
TC1000の走行会では,
午前中に41秒入れ,その後はダンパーの減衰を色々振ってみて,挙動の変化を確認していました.
それぞれのベストタイムを比較してみると,
①F:6段戻し R:6段戻し ・・・ 41.841
②F:4段戻し R:4段戻し ・・・ 42.074
③F:4段戻し R:6段戻し ・・・ 42.128
という感じで①→②→③と進む毎にでタイムが落ちていきます.しかし,ドライビング中の感覚は,反対で,どんどん曲がっていくように感じていました.
「曲がるようになったのに,タイムが落ちる」というのは非常に不可解な現象でもあるため,今回はこの辺りを解析してみます.
まず始めに,①(緑)⇔②(青)の比較.
1~2コーナー
②(青)の方がブレーキングポイントを奥にとっています(1つ目の赤丸).データを最初に見た時には進入速度が低いせいだと思っていたのですが,実はコレ,よく曲がるようになったせいじゃないかと思っています(=曲がる分だけ突っ込める).ただ,ブレーキングを遅らせた分だけ,体感速度が高いので余計に減速させなければならないと感じ,ボトムを落とし過ぎているのだと思われます(2つ目の赤丸).
なお,ボトムが落ちたのに応じて,舵角も増やせるので,結果,2コーナーでインに寄せるのが早過ぎとなり,ライン的に苦しくなって,逆にアクセルを開けられない状況に陥っています.舵角の違いは以下の画像をご覧下さい(上:① 下:②).
第1ヘアピン
ここもクルマがよく曲がるので,クリップの手前でブレーキを弱める事が出来ています(3つ目の赤丸).それくらい曲がるという事で,ここでもインに寄るが早過ぎ,向きが変わるのがワンテンポ奥になるので,アクセルを開けるのもワンテンポ遅れ,立ち上がりのラインもワイドになってしまいます.
先程と同様,画像で見ると一目瞭然で,②の方はステアリングを戻す領域まで待たないとアクセルを開けられません(上:① 下:②).
最終コーナー
クルマが曲がるようになったので,洗濯板通過後に,早く・大きくアクセルを開けられるようになり,速度が乗りますが,最終コーナーへのアプローチでも,やっぱり曲がり過ぎてインに寄せ過ぎの形となってしまい,アクセルを踏めない(むしろ戻す)状態に陥ります.
アクセルを開けられる位置を画像で見ると,やはり一目瞭然です(上:① 下:②).
以上のように,クルマが曲がる→インに寄るのが早い→アクセルが開けられない,という連鎖でタイムが稼げなかったようです.
「クルマがより曲がるなら,その分だけ旋回速度を上げれば良い」という考え方もありますが,その旋回速度は,よりブレーキングで奥に突っ込む事で稼ぐしかないのでリスクを伴います(減衰を強めて横のグリップは増やせても,縦のグリップは増えないため).
ブレーキングで奥に突っ込まず(開始ポイントを変えず),旋回速度を引き上げるには,より弱くブレーキングするしかない訳ですが,その辺りのコントロール幅が私はまだ少ないようです.
続けて,①(緑)⇔③(青)の比較も見てみましょう.
1~2コーナー
②よりも更にバランスをリア寄りにしたため,③(青)は更に曲げ易くなっています.このため,1コーナーの進入からインにスルスルと寄っていき,一旦切り込んだステアリングを戻す有様です.ステアリングを戻して走行抵抗が減るため,95km/h付近で車速が少し停滞しているのが分かります(1つ目の赤丸).

(↑のポイントで戻してます)
これによって,折角掛かったフロントの荷重が逃げてしまい,見事にアンダーを誘発.
ラインも外側に膨らんでしまいます.
第1ヘアピン
フロントの減衰が相対的に弱いという事は,沈み込みが早い(荷重が掛け易い)が,元に戻るのも早い(荷重が抜け易い)という事で,立ち上がりでプッシュアンダーが出ています.
この結果,クルマが前に進まないので,③(青)は車速が停滞し(2つ目の赤丸),結果,2ヘアの進入速度も鈍ります.
第2ヘアピン
ブレーキング終了からの切り込みで,③(青)の方が反応が良いため,小さく回れます.
・・・が,逆に小さく回り過ぎて,大きな舵角が抵抗となり,速度が伸びません(3つ目の赤丸).

(↑ほんのちょっとだけ,下:③の方が舵角が大きいのが分かります)
最終コーナー
ここも舵角が抵抗となって失速しているケースです(最後の赤丸).アクセルを開けられるポイントで見ると明らかに違います(上:① 下:③).
つまり,このレベルまで曲がってしまうと,タイヤのグリップを縦方向よりも横方向に使う比率が大きくなってしまい,結果,クルマが前に進まず,タイムが伸びないという事のようです.
以上を纏めると,③のバランスは曲げ易いが,タイヤを消耗させるばかりでクルマが前に進まず,決して速くない.②は車速を合わせ込んでいけば,①よりも速くなるポテンシャルがあるが,その分,ブレーキングのコントロールがシビアになり,もっとドライバーが鍛錬を積まなければならない,という事が分かりました.
但し,実はもっと手っ取り早く,合わせ込む方法が他にもあります.
それはパワーを上げる事です.
クルマが曲がり過ぎてタイヤが横方向に使われるというのなら,それを上回る強さで縦方向に力を加えればバランスが取れます.言い換えると,今のパワーに合わせるなら①のバランスがTC1000ではベストで,反対にパワーが上がっていけば②の方がバランスが良くなる,という事だと思います.
そういう意味では,一番パワーの出ているこの季節で6段戻しなのですから,夏にはもっと柔らかくしないとダメなはずで,無闇やたらとバネレートを上げなかったのは正解だったと言えます.