発されたセルシオはただゴージャスな高級車というだけでは無く、日本発の歴史が無いブランドであっても本格的高級車市場に参入できる、という自信を日本の自動車業界に与えた存在だった。薄利多売を信条とする大衆車だけでなく、プレミアムカーが生み出す高収益の世界を切り拓いたのには大きな意味があった。



そしてトヨタ自身もセルシオで培った技術をいち早くヨコテン(横展開、良い事例を社内に広く伝えて方々で実施すること)を行った結果、例えば、世界一滑らかなV8はクラウンにも搭載され、それが救急車のパワートレーンになったが、波及効果はそれだけには留まらない。カムリのワイパーは速度域に関係なく広い面積を拭くようになり、カリーナのミラーに着いた雨粒は超音波で除去され、カローラのAピラーガーニッシュの分割線は後に引かれ、スターレットの排気系はステンレス化され、ATは変速時にE/Gと連携して変速時に点火時期を調整してトルクを落とし、フトショックを減らす制御が付与されるなど、トヨタ車の技術全体が全体がスパイラルアップしたのだ。

この効果を考えればセルシオを開発するために行った技術開発やそれに伴う投資額は安いものだったのかも知れない。1994年に全面改良が加えられた際は「トヨタは作れば損する採算性の悪いセルシオをコストダウンするためにFMCを行った」とまで噂されるほど初代セルシオの与えたインパクトは大きいものだった。



2001年に運転免許を取得した私にとって初代セルシオは明治維新や高度成長のような伝説の一つで、だからこそ「死ぬまでに経験しておきたい自動車リスト」に載せていた。私の期待は裏切られること無く大きな満足を与え心を動かしてくれた



私は、いま2000年式プログレを共同保有している。「My Life Size CELSIOR」をテーマに開発された車だけあってセルシオの良いところを再現し、国際派のセルシオでは過剰な部分をうまくオミットしつつも5ナンバーサイズに押し込んだ車だという作り手の主張に強く共感できた。普段の試乗後は「やっぱプログレは静かだな・・・」という感想に落ち着くところがセルシオ試乗後は「あれっ、プログレのロードノイズが気になる・・・」「高速道路なのにE/Gの音が感じられる(当たり前だろ)」という事に気付けてしまった

普段「いい車だな」と感銘を受けている25年前の車のさらに11年前に発売された車がこんなに良いなんて!と感じられただけでも、私が抱いた期待を乗車後も裏切らなかった証拠になっている。

このような素晴らしいクルマを自由に運転できる機会を作って下さったセルシオオーナーの山本シンヤさんに深く感謝申し上げる。
(山本氏のセルシオがKINTO Vintage clubにて期間限定貸し出しされている)

Posted at 2025/11/25 00:26:24 | コメント(5) | トラックバック(0) | 感想文_トヨタ・レクサス | クルマ
2025年11月03日 イイね!

2025年式フォレスターSPORT感想文

2025年式フォレスターSPORT感想文2025年4月にデビューしたフォレスターのガソリンターボ車に試乗する機会を得た。

北米では前年から売られていた6代目フォレスターはエクスプローラー的なアメリカン顔になって登場した。先代のSGPプラットフォームを継承し、ホイールベースは変わらず、サイズをほとんど変えていない。グローバルカーに向いていると言われるSUVだが、特にアメリカでよく売れておりボディサイズに対する感度が低いため、どのメーカーの商品も世代が進むごとに肥大化が免れない状況の中ではよく踏みとどまっている。



水平対向とシンメトリカルAWDというスバルDNAにSUVという「一般性」と安全機能と電動化を積み増したのがフォレスターである。まず安全性能から見ていこう。新しいフォレスターはサイクリストに世界で初めて対応した歩行者エアバッグをワイパー根元のカウルルーバーに設定した。アイサイトはステレオカメラだけでなく、単眼カメラとレーダーを追加してプリクラッシュブレーキのカバーエリアを拡大。渋滞時ハンズオフアシストやドライバー異常時対応システムが備わって「安全のスバル」というイメージを強化している。



そして長年のスバルの悩みの種だった燃費に関しても協業先のトヨタのキラーアイテムTHSを導入し、直噴2.5L水平対向E/Gに対してストロングハイブリッドを導入した。S:HEVと呼ぶスバル流THSも変速機の位置に2つのモーターとプラネタリギアを組み合わせたTHSによってWLTCモードで18.4km/L~18.8km/Lという飛躍的な進化を遂げている。18.1km/Lのエクストレイルe-POWERは凌ぐが、同じTHSを積むRAV4はモデル末期ながら20.4km/L~20.6km/Lと負けている。その分、フォレスターは縦置きE/Gを活かしてプロペラシャフトを残して高いAWD性能を維持した。競合車はRrモーターを積むことで後輪を駆動した電気式4輪駆動としているが、Rrモーターの性能(=サイズで決まる)に制約がありスバルが求める駆動力(=E/G+モーターのシステム出力)を実現する上でもプロペラシャフトを使った方が都合が良かった。

フルタイム4WDをウリにしてきたスバルだが、フォレスターには一定の条件でFWD(前輪駆動)に切り替えるクラッチ開放制御を採用。路面状況の良い自動車専用道路を一定速度で直進走行している時など、AWD性能が過剰となる場合にはクラッチを自動的に開放してFWDに切り替える制御だという。燃費のためにポリシーを曲げて魂を「ネンピの悪魔」に売った感じもあるが、公式サイトに拠れば

「しかし、この制御により、後輪への駆動力伝達をカットすることで機械的・電力的なロスを低減し、燃費性能の向上につなげています。切り替えは自動で行うため、ドライバーの操作は不要です。なお、X-MODE作動時やSI-DRIVEのSモード選択時は、開放制御は実施しません。また、この制御の作動には、応答性に優れた電子制御を採用しているため、瞬時に切り替わります。ステアリング操作や路面状況の悪化に応じて瞬時に後輪にもトルクを配分するAWDに戻るため、SUBARU SUVの特長である走行安定性もしっかりと確保しています。」

・・・とものすごい分量でフォローしており、社内でも後ろめたい気持ちがあったのかも知れないがいささか過剰反応気味か。トップクラスの低燃費は誇らなくても、後ろ指を指されず、維持する事が苦にならないトレンドラインに即した燃費性能を遂に手に入れた。



試乗車は1.8Lターボの「SPORT」だ。ラインナップ上、最廉価仕様にあたるが装備レベルや走らせた感触は決して安物ではない。税込み価格404.8万円は先代の同一グレードの価格346.5万円と比べると58.3万円アップで、最廉価だった2.0ツーリング306.9万円とは97.9万円アップとなり割高感が強い。米が昨年の2倍以上の価格になった事を考えればマシだと言われるかも知れないが・・・・。

かつての全天候型バカッ速ワゴンのキャラクターでは無く、スバルブランドの本格SUVとなったフォレスター。スバルが重視している北米では3列SUVのアセントやミドルセダンのレガシィがまだ残されているが、日本ではクロストレックとレイバックと並ぶ大きめのサイズの「インプレッサ系列SUV」の一つである。

ミニバンを除いてファミリーカーに最適な広々としたキャビンと上質な走りはフォレスターの魅力であり、さらに純ガソリンE/Gが選べることもフォレスターの魅力である。ただ、アルミホイールの設定が18インチにとどまり、オールシーズンタイヤが早めにスキール音を出すことを考えるとプレミアムグレードで選べる19インチサマータイヤも選べるようにするなど、あと少し胸を張って乗れるターボ車であって欲しい。アイサイトのヒットと北米市場での成功によってスバリスト層切り捨てに舵を切っている状況は変わらないが、まだ微かに真面目な部分も残されている。

自動変速車が好きな方で、ブランドより道具としての機能性を求める人ならフォレスターは良い選択肢になるだろう。

Posted at 2025/11/03 21:57:10 | コメント(1) | クルマレビュー
2025年10月03日 イイね!

2016年式S660 α感想文

2016年式S660 α感想文●床の間スポーツカー
ホンダが販売した初めての乗用車であるSの名を引き継いだ2025年現在の最新作。その名の通り660ccの軽乗用車である。



Sの系譜は幻のS360から始まる。ホンダの4輪進出にあたり、商用車のT360とともに2シータースポーツのS360が開発されたが、市場ニーズは商用車であるとしてT360だけがデビュー、S360は発売されず、1962年のモーターショーにS360と共に展示された小型車版のS500が発売された。その後S600、S800と進化を続け最終的には最高速度100MPHを達成し、本格スポーツカーとして認められる性能を誇った。



時は流れ、1990年にホンダ初のミッドシップスポーツカーのNSXがデビューしたわずか1年後の1991年、「ミッドシップアミューズメント」を謳うBEATが登場。BEATは開発中のスクープ記事はS660では?と期待されていたのに、結局S660を名乗らなかった。一説によれば「走る精密機械」と呼ばれたDOHCを採用しなかったからとも言われるが真偽は不明だ。他社が過給に頼る中、自然吸気のまま8500rpmまで回して64psを達成していたBEATは、ABC三兄弟の「B」として軽自動車の贅沢なパーソナルカーとしての可能性を示した。



ホンダのスポーツモデルは以降、本格サーキット走行も可能なTYPE Rが脚光を浴びていたが、1998年には許容回転数が9000rpmという超高回転型NAを搭載したS2000を発売した。ホンダはS2000のためにほぼ手作りの生産ラインを高根沢工場に用意し、専用のFRプラットフォームを与えた、私も10分ほど同級生が買ったS2000を運転したことがあるが、とにかくピーキーでじゃじゃ馬で、路面の凹凸でポンポン跳ねるような感覚があり、直線路でアクセルを深く踏めばレースカーみたいなデジパネのバーグラフが踊り、9000rpmまできっちり回った。

それ以後はシビックTYPE Rが作り続けられてホンダのスポーツイメージをけん引し続けてきた。

今回取上げるS660は2010年に本田技研50周年を記念して社内公募で選ばれた新商品企画案が基になっている。エクステリアデザインは2011年のEVスターというコンセプトカーをベースに、史上最年少の22歳(入社4年目)のモデラ―(クレイモデルを造形する専門職)が開発責任者になった。エンジニアではないため補佐役のベテランエンジニア達が彼を支えた。

スポーツカーにとっても最も大切な走りに大きな影響のあるパワートレーン・トライブトレーンはN-BOXで実績のあるS07AターボE/Gに対して軽自動車初の6速MTを新開発するという夢の様な組み合わせを実現してくれた。せっかくのチャンスとばかり、ほとんどの部品を新規開発するというこだわりきった開発には流用行為を拒絶し、専用設計を尊ぶ好事家もニッコリだろう。



S660は2015年4月から、2022年3月までの7年間に38916台が生産された。絶対値で言えば初代コペンの58496台(国内)に及ばないが、販売されていた年数を考えればほぼ互角の販売実績と言える(S660:463.3台/月 初代コペン:475.6台/月)。ただ、月間目標販売台数は800台だったので、ホンダとしてはもっと売るつもりだったのかも知れないが、月販3000台を謳ったBEATが5年半で33892台(513台/月)売った実績と比較して、S660は健闘している。



オープンエアモータリングが楽しめる軽スポーツカーというジャンルの中で、ヒット作とされる初代コペンと比較するとS660はルーフ開口が狭く、開閉が手動のため手間がかかり、ラゲージスペースは壊滅的に狭い。それでも結果的に善戦したのはS660の持つ「しつらえ」たメカニズムが神秘性を保ってきたからだと私は思う。

S660はBEATっぽさも残した元気印のエクステリアデザイン。充分以上の質感を持たせたオーセンティックなインテリア、しっかり高回転まで回るターボE/Gと実利も取れる6MT、4輪ディスクブレーキ、4輪独立懸架といったスポーツカーの記号性を大切にしている。



実際に運転してみても、スポーツカー特有の気難しさを感じさせずにどんどん踏み込んで、切り込んでいける。だから私のようなアホが「モアパワー!もっとスリルが欲しい」などと錯覚できるほど安定した走行性能はE/G以上に速いシャシ性能の成果であろう。

私の感じたS660の最大の弱点は、高い剛性を確保した結果の乗降性の悪さだ。膝周りのスペースとカウルサイド部の開口が不足しており、小柄な私でさえ足捌きに苦労するようでは脚が長い現代っ子にも辛いだろう。毎回シートをスライドして下げるのも億劫だった。モアパワー派のために社外品のECUを装着すればよいが、ボディは変えられないのでS660を購入したい人は乗降性だけは確認しておくと良い。

唐突だが私は一応、中型二輪の免許を持っている。2輪車で一番所有してみたいのは、意外かも知れないがホンダドリーム50である。乗った事すら無いのだが、カタログを中学生時代に入手したのだが、これは私が唯一持っている二輪車のカタログである。乗った事が無い私が考えるドリーム50の魅力はその美しさであり、「床の間バイク」という別名も持っているほど美しさに定評がある。クロームメッキが奢られたクラシカルな意匠、50ccでありながらDOHC4バルブを採用し美しく輝くE/G。いつか所有できなくても、走らせてみたいと思える私の憧れの一台だ。



ホンダS660はこのドリーム50的なものを感じている。作った人たちの想いとは違うと思うが、私はS660を見ていると本来は走ってナンボのスポーツカーなのに、きっと所有したら、毎日ガンガン乗るよりも飾っておきたくなる「床の間スポーツカー」になれる素質もあると思う。(個人の見解)

まだ終売から日が浅いS660も25年経過してしまうと、マイクロスーパーカー的な面白がり方をされて海外に渡ってしまう個体が増える。どうしても欲しいなら、プレミア価格なのが癪だが早めに中古車を抑えておいた方が良いだろう。

Posted at 2025/10/04 00:15:54 | コメント(2) | クルマレビュー
2025年09月21日 イイね!

2023年式フレアワゴンXS/スペーシアHYBRID X感想文

2023年式フレアワゴンXS/スペーシアHYBRID X感想文●宿敵を超えようとする執念が育てた商品

スーパーハイト軽は名実ともに現代の大衆車である。「現代の最もポピュラーなファミリーカー」というタイトルを欲しいままにしているジャンルだ。かつての大衆車は1000ccクラスの2セダンだったが、日本国内ではいつしか軽規格にスライドドアを組み合わせた3列ミニバンの3列目を切り飛ばしたような商品が市場を席巻した。

この市場は2003年にダイハツがタントで切り拓き、ホンダがF1技術者をLPLに抜擢して追撃したN-BOXが大衆車としての地位を確固たるものにした。

アルトやワゴンRで軽自動車の新しい世界を切り拓いてきたスズキはどう戦ってきたのか。タントから遅れること5年、2008年にパレットを発売した。



スーパーハイトプロポーションに両側スライドドアを組み合わせてタントに挑んだのだが、前年にFMCを敢行した2代目タントはミラクルオープンドアを採用し商品性を高めており、まんまと陳腐化されてしまっていた。例えは2008年(1-12月)の販売台数はパレットが7.3万台だったのに対してタントは15.9万台売っていた。スペーシアは完敗だが、まだワゴンRが20.5万台と軽自動車のトップに君臨していた。

2013年に名称をスペーシアに改めて再度挑戦した。スズキがダイハツとの燃費競争で磨き上げた
低燃費技術エネチャージや、実質的なマイルドハイブリッドともいえるSエネチャージを採用したのだが、今度は彗星のように現われたN-BOXの前に敗北してしまった。



例えば2013年度の販売台数はスペーシアが13.8万台売れたのに対し、タントが18万台と勝り、N-BOXに至っては22.6万台を売って軽自動車トップに君臨していた。グリーンハウスが大きくて明るい健康的なハイトワゴンだったのだが、ユーザーからはこのことが不評だったと後に判明するのである。

2017年の2代目スペーシアはスーツケースをモチーフに内外装をトータルコーディネートし、先進安全技術と新P/Fによる軽量ボディとマイルドハイブリッドの組み合わせで燃費を磨き対抗した。



このスーツケースデザインには秘密がある。それは先代の不評点「開放感があるが、一方で不安感がある」という顧客からの声に応えてベルトラインを高くしているのである。スズキも悔しかっただろうが隣にN-BOXを並べてショルダーの位置を調整しながらデザインした事で、N-BOXが持っていた「立派さ」と「守られ感」を手に入れた。

競合を真似するだけではない。年々過酷さを増す酷暑への配慮としてスリムサーキュレーターを軽として初めて採用し、逆に冷房のスポット風が苦手な女性を意識して風を拡散させるエアコングリルを採用した事もニュースになった。ソフト・ハード共にライバルをベンチマークし、着実に距離を詰めていった。例えば2018年(1-12月)の販売ランキングはスペーシアが15.2万台と13.6万台の3代目タントに勝利する事ができた。確かにタントは2019年の全面改良を控えており、商品力が低下していたとは言え遂に悲願を達成する事ができた。しかしながら、N-BOXは相変わらず24.2万台を売ってトップを維持していた。時々トップをスペーシアがN-BOXから奪う事ができても年間ランキングではN-BOXが優位であり、2024年(1-12月)もスペーシアが16.6万台に対して、N-BOXは20.6万台を売っている。



ただし、N-BOXが昨年度累計比89%と人気を落としているのに対して、スペーシアは135.5%と追撃の勢いが強まっている。N-BOXが高いブランド力を以てトップを守り続けるのか、スペーシアがこのまま商品力強化を積み重ねて悲願を達成するのかこれからも目が離せない。



今回試乗したのは2023年12月にデビューした3代目スペーシアのマツダ版(フレアワゴンXS)だ。
「わくわく満載!自由に使える安心・快適スペーシア」が商品コンセプトである。フレアワゴンXSはノーマル系上級仕様で、子育て世代のセカンドカー、或いはメインカー需要にも応えうる便利装備が満載されている。

ターゲットユーザーは
①後席に家族や仲間、荷物を載せる事が多いユーザー
②軽ワゴン及び軽ハイトワゴンからの乗り換えユーザー
③室内の広さは欲しいが、経済的に維持しやすい軽自動車を求めるユーザー
特にノーマル系は日常の脚としての利便性・経済性に軸足を持ちつつ広さを求める人としている。

スペーシアは子育て世代だけではなく、子育て終了層もターゲットにしているが彼らは購入時に特に重視する機能として安全運転支援機能を挙げているというデータに基づき予防安全装備が強化されている。具体的には単眼カメラとミリ波レーダーに加えて超音波センサーも追加したことで衝突被害軽減ブレーキの機能のうち、交差点での衝突回避機能や対自転車事故への対応能力が上がっている。

成功した先代を引き継ぎ、今回は「コンテナ」をモチーフにしたエクステリアデザインだが、先代より少し大人しくなったと印象で先代は可愛く作りすぎたという反省があるようだ。リブをたくさん入れた箱っぽいデザインは実際に触ったときの剛性感もあり、触感による頼もしさも持っている点が面白い。



走らせてみると、スーパーハイト軽の進化を感じる。加速性能は緩慢でむず痒く苦しいものの、一旦速度が乗ってしまえば、扱いやすい。また、ブレーキの減速感は希薄なものの、コントロール性が高く同乗者の状態を揺らさないように停止できる点は、10km/hでE/Gを止めたときの挙動と合わせて同乗者への違和感を消す事が可能だ。

高速道路は絶対的な出力不足が効いてくるシーンであり、追い越し車線を元気に走るような勢いは無く、月に1回以上高速道路を走る機会があるならターボを選んだ方が良いと思う。NAではハッキリ動力不足と言い切れるレベルだ。

ファミリーがこれ一台で全てをこなす、と考えると動的性能の頼りなさの総合的レベルアップが必要だ。しかし、それ以外の運転席のホールド感とキャビンの広さ、後席の便利さや収納へのこだわりを見ているとP/F流用で手堅くまとめたスペーシア(フレアワゴン)が支持されるのも納得がいく完成度だと素直に感心した。ただし、仕様設定に関しては廉価グレードの左側だけでもパワースライド機構のオプション設定があると良い。



ライバルが存在し、販売で優位に立つために改良を重ねていくことの大切さを実感した。★をつけるなら3。例えば動力・操安・制動など絶対的レベルが低いものの、バランスが良く取れている点を評価したい。
Posted at 2025/09/21 22:50:18 | コメント(1) | クルマレビュー
2025年08月23日 イイね!

2024年式シビックRSミニ感想文

2024年式シビックRSミニ感想文2021年発売の現行シビックは個人的に好ましいモデルだと感じていた。若年層に売れている、という報道は売り手の願望が生み出したプロパガンダかと思いきや、確かに若いドライバーがシビックでドライブしているのを見る機会があった。

更に私が注目したのはMT比率が高いという事だ。初期受注の35.1%がMTだったという。決して安いとは言えない価格設定のシビックの、さらにオワコンと言われかねないMT車に対して意外なほどの受注をなぜ勝ち取れたのか不思議に感じる人も居るだろう。個人的な見解では、「それなりの車格」で「それなりのE/Gと組み合わせられているから」だと考えた。

かつてカローラ(セダン/ツーリング/スポーツ)にもMTがあったが1.2Lターボという非力なE/Gが組み合わせられただけでなくシフト配置も理想からは遠く、コレジャナイという感じが残っていた。マツダ3にもMTが設定されていたが、人気のあったディーゼルのMTは廃止され、自然吸気のガソリンE/GのみにMTが設定されたが、のちに追加されたスカイアクティブXにMTが設定された。残念ながら、当時は割高だとして忌避感を生み、MTのラインナップは縮小の一途をたどる。

シビックの場合1.5Lターボで182PS/24.5kgmという高性能を発揮し、決して引け目を感じさせないスペックを持っていて、「我慢の廉価仕様」という感じが小さいことも一因かもしれない。



そんなMTが珍しく好評なシビックの弱点の一つは回転落ちが悪く重たいフィーリングだった。アクセルオフで燃料がカットされて減速をはじめるレスポンスが悪く、例えばクラッチを切ってアクセルをふかしてシフトダウンをする「回転合わせ」を行おうとすると待てども暮らせど回転が落ちない(比喩表現)のである。

確かに現代のMTは厳しい環境にいる。例えば電子制御スロットルだ。本来、ドライバーの意志に沿った動作ができる技術だが、ペダル操作に依存せずにスロットルを開閉できることから、安全デバイスだけで無く動的性能の辻褄合わせに使われることも少なくない。そして自動変速車ファーストな適合によって、本来は右足でE/Gと会話できるはずのスロットルがON-OFFスイッチのような鈍感なものに変えられたり、不感帯域が設けられるなど拷問のような設定が当たり前になっているのだ。キャブレターの自動車に乗った人にはEFIのフィーリングが気に入らない人が居たが、同じようにワイヤー引きスロットルを知る者にとって電子制御スロットルの違和感は計り知れない。近年は、その最悪期を脱しておりドライバーが制御しやすいスロットル特性のMT車も増えている。何しろ、クラッチの接続にはE/Gとの対話が不可欠でありシビックのMTはその点で問題は無かったのに回転落ちへの指摘の声が私だけでは無く、自動車評論家からも相次いでいた。

2024年、ホンダはLX/EXのMT仕様を廃止すると同時にMT専用のRSグレードを追加した。初動のMT比率の高さや若年層の支持を背景にMTへの改良の投資も説得できたのだろう。



カーグラ誌のインタビューによれば「日本でシビックを立て直したいという思いが強かった」という。所詮グローバルの主戦場は5割が北米、4割が中国、残る1割をアジア(含む日本)と南米で分け合うシェア構成なので、日本市場など無視できる存在だと思われているのだと私は想像していたが、意外にそうでは無かった。

日本での発売後、開発現場からの「もっとよくしたいという声」が出たため、各部署にヒアリングしてアイデアを持ち寄り、外国仕向けの別スペックの部品をかき集めて作ったのがRSなのだという。RSという名前自体は営業部門の意見で決まったそうだが、確かに北米仕様に存在する200psのSiという程ガチでは無いのだが日本ではお馴染みのSiRグレードの復活というのも悪くなかったように思う。(私はGLとか復活して欲しいが・・・)

・ショートストローク化
・軽量フライホイール

これによって前述の不満は解消され、変速することを楽しみに変えた。軽量フライホイールは質量が23%軽くなり、慣性モーメントは-30%低減したという。結果、回転落ちは50%向上したとされる。

さらに「レブマッチシステム」がタイプRから流用された。これはシフト操作をすると、アクセルを踏まなくても自動的に適切な回転数に合わせてくれてクラッチを繋いだときのショックをほとんど消すことができる。

カタログには書いていないが、シフトノブもドライバー側に寄せて曲げてあるそうだ。スッと手を置いた位置にシフトノブが来るように一筆入れてあるのはすばらしい。

このほか、大型ブレーキをはじめとしてシャシーもRS専用に再セッティングされ、ドライブモードスイッチに自分好みに設定できる「INDIVIDUAL」モードが追加されていて活用するしないに関わらず意オーナーの意志に少しでも寄り添おうという意志は感じる。ヒエラルキー上、タイプRがあるので、差別化をやり過ぎること無く、ウェルバランスを狙ったシビックRSは大変好ましい。

MTの改良と走りに関係するところは細かく手が入っているものの、内外装の差別化が慎ましい。具体的には上級のEXに対してハニカムグリルやグロスブラックの加飾、Rrバンパーのエキパイフィニッシャーも専用デザインだ。ホイールも切削加工が廃止されて(!)黒一色に。内装は赤ステッチや赤アクセント加飾とに留まり、ド派手なエアロとかインチアップだとかそういった差別化のための差別化にお金を使っていない点が好ましい。

しかし、ネガティブな印象を持ったのはグリル開口の空力上抜きたくない部分の穴埋め部の処理が下手な事だ。ただ埋めただけという感じで、実際の穴あき部との見栄え上の差が激しいのは高額な車としては残念である。例えば欧州ブランドの車はこういうところにも桟の立ちを高くしたり、シボのかけ方や部品分割を工夫している。これは他のホンダ車でも共通した不満点であり、コストを最優先にした結果だと思われるが、車の顔に関わる部分なので意識を高めて欲しい。



シビックRSは貴重なMT派のために真剣に考えられたMT車だ。トヨタもカローラにMTを設定していたが、非力な走りとシフト位置の悪さなど適当に作ったMTを引っ込めてしまった。マツダはマツダ3にMTを設定しているが、昨今のマツダはディーゼルやMTに対して冷淡で従来よりも強く効率を気にしているようにも映る。

そんな中でMTの基本機能に改良を加えて、普通に乗れるシビックRSの存在感は大きい。弁護のしようが無い価格設定を一旦脇に置いておくと我が家の有力な買換え候補の一つとして気になる存在になった。(だからといってポンと541万円も払う余裕が我が家には無い)

最近の私は毎朝の通勤経路で颯爽と右折してくるシビックRSとすれ違う。30代くらいの若い人が通勤に使っているようだ。毎朝「良いクルマに乗ってますね」と心の中で声をかけている。そして「頑張りましたね」と彼の決断を労ってしまう。

クルマの内容だけなら4~4.5★でも良いと思うが、足元を見た価格設定があんまりだ。RSの最終評価は★3だ。惚れ込んだ人は買って後悔はしないだろう。
Posted at 2025/08/24 00:58:33 | コメント(1) | クルマレビュー

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「@@ぐらせれ@ さん 買取屋はしつこいですね。懲りたので一括登録サイトなどは使わないようにしています。」
何シテル?   11/30 11:57
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