アンソンは 裕也とのタイマンバトルでも
猫ビルダイブに成功し 総長になったのだが
その後は、チーマやカラーギャングが流行りだし
暴走族は廃れる一方だった
アンソンが引退してから、各地域の暴走族は 蜘蛛の子を散らすように激減し、CRS も名前だけの連合になってしまった
豚子は大学の寮に入り、成人式を終えた二年の目の盆休みに、初めて帰省した
帰省といっても、松竹映画やアニメに出てくる、長閑な小川や田園が広がる、情緒ある田舎ではなく
工場と排気ガスが溢れ、汚くて でかい川が流れる街なのだが
豊子も工業大学に進学し、夏休み恒例の、豚猫モータースでバイトを終えた後、豚子と二人でオバちゃんの焼肉屋で遅い夕食を食べに向かった
ガラガラ〜チン♪
豚子と豊子がガラス戸を開けると、懐かしい呼び鈴が響いた
「腹へったわ〜」
「アンタは、一日中〜 TV ゲームやってただけじゃない」
豚子の叫びに、豊子が呆れながら返し、指定席に向かう途中に
常連の稲川が ポツリと一人で肉を焼きながら チビチビと飲んでいた
豊子は中学から、この店でバイトしていたし
豚子も高校の頃は週末や夏休みはバイトしていたので、稲川さんとは昔馴染みだ
「こんばんわ〜お久しぶりです」
豊子が稲川に挨拶すると
「おぉぉ~豊子ちゃんと豚子ちゃん!」
話相手を見つけたので、稲川は大喜び
「なんや、オッチャン仕事サボリよって」
久しぶりの再会に感激している、稲川に水を刺すように冷たく豚子がゆーと
「盆休みは駄目だって」
稲川が箸を振りながら、豚子に言い訳する
「そうなん?」
稲川の職業は、個人タクシーであった
「皆んな、田舎に帰るし、エアコンつけると、燃費も悪くなるしね」
「確かに、工員さんは地方出身者が多いねんな」
「なるほど〜大変ですね」
豊子が感心すると
「正月も盆もGWも、いっつも同じ言い訳すんだよ」
オバちゃんが、指定席から悪態をつくと
「ほな、今夜はオッチャンに呼ばれよーか」
豚子が笑いながら、稲川の向かいに座ると
「いいよ〜二人に会うのも久しぶりだし、遠慮なく」
「ラッキー」
豊子も喜んで席に座わり
「女子大生と焼肉なんて、人生初やろ〜」
「初!初!」
豚子の質問に、稲川が答え
「稲川さんは 何飲みます?」
「同じで」
稲川は 眞露が入った、レモン割りを持ち上げ
「ウチは生で!」
豚子も答えると、豊子はスッと立ち、自ら厨房に取りに行こうとしたので
お冷を運んできた、オバちゃんが
「客なんだから座ってなって」
オバちゃんは、豊子を止めたが
「イイの、オバちゃんも座ってて」
豊子は オバちゃんの静止を振り切り、厨房に行ったので
「あの子は、厨房に用が あんねんねって」
豚子が笑いながら、オバちゃんにゆーと
「分かってないな〜」
稲川も笑うと
「おだまり!」
お盆を、稲川の頭に一発
「痛っつ〜」
稲川が大袈裟に頭を押さえると、豊子がレモングラスと生二つを持って来た
「では、女子大生二人に乾杯〜」
豚子の合図で、オバちゃんも自分のコップを,合わせ四人は飲みだし
「お肉は適当に頼んどいたから」
豊子が豚子にいうと、豚子は豊子に
「チビ助は 元気やったか?」
「相変わらず」
豊子は笑いながら答える
「ところでやね、オッチャン、個タクになって何年目や?」
稲川の肉を勝手に焼きながら、豚子が質問すると
「もう、10年目かな〜」
「凄いな〜」
豊子が感心すると
「なんで、豚子ちゃん?」
答えた後に、稲川は豚子に質問で返す
「ほら、怪談やら けったいな話って、タクシー絡みが多いやんか」
「確かに多いわね」
豊子も、生ビールを飲みながら。相槌を打つ
「びしょ濡れの女を乗せて、目的地まで着いて、振り返ったらシートだけが濡れとったとか、よーあるやん」
「ある!ある!」
「夏は怪談だね〜」
オバちゃんも ハイライトを咥えながら、話にのってきた
「せやから そんなん、オッチャンは持っとらんの?」
豚子がズバリ、稲川に答えると
「ないって、ないない」
「ホンマに?」
「あんなの作り話しだって」
稲川は笑いながら、肉を焼き出す
「なんや、オモロないの〜」
「ちょっと、期待してたのに」
豊子と豚子が冷めると
「びしょ濡れの女は、青山霊園のトンネルでしょ?」
オバちゃんが割って入ってきたが
「白金の白トンや、なかった?」
豚子が答えると
「だからさ、そんなもんなんだって」
稲川が 笑いながら答えると
「せやから、オッチャンは女にもてんねん」
「な、なに?」
「こんな場面はな、嘘でもエエから 女の子を怖がらせる はなしを せなきゃアカンネンで」
「そ、そうなの?」
「そうですよ〜」
豊子が、膨れっ面で返すと
「まいったな〜」
稲川が困ったように、頭をかき
「これはさ、誰にも話した事ないんだけど・・」
「なんや、あんの?」
「ある事はあるんだけど」
「うん、うん」
「思い出したくないんだよね」
「聞きたいわ〜」
「マジで怖かったんだから」
稲川の声が小さくなる
「どんな体験なんですかっ?」
「話したら、霊が寄ってくるかも」
「怪談百物語みたいでええやん」
「そうそう、帰りは俺一人だし、嫌な予感しかしないんだよね」
「そんな怖い話なの?」
豊子が質問すると
ジュー ジュー♪
と、肉の焼ける音が、やけに大きくなり
「ど、どんな体験したんですか?」
いつの間にか、肉を運んできたキムコも、オバちゃんの向かいに座り、大きな声で質問すると
「おったんか〜い!」
「運んで来たなら、声かけなさいよっ!」
豚子と豊子は、キムコに唸り飛ばした
稲川は新しい肉を、網に並べ終えると
「あれは、法人で10年勤め、やっと個人タクシーなれた、次の年の夏だった」
「18年前って事やな」
「そうだね、個人タクシーだから、何時から働いてもいい自由だから、夏は夕方涼しくなってから営業してたんだ」
「なるほど」
「ええね」
「でも、その日は、梅雨が戻ったみたいに、朝からシトシトと降り続いていたんだ」
ジュー♪ジュー♪
肉が焼けたので、豚子は豊子に皿のせる
「夕方から、いつものように西口につけると、客の流れは 雨降りなのに遅かった 30分待つと、やっと自分の番になり、老夫婦を乗せた」
「うん、うん、」
「何処まで?」
「それが、横浜のヨコヨコ霊園」
「当たりじゃない!」
オバちゃんが答え
「結構〜な距離っすね!」
「あの頃で、5000円超えるぐらい」
「まぁ、よく見ると、老夫婦の身なりも墓参りっぽかったしね」
「でっ、上機嫌で戻り、また並び直すと、今度は母と小学生の子供」
「次は外れやろ〜」
豚子が笑いながらゆーと
「普通はね、当たりの後は、外れるんだけどね、またヨコヨコ霊園」
「今、なんか、ゾクッときた!」
豊子が 両腕を摩りながらゆーと
「タクシーもさ、10年やると、なんとなく客の身なりや年齢で、幾らぐらいの客って分かってくるのよ」
稲川は得意気に説明するが
何故か喋りのリズムがさっきまでと違う
「なるほど〜」
「だから、その母子も全く不思議と思わなくて、ラッキーって感じで、車を走らせた」
「でも、ヨコヨコ霊園って、変な場所にあって、夜行くと怖いよ」
キムコが 横槍を入れると 豚子と豊子が
「そうなん?」
「そうなの?」
「なんかね、周りに何もないんだよ、斎場とか霊園って意外と族の集合場所になるじゃん」
「なるなる!」
「あるあるね」
「ヨコヨコ霊園だけは、昔から何処も 使ってないらしく、実際に行くと分かるよ」
「そうなの?」
「なんか、昼間でも薄気味悪いし」
「メッチャオモロそうやん」
豚子と豊子は、ビールを飲み干すと
「そう、キムコ君の言った通りで、自分も最初は2回もラッキーって思い、母子を乗せて下ろして、霊園の先で一服したんだ
道路は綺麗なんだけど、ずーっと一本道で反対の歩道には銀杏の木がズラーと並んでるの
「それの何処が怖いねん」
豚子が稲川を,遮ると
「それしか無いのが、なんか不気味とゆーか、空気が重いってゆーかな」
「その時間なら、お通夜やろ」
「そうそう、俺もタバコ吸いながら、きっとお通夜だなって帰ったんだけど」
「だけど、どうしたんや?」
「まぁ、下ろしたのが 8時前だったし、ラーメン食べてまた西口に戻ったんだ」
「終電まで、働くんやな」
「車のローンもあるしね」
「雨も止まずに降っていたし、終電でガンガン流れたけど、近場ばっかし」
「うん、うん」
「最後に並んだけどね、自分の前で終電が終わったけど、花番だったんで待っていたんだ」
「花番ってなんですか?」
「乗り場の先頭って意味だよ」
「そうなんだ〜」
豊子を始め、皆、納得し
「まぁ、西口だからね、飲み屋からも、まだ出てくるし、この一回で帰ろうと、待っていたら女の人が乗ってきた」
ジュー♪ジュー♪
豚子は 豚トロを網にのせながら
「どんな女や?」
「30〜40かな、かなり細身のスレンダーだけど。ちょっと服が古いというか時代遅れだったけど、酔っ払いじゃないから良きかなと」
「でっ、乗せたんですね」
「勿論、乗せたよ」
稲川はレモン割を一口飲み、セブンスターに火を点けた
「こんばんわ〜」
ドアを開けて挨拶をすると
「○○霊園まで、お願いします」
か細い 女性の声は 霊園しか ハッキリ聴こえなかったので
「すみません、何処の霊園ですか?」
「○○霊園です、道分かりますか?」
えっ(; ̄O ̄)
また、ヨコヨコ霊園、しかも、こんな時間に
「ヨコヨコ霊園は、分かりますけど〜」
「じゃあ、近くまで行って下さい」
あ〜そーゆ事か、道順が説明出来ないと、よくある話しで、運転手が知ってそうな建物や公園を行き先の目安に指定くる客だと
しかし、今日で3回目か
心の中で呟き、タクシーを走らせた
深夜は2割増しなので、メーターはグングン上がる
カッシャ ♪
横浜市内に入り、メーターが六千円になったとこで
「この先がヨコヨコ霊園ですよね」
無口な女性客なので、バックミラーでチラッとみると、寝てるようだったので
私は起こす意味も込めて、初めて後ろの彼女に声をかけると
「ヨコヨコ霊園まで、行って下さい」
驚いた事に、彼女は寝ておらず、即答で、返してきた
「えっ、近所のご自宅じゃ、ないんですか?」
私は、予想外の答えにビックリし聞き返すと
「ヨコヨコ霊園で大丈夫です」
彼女は ハッキリと返して来たので
「はい」
私も直ぐに答え ヨコヨコ霊園にタクシーを走らせたが
霊園を抜けると、裏手側に斎場もあるので
斎場に行く人は、ヨコヨコ霊園ではなく
ヨコヨコ斎場と指定する
いやいや、こんな時間に お通夜の受け付けも終わってんだろ
そう、思いながら、ハンドルを握り、少しアクセルを踏み込んだ
あれ、まてよ?
さっきの母子も、ヨコヨコ霊園だったよな
斎場とかお通夜って、勝手に自分で,決めてた事に、今気づいたので
この、女性客、もしかしたら霊園の先に自宅があるのかな?
メーターが 7千円になると、ヨコヨコ霊園の近くまできた
次のT字路の信号を右折すると、そこは一本道で右側には銀杏並木、左側には霊園のブロック弊が、続きだした
バス停を過ぎると、頑丈な鉄製の霊園入り口の門があり
その先に 2回目に来た時に 一服した 公衆電話がある
明かりといえば、霊園の入り口にある
ボヤけた電灯と公衆電話の二つだけだった
2回目に来た時とは、比べられないぐらい、不気味で 重い空気が 車内からでも 充分に感じられた
朝から降り続いた雨は、いつの間にか止んでいたのでワイパーをオフにし
バス停を過ぎたとこで
「霊園過ぎてイイんですよね?」
私は、後部座席の女性に声をかけると
「いや、門の前で結構です」
「えっ(; ̄O ̄)」
「そこで、止めて下さい」
10メートル先の、門に向かって言った
「はい」
言われた通りに門の前でタクシーを止め、料金をもらったが
いやいや、こんな時間に霊園ってあり得ないだろ
私は思いなおし
「斎場だったら、メーター入れずに、裏に回りますよ」
「ここで大丈夫です」
彼女がハッキリと答えたので、私は渋々レバーを引き、ドアを開けた
スッーて音も立たずに、彼女は気付くと既に降りていて
私はドアを閉め、ソロソロと発進したが
こんな時間に霊園なんて、あり得ない!絶対に駄目だ!
旅客運送の場合、泥酔した客を路上に下ろし、その客がそのまま道路で寝て、轢かれ死亡すると、救護義務違反になり、刑事責任を問われる
まぁ、簡単にいうと、轢き逃げと同じような案件になってしまうので
不安になり、バックミラーで確認すると、赤いワンピースと黒髪がユラユラと揺れていたので
二回目に母子を乗せてきた時に 一服した公衆電話に車を止め、
「お客さ〜ん」
私は叫びながら、バックミラーで確認した彼女の姿を追いかけたが、門の前には誰も居なかった
「まさか、幽霊?」
私は、驚いたが、来る時に手前で見た、バス停のベンチに彼女の赤いワンピースと黒髪を発見し
バス停に小走りで行き、彼女に声をかけた
「お客さ〜ん、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です」
「いやいや、こんな時間に、バスなんか来ませんって」
「大丈夫です、待ってるんで」
彼女は俯いて、ハッキリと答える
今、あの時の夜を思い出すと、彼女の顔が全く分からない
思い出すのは、赤いワンピースと肩より長い黒髪
でも、バス停のベンチに座っている彼女と会話したら、ハッキリと感じた
「ヤバイ この女性は人間ではない」
瞬間的に、頭の中で非常警報がなったが
「ほ、本当に大丈夫なんですか?」
私は、もう一度 彼女に念を押すように訊ねた
「大丈夫です、待ってるんで」
さっきと、全く同じ台詞が返ってきた
逃げろ、コイツは人間じゃない
逃げろ、一刻も早く、この場から
私はここの中で叫び、
やっとの、おもいで引き返し 歩きだしたが、背中に寒気がするような、視線が突き刺さり、二度と振り向いて彼女を確認することが出来なかった
霊園の門を越え、公衆電話の灯りに照らせてある、車に乗り込み、エンジンをかけるが セルも回らずウンともすんともいわない
早くこの場を立ち去りたかったので、何度もアクセルを踏み、キーを捻るが車は死んだように微動だにしないので、焦りながら、勇気を出してバックミラーを覗くと
バン!バン!
窓を叩く大きな音と共に 後ろには死者の顔が幾つもの、浮かび上がり
「ひっ、ひー」
叫び声を上げるが
バン!バン!
今度は横の窓にも、何人もの死者の顔が張り付き
バン!バン!
フロントガラスにも 無数の死者の顔が張り付き
私は 意識が無くなった・・・・
続きま~す🐷