●現代のGX81マークII
色々取材して、試乗してやっと後編。
前編にて、わざわざプラットフォームを変更してまでも
日本国内専用でハリアーを発売する意味について解説した。
国内の若年層男性をターゲットに
「頑張れば手が届く高級感のある車」
を目指して開発されたハリアーが特に力を入れたのは、
「リッチに見えること」で間違いないだろう。
特に内装は写真で見ても手で触れてみても
クラウンにも引けをとらないレベル。
(逆にクラウンが新奇性のある高級感を提供できていないのかも。
私はこの車に
GX81を思い起こした。
GX81は1988年に発売されたマークII三兄弟のことである。
後輪駆動、L6エンジン、4輪独立懸架という
高級車のメカニズムを採用し、バブルらしい柔らかなデザインの内装を
低く長くエレガントなスタイリングで包んだ往年のヒット作だ。
メインは中年男性であったが、当時は若者もこのクルマを羨望のまなざしで眺めた。
コロナやカリーナを羨望のまなざしで眺めることは無くとも、
マークII三兄弟は
手が届きそうなハイソカーとして一定のポジションがあったのだ。
ハリアーは、1980年代産まれの我々にとってのGX81ではないかと感じた。
GX81を愛して止まないマニアの方々からは
「ライトバンと高級セダンを一緒くたにするとは何事か」
と厳しく叱責されそうだが、私は心から、ハリアーは現代のGX81だと思う。
さて、私が初めてハリアーの諸元値をで見る限り、
3代目ハリアーが犠牲にしたものは「走り」だろうと解釈した。
前編でも触れたが、ハリアーのパワートレーンのラインナップ
2000ccガソリン(272万円~)と2500ccハイブリッド(361万円~)の二種類。
ネット調べによると一般的な30歳代前半の独身男性の平均年収は431万円とのこと。
自動車の車両本体価格が年収の1/2~1/3程度と言われているので
彼らはローンを組むなどの「背伸び」をしてガソリン車が射程範囲となるわけだ。
ハイブリッドはシステム最高出力が200psを超えており余裕あるパフォーマンスを持つ。
一方でガソリン車は2000ccで151psという平凡な出力。
敢えて言い切ると、一般的に車両価格300万円以下の乗用車で
「外装良し、内装良し、走り良し」と三拍子揃うことはあまり無い。
どこかが良ければ、どこかはそれなりと言うのが現実の世界だ。
例えば走りがいいクルマは内装が良くない、というのはよくある話だ。
ハリアーの場合は、
外装と内装に対して肩が壊れるくらいの全力投球をしている。
選択と集中と言うやつだ。
一方で前編にも書いたが高級クロスオーバーを名乗る割りに
エンジンのスペック自体は少し寂しいものがある。
●動力性能の机上検討
一例としてパワーウェイトレシオでハリアーの走りを考える。
パワーウェイトレシオとは車両重量を最高出力で割ったものだ。
数値が小さければ小さいほど良い。
一般的に10程度あれば十分とされ、
数値が小さいほど力強い、或いは速い車だと言える。
本当はタイヤ径、ギア比などが関係するため、単純比較はできないが
計算が簡単で取り扱いやすいため、パワーウェイトレシオで考えることとした。
この視点でハリアーのガソリン車を見ると、パワーウェイトレシオが寂しい。
ガソリン車は10.33kg/ps~10.66kg/psで、ハイブリッド車は8.88kg/ps~9.13kg/ps。
先ほどの指標で言えば、
ガソリン車といえども
十分レベルの動力性能は確保できていると言うことになる。
以下に現行トヨタ車の量販グレードの値を列挙する。
プリウス:1350kg/136ps=9.92kg/ps
アクア:1080kg/100ps=10.8kg/ps
ヴィッツ1.3L:990kg/95ps=10.42kg/ps
パッソ1.0L:910kg/69ps=13.19kg/ps
ノア2.0L:1570kg/152ps=10.32kg/ps
プレミオ1.8L:1230kg/143ps=8.60kg/ps
強いトーションビーム2.4L:1890kg/170ps=11.11kg/ps
(参考)ミライース:730kg/52ps=14.03kg/ps
ハチロク2.0L:1230kg/200ps=6.15kg/ps
マークX2.5L:1510kg/203ps=7.44kg/ps
クラウンHV:1660kg/220ps=7.55kg/ps
IS350:1640kg/318ps=5.15kg/ps
RX450h:2100kg/299ps=7.03kg/ps
RX270:1820kg/188ps=9.68kg/ps
単純比較すると
ガソリン車のハリアーはアクアやヴィッツ、
ノアと同等の動力性能であることが推測される。
もっと、時空を超えて80年代のトヨタ車比較すると、
GX81マークIIグランデ(ハイメカ):1350kg/135ps=10kg/ps
GS131クラウンロイヤルサルーンSC:1580kg/170ps=9.29kg/ps
SV21カムリZX2.0L:1210kg/120ps=10.08kg/ps
AE91カローラSEサルーン1.5L:960kg/94ps=10.21kg/ps
AE92カローラGT1.6L:1020kg/120ps=8.5kg/ps
EP82スターレットソレイユL 1.3L:780kg/82ps=9.51kg/ps
ST170コロナEXサルーン1.8L:1060kg/105ps=10.09kg/ps
RZH101ハイエース 2.4:1810kg/120ps=15.08kg/ps
(参考)L200SミラJ:620kg/40ps=15.5kg/ps
現行車と比べると、過去のモデルは多くが10を切っている。
今よりもスペックを気にする人が多かったようで、
マークIIは示し合わせたように10ピッタリである。
少し、横道に逸れてしまうが、気付いた点がある。
1.現代のモデルと80年代のモデルを比べると、
セグメント間のパワーウェイトレシオのばらつきが大きい。
80年代車は概ね10付近にいるが、現行車はバラバラ。
2.高級車の数値はグローバル化、排気量増加で軒並み向上している。
3.燃費最優先のベーシックカーは25年前よりも大幅に悪化している。
以上のことがわかった。
ハリアーは、周囲のスペック厨(自分も含めて)が心配するほど、
走りっぷりが悪いわけではなさそうだと言える。
総じてヴィッツ、ノアクラスの走りなら、
ほとんど高速道路を使用する機会のない
ターゲットユーザーから不満が出ることは無いだろう。
私の周囲の若者層を見てみると、
運転経験のある自動車が近年の軽や
コンパクトカー、親の所有するミニバン、
或いはレンタカーくらいのものだ。
よく走る旧型車や、スポーティモデル、
高級セダンに乗っている若者は少数派だ。
ハリアーの動力性能の設定の仕方は必要十分、
という範囲を十分満たしていそうだ。
●実際に試乗
売れ行きが良い車のため、試乗車探しに苦労するかと思いきや、
地元のトヨペットではハリアーの試乗車があった。
私が試乗したのはガソリンFFのエレガンスだ。
おそらく最もよく売れるグレードになると予想される。
運転席に座ってエンジンを始動するが、座った瞬間に感じる高級感は
デリカシーの無い始動音によって少々テンションが下がる。
かつてのGX81はセルモーターの音がクラウンと同じだった。
擬音語で書くと、
「チュイーンチュチュチュ、ざーーーーーーーーん」というような始動音。
セルの音がカローラクラスとは明らかに違い、
さらにエンジン始動後もファンが回り、とてつもなく有り難い音を出す。
かつて我が家で使用していたライトエースノアも同じ音がして
一人で喜んでいたのはここだけの話。
ハリアーの場合はノアやウィッシュ、
ヴィッツやカローラと同じような音質だ。
恐らく、関係部品が全部同じだから同じ音しかしないのだろう。
残念ではあるが、まぁ、EV時代にエンジン音で高級感を感じる
なんていう事そのものが旧態依然たる感覚なのかもしれない。
シフトレバーをDに入れ、敷地から道路へ出る。
少し小さくなったとはいえ、堂々の全幅1835mm。
直角に曲がるときなどは少し気になる。
車幅もさる事ながら視界もそんなに良くない点が気になる。
ピラーを細くする努力も行っているが、
特にドアミラーも横長のデザインに変わったため、
天地方向を十分に写さないことも気になる。
先代までのハリアーはドアミラーの天地幅が大きく見やすかった。
一方新型では車線変更時に都合が良い様に鏡面角度を合わせると、
車庫入れの際に後輪が見えないため、不安になるシーンがあった。
更に、ピラーから鏡面までの距離が離れていることで
視線移動量が大きくなるために、若干のストレスを伴った。
ドアミラーは空力上小さくしたくてたまらない部品である。
昨今のように
空力性能を極限まで突き詰める時代になると、
ドアミラーは真っ先に槍玉に上がる部品となることは想像に難くない。
前方投影面積を稼ぐには
極力ミラーの体格を小さくしたい。
しかし、ミラーには
法規上映さねばならないエリアがある。
このため、近年のドアミラーは天地幅が狭く、
車両上外側は大きく削られた鏡面形状をしていることが多い。
これでも法規を満たしているので法律上は問題が無いのだ。
気の利いた?メーカーになると、
鏡面の下部の曲率を変えて
下まで映し出すように配慮しているものもあるが、
結局、
見にくくて使い物にならないので結果は同じことだ。
空力性能でピラーが寝そべるだけでなく、ミラーまで小さくなる。
燃費への要求は日に日に厳しくなる。
良いに越したことは無いのだが、
いつか
実用性重視へ回帰するときが来るものと期待してしまう。
ピラーと鏡面の間も隙間を空けておかないと風切り音が厳しい。
だから近年の車ではドア付けアウターミラーがもてはやされているのだ。
すっかり熱くなってしまったが、軽やミニバン、
コンパクトからお乗換えのハリアー購入予備軍の方は
視界が良くないことをしっかり念頭に置かないと、
板金屋さんのお世話になってしまうのでご注意を。
●動力性能の検証作業
さて、再三に渡り心配した動力性能は、
普段使いでは問題が無いレベル。
アクセル踏めば走り出す。ちょっと感動。
信号ダッシュをすると
回転がうわーっと上がりつつ、速度が上がる。
CVTの常で加速感は少ない。
ただ、CVTのセッティングも100点満点ではないにせよ、
ずいぶんと変速による空走感が無くなるよう多少配慮されている。
ハリアーは元々走ることに重きを置いていないので、
アクセルを踏んで走り出すのだから、
これはこれでよかろうという気持ちになった。
スペックを見て心配していた力不足感は、まぁ許容レベルであるということが分かった。
ただし、多人数乗車をした際はアクセルを深く踏み込む必要はある。
そもそも、多人数乗車をしていてぶっ飛ばしていると、「乱暴な運転をするな!」
と同乗者からの非難に晒されてしまうだろう。
例えば恋人を乗せてデート先のカフェの話をしながら、
車を流すというシチュエーションでハリアーはその責任を全うすることは可能だ。
乗り心地はかつてのトヨタ製高級車のように
「ふにゃ脚」が健在だ。
ここでも私は(ファンに怒られそうだが)GX81を思い出してしまった。
ふんわりした乗り味は、コンパクトカーの堅い乗り心地に慣れたターゲット層、
或いはかつてのトヨタの高級車を愛した中高年層には懐かしい乗り味だろう。
当たりが柔らかく、高級車だなぁと実感できるよう演出された乗り味だ。
また、静粛性もなかなか良く、劇的な違いは無いにせよ、「あ、違うな」と思えるレベルだ。
雑誌記事を読むと
60km/hまでの快適性を最重要視せよという
チーフエンジニアの指示があったそうだが、
なるほど、高速道路をかっ飛ばすわけでもなければこのスタビリティを
犠牲にしたチューニングはありかも知れない。
ただ、コンクリ製の端の継ぎ目を渡るシチュエーションで
後部がヒョコヒョコ落ち着かない動きをしたことは気になった。
高級車らしいNV、乗り心地を持つハリアーらしからぬ振る舞いだったからだ。
ハリアーの乗り味をまとめると、
動力性能は不満が出るギリギリの水準を確保できていて、静粛性は期待通り。
乗り心地はスタビリティを削ってトヨタ旧来の柔らかいふにゃ脚を継承している。
ハイブリッド車も試乗車があったので運転させてもらったが、
こちらは
クラウンHVとよく似たフィーリングだ。
かなりバッテリーで走ろうと頑張ってくれるため、燃費は良さそうだ。
アクセル全開にしたときには、確かに速いが、その直前までは
燃費重視の印象。
それゆえ、197psのトルク感があるかと問われると疑問が残る。
確かに2000ccガソリン車よりは力はあるのだが、
2500ccなりのトルクフルな走りが味わえるかと聞かれると回答に困ってしまう。
もちろん、
旧型の麻薬的な加速は味わえない。
営業マンも言っていた事だが、
「2000ccガソリン車はそこまで走らないわけではない。普段乗りならこれで十分」
というのが私も共通した感想になる。
ちなみに、比較対象として新型ノアにも試乗してみたが、
セッティングの違いなのか
ノアの方が出足がよく速い印象を持った。
見た目にはノアの方が走らなさそうな印象を持ったが意外であった。
(恐らくノアは多人数乗車を考えて変速スケジュールが引張り気味なのであろう)
●でも・・・お高いんでしょう?
最後に見積もりを取った。
グレードはELEGANCEのFF。
MOPはレーダークルコン(13.6万)、寒冷地仕様(3.4万)。
DOPはマットとバイザー、ETC、スマートナビ、
バックガイドモニター、コーティング、計32.1万円
もろもろで支払い総額は税率8%で358万円!
車両本体価格266万円(税抜き)と言えども、結構高くなってしまうものだ。
私のようなものにはとても支払えない高額な車になってしまった。
とはいえ、前編でも書いたが本格SUVのプラドや
高級セダンと比べれば相当にお買い得だ。
走りの力強さに目をつぶれば、内装は高級車そのもの。
商品としてはなかなか良いところを突いていると感じた。
さて、ハリアーは今のところ、
最上級のPREMIUMが一番人気だそうだ。
元々ハリアーを見に来るお客さんはハイブリッド目当てで来るそうだが、
361万円~447万円という価格に尻込みしてしまう。
そこでガソリン車に目をやると
ハイブリッドのスタート価格以下で
ガソリン車の最上級グレードが買える、と考えるらしい。
そこでガソリン車のPREMIUMが一番人気となるのだそうだ。
価格と装備のバランスを考えれば25万円安いELEGANCEが良いように思うが、
これもアベノミクス経済のなせる業なのだろうか?
現在、PREMIUMは9月納車、ELEGANCEは7月納車になるという。
世界をターゲットにしてパフォーマンスを磨いた
CX-5やフォレスターというライバルと比べると、、
ハリアーは国内専用をいいこと?に思いっきり独自の世界を切り開いている。
国内専用車は手抜きだ、とかパフォーマンスを落とすとはけしからんという
うるさ型のファンが非難を浴びせかけようが、ハリアーは十分に個性的だ。
もしハリアーがCX-5のように優れたメカニズムを持っていたら、
或いはフォレスターのような卓越したオフロード性能を持っていたら、
内装がしょぼくなるか、400万円クラスになってしまうだろう。
このハリアーをまとめた責任者はそういう部分をなかなか分かっているのだなと思う。
RAV4のコンポーネントをうまく利用して目に見えるところは徹底的にハリアーらしさを追求し、
走りはギリギリの線で成立させてふんわり走らせ、税制面で有利に立つ。
よくよく考えてみるとトヨタの綿密な作戦が垣間見られる。
よって、
私個人としてはハリアーというクルマは嫌いではない。
お前は買うか?と言われると好みではないが、
このクルマに魅力を感じる人がいれば、
或いは、見栄えのする車が欲しいという人には自信を持って薦められる。