ドライビングの反省も終わったので,お次はタイヤのお話.
今回はA052が間に合わなかったので,代わりにCR-Sを履いて走りました.前回CR-Sを使ったのが
2023年の2月なので約2年振りとなります.当時もA052が入手出来ず,その代替としてCR-Sを使ったのですが,225/45R15というトリッキーなサイズを使ったものの,失火のトラブルで苦しまされていた時期なので,良し悪しは判断出来ませんでした.
そこから時は流れてCR-Sもv1→v2へと進化し,
色々と調べた結果「今の状態だと205/50R15の方が良いだろう」という判断で今回はこちらのサイズを選びました.ちなみに205/50R15の方も
2022年の4月に使っています.
長々と回想から入ってしまいましたが,今回はTC2000でのCR-Sの感触を振り返ってみます.なお,久方振りのタイヤ比較なので,今回は以前から一度やってみたかったフリクションサークルを使った分析にトライしてみようと思います.
まずはサンプルデータ.
【A052(1'07.839)】
気圧:1021.9hPa 気温:14.6℃ 路面温度:16.3℃
【CR-S(1'07.672)】
気圧:1018.9hPa 気温: 6.0℃ 路面温度:15.0℃
これらのロガーデータからフリクションサークルを描き,その外周部分を繋いでみるとこんな感じ(↓).
(青:A052 赤:CR-S)
今回,久方振りにCR-Sを履いて走ってみた訳なのですが,A052と比べて特に違和感はありませんでした(内圧が高い時に最終コーナーでアンダーステア強かった事くらい).このため,フリクションサークルもほぼ同じ形になるのかなぁ~?と思っていたのですが,比べてみると意外と違いますね.なお,厳密にはタイヤ以外の要素として,フロントのスプリングが中反発(A052)⇔低反発(CR-S)という点があるのですが,レート・長さは一緒なので今回は同等と見なして分析します.
まず,加速G.
両者共に概ね0.3G出ているので,ほぼ違いはありませんね.エンジン出力・ギヤ比が同じなので当たり前と言えば当たり前の話です.厳密にはCR-S(赤)の方が若干加速力が良い(サークルの下型に行っている)気もしますが,有意と呼べるほどの差ではない気がします.ただ,A052(青)の方が瞬間・瞬間では大きな加速Gを出している部分もあるので,ギャップの吸収力(≒コンパウンドの柔らかさ)という意味では,A052(青)の方が良いのかもしれません.
続けて,左右G.
ここは笑っちゃうくらい同じ旋回Gが出ていますね.多少前後の加減速とオーバーラップしている領域でも両者の絶対値に大きな差は生まれていないので,横のグリップという意味では同等と見なせるんじゃないでしょうか.
最後に,減速G.
ここは大きく異なるので状況別に細かく見てみようと思います.まずはタイヤのグリップを完全に縦に振り分けた時のMAX値(↓).
多少横Gでブレた状況を加えてもMAX値はCR-S(赤)の方が高かったようです.CR-S(赤)で最大減速Gを記録したポイントを調べてみたところ,最終コーナーの進入でした(↓).
車載と照らし合わせてみると,ちょうど4→3速へのシフトダウンが完了した辺りでこの減速Gが出ていたのですが,これは恐らくラフにクラッチを繋いだせいですね(汗).高車速域からのブレーキングで減速Gが高い状況下で,操作が間に合わずクラッチをバン!と繋いでしまい,その際の姿勢変化分が乗っかってMAX値になったのだと思われます・・・.
なので,正しく見るべきはその次に減速Gが大きかったポイントで,1コーナーのブレーキング or 2ヘアのブレーキングだったようです.A052(青)のMAX値は2ヘアのブレーキングだったので,こちらを取り上げて見てみると(↓),
やはり絶対値的にはCR-S(赤)の方が高い=CR-Sの方がブレーキングで良く止まる,と言えそうです.「ブレーキングで良くとまる」というと,以前
内圧の勉強をした際に(↓),

(BRIDGESTONE:
タイヤの接地面を”見る”技術「ULTIMAT EYE」より)
・制動力に関しては,内圧を下げれば下げるほど良くなる
・タイヤの前後方向の変形は横方向の変形よりも少なく,接地面積は維持される
・故に,前後方向のグリップを稼ぐために内圧を下げる
・そもそも,前後方向に掛かる力の方が,横方向の力よりも大きい
・従って,コーナリング性能を多少犠牲にしても,前後方向のグリップを稼ぐという選択肢はある
という事を学びました.今回「
CR-S v2の温間推奨値は2キロ」という情報を事前に得ていたのでこの値で走ったのですが,A052で走った時はこれよりも高い値に設定していたので,その差が出ている可能性はあります.逆に言うと,内圧を下げてグリップが大幅に増えるのは,やはりブレーキング領域のみで,加速領域もコーナリング領域も大して差はないという,勉強した事の裏付けが今回取れたのかもしれません.
次いで左コーナーの領域(↓).
ここは明らかにCR-S(赤)の方が上回っていますね.減速しつつ抜けていく左コーナーはどこだ?と調べてみたところ1ヘアでした.そこで1ヘアの車速のグラフを確認してみると(↓),
確かに120km/hを下回った領域ではCR-S(赤)の方が減速量が少なく,高い速度のまま1ヘアに進入出来ています.ブレーキングしつつコーナリングもする,両者をオーバーラップさせたような領域ではCR-S(赤)の方が秀でているという事なんでしょう.v1の頃の印象だと,こういった俗に言う「斜めのグリップ」を使う領域はCR-SはA052と比べて明確に落ちる印象があったのですが,今回乗った時は確かにそういった印象は受けませんでしたし,v2で改良された部分なのかもしれませんね.
では今度は右コーナー(↓).
ここも左コーナーと同様にCR-S(赤)の方が上回っていますが,前→右へ移る最後の部分はA052(青)の方が上回っています.左右で特性が違うなんて事はないはずなので,どういう事かなぁ~?と車速のデータを見てみると,
1コーナーと最終コーナーのドライビングミスのせいのようですね・・・.早めに縦で止めてしまって,ブレーキングとコーナリングをオーバーラップさせるような領域が少なかった結果,フリクションサークルのデータに出て来なかったという事なんでしょう.逆に言うと,ここは「ドライバーがタイヤを使い切れていない部分」という事で,「タイヤの性能を考えたら,もっとコーナリングスピードは上げられる(=伸び代)」という事になるんだと思われます.
最後に内圧の違いの話が出たので,1本目の内圧が高かった時(青)と2本目の推奨内圧まで下げた時(赤)の最終コーナーのフリクションサークルを比較してみるとこんな感じでした(↓).
調整したのはフロントの内圧だけなので,正真正銘内圧の差です.ご覧の通り,内圧が高い時(青:約2.4キロ)は加速する事が出来ず,タイヤのグリップは全て真横に使っているのが分かります.一方,内圧を下げた時(赤:約2.0キロ)はそれよりも僅かに下側に行っていて,同じくらい横のグリップを出しつつも,クルマを前に進める余力が出てきているのが読み取れます.やはり内圧を下げて増えるのは,横のグリップではなく,縦のグリップである事を示している結果かと思われます.
以上,A052 vs CR-SのTC2000編でした.纏めると,
・A052⇔CR-S(v2)で横のグリップは完全に互角
・縦のグリップは,加速領域ではほぼ互角 もしくは 僅かにA052の方が上
・減速領域は,明確にCR-Sの方が上
・特に減速と旋回をオーバーラップさせた「斜めのグリップ」はCR-Sの方が上
・但し,今回A052が斜めのグリップで劣ったのは,内圧の差である可能性は残る
・ドライビングミスによって,CR-Sの斜めのグリップを引き出せなかった領域もある
・CR-Sの内圧は,0.4キロ違えば明確にグリップの差が出る
・内圧を下げる事によって増えたのは,縦のグリップである
という感じでしょうか.「斜めのグリップはCR-Sの方が上」というのはかなり予想外の結果でした.v1の頃はここが足りていない印象だったのですが,v2の構造変更でここが改良されたという事なんですかね? また,内圧を0.4キロ下げてもタイヤの剛性が下がった(荷重を掛けた時に腰砕けになる)感触はなかったので,軽量級のCR-Xで使う場合には,まだまだ剛性に余裕がありそうです.1発のタイム狙いであれば,もう少し温間内圧を下げてみても良いのかもしれません.
今回CR-Sのv2を使ってみて,正直A052より劣る部分は見出せませんでした.この性能でA052の6割程度の値段なんですから,「これで十分でしょ」と思った程です.確かにCR-Sの作動温度域がA052よりも高いため,冬場の低い路面温度ではかなり辛いですが,逆に言えば一度温まってくれさえすればCR-Sの方が安定してドライビングに集中出来るんじゃないかな?とも思いました.低コストの練習用タイヤとして,CR-Sはかなり魅力的なタイヤだと思いました.