今回隣の席は(ちょっと体格の立派な)黒人の若い女性の方でした。話を聞いてみると、ケープタウン在住の方で、クリスマス休暇をヨーロッパで過ごし、これから帰国の途に就くところだとか。
すると、通路に立っていた若い白人男性が手に持ったチケットとこちらを交互に見ながら黒人女性に話しかけます。
「そこ、私の席なんですけど・・・」
彼女は思いっきり席を間違えていたらしく、あわてふためきながら反対側の窓側席へと移動していきました。結果、隣の席は白人男性(やはり立派な体格の方)に代わりました。
その方は席に着くなりヘッドフォンで音楽を聴き始めたので特に話しかけることもせず、この便では寝ながら移動するつもりだったので、アイマスクや首枕を準備して寝る体制を整えます。
飛行機が移動を開始すると機長からのアナウンスが流れます。英語のアナウンスなので真剣に聞いていなかったのですが、
「ジョーバーグの到着予定時刻は・・・、」
ジョーバーグ?
ジョーバーグって、ヨハネスブルグの英語読みだったはず・・・
って、まさか間違えてヨハネスブルグ行きの飛行機に乗っちゃった?
いや、それなら
「お客様、ケープタウン行きはあちらでございますよ」
と、搭乗する時に誰かがチェックしてくれるはずだし、さっき隣に間違えて座ってた女性もケープタウンに行くって言ってたし・・・・、いや、彼女はおっちょこちょいだから、二人揃って間違えたとか・・・
隣の男性は目を瞑って音楽を聴いているので、それを遮って「これってケープタウン行きですよね?」と尋ねるのもなんだと思い、恥を忍んでパーサーの方に質問をしようと思いつつも結局躊躇してモジモジしている時に、ある事実に思い当たりハッとしました。
そう言えばこの便、アブダビからケープタウンに向かうのに、なぜか12時間もかかるのです。地理感が無いエリアだったので、そんなもんかとは思っていたのですが、やはりどう考えてもかかりすぎなのです。
そこで、ヨハネスブルグを経由して行くと考えれば納得がいきます。去年、アルゼンチンでも経由便がありましたし。
チケットを買うとき、オペレーターの女性が「この便は・・・・」と絶句していたのを今更思い出しました。
アブダビの長時間トランジットに加えて、こういう「おまけ」までついていたのですね。どおりでチケットが安いわけです。(ヨハネスブルグに行くのとケープタウンに行くのがほぼ同じ値段でした)
アブダビでは17時間という壮絶に長いトランジット時間のおかげで、ちゃんと観光することが出来ましたが、ヨハネスブルグは立ち寄るだけなので、たしかに時間の無駄と言えば無駄です。
まぁ、この便は私にとって夜を過ごすホテルみたいなものなので、早朝に乗り降りで起こされたりとか、ケープタウンからの出発が多少遅いぐらいしかデメリットは無いので、値段の安さを考えれば良いチョイスだったのではないかと考えることにしました。
さて、水平飛行に移りましたし、一応念のためエティハド自慢の各席モニターで確認してみますか!
って、壊れてて反応しないし・・・・
というわけで、心の中にほんの少しの不安を抱えつつ飛行機はヨハネスブルグに向けて飛んで行ったのでした。
夕飯にチキンカレーを頼んだのですが、これがまた美味しい! アブダビで作ったものだと思うのですが、日本人の口にも問題なくマッチする美味しさでした。
早く寝られるようにと本を読み始めたのですが、京成電鉄にザックを置き忘れるぐらい夢中になって読んでいた本だけあって、ここでも興奮して読み進めてしまい、結果寝る時間を削ることになってしまいました。
しかも、飛行機の中で感極まって涙を流してしまい、砂漠で目をこすりすぎたからか死ぬほど目が染みて、さらにボロボロと一人で大泣きしておりました。
旅を通して読み切るつもりで持っていった分厚い本ですが、機内で最後まで読み切ってしまったので、今後は暇つぶしの手段が無くなってしまいましたが、まぁ例によって行程には全般的に無理がある(ヒマがない)ので大丈夫でしょう。
この本については後の行程に関係しているので、そのときに改めて書きます。
読み終わってから軽く目を瞑るとすぐにヨハネスブルグの空港に到着しました。(午前5時頃)
半分ぐらいの人が飛行機から降りていきました。
すると、隣に座っていた男性がパーサーに声をかけ、
「翼の上で景色がよく見えないから、あそこの席に移動してもいい?」
と、前の方の席に移動していきました。
逆に私の横の席が空いたので、私はそちらに移動しました。
その後、すぐに眠りに落ちてしまったのですが、、、

気がつくと南アフリカの上空を飛んでいました。
空も晴れ渡っているみたいで、良かったです。

そして、定刻通り午前8時にケープタウンに到着。
イミグレーションチェックのところで長い列に並んでいたら、列の先頭付近に見覚えのある黒人女性を発見しました。例の間違えて私の横に座っていた黒人女性です。
あれ? 彼女たしかケープタウンに住んでるって言ってたような・・・・
思わず、前に並んでいたおばさんに「ここって外国人の列ですよね?」とパスポートを見せながら質問すると、その通りだという返事。そうだよなぁと思いつつ、彼女の様子を見ていると、パスポートコントロールに呼ばれる段になって、係員に何やら説明を受け、恥ずかしそうな顔をしながら、南アフリカ市民のカウンターへと歩いて行きました。
彼女は最後までおっちょこちょいなのでした。
私のパスポートチェックをしてくれたのは黒人の若い男性で、パスポートを見るなり、
「オーゥ、日本人! スズゥキィ知ってるよ~!」
って、私の本名は鈴木では無いわけですが、彼はそんな事はお構いなしに
「イナモトも知ってるよ! すごいサッカー選手だよね!」
あぁ、なるほど、サッカー選手の話でしたか。
「今回はビジネスで来たの?」
「いえ、観光です」
「グレート! 楽しんでいってね!」
と、にこやかに笑いながらポーンと勢いよく判子を押し、
「ところで、日本語で"greet"って、何て言うの?_」
と、質問されたので、
「ありがとうですよ」
と、答えたわけですが、greetって、後で考えたら、「グリーティングカード」の「グリーツ(挨拶)」なんですよね。この場合は「こんにちは」もしくはこのシチュエーションでから「さようなら」って教えるのが正解でした。
きっと、今後彼は日本人を見るたびに「アリガトウ! スズゥキィ、イナモト、知ってるよ!」と、意味不明な日本語を機関銃のように浴びせることになるのでしょうが、きっとそれは私のせいです。
すみません。

ターンテーブルで荷物を受け取り、まずは空港内の薬局を求めて探し回ります。
準備のときに書きましたが、今回キャンプをするにあたり火の確保が課題になり、いつも使っているガスカートリッジが南アフリカで簡単に手に入りそうにもなかったので、アルコールストーブを導入することにしてみました。
アルコールなら田舎町でも薬局さえあれば比較的簡単に手に入ることは、去年アルゼンチンでわかりましたし。
うろうろしているとすぐに、黒人の警備員が、「どうしたの?」と、声をかけてきました。
ブログなんかでよく読んだパターンでは、この後物陰に連れて行かれてお金を出せと言われることがあるらしいので、軽く身構えたのですが、薬局の場所を尋ねると、親切丁寧に教えてくれました。
よく見ると、警備員があちらこちらで目を光らせているようで、逆にこれで空港内は安心なんだなと認識して、ついでにATMで(背後を確認しつつ)お金も引き落としておきました。
薬局に行きアルコールを注文すると、「ここには売っていないよ」という返事。まぁ、空港内の薬局ですしね。。。
体格の良い黒人の警備員に「どこかアルコールを売ってる場所はないですか?」と質問してみると、吹き抜けの上にある店舗を指さします。
そこを見てみると、ワインとかが並んでいる店舗が見えました。
まぁ、普通アルコールと言えばお酒のことですよね。
事情を話し、純粋なアルコールが欲しいと伝えると、そういう店は空港内には無いだろうとのこと。
まだ、朝8時と時間が早いため、ケープタウンでの入手は諦め、移動中にどこかの街の薬局で入手するという当初の計画に戻します。
AVISのレンタカーオフィスは今まで見た各国のカウンターの中で一番立派な造りでした。
カウンターのお姉さんに「国境を越えるんですが、書類をいただけますか?」と、伝えると、「それなら、あちらのカウンターで」と、後ろを指さされたので振り返ると、インターナショナルレンタカーのカウンターはわざわざ別の場所にありました。(これも初めての経験)
実は車を借りるにあたり、去年のアルゼンチンでのすったもんだを思い出して、事前にメールで
「国境を越えてナミビアに行きたいのですが、私が予約したコンパクトカーでも大丈夫ですか?」
と、質問を投げていたのですが、それに対する返信は、
「はい、大丈夫です。が、、、そんな小さな車でナミビアに行くのは正直お勧めしません。普通は四駆を皆さん借りておられます」
という返信だったので、今回もカウンターで何か言われるかと思っていたのですが、何も言われずにスムーズに手続きが完了しました。
予約した車はゴルフ・ポロかそれに似た車ということだったので、すっかりゴルフを運転する気満々だったわけですが、受付で「i20」という車を指定された気がします。最初、それが車種名だとは思わずに、てっきり駐車場のナンバーを言っているのかと思って「イエス!」と答えていたのですが、駐車場のナンバーは別途教えられたので、やはり車種名か何かだったようです。
名前からしてヨーロッパ車でしょうか?

いえ、ヒュンダイの車でした。
韓国の人には申し訳ないのですが、なんとも言えないがっかり感に襲われます。
アブダビみたいに1日だけの付き合いだったらそれほど気にもならないのですが、旅のメインの相棒となる車だけに、乗っていて楽しい気分になれる車が良かったなぁ。
気を取り直して出発の準備を行います。
まずはリペアタイヤの点検。こちらは車共々新品同然でした。
さらに荷物をリパッキングし、運転中必用なものを助手席に、よく使うものを後部座席に配置した後、予め持参した黒い布で覆います。(車の外から置いてある荷物がすぐに見えないように)
ちなみに、車は5速MT車で、バックはなぜか1速の左上に中指でレバーを引き上げながら入れる変則的なタイプでした。
シフトを入れる感触が気持ちよかったのが意外でした。まさか感性エンジニアリングを取り入れているとか・・・。

そしてチャイパッドの取り付け。
(K-5を修理に出して新品交換したときに「手持ちHDR」がオフになっていることに気がつかず、ずーっとずれたままHDR撮影しておりました)
誰がどう見ても取り付け器具が逆さまだと思うのですが、この時点で本人は気づいておりません。
なぜか取り付け器具がチャイパッドの電源スイッチに緩衝するなぁ、、、ということで、右にずらして固定しているあたり、間違いに間違いを重ねた結果が掲載写真の取り付け具合です。
まぁ、舗装路を走る分にはこれで問題なかったわけです。
では、いざ出発! (予定より30分遅れて9時半)

まずはケープタウン市街を高速道路を使って抜けていきます。
正面に見えている雲を被った山がテーブルマウンテンだと思います。
この辺りの走行に関しては事前にGoogleMapのストリートビューも使いながら日本で予行練習していたので、インターチェンジを間違えることもなく、スムーズに抜けていきます。
で、i20の第一印象なのですが、驚いてしまうぐらいしっかり走りますし走らせ易いです。(排気量は1600ccと車格にしてはちょっと余裕のあるエンジンを積んでいるみたいでした)
知らないで乗ったら、「欧州車」と言ってしまうぐらいの感覚です。
少なくとも今までレンタカーで借りたり、友人の所有するどの国産コンパクトカーよりもこちらの方が上質だったりするのです。
(これより明らかに良かったと言い切れるのはプジョー206ぐらいです)
以前、スポーツカーフォーラムでRX7のFDの主査を担当された小早川さんが「韓国車がすごい勢いでクオリティを上げている」という話をされていましたが、まさにその通りだと唸らされました。
いやはや、恐れ入りました。
話を戻します。

N7号線というナミビアに抜ける主要国道に入ります。
南アフリカは元イギリス領だったこともあって、右ハンドル左車線なので、運転は楽ちんです。
標識の下にレーダーのマークが付いているのが気になります。

まだケープタウンから抜けていないので普通に信号があるわけですが、なぜか車の間を人が歩いています。

あ~、なるほど、もの(サンシェード)売りの方でしたか。
って、けっこう恐いんです、これが。(売ってる本人は慣れてるんでしょうが)

市街地を抜けると制限速度が120kmになりました。

左に工業地帯、、、

右に牧場地帯、、、

再び左は石油タンク、、、と、景色が移り変わっていきます。

さすが南アフリカ、広大な景色が正面に広がり始めました。

と、気分が盛り上がったところで取り締まり風景を発見。
レーダー標識は伊達じゃないみたいで、気分は一気にしぼみます。

ケープタウンから30分、道路は片側一車線道路になり、遙か彼方までまっすぐ続いている様が目に飛び込んできました。
ちなみにお互い時速120km出しているので、すれ違った後にすごい風圧に襲われます。

これまたUAEと同じルールで、遅い車は(速度を保ったまま)路肩に避けます。
何回か追い越したり、追い越されたりして分かったのですが、追い越し時にはウインカーやハザードを使ってお互いに会話をします。
まず、抜かれる側が路肩に避けるか、避けられない場合は前方を確認して対向車が来ていないことを右ウインカーを使って後方に居る抜かしたい車に知らせます。
すると、抜かす側はウインカーを出して車線変更を行い、迅速に追い越した後、ハザードランプで礼を伝えます。
抜かされた側はパッシングで「どういたしまして」と返信して一連の儀式が完了します。
なんとまぁ、気持ちの良い追い抜かしなんでしょう。日本もこんな分化だと良いんですけどね~。
すくなくとも追い越し車線が戦争状態だったUAEとは偉い違いです。
ちなみに、南アフリカは金持ちな方が多いのか、高級ヨーロッパ車にバンバン追い抜かされましたので、私は路肩によける側になることが多かったです。

そんな感じで、気分良くN7号線を北上して行きます。

いや、しっかし、すごい規模の牧場ですね~。

ケープタウンから約1時間、マームズベリー(malmesbury)という街に到着しました。
N7号線は街中に入らずそのまま脇を通過してしまうみたいだったので、薬局を求めインターチェンジを降りて街中へと入っていきます。

トヨタの立派なディーラーがあるところをみると、街の規模もなかなかのようです。

薬局に立ち寄る前に、左前方に見えているスーパーで水を調達しておくことにします。
しかし、この街の治安レベルがどんなもんなのか想像がつかず、駐車場に荷物満載の車を置いて置いてよいのかどうかもよくわかりません。
スーパー専用の駐車場の木陰には何をするわけでもない男性が座っていたりするので、ちょっと心配になったのですが、一応警備員らしき人も居たので(その人が窃盗をしないとも限らないのですが)、水を買うだけと決めて、素早く店内に入ります。
5リットルは入りそうな大型のペットボトルを2本購入し、つい試しに「アルコールは売ってませんか?」と、店員さんに確認したところ、案の定ワインコーナーやら別店舗の酒屋さんを案内されてしまいます。
一旦駐車場に戻り、車上荒らしにあってなかったことに安心してから、日本に居るときにGooglemapで検索しておいた薬局を求めて街中をうろつきます。
この街はGoogleストリートビューの撮影範囲になっていて、それで確認した結果、Googlemapに登録されている場所(住所)そのものに薬局は無く、現地で改めて探さなければならないと考えていたので、ゆっくり運転しながら薬局を探します。

探すこと5分、薬局の文字を発見して大喜び。
少し離れた安全そうな路上に車を停め、店内を少し探してみます。
しかし、アルコールが見あたらなかったので日本で言うところの処方箋コーナーの列に並びます。
前の人の会話を聞いていたら、どうやらアフリカーンス語(私にはドイツ語っぽく聞こえたのですが)で話しているみたいです。
英語が通じるか不安になったのですが、問題なく通じました。
通じたのは良かったのですが、なんと驚いたことにアルコールは売っていないとのこと。
計画よりも時間が遅れ気味なことに加えて、あまりに予想外の返事に面食らってしまい、他に売っている場所を質問することもせずに、慌てて店を飛び出してしまいました。
道をたまたま歩いていたおばあさんに声をかけたのですが、無視されてしまったので、しつこく食い下がって「薬局を探して居るんですが」と英語で質問をしてみると、ようやく足を止めてくれて、「坂を上がった先にチェッカーズというスーパーがあってそこなら売ってるんじゃない?」と教えてくれました。
言われたとおりに早歩きでスーパーに向かうと、ちょっと危ない雰囲気の道に入ったので心の警戒レベルを引き上げたのですが、おじいさんがギター片手に弾き語りをしていたりとのんびりした雰囲気だったので、ひとまず警戒レベルを元に戻して歩き続けます。
チェッカーズを見つけて、店内の従業員さんに尋ねたところ、やはりお酒コーナーに案内されてしまいます。
事前の調査では今日の行程で通過する街の中ではここが最大級で、ここで手に入らないのなら他の街での入手はさらに困難であることが予想されます。
こりゃぁ、困ったと思いながら車に戻って再び薬局探しを再開すると、インフォメーションの看板が出ていたので、そこに入ることにします。
若い白人女性が対応してくれ、「アルコールが欲しいので酒屋ではなくて薬局を紹介して欲しい」とお願いすると、「ギアード」という薬局があることと、そこへの行き方を丁寧に教えてくれました。さらに観光客向けのタウンガイドマップもくれました。
教えてもらった場所に向かうと、ギアードでは無いのですが、ホームセンターのような店があったので、試しに入ってアルコールは売ってないか尋ねてみます。すると、ここも取り扱ってないという返事に加えて、ギアードの場所を尋ねると、「あそこも売ってないんじゃないかなぁ。アルコールなら、こっちの店の方が取り扱ってそうだけど」と、別の店を紹介されます。
その紹介された店に出向いてみると、そこは自動車関連のお店のようで、たしかにホワイトガソリンなどの燃料も並んでいます。
黒人男性の従業員に尋ねると、英語だかアフリカーンス語だかわからない言葉で答えが返ってきたのですが、雰囲気で取り扱っていないことはよくわかりました。
そこに店主と思われる白人のおばさんが登場し、堂々としたアフリカーンス語で(というかドイツ語風の言語、いずれにしろ意味はわからないのですが)、何やら売ってそうな店の場所を教えてくれました。
雰囲気で道順はわかったので、さらにその店に出向いてみます。
そこは(予想通り)店内が暗い雰囲気の酒屋さんで、店員さんは中国人と思われるアジア系のおばさんでした。
これじゃ、無限ループだとようやく諦め、緊急時には高濃度のお酒が燃料の代用になると誰かがブログに書いていたのを思い出し、そのおばさん店員さんに「一番アルコール濃度の高い酒はどれですか?」と質問してみると、750ml入りの透明な瓶を取り出し、「これは96%よ」とウォッカを渡してくれました。
さすがに燃料として750mlは多いのと、値段も2000円近くと高かったので、もっと小さい瓶は無いのか質問したのですが、これしか無いとのこと。

と、言うわけで1時間近く街中を駆け回って、96%ウォッカを入手したのでした。
でも、これ、96って数字では書いてあるけど、本当にアルコール度数96%なんでしょうか?
まぁ、とりあえずアルコールを手に入れたので、先に進むことにします。
街を脱出すべく車で走っていると、視界の片隅に「ギアード」という文字が目に入ります。
たしか、インフォメーションの女の子が教えてくれた店の名前で、確かに薬局と看板が出ています。(間違えて入ったホームセンターような店の50m程先)
今後の参考になるかと思い、店内に入ってアルコールを注文すると、あっさりと90%濃度の消毒用アルコール(たぶんメタノールが混ざっているらしく「Don't Drink」と表示されていました)が、100ccぐらいの小瓶を200円強で手に入りました。
冷静になって考えてみると、日本に居るときにGooglemapで調べてプリントアウトした紙に記載されている薬局第一候補は「ギアード」で、その場所もまさにここが指定されていました。
ストリートビューに(撮影場所が悪くて)お店が写っていなかったので、てっきりここに薬局は無いと思いこんで、自力で探し始めたのが大失敗でした。
まぁ、それはともかく、当初の計画より2時間近く遅れてしまったので、先を急がなければなりません。

ちなみに、その当初の計画とは何かと言いますと、本日中にケープタウンから700km北にある、人の住んでいない大自然(かつ世界遺産登録エリア)まっただ中で車中泊するというものでした。
ですから門限があると言うわけでは無いのですが、日が落ちる前に寝床(車を停める場所)を確保しておきたかったのです。
最後の数十キロはダートロードですし、大自然まっただ中までたどり着けなかったとすると、中途半端に人の住んでるエリアで車中泊するのはあまりに恐かったから急いでいたわけです。
で、今はケープタウンのちょっと北、マームズベリー(★の場所)に居ます。

車中泊なんかしなくても、今回立ち寄ったような、それなりの規模の街なんかにはオーストラリアでよく見かけた「キャラバンパーク」とかキャンプ場があるみたいなのですが、明日以降の計画も考えると、どうしても今日の内に予定の場所まで進んでおきたかったのです。

というわけで、水とアルコールの確保という本日最大の用事も済ませたので、早速張り切って北上します。

レストスペースのサインもオーストラリアと一緒のような気がします。

そして、サイン看板そのまんまの見た目のレストコーナーなのが、なんか微笑ましかったです。

牧場のまっただ中をひたすら北上していきます。

たまにアクセントになるように違う景色が登場します。
ここはトンネル作るより、削った方が速いという感じで道が造られています。

広い空に綿雲が浮かぶ感じが大好きです。

お~、南アフリカにもランナバウトがあるんですね~。

そして、広い空の下をゆったりとくねる道をひたすら北へ北へと走って行きます。

お、なんか山間部に入ってきました。

ちゃんとした峠道もあるんですね!

ひさしぶりの「ちゃんとしたカーブ」に気分が高揚します。
i20ですが上り坂は1600ccのエンジンと言うこともあり、けっこう力強く駆け上がっていきます。
ちなみに制限速度は100kmです。(日本の常識、世界の非常識)

やはり峠道は良いですね~!
i20はさすがに「走って楽しい!」というレベルには達していないのですが、狙ったラインにはきちっと乗せていけます。
去年アルゼンチンで借りたルノールーテシアと同じぐらいのレベルでしょうか。
峠を越えて下りにさしかかると、制限速度は80kmに落ち、ついでにトラックを先頭にした車の列に捕まってしまったので、チンタラ(時速70kmぐらいでしょうか)下ります。

そうそう、N7号線は「ケープ・ナミビアルート」という、そのまんまの名前がつけられているのでした。

窓を閉めてエアコンつけっぱなしで走っていたので気がつかなかったのですが、外の気温はいつの間にやら35度になってました。

お腹が空いたので、道路脇にあったガソリンスタンド併設のキオスクでファーストフードでも買おうと思って立ち寄ったら、なんとびっくり、何も売ってなかったので、仕方なしにビーフジャーキーとジュースを購入しました。(400円弱、ビーフジャーキーがちょっとお高い様子)
奥に写っている車はエンジンに水をかけて冷やし中の様子。
この後、道中でしょっちゅうこんな光景を見かけました。(古い車で気温40度近いエリアを走るので、すぐにオーバーヒートしちゃうんでしょうね)
ビーフジャーキー、汗すらかいてない時につまむとしょっぱいですね~。。。

ダンプ通行注意という意味でしょうか。(ダンプと言えば
komatsu?)
その奥に見えている山も広角レンズなので小さく写ってますが、実物は巨大なナイフみたいな美しい山でした。

どうも、山間部を起点に雲が沸き上がるってるみたいです。

両サイドが山岳地帯なので、ちょうどそこに雲があって、道路の上だけ晴れているような状態です。

お、レストスペースを使ってる人が居ました!
車についている車外温度計は37度になってます。
そりゃぁ、日陰じゃないと休めないですよね。
試しに窓を開けてみたら熱風が吹き込んできます。
オーストラリアのアウトバックを思い出しました。
(当然のことながら3秒で窓を閉めました)

120km制限のN7号線の場合、道が街中に入り込むことは(ケープタウンを除き)一切無く、1カ所か2カ所の交差点を通じて街とつながっています。
その交差点が近づくと、制限速度は100km、そしてすぐに80kmと立て続けにサインが登場するので、きっちりとブレーキを踏まないと減速が間に合いません。

内陸側に迫力満点の山岳地帯が登場したのですが、標高が高いからか、雲の量も多めのようです。

お、右前方にブドウ畑が見えてますね。(南アフリカはワインの産地なので)

お~、これはすごい景色!

常時時速120km、平均時速100kmぐらいで旅の計画を立てていたのですが、トラックが先頭で車の列を作っていたり(写真)、80km制限の場所があったりで、実はそこまでのペースは出ないのだと思い始めました。
こりゃぁ、日の入りまでに到着は間にあわないんじゃないかと思い始めました。

でっかい池があるなぁと思っていたら、ダム湖でした。 (Bulshhoek Dam 振り返りつつ撮影)

直線に入ると、トラックが右ウインカーを出して知らせてくれているので、それを信じて抜かしていきます。

頭に荷物を載せている人が居るだけで「アフリカ!」って感じがしますよね。

こんな、2連結になってるトラックも多いので、抜かすときは気合いと根性と長い直線が必用です。

N7号線はきちっと整備されてますね~。
本当に走りやすいです。

こんな人工的な用水路もあるんですね。
そして、ふと気が付くと、先ほどまで途切れることなく浮かんでいた雲がきれいさっぱり無くなり、周辺の川が干上がっていることから想像できるのですが、乾燥地帯(砂漠・半砂漠)に突入したみたいです。

どうやら、このあたりで両サイドに広がっていた山岳地帯が一旦終わるようです。
ケープタウンから280km、ガソリンも半分切って来たので、道路沿いのスタンドに立ち寄ります。
こちらは日本と同じフルサービスなので、「アンレーデッド、フル」(レギュラー満タン)と、お願いすると、あとは窓ふき含めて全部やってもらえます。(お礼はチップで1$=12.5円)
ガソリン価格は日本円でだいたいリッター100円前後で2000円ほどかかりました。ということは、i20の燃費はだいたいリッター14~15kmぐらいかなという感じです。
ちゃんとした昼飯をまだ食べてなかったのでキオスクに入ってみましたが、天下の(というか石油流出でその名をとどろかせた)BPなのに、スイカとか野菜は売ってるのに、気軽に食べられるものは何も置いてませんでした。
う~む、もしかしたらガソリンスタンドで食料を調達するという計画は見直したほうが良いのでしょうか・・・
ガソリンを入れた後、再びN7号線を走っていたところ、ちょうど次の街の入り口に差し掛かって制限速度が80kmの看板が出た直後にすれ違った乗用車が激しくパッシングをしてきたので、なんだろうと思いながら運転手の方を見ると、50代ぐらいの白人ドライバーがハンドジェスチャーで「スピード落とせ!」のサインを送ってきます。
ちょうど丘を越えて下りにさしかかったので、いつもより強めにブレーキを踏みつつ、ちゃんと80kmを切ったことを確認しながら下っていきます。すると、坂を下りきった反対車線の木陰に案の定パトカーが目立たないように停まっていて、よく見てみると、二人の警察官が三脚の上にレーダーを置いて、こちらを狙ってました。
南アフリカやナミビアは取り締まりが多いとは聞いてましたが、本当にそのようです。
下り坂でブレーキが余分に必用な場面だったので、先ほどの乗用車に感謝です。

これが典型的なN7号線と街に入る道との交差点です。
どの街の交差点でも必ずと言っていいほど、ヒッチハイク待ちの人が待機していて、手を上げて合図を送ってきます。(写真は対向車線側待ちの方々)

山岳地帯が終わり、正面に地平線が広がってきました。

山岳地帯とお別れ記念に振り返って撮影。
広角レンズで写しているので小さく写ってますが、すごいスケール感です。

いやぁ~、本当にどこまでもまっすぐです。

あれ? レストコーナーのサインが変わりましたね?

あ、屋根の形は違えども、本当にサイン通りなんだ。
まぁ、たしかに木も生えなさそうなエリアですしね。

似たような「まっすぐ道路」の写真が続きますが、実際現地でも延々とまっすぐな道が続いております。

そう言えば、この黄緑色の灌木、オーストラリアやアルゼンチン(いずれも乾燥地帯)で見た気がします。その昔ゴンドワナ大陸時代に一つの大陸だったみたいですしね。

お~、カーブが来ましたよ~。
(すごくRのゆるいカーブなのですが)
すでに16時をまわったということもあるのでしょうが、気温は30度まで下がってきました。

あの石の積み方は
オーストラリアのデビルズマーブルズのエリアに似てますね。

日本にあんな場所があったら、有料道路だのお土産コーナーとかにょきにょき出現しそうですが、ここにはまずもって人が居ません。

いやはや、すごい眺めです。

どうやらちょっとした峠道に入ったみたいです。

転がっている石も車と一緒に写さないと大きさがわからないですよね。

あの、右のフランシスコザビエルの頭のような山がなんとも言えない味があります。

いや~、すごいなぁ。
巨大な一つの岩になっているのでしょうか?

お! あれは!! (前方右手岩の上)

猿が居ますね~。
(なぜか立ち止まらずに素通り)

緊急事態のときの連絡先でしょうか? (日本で言うところの110番とか119番)

ケープタウンから570km、スプリングボックの街までやって来ました。
最後の大きな街なのですが、ここはN7号線からは降りずに素通りします。

アロエの木(ちょっとわかりにくいですが、右の方に写ってる頭が丸っこい木)をちらほら見かけるようになりました。(
Aloe dichotoma)

スプリングボックから北のエリアは岩と低い山が広がるエリアでした。

本日の行程では本当の意味での最後の街となるステインコフが見えてきました。

そしてステインコフの左奥(写真では右側)に見えている大地が本日の目的地、リフタスフェルトです。

ガソリンと食料調達のためにステインコフに立ち寄りました。
BPのスタンドは事前情報からクレジットカードが使えると思っていたのですが、BP指定のクレジットカードじゃないと駄目だとの事。 だとすると、今回の行程では毎日ガソリン代で数千円ずつ現金で飛んでいくので、思っていたよりも早い段階で空港で下ろした現金が底をつきそうです。
とは言え、多額の現金を持ち歩きたくもなかったので、この時はお金を下ろさないことに決めました。
24リットル入れて2500円
次に食料の調達です。
ここのBPには売店すら併設されていなかったのですが、幸いスタンドの向かいがスーパーです。

というか、なぜ皆さんそこでたむろしているのでしょう・・・・
ここには恐ろしくて車は駐車しておけないと思い、一瞬他の場所にしようと思って少し走ったのですが、この街にはここしかスーパーが無いみたいなので、意を決して戻り、皆さんが見下ろしている正面に車を停めます。
実際、間近で皆さんの顔を見てみると、そんな悪さをするような方々には見えなかったので、ひとまず警戒レベルを引き下げて、入り口に向かいます。
お店に入ろうとしたところで、入り口付近に居たお爺さんが手を差し出してきたのですが、それは無視してそのまま店内に入ります。
オーストラリアのグレートセントラルロードにあったような店内にも鉄格子があるような物々しい作りでもなかったので、さらに警戒レベルを引き下げて普通に買い物モードに入ります。
店内で適当に物色し、食パン、ハム、ジュース3本を購入しました。(なんか、ピンとくる食材が無かったのです)
さて、ひとまず準備も完了したので、リフタスフェルトエリアに向かうとしますか。
って、どうやって行くのでしょう?
チャイパッドには南アフリカとナミビアの全てのエリアの道路をあらかじめ登録していたのですが、この街の詳細図は登録していなかったので、さっぱりわからなくなってしまったのです。
先ほどガソリンを入れてくれた若い黒人のお兄さんにリフタスフェルトの行き方を尋ねてみた所、そもそもリフタスフェルトを知らない様子。
(というか、wikipediaではリフタスフェルトって書かれてますが、Googlemapではリシュテルスフェルトになってますし、人によってはリヒタースフェルトになっていたので、ただ単に私が発音を間違っただけかもしれません)
なので、シンプルに「ナショナルパーク!」って言ってみたら、「あぁ、ナショナルパークならこの道まっすぐだよ」と教えてもらえました。

では、いざ行かん、リフタスフェルト! (18時)
しばらく走ったところで、峠道に入りました。

ここ、声が出るぐらいすばらしい景色だったのですが、写真ではその魅力をまったくお伝えすることが出来ません。

どうしても、遠くにある低い山がただの丘ぐらいに見えちゃうんですよね~。
火山性では無いのですが、志賀草津道路とか磐梯吾妻みたいな荒涼とした景色がカーブを抜けるたびに目の前に現れると言ったら想像してもらえるでしょうか。
あと、道のナンバーがR382号線とローカル路線になったからでしょうか、すれ違う車の運転手が手を挙げて挨拶してくれます。

ステインコフから約50kmほど西に走ったところで北に向かうダートロードに入り、いよいよリフタスフェルトに向けて走り始めます。

観光ガイドによると、このエリアの道路は(1)四駆専用、(2)車高の高い車専用、(3)セダンでもなんとかなるダートロードの3種類に別れていて、この道は当然のことながら(3)セダンでも走れるダートロードです。
尖った石が転がってる道だったら嫌だなぁと思っていたのですが、とりあえずは快適です。
制限速度は写真に写っているとおり80km。

けっこう砂煙が舞い上がるので、窓を開けて走るわけにはいきません。
って、窓を閉めてもなぜか車内が砂っぽい感じがします。

カーブも緩いし、ちゃんと看板が出てるので安心して走れます。

高さは低そうですが、山が近づいてきました。

撮影ついでに付近を散策してみると、そこは「多肉植物」の宝庫なのでした。

種類とかはさっぱりわからないのですが、見た目にも珍しい植物がいろいろ生えています。

アフリカ大陸南部の西海岸には寒流のベンゲラ海流が流れていて、その影響で雨はほとんど降らないけど早朝霧がかかるという環境になり、それに適応した生物が彼らというわけだそうです。
今、まさに夏真っ盛りなのですが、日によっては気温50度を越えるんだとか。

私が立っている地点はまだ違いますが、ここに暮らしている放牧民の方々の昔ながらの生活ぶりと、このきわめて特殊な植物による景観がセットで2007年に世界遺産に登録されたそうです。
リフタスフェルト - Wikipedia
旅の計画を立てているときに南アフリカの世界遺産というキーワードで検索してここを発見したのですが、「日本人でここに来たことがある人」はまだまだ少ないみたいで、日本語で書かれた情報がさっぱり手に入らなかったのですが、出発直前に別の調べ物をしているときに偶然植物マニアな若い方がここを訪れたときのレポートをブログに書いているのを発見し、その方が感動したという場所に急遽目的地を変更して走っているわけです。
なんせ、日本語、英語含めて予備情報が少なかったので、広い敷地内のどこが見所で、セダン(コンパクトカー)でどこまで入り込めるかさっぱりわからない中、そのブログは大変貴重な情報源になりました。
帰国後に確認のために調べ物をしている時に、2002年頃にツアーでこのエリアに入っている人を発見しましたが、その方はバスで移動しながらエリア中央を流れるオレンジ川をカヌーで下ったみたいで、私の車移動中心というスタイルとは重ならない感じでした。いずれにしろ、日本語でこのエリアのことを書いている人は私が調べた範囲では二人だけです。(世界遺産登録地なのに)

お、対向車だ。
お互い手を挙げて挨拶しながらすれ違いました。
(この道で3台の車とすれ違ったのですが、皆挨拶をしてくれました、バイクの北海道ツーリングみたいな感覚です)

廃タイヤが道の真ん中に・・・
恐ろしや~。
(まぁ、N7号線みたいな整備された道路でもチラホラ落ちてはいたのですが)

このエリアではGoogleMapがアテにならなかったので、衛星画像を使って現在地を確認しております。
ただ、これだと道路がどこにあるのか確認するために、画面に顔を近づけて凝視しないとならないので、迷ったら車を停めて確認するというスタイルになります。

そして、道路が洗濯板状態になったところで、案の定チャイパッドは斜めに外れて床に転げ落ちたのでした。
以後は再取り付けせずに助手席に転がしておきました。
どうせ画面を凝視するなら固定されていない方が楽ですし。

ダートロードに入ってから60km、そろそろ右に分岐が登場するはずなのですが、さすがに写真の道は違うだろうとチャイパッドで確認。
やはり、もう少し先のようでした。

こちらが正解の分岐。
ちゃんと目的地の「ルーイバーグ」の案内看板が出ていました。
ちなみにルーイバーグとは赤い山という意味らしく、日本風に言えば赤岳って感じになるのでしょうか。

正面に見えているのがルーイバーグのようです。

世界遺産登録エリアの境界まで来ました。
注意書きの看板が出ています。

うわぁ、だんだん道の状態が怪しくなってきました。

まぁ、しかし、なんとか日没前に寝床は確保できそうです。

地下水を汲み上げる風車がありますね。
って、ことは、こんなところに人が住んでいるんでしょうか?
ルーイバーグの脇に宿が一軒あるのは知ってますが、ルーイバーグはまだ先にありますし。

なんてことを考えながら走っていたら、突然轍が深くなり、内心冷や汗をかきながら、勢いだけで前進していきます。
こんなところで亀の子になったら洒落になりません。

深い轍の場所を抜けると、今度は突然小さな小屋とゲートが登場しました。
あれ? こんなゲートがあるんだっけ?
ゲートの前に車を停めて、建物の様子を伺おうと車から降りると、小屋の奥から大きめの痩せた犬が一匹全速力で走ってきます。
別に襲われる気配は感じなかったので、そのまま突っ立っていたら、その犬は勢いを殺すことなく突っ込んできて、目の前で立ち上がり両前足で私の胸を「ドーン」と突き飛ばしました。
すると、今度は建物の方から男性の声が聞こえ、それに反応して犬はそちらに走っていきました。
建物から出てきたのは60歳~70歳ぐらいの白人男性で、まっすぐこちらに向かって歩いてきます。
笑顔で挨拶しながら、明日の朝にルーイバーグに登りたいことを伝えると、
「じゃぁ、まずは車を中に入れたら」
と、逆に提案され、、、

ゲートを開けてもらいました。
まぁ、なんか左を迂回すればゲートも何も関係無い、しかも鍵すらかかってなさそうではありますが。

中にはいると例の犬が前に飛び出してきて、前輪に突っ込んでくるそぶりを見せますが、これはオーストラリアで経験済みの犬特有の遊び方なので、無視して前進します。
車を停めてからおじさんにいろいろ話を聞いてみることにします。
2kmほど先に見えている赤茶色の山を指さし、
「ルーイバーグって、どこから登った方がいいのでしょうか?」
と、質問してみると、

「君、ルーイバーグ(Rooiberg)はこっちの山だよ」
と、写真に写っている目の前の山を指さされます。
たぶん、このとき、私の顔はルーイバーグ並みに真っ赤だったと思います。
「え? あれがルーイバーグ?」
「そうだよ」
「じゃぁ、もしかして、ここって
ルーイバーグゲストハウスですか?」
「その通り。あれが宿だよ」
と、車を停めた場所からさらに50mほど奥に建っている母屋を指さします。(写真左奥)
言い訳する訳じゃ無いですが、今(撮影時)でこそ夕日を浴びて赤く染まってますが、最初に見たときは黄土色の山だったんですよ。
で、奥に赤茶色の山が見えていたので、てっきりそっちがルーイバーグだと思いこんでいたんですよね。
「今日は夕食の準備は出来ないから、素泊まりでいいの?」
「えーっと。。。」
私は宿に泊まる気は毛頭無く、宿の手前で車を停めて車中泊をしゃれ込もうと計画していたわけです。
それは宿代をケチりたいというのがメインの目的ではなく、単純に車中泊とテント泊で旅をしてみたいということだったわけですが、宿の主にそれを直接説明することになるとは予想しておりませんでした。
「えーっと、今日は車の中で寝たいのですが」
「え? どうして?」
「車の中で寝るのが好きなので・・・」
私のボキャブラリーではこう言うしかなかったのです。
少しの間だ私の顔を不思議そうな顔で見ていたおじさんは、おもむろに
「君、中国人?」
と、尋ねてきたので、
「いえ、日本人です」
と、答えると、
「日本人? 君、ケンタウロを知ってるか!?」
「ケンタウロ・・・・、いえ、知りません」
(最初、なんでケンタウロスのことを尋ねられるんだろうと思いました)
「何年か前にケンタウロという日本人が君みたいに一人でやってきて、あそこ(駐車場の道路挟んで反対側の空き地)でテントを張って一晩寝て、次の朝ルーイバーグに登ったんだよ」
「それって、ケンタローじゃないですか?」
「そうそう、ケンタローだった!」
「私、たぶんその人のブログを読んだから、ここに来たんです」
帰国後調べてみたら、メアドがおもいっきり同じ名前でした。その人もブログに宿の空き地にテントを張らせてもらったと書いてありました。
まぁ、いずれにしろ、日本人は宿に泊まらない変な人種と思われたことでしょう。
ひとまず、今更ながら自己紹介しました。(おじさんの名前はベルディさん)
「入場料(キャンプ代?)が必用なんだ。トゥエルティダラーもらえるかな?」
(南アフリカ貨幣の国際標記はZAR(ランド)ですが、現地ではドルと呼ぶ時もあります)
「トゥエンティダラーですか?」
「いや、トゥエルティーダラー、、、」
と、いいながら地面に指で「30」と書いてくれました。(400円弱)
トゥエルティって発音するんだ。(聞き間違いかもしれません)
財布の中から50ランド紙幣を差し出すと、
「じゃぁ、君に20ドルの貸しね」
と、いいながらベルディさんは紙幣を受け取りました。
当初の質問に戻します。
「ルーイバーグって登山道はあるんですか?」
「無いよ。でも、どこからでも登れるよ」
やはり、そうでしたか。
一応事前に取り付く尾根は見繕っていたので、そこから登ることにします。

写真はゲート脇の小屋(ベルディさんが寝泊まりしている場所)に住み着いている子猫。
すごく癒されました。

小屋の中でお釣りの20ドルを返してもらいつつ、壁に貼られたポスターを二人で見ながら、あれこれ話をします。
驚いたことにベルディさんがここで宿を始めて17年間、雨がほとんど降ってないのだそうな。
もし、雨が降れば、その後にたくさんの花が咲くのだそうです。
(ここから200kmほど南に乾期の終わりを告げる雨が9月ぐらいに降ると、その後にすさまじい花畑になる場所があって、そちらは(ヨーロピアンには)有名な観光地です)
「ベルディさんはなぜここに宿を出したのですか?」
「エクスティンフォンティーン(ここから15kmほど離れた場所にある村)にも宿があるけど、あちらは五月蠅いよ。そして、ここはとても静かなんだよ」

たしかに。
二人がしゃべってない瞬間は鳥のさえずりが風に乗って少し聞こえてくるぐらいです。

ベルディさんが宿の方に行ってしまった後は、一人静かに夕焼けに染まるルーイバーグを眺めておりました。
さて、暗くなる前に夕飯の準備でもしますか。
車の運転席に座り、ひとまず目に付いたGPSロガーの電源を落とそうとすると、なぜかまともに動作しません。あれこれ悪戦苦闘をしていると、さきほどの犬(ブレッシー、雌犬だそうです)が開けていたドアの隙間から顔を突っ込んできて、床に落としたまま放置していたビーフジャーキーをバクっと丸呑みしたので、こりゃまずいと思いドアを閉めました。
再びGPSロガーの操作を始めると、突然窓ガラスをブレッシーにバシンと叩かれてびっくりしたのですが、その後は無視して、最後は強引にGPSロガーの電池を引き抜いてしまいました。
(その結果、本日分のログデーターがまるまる吹っ飛びました。そんな日が数日あったので、今回の旅のGPSログは歯抜けになってしまいました・・・)
さて、夕飯の準備をするために、まずはアルコールストーブをセッティングするわけですが、、、

車の外に出たとたんブレッシーに絡まれまくり、それどころじゃありません。
頼みの綱のベルディさんも宿の方に行っていて居ませんし、私が口で強く命令しても完璧に無視されます。強引に押し倒してみても手を離したと同時に飛びかかってきます。
押し倒した手に軽く噛みついてくるので、どうやら彼女は私のことを群れの新参者と認識しているらしく、ランクが上か下か白黒つけたいらしいのです。
こういう時は容赦無くこちらが上であることを相手に伝えなければならないのですが、先ほどまで仲良く話していたベルディさんの飼い犬を、飼い主が見ていないところで「キャン」と鳴かせる決心がどうしても出来ずに、押し倒しては手を放した瞬間に飛び掛られることを繰り返しておりました。
絡まれながら気がついたのですが、いつの間にかTシャツの胸の辺りだけ砂だらけになっていたのは、車の中に砂が入り込んだからではなく、ここに到着したときに砂だらけのブレッシーの前足アタックを受けたから付いたのであって、そして今なお確実にブレッシーの前足判子が増え続けているではないですか。
どんどん汚れるTシャツを見てついに我慢の限界に達し、どこか彼女の到着できないところまで移動しようと決めて車に乗り込み、切り返しながら方向転換しているときに、宿の方からベルディさんが歩いてくるのが見えました。
どうやら一部始終(後半戦?)を見ていたらしく、「ごめん」と一言謝ると、手に持っていた肉がまだ少し残っている骨を金網で囲われた柵の中に放り込み、それを追いかけてブレッシーが入ったところで柵を閉めてくれました。
これでようやく、静かなルーイバーグの夜になりました。
(ブレッシーはしばらく文句たらたら鳴いておりましたが、彼女の視界に入らないよう車の反対側に移動したら15分ぐらいで静かになりました)
ベルディさんは改めてブレッシーの非礼を詫び、
「私は小屋に戻って寝るよ。夕飯の準備、早くしないと暗くなっちゃうよ。本当に宿に泊まらなくて大丈夫?」
と、声をかけてくれたので、
「大丈夫です。じゃぁ、夕飯の準備を始めますね。おやすみなさい」
と返事をすると、小屋の中へと歩いて行きました。
つづく