輪極堂 秘密のステップ

バレンタインデーの週

先週までの寒さが嘘のように
気温がグングン上昇したので


豚子に連絡をとると
明日は秘密の練習場に行くというので

急遽、銭形と豊丸子は
その秘密の練習場まで
ツーリングすることにした



銭形の家は 多摩川沿いの世田谷区
根津の豊丸子とは
湾岸線の下り幕張SAで落合った


幕張SAにつくと
駐輪場には春を待てない
オートバイが半分以上


銭形は 一番端に自分が乗ってきた CB1100 を駐車し ヘルメットとグローブを脱ぎ豊丸子のセパハン CB スーパーフォアを探すため



歩きだした



やはり、ハーレーと Z 900RS が一番多い


ノーマル 最終型のスーフォアはあったが

豊丸子のセパハン
族仕様のロングテール
なスーフォアは停められておらず



「自分の方が早かったか」


と思い

豊丸子に連絡を取るべき
スマホをジャケットのポケットからだすと



「わっ！」



後ろから 不意に声をかけられ




（;￣O￣）（;￣O￣）


驚いて振り向くと

ライダースジャケットに
バンクセンサーが付きの
レザーパンツを履いた


豊丸子が笑っていた


コンニチハ (*￣∇￣)ノ



「豊丸子さん、来てたんですかっ！ビックリさせないでくださいよ」
 


「あははは（笑）さっきから来てましたけど」



豊丸子は笑いながら
銭形に言うが

肝心のスーフォアは見当たらない

バンクセンサー付き レザーパンツ
レーシングブーツの彼女に集まる


オッサンライダー達の視線が痛い




「行きましょうかって、豊丸子さんのスーフォアは？」



「今年からこれ」そう言って


豊丸子は目の前にある
GSX-R 750を指した

















（;￣O￣）（;￣O￣）




あろうことか、アップハンにしてある




「このアップハンマジっすか！」



「マジっすよ」（笑）




「このアップハンにバンパーって」


カウルから飛び出し
エンジンガードが付いてあったので
銭形はエンジンガードを触りながら
質問してみた





「そっ、ジムカーナ車ですよ」





三寒四温




まだ二月なので
防寒対策は完璧にして来たせいか

寒さは感じられず

二人は豚子に指定された
インターチェンジで降り


その先のコンビニの駐車場に入ると
エメラルドグリーンに輝く
真新しいオートバイが


停められてあった




その横で豊丸子とは
正反対の男用の 限りなく黒に近い
グレーのライダースジャケットの
豚子が煙草片手に待っていた




「店のバイクで来たんかい！」


豚子は豊丸子が乗ってきた
アップハンにエンジンガードが付いた



GSX-R を見て叫んだ




「速いわよ～ん」

豊丸子が笑いながら答える




「ウチはまだ、慣らし中なんやけど～」


「あと、何キロ？」


「4千で200キロ」


「今日中に終わらせましょう」


「じぇじぇじぇ～」


「そんな遠くまで！」


豊丸子が即答したので
豚子と銭形が驚くが





「いやいや、秘密の練習コースってすぐそこなんよ」


豚子の答えに、安心する銭形




「じゃあ、さっさと行きましょ！」


豊丸子がセルボタンを押し
一吹かしして エンジン音で合図すると
豚子と銭形は バイクに飛び乗った






豚子の Z650RS を先頭に

銭形のCB1100

最後に豊丸子のGSXR





千葉県と茨城県の堺ちかく
利根川水域の小さな橋を渡ると


信号があり

左折すると


大型ダンプがすれ違えるほどの
片側一車線の奇麗な直線が



視界に広がった


「おおお～！」


後ろの豊丸子がインカムで叫ぶ




「こっから、スタートやで～」

豚子は 慣らしギリギリ
6速 4千回転まで
引っ張り加速する


実質 80キロ


利根川水系の川の
横のこの直線は1.5 Km

緩やかに右・左のカーブを上ると
一気に右の上りがせまる




「ここを左折すっと 一周できんやけど」




豚子がインカムで豊丸子に伝える








「このペースじゃ練習になんないから、定常円と8の字やった秘密の場所に行って」




「おっけ～」





上りきったT字路を左折せずに
直進すると道が細くなってくる


消防団の小屋を過ぎると
先頭の豚子はペースを落とし
50M ぐらい先に進み左にウインカー


突如して

中央分離帯がある 上りになり


上りきると



廃墟となった、建物と広い駐車場が表れた



所々、雑草がコンクリートの隙間から生えてきている


二階建ての廃墟の前には
車寄せの 小さなロータリーまであった





「ここや、ここ」


豚子は車寄せのロータリーで一周回り

駐車場に入りバイクを停めた























「へぇ〜」



「ゴルフ場なのか？」


豊丸子と銭形もバイクを停め
辺りを眺めるように


観察しなが言った



「広いやろー」


豚子がヘルメットを脱いだので
豊丸子と銭形もヘルメットを脱いだ




「でもゴルフ場は？」



「知らん、おおかた デベロッパーな不動産屋が、資金不足か地面師にカマされて途中で頓挫したんやろ」





「なるほどな」



銭形は妙に納得



「ここで、どんな 8の字してたの？」



「あの辺から、2速 いれ ガッー加速してクルッと」




「あるあるね」



「なんなん！」



豊丸子が 何かいいたそうに答えたので

豚子が詰め寄る




「普通の8の字にしましょ」



豊丸子は 駐車場の真ん中に歩き出し


駐車場の入り口にあった
朽ち果てた三角コーンを並べだした




「あの距離狭くないか？」




銭形が豚子に耳打ちする




「そんな、短い距離でやるんかい？」




銭形の耳打ちに同意して

豚子が豊丸子に叫ぶ




「教習所ぐらいですよねー」



教習所で大型をとった
銭形に言いながら


豊丸子が戻ってきた



「まああ・・・」



不安そうに答える銭形



「私はここで見てるから、左右の駐車場に分かれて、教習所通りにやってみて」



「なにか、アドバイスは？」



CB1100では
まだ一度も 8の字はおろか
Uターンもしていない 銭形が


豊丸子に不安そうに言った





「教習所通りです」



きっぱりと即答で返す豊丸子





「は、は、はい」



「マジかや〜」




「さぁ、練習開始！二人共さっさとやれ！」



豊丸子が手を叩いて、怒鳴り




二人は一目散にバイクに跨り
左右の駐車場に分かれた





「こんな狭かったっけ？」


「で、出来るかな？」



二人はインカムでぼやく






「ひぃー！」


「うぉぉ〜」


二人は一回目、駐車場の縁石ギリギリ





「リアブレーキ使って！」

豊丸子がインカムで叫ぶ




「せやった！」


豚子は思いだしたように
大型車のトルクで 8の字を旋回しだした




ブッブッブッ




「銭形さんは、イン側の肩が外を向いてる！」



「なるほど！」


教習所を思い出し
銭形もさっきより小さく
8の字に旋回しだした



「はい、終了、戻って〜！」



豊丸子が二人に戻るように指示を出し
二台は得意げに戻ってきた




「先ず銭形さん、来る時に後ろから見てたけど、やはり イン側が 突っ張り過ぎ、外側だけが曲がる方向になってる、外の肩と平行に イン側の肩も曲がる方向に入れて下さい」






「そうだったんですね、ありがとうございます」



「ウチは？」


「特になし」



豊子に指摘されず
豚子は得意げに銭形を見て笑う





「さて、本題はこれからです」



「なんなん？」



「今のは教習所の8の字」



「ウチが コソ練してたみたいに 直線長くしてブレーキ使うんやろ」



豚子が右手でブレーキを握る仕草をしながら


得意げに言う





「いや、フロントブレーキは無し、この短い直線でアクセルあてて、しっかり加速して下さい」



















「マジかや！」


「そそそんな」



「オーバーランしても良き、リアブレーキで減速しても良き、とにかく短い距離でも、僅かでもイイのでアクセル！」





「マジかや〜」


「で、出来るかな」



「つべこべ言わずに、さあヤレ！」





ブブブ・ブォー



「ひいー」



「旋回中はアクセル戻す！」



「うわあぁ〜」



「銭形〜リアブレーキ使え！」


豊丸子が怒鳴る




「二人共、少しでもイイからアクセル開けろ！」



ブブブ〜



「おらっ〜アクセル開けろってつってんだろ！」
















ブブブ・ブ・ブ



「二人共、1速じゃねぇよ！２速だよ２速オンリー」





豊丸子の罵声がインカムに響く



豊丸子の罵声なアドバイスで
豚子は何回かやるうちに


ナントカ出来るようになる





「銭形〜ステップ踏んでたら、死ぬまで回れねーぞ！」




「えっ？」



「そっか！」




いきなり、豚子は加速して
クルっと回った




「豚子、良き！」


「アザース」


言いながら、右時計回りは失敗





「銭形〜イン側のステップだよ！踏むなっつてんだろが！ジジィ〜」

















「ジジィって、私・・・」


















「よし、一旦集合～！」



「なんか分かったで〜」


豚子が得意げにいう




「先日も言ってたけど、何故イン側のステップを踏んでは駄目なんでしょうか」





















ステム軸の真上から見て

トレール量が 後ろにある事で

タイヤは 進行方向とは逆に➡︎

引っ張られる 力が 作用してるからと




説明しましたよね






「頭では理解出来たんですが、実際に乗ってみると、ど〜もな感じで」



「ウチは物理的にも理論的にも分かったでぇ〜」



豚子が勝ち誇ったように言う





「では、豚子さんから」


豊子が掌を返す



「スケボーやスノボのジャンプと一緒や！」




「えっ？」




つまりやな～

スケボーやスノボでジャンプする時

一度板を抑え付けるように踏んで

地球の半力で真上にジャンプするやろ！





「そ、そそうなのか？」




「豚子さん大正解！ステップを踏みつけることにより、地球の反力で二輪しかないバイクは垂直に起き上がろうとするのです」






試しに今、

左に曲がると想定し
左足踏みつけながら
両肩と腰回してみぃ





銭形は 豚子に言われたように
エアバイクでハンドルを持つ仕草で中腰になり



左足を踏みつけながら
腰を回転させてみた

なんとなく


不自然に腰が回った

？？？





「左足の踵を浮かして 逆の右を 踏みつけた方が 分かりやすいかも」







豊子がエアバイクでやってみせ

銭形と豚子もやりだす




「おぉぉ〜！」


「ええね！」




明らかに

イン側の 左足を踏みつけるより

アウト側の 右を踏みつける方が

腰がスムーズに曲がる





「ステップってのは、バイクで一番地球からの反力がかかる位置に付けられています」




「そうなんや〜」



「じゃあ、ステップは何の為に？」



「今の二人の段階では 加速、減速のG 体重移動の為ですね」



「なるほどです」


「理解」




さっきのエアバイクのように

イン側のステップは
踏まずに腰を回し

内腿でアウト側のタンクを
抑え込むように回って下さい




「うん、うん、」


「はい」


ただ、抑え込むのではなく
抑え込みながら


「曲がれ 曲がれ」


タンクを旋回方向に
押し込むイメージで


アウト側もステップには

乗せるだけ


二人共、大型なので

必ず２速



短くても直線では
必ずアクセル ON

旋回中は アクセル OFF

立ち上がりは
アウト側のステップは使っても良き



加速〜減速〜旋回〜加速

小さく小さく



イン側のステップは 全て禁止


マルケスやロッシみたいに
イン側は投げ出しても良きです





「おぉぉ〜！」


「出来る気がしてきました！」




「私を信じて、さあ〜ヤレっ！」


















続きま～す 🐷