輪極道〜Zeitgeit 21

あの頃の俺は


今の俺をみても


あの頃のように


笑ってくれるよな

















輪極道〜Zeitgeit 21










「いいな〜俺も行きたいな」



夏美が、明日のホワイトデー集会の為に、二輪館で買ったシートバックを家の前で取り付けていると、父親のナムルがボヤきに来た




「あの、汚い車で来ないのっ？」



夏美は、父親のドリ車の アルテッツァを指して訊ねる




「所長より、下の代は4輪禁止なんだよ」



「そうなんだ・・」




「夏までに 車売っちまうかな」



ジグサーを買って貰った夏美が 申し訳なさそうに言ったので、ナムルが言うと





「そうだよ、ママも売れ売れって、いつも言ってるじゃん！」





「う〜ん」















シートバックを弄りながら、ナムルが曖昧な返事をすると






ピコン♪




ポッケトのスマホが鳴り、取り出して見ると





明日、インパルス、貸したるから 1時間以内に来いや！



豚子






「マジかっ！」



「どうしたの？」



スマホを見て驚く、父親に夏美が訊ねる




「豚子ちゃんが、単車 貸してくれるってよっ！」




「豚子ちゃん？」



夏美は 初めて聞く名前に 首を傾げる





「豚美さんの妹で、好豚ちゃんのオバさんだよ！」



「そうなのっ」



「一時間以内に、来いってから、行ってくるわ！」




「まって、私も行く、あっ」




夏美はいいかけて、付けたばかりのシートバックを見る





「インパルスは貴重だから、一晩でも、ウチには、置いとけーねから、車で見に行くぞ」




父と娘は アルテッツァに飛び乗った





豚子と好豚が、丁度、65にサドルバックを付け、休憩してると


豚猫モータースの前に、アルテッツァが止まった




「おっ、きおったで」



「あっ、夏美ちゃんも！」



好豚が 車から降りる夏美に手を振ると、夏美も笑顔で振り返す



店先に停めてある、インパルスを発見し



「こんにちわ〜！」


ナムルが勢いよく入ってくるが




「既読無視、すんなやっ！」



















豚子が、イキナリ唸り飛ばしたので、夏美は咄嗟に好豚の横に





「い、いや、嬉しくて」



「どんだけ、焦ってんねん、いつつつ」



豚子が 左肩を抑えながら、立ち上がると




「娘の夏美ちゃんだよ」




父親に怒鳴りつける、関西弁のオバさんに、すっかり怯えてる夏美を 好豚が紹介する






「は、は、初めまして、平瀬夏美です」



「父親とちごーて、可愛いんやね〜」



豚子が 笑うと



ブォン！ブォン！




爆音を吹かしながら、豚美が CBX を押しながら ピットから出てきた





「凄い・・・」



夏美が見惚れると





「ママは 明日 55で出るの？」




好豚が 大きな声で叫んだので、豚美はエンジンを切り




「明日は、台数集まるし、海沿いの直線ばっかりだからね」




豚美は スタンドを立て、ナムルに近寄り




「インパルスの整備、一万な」


ナムルに詰め寄る



「はい、ありがとうございます」



ナムルは 財布を出し豚美に渡す





「レンタル料は三万や」



今度は 豚子が ナムルに詰め寄り、痛めてない右腕の手のひらを返しで出す







「そそ、そんな！」



















「と、いいたいところやけど、可愛い娘に めんじたるわ」




「あざーす！」























ナムルが 豚子と好豚に頭を下げると



4人でソファーに座り




「インパルス、私が真鍮板巻いたから、鳴き音だよ〜」



























好豚が 自慢気にナムルに言う



「マジで！」



「ウチらの頃は、アルミ板やったんよね〜」



「そう、そう、豚子ちゃんの時は 音が割れまくり、超〜下品だった」




「なんやと！」




「いいや、でも 懐かしいよね」






「せやろ」






「豊子ちゃんと 豚子ちゃんが乗った インパルスの音が聴こえると、よく俺ら隠れたもんだよ」






「なんなんっ」






「豊子ちゃんが、あんなキレキャラだとは思わなかったよ」






「どないしたん？」




好豚は、水曜日の山猫の飲み会を、思い出し発言すると、豚子が突っ込んだ






「終始、キレててた」笑笑





「誰に？」





「ん～初めて会ったんんだけど～」




「バイクは？」




「車の人、イケメンだけど 性格メッチャ悪い奴」






好豚は 自分の事は 棚に上げ、ナムルと豚子に 答えだすと、ナムルと豚子は 顔を見合わせ






「裕也かっ！」



「あの ボンクラ 生きとったんかい！」






好豚は、豚子の反応を見て、姉の豚音の発言は ややこしくなりそうなので、あえて言わずに





「そう、そいつ！」




そんな、雑談をしてると、急に夏美は立ち上がり、カウンターに居る豚美に向かって歩きだし






「あの〜豚美社長」




「な〜に、夏美ちゃん？」




「明日は ミルトヨカラスさんは、くるんでしょうか？」




夏美の質問に、豚子を覗く三人がフリーズしたが






「ミルトヨカラスって、なんなん？」



豚子は 好豚に訊ねる





「ほら、私の YouTube、謎の覆面ライダー」



好豚が 豚子に囁き



























「豚美さんが、新車買うなら 豊子ちゃんを紹介するって、娘にカマしたんだよ」





ナムルが 豚子の耳元で補足すると























豚子は 急に笑いだし






「大丈夫！ウチはミルトヨカラスのマブダチやから、絶対に来る！」




「本当ですか！」



夏美は 振り返り、豚子を見る






「心配せんでも、大丈夫やって」





「やった〜写真撮ってもらおー」





「ミルトヨカラスは 15分前には 絶対にきよるから、早めにこんとあかんで〜」




「はい！」



「オマエも、明日の朝、ウチから乗ってけや」



ナムルにも、豚子は念を押すと




「了解です！」







夏美とナムルは、大喜びで帰って行った































最初の集合場所である


羽田空港 沖に



中島 綾野 豚美 豚子 好豚



豚猫モータースの 面子と一緒に




ナムルと夏美が 到着すると、既に数台来ていて




バイクを停めて、ヘルメットを脱ぎ、一服しだすと




ブォン！ブォン！


ブオォー♪ブオォー♪



ヤワラ に ゼットン

ラッシャーと 猫水工業の若い衆など




次々と、煩いバイクが 集まって来る 光景を目の当たりにして








「す、す好豚ちゃん、すすす凄いね」





夏美は 好豚の側から 離れようとせずに 感激していると





「まだ、まだ、来るよん」


好豚が 笑いながら答えると




ブオォー

ブオォー





皆んなとは違う、レーサーな音が ウイリーしながらやって来た！







「夏美ちゃん、来たで〜！」




豚子が叫ぶ






「本当に来てくれた！」



ブォン！ブォン！

キキキー♪




夏美達の前で、イキナリ、アクセルターンし


さらに加速して、二輪ドリフト





ブオン　ブオォー


キキキキーー








「おおぉ〜！」



「凄ぇ〜！」




夏美を筆頭に、皆んな騒ぎだし


夏美は、胸の前で 祈るように両手を組み



感無量でいると































ブオォー♪


キキキー！



ミルトヨカラスは、夏美の前で派手に止まり



ヘルメットを取り


覆面姿で、また走りだした








次々とバイクが集まってくるが


皆んな ミルトヨカラスのスタントショーに





やんや、わんや、と声援をだしていると







プパアァァ〜ン ♪


電子フォーンを叩き付けて







ハコスカと赤い CB が、ミルトヨカラスを遮るように






止まった・・・・





皆んな、一瞬で金縛り
























「ヤバイな」


「あっちゃ〜」



豚子とキムコが、早くも逃げようと、後方に下がると





























赤い CB のデブ巨摩が

バイクから降りて

跨ったままの、ミルトヨカラスに歩みより













「なに、やってんだ？」
























「えっ・・・」



「豊子ちゃんだろ」







デブ巨摩は、いきなり覆面を掴み


剥ぎ取り投げ捨てた







「すすす、すいません」





バツが悪そうに、豊子は俯いたままになり





「まずいな」



ラッシャーが呟き、駆け寄ろうとした瞬間に、豚美がラッシャーを押し退けて、デブ巨摩の横までダッシュし








「全員集合〜！」


と、叫ぶと



皆んなも、察して、ダッシュ集合して、その場を収めると、デブ巨摩は 豊子にデコピン








「痛っ、すみませんでした」




豊子が皆の前で、デブ巨摩に謝ると、赤毛がハコスカから、拡声器を出し






「今日は何台だ〜？」



「京浜地区、35台です！」




何十年も前から、いつものように キムコが 叫ぶ





「今から、江ノ島で合流〜信号無視、煽り運転すんなよっ！」



「ういっす！」





赤毛の号令に皆が叫ぶと


反対車線から、パトカーが恨めしそうに


徐行しながら 通り過ぎる









「他所とは、絶対に喧嘩すんなよ！」





「うっす！」





「ルートは昔と同じ、出ろやあぁ〜」





「うっす！」




「よっしゃぁ〜」




「行くでぇ〜」





皆んな、口々に気合いを入れ、単車までダッシュして、エンジンをかける








ブオン　ブオン



ブボボボー！







ミルトヨカラスが 最初にUターンし出て行くと、競う様に、好豚 豚子 ヤワラ ゼットンが続き、トップグループ




次々とUターンして走りだす




漫画でしか見たことがない場面に、夏美の全身から鳥肌がたち、跨ったまま震えてると








「最後でいいから！」



ナムルが インカムで叫ぶ





「う、うん！」


ブルブルルー



夏美が、Uターンして走りだしたのを、見届けると






ナムルも Uターンし

産業道路に最後に出た
















高架下に響く

あの頃と変わらぬ

直管とドブ臭い海風は

同じだったが



一つだけ違うのは



前を走るのが

娘に変わっていて


真鍮板を巻いた

ヨシムラ直管の音が


彼女が産まれてきた

鳴き声に聴こえ



あまりにも、鳴き声が

大きかったので




男と 間違えたんだよな







そんな、想いで

ナムルはゆっくりと

江ノ島まで、追走した













































続きま～す🐷