2012年05月02日
職業柄、事故事例の分析はどうしてもしつこくなりますな。
当初からの疑問や疑念がずいぶんクリアになってきたかな、と。
①「不明瞭で意味不明なアナウンスだった」
運転手が中国出身で、日常会話程度はできるが事情聴取には通訳を要する状態という。疲労で朦朧とした状態になり、前後不覚のようなアナウンスになったのではないかと推察できる。
②「上越JCTで北陸道を直進し、長岡まで行ってしまった」
休憩したSA・PAを覚えていないなど、経路中の地名すら理解できていなかった。特別監査では点呼簿や運行指示書に不備があったといい、不慣れどころかほとんど手探り状態の運行だったことが読み取れる。
③「大型二種免許取得は2009年7月」
吹田スキーバス事故は21歳、大型二種取りたてのヒヨッコ。今回はそれよりはマシだが、取得から3年も経たない運転手が長距離夜行を単独で担当すること自体常識外。事業者にもよるが、普通は路線バスなどで最低5~7年の運行経験を要する。昔、東武バスの乗務員に聞いた話ではもっと厳しかった。
④当該車両が突入したガードレールと遮音壁は、継ぎ目に10cmの隙間が生じる旧式の施工
今回の事故で最も不幸なポイント。ほんの僅かな段差が鉋の刃のように作用し、90km/h以上の車速も災いして車体全長の80%にも切り込む致命傷となった。46名の乗員乗客数からすれば、もっと犠牲者が多くても不思議ではない状況だったことが分かる。
ここまで事故のデータが明らかになると、まさしくこのバスは「陸上のタイタニック」だったといえましょう。
就役・喪失100年にして45000トンを超える巨大客船・タイタニックはしかし、羅針盤と六分儀による帆船時代そのままの航法システムしか持たず、同様にクラシカルで優美なデザインのしわ寄せが舵の有効面積を小さく制限し、その動作機構を非効率なものにしていた。針路の監視は見張り員の肉眼頼みで、非常事態を知らせた第一報は打鐘だった。
先日乗ったレガシィD型はEyeSight搭載車で、路側帯をはみ出した自転車を避ける際にはレーンキープアシストも当然作動していた。ミリ波レーダーによる衝突警報システムも、リリースから10年余り経つ。高コストかつ軍事技術を含む為に普及が進まないが、レジェンドのナイトビジョンも危険予測には有効性が高い。
かくして、クルマ自身が「見る」「予測し、判断する」「運転者に危険を通知する」能力を与えられて、安全性はいまだ日進月歩の向上を見ているが、こういう装備は大型車にこそ普及を進めるべきではないか。
メーカーによっては、「知らせても寝られちゃ無意味」と、運転者の目の開き具合を監視する居眠り警告機能も実用化しているし、航空機や鉄道車両では意識低下を検知して操縦桿・操作ハンドルに強い振動を与える「デッドマン装置」も用意されている。
今回のようなケースでは例えば、運転者の操作状態(不意の修正舵や急制動などが増加傾向にあるなど)、車両挙動をモニターし、「トランジェント」と判定される場合にはエンジン出力を絞るとか、GPSデータから最寄りの高速隊に救援要請するとかのシステムがあれば、と思う。
運転者の操作が前提だが「ヘルプネット」は実用化されているし、1台2000万円からのオーダーになる大型バスでは、仮にシステムコストが2・30万円であれば微々たるものだろう。
しかし、それすら難しいのがツアーバス業界の現状ではないか。かねてから指摘される催行業者のダンピング圧力は今なお横行しているし、総務省の勧告を国交省が放置するなど監督機能も麻痺。
かくして、「安全は安くない」という現場の訴えは、サービス競争にかこつけたコストカットのチキンレースに掻き消されてしまうのでありました。
…トランジェントって、ピーター・ハクソーゼン/R.アラン・ホワイト/イーゴリ・クルジン「敵対水域」では「異常事態」で使っていたんですが、軍事用語なのかなあ。
「艦長、こちらソナー!異常事態です!レッド2のサイロに水が入っています!」
「サイロか、それとも魚雷管か!」
…
Posted at 2012/05/02 19:30:13 | |
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