エンジン、ミッション、デフ、ブレーキ・・・
車には様々な油脂が使われており、注目度の高いものが多いのですが
あまり注目されないものとして「グリス」があります。
グリスは重要な割に性能に直結しにくく、わかりにくい地味な存在であり
頻繁に取り換えるものでもないためでしょうか?
メーカー、ショップ、メディアも大きくは採り上げず
ユーザーもあまり興味を示さないため、認知度が低いことが問題ではないかと思います。
そしてグリスが原因と思われるトラブルは意外と多く耳に入ってきます。
「グリス?・・・んなもんテキトーなのをチョイと塗ればダイジョーブ!」
そんな風に思っているアナタ、扱いを間違えると、とんでもない事になりますよ~
偉そうに言っている私ですが・・・グリスの原因でも何度か車を壊しております(笑)
専門家ではないので、理論的なことを棚に上げた「いつも通りの素人ウンチク」ですが
使う立場からの知識経験として知りうる限り挙げてみました。
心当たりのある方や、気になる方は一読してください。
【ご注意!】
超大作でつまらない内容ですから眠くなることは確実です。
瞼をテープで固定してから、この駄文に挑むよう御願いします(笑)
【グリスとは】
潤滑油に「増ちょう剤」「添加剤」を混ぜ
ねり状、クリーム状にした潤滑剤と考えればよいと思います。
ベースオイル(基になる潤滑油)だけでも相当な種類になり、それぞれに特徴がありますが
大きく分けて石油系とシリコンなどの化学系に分けられ
流れ落ちずに潤滑しなければならない部位に使われます。
【車では】
車で最も多く使うのは何と言ってもドライブシャフトになると思いますが
その他ジョイント部、ブレーキ系、電装品・・・・シートベルトにまで
ありとあらゆる動く部位に使われており
石油系は主として金属の回転しゅう動部に
シリコン系は主としてゴム、樹脂の回転しゅう動部に使われており
それぞれにたいへん多くの種類が存在します。
【シリコングリス】
シリコンオイルをベースとして樹脂、ゴムを侵さず潤滑するものとして使用します。
代表的なものとしてブレーキキャリパー、クラッチオペレーティングのパッキンや
ブレーキ、クラッチマスターのピストンなどに使いますが
空調、パワーウィンド、他多数にも使います。
細かな用途に応じて膨大な種類が存在しますが
車に関しては大きく2種があればOKかと思います。
①汎用シリコングリス
スリーボンド社1855、ワコーズスーパーSGなどが有名どころです。
やや高額ですが、ブレーキ系をはじめ殆どの樹脂、ゴム系潤滑に使えます。
耐熱性も200℃以上と意外と高く、エンジンルームなどにも使えます。
KUREのシリコングリスメイトはテフロン配合で滑り性がよく入手性も良いため
最近はこればかり使っています。
アストロなど工具屋さんで手頃な価格のシリコングリスもありますので
一本買っておいても損はないでしょう
②高速高荷重用シリコングリス
MOMENTIVE社のグリスを使っています。
セルモーター、オルタネーターなどのモーター系
ウィンドレギュレター可動部などで主として使用していますが
かなり高額で入手性も良くないので
これらを分解整備するヘビーユーザーのみ必要になると思います。
【石油系グリス】
石油系オイルをベースとして、主に金属しゅう動部、軸受、ベアリング、などを潤滑しますが
こちらもたいへん多くの種類があります。
代表的なものとしてドライブシャフト等速ジョイントの潤滑で知る人も多いでしょう。
ベースオイルや添加剤によっては樹脂、ゴムなどを侵すものがありますので
製品説明やメーカーHPでの確認が必要になります。
尚、ドライブシャフトブーツはゴム、樹脂ですが
耐熱、耐油性のため石油系グリスに侵されにくくなっています。
①リチウムグリス
最も幅広く使われているグリスの代表選手と言えると思います。
耐熱性、耐水性が比較的良く、安価でもあることから
万能グリスとして手軽に入手でき、手軽に使えます。
これに二硫化モリブデンを添加したモリブデングリスは高回転高負荷の部位に使用ができます。
使用とともに分子結合が弱まるそうで、液状化しているようであれば寿命と判断しています。
100~130℃あたりまでの耐熱性があります。
②リチウム複合グリス
リチウムグリスより少し高いのですが耐熱極圧性を向上させてあります。
これに二硫化モリブデンを添加したモリブデングリスは高回転高負荷の部位に使用ができます。
使用とともに分子結合が弱まるそうで、液状化しているようであれば寿命と判断しています。
130~150℃あたりまでの耐熱性があります。
自車ではこれのハイグレードグリスをドラシャのインナージョイントに使っており
これにモリブデンを添加したグリスをドラシャのアウタージョイントに使っています。
③ウレア系グリス
リチウムグリスよりも長寿命で極圧耐熱性に優れるので
リチウムの限界を超える部位に使用し
ドラシャグリスとして純正採用されているものもあるようです。
注意点として熱や酸化により硬化するものがあるようです。
一般的にリチウムよりやや高額になります。
150~180℃あたりまでの耐熱性があります。
④ベントン系グリス
ベントナイトというものを主としたグリスで高温用に使われます。
これにモリブデンを添加したモリブデングリスもありますが
連続で高温に晒された場合は硬化、乾燥する特性があり
定期的に硬化乾燥を確認する必要があります。
またモリブデングリスを買う時はベースグリスを確認する必要があります。
150~180℃あたりまでの耐熱性がありますが
前述の通り硬化乾燥に注意が必要です。
石油系グリスは他にもありますが、大まかにこの4種で考えれば良いと思います。
【モリブデングリス】
「あの黒いやつね~」というグリスです。
実はこれ、モリブデンがベースと言うわけではなく
リチウム、ウレア、ベントンなどのグリスに二硫化モリブデンを添加したものになります。
二硫化モリブデン(MoS2)が黒いのでグリスが黒くなっており
正式には「二硫化モリブデングリス」というものになります。
二硫化モリブデン(MoS2)が耐極圧性を持つ固体潤滑剤であり
高荷重の部分に使われますが
使う部位や目的によってベースグリスの種類やちょう度を確認しておく必要があります。
リチウム、ウレアをベースにしたモリブデングリスは乾かずに粘着潤滑してほしい回転しゅう動部などに適します。
ベントンをベースにしたスレッドコンパウンドは銅、グラファイト、モリブデンを添加しているものが多く
前述ベントングリスの特性上熱を受けても液状化せず乾燥しますから
ハブボルトに塗れば程よく乾燥して固体潤滑剤(モリブデンなど)が残り、カジリ防止をしてくれます。
注意点としては二硫化モリブデンのイオウ分がゴムや樹脂を侵す性質がありますので
使う部位や周囲に問題ないか、現物や整備解説書などで確認しておく必要があります。
モリブデングリスと言えばもう一つ
有機モリブデンを添加した「有機モリブデングリス」があります。
色はクリーム色や黄色で、リチウムやウレアをベースとしており
有機モリブデンは耐熱耐極圧性がありながら、ゴム、樹脂を侵さない性質ですから
樹脂の分野ではよく使われているようです。
欠点は値段が高く、二硫化モリブデングリスの10倍くらいになることです。
金属の潤滑を目的とした有機モリブデングリスも存在します。
職場の設備にもウレアベース有機モリブデングリスを使っており
淡黄色の優しい色は頼りない感じがしますが(笑)潤滑性能は二硫化モリブデンを遥かに凌ぐものです。
最近ではウレアやリチウム複合をベースとした有機モリブデングリスでありながら
価格は二硫化モリブデングリスの5倍程度に抑えられたものも出ており
二硫化モリブデングリスを凌ぐ耐熱性、潤滑性極圧性を誇り、ゴムや樹脂を侵さないようですから
より性能の高いドラシャのグリスとして注目しており
手持ちのレーシンググリスに迫る耐熱200℃オーバーでありながら
価格はレーシンググリスの1/4というものを現在手配中です。
肝心の潤滑性能がどの程度のものかも含め
性能が良好であれば報告したいと思います。
ひょっとすると既に純正採用されているのかもしれません。
【高性能グリス】
別名「レーシンググリス」と呼ばれるものですが
メーカーカタログを見ても「レーシング・・・」とは謳っていないものが多く
高性能グリスとして挙げられており、価格が一桁違う程高額なものが多いです。
モータースポーツチームやショップに紹介されているものもありますが
値段はやはり一桁違います。
通常使用のグリスではもたない部分にレーシンググリス(ウレア系とALコンプレックス系)を使っていますが
普通のウレア系が180℃程度のところ、レーシングのウレアは250℃まで使用でき
その温度域でもグリスの粘着潤滑性が衰えない性能には素晴らしいものがあります。
レース前の連続テスト走行(ALT連続30周全開走行テスト)では
フロントドラシャアウターのグリスが耐えきれずに液状化?して漏れたため
レーシングのウレアを入れて本番に臨んだところ
ドラシャブーツこそ熱で溶けてしまいましたが、グリスは液状化もなく耐えてくれて
レースを問題なく走り切ることができ
終了後に700kmの高速走行をも難なく走り切って帰還できました。
ちなみにドラシャは当時でさえ約20万kmノンオーバーホール品でしたが、今でも健在です。
グリスごときでレースの為だけに高額投資しましたが
200kmオーバーの高速バトル中にフロントドラシャがトラブった場合
最悪は命に関わることになるため、安い出費であったと思います。
ここで勘違いしたくないのは
どこもかしこも高価なレーシンググリスを使えばよいということではなく
より過酷な使用のために性能が必要、という部分に使うことがよいと思います。
また、レーシンググリスだから長持ちするとも限りません。
性能限界や時間に達すれば交換しなければならないことは
普通のグリスと変わらないと考えた方がよいでしょう。
普段のタイムアタックは連続周回しないため
ドラシャのグリスは通常のリチウム複合ハイグレードで充分持ちこたえます。
これでFSWやTC2000でもタイムアタックならば自車では問題は起きていません。
【どこに何を使うのか?】
整備解説書に記載がありますので、指定グリスを確認し、使用すれば間違いないでしょう。
ただし指定グリスの種類、ちょう度などがわからない場合がありますので
ディーラーで尋ねると教えてもらえることがあります。
行きつけのショップやエキスパートに尋ねることがもう一つの確実な方法になり
純正指定と同等の代替品や、より良いグリスを教えてもらえます。
【グリスのちょう度】
粘度と言いかえて良いと思いますが、つまりグリスの硬さになります。
これには「ちょう度番号」と「ちょう度」の2種類の表記があります。
多くは「ちょう度番号」で表され「0番、1番、2番・・・」と呼ばれ、番手が大きい方が硬くなります。
しかし「ちょう度」で表記されている場合があり、数字が大きいほど柔らかくなりますので
これがややこしい話にしています(笑)
「ちょう度番号」と「ちょう度」の関係を以下に記します。
ちょう度番号:00→ちょう度:400~430
ちょう度番号:0→ちょう度:355~385
ちょう度番号:1→ちょう度:310~340
ちょう度番号:2→ちょう度:265~295
ちょう度番号:3→ちょう度:220~250
車には1番か2番を多く使うように思いますが、適材適所になります。
流れにくい方が良いので番手を上げたくなりますが
硬いとグリスの回りが悪くて充分に潤滑できないことがあり
番手(ちょう度)を確認したうえで使用しなければなりません。
自車ではドライブシャフト、ペラシャなどに2番、その他は1番を使用しています。
【グリスの混合】
基本的にはやめた方が良いでしょう。
特に異種同士のグリスを混合した場合は変質することが多いので
元々のグリスが不明な場合は、古いグリスを完全に取り除いてから
新しいグリスを入れた方が良いと思います。
【寿命、交換の判断】
オイルよりもやっかいなのがグリスの寿命判断です。
メーカーや専門機関などは分析装置による測定値で判定できるようですが
我々一般人もプロショップも分析など出来るものではありません。
経験値と五感を使っての判断になると言っていいでしょう。
①目で見て
一番は色具合になると思います。
元の色に対して黒ずみや焦げ色、水分混入による白濁など
明らかに変わったという時は寿命と判断してよいと思います。
さらに流れ落ちや滲み出しが認められたり
乾いてみずみずしさが失われているようであれば寿命を考えます。
②触って
触って粘度を確かめることも有効です。
シャバシャバ感や逆にカサカサ、コテコテ感を新油と比較します。
③匂いを嗅ぐ
酸化劣化によるものと思われますが
新油と比べて臭みが増していたり、ドブ臭さを感じたり、屁のような臭さがあったり(笑)
劣化や異常を匂いでも感じ取ることができます。
④音を聞く
グリスを塗布した部位を動かして音で判断できることもあります。
いわゆる異音を感じた時はグリス切れや寿命と見てよいと思いますが
音が出るような場合はやや手遅れの場合もあります。
音が出ないうちに他の方法での確認が良いと思います。
⑤味をみる
これは冗談ではなく、上記4方法で判断がつかない時に
新油との味比べで判断をする方法のようで、とあるチューナーからお話をうかがいました。
僕は・・・やっていません(笑)
⑥定期交換
整備解説書の指示に従った定期交換もありますが
これが一番正しいとは限りません。
過酷な使い方をする場合はそれよりも早期に寿命になることも考えられます。
逆にまだ問題ない所まで替えるのは不経済でもあります。
自身による五感+プロの判断で決めると
確実かつ経済的で納得できる判断になると思います。
いずれの方法にしても「もう替えた方が良いな」と少しでも感じた場合は
寿命として考えて交換や補充を行うことが良いと思います。
以上私の知る限り、経験の限り挙げてみましたが
グリスも車に重要な潤滑剤であり、適切な使用が大事なことがおわかり頂けたことと思います。
不具合などを感じられる場合は、まずはプロに相談のうえ診て頂くことをお勧めします。
素人の体験に基づく説明ですので、間違いや現在のグリス事情と異なるものもあると思います。
識者、経験者の方や、そうでない方でも建設的ご意見などがありましたら
ご教示の程宜しくお願い致します。