●普通に乗れそうな旧車
スギレンさんの
アシ車である
SA60カリーナ1.8SG豪華マイロード(長いので以下豪華マイロード)を
レンタカーしたのでここに備忘録代わりに感想文を残す。
このマイロードは3代目として1981年にデビューしたモデルの
マイナーチェンジ版で1984年式。
スギレンさんは過去にAA63のGT-Rも保有していたが、
この時も借りて白変とドライブに出かけたのが昨日の事のようだ。
GT-Rの感想文はこちら
ロングノーズショートデッキの古典的なFRフォルムが強烈な男臭さを醸し出す。
途方も無くマスキュリンなエクステリアである。
丸から角の時代を意識させるクリーンな幾何学デザイン。
内装も同じテーマに沿って
幾何学的な80デザインでまとめられている。
AA63からSA60になるとAA63で感じた「体育会系」のノリが随分と影を潜める。
細いタイヤに幾何学ホイールキャップ。
赤いMY ROADステッカー、ブラウン系の内装色。
実際のところ、
トヨタ店のエントリーファミリーカーとしての
親しみやすさも求められていただろう。
同じ1984年にはFFカリーナがデビューしてメインがそちらに移った結果、
FRカリーナはスポーツ仕様と廉価グレードに整理される。
今回取り上げたマイロードは
フツーの車が
FF化される瀬戸際のモデルということになる。
オーナーのスギレンさんの解説によると、下記装備が追加されるとの事。
>豪華マイロードの装備
>・ブロンズガラス ・パワーステアリング ・ステアリングセンターパッド(SE用)
>・フタ付きコンソールボックス・ウレタンバンパー ・フルホイールキャップ
>・タコメーター ・デジタル時計 ・専用ステッカー、エンブレム
内容を考えると、
文字通り豪華で売れそうな装備内容である。
あとはパワーウィンドゥ位があれば現代でも十分であろう。
それにしても横文字が多い車のネーミングに「豪華」などと
付けてしまう当たり、
現代の「煌」に通じるものがある。
この豪華マイロードを一週間程度レンタルさせてもらい、
毎日の通勤や休日のレジャーに使用してみた。
●パッケージング
豪華マイロードは外観はBMWを連想させるような
スポーティなセダンスタイルだが、その本分はあくまでも
ファミリーカーであり
実用性が求められる。
運転席に座ると
見晴らしの良さに気付く。
大きく沈み込む70年代風のシートから外を見ると、
細いピラーと低いベルトラインが相まって
抜群の死角の小ささを見せる。
フェンダーミラーであることも手助けしているのだろうが、
現代における
「アラウンドビューモニター」は不要ともいえる開放感だ。
この開放感はファミリーカーとして考えれば車酔いしにくい
明るいキャビンを提供するメリットもある。
前席のシートバックも開放感重視でサイズは小さめのため、
身長170cm以上の人物には物足りなさを覚えるかもしれないが、
165cmの私が運転席に座る分には申し分ない居住空間である。
後席もクオーターピラーの角度が立っている影響でヘッドルームも上々である。
ニールームが少々厳しいかなという印象である。
●平日 通勤
朝、身支度をして豪華マイロードに乗り込む。
キーを鍵穴に差し込んでロックを解除して運転席に乗り込む。
シートベルトを締めてE/G始動。
冬の朝は
アクセルペダルを一回強めに踏んでから
イグニッションキーを回す操作が必要。
現代よりも幾分か
「儀式」が必要な豪華マイロード。
「始動性が悪いキャブレター」「始動性が良いEFI」なんて
言い方をされていたが、豪華マイロードは一発始動。
早朝の住宅街を走る際はアイドルアップの高回転が少々気になりつつも、
暖気をかねてゆっくりと生活道路を抜ける。
水温が温まりO/Dに変速されるようになると
45km/h以上でO/Dに入る。
もともとロックアップがないATで現代ほど食いつきのいいATではない為、
早めにO/Dに入った方がアクセル操作に対する食いつきは良くなる。
一般道を50km/h程度で走っているときは
アクセルに少し右足を添えているだけでよい。
ちょんと踏んで加速して後は惰性で転がる走り方が正解なのだろう。
このときの豪華マイロードは実に「普通」である。
一時、国産乗用車のATにフレックスロックアップが普及して
偶々右足との一体感が向上した時期があった。
あの当時、豪華マイロードのようなATは
旧来のトヨタ式ATの悪癖そのものと評されたことだろう。
ところが、CVTで燃費を稼ぐようになると、
広いレシオカバレッジを武器に、転がして燃費を稼ごうとするCVTが増えた。
現代ではドラビリのことも考えて改善されつつあるようだが、
そんなものに慣らされた現代のドライバーは
むしろ、豪華マイロードのATが受け入れる素地があるのではないかとも思える。
個人的な思いとしては
MTのように右足との一体感は重視したいポイントだが、
ロックアップが着かない豪華マイロードにそれを求めるのは酷というもので
私は、
これが良いとされた当時の平均的ATドライバーの気持ちになって
豪華マイロードと付き合った。
サスペンションは
前:ストラット/後:4リンクリジッド。
当時のリアサスはリーフリジッド式からリンクリジッドへの移行期、
或いはFFに移行する際に一気に4独化が進んでいた時代、
「足のいいやつ」は上級グレードにセミトレを採用するなど、
走りの良さを訴求する味付けは不変。
現代の目で豪華マイロードに乗ると、
良路でのソフトな乗り心地が特徴的。
荒れた路面や大きめの段差を乗り越える際にボディに「ドシン」と
角のあるショックを伝えるあたりは経年劣化と当時の技術力双方が原因だろう。
平日は通勤に使用した為、少々気ぜわしい使用方法となる。
高速道路でETCゲートをくぐると、1984年の乗用車が
2014年の高速道路で現代車と走行することになる。
アクセルを踏み込むとO/Dのままトルコンを滑らせながら加速していく。
その振る舞いがまさにCVTと類似するのだが、
そのまま制限速度の100km/hまで加速していく。
目安としてのエンジン回転数は2500rpm。
グロス100PSを誇る1800ccの1Sエンジンは
力不足を感じさせることなく高速道路を走る。
血走った目で追い越し車線を走らない限り、豪華マイロードは
十分に流れについていけるし、キックダウンしつつ
タンクローリーをオーバーテイクすることも容易だ。
現代の5ナンバーセダンと比べて背が低いことから
横風性能が意外と有利であるように感じた。
さすがに脚がフニャフニャなのでその分は不利かもしれないが、
素性として考えれば背が低い方が風を受ける面積が減って安定する。
20分ほど高速道路を走り、その後30分ほど通勤渋滞に巻き込まれながら会社に到着する。
渋滞の中にあっては最新の車も30年前の豪華マイロードもへちまもない。
ラジオを聴きながらATの恩恵を最大限享受した。
会社の立体駐車場に車を止めるが、駐車場自体が旧く、区画も狭い。
もともと狭いスペースに一台でも多くの枠を引きたかったようで、
こんなシーンでは幅が狭い豪華マイロードのサイズ感覚が光る。
視界も良い為、むしろ
普段運転しているDS3よりも駐車が簡単だった。
ドアも短い為に乗り降りも楽でこの上なかった。
仕事で出張先の駐車場に一時的に車を止めていたら、
「おおおお、懐かしい」と人だかりが出来ていた。
恐らく、完全天然風のマイロードというところが
ツボに入ったのかもしれないが、しばらくおっさん達が
マイロードをDRしていた。
「こんなんあったなぁ・・・・」というキラキラした
おっさん達の少年っぽい目が印象的だった。
私のカローラだってあんなにチヤホヤされたこと無いのに・・・という勢い。
彼らが去ってから私は荷物を積み込んで早々に帰社した。
何故か私が豪華マイロードを走らせているところが、
某N兄氏に発見され、LINEに写真が添付されていた(笑)
この車で悪いことは出来ない!
●休日 レジャー
土曜日に豪華マイロードでドライブに出かけた。
行き先は三重県。
三重県までは高速道路を走った。
豪華マイロードは相変わらず快適で時速100km/hの
ハイウェイ・クルージングを楽しんだ。
三重県に入ってからR23号をひた走り、亀山市内へ。
R1の旧道は亀山市街を通過するが、
第一の目的地は亀山の
「オレンジ・ペコー」である。
白変によって紹介された
レトロな雰囲気で稀有な紅茶を楽しめるスポットだ。
実はスギレンさんがかつて保有していたGT-Rでも
このお店に来たことがあった。
相変わらず旧型車がよく似合う。
さらに近隣に更なるレトロスポットを発見。
やる気のない豪華マイロードがマッチする!
その後、豪華マイロードは名阪国道へ。
動力性能の評価をするにはもってこいの道路といえば
私は
名阪国道と今回は走らなかったが
奈良県道80号線を挙げたい。
名阪国道では長い急な上り坂、高速で抜ける下り急カーブなど
動的性能が問われる路面が多数存在する。
豪華マイロードは時々はO/Dを解除しながら
健気に走り続けた。
この日、
二名乗車であったが動力性能的にはまだ余裕がありそう。
ただし、A/Cを付けて4人乗車であれば当時の制限速度くらいなら大丈夫だけど、
現代の流れを考えるとちょっと苦しいかもしれないなという印象。
普通に走っている限り豪華マイロードは普通に走る。
名阪国道を降りて青山高原の風車を目指す。
途中、
1.センターラインがオレンジの片側1車線
2.信号が少なく50キロ制限
3.適度なワインディング
という私が大好物の道路を走った。
冬だったが、必要以上にあったかいヒーターを活用して
窓を開けて田舎道を疾走する。
ロックアップ無しのATは意外なところで活躍を見せる。
過去に
ST170Gのレポートをした際に
「気持ちのいい場面でロックアップの存在が邪魔になる」
という悪癖について報告したが、
同じようなシチュエーションで豪華マイロードは
ズルズルーっとトルコンの滑りを活用してスムースに走りきってしまう。
アクセルオフでは電車の惰行のようなフィーリングだが、
シフトショックによるギクシャクが無い事もメリットといえる。
ハンドリングも心地よい。
ラックアンドピニオン式ステアリングを採用して
従来のボールナット式よりもクイックなフィーリングを獲得したのだろう。
豪華マイロードは実に素直な操縦性を見せる。
165SR13という現代の目で見ると小径で細幅のタイヤでありながら、
十分以上の操縦性を発揮するところが面白い。
ちょっとハイペースでコーナーの飛び込んでも
軽快に鼻先は内側を指向するのはスポーティ。
限界付近でも滑り出しが分かりやすく
慌てるような事にはならない。
ブレーキは利きが少々甘いかなとという印象だが、
逆に言えばコントローラブルではあった。
現代では控えめな動力性能に対して、十分にシャシーが勝っているように感じる。
FFに慣れきった自分には
油圧PSで後輪駆動の組み合わせは
この上ない贅沢をしているように感じる。
特にFF普及期だった1984年当時はFFの振舞いを受け付けない
ベテランドライバーも少なくなかったであろうから、
FRであるだけで相対的に操縦性重視の「足のいいやつ」になれたのだろう。
その後、FF化されてもコロナではなくセリカと同じ部品を採用したり、
全車フルスタビライザー仕様にするなど、
トヨタの地味な「カリーナ=足のいいやつ」の公約は2000年まで続けられた。
和製BMWと当時開発に携わった人がコメントしたカリーナだけに
ここは伊賀なのかバイエルンなのか・・・
という気持ちのよいドライブを楽しんだ。
(注意:本当はアルトバイエルン位しか知らん)
●まとめ 現代でも通用した操縦性と見晴らしの良さ
スギレンさんの大切な愛車をお借りして
貴重な体験をさせていただいた。
この間のブログで、1970年代の普通の小型トラックが
2010年代にはライトウェイトスポーツカーに変身していた話を取り上げたが、
今回の豪華マイロードは
1980年代の普通のファミリーカーが
2010年代には肩の力が抜けたドライバーズカーに変身していた話と言えよう。
確かに1Sエンジンはパワフルとはいえないが、
穏やかなトルク特性とATの助けもあって
十分元気に走ってくれる。
また、操縦性も意外なほどスポーティ。
過去に1970年代の乗用車を数モデル運転する機会があったが、
豪華マイロードは
現代の感覚で運転できる最も旧い世代の車の一台だろう。
(手巻きウィンドウとフェンダーミラー驚かれるかもしれないが)
ノウハウがあり手馴れたFRの集大成として開発された60カリーナは
スポーツツインカムを積んだGT-Rで無くても
スポーティな気持ちを忘れていなかった。
また、現代の目で見ると低いベルトラインや細いピラーによる
見晴らしの良さは明らかな優位点と言える。
現代の車がもつ太いピラー、高いベルトラインにもキチンとした存在理由があるが、
今なお5ナンバーセダンを愛するシニアドライバーたちに対して
再び、5ナンバーでもカッコよくて運転しやすいセダンを提供して欲しいと思った。
特に60カリーナといえばツインカムのスポーツモデルばかりが注目されるが、
豪華マイロードのような「やる気の無い量販モデル」が
意外と個性的な乗り味であることは、
当時の作り手の真面目さが垣間見られた。
スギレンさんに感謝。