YouTubeで動画を眺めていたら,面白い画像を見つけました.
デルソルの後部にとんでもなく大きなウイングが付いた画像(タイトル画像参照)なのですが,なんだコレ?と思って調べてみたところ,2019年にポーランドのワルシャワ工科大学が空力の研究のために仕立てたクルマのようです.研究の成果は論文として発表されており,少し気になる内容でもあったので抜粋して読み解いてみたいと思います.
論文のタイトルは,「
A fully coupled analysis of unsteady aerodynamics impact on vehicle dynamics during braking (ブレーキング時のビークルダイナミクスに及ぼす非定常な空力の影響に関する分析)」で,Jakub Broniszewski氏とJanusz Piechna氏の連名となっています.
研究の目的ですが,ブレーキング時だけボディからせり出してウイングになるような「可動式ウイング(↓)」の効果に関するもののようです.
VIDEO
せり出した後に「固定されたままのウイング」と,ブレーキングを開始した後に「前方に回転(50°)するウイング」とで,どのような違いがあるのか?といったもの(↓).
ブレーキング時なので,当然前傾姿勢になる事を考慮する必要があり(↓),
サスペンションモデルも作って解析したようです(↓).
なお,バネレートはフロント:61Nm/mm,リア:44Nm/mmだそうです.
(多分ノーマルのバネレートが6キロ・4キロなんでしょうね)
実車での試験は,ポーランドのワルシャワにある「Sochaczew-Bielice airport」で行い(↓),
試験車にはフロントスプリッターと可動式リアウイングを付け,GPS・加速度計・ウイングの位置計測器といった装置を積み,ドライバーとナビゲーターの2人が乗り込むので,トータル1300kgくらいの車重との事です.
(ノーマルのトランストップ仕様だと車重は1170kgくらい)
ちなみに,試験車としてデルソルを選んだ理由は,ルーフの後端部がスパッ!と切り落とされ,リアウイング周辺の空間を広く取る事ができ,評価がし易いからだそうです.実車での試験結果とシミュレーションの結果も,かなり合っていたようですね(↓).
さて,「固定されたままのウイング(Stationary airfoil)」と「前方に回転するウイング(Moving airfoil)」のシミュレーション結果に入って行くのですが,予想通り「前方に回転するウイング」の方が早く止まれるそうです(↓).
細かいデータを見ていくと(↓),
図の左上(Total Lift),「前方に回転するウイング(Moving airfoil)」の場合,ブレーキング開始後0.1秒くらいかけて急激にリフト量が減っている様子が読み取れます.その下(Total drag)で同時にドラッグ(抵抗)も増えている事が分かるので,ウイングが回転して角度が増えた事により倍近いダウンフォースが発生したという事ですね.これをクルマ本体(Car:真ん中)とウイング(airfoil:右側)に分けて見てみると,速度が落ちていくのでクルマ自体のリフトとドラッグは減って行きますが,ウイングは一定のリフト量を示しているのも読み取れます.
この結果で興味深いのは,前方に回転し切った後のウイング(Moving airfoil)は固定されたままのウイング(Stationary airfoil)とリフト量が変わらない点ですね.これはなぜか?というと,
車体上面(Upper Surface)は,「固定式のウイング(青実線)」より「回転式のウイング(赤実線)」の方が下に抑え込む力が大きくなるのですが,車体下面(Bottom Surface)は,その力によってサスペンションが沈み込み,フロア自体が逆ウイング形状となる事で「回転式のウイング(赤点線)」の方が,逆に浮き上がらせる力が働くのだそうです.これらが打ち消し合った結果として,「リフト量が変わらない」という現象になるのだそうで,これは興味深いですね.
この現象は,ウイングのあるリア側にしか見られず,フロント側にはほとんど影響を及ぼしていないそうです(↓).
ピッチングの動きを見てみると(↓),
真ん中の図の「回転式のウイング(Moving airfoil)」では,ウイングが動いた0.1秒くらいでピッチ角は増えていますが,その後は絶対値こそ違えど「固定式のウイング(Stationary airfoil)」の傾向と変わっておらず,右側の図のピッチング速度を見てもクルマの動きとしても両者に違いがない事が読み取れます.
以上,ブレーキング時の空力に関するお話でした.
纏めると,ブレーキング時に前方の回転するリアウイングの方が,リアのダウンフォースが増えて制動力は上がる.リアのダウンフォースが増えた事でリアのサスペンションが縮むため,これによってフロアの角度が変わり,回転し切った後のダウンフォース量は一定となる.リアのサスペンションが動くのでクルマのピッチングにも影響を及ぼすが,フロント側には影響は出ず,ほぼリアの動きだけが変わる・・・という事のようです.
勿論,私はこんな可変ウイングを使う気は更々ありませんが,FF車のブレーキングにおいて,リアのスタビリティ向上にウイングがこれだけ効くという事がよく分かる結果でした.リアウイングが効き始めた後のピッチングの動き,それに影響を及ぼすリアサスペンションのバネレート等,知識として知っておくと今後役に立ちそうな気がします.
(フロント:6キロのバネレートで,1Gのブレーキングをすると約1.8°の角度がつく・・・)
Posted at 2026/07/25 16:09:35 | |
チューニング(空力編) | 日記