最近こんな本を読んでいます。
自動車の運動と制御 第2版─車両運動力学の理論形成と応用
貴島ゼミナールを読んで幾つか疑問に感じる点があったので、これを解決できればと思って読み始めたのですが、全てが運動方程式から始まっていて、少し違う観点からも車の運転を見ることが出来るようになりました。
基本的に物理の本なので方程式ばかり出てきますが、どうしてその式が導き出されるか、とか、その辺りのことは置いておいて、パラメータの変化のパターンと実際の車の動きとの関連が分かれば良いんです。
定常円旋回(紛らわしいのですが、これはドリフトでの定常円旋回とは違います。ドリフトではカウンタを当ててドリフト状態での旋回ですが、こちらは通常の範囲のスリップアングルが付いたグリップでの旋回です)での運動方程式は、様々なパラメータを消していけるので、こんな感じになります。
リンク先のページのρの式
ちょうど
同じ本(第1版ですが)について章を追って説明してるサイトがあったので、そちらをリンクしておきます。
以降の説明はリンク先のページを見ながらが分かり易いと思います。
ここで
lf:重心から前軸までの距離
lr:重心から後軸までの距離
kf:前輪に発生するコーナリングフォース
kr:後輪に発生するコーナリングフォース
です。
これは、ρ(円旋回の半径)を求める形式になっていて、このグラフはlfkf-lrkrの値によって、図3.9のようになります。
lfkf-lrkr<0の時、速度が増加すると回転半径が大きくなります。(アンダーステアの定義)
lfkf-lrkr>0の時は、速度が増加すると回転半径が小さくなります。(オーバーステアの定義)
lfkf-lrkr=0ならば、速度が増加しても回転半径は変わりません。(ニュートラルステアの定義)
lfkf-lrkr<0の時、前後輪のコーナリングフォースがバランスするnsp(ニュートラルステアポイント)は重心よりも後ろになりますから、これは貴島ゼミナールでの定義と同じです。
重心の位置という感覚的な理解を運動方程式で説明した、ということですね。
この式を変形して旋回角速度(r)を求める形にするとニュートラルステアのメリットが良く分かります。
グラフは図3.12のように。
実はこのグラフ、アンダーステアの時が間違っていて、本当は速度が増していくともっと大きく減少します。(2版では訂正されています)
アンダーステア状態では速度が速くなると旋回角速度(車が向きを変える速さ)が伸びなくなります。
ニュートラルステアの方は速度に比例して旋回角速度も大きくなります。
オーバーステアだともっと急速に大きくなるのですが、速度がVcに近づくと車は巻き込んでスピンしてしまいます。
つまり、実際にはニュートラルステアが一番旋回角速度を速く出来る、ということです。
車のコーナリグの目的は、'コーナ出口に向けてできるだけ速く車の向きを変える'ことですから、旋回角速度が速いニュートラルステアが一番理想に近い、ということになるわけです。
では、何故車のセッティングはニュートラルステアではなく、弱アンダーステアになっているんでしょうか。
この本では、それについても説明されているのですが、ここでは、
nsx等の開発者だった上原さんが書かれているサイトをリンクしておきます。
ニュートラルステアは、安定した状態ではなく、アンダーとオーバーとの間を細かく行き来しながら、微妙なバランスの上に成り立つ状態なわけです。一歩間違えばスピン状態や、コースアウトの可能性があります。
なので、一般道ではこれを求めた走行は危険すぎますし、またするべきでもありません。
あくまでサーキットでしか求められないものではありますが、これこそがコーナリングの究極の姿だと思います。
20年前、初めて参加したホンダのtypeRミーティングで、鈴鹿東コースで初めて同乗走行したのが山野さんでした。
その時感じた、どんな時にも、たとえコーナリング中でさえ車が前に進もうとする半端ないトラクション。
それ以来、それを自分のドライブで実現するのがずっと目標だったのですが、長いことその手掛かりさえ掴めていませんでした。
今は、その答えがニュートラルステアなのではないかと思っています。
Posted at 2023/09/06 10:49:52 | |
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