
スプリングレートを詰めて,反発力を詰めて,これ以上の足回りのバランス点は見い出せなさそうなので,残るは
バンプラバーかなぁ~?と思っているのですが,コレが難しそうなんですよねぇ・・・.スプリングとの役割分担を正しく見切れないとハマる事になりそうなので,手を出すのが怖いOXです.
さて,
「伊香保 おもちゃと人形自動車博物館」で見たいクルマがあると思いながら思い出せなかった1台ですが,それはコレ(↓)でした.
「パノス LMP-1 ロードスターS」,2000年のル・マン24時間に出走したル・マンプロト(LMP900)です.
当時,毎年ル・マンの放映をやっていたテレビ朝日が放映15周年企画として立ち上げたプロジェクト「TV Asahi Team Dragon」で使用されたレーシングカーで,スポンサーである日清食品のカップヌードルの印象が強いですね.当時は「史上初のTV局チーム!」としきりに連呼して,少しうっとおしかった記憶がありますが,どういう経緯で参戦する事になったんだっけ?と調べてみたところ,こんな話だったようです(↓).
わが心のル・マン28年史 その33 2000年第1話
わが心のル・マン28年史 その34 2000年第2話
このクルマの面白いところは,比較的自由に設計出来るオープンプロトというカテゴリーであるにも関わらず,FRである点です.
普通ル・マンカーと言えばエンジンをドライバーの後ろに置く「MR」が当たり前で,エンジンがドライバーの前に来る「FR」は選びません.その理由として以下があるそうです.
①FRは重量配分がフロント寄りになる
②プロペラシャフトの重量がかさむ
③重量配分をリア寄りとするため,ミッションをデフと一体化した「トランスアクスル」にする必要がある
④「トランスアクスル」にするとプロペラシャフトを高回転で回す事になり,耐久性の確保が難しい
⑤キャビン後部がリアウイングと接近するため,空力効率が下がる
⑥フロントノーズ後方にエンジンがいるため,フロントディフューザーの大きさが制限される
しかし,「パノス」のオーナーであるアメリカ人のドン・パノス(ドナルド・E・パノス)は大排気量V8を長いノーズに積んだ伝統的なアメリカンスポーツカーを作る事しか頭になかったため,「FR」で作られたのだとか・・・.このため,この「ロードスターS」はかなり独特のドライビングフィールだったそうで,「MR」であればドライバーは自分を中心に旋回する感覚が得られるのに対し,ロングノーズ・ショートデッキの構成からドライバーは後輪のちょっと前辺りに座らされ,リアタイヤが滑ると自分の身体も横に飛んで行くというフィーリング.ワークス級のプロドライバー達でもコーナリングは違和感だらけだったそうで,オーバーステアを過剰に感じて乗りこなすのに苦労したとの事.
ちなみに,ドライバー達はそれだけオーバーステアを毛嫌いしていたにも関わらず,この「ロードスターS」はオーバーステアが酷かったそうで,その要因はいくつかあるそうです.
1つは燃料タンクの搭載位置.「MR」であればドライバーとエンジンの間に燃料タンクを設けて,燃料残量によって変わる前後重量バランスの変化を極力抑え込む方法を取るのですが,「FR」であるこのクルマではそれが出来ず,燃料タンクはドライバーの後ろに置かれているのだそうです(↓).
そんな位置にあったら,燃料が減れば減るほどリアが軽くなるので,オーバーステアも出易くなりますね.
2つ目がエンジン.

(画像は他所から拝借.巨大なサージタンクの下にV8がいます)
アメリカンスポーツカーを描いているので,5L V8というのは理解出来るのですが,なんとこのエンジン.ベースはフォードのNASCAR用なんだとか.NASCARなのでプッシュロッド方式の2バルブというレトロな構造な上に,重量が198kgもあるんだとか! F1用の3.5L V12で120kgくらいと考えると,途方もない重さです・・・.こんな重量物がフロントにあるんですから,そりゃオーバーステアにもなりますね.
3つ目がフレーム剛性.

(画像は他所から拝借.ノーズはクラッシュテスト対策でレイナードのChampCarのものをそのまま流用したのだとか)
プロトタイプカーで「FR」というレイアウト成立させるために,以下の4つを接続する形で構成されているため(↓),
フロントセクション + エンジン + モノコック + リアセクション
連結部分が多く,その接合部が捻じれて剛性が落ちるのだとか.どのくらい落ちるのか?というとモノコック単体で61,000Nm/degだったものが,この4つを連結して両端を捻ると40,600Nm/degと約2/3にまで低下するとの事.
以前調べた「ねじれ剛性」の数値からすると,これはレーシングカーではない市販車のAUDI R8相当の剛性ですので,ル・マンを走るレーシングカーとしてはかなり物足りない数字でしょうね.
(おまけにエンジン本体もNASCAR用ですから,ストレスメンバーとなる事を想定した設計になっていませんし・・・)
ちなみに,この「ロードスターS」は,先代の屋根付きGTカーである「GTR1」から屋根を切り取っただけなので,内側から見ると屋根付き時代にあったドアの痕跡が見えるのだそうです(↓).

(画像は他所から拝借.カウルの内側にはドアの開口部らしき窪みが見えます)
4つ目が崩れた空力バランス.前年の1999年にメルセデスのCLR-LMがル・マンで宙に舞ってしまったため,フロントの揚力を下げるべく,フロントフェンダー上にスリットが義務づけられました(↓).
その結果,フロントのダウンフォースが一方的に増えて前後の空力バランスが崩れたのだとか.バランスを取るにはリアウイングを立てるしか方法がなかったそうですが,ストレートスピードがモノを言うル・マンでそんな事が出来るはずもなく,崩れたバランスのまま走らなければならなかったため,余計乗りづらかったそうです.
これだけオーバーステアを助長する要因があって,おまけにドライバーのフィーリングとも合わないとなると,ル・マンでは目立った戦績をあげられなかったのも仕方はありませんね.
(リアウイングを立てられたル・マン以外では,優勝も含めてそれなりの成績だったそうです)
実際,クルマを見ても「プレーン過ぎる」というか,
先月見た同世代の「R391」や「TS020」なんかと見比べると,細部に神が宿ってない印象を受けます(苦笑).
ちなみに,タイトル名にした「火焔型土器」とは,新潟県十日町市の笹山遺跡で出土した国宝「火焔型土器」の事を指していて,なんでも僅かながら十日町がこのプロジェクトの支援を行っていたらしく,そのお礼としてマシンに「火焔型土器」を模したステッカーを貼っていたそうです.
この話を私は全く知らず,今回クルマの傍にあった解説書きを見て初めて知ったのですが,なんで十日町が支援するに至ったのか? 経緯は分からなかったものの,ル・マン参戦後暫くの間,十日町の「越後妻有交流館キナーレ」という施設にこのクルマは展示されていたのだそうです(少なくとも2008年頃まであったらしい).
「なんだ,十日町だったら見に行く機会はあったじゃん!」と思いつつ,ちょっと落胆したル・マンカー見学でした.