TC1000でのチェック走行も終わったので,効果検証です.
今回のアップデートは「
サイドステップ」・・・と見せかけたフロア中央部の「アンダーパネル」です.元々この「サイドステップ」は底面に付けた「アンダーパネル」をサイドから吊るすためのもので,それ故にこんな角張った形状をしており,フロア面積を稼ぐためにドア部よりも広げたデザインとなっています.
クルマを引き取った時は既に装着済みであったため,どれくらいのサイズのパネルとなったのか知らなかったのですが,チェック走行後にショップでクルマをジャッキアップした際に下面を覗かせて頂いたところ,想像以上に大型のモノが付いている事を後から知りました.
【フロア前端部】
【フロア中央部】
【フロア後端部】
工場長曰く「マフラー以外の部分は全部覆った」との事で,イメージとしてはこんな感じ(↓).
面積的には大体1600mm×600mmのパネルが2枚ある事になるので,タタミ半畳分くらいでしょうか? 結構な面積ですね.このパネルはアルミ複合板で出来ており,板厚が3mmなので,比重を0.8と仮定して計算してみると,
160 [cm] × 60 [cm] × 0.3 [cm] × 0.8 [g/cm3] × 2 [枚] = 4608 [g]
これにサイドステップ分の重量もあるので,
18 [cm] × 13 [cm] × 0.3 [cm] × 0.8 [g/cm3] × 4 [枚] = 224 [g]
(160 [cm] ー 18 [cm] × 2)× 8 [cm] × 0.3 [cm] × 0.8 [g/cm3] × 2 [枚] = 476 [g]
合計すると,
4608 [g] + 224 [g] + 476 [g] = 5308 [g] ≒ 5.3 [kg]
ボディ下面の低い位置にあるとはいえ,そこそこの重量ですね.
さて,実際に走行する前はこんなに大きなパネルが付いているとは思っていなかったのですが,「TC1000レベルの速度域だと重いだけで効果は体感出来ないんだろうなぁ~」と思って走っていたものの,乗って最初に感じたのが,1コーナー~1ヘアにかけてのクルマの動きの違いです.
最初は「何かおかしいなぁ~? 狙い通りのラインで走れない・・・.ドライバーが下手クソになったのか??」と思って走っていたのですが,具体的に何がおかしいのか?というと,
①1コーナーの進入で挙動が安定している(ライントレース性が良い)
②2コーナーの出口で想定よりアウト側に膨らまない
③1コーナーと同じ感覚で1ヘアに進入すると曲がらない(ラインから外れる)
といった感じ.特に③のブレーキングで「なんか今日はエイペックスにちゃんとつけないなぁ~?」と何度トライしても狙いのラインが外れるので,路面がスリッピーなのか?と疑ったのですが,職人クラスの方々に聞くとそんな事はない様子.じゃあ,タイヤがヘタってきたのか?と思いましたが朝一に41.5秒出ているのでそれもない.となると,①・②でよく曲がる≒車速域が低いという図式からエンジンパワーが落ちているのか?とも思いましたが,ラップタイマーを見ると最高速は130km/h台に到達しているので,それもなさそう・・・.
「う~ん・・・何なんだこれは??」と考えて,以下の仮説が思い浮かびました.
①ダウンフォースが出ているので,130km/h台のブレーキングでも安定しているのでは?
②ダウンフォースが出ているので,100km/h台のコーナリングでもタイヤに余裕があるのでは?
③4.6kg重量が増えているので,低速コーナーで曲がらない(低速なのでダウンフォースが得られない)のでは?
そう,ここに来てようやく,
えっ!? これってまさかアンダーパネルの効果なの?? Σ(*゚ロ゚)ハッ!!
と気づいた訳です(遅っ).
この仮説を実証するために,前回の走行条件と同じA5枠で出走し,ロガーデータを比較してみました.
【前回(42.063)】
【今回(42.021)】
検証①(1コーナー進入)
最高速129km/hからのブレーキングというのは,前回(青)と今回(赤)で差異がありません.つまり,エンジンパワー的にはほぼ一緒のコンディションだったという事です.ブレーキング初期も減速度に違いはなく,両者の差異が表れるのは,95km/h付近のターンインのポイント(ココから↓)です.
ブレーキをリリースし,フロントタイヤの感触を確かめながらステアリングを切り込んでいく訳ですが,今回(赤)の方がクルマの挙動が安定していて曲がる手応えがあるので,ブレーキをさっさとリリースしてしまっています.結果,ボトムスピードが5km/hも上がる訳なのですが,これでも曲がれてしまいます.タイヤも足回りもセットは前回(青)と一緒なので,コンディションが同じであるならば,これは間違いなく「アンダーパネル」の効果でしょうね.
検証②(2コーナー立ち上がり)
単純にボトムを上げるだけだと,タイヤを横に使い切ってしまい,その後は失速するのがお約束なのですが,今回(赤)は失速する事なく,そのまま加速しているのが分かります.ラインの余裕度は残念ながらこのデータからは分かりませんが,車載で比較するとこんな感じ(↓)でした.
【前回】
【今回】
カメラの角度が微妙に合ってないので少し分かりづらいですが,外側の縁石との位置関係を見てもらえると,車速・ステアリングの舵角が一緒なのに,今回(赤)の方がクルマがそれほど外側に膨らんでいないのが分かると思います.つまり,それだけ余裕があるという事です.
検証③(1ヘアのブレーキング)
進入速度・ブレーキングの開始ポイントがほぼ一緒であるのに,今回(赤)の方がエイペックスまでに止め切れていないのが分かると思います.このデータで特に注目すべき点は115→80km/hまでのブレーキング領域で,今回(赤)の方が若干早くブレーキングを開始しているのに,途中で踏力を緩めている訳でもないのに,その後,前回(青)に逆転されている(ラインがクロスしている)のが分かります.4.6kgの重量増によって狙い通りにクルマを止め切れていないためと思われます.ドライバー的には,いつもの力・いつものタイミングで止めに行っているのに,クルマが止まらないという事ですね.
これが前後どちらかの重量変化であれば,恐らくピッチングの変化等でドライバーが気づいて合わせ込みにいくのでしょうが,ボディの最下面,しかもホイールベース内の重量増となると,むしろ重心は下がって姿勢変化が生まれにくくなる事から,ドライバーが気づいてなかったのでしょう.今回の結果でそれが分かったので,次回はこの点をしっかり合わせ込みたいと思います.
以上,アップデートの効果検証でした.
ちなみに,高速域のダウンフォース獲得によるメリットと,低速域の重量増によるデメリットのバランスですが,TC1000においては,前者が-0.10秒,後者が+0.11秒という感じでトータルでみると「0.01秒の遅れ」という結果でした.公式のタイムだと0.05秒今回の方が速いですが,これは
前回の反省を踏まえて最終の複合で走らせ方を変更して稼ぎ出したタイムだったので,今回のアップデートとは無関係です.当初の予想ではダウンフォースの獲得はなく,純粋な重量増の影響による「0.1秒のタイムダウン」と見積もっていたので,それを考えれば,ほぼ±ゼロという結果は非常に好意的に受け止められます.
ただ,こうやって体感・数値で効果が分かってくると,やはりもう少し速度域の高いコースでアンダーパネルの効果を試したくなるもので(笑),一番良いのは富士ですが,今年は国際コースチャレンジの計画がありませんし,はてさてどうしたものか・・・.