新たな車高調をテストした先日のTC1000 ですが,過去のデータと見比べて,どこら辺にメリット・デメリットがあるのか分析しようと思ったのですが,色々と条件が違い過ぎて比較になりませんでした(苦笑).
逆に言えば,この結果から「それほど大きな優位性はない」と見なす事も出来るのですが,高額投資したのにそんな結論が早々に出るのも悲しいので(笑),今回は,減衰が変わるとクルマの動きがどう変わり,それに対してドライバーはどう反応しているのか?に着目してみる事にしました.
今後セッティングを詰めていく上での判断材料の1つにするって感じですね.
では,まず1本目の比較から(減衰を3段柔らかくするとどうなるか?).
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まず1コーナーのブレーキングポイント.
10段戻し(左)の方がブレーキングの開始が10mほど手前なのですが,これは単純に序盤(計測2周目)でまだ信用し切っていなかっただけでしょうね.
そして,ターンイン.
ステアリングを切り込む量は,最初全く一緒なのですが・・・,
13段戻し(右)の方は,途中で1回ステアリングを戻しています.
そして,その後また同じ舵角に戻っています.
ここから分かるのは,13段戻し(右)の方がブレーキングが10m奥だった事もあって,強めの前傾姿勢となり,リアが流れ始めた事を感じたドライバーがステアを戻してカウンターを当てにいったんでしょうね.そのまま少ない舵角で曲がれるのであれば,13段戻し(右)の方が向きが変わって速いのでしょうが,最終的には元の舵角に戻ってしまっているので,単なる二度切りになってしまい,ロスしているだけですね.これによって,折角作った強めの前傾姿勢も元に戻ってしまっているので,フロント荷重が抜けてグリップが低下し,アクセルONのタイミングがワンテンポ遅れています・・・.
続く2コーナー.
これだけ見ると,13段戻し(右)の方が舵角が少なく,速度が伸びそうに感じるのですが,ロガーデータを見ると13段戻し(右)の方が旋回速度は全域1km/h低く,発生している横Gも0.1G少ないです.つまり,ドライバーは「この横Gなら,この舵角くらいで曲がれる」と思っているから切ってないというだけですね.舵角が少ないと,つい「コーナリングが上手くいった!」と思っちゃうのですが,そんな事ないって証拠ですね.
続けて,1ヘア.
切り込むタイミングは一緒.
なんですけど,10段戻し(左)が一気に最後まで切り込めているのに対し,13段戻し(右)は途中で止まってます・・・.
じゃあ,切れないの?というとそんな事はなく,13段戻し(右)も最終的には同じ位置に.
これでクリップなら,その先は一緒・・・と思いきや,ステアリングを戻し始めるのも10段戻し(左)の方が先.
その後,遅れてはいますが,13段戻し(右)の方も最終的には同じ位置になります.
全体的に13段戻し(右)の方が切り遅れているような印象ですが,これってドライビングミスなの?というとそんな事はないようです.その理由としては,ロガーデータを見ると進入速度が同じ(115.4km/h vs 115.1km/h)で,ブレーキング開始ポイントもほぼ一緒(373m vs 375m)だったからです.これで切り込むタイミングも一緒なら,あとはクルマの挙動の差異という事でしょう.
察するに,1コーナーと同様にブレーキング時の前傾姿勢が強過ぎてリアの制動力が下がり,フロントのブレーキだけで止めないといけない状況となり,制動距離が延びてしまったためだと思われます.結果,「まだ止まってないから,これ以上はステアリングを切り込めない」とドライバーが判断して,途中で切り込むのを止めてしまったのでしょうね.ステアリングを戻すのが遅いのも,切り込めない分,向きの変わり方がワンテンポ遅いので必然的に戻すのが遅れたという事なのでしょう.
更にインフィールド.
切り込むタイミング・量はやはり一緒.
ですが,今度は10段戻し(左)の方は途中で切り込みが止まります.
その後,10段戻し(左)も同じ量に.
インフィールドの場合,その先にバックストレッチがあるので,少しでも早くアクセルを開けたいセクションです.従って,インフィールドの縁石の2個目に向かっている最中にリアが出れば,迷わずその分アクセルを開けようとするはずです(リアが出て向きが変わる方が好都合なので).
そう考えると,10段戻し(左)の方でドライバーが途中で切り込むのを止めているのは,「リアが動くから切り込むのを止めた」のではなく,「ここで切っても曲がらないと思っているから止めた」の方だと思われます.という事は,インフィールド(旋回ブレーキを使うシチュエーション)においては前傾姿勢が強い方が曲がるという事なのでしょうね.
ここから先,高速左コーナー・洗濯板・最終複合においては,両者に特異な差は見つけられなかったので,減衰を弱める方向の分析はここまでです.
総じてみると,減衰を弱めた分,ブレーキング時の前傾姿勢が強くなり,インフィールドではそれがメリットになっているようですが,そこそこ速度が乗る1コーナー・1ヘアのシチュエーションではデメリットの方が大きく,総じてタイムダウンに繋がった・・・という事なのでしょう.
では,続けて減衰を強めた2本目の比較.今度は3段強くするとどうなるか?です.
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こちらは最終の複合でシフトミスした以外は大きな違いが見られず,唯一ステアリング操作が乱れたのは1コーナーでしょうか.ブレーキングポイントは一緒で,切り込むタイミングも同じ.
しかし,4段戻し(右)の方はリアが流れてカウンター.
ただ,即座にリアのグリップが回復し,その後,4段戻し(右)の方が多めに切り込めています.
カウンターを当てているという事は,ブレーキング→ステアインした際に右リアがインリフトしたという事だと思いますが,1本目の前傾姿勢が強まってインリフトしたのとはメカニズムが異なると思われます.
2本目の方はフロントも減衰を強めているので,間違いなく前傾姿勢は弱まっているはす(7段戻し時の挙動が乱れていないのがその証拠).そこから更に減衰を強めてインリフトするのは不可解にも思えますが,これは恐らく前後のサスペンションの変化速度の差でしょう.つまり,フロントの縮む速度に対して,リアの伸びる速度が追いついていない・・・という事でしょうね.
ダンパーはバネレートに合わせて減衰特性を設計していると思われますので,ここら辺の領域くらいから同じ段数設定でも差が生じているのでしょうね.だとすると,現状の情報からは,リアは7段前後くらいが限界で,これに対してフロントのバランスを取る感じになるでしょうか.4段戻し(右)の状態でもよく曲がる手応えはありましたし,減衰が強過ぎてフロントが突っ張る印象もありませんでしたので,フロント側に関してはまだまだ減衰を強められると思いますが,フロント>リアのバランスで進めるとアンダーステア傾向になるはずなので,もう一度乗ってバランスを見てみないと判断出来ませんね.
以上,車載映像から見る操作の分析でした.
今回のテストで大まかな目安はつきましたが,まだまだ詰める部分はありそうです.引続きテストを進めて美味しいポイントを探りたいと思います.