2010年06月27日
体躯がよく健康的な小麦色の肌をしたM・T氏は非常に逞しい。
エネルギーの豊満さを私はこの人からいつも感じる。
ただし、不思議なのはしなやかさすら感じる優しさを随所に感じさせてくれる点である。
待ち合わせ場所の浅草線浅草駅の地上出口に向かって、M・T氏がラフないでたち
で駆け上ってきたときに私はそれを感じた。つい一時間くらい前まで仕事をしていたとは思えないのだ。その不思議さを伝えようと思ったが、こういうのは印象としてふんわりと残しておいたほうが気分がよいような気もしたので、伝えることはなかった。
M・T氏との都区内逍遥はもう三回目になる。まもなく一年になろうとしている。
縁とは異なものとはいうが、私が軽い気分で書いたブログをきっかけとして、今日に至るまで非常によくしていただいている。ネット時代ならではの歓びともいえる。
今回はスカイツリーや砂町銀座という庶民的な商店街を軸にぶらりぶらりと散歩をするというプランを大まかに練っておいた。私どもは10キロ程度は平気で歩いてしまう種族なので、この程度の行程はまったくもって問題がない。
まずは隅田川を渡り、23区東部に向かう。
隅田川を身近に感じて育ってきた私にとっては、この川を見ると呼吸が穏やかになり、とても落ち着く。行き交う船や無数に交差する橋。橋上を歩く人、渡る自動車。
これらすべての風景が私の青年期の記憶の断片に深く刻み込まれている。従って、隅田川を越えて、東部地区に入るとなんだかとてもホッとする。
隅田川を越えてすぐの場所にアサヒビール本社がある。
筋斗雲を模した金色のオブジェが、見事に人間生理に欠かせない物体とみなされてしまったという非常に喜劇性の強いビルディングである。
本社付近を通り抜けると、小さな乗り物が見えた。はじめは張りぼてかなとも思ったのだが、どうやらそうではないらしい。
墨田区や区の中小企業・大学等が協力して開発した電気自動車らしい。
M・T氏も私もEVに乗ったことは無い。
とするならば、当然の帰結として「乗るべし」という回答が導き出される。
車体は鋼板でできており極めて頑丈。デザインも非常におしゃれである。オートマの機構を使っているので、極めて容易に運転できる。印象としては、アクセルを多少強く踏んだときに聴こえる電車音のようなものが新鮮であったし、その他は静謐そのものである。「すみだ次世代モビリティ開発プロジェクト」の一環として、産学官で共同して作られたEVカーはおもちゃではなかった。ステアリングも通常のクルマのように反応してくれるし、ペダルレイアウトはオートマ車そのままである。このプロジェクトに携わっている方々は非常に熱心なようで、説明を伺ったり、そのお話をしている姿を見るだけでとても微笑ましい。現在でも法規の問題がクリアできれば、公道走行はできるレベルだろう。そしてまた、墨田区のように細路地の多いところでは重宝するかもしれない。大手メーカーの新技術開発も素晴らしいが、こうした地域ならではの新技術開発というのも見ていて非常に気持ちがいいものだ。
東武鉄道というのは、服装に気を使わない自然体の人間のようでもある。なにしろ、ターミナル駅の東武浅草駅から一駅しかない業平橋駅にして、無機質な灰色コンクリートの上に古めかしい駅舎の屋根がぽつんとあるだけの非常に簡素な造りである。周囲には昭和の昔から連綿と続いている商店街が今も勢い盛んである。
スカイツリーはこうした下町風味が濃厚な地域に建設されている。
そのためか、私には通天閣のように思えてしまい、塔に広告塔でも入れれば似合うのではないかなと皮肉ではなく、心の底からそう思った。
似たようなことはM・T氏も考えていたようで、児童公園の椅子に座りながら塔としてのデザインや高い建物に対する私たちの感激性の薄さ等について論じた。児童公園に似つかわしくない話題である。
細路地を伝い、東武曳船駅に着いた。ここから東武亀戸線という短距離路線に乗って、南下しようという算段だ。都区内の路線にも関わらず、二両編成のワンマンカー。この辺りが東武鉄道らしいと思う。実用上の問題として現在の編成でもやっていけるとは思うのだが、たとえば、本線の亀戸乗り入れとか、亀戸駅でのJR路線との接続といった発想は一切ないのだろうなと思った。その辺りが東武鉄道の魅力でもあるのだが。
亀戸駅から、都電軌道跡の緑道を伝い砂町銀座を目指す。中途、緑道沿いの私の母校の正門までお付き合いいただき、私は束の間の郷愁を得た。この辺りまで来るとM・T氏も以前に近隣に住んでいたということもあり、お互いにとって馴染み深く、思い出深い道中となる。ただ、私が学生の頃、まさか逍遥という形で、M・T氏と歩を並べて緑道を歩くなんぞ思ってもいなかった。先がわからないからこそ未来は面白いと思うが、その好例かもしれない。
砂町銀座に寄る前に個人経営のおもちゃ屋に入ったり、砂町銀座周辺を歩いたりして、然る後に砂町銀座に入った。道路両側に商店が密集しているこの商店街は自動車が入ることができない。基本は歩行である。そこに威勢のいいお店や昔ながらの雰囲気を残す店舗が残されているのだから、こうした雰囲気を好むM・T氏が深く感動していたのが印象的だった。焼き鳥を一串づつ買って、路上で食べたが、こうした食べ歩きが非常に似合う商店街でもある。
本日の打ち上げ(?)ということで、その後居酒屋を探すが、適当な居酒屋が少ない(ごくごく小さな居酒屋やチェーン店ならばある)のがこの辺りの特徴で、私も近辺には居酒屋はないのではと思っていたものの、M・T氏の勘に頼ることにした。というのも、日ごろから全国を出張しておられるM・T氏ゆえに、店舗選びの嗅覚が極めて発達していると考えたからである。
結果的に大成功だった。
寛げる十分なスペースがあり、庶民的で、特にお刺身がおいしい。
一先ず今日の逍遥達成を祝してビールで乾杯。ビールを二杯ほど飲み干したのちは、芋焼酎。
どうやら、M・T氏と酒の嗜好が似ているらしく、そういう点でも非常に心地よかった。
M・T氏との会話は実に多岐に渡る。クルマの話から不動産の話や科学の話など。
M・T氏は実は相当なクルマバカなのだけれども、どこかに知的な匂いを漂わせている印象がいつもあって非常に上品な感じを受ける。加えて、その語り口が柔和なために、音楽でも聴いているかのように声が聞こえてくることがある。
そんな中で酒を嗜むという心地よさというのはこの上ない。
今回もご馳走に預かった。大いに感謝したい。
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M・T氏との逍遥 ~スカイツリー・砂町銀座~
Posted at 2010/06/27 10:02:52 | |
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