
2026年に登場したCX-5は単なる3代目ではない。
2021年に公表された商品計画を見る限り、
3代目CX-5は当初から存在は約束されていなかった。
しかしマツダはCX-5を全面改良させる決断を下した。
なぜなのか。
その答えを探すうちに、私は1994年の「萩原課長のカペラ」に行き着いた。
●新型CX-5は本来存在しなかったのか
2012年に登場した初代CX-5は魂動デザインとスカイアクティブ技術を全面採用した新世代車であり、マツダの最量販車種へ成長した。当時のマツダはやみくもに数を追うのではなく、全世界の2%の顧客(当時のマツダの欧州シェア)に振り向いてもらえる様なクルマ作りを行い、確実な固定客を獲得する戦略だった。2020年当時のマツダ副社長の藤原氏がベストカー誌のインタビューで「販売台数至上主義ではなく、世界シェア2%の支持を確実に得ることが重要」と語っている。
―そして2026年、いまのマツダを取り巻く状況は悪い。
2018年頃から唐突にプレミアムなブランドを打ち出すようになった。独創的な技術を熱っぽく語る理系的な方針を転換し、化粧品のようにイメージやデザインによって付加価値を与えるような戦略になった。
当時のカタログを見ても、自動車好きが気になるような技術的解説がいつの間にかお洒落なイメージ写真に置き換わった。
2019年発売の
マツダ3/
CX-30はHCCIを実用化したマニアックなスカイアクティブXを投入したものの、価格差の大きさもあり期待ほど市場に浸透しなかった。
また2021年10月にマツダが公表したSUV商品計画では、次期CX-5の導入は示されておらず、CX-5について明記されていたのは現行型の継続的な商品改良だった。この時点ではCX-5の全面改良が対外的な中期計画に組み込まれていなかった可能性がある。
2023年、CX-5代替の受け皿として期待される
CX-60を発売した。直列6気筒E/Gを搭載したFR車であり、私を含めた好事家ウケしそうな要素を持っていたものの、自社開発のトルコンレスATのマナーと突き上げのきついサスセッティングで大きく評判を落としてしまった。せっかく新規で起こした「ラージ」後輪駆動P/Fに直列6気筒ディーゼルE/Gを積んだのに、CX-5への代替は思うように進まず、実用派に向けて「スモール」のCX-30も用意していたが、期待する結果にはならなかった。
さらに、3列SUVのCX-8も「ラージ」のCX-80に移行しようとしたが、いずれも販売が好調とは言えない状況が続いており、プレミアムの本丸だったラージSUV群はマツダの経営を揺るがし始めた。
CX-5/8の顧客が求めていたのはプレミアムそのものではなく、実用性と技術・デザインの両立だったのだろう。少なくとも2021年時点では次期CX-5は商品計画に明示されず、今回の全面改良は事業環境や市場の反応を踏まえた判断だったと私は見ている。
言わば2026年に発売された新型CX-5は「令和最新版の萩原課長」だ。萩原課長というのは、1994年にデビューしたカペラの広告キャラクターのことだ。バブル期の5チャンネル政策や税制改定によるミドルサイズセダン大型化に伴って生まれた「クロノス兄弟」の商業的失敗により、マツダが急造した5ナンバーサイズのセダンが「萩原課長のカペラ」だった。
萩原課長のカペラは5ナンバー枠に収めながらも、クロノス同等の余裕ある室内空間を確保していた。小型枠でも立派に見えるように「大きく見せる」デザイン手法は当時の私ですら非常に古臭く映った。わずか3年という短期間しか販売されず、後続の「ひも人間カペラ」に代を譲ったが、萩原課長のカペラは、あのカーグラフィック誌も「久々のめっけもん」と評するほど良い意味で力の抜けた佳作であり、1996年に初代デミオが爆発的ヒットをするまでの間、影で苦しい台所事情のマツダを支えたのである。
・・・新型CX-5に話を戻そう。新型CX-5は開発コンセプト「新世代エモーショナル・デイリーコンフォート」のもと、顧客一人ひとりの「したい」を叶える5つ星という観点をセールスポイントにすべく開発された。
具体的には歴代の好評点「魂動デザイン」と「人馬一体の走り」をさらに磨き上げるとともに、ホイールベースを115mmも延長して後席・荷室スペースを拡大した。また、現代の車らしくコネクテッド機能はもちろんのことインフォテインメントも充実、最大15.6インチの大型センターディスプレイおよびマツダ初のGoogle搭載のディスプレイオーディオを装備。最新の先進安全技術(ADAS)やドライバー異常時対応システムを進化させた。
実際に乗ってみると、SUVらしい視界の良さと水平基調で広々感が感じられるだけでなく実際に広い。普段、狭苦しいデミオの後席でいがみ合う子供達も大喜びだった。
一方で、2.5LのMハイブリッド×6ATの走りの味・質感には疑問符がついた。マツダらしいハイテク感はスカイアクティブZ(フルハイブリッド)を待つほかないという感じだった。
さらに従来、センス良く高見えしていた内外装CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)は、新型では厳しい台所事情を想像させた。
しかしながら、車両本体価格は税込330万円からと良心的なので多少ガッカリしたとて、それが失望や怒りに繋がらない点は評価できる。こうした価格設定もマツダの「顧客を逃がしたくない」という焦りが伝わってくるようだ。
新型CX-5は5月21日の発売以降、1ヶ月で10000台を突破し、月販目標台数2000台の5倍となったことで販売店も一息つくことができたようだ。上位グレード「L」が65%を占め、新規顧客比率も47%に達している。マツダのシェア向上に寄与するという意味で好ましいが、マツダが新型CX-5で囲い込みたい既存ユーザー達はもしかするとスカイアクティブZ(フルHEV)待ちなのかも知れない。実は先代CX-5は発売1ヶ月で16639台の受注(月販目標の6.9倍)を得ており、勢いだけでは先代に負けている。これも私が、ファンはスカイZを待っているのでは無いかと考えた理由の一つだ。
マツダもディーゼルに対する期待は知っている。CX-5にディーゼルがどうしても欲しい顧客のために
新型発売後しばらく旧型の受注を受け付けるような配慮まで見せた。現状の好調はディーゼルまでは不要という人たちがCX-5に魅力を感じた結果だと考えられるが、長期的な成功を考えると二の矢(スカイZ)を成功させることが必要だと私は考える。
2026年夏に広島市へ遊びに行ったのだが、広島電鉄乗り場前にCX-5が展示されていたのを目撃した。「広島から走る歓びを世界へ」という言葉がCX-5の成功が広島圏の地域経済にとって重大な関心事であろうことを暗示している。
先代までのCX-5が好きだった人にも新型CX-5が刺さるかどうかはどちらとも言えない。これまでドライに燃費とリセールだけで車を選べないマイノリティ達がCX-5を支持してきた訳だが、新型では質感や独創性が薄れたことで「マツダらしさが足りない」と嘆く意見が出てもおかしくない。しかし、毎日一緒に暮らすからこそ「もうちょっと実用性が」という現実を知ったユーザーには、「そう、これこれ」と気づける愚直な改良もあり、本当にキモとなる部分は安易にコストダウンしていない点は高く評価されるべきだ。
総合評価としては現状★3。苦しい台所事情の中でもマツダらしい誠実さを感じるが、技術的なフックが欲しい。新型CX-5は初代のスカイアクティブDのように市場を驚かせる技術的飛躍もない。しかし、顧客が何を求めているのかを見つめ直したという意味では、むしろ近年のマツダで最も重要な一台かもしれない。令和版萩原課長の最終評価は2027年に登場するスカイアクティブZ搭載車が成功するかどうかによって決まるだろう。
