●安up!
パッソ。
デュエットのFMC版として2004年にデビューしたパッソは健康的なパッケージングと新開発の1KR-FE型エンジンを引っさげ、女性の心を鷲掴み。
↓初代パッソの感想文はこちら
パッソ
2010年には初のFMCを実施し、よりフェミニンカーとしての地位を築いた。ライバルは軽自動車というキャラクター上、燃費と分かりやすさが最重要視される。二世代目は従来の標準車に加え+Hana(ぷらすはな)という、「華やかさ」を訴求したシリーズを追加した。
「カワイイ」を追加した専用内外装は男性が乗るのが気恥ずかしいほど。なんと美肌を実現する美容グッズまでディーラーオプション設定してしまった。「女性は性能にはこだわらず本当に欲しい物は割高でも買う」という傾向を見込んでライバルに対し、走る曲がる止まるの性能や質感を落とす代わりに、色と気遣い装備を他社よりも輝かせることにしたのだ。
相場よりもずいぶんと割高な+Hanaは若い女性には大人気を博した。現に会社の後輩、会社の同僚の妹など20代前半の女性がカラフルな+Hanaを愛用している。一方でパッソ標準車は重要な顧客層であるシニア層からの支持を失いつつあった。+Hanaに対する標準車は、ごくごく最低限の装備しか持たない上に、コストのためかぼんやりしたデザインで価格訴求以外の魅力に乏しい中身になっていた。
2014年、初のマイナーチェンジを受けた。+Hanaは元々好評を得ているので従来どおり「カワイイ」を加速させればよい。
一方、シニア層からの支持を高めるべく、標準車は自動車らしさのアップを狙った。具体的にはヘッドランプの角を少し尖らせバンパーをup!を意識したカールおじさん風に変更。
上級グレードにはメッキモールをつけて自動車らしく見えるようにした。私はup!を高パッソと表現したが、何も賛否両論のカールおじさんバンパーまでパクらなくて良いじゃないか・・・安up!と言われたいのだろうか・・・・。とにかく、標準仕様はテコ入れが入った。
マイナーチェンジした新パッソの広告コピーは「ハートを磨け!」との事。クルマのハートとはエンジン!新パッソの1000cc3気筒エンジンは1KR-FEの型式は変わらないものの、大幅改良を受けて「タンブル流を生成する新形状の吸気ポート、クールドEGR、高圧縮比化などにより最大熱効率37%を達成。新エンジン搭載車はアイドリングストップ機能や、さまざまな低燃費技術とあいまって、従来型比で最大約30%の燃費向上を実現。」(ニュースリリース写し)実際の新パッソの公称燃費は27.6km/Lと第三のエコカーと呼べる燃費を実現した。
白変氏ブログ1
白変氏ブログ2
技術的なことは白変さんブログが詳しいので参照いただきたい。
トヨタのすごいところは熱効率37%というディーゼルエンジン並みの高効率エンジンをパッソというエントリーモデルに投入してしまうところかも知れない。私が学生の頃、習ったのは「ガソリンエンジンの熱効率は2割強、ディーゼルは3割強」みたいな教えられ方をしていたが、知らない間に技術は地道に発達していたのだ。ただ、どんなすごいエンジンが搭載されようともクルマとしてイケてない場合それは宝の持ち腐れと言える。
そこで急遽パッソに試乗することとした。
●キャラクターは不変
試乗したグレードは+HanaGパッケージ。さすがにCMをバンバン放映しているだけあって試乗車は1000ccが選ばれている。
車体色はピンク。内装もピンクゴールドでなにやら雑貨屋さんの中にいるような感覚。内装は完全にプラスチック一辺倒で特にドアトリムのプルハンドルは見た目には分からないが、操作しようと手をかけるとなんと手が触れる部分はリブむき出し。確かにインジェクション成型一発で出来上がるのだからコスト競争力は高いが、手で触れるところにそこまで割り切ってしまう部分は理解しがたい。
また、シートポジションを合わせた時に気付いたが、ベンチシートはシートバックが平板で肩甲骨のサポートが皆無だ。背もたれを立てて正しいドラポジを取るよう努めたが、ヘッドレストと頭部の距離は開き気味だった。安全面では褒められたものではないが、これはむしろ髪の毛を後ろで縛るポニーテールの女性には好都合かもしれない。
知り合いの女性は普段ポニーテールだが、運転のときにポニーテールのままだと肩が凝る(首を前に出さないとヘッドレストと髪が強干渉する)ため、運転時はヘアゴムを外しているのだと言う。しっくりこないシートバックがそこまで計算されているとしたら、私は評価しないがトヨタの気配りはすごいと言うことなのだろう。
始動してミラーを調整し、走り始める。国内の5ドア車で最小サイズを誇るパッソは狭い路地で取り回しが非常に楽だ。各ピラーも現代のクルマと比較すれば細い部類に入り、運転しやすい素質を備えている。特にベルトラインが低いのが良い。女性は男性よりも小柄な人が多い。スタイル優先でベルトラインを闇雲に上げると、小柄なドライバーでは死角が増えて危険性が増す。パッソのスタイリングは正しいと感じる。
ひたすらに軽いステアリングをシュルシュルと回して通りへ。流れに乗るため加速すると、まぁまぁの加速。69psで910kgというスペックでは軽ターボ以上の加速を期待してしまうが、NAで低速トルクがある訳ではないので実際はそんなに力強い加速はしない。1名乗車なら、許せる範囲なのかもしれない。
制限速度60km以内の一般道路ではほとんど計器盤内のECOインジケータが点灯している。瞬間燃費計が無いので燃費の良し悪しは分からないが、CVTの制御は完全に燃費指向型。
一般的な加速~定常走行時の振る舞いは、早めにロックアップON。アクセルを緩めると一気に減速比を高めて「ドッドッド」と3気筒の振動を容赦なく車内に入れる。その振動のレベルはMT車ならシフトダウンするよな、という程度。
加速する際にアクセルを踏み込むとロックアップが外れてエンジン回転数がポーンと上がり加速を始めるが、またアクセルを緩めると不快な振動がキャビンを包む。変速ショックの無いスムースなCVT!という売り文句だが、頻繁にロックアップのオンオフを繰り返し、定常走行時したらしたでE/G振動で揺すられるCVTの適合責任者は一回、自分でパッソを購入して毎日乗って見ればよいのではないか。
軽自動車の場合、常用回転数が高めなのでこうした振動は出にくいが、パッソをはじめとする低排気量CVTの登録車はこうした傾向が特に強い。しかしながら、30年以上昔のシャレードはきちんとバランスシャフトをつけていた。そろそろこの不快な振動も技術で解決する時が来ているのではないか。
ちなみにパッソにはアイドルストップシステムが装備されていて、うまく働けばアイドリング中の不快な揺れを源流対策でキャンセルすることが可能だが、どういうわけかパッソはキャビンが快適な温度の間もアイドルストップしにくい。運よくアイドルストップしても、ブレーキの踏力の変化に敏感すぎて私が停車中に少しドラポジを直しただけでエンジンがかかってしまった。私以外のドライバーも含めて信号待ちに踏力を一定に保っているドライバーがどれだけいるのだろうか。離した時はいざ知らず、踏み込んだだけでエンジンがかかってしまう挙動には閉口した。
とにかく3気筒特有の振動を消そうとする努力の感じられないパッソに対して私が出来る快適な運転方法は、発進時は目標速度をオーバーシュートするまでロックアップを外しながら加速。アクセルをスッと抜いて惰行。(CVTの制御で燃料カットするギリギリの回転数で転がる)速度が落ちすぎたと判断すれば再びロックアップを外して加速。この繰り返しで走ることとなるが、果たしてエコ以前にスマートな運転なのだろうか。
カタログ値を出すためだけの適合ではなく、例えばインパネに「エクセレントドライブスイッチ」的なものを設定してみてはどうだろうか。そのボタンを押せばEPS、CVT、電スロの設定が普通に走れるような適合に変わる。エンジンを始動すればエコモードにリセットされるよう作れば、問題は無いだろう。パッソほど動力性能を無視したいのならそれ位しても良い様に思う。
自動車専用道路を試乗した。加速車線では全開加速を試したが、NAの軽よりは速い。アクセル開度は高めだが市街地走行で感じた振動は感じない。マイナーチェンジでタイヤのサイズが大きくなった結果、フワフワした不安感は随分と影を潜めた。(交換費用が安い80タイヤは魅力的だったが)インターチェンジから流出する際、舵角を大きめにコーナリングしたが上体のサポートが無いシートのため少々不快に感じた。まぁ、うるさいことを言わず速度をしっかり落とすべきなのだろう。
●発泡酒を目指すビールは選ばれるか?
初代のパッソは優れたパッケージング、1KR-FEと4ATの組み合わせで力強さを感じる走りは、軽自動車との違いをしっかりとアピールできる商品だった。ところがモデルチェンジを機に「軽自動車化」「シニア商品化」が進んだ。
ディーラーの店長級の知人が言っていたパッソ論が興味深い。
「パッソとヴィッツのお客様は違います。パッソの購入者は娘に車を買って親が多いです。例えば大学入学を機に娘が免許を取り、車を買ってあげる(心配だから軽ではない)時に娘さんがかわいい!と選んでいただけるような車。だから、ボディは扱いやすく無くてはいけないし、シートも小ぶりでいいんです。娘さんがワタシにも運転できそう!と思ってもらえればいいのです」との事だった。
確かに長年車を売ってきた人の言葉には重みがある。
しかし、このパッソで軽との競合に勝てるのか。販売台数で言えば、例えばミラ(e:s、ココア含む)やアルト(ラパン含む)に負けている。安くてお洒落なお買い物クルマ、というだけなら軽自動車で十分だ。パッソが果たすべき役割は「登録車としての格の違いを見せること」・・・なのではないのだろうか。
発泡酒がビールの味を再現しようと努力するのは分かるが、ビールが高い税金をかけられたまま発泡酒の味わいを目指してどうするのか。だったら最初から発泡酒で良いのだ。パッソはビールとして産まれたのだから、価格は安くとも発泡酒では味わえない魅力を訴求すべきだと自分は思う。(例えば乗り味や、衝突安全性など)
●安「心」感は磨かなくていいのか?
安全装備も法規対応のVSCやRr席ヘッドレストや3点式シートベルトは装備されているものの、軽ですら5万円で付けられる衝突軽減ブレーキが設定されないばかりか、サイドエアバッグ+カーテンエアバッグは5.3万円のオプション価格とヴィッツの4万円よりも1.3万円高い価格設定をしている事も説明がつかない。鞭打ち軽減シートは1.0Xグレード、X-Vグレードには装備されない上、小柄な女性にこそ必要なアジャスタブルシートアンカーも全グレードで未装備だ。
信頼性分野でよく出てくるALARPの原則が言うところの「リスクが許容可能な領域ではないが、最高科学技術水準を以ってしても許容可能な領域までリスクを低減できる現実的な技術が無い、或いはリスク低減にかかるコストが実現されるリスクの低下と比較して著しく不相応であることが証明された場合に可能な限り最小限のリスクまで低減することで可とする考え方」に当てはまると言い切れるのだろうか。
例えば、衝突軽減ブレーキはレーダーを取り付けるためラジエーターサポートの変更が必要なので、マイナーチェンジ企画時に時代を読みきれていなければ間に合わない。企画が始まった時点で未来を見通す事ができなかったということだ。さらに、アジャスタブルシートアンカーはどうだろうか。実車を確認するとセンターピラーガーニッシュに予め「入れ子構造」(金型を組み合わせスタンプのように部分的に入れ替えて二品番を打ち分ける技術)を織り込んでいて、アジャスタブルアンカーがいつでも設定可能な状態になっていた。法規制が厳しくなるまでは笑顔でしらばっくれる気なのか。トヨタはカワイイだけでパッソのモデルライフを乗り切るつもりなのだろうか。
1000ccでありながら、+HanaのGパッケージなどは税抜き139万円という高価格。最低限のカーナビを付けてマットとバイザーをつけたら支払い総額176万円。確かにup!より安いが、FITの13G-Lが買える値段だ。ついついクルマを走行性能で評価しがちな自分には理解が難しいクルマであった。
●SAIに続く大幅テコ入れマイナーチェンジ
クルマのモデルライフを考えると、
フルモデルチェンジ→一部改良→マイナーチェンジ→一部改良→次期モデルへ
という流れが一般的である。
マイナーチェンジでは人気のある車種は変更箇所はヘッドライト、Frバンパー(含むラジグリ)、ホイールカバー、Rrコンビランプ、Rrバンパー、内装色、シート地、などの部品がアップデートされる。仕様は実際の売れ行きを見て最適化したり、乗り味をブラッシュアップすることがある。一方で、比較的大規模なマイナーチェンジを実施する車種もある。思いつく限り挙げた。
1.9代目クラウン
バブル絶頂期に発売したが、丸くて厚ぼったいRrビューに不満集中。
130系ライクなRrコンビランプ採用のため、Rrクオーターパネルの金型新設。
2.8代目カローラ
バンパーを上下に分割化して維持費低減を狙うも理解されず。
内装の質感不足も指摘されて、Rrクオーター新設。インパネ新設。
3.2015MY北米カムリ
売れ行きは良かったが、現代ソナタの猛追に対抗するため
ガラス、ドア以外の目に見えるパーツ維新。丸っこいデザインに。
4.現行SAI
初代プリウスを思わせるずんぐりむっくりしたスタイルが不振の理由だと考えた。
シャープな印象にするため、前後灯火類新設、フード、フェンダー新設。
サスセッティングを変更して車高を下げた。
上記はモデルライフが長いためにビックマイナーチェンジした車種を除いている。(例:レクサスLS、アプローズ、初代デミオ、エスティマ・エミ/ルシ)
さて、本題のヴィッツは4月にマイナーチェンジを受けた。お察しの通りビッグマイナーチェンジなので、売れ行きは芳しくなかったのだろう。2010年冬に発売したが、デビュー当時は女性中心のカワイイ中心から男性客を呼び戻そう、というテーマで背が低く男性っぽいスタイリングを選んだ。ヘッドライトを後のオーリスで発表されるデザインテーマ「キーンルック」を先取りしたような横基調のヘッドライトを採用。
全席中心のコンパクトカーの使用状況を考えて、後席リクライニング廃止。天井中央のドームランプ廃止、Rrドアのディビジョンバー廃止、するなど装備を見直して原価管理を行うだけで無く内装照明色をアンバーに切り替えるなどなどイメージの刷新を図った。機能面でも一部グレードにアイドルストップを採用し、センターメーターをコンベンショナルなステアリング前に移し、ワイパーをシングルタイプ(ウェットアーム)に変更した。月販目標台数は10000台だった。
当時の感想文はこちら。
販売の結果を比較すると、
2010年 ヴィッツ:122,248台 FIT:185,439台
2011年 ヴィッツ:128,725台 FIT:207,882台
2012年 ヴィッツ:105,611台 FIT:209,276台
2013年 ヴィッツ: 85,903台 FIT:181,414台
と、FITには歯が立たないどころかモデル末期の2代目よりも売れていない。
アクアが好調な上、ライバルのスイフトやデミオよりは売れているものの、元々カローラを抜くベストセラーだったヴィッツがこの状態なのは市場で支持されていないということだ。そこでマイナーチェンジとしては大幅手直しをすることとなった。
変更ポイントをまとめると
1.1300ccエンジンの維新
燃費はリッター25.0km/L達成。
2.外装はキーンルック採用
ヘッドランプ、Frバンパー新設、Rrコンビランプ新設
3.内装はインパネ維新
小物入れ追加、シート地変更、Uにアームレスト採用
4.走りの質感向上
スポット溶接追加 NV性能向上
3代目FITの意欲的な作りもあってヴィッツもようやく巻き返しに出ることとなった。
●欧州に強くインスパイヤ(笑)された外装
フロントマスクはヘッドライトとグリルの連続感が強調されることでワイドでシャープな視覚効果を与えていてなかなか魅力的だ。バンパーも下端の色の切れ目はトヨタファミリー共通の処理。ほうれい線のごとくくぼみはわが愛車DS3そっくり。ちゃんとディーラーオプションで光るらしい。
イメージカラーのルミナスイエローは、元気一杯の黄色。全体の印象は先代のルノールーテシアを思わせた。
元気一杯のルミナスイエローはオプション色で3万円もする。パールホワイト以外の魅力的な色をオプションカラーにすることは近年国産メーカーが取り組んでいるが、ヴィッツは全17色という豊富なカラーバリエーションを持っている。ルミナスイエロー以外にはパールホワイトとチェリーパールという濃いピンク色がオプションカラー。
残りの5色はJewela専用のシャイニーデコレーション専用のオプションカラーである。一般的にボディカラーを増やすと色物部品(ドアミラー、ドアハンドル、バンパー)の部品種類が増えてしまい、在庫を嫌うトヨタとしては最も避けたい事態だが、過去にも述べたように女性にとって色は最重要ファクターの一つ。色が気に入れば他に目をつぶる、という傾向を考えると何としてでも色を増やしておきたいのが商人の心である。
そこで生産ラインで塗装してしまうボディ、前後バンパー以外の色物部品はメッキで単色化してしまおうというのがこのシャイニーデコレーションである。こうすればボディカラーのバリエーションが増えることによる色物部品の種類を増やすことなくカラフルなクルマを顧客に提供できるわけだ。マイナーチェンジ前はシルバーに塗られていたが、これはいかにもショボいと気付いたのかマイナーチェンジでメッキを奢ったことで安っぽさは軽減された。結果、追加料金無しで選べるカラーは9色となっている。(FITと同数)
また、グレードによってランプとグリルの組み合わせが異なるのだが、個人的にはFグレードのメッキなしで黒がヘッドランプとグリルを貫いている方がシャープに見えて良い。
Rrコンビランプもエアロスタビライジングフィンが採用され、立体感があるデザインに改められた。外形自体はマイナーチェンジ前と変わらずRrバンパーも変更なし。このほか、Rrライセンスガーニッシュも形状が改められてワイドで伸びやかな印象になった。
外装がアップデートされたことでようやく当初の狙い通りの欧州Bセグコンパクトに似た佇まいになった。ちなみにモデリスタバージョンは先のヴェゼル感想文で触れたBセグクロスオーバーをヴィッツでもやってしまっている・・・。
●インパネを作り直してまで改善した内装
従来型ヴィッツの最大の不満は内装の収納不足だったという。グレードマネージメントを意識して助手席前に広大なオーナメント(化粧板)を設けていた。ドアトリムと連続したカラーリングの加飾をつけてグレードマネージメントするつもりだったが、そのオーナメント部分はハメ殺しで収納スペースをロスしていた。元々3代目ヴィッツは欧州で主流の1Lのボトルを車内に持ち込めるようにセンターコンソールを大型化するなど収納に対して全く配慮しなかったわけではなかったのだが、日本市場で当たり前と思われている収納スペースが備わっていなかった事が痛かった。ライバルのFITは元々ヴィッツよりもスペース重視のコンセプトでありウルトラシートなど収納することに対してコダワリの強いモデルだった。
そこでヴィッツは思い切ってインパネを新設。インパネアッパーに収納を追加。
思い切ってドアトリムとの連続性を断ち切った。このためドアトリムまで新設の憂き目に遭っているが、そんなに印象が変わっていないのが残念だ。空調レジスターまで新設されてなかなかの変更点なのでもう少し違って見えるように出来なかったのだろうか。
他にもプルハンドル一体のP/Wスイッチベゼルもシルバー塗装された他、廃止されたルームランプが復活し、Frシートの車両内側の目隠しがレベルアップされた。特に目隠しは車両外側同様、射出成型の部品となっていたが、現行ヴィッツがデビューした際に硬い不織布製に置き換えられた。個人的にはこれが大層安っぽく、一刻も早く廃止すべきと考えていたが、ようやく改善された。
上級グレードではインパネアッパーにクロームメッキのモールが入るほか、ドアインサイドハンドルもメッキになるなど多少の配慮はある。メーターもカローラハイブリッドの流用ながら変わった。1300ccの新エンジン搭載グレードに限りタコメーター、ガラケー譲りのTFT液晶が着いた新メーターが採用された。
●新エンジンは十分良く走る
実際に試乗させてもらった。試乗したグレードは1300ccのFグレード。一般の人が最も購入するであろうボリュームゾーンである。走り出して感じたのはデビュー直後のモデルと比べて静粛性が向上していることだ。マイナーチェンジ前は、Uグレード以外は軽と大差ない静粛性であったが、マイナーチェンジを受けた新型はレベルアップを感じた。また、乗り味もブラッシュアップされ舗装の悪いパッチワーク路でもタイヤ、サス、ボディ、シートで振動を吸収できていた。このあたりは先に試乗したパッソと大きく異なる点でヴィッツはしっかり進化することができた。
自動車専用道路へ車を走らせた。法定速度の領域まで加速するも、さすがに1300ccのヴィッツは十分な加速性能を持っている。車重1000kgで99psということで、かつての1500ccのカローラに匹敵する動力性能を1300ccで得ることとなった。新たに1NR-FKE型と名づけられた新エンジンは
・アトキンソンサイクルの採用
・高圧縮比(13.5)
・クールドEGR(排気再循環)
・電動の可変バルブタイミング機構「VVT-iE」
・効果的なタンブル流を生む吸気ポート形状
・ピストンスカート表面改質などの低フリクション化
・掃気効率を高める4-2-1エキゾチックマニホールド
・ウォータージャケットスペーサーによるシリンダー壁温コントロール
…という新技術が織り込まれているが、1300ccという排気量で横並びを見るとホンダFITやマツダデミオとよく似ている技術が使われている。このあたりが現代の低燃費エンジンの肝なのだろう。熱効率は38%と量産ガソリンエンジンとしては世界トップクラスとの事だ。確かにこれはすごいことだ。
デミオのスカイアクティブがデビューしたてのころ、試乗した際は見た目のスポーティさとは裏腹にエンジンの力強さが足りない印象が強かった。スペック的にも84PSと1300ccクラスとしては控えめな実力に感じていた。フィットの場合はヴィッツ以上にしっかり力強い走りが可能だった。
高速走行をしていて風切り音が小さくなっていることに気付いた。マイナーチェンジ前の場合、シングルワイパー自体の風切り音が非常に大きいことに閉口した。マイナーチェンジでカウルルーバー形状に変更が加えられ、キックアップ面が追加された。この面を使って気流を飛ばしてワイパーに当たる気流を減らす効果がありそうだ。見栄えは悪化したが静粛性が向上したことは喜べる。
走行中燃費計をこまめにチェックしていたが、高速走行中はリッター20km/Lを少し超える水準で推移しており、長距離はかなり脚が長そうだ。アイドルストップがなかなか出来ない点はパッソと同じ。
●マイナーチェンジ効果はあったのか?
まずはデータをご覧頂きたい。
2014年3月 ヴィッツ11,890台 FIT:31,921台
2014年4月 ヴィッツ 4,924台 FIT:15,621台
2014年5月 ヴィッツ 6,580台 FIT:12,984台
どう贔屓目に見てもFITの方が売れている。4月は消費増税の反動でFITやハリアーなど一部の人気車以外は軒並み前年比でダウンしている。5月でやっと持ち直しているが、FITの半分しか売れていない状態だ。
確かにテコ入れマイナーチェンジで欧州車のエッセンスを盗み、見た目は良くなった。内装も不満が集中していたインパネを新規に起こして収納は増えた。エンジンも新開発した最新鋭のものを入れ、乗り味も良くなった。(ただし、アジャスタブルアンカーや衝突軽減ブレーキなどの安全装備品の充実度は明らかに劣っている。)
ただし、結果としてFITの方が売れているのはなぜなのだろうか。FITの方が2013年8月にフルモデルチェンジを実施したばかりで勢いがあっただけでは無いはずだ。事実モデル末期の年の2013年8月でもヴィッツはFITに負けている。後は販売店の数というファクターもある。ホンダは販売チャンネルを統一したため、FITを扱うディーラーの数はヴィッツを扱うネッツ・トヨタ店よりは多くなる可能性がある。
ヴィッツの数を増やすには、アクアとのカニバリゼーションを覚悟してEUで販売しているハイブリッドモデルを追加するなど思い切った変更をしないとFITを超えることは難しいだろう。事実それをやったカローラは随分と台数が伸ばした。
月販目標台数は8000台と控えめだが、まずはその台数を着実に売れるようにこまめな特別仕様の追加や仕様の適正化を図る必要があるだろう。確かにヴィッツはマイナーチェンジでテコ入れが図られて随分とコストをかけてもらうことができたが、FITの強さは尋常ではない。結果論で語ることは申し訳ないが、この程度の内容は最初から織り込んでおくべきではなかったか。
私自身も実際に試乗したりカタログを見る限り商品としてはFITの方に魅力を感じるし、夏にはSKYACTIV-Dを引っさげてデミオがフルモデルチェンジされてしまう。なかなか厳しい戦いを強いられそうな予感がする。
個人的にカタログを見る限りは1.3F以外はどうにもしっくりこないため、お勧めグレードは1.3Fにスマイルシートセット付き。それより上のグレードの割高感が強い。Uは1500ccのカローラより高く、RSはかつてのMR-Sに手が届く価格帯。幾らアベノミクスで所得を上げたとしても、クルマの価格が高いままだと庶民から車は離れていくばかりだと思うがどうだろうか。
今のままだとCMに人気タレントを起用してクルマの魅力以外で勝負するか、値引きを大きくして安さで売るか、法人フリートユーザーに大量に押し込むかの3択程度しか残っていない。
2010年以前はiQのP/Fをストレッチしてリムジンみたいに広い革新的なヴィッツが世に出てくれるものなのだと信じていたが・・・・。攻めるべきときに攻めなかったことが悔やまれる。
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