
先日行われたF1サウジアラビアGPの予選で,メルセデスAMGのルイス・ハミルトンがQ1落ちをしました(ノックアウト形式の予選で1回戦で敗れた).
マシントラブルやクラッシュ,急な雨によるコンディション変化等,外的要因によってQ1落ちした事は時折ありますが,何のトラブルも抱えていない,純粋なスピード不足でQ1落ちしたのは,2009年のイギリスGP以来,なんと13年振りだそうです.
2009年と言えば,レギュレーションが一新されて全く新しいクルマを作らなければならない年だったにも関わらず,チームは前年の終盤までチャンピオン争いをしていたせいでリソースをそちらに割けず,開発に出遅れて序盤は苦しんだシーズンとして記憶しています.
今年も,レギュレーションが一新されて全く新しいクルマを作らなければならず,前年の終盤までチャンピオン争いをし,クルマの開発が出遅れた,という似た状況な訳なのですが,同じクルマに乗るチームメイトはQ1を通過しているので,かなり話題となりました.
さて,今年,私は「
F1 Tempo」というF1ドライバーのテレメトリーデータが無料で見れるサイトを発見し,これを酒の肴にしながらF1観戦を楽しんでいます.F1レベルだと速過ぎて,ドライバーの操作の違いなんて中継画面からほとんど読み取れず,毎回「凄いなー」で終わりだったのですが,こうやってテレメトリーデータを見れると,「なんでそうなの?」という,いつもの分析癖がムズムズと湧いてきてしまいます(笑).
・・・という事で,今回は「ハミルトンのQ1落ちの原因はどこにあったのか?(チームメイトに対して何が劣っていたのか?)」を「F1 Tempo」のデータをお借りして読み解いてみたいと思います.
今回サウジアラビアGPが行われた「ジェッダ・コーニッシュ・サーキット」は昨年末に作られたばかり新しいコースで,私はゲームでも走った事もなくイメージが湧きません.ですので,今回は一番大きく差がついたポイントに絞って見てみたいと思います.
緑がハミルトン,白がチームメイト(ジョージ・ラッセル)ですが,赤丸のポイントでハミルトン(緑)の方が明らかに車速が低いのが分かります.ここがコース上のどの部分なのかな?と見てみると,
ターン4~9のクネクネ部分.リアがフラフラだと辛くなる部分ですね.「チームメイトほどアクセルを踏めなかったのかなぁ~?」と思い,スロットル開度を見てみると,
ハミルトン(緑)はかなり戻しているのが分かります(上の赤丸).それに合わせてエンジン回転数も下がっており,チームメイトに比べて2000rpmも低いです(下の赤丸).「ホントに踏めなかったんだなぁ~」と思いつつ,「それにしても,同じクルマでこんなに差がつくか・・・?」と思い,下に目を向けてみると,
なんと,ハミルトン(緑)はチームメイトよりも1コ高いギヤ(7速)を選んでいた事に気づきました.「もしや,これがチームメイトから0.6秒も遅れた要因か?」と思い,予選前のデータ(FP3)を確認してみると,
こちらではハミルトンも低いギヤ(6速)でキープする走らせ方をしています.どこから7速を使うようになったんだ?と思い,調べてみるとFP1・FP2でも使っておらず,予選が初だったようです.その後,決勝では再び6速キープの走りに戻していましたし,他のドライバーを見ても大半は6速キープだったので,「ハミルトンのドライビングミスだったのでは?」と思えてきました.
ただ,予選中のハミルトンの無線を聞いていると,ドライビングミスをした雰囲気はなく,「この走らせ方が正しい」と思ってやっているようで,Q1の3回のアタック全てで7速を使っていますし,ワールドチャンピオンを獲るようなドライバーが自身のミスに気づかないとは思えず,何か理由があるんだろうな・・・と思いました.
仕方がないので,何かセットアップ面でハミルトンが予選でトライした事がないのかな?と調べてみると,
ハミルトンは予選でリスキーなセットアップに挑んだ
という情報を見つけたのですが,何がどうリスキーだったのか分かりません・・・.更に調べてみると,
ハミルトンとラッセルのセットアップの違いは主にフロントウイングのフラップの角度とタイヤの内圧にあり,ハミルトンはフロントエンドに対してリアのグリップの無さを感じ、車に対する自信が持てなかった
という情報を見つけました.
(↑の2:56辺り)
この情報から推測するに,オーバーステア傾向だったのでしょうから,フロントはフラップを立て,リアはタイヤの内圧を上げるセットだったんでしょうか?
だとすると,ターン4~9を1コ高いギヤで走ったのは,エンジントルクを落としてリアのスタビリティを稼ぐため? 1コ高いギヤを選んでもまだ不安定で,更にスロットルを戻さざるを得なかったのだとすれば,相当おっかない挙動だったのでは??と思いました.ただ,オンボードカメラ見ても全くそんな感じがしないので,物凄く高度なレベルで繊細な操作をしているんだろうなぁ~と思いました.
以上,レースが終わった後でも楽しめる酒の肴でした.
「ギヤがどっちか迷ったら,1コ高い方を選べ!」というのは,よく聞く格言ですが,高い方を選ぶとエンブレが弱まるので,微妙な姿勢コントロールがしにくく,私は嫌いなんですよねぇ~.
(TC2000の最終コーナーとか,3速で突っ込むより4速で突っ込む方が死ぬほど怖い)
こんな低レベルな判断能力だと,リアがフラフラだったのなら1コ低いギヤで行った方が良かったのでは?なんてテレメトリーデータを見て安直に思ってしまうのですが,世界最高位の判断能力はきっと違う答えを導き出すんでしょうね.当たり前ですが,ドライビングの世界でレベルの違う人と会話するのってホント大変だなぁ~なんて思う今日この頃でした.
Posted at 2022/03/31 21:19:00 | |
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