前回の続き
「ごめん、朝早くに。タクシーが捕まらないんだ。クリスマスの夜だろ、どこのタクシー会社も電話がつながらないんだ」
「え・・・・・、そうですか・・・」
「電話はつながらないけど、タクシーは走っていると思うから、2ブロック先の大通りに出てタクシーを捕まえるのが一番確実だと思う」
「わかりました、そうします」
「君の力になれなくてごめん」
「いえ、こんな深夜に対応してくれてありがとう」
予約できなかったのは彼のせいでもないですし、宿の立地や見た目と違って、えらい親切な対応で逆に驚きました。
その親切な彼がどうにもならないと言っていて、今の私に出来ることも無いので、一旦眠りに就くことにします。
少しウトウトして予定より少し早く3時半に起床。
受付のお兄さんは居間で寝ていると言っていたので荷物を抱えて居間に行き、こんな時間に申し訳ないと思いつつ肩を軽く叩いて起こして出発を告げます。(彼がロックを解除しないとドアを開けて外に出られない仕組みなので)
起こしたついでにもう一度だけタクシー会社に電話をしてもらいますが、やはりつながらないようです。
お兄さんにお礼を言って鍵を返し、荷物を抱えて外に出ます。
危険だと言われているブエノスアイレスの深夜徘徊でデジイチを首からぶら下げて歩くわけにはいかないので、デジイチはザックの奥に仕舞い、ズボンのポケットからコンデジをいつでも取り出して撮影できるようにしておきます。財布はもちろんカバンの奥、最低限の現金だけポケットに入れています。
進行方向30m先に若者のグループが見えたので、反対車線に渡ります。

まぁ、なんと言うか、治安が悪いと一度聞いてしまうと、どう見ても危険に感じるストリートです。
宿もお兄さんが手動でロックを解除しなければ入ることも出ることも出来ないぐらいのセキュリティですしね。
まずは大通りに向かわなければなりません。(右側に若者グループが居ます)
一組目の若者グループは大きな荷物を抱えて深夜に歩く私を不思議そうに眺めていただけでしたが、二組目のたむろしていたグループが私に興味を示したのか、それともたまたまなのか、私と同じ方向に歩き始めたのを視界の片隅で確認します。
こちらに近づいてこないことを祈りつつ、ペースを上げてまっすぐ大通りを目指します。
大通りに到着したそのタイミングでタクシーが目の前に停まり、中からお客さんが降りてきました。タクシーのボディを見ると無線(電話呼び出し)のナンバーも書いてある大手の会社所属の車両で、タクシー強盗に変身する確率も低そうです。(個人タクシーや白タクはタクシー強盗の危険性が高いらしいです)
運転手さんにそのまま乗りたいことをジェスチャーで伝え、前のお客さんが降りるとすぐにトランクに荷物を放り込み、タクシーに乗り込みました。
大通りはこんな時間でも人通りや交通量はけっこうあるみたいです。

まずはこれで一安心。
アエロパルケまで値段が幾らか尋ねると、「ノーノー」と言いながらメーターを指差します。
なるほど、タクシーは事前交渉のパターンとメーターのパターンがあるのですね。

タクシーは迷うことなくアエロパルケに向かいます。(そりゃ、空港に向かうのに迷う運チャンは居ませんよね)
この辺りで緊張感も大分解け、夜明け前の街並みを眺めながらのドライブとなりました。
朝4時ぐらいにアエロパルケに到着。 タクシーの料金は20ペソ(450円)ちょい。昨日の50ペソという値段がいかにふっかけられていたかがよくわかります。

こんな時間なのに、早朝便がいくつか飛ぶからか、チェックインカウンターは普通にお客さんが並んでいます。

今回はオンタイムです。
アルゼンチン航空、百発百中で遅れるぐらいの前情報でしたが、そこまで頻繁に遅れたりキャンセルが出るわけじゃないみたいです。

しゅ初日に成田空港で買ったパンを食べます。(自販機で売っているようなパンなので賞味期限は1月上旬まであります)
つぶれてぺしゃんこになってますが、味は変わりません。

今回もMD-80です。

出発は朝6時、待っているうちに空が明るくなってきました。
ゲートに人が並び始めたので、てっきり早めに乗り込むのかと思って立ち上がったら、どうやらリオガレゴス行きの便も同じナンバーのゲートから出発するようでした。
まったくもって、紛らわしい話です。
(正確に言うと、12,12a,12bと3つの登場口があるみたいです)

定刻どおり搭乗開始となりました。

ちなみにこの便、エルカラファテまでまっすぐ向かうのではなく、パタゴニア北部の街トレレウを経由して4時間のフライトになってます。
日本で言うなら、羽田から北海道の札幌に行くのに函館空港に立ち寄ってから向かうようなイメージです。
ノンストップの直行便はやはり人気が高く、今回みたいに数日前に予約を取るようなシチュエーションでは格安航空券はまったく手も足も出ませんでした。
逆に言うと、クリスマス早朝の経由便だったので、格安チケットが19日のタイミングでも抑えられたのでしょう。

と言うわけで、アディオス、ブエノスアイレス!

安全のしおり。
何か変だなぁと思って見ていてようやく気がつきました。
女性がすべてCGで無表情なのです。それがまた
不気味の谷の奥底にあって気持ち悪いこと。
しげしげと眺めた後、写真を撮っていたら隣に座っていた若い男の子が、英語でいろいろ話しかけてきます。
「携帯電話とかは電源を切らなくちゃいけないんだよ」
「そうだね」(もちろん切ってます)
「シートベルトはちゃんと締めてる?」
「もちろん」(シートベルトを見せます)
どうやら、安全のしおりに食いついていた私を飛行機に初めて乗るぐらいの人と思ったっぽいのです。
それ以外にもいろいろ話し、彼が大学生で哲学を専攻しているということと、彼の横に座っている家族(両親と娘さん)とカラファテに旅行に行く最中であること、日本のアニメやゲームが大好きだということはわかりました。ドラゴンボールとかなら私でもわかりますが、マニアックなマンガの話には日本人の私がまったく着いていけないのでした。

ブエノスアイレスの郊外を過ぎると、足元には畑地帯が広がっています。パンパ (Pampa) と呼ばれる大平原地帯です。
この辺はいつか機会があったら是非レンタカーで走ってみたいものです。
(ちなみにブエノスアイレス近郊は日本大使館から危険地域として
勧告が出ていますのでご注意ください)

隣の大学生の子曰く、これが典型的なアルゼンチンの朝食なのだとか。
ジュースを頼むときなんかは彼が事前に何が希望か確認してくれ、スタッフにスペイン語で伝えて取り寄せてくれます。
えらい親切な学生さんです。

クロワッサンの味はさすがにいま一つでしたが、その左横にあるパンのお菓子はかなり美味しかったです。
バターにジャム、さらにキャラメル状のジャムがあったのですが(ドゥルセ・デ・レチェって言うんですかね)、これも国民食。私なんかはバターをメインで使っていたのですが、大学生の子はキャラメルジャムをパンやお菓子にそれこそベッタリ塗って、最後にはそれだけ舐めていました。
そう言えば、昨日イグアスに向かう飛行機で出たお菓子にも、すでにこれが塗りたくってあったなぁと思い出します。
(練乳を煮詰めて作るらしいです)
練乳を煮詰める、まさにそんな味です。
食事の後に大学生の子が銀色の紙に包まれた小さなものをカバンから取り出し私に見せながら、
「えーっと、キャンディみたいなもので、飲み込んじゃ駄目で(ジェスチャーで)・・・・」
と、説明を始めたので
「チューングガム?」
と聞くと
「そうそう!」
と、言いながらミントガムを一つくれました。
ありがとう。(笑)

お、ブロッケン現象ですね。(ブロッケンはドイツ語だと思うのですが、さすがに彼には通じませんでした)
あと、通じないと言えば、パイネも通じませんでした。
こちらでは「パタゴニアンアンデス」と呼ぶのだそうです。

こういう日本では見られないテイストの広告が私にとっては面白くて仕方がないわけです。
(男性のカメラ目線のカッコ付け方があまりに微妙で)

お、バルデス半島です。
こちらも世界遺産、当初の予定ではパタゴニアに入ったら最初にここに向かうことになってましたが、今回イグアスと入れ替わりになる形でパスになってしまいました。
いつか行きたいですね~。

足元の風景はパンパ (Pampa) からパタゴニアの大地に変わり、畑のような物は見えなくなりました。
灌木が延々と生えているように見えます。
(気温は違えども、オーストラリアの乾燥地帯に似ている景色でオーストラリアの(パンクを食らった)エスペランス、ブエノスアイレス周辺のパンパ、そしてパタゴニアのアルゼンチン側は乾燥したステップ気候です)
ほどなく飛行機が着陸体制に入ります。

中間立ち寄り地のトレレウ空港に到着です。

ここで降りる人、新しく乗ってくる人で機内がごった返します。
そして、約30分後、予定時刻に再び離陸。

水平飛行に移ると、またまた食事が出ました。

ブッダと経済だって~、と大学生の子が笑いながら紹介してくれた記事。
今回はブッダづいてます。(ちなみに私は中身は読んでません)
ブッダの話しに続いて、ニーチェの話とか水問題に関する話をしてくれたのですが、さすがに専門的な話は単語がよくわかりませんでした。
私との会話が終わると横に座っている家族に私とどんな会話を強いたのかを翻訳して伝えているようです。
ところで、今回私は長期の旅の記録用にボイスメモを持って行ってました。(初導入です)
彼との会話などを忘れないように彼が家族と話をしている間にボイスメモを取り、デジイチでパシャパシャ窓からの写真を撮っていたら、「あなたは新聞記者ですか?」と聞かれましたが、まぁたしかに傍から見たらそう見えますよね。
ボイスメモの弱点はそばに人がいるときに録音し辛いことですね。

引き続きパタゴニアの大地の上空を飛んでいきます。
遠くにアンデス山脈が見えてきました。
人生初アンデスです。
パーサーが水を持ってきてくれたのを大学生の子が先に受け取って渡そうとしてくれたので
「グラシャス」
と、数少ないスペイン語のボキャブラリーを駆使してお礼を言うと、ちょっと笑いながら
「デ・ナーダ」
と、言いながら水を渡してくれました。
そうそう、「どういたしまして」は「デナーダ」だったと思い出し、この後は「デ・ナーダ」を使うことを決意します。

目的地のエルカラファテに近づくにつれ雲が増えてきました。
今日の天気、どうかな~、なんて思いながら窓の外を眺めていると、

雲の下にエメラルドグリーンの湖が突然現れました!
うわ~、綺麗!!
気分が盛り上がって来ましたよ!
ほどなくして、エルカラファテの上空に到着
旋回しながら高度を徐々に下げ行き、これまた予定時刻に空港に到着しました。(午前10時)

天気も上々、ばっちりです。

手荷物受け取りのところで待つ、大学生のファミリー。横に座っているのは高校生ぐらいの妹さんです。

無事に荷物も受け取り、到着ゲートへと進みます。
さて、レンタカーを受け取りますか。

あれ、AVISのカウンター、誰も居ないな。
(スーツの人はたまたま、そこに居ただけで、AVISのスタッフでもお客さんでもないです)
まぁ、海外のレンタカーの受付ではよくある話です。
ハーツのおじさんに、AVISの人が居ないんだけどと言うと、「そのうち戻ってくるんじゃない?」と言われるかと思いきや、「さぁ~ね?」 という返事が返ってきました。
あれ? 本当に居ないの?

カウンターに電話番号が書いてあったので、横の公衆電話から電話をかけてみます。
呼び出し音は鳴りますが、いっこうに出てくれる気配がありません。
何回試しても結果は同じです。
なんか、嫌な予感が頭をよぎります。
携帯の番号も書いてあったので、そちらにかけてみますが、呼び出し音すら鳴りません。公衆電話から携帯にかける方法が間違っているのかもしれません。
最初は余裕の気分で居たのですが、だんだん焦ってきました。
これで連絡がつかなかったら、レンタカー借りられないってこと?
カウンターの中に電話が置いてあったので、勝手に拝借して電話をかけてみます。
最初の「0」を押した瞬間に呼び出し音が鳴り、女性か電話に出ました。
どうやら、空港内の内線電話らしく、インフォメーション担当につながったみたいです。英語が通じるので「AVISのスタッフが居ないんだけど」と伝えると、「わかった、探してみるからそこで待っててという返事」
一旦電話を置いて、少し待ってみるものの、連絡も来ないし、当然スタッフが来るわけでもないみたいです。
もう一度電話を拝借して電話をかけてみると、「AVISのスタッフ、探してみたけど居ないんだけど」という返事。「どこを探したの?」と確認してみると、「空港の中」という返事。
これじゃぁインフォメーションは頼りになりません。
借りる日を寸前に変更したので、嫌な予感がしてはいたのですが、それが現実になろうとしています。
「予定変更? 聞いてないよ。車? 今日は一台も無いですよ」 とか、言われるかもと思っていましたが、まさかスタッフが居ないとは思いませんでした。
パタゴニアでの滞在時間をかなり減らしたのですが、それでも当初の計画通りの場所を効率よく巡るためにレンタカーは必須の移動手段です。(ちなみにパタゴニアとはチリとアルゼンチンに跨る南米の南の方のエリアの総称です)
広大なパタゴニアを移動するのにはバスを利用するのが一般的なのですが、それだとバスの時刻に予定を左右されてしまい、今日もすでに11時近くになってしまっていて、何かのツアーに参加することも、どこかへ移動することも出来ないかもしれません。パイネ国立公園への移動も一日余分にかかるかもしれませんし。。。
ハーツに並んでいたお客さんが、焦りまくる私の顔を見て「どうしたの?」と聞いてきたので、「AVISに予約を入れていたんだけど、スタッフがいないんです」と答えると、「今日はクリスマスだし、家で寝てるんじゃない?」と言われます。
そっか、今日はクリスマスだったか!
と、納得している場合ではないのです。
なんだかんだで到着ゲートに到着してから30分以上の時間が過ぎ去りました。
ここで来るか来ないかわからないスタッフを延々待っているよりも、レンタカー無しの計画に全面的に切り替えて、とっとと今日の予定をスタートさせた方が良いかもしれないと思い、街まで行くシャトルバスの受付に行き、次のバスは何時か尋ねてみたら、1時間後という返事。
これで、少し冷静になりました。レンタカーを諦めるにしても、(タクシーやレミースを使わないのなら)、いずれにしろ、空港に1時間は居なければならないわけです。
再び、AVISのカウンターに戻り、まだ呼び出し音すら鳴らせていない携帯に連絡を入れる手段を考えます。
スタッフが自宅で寝ているにしても、これならつながる可能性があるわけですし。
まずは自分の携帯を取り出して、国際電話の要領でかけてみますが、かかりません。
調べている時間ももどかしかったので、目の前に居たさきほど話しかけてもらったハーツのお客さんに、「携帯持っていたら貸して欲しいんだけど」とお願いしてみると、持ってるけどアルゼンチンでは使えないんだという返事。
他にもう一人に声をかけて携帯を借りようと試してみた物の、この方も「持ってない」という返事。
ちょうど、ハーツのスタッフが顧客対応を終えてカウンターに戻ってきたので、「AVISの携帯に電話をかけたいので、電話を貸してくれませんか?」 とお願いしてみると、「いいよ、これを使いなよ」と、カウンターの奥の事務所に招き入れてくれ、電話を貸してくれました。
お礼を言い、ハーツのカウンター内の電話を使って携帯電話にかけてみます。
呼び出し音が鳴りました。
祈るような気持ちで相手が出るのを待っていると、女性が電話に出ます。
「ぎんがめですけど!」
と、名乗ると、
「あぁ、ぎんがめ? 到着したの? じゃぁ15分後に行くからそこで待っててね~」
という、気が抜けるような女性の明るい返事が返ってきます。
「わかりました、待ってます」
とだけ、答えて受話器を置きます。
ハーツのおじさんに、連絡がついたこととお礼を伝えると、一部始終を見ていたからか、笑顔で良かったねという顔をしてくれます。
とにもかくにも、連絡がついて、そしてレンタカーが確保できるみたいで良かったです。
(ようは最初から携帯に連絡できる手段があればここまで焦る事態にはならなかったわけですが)

落ち着いたところで、待っている間に空港の周辺の様子でも見てみようと思い外に出てみると、イグアスやブエノスアイレスよりも断然気温が低く、かつ風が強いので外でじっと待っているのはあり得ない感じです。
しかも、こんなに晴れているのに、どこからか雨まで飛んで来ます。
あわてて空港施設の中に戻ります。
そして、そんな予感はしていましたが、15分経っても誰も現れず、逆にハーツのおじさんはすべての顧客対応が終わったからか、受付を畳んで歩いていっちゃいました。(ここでもお礼を言いました)
さらに待つこと20分、スタッフジャンパーを着たおじさんと先ほど電話に出たらしい若い女性スタッフがやって来ました。(南米ですからこのぐらい待たされるのは想像していました)
彼らにしたら突然の日程変更でクリスマスに私の対応のためだけに呼び出されたと言うところなのでしょう。
それはそれで、申し訳ない話だと思い、「クリスマスに来てくれてありがとう」と挨拶すると、「全然問題ないよ」との返事。
二人が端末を立ち上げたり準備をするのをしばらく待ちます。
空港の到着ゲートを通過してから1時間半、ようやく受付が始まりました。

車のカタログを見せられながら、「あなたの車はこれね」と、ゴルフのコンパクトカーを指さし確認を受けたので、「この車でチリのパイネには行けるんですよね?」と念のため確認すると、「この車ではチリへは行けないわよ」という返事。
それはマズイ。
せっかく車を確保できても、肝心のパイネまでの移動手段として使えなかったら、何の意味もありません。
10月の最初の予約の時にチリに行くことを伝えて、オッケーという返事をもらっていたことを伝えると、PCを見ながら何やら確認しています。
その時のブエノスアイレスオフィスとのメールのやりとりをプリントアウトしたものを持っていたので、それを見せます。
アルゼンチンのいろいろなサービスにメールで問い合わせてちゃんと返事が来た希有な例なのですが、今回の日程変更時に同じようにメールで問い合わせたところ、担当の方は12月後半の長期休暇の真っ最中で連絡がつかなかったのでした。
なので、エルカラファテオフィス(ここ)に直接電話をかけて日程を変更したのですが(たぶんその時に対応してくれたのが写真に写っているおじさんのような気がします)、その時にあわせてチリに行くことも確認しておけばよかったのですが、すっかり忘れておりました。
渡したメールのやり取りを見た女性スタッフはうなづいた後に、男性スタッフに紙のとある箇所を指差して見せ、満面の笑みでこちらを見ながら
「あぁ、この子が対応したのね。オッケー、グゥ!」
と言いながら、親指を立てます。
どうやら、オッケーなようです。
「ノーギルティだけどいい?」
と、確認されますが、「ギルティ」の意味がわかりません。(私のボキャブラリーではギルティーは罪なのですが、無罪ってここで言われても意味が分かりません)
「ノーギルティの意味がわからないけど、チリに行けるのならいいです」
と、答えると、
「私も英語が完璧じゃないから、ごめんなさいね。とにかくチリには行ける車を準備するから」
という返事。最初に言われた車がゴルフの車だったのですが、今度はルノーの車になるようです。
「この紙があれば大丈夫だから」
と、国境越えに必要な書類がそろっていることを確認受けました。
(もちろん私もその紙で大丈夫なのかどうかはわかっていないのですが)
「マニュアル車だけど大丈夫?」
「私が日本で持っている車はマニュアルのスポーツカーです。大丈夫です」
「エクセレント!グゥ!」
笑顔で親指を立てます。
この仕草がなかなかかわいらしいのです。
南米の方は表情豊かでいいですね。
保険は女性スタッフが勧めるフルカバーの(特に車の補償金額の上限が高い)やつを選択します。チリに向かうときに、たまに車を横転させる人が居るらしいのですが、理由は後でわかりました。
エルカラファテのスーパーマーケットとガソリンスタンドが何時まで営業しているか確認すると、スーパーが夜10時まで、ガソリンスタンドは24時間営業とのこと。
ガソリンスタンドの24時間営業は深夜到着、早朝出発の計画もあるので、かなり助かります。あと、アメリカでジャーキーを没収されたので、その辺りをスーパーで補給しなければなりません。
走行距離制限の確認をすると、1日につき200kmとのこと。私は8日間借りるので距離制限は1600km。逆にどこに行くつもりか聞かれたので、ペリトモレノ氷河、パイネ、エルチャルテンと答えると、「200km、800km、400km」と紙に書きながら計算し、「1400km、ばっちりじゃない!グゥ!」 という返事。
逆に言うと、これ以外にどこかに行くときは、距離に応じて追加でお金を払わなければならない可能性がでてきます。
最後にトータルの料金の確認を受けたのですが、元々借りる予定だった日数よりもかなり減ったので、トータルのレンタル料金は安くなりました。
なんだかんだで、受付処理に20分近い時間を費やしてから、ようやく車に案内されました。

この車です。 ルノークリオ、マーチの兄弟車ですね。
写真だとわかりにくいのですが、ボディはドロドロ状態です。
「汚いでしょ、ノーギルティなの」
なるほど、洗っていない、整備できていない状態のことなのですね。
まぁ、どうせ私も砂利道走って汚すので車の状態さえまともなら問題なしです。
私が確認を申し出る前にリペアタイヤを見せてくれ、「チリに行くなら、かなりダートを走るから、タイヤの状態を確認してね」
と、リペアタイヤ含め、4本のタイヤがほぼ新品状態であることを確認させてもらいます。
タイヤはほぼ新品状態でしたが、ボディの方は傷だらけ。フロントウインドウにも派手なガラス欠けがあります。
(運転席の目の前、この後かなりの頻度で写真に写り込みます)
彼女が助手席に乗り込んで手招きするので、私も運転席に乗り込みます。
「ギアのバックはここをこうして、こう入れるの」
なるほど、ギアレバーを握る手の人差し指と中指でレバーの根元にあるフックを引っ張りあげると1速のさらに左にあるバックに入る仕組みです。
コンパクトカーなので4速かなぁと思ったら、ちゃんと5速マニュアルです。
あとは走行距離、ガソリンメーター、トラブル時の連絡先を教えてもらい、書類を渡され引取手続き完了。
最後に「私はセレドン、よろしく」と言いながら手を差し出してきたので、「ぎんがめです」と答えつつ、それは知ってるよなぁと自分につっこみを入れつつ握手をして別れました。(こちらでは、親しい人同士では大抵最初に握手、別れ際にハグとキスをするようです)
彼女は空港の方に歩いていったので、あとは出発するだけです。
車の椅子の位置を調整したり(椅子の角度調整が日本車ではあり得ないぐらい不便)、ミラーを調整したりしてから(もちろん手動だけど室内からできます)、エンジンをかけます。
国際免許をトランクに入れっぱなしだったことを思い出し、トランクを開けようとすると、どうやって開けるのかさっぱりわかりません。さきほどはセレドンさんに開けてもらったのですが、気にもしてませんでした。
あれこれ試していると、いつの間にか戻ってきたのか、後ろからセレドンさんに声をかけられ、どうしたのか尋ねられたので、トランクの開け方がわからないと伝えると、彼女は一旦エンジンを切って鍵を取り出し、後部ドア中央のルノーのロゴの所に刺して右の方に回し、そのまま鍵を奥に押し込みます。するとガチャンと音がして後部ドアのロックが解除される仕組みでした。
これ、ここで聞かなかったら、あと10分ぐらい悩んだかもしれません。
「今日はペリトモレノ氷河でしょ。(街の向こうにあります) 私たちも今から街に戻るから、一緒について来たら?」
と、誘われたので、特に案内の必要性は感じていなかったのですが(一本道なので)、付いていくことにしました。
さて、今度こそ出発です。
えーっと、バックギアは、、、
ギアー根元のフックを2本の指で引っ張りあげながら1速のさらに左にあるバックギアーに入れ、クラッチをそっとつなぎ、車がバックすることを確認します。
2人が乗ったクロムシルバーのゴルフが走り始めたので、私もすぐに発進します。

いよいよ、パタゴニアの大地を走ります。
天気も良いので、がぜん気分が盛り上がります。
左ハンドルのマニュアル車、少し不安はありましたが、特に問題なく運転できます。

それなりの交通量もあるみたいです。(1分に1台ぐらいとすれ違うぐらいの交通量です)
写真右上の丸印がフロントガラスについた石による破損です。
それにしても、こちらの皆さん、ペースが早い!
景色を眺めながら時速100kmで走っていると、先導する二人が乗ったゴルフからジリジリ引き離されますし、さらに後ろから来た四駆に煽られる始末。
制限速度が110kmだということは、後でわかった話ですが、けっこう頑張ってアクセルを踏まないと流れに乗れないイメージです。

ほとんど直線でたまにカーブが出てくる辺りは、オーストラリアに似ています。
(エスペランスとかは同じステップ気候ですしね)

空港から15分、警察の詰め所が見えてきました。(これは事前にセレドンさんに聞いてました)
一台ずつ警察官が声をかけているようでしたが、前を走るスタッフが説明をしてくれたからか、そのまま進めというジェスチャーで通過させられます。

エルカラファテの街に入ってきました。

そのまま何も考えずに二人の車についていきますが、しばらく走ったところでハザードをつけて車を脇に寄せたので、追い抜きざまに挨拶をして別れました。
って、ここはどこだ?
メインストリートから外れて、脇道に入ってしまったらしく、行き止まりや90度カーブを数回曲がってしまったので、現在地がさっぱりわかりません。
(エルカラファテ自体はそれほど大きな街では無いのですが、それでも5km四方ぐらいはあるでしょうか)
ここで携帯電話を取り出し、GPSソフトを立ち上げます。
すると、私の旅にしては珍しくちゃんと使えるではないですか。
現在地と進むべき道がわかったので(さすがにナビ機能はついてませんが、携帯の電波とは無関係にあらかじめ登録した地図で現在地がどこかわかります)、まずはメインストリートに戻ります。

スーパーを探して街をウロウロします。
「地球の歩き方」にスーパーの位置でも書いといてくれればいいのですが、そんなことは一切載ってないんですよね。ロンプラなら載ってるんですが、今回持ってきたのはトレッキングガイドなので街の地図が無いのです。

アウトドアグッズショップを見つけたので、ストーブのガスを買いに向かいます。
ところが、店が開いていません。他にもアウトドアショップはあるのですが、どこも開いてません。
入り口に貼られた張り紙を見てみると、クリスマス(今日)は夕方からの営業だそうな。
なるほど、祝日の昼間は休むわけですね。
まぁ、スーパーも似たようなものでしょうと判断して、先にペリトモレノ氷河に向かうことに決定します。

まずは空港の反対側の街の郊外に向かって走っていきます。

気分良く走っていると、ブエノスアイレスにもあった減速用の巨大な凸段差があるので油断できません。
時速50kmぐらいで突破しても平気だとは思うのですが、現地の皆さんは時速20km以下にきっちり減速しているので、私もそれに倣います。

街を抜けて郊外に出ました。
いよいよ本格的なパタゴニアドライブのスタートです。
後編へつづく
0 1 2 出発・移動
3イグアス
4 5 6パイネまで移動
7 8 9 10パイネトレッキング
11 12 13パイネからエルカラファテ
14 15ブエノスアイレスへ
16 帰国