
チームOnly BMW結成!?夏の耐久レースチャレンジ記
本誌で活躍のテストカーBMW E36-318isが、夏の12時間耐久レースを見事に走りきった。
7月に茂木で行われた「アイドラーズ主催」12時間+9分耐久レースに参加したのだ。
130台ほどのレース車輌が、12時間後のゴールを目指して走る耐久レースである。真夏のコースで競う耐久はドライバーにも車にも過酷なレースでもある。
話は春先の時期に遡る。
「BMWで12時間耐久にでませんか」と、BMWショップのテクノオート砂川さんからお話を頂いてトントン拍子に参加に向け企画が進められた。
チーム名は「Only BMW砂川レーシング 」。
参加車輌は、E36-318isとE87-130iと2台体制で決定。サポートは耐久レースに実績のあるTASさんが受けてくれた。
ドライバーは、募集して集められた21名のレース初心者から熟練者までのBMWオーナー達である。
2台に10名と11名のドライバー編成となる。公式には最大12名制約なので問題はない。無理なく耐久を走れる一端がわかるレギュレーションだ。
今回のチームのコンセプトは「完走」。そしてBMWを駆使して耐久レースを楽しんでもらう事。
レース初心者には、座学と実戦を体験して貰うために「BMWポールシッター」競技の特別プログラム走行に参加して貰った。
サーキットを走りながら「周りの状況を見る」。これが難しいのだが、初心者といっても流石はBMWオーナー。「コース攻略のみに集中しないで、コーナーポストや回りの車の状況を見る」練習を勧めていくとみるみる上達していった。
作戦会議のミーティングを行うのだが、初めての方の緊張感が半端ではない。
リラックスをさせる為にBBQを行いながら、互いの親睦を深めチームとして結束を深めた。チーム員は30歳後半過ぎの大人ばかり(大学生も1人)仕事を忘れ、初めてチャレンジする耐久レースの意気込みや走り方など、深夜遅くまでワイワイと話し声が聞こえていた。130台のレース競技は想像もしない状況、例えば1つのコーナーに4、5台もの車が同時に進入する様子も予想され、走りのミーティングも初心者には驚きの連続だが、未知へのチャレンジに目が輝いていた。このような時間も耐久レースを楽しむ一つのファクターでワクワクする時間を共有できた。
完走を目的に無理せず2ピット作戦を取ることにした。1人25分前後を2回の走行になる。
合計で22回。最後の時間を計算すると3回目を走るドライバーが2人ほど必要になり、これは当日の状況で指名する事にした。
レギュレーションで、1時間以上連続して走れないのとガソリン40㍑でスタートし、後の給油が1度に20㍑と指定がある為に、ピットインが最低でも11回は必要になる。これは耐久レースをより面白くするルールを用いているのだ。私達は11回余分にピットに入る事になるので、諸々の計算をすると「is」は60位「130」は40位以内が予想された。
順位は目的ではないので今回はドライバーにこの情報は伝えていないでおいた。折角のレースだから順位も気になるが完走が第一目的だからだ。
12時間走る事は人にも車にも過酷であり、日常では思いも寄らぬ機械的トラブルに遭遇する。
万全を期すためにTASでは連日車輌調整に追われ、カラーリングも綺麗に済ませ、後3日後にレースと言う最終点検で大きな不具合を見つけたのである。
大丈夫と思われたリアブレーキのキャリパーのインナーキットのゴムカバーが硬化してボロボロになっていたのである。このまま放置していればブレーキシリンダーが飛び出たままの状態になり動かなくなる恐れがある。
社員一同慌ててBMW社や各所に連絡を取るが、マイナーなパーツのためにストックは無く、最悪本国オーダーに!本国オーダーとは「間に合わない」事を意味する。ここまで用意していたのに、それだけは何としても避けたい。
一生懸命探して日本に1個存在しているパーツを見つけたのだ。ヤッタ!と喜びもつかの間、1個と言う事は1セットでは無い?祈る気持ちで翌日とどいた小包から2個のパーツが転がった時に、優勝したかのような歓声がTASファクトリーにこだました。
迎えた当日、朝4時に指定ピットに全員集合し、テントの設営や車の用意や準備にそれぞれ忙しい時間を送っている。
ピットは9チームが仲良く使いアチラコチラで御挨拶が。スタート順位は抽選。順位は気にしない完走目的とはいえ、やはりよい順位でスタートしたいね、とチームで話した矢先に、ポロッと出た抽選玉の数字が115番手。「130」は後ろから数えた方が早い順位になってしまった。そして「is」はラッキーにも46番手。
さぁ、グリッドに並べる時間がやってきた。
2台、それぞれチームで手押しし指定された順番の位置に並べる。
茂木のストレートに一斉に参加車輌が和気藹々と手押しする光景は、これからレースと言う緊張感とは正反対にアットホーム感に包まれ、見知らぬチーム同士も笑顔で声を掛け合い、あちらこちらで写真撮影大会が始まり、まるでピクニックのように楽しくほのぼのとした心地よい時間が流れる。
が、各チーム1名だけ強張った表情の仲間がいた。
そう、スタートドライバー達である。彼らは皆、ストイックな表情を浮かべ、これから始まる12時間の耐久に挑む準備を一人整えていた。そんな緊張感と和やか感が入り混じる、爽やかな夏の早朝の日差しの中スタートは切られた。
ローリングスタートとなり、参加クラスにより先導車がグループ毎に引っ張るので大きな混乱も無く綺麗にスタートをした。
ここでチームを紹介。「130」ドライバーは、*間、*谷、*野、*谷、*澤、*井、*原、*木、*渕、*山、*口(敬称略)車は、エンジン5000回転をリミット。タイヤ、オイルは無交換。タイヤもエンジンも酷使せずにスムーズに燃費を気にしてエコラン走り。
「is」ドライバーは、*村、*谷、*川、*波、*野、*井、*田、*戸、*館、*橋(敬称略)
車はエンジン回転縛りなし。後は同じくタイヤ、オイル無交換でスムーズに走る。
タイムは「130」は、2分30秒~50秒。「is」は、2分40秒~3分10秒を予想。
これは、ドライバーの技量により、燃費走りに徹してもらう班とスムーズに走ってもらう班に分けてもらったので幅があるのだ。燃費が今回大きな鍵となる。ガス給油毎に5分のストップタイムを課されるので、後半にガソリンをどれだけ貯められるかがポイントだ。5分といえば2周分に相当する時間を取られてしまうので燃費走行もポイント。
「is」は茂木では速いタイムが出ないが、燃費がよいのでトータルで周回を重ねていける。「130」タイムは良いが、その分、燃費が悪いのでどれだけ残量を残して後半に繋げられるかがポイント。
今回の耐久で戦うべきところは自分自身達である。
車輌達と競い合うレースだが、スピードレンジが違うため、速い車には上手に譲るようにし、遅い車にはストレートで抜くように走りを組み立てるのである。先々を見据えてエコランに切り替えたりするのである。
が、レースはなかなか思い通りに行かないものである。それを各自、与えられた環境で努力して次にバトンを渡していく過程が耐久レースの醍醐味でもあるのだ。
1時間経過順位は、「is」は104位。「130」は、74位。
早い時期にSC(セーフティーカー)が入り「130」は緊急ピットインを敢行。SCは1周5~6分程をかけて走るので、ストップタイムが1周分で済む計算でガソリンを補給できると判断した。「is」は燃費を気にせずそのまま走らせる。
結果、2時間後の順位は「130」は21位とジャンプアップに成功するが、ルーチンの燃料給油がある為にその後は55位前後に落ち着いた。「is」は90位前後をキープ。
乗車しているドライバーだけがレースを戦うのでは無いのが耐久である。
待機ドライバーは順番で仕事があるのだ。ガソリンを買いに行く、サインボードを提示する、時計を計る、ガソリンを入れる、携行缶ホースを固定する、消火器を構える、等と役割分担をして戦うのである。10名チームのありがたさは、人数が多い分ドライブ後の休憩が1時間取れる所で十分にドライバーを休めさせられた。
しかし寝不足、気温、と疲労は各自を襲う。そこはチームワーク。元気なメンバーが率先して担当を変わりサポートをしあう。一つの目標に向かってチームの結束がさらに強くなってきた。
今回、栄養士の女性陣が食堂隊を結成し駆けつけてくれた。自分で弁当を買い、自販機で飲み物を買ったりする手間や疲労が省けたばかりか、三食やおやつ等、夏場の疲労を考えた栄養メニューをテントで作ってくれチームのオアシスになった。ご飯を食べて元気モリモリ、後半戦に向かう。
ドライバーが一巡した6時間後の順位は「is」は79位、「130」は58位。
各自、130台でのレースの戦い方を実戦で理解し完走が見えてきた。
そこで疲れが出やすい後半戦を、緊張感を持ち、さらに士気を高めて貰うために当初の予想順位「is」60位「130」40位を伝えた。疲れの中に、もう一つの目標が与えられ、少しでも順位を上げる意欲が疲労を吹き飛ばしてくれたようだ。皆、表情に元気が戻ってきた。
「is」は作戦を変えずに、燃費のよさを活かしてそのまま丁寧に走る。「130」は、ここにきて車の燃費データーが揃った。
車の燃費計の正確さも驚きだ。ノーマルタンクなのでガソリンの偏りでガス欠症状が出るのをどの残量で起こるかも判った。そしてドライバーが稼いでくれたガソリン残量が生きてきたのだ。これまでドライバー交代毎に給油をしてきたが、データーが出たところで2回ピットインにつき1回の給油のトライをする事に。
「is」は順調に走行し着実にステイントを重ねる。10時間経過で60位まで浮上してきた。やはり燃費のよさは素晴らしく、タイムが3分ほどの走行でもトータルで順位を上げてこられる、耐久レース自体の面白さの醍醐味を感じる。
「130」もドライバー役割がハッキリしたのでもう一つの目標に向かってステイントを重ね10時間経過で36位に浮上。
夏の日差しが強かった日中から一転、夕暮れを過ぎると涼しさと共に暗闇がコースを包む。
ライトオンの指示と共に、私達はゴール時間の20時09分にガソリンが1周分残す計算を2台とも立てラストは給油をせずに走る作戦を立てた。
12時間のゴールも見えた最終ステイント前で「is」も「130」もドラマが起きた。ピットインサインにドライバーの反応が無い。夜になりピットのサインが見えにくいのだ。
ようやくドライバーも気がつき、共にピットインしたが、燃費の計算が見えなくなってしまった。緊急に最終ドライバーとも打ち合わせをし、無理をしないよう燃費走行を指示して送り出した。
ゴール時間が近づき、それぞれのピットから耐久の仲間達がサインガードに向かい、ラストランのエールを送る。
また、ピットで修理や最終ステイントを走れなかった車たちが、ピットロードを仲間で押して、チェッカーを受ける光景は感動的だ。ここまでくるとレースに参加する仲間同士一体感で包まれ、参加者全員に対して声援を送っている。
チェッカーフラッグが振られた。12時間と9分のそれぞれの戦いの終わりである。
「is」が通り過ぎ「130」が来ない。本当に来ない。
「ガス欠か」「トラブルか」と誰もが最悪の結果を思った瞬間に、力なくストレートを帰ってきた「130」。
そのままピットエンド付近で車を停めた。チーム全員で駆け寄りドライバーを労い、皆で押してピットに帰り着く。ちょうど「is」もピットロードから帰ってきた。チームの皆、感動で顔が赤い。12時間耐久は、それぞれにいろんなドラマがあったようだ。感謝の言葉が途切れることなく、皆で完走を喜び、感動を味わった。ピットでは他のチームもそれぞれ感動で賑わっていた。
結果、表彰式で「is」は49位、「130」は28位。目的の完走が出来きた。順位よりも一緒に戦い、共有した時間の素晴らしさ、そしてBMWでモータースポーツを感じられた歓びに、それぞれ感動を噛み締めていた。