ForzaMotorsport上でCR-Xのセッティングを行っていた際,ダンパーのリバウンド側の減衰力を変更した事でハンドリングが大幅に変わった事に驚かされました.
実車と異なり,正直ForzaMotorsport上では色んなパラメータを変更しても違いは僅かで,基本的なクルマの特性は変わらない(パワーオーバーや重くて止まらない・曲がらない等)印象だったのですが,それと比較するとまさに劇的な変化でした.
この結果を踏まえて,ダンパーに対する自分の理解が間違っているような気がしたので,改めてダンパーの減衰力設定に関して勉強し直してみる事にしました.
まずは基本的な部分のおさらい.当たり前の話ですが,ダンパーは上下に伸び・縮みするものです(↓).
この伸び・縮みの変化は基本的にスプリングが受け持っていて,ダンパーはその変化の過渡(速度)をコントロールしているモノになります.端的に言うなら以下のような感じでしょうか(↓).
伸び・縮みの「量」 ⇒ スプリング
伸び・縮みの「速度」 ⇒ ダンパー
従って,ダンパーには「伸び側の速度」と「縮み側の速度」という2つの要素が出てくる訳なのですが,この両者の速度は均等ではないそうです.「縮み側の速度」を1としたら「伸び側の速度」は0.5~0.6くらいに抑える.つまり,伸び側は縮み側よりも大幅に減衰させられているのだそうです.
「減衰させられている」=「減衰力が強い」という事なので,力の大きさ縦軸にして,伸び側と縮み側を表現するとこういうグラフになります(↓).

(Motor Fan illustrated Vol.12:ダンパーのテクノロジーより)
下(縮み側)に伸びる長さと,上(伸び側)に伸びる長さを比べると上の方が倍近く長いのが分かりますね.それだけ伸び側の方が減衰力が大きいという事です.
車高調整式(車高調)のダンパーの多くは,より大きな減衰力が必要となる「伸び側」を調整する設計になっていて,
「伸び側」「縮み側」両方を調整出来る2wayダンパーに対し,「伸び側」しか調整出来ないため1wayダンパーと呼ばれています.
勿論,1つより2つの方が出来る事がより多くて便利な訳なのですが,では調整出来る1つがなぜ「伸び側」なのか?と気になり,調べてみたところ以下のような見解が出て来ました(↓).
①縮み側の調整はリスクが大きいから
②伸び側の調整の方がクルマの挙動に対して支配的だから
この見解をそれぞれ深掘りしていくと以下のような感じでした(↓).
①縮み側の調整はリスクが高い
縮み側の減衰力は基本的にバネレートに合わせて設定するそうです.バネレートが上がれば減衰力も上げる方向に直す(≒ダンパーの仕様変更を行う)訳ですね.
この際,バネレートに対して減衰力が弱いと,縮み始めの初期は抵抗感なくスッ・・・と縮まりますが,すぐに底突き(バンプラバーに当たる等)してガツン!とした衝撃を受ける事になります.このスッ→ガツン!という動き方が,乗っているドライバーからすると「クルマの動きが一定ではない(途中で急に動きが変わる)」という風に感じられるそうで,それがピッチ方向であれ,ロール方向であれ,確かに乗り易くはないでしょうね.
一方,バネレートに対して減衰力が強過ぎる場合は,ダンパーが全く縮まなくなるので,例えば,ギャップを乗り越えた際に,クルマがポン!と跳ね上がる事になります.
一瞬とはいえクルマが宙に浮く訳ですから,当然良い事なんて起こるはずがなく,最悪コントロール不能に陥る場合もある訳です.「車高調付けたら,路面のギャップでクルマが跳ねて,コントロール不能になって事故った・・・」なんてメーカーからしたら最悪な話なので,「バネレートに対して適切な縮み側の減衰力をこちらで設定するから,ユーザーの好みは伸び側で合わせ込んでね」というリスク管理をして,1wayダンパーの減衰力調整は「伸び側」だけとなる事が多いのだそうです.
②伸び側の調整の方がクルマの挙動に対して支配的だから
これもドライバーの感覚的な部分が強いようですが,一番分かり易いのは先程も例に挙げたギャップを乗り越えるパターン(↓).
ギャップを乗り越える際,縮み側は「衝撃が来るな・・・」と身構えて,ガツン!と衝撃が来てそれで終わり,ほぼ一瞬です.これに対して伸び側はダンパーが縮んだ後も結構な時間,動き続けます.

(KYB:
ショックアブソーバとは・・・?より)
タイヤが宙に浮いている時間,タイヤが着地した時間,着地した後にダンパーが縮む時間・・・といった感じです.縮み側がほぼ一瞬であるのに対し,伸び側はこれだけの時間影響する訳です.ドライバーの体感としてはこの長さの違いは大きいので,伸び側の方がクルマの挙動に対して支配的と感じるようです.
ここまでのポイントを纏めると,以下のような感じです(↓).
縮み側の減衰力 ・・・ バネレートに合わせて設定する(適正値がほぼ決まっている)
伸び側の減衰力 ・・・ クルマの動きに合わせて設定する(ゆっくり? 早く?で決まる)
これをベースに私が一番気になっていた点,「クルマがロールした際,縮み側と伸び側のどちらが支配的なのか?」を考えてみます.
クルマがロールすると,外輪側のダンパーは縮み,内輪側のダンパーは伸びます.つまり左右で逆の方向に力が働く訳です.2wayのダンパーだとこれを別々に調整する事が出来るので,外輪側(縮み側)の減衰力を上げるべきなのか? それとも内輪側(伸び側)の減衰力を上げるべきなのか? が気になっていました.
この話はピッチ方向でも言えて,ブレーキングした時にフロント(縮み側)の減衰を上げるべきなのか? リア(伸び側)の減衰を上げるべきなのか?という話にもなります.以前プロに相談した時は「伸び側で対処した方が良い」とアドバイスを頂いたのですが,どういう理屈でそうなるのか? 気になっていました.
・・・で調べてみたところ,やはり「伸び側」で調整すべきという事のようでした.その理由としては最初の方で説明した伸び側・縮み側の減衰力の違い(↓).

(Motor Fan illustrated Vol.12:ダンパーのテクノロジーより)
1wayダンパーの場合,一方しか調整出来ませんから,減衰力の大きさが「伸び側 > 縮み側」という関係性であるならば,ヨーイ,ドン!で同時に動き出したら力の強い「伸び側」の方が支配的になるのだそうです.なので,私がForzaMotorsportで感じた「伸び側の減衰力を上げたら,ハンドリングが劇的に向上した」というのは物理的に正しい結果で,ロールだったら左右,ピッチだったら前後の変化が抑制されるので,ステアリング操作に対してクルマの反応が良くなり,狙った通りにクルマを動かせるようになるのだそうです.
ただ,これはあくまでタイヤのキャパ(グリップ限界≒摩擦円)の中にいる時の話で,「伸び側」の減衰力を上げるとタイヤを潰している時間が相対的に長くなるため,この限界を超え易い≒(FFの場合は)アンダーステアが出易いという事にもなるようです.
このキャパの話は速度域に影響を与えていて,タイヤの限界に達しにくい低速コーナーでは「伸び側」の減衰力を上げる事でハンドリングの向上に効果的なのですが,高速コーナーではタイヤの限界に達し易いのでイチかバチかになり易く,外した時はアンダーステアを出して一気に吹っ飛んでいく・・・となるようです.
この理屈が理解出来ると,ForzaMotorsportで伸び側の減衰を上げた際(オレンジ),
立ち上がりのミニセクターのタイムが縮まり(オレンジ色),それ以外のミニセクターではタイムが縮まらなかった(青色)理由もなんとなく納得出来ます.
これで納得しかけたのですが,「いや,待てよ・・・」と思った事が1つありました.確かに左右の両輪が接地している場合は,「伸び側」の減衰力が支配的になるのかもしれませんが,内輪が完全に浮いちゃった場合はどうなるんだ?と(↓).
この場合は,「伸び側」の減衰力なんて機能しないんだから,「縮み側」の方が支配的になんじゃないの・・・?と思い,AIに聞いてみたところ「その通り!」と言われました.
内輪が接地している時は,「伸び側」の減衰力が働いているので,こちらが支配的になるが(↓),
内輪が完全に浮いてしまうと,「伸び側」はダンパーにしか効果を発揮せず,車体側には何の影響も与えなくなるので(↓),
反対の「縮み側」に依存する形となるそうです.つまり,リフトするか? しないか?で「縮み側」と「伸び側」の支配関係が入れ替わるようです.これが迷路の入口となりそうですね・・・(苦笑).
以上,ダンパーの伸び側(リバウンド側)の減衰力に関するお勉強でした.