
厳しいコンディションで結果の出なかった
先日のTC1000ですが,久方振りにTC1000での新品タイヤ投入となったので,1年前に同じく新品タイヤを投入した時の結果と比較してみようと思います.
これは言い替えると過去1年分のアップデートを全部丸ごと一括で比較する形にもなるので,まずはこの1年でどんな変更をしたのか?を振り返ってみたいと思います.
①
ブレーキマスター変更 :修理(EF8用→NA1用:重量増)
②
リアアンダーパネル追加 :空気抵抗削減(重量増)
③
ピロラジアスロッド変更 :修理(NAGISA AUTO製→TRY・BOX製)
④
トレーリングアームブッシュピロ化 :ジオメトリー変化の抑制(重量増)
⑤
フロントアッパーアームブッシュピロ化 :キャンバー変化の抑制(重量増)
⑥
ダンパーフォークブッシュピロ化 :ブッシュ抵抗の削減(重量増)
⑦
スタビライザーリンクショート化 :スタビライザーの捻じれ抵抗の削減
⑧
フロントスプリングレートアップ :前傾時の限界引き上げ(12キロ:中反発→14キロ:中反発)
⑨
リアスプリングレートアップ :後傾時のバランス取り (12キロ:高反発→14キロ:高反発)
こうして見ると,何だかんだで色々やりましたね.①~⑦は重量増の方向で,勿論空力やらハンドリングやらの効果はあるのですが,ミニサーキットだと重量増のデメリットの方が大きいかな? 微妙な重量増でタイムがじんわり落ちる中,⑧・⑨の前後レートアップがそれを補っているか?が焦点になる気がしますね.
次に,サンプルデータの確認.
【前回(41.954)】
【今回(42.068)】
これだけ色々やって,0.1秒遅くなった・・・とは思いたくないので(笑),続けてコンディションも確認しましょうか.前回は筑波公式のデータがないので気象庁のデータから拝借するとこんな感じ(↓).
前回 ・・・ 気圧:1010.6hPa 気温:25.5℃ 湿度:65% 日照時間: 5分
今回 ・・・ 気圧:1003.8hPa 気温:30.3℃ 湿度:71% 日照時間:10分
あらら,今回の方が何から何まで全て条件が悪いですね.気温・気圧で1.7%程度のパワーダウン.加えて日照時間が倍なので路面温度も今回の方がかなり高そうです.
それでは,材料が揃ったところでロガーデータの比較に入ります(緑:前回 青:今回).
上が車速,下がタイム差(上に行くほど前回の方が速い)です.全体をざっくりで見ると,インフィールド進入までの前半区間は前回(緑)の方が速く,そこから最終コーナーまでの後半区間は今回(青)の方が速かったようです.この前半と後半で両者が相殺されてタイム差的にはほぼゼロになりますが,最後の最終コーナー立ち上がりで前回(緑)の方が速かったため,0.1秒負けた結果となったようです.
では細かく見ていきましょう.
1コーナー
前回(緑)が120km/hを超えた領域(左側の赤丸)でもう一伸びしているのに対し,今回(青)の方は伸びていませんね.これがパワーダウンの影響でしょう.気になるのはそこからのブレーキング(右側の赤丸).今回(青)の方が減速量を緩められず失速しているような感じです.
減速Gの波形を見てみると,今回(青)の方が急激に回復しているので,これは多分アレだなぁ~と思って車載を確認してみたところ(↓),
やっぱりリアが滑ってカウンターを当ててましたね.荷重をリアに戻すために一気にブレーキを戻したため,ああいう波形になったのだと思われます.こういう状況になるとフロントの荷重が抜けるので,タイヤが滑って失速するのも当然ですね.
そこから先,スライドが止まった後はもう一度ステアリングを切り込んではいますが,一度荷重が抜けているので前回(緑)ほどの高い速度を維持が出来ず,どんどん引き離される結果に・・・.
プロが仰るLSDセッティングが実現出来れば,この状態でも前回(緑)を上回る高速コーナリングが出来るのかもしれませんが,このカウンターによるロスはリアのレートアップによる弊害だと思うので,一先ずはリアの接地性を上げる方向でセットアップをし直さないと!ですね.
2コーナー
2コーナーではラインが全く同じなので(↓),
同じように車速の伸びていくんだろうと思っていたのですが,ほんの僅かだけ今回(青)の方が失速しているようです(↓).
今回(青)はパワーダウンしているので,操舵抵抗に打ち負けたのかなぁ~?と思いましたが,横Gのグラフを見てみると(↓),
今回(青)の方がGが小さくなっているので,タイヤのグリップが落ちているみたいですね.計測1でまだコーナー1個しかフルアタックしていないのですが,路面温度が46℃近くまで上がってますし,既にタイヤがタレ始めているのかもしれません.
ヘアピン
ここもほんのちょっとなのですが,エイペックスから先でタイヤが横に滑ってクルマが前に進んでいないですね.やはりタイヤがタレているのかも?という気もしますが,プロが仰ったフロントスプリングの反発力の強さ(=フロントのレートアップの弊害)もありそうですね.
インフィールド
インフィールド進入(左側の赤丸)で今回(青)の方が車速が伸びないのは仕方ないと思いますが,そんなハードコンディションでインフィールドのボトム(右側の赤丸)が前回(緑)を上回っているのはGood!ですね.しかもコレ,
前回(赤)よりも今回(青)の方が大分小回りしているので,それでいて立ち上がりでラインが膨らむ事もなく,同等以上の速度で旋回しているとなると,やはりインフィールドは速くなっていそうです.
左高速コーナー~洗濯板
ここは前回(緑)がシフトミスしているのでその分だけ車速が伸びず,今回(青)の方が終端速度は伸びています.このミスで大体0.05秒くらい失っているので,本来であればもっとタイム差はあったという事なんでしょう・・・.
最終複合
1年前と全く走らせ方が変わっているのが,この最終複合ですね.前回(緑)は洗濯板を通過した後,ほんの僅かにアクセルを開けてエンブレの量(失速量)をコントロールしながらアウトクリップまで引っ張っていき,そこからアクセルOFFして前傾姿勢を作り出し,フロントのグリップを確保した後,IN側の縁石に乗せながらアクセルを徐々に開けて立ち上がっていくのですが,今回(青)の方はエンブレの量をコントロールをする事もなく,アクセルOFFだけでユルユルと曲げていき,アクセルON→OFFで前傾姿勢を作る事が出来なかったため,最終コーナーでフロントのグリップ不足に陥り,アクセルを開けるタイミングが遅れてしまっているようです.
乗っていた時は,まさに"我慢"といった感じのコーナリングで,前回(赤)よりも小回りなのかなぁ~?と思っていたのですが,
ライン取りを見ると前回(赤)と今回(青)でぴったり同じところを通過しているようなので,そういう訳でもなさそうですね.一体コレなんなんだろうなぁ~?

(フロントのグリップが足りないから,最終コーナーのIN側の縁石にも乗れていないし・・・)
乗っている時に「アクセルを入れようと思わない」という事は,「高い速度で最終複合に進入してしまった!」と私は感じているのだと思うので(実際問題,ライン取りが一緒なら,そこでアクセル開けたらアンダーステアでラインが膨らむのは目に見えていますし),この減速感のなさはレートアップによる姿勢変化の少なさに起因しているんですかねぇ・・・? 結局,前回(緑)よりもタイムが遅かった1番の理由がココにある訳で,このカラクリを紐解いて対策しないと今後も苦戦しそうですね.
以上,1年分のアップデート比較でした.纏めると,
・高車速からのブレーキングでインリフトし易くなった
・インリフトした結果,フロントタイヤを上手く使い切れなくなった
・低速域の立ち上がりでアンダーステア傾向が強くなった
・ヨーを使って曲げるコーナーは,フロントの手応えがあって速くなった
・アクセルOFF時の姿勢変化が少ないため,車速の維持はし易くなった
・その反面,アクセルON→OFFによるノーズダイブが使いづらくなった
といった感じでしょうか.トータルで見るとTC1000においては0.1~0.2秒くらい遅くなったかなぁ~? インフィールドの速さだけでは他の全てのロスを補い切れない気がするので,タイヤの内圧とダンパーの減衰を合わせ込んで欠点が目立たないように出来たとしても,タイム的には良くてイーブンといった感じでしょうかね.「詰め切ったセットに手を入れても,バランスが崩れて遅くなるだけ・・・」というのを地で行った感じで悲しいです(泣).
ま,今回は大分過酷なコンディションでしたし,次はもう少し良い条件でデータを取って,「実際はこんな悲観的な状況ではない」と思いたいところですね.