イマイチな感触に終わった先日のTC1000ですが,フィーリング的にチグハグなところは確かにあったものの,4ヵ月振りの走行という事でドライバー側の腕が落ちている可能性もあるので,次の走行に向けてデータロガーで細かく振返ってみたいと思います.
比較対象は前回の走行で・・・と思ったのですが,ブログを見返してみたところ,前回はリアにRE-71RSを試した時だったようなので(今回はA052),更にその1個前・・・という事で
2月上旬のものになりました.
まずは,公式タイム.
前回 ・・・ 41.176 (気圧:1014hPa,気温: 7.7℃)
今回 ・・・ 42.189 (気圧:1003hPa,気温:21.2℃)
気圧差・気温差を考慮すると1秒落ちは妥当かな・・・とも思えてきましたが(苦笑),メゲずに見ていきます.
続けて,LAP+の比較結果(前回:緑 今回:青).
俯瞰して見ると,全体的に傾向は一緒.気温差の分だけパワーが落ちて今回(青)の方が波形が小さくなっている感じですね・・・.最終の複合で波形が変わっているのは洗濯板の進入速度が低いせいで,帳尻を合わせでアクセルを踏んでいるだけでしょうから,特に違和感を覚える点はありません.
しかし,ライン取りを見てみると(前回:赤 今回:青),
1ヘアの立ち上がり(緑丸の箇所)に違いがありますね・・・.今回(青)の方が外に膨らまず,タイトに立ち上がっているようです.
そこで,タイム差をチェックしてみると(前回:緑 今回:青),
1ヘアの立ち上がり(赤丸の箇所)だけで0.3秒失っていました.走行中も「立ち上がりが遅い・・・」と感じていたので,ターゲットタイムに0.3秒届かなかった原因はこれっぽいですね.
では,この1ヘアで何が起きたのか? 詳しく見ていきます.
ブレーキング開始ポイント
今回(青)の方が2コーナーで失速しているため,1ヘアへの進入速度が2.6km/h低いです.この分,若干ブレーキを奥に出来ているようにも見えるのですが,車載で確認してみます.
【前回】
【今回】
信号機の位置から僅かにブレーキングの開始位置が奥のようにも見えますね.ただ,カメラの設置位置が若干異なっているので,画角のせいにも思えます.ここではブレーキングポイントは同じと見なして話を進めましょう.
ブレーキングの過渡ポイント
結構,過渡の波形が異なりますね.前回(緑)の方は117→90km/h付近まで減速度が若干小さく,その後,90→55km/hで一定.最後53→45km/hでブレーキを緩めている様子が窺えます.一方,今回(青)の方は踏み始め~リリースまで一定の減速度のようです.
これの裏付けとして,前後Gのグラフを見てみます.
やはり,今回(青)の方が一定の傾きで減速Gが発生していますね.一方,前回(緑)の方は途中で傾きが緩くなり,-0.5G以上発生している時間が相対的に長く,減速度も大きい事が分かりました.
ここから何が言えるのか?
1つは
今回変更したフロントのブレーキパッドのコントロール性が良いという事です.乗っている最中も「中間のコントロールがし易いなぁ~」と感じていたのですが,ロガーデータ上もブレーキリリースに対して減速度を一定に保てており,これが裏付けられているようです.ただ,相変わらず最大踏力で踏むとロックするので,フルブレーキング時に神経を使う点は変わりませんね.このロックが,荷重移動でフロントタイヤが"潰れてから"起きているのか?" 潰れる前に"起きているのか?で対処方法が異なるのですが,後者だとバネレートを上げられないので悩ましい部分です.
もう1つはクルマの姿勢ですね.減速度が一定でないという事は,クルマのピッチングが安定しないという事なので,タイヤに掛かる荷重も安定しません.安定する/しないの差(影響)というのは何とも判断が難しい部分になりますが,
TC2000を走った時にブレーキングでジャダーが起きて「減衰が足りない」と判断した話には繋がる部分でしょうね(荷重が安定しているからこそ,どこが悪いか気づける).
ちなみに,最大Gは前回(緑)の方が大きく・発生タイミングも奥なので,今回(青)の方がタイヤのグリップを引き出せていない可能性があるかな?とも思いましたが,ボトムスピードのポイントで見ると,両者の減速Gは同じ値だったので,立ち上がりに与える影響はそんなにないように思えます.
ブレーキリリースポイント
ここまででブレーキングの開始時に差異なし,ブレーキングの過渡に差異はあるがどちらかと言えば良化方向という事が分かりましたので,次はブレーキを完全にリリースしたポイントのクルマの向きです.
【前回】
【今回】
ホームストレートの電光掲示板との相対関係で確認すると,今回(下)の方が若干奥のようですね.手の位置からステアリングの角度は一緒なのでクルマの向きとしては同等のようですが,今回(下)の方がブレーキリリースが遅い分,アクセルを踏み込むタイミングも遅かった可能性があります.ただ,"遅い"と言っても車載の1フレーム分くらいの誤差なので,有意な差はないでしょうね.
立ち上がりポイント
最後,問題の立ち上がり.ここでは60km/h地点の車載を見てみます.
【前回】
【今回】
やっぱり,今回(下)の方がかなりイン側に寄ってますね・・・.ここまででブレーキングがほぼ一緒(むしろ若干良化方向)である点から考えると,こうなった原因は減速側ではなく,加速側にある事は間違いありません.
まさかそんな事はないと思いますが,念のため,アクセルをちゃんと全開にしている事を裏取りしてみます.加速Gのグラフより,
気温差によるエンジンパワーのせいか,クロスミッションのハイギヤード化のせいかは判別出来ませんが,絶対値的には若干小さいものの,前回(緑)とほぼ同等の加速力は出ているようです(=アクセルは踏めている).
・・・となると,残る要因はコレしかない,という事で左右Gのグラフを見てみると,
今回(青)の方がGが小さい,すなわち
旋回速度が遅い という事です.
加速Gは同等なのでクルマが前に進んでいない訳ではない.ブレーキングが同等なのでクルマの向きが悪い訳でもない.これでライン取りがインベタになるのは「クルマが横方向に流れていない」せい.もうちょっと言うと「クルマを横方向に流せない」せい.では,「アクセル全開で流せない原因」は何か?
LSDしかないですよねぇ・・・.orz
「クルマが横に流れないなんてイイじゃん!」と思うかもしれませんが,それは同じ旋回速度が出ている場合の話.旋回速度を落とした分,立ち上がりの加速が良くなってくれないと(その分スピードが伸びてくれないと)トータルでは遅くなります.今回の状況は,横に流さないためにボトムスピードを極端に落としているのと同じ状況です.ロガーデータから加速力はほとんど変わっていない事から,旋回速度が落ちた分がそっくりそのまま遅れに繋がっていると思われます.
じゃあ,このLSDの何が悪いのか?

(今使っているLSDは,写真左側)
製品自体はCUSCO製type-RSのFG(ジムカーナスペック)という点は変わりませんが,以前使っていたものはEG6用で,現在使っているものはDC2用というサイズの違いがあります.DC2用の方がサイズが大きいので,その分ロックさせる力は強く,反面,抵抗も大きくなります.DC2用という事は当たり前ですが,B18Cが発生するトルクを考慮して設計されている訳で,排気量が200cc小さいB16Aのトルクでは,抵抗が大き過ぎて打ち勝てない可能性があります.
こういう考察をショップでしたところ,「EG6/EK9にDC2用のLSDを組んだ事はあるけど,そんな話は聞いた事ない」という意見を頂いたのですが,ここでもう一つ状況をややこしくしているのが,ハイギヤード化されたクロスミッションです.
通常,EK9→DC2(98SPEC)にギヤを変更した場合,
EK9 ・・・ 2速(2.105) × ファイナル(4.400) = 9.262
DC2 ・・・ 2速(2.105) × ファイナル(4.785) = 10.072
となり,約8.7%駆動トルクは増大します.トルクが増大するんですから不満を言う人はいないでしょうね.
しかし,今回の場合は,
クロス ・・・ 2速(1.800) × ファイナル(4.928) = 8.870
となり,約4.3%駆動トルクが減少します.従って,ただでさえLSDのサイズが大きくなって抵抗が増えたところに,排気量200cc分足りないトルク,そして,これを補うべき減速比が差し引き14%駆動トルクを減少させる側に振れるとなれば,抵抗に打ち勝てずに失速する事もあり得るでしょうね・・・.
ちなみに,EF8純正のギヤ比で計算するとこうなるので(↓),
EF8 ・・・ 2速(2.052) × ファイナル(4.266) = 8.753
EF8のミッションを1度EG6用に換装して,その後,元に戻したら,もの凄っごくかったる~い感じになった・・・という経験をした人なら何となく伝わるかもしれません.
さて,原因が掴めてきたところで対策方法ですが,ギヤ比を変えられない以上,
LSDの抵抗を減らす しかありませんね・・・.
具体的には,LSDをヘタらせる(イニシャルトルクを落とす),といったところでしょうか.アクセル全開の領域なのでカム角での調整は意味がないでしょう.オイルでイニシャルトルクを調整する手法もありますが,ミッションを壊した直後に銘柄変更はしたくないですね・・・.あとはドライビングで補う方法.立ち上がりで旋回速度が落ちるのが分かっているのであれば,予めボトムスピードを上げた旋回速度重視の走らせ方をトライしてみるとか??
LSDをヘタらせるには時間が掛かりますし,当面の間は走らせ方を色々変えてみて試行錯誤の日々となりそうです.