
ここ数年の変な風潮ですが、映画や小説のせいですかね。
やたら「零戦=零式艦上戦闘機」「大和級戦艦」を持ち上げちゃあ「ニッポンまんせーい」とやりたがる輩がハナにつく。
ある出版社からくるメールにも
こんな文面が踊る始末。
はっきり言った話、日本に零戦と大和が無かったならば
日本は敗戦国にゃなってないですよ。
零戦が当時最強?確かにね、あの当時(1941年12月〜1942年7月)はそうだったかも知れません。しかしながら、零戦の大元を辿ると、
元来量産・搭載できるエンジンが1000馬力級の「栄」しかない→
一撃必殺の重たい(そして命中率の悪い)20mm機関砲を積み、洋上作戦に求められる長大な航続距離を実現するため軽量化を徹底→
余りに駄肉を削ぎ落とした設計故に性能向上の余地がほとんど無く、排気圧力を推進力に加える涙ぐましい対策までしなければならなかった。
成り立ちだけでなく運用面でも、零戦は自縄自縛の呪いでした。
当の使用者である海軍が、育成が進まず減る一方の熟練操縦者を前提とした、「一騎当千の格闘戦術」に執着し続け、「高速・重武装・一撃離脱」の編隊戦闘思想に移行できず、より大型で重量のかさむ後継機「烈風」の要求性能に「機動性能で零戦を下回らない」という文言が入る始末。
これは、前述の機関砲が伏線にあるんですね。
「命中率の悪い」「弾道が直進しない」機関砲を当てるためには、敵を至近距離まで追い回さねばならない。猛訓練で熟達した「空のサムライ」ならまだしも、航空学生上がりの新兵にはとても扱えないシロモノにならざるを得ない。
結局零戦は、新思想で作られるべき後継機にも旧いDNAを植え付けて枯らしてしまい、10000機作って9000機落とされた訳です。空力設計は洗練されていましたが、沈頭鋲などの技術要素も量産性にはマイナス。
そもそも重要部品であるプロペラがオリジナル設計できず、最後まで米ハミルトン・スタンダード社のライセンス品に頼った事実はあまり知られていません。戦争末期に工場が爆撃され、「MADE IN USA」の機械が並んだ生産ラインが破壊されたら復旧は絶望的。
米英独仏伊に並ぶ航空先進国を自称した日本、内実は「語るに落ちる」、お寒い限りだったのです。
1943年にグラマンのF6Fが現れます。この不恰好な戦闘機は量産性、飛行性能、経験の浅いパイロットでも扱える汎用性と高い防御力、照準のしやすい機関砲を持ち、また驚異的な生存性で零戦を蹴散らすことになります。
「相手が1000馬力なら、ウチは2000馬力出せばいいじゃない」
「相手が格闘戦に強いのなら、振り切って離れたらいいじゃない」
「相手が12.7mmで落ちるなら、20mm砲なんか要らないじゃない」
零戦は「風立ちぬ」でも語られた通り、本土決戦に温存されたもの以外、ほぼ9割方墜とされました。
F6Fが空中戦で喪失した機体は、僅か270機とされています。
日本は事前分析で「アメリカには勝ち目なし」と分かっていながら、個人技と精神論、最後は「天佑頼み」で戦争をやりました。
アメリカは情報を正確に分析し、システムで戦争をやるんです。
空母航空団が海戦の主体になるなら、規格を揃えて量産しちゃえばいいじゃない。
武蔵が航空魚雷で屠れたのなら、大和に戦艦部隊を差し向けることもないじゃない。
航空機のない島の守備隊が波打ち際で塹壕戦をやるつもりなら、艦砲射撃で薙ぎ倒せばいいじゃない。
合理的に展開できない戦争はやらないんですよ。
だから、まさか人が乗った飛行機が船に突っ込んでくるとは思わなかった。「生還を期さない自殺攻撃」を、大規模に、自ら進んで近現代戦に持ち込んだのは日本だけだったから。データがないわけです。
飛行機は爆弾や魚雷を落としたら帰るもので、もろとも爆散したら次がないんです。しかも生産力で遥かに劣る日本が。
陛下の栄えある皇軍とか、開戦の責任は日本ばかりにあるわけでないとか、頭がうっちゃらかった連中がうならかしてますけども。
だったら、「大本営発表」なんて阿呆な言葉が今だに生き続ける理由はなんなのか。栄えある皇軍はウソと虚構にまみれた「聖戦」をやった。戦術を学び改める事もせず、戦争の早期終結に必要な条件を揃える事も出来ず、悪戯に兵隊を死地に追いやった。
そして自壊した。これが事実でしょう。
戦後産業界で、大和の技術が役立った。少なくない貢献があったのもまた事実でしょう。しかし大和そのものは、戦局の好転や打開に何の貢献も果たさず沈んだ。信濃についてはNHKの特番がありましたが、母港・横須賀の市民にもほとんど認知されていません、
そりゃそうです、就役後10日で沈んだ艦なんて、世界の海軍史にもほとんど無いから。
零戦に至っては、政治が無策無力だった事もありましょうが…航空産業の自立繁栄にすら役立たなかった。自衛隊の輸送機や練習機、諸外国に採用例の少ない飛行艇など僅かな例を除けば、ボーイングやエアバスなどの下請けに留まり、イタリアですらやっているヘリコプターの自国開発も出来ていない。
ライセンス生産じゃありませんよ。「自国開発」です。
書いててうんざりしちゃうんですが、何のノスタルジーでこんなものが持て囃されるのかさっぱり分かりません。
Posted at 2020/12/12 18:40:12 | |
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