三菱自動車は電気自動車のリーディングメーカーの一つであったが、
最近はPHEVにシフトしていることもあり、
すっかりMiEVという言葉を忘れてしまっていた。
2000年代後半から末期はガソリン価格が高騰し、
ハイブリッドカーがベストセラーになった。
電動車の時代が本当に来るのではないかと感じていたが蓋を開けてみれば、
実際はまだまだ純然たる電気自動車は普及していない。
•2007年・・・234台
•2008年・・・204台
•2009年・・・186台
•2010年・・・141台
•2011年・・・4,637台
•2012年・・・13,267台
•2013年・・・24,984台
•2014年・・・38,796台
•2015年・・・52,641台
•2016年・・・62,136台
これは一般財団法人 自動車検査登録情報協会のサイトより引用したものだ。
2016年の保有台数は6.2万台だが、ハイブリッド車は555万台と大きな開きがある。
2008年ごろはガソリン価格が高騰し、
レギュラーが185円を超えて最高値を更新。
高速道路のサービスエリアの方が価格が安いと知ると、
高速代を払ってサービスエリアの給油施設に殺到、
長い列を作っていた時代がもう一昔前の事だ。
この頃は電気自動車でも経済的にペイできる時代が来て
電気自動車シフトが起こるかもしれないと感じたものだが、
リーマンショック後ガソリン価格が落着きを取り戻した。
2013年には北米でシェールガス革命が起きて、
内燃機関エンジンに対して一気に有利な展開になっている。
2017年の断面で購入できるガソリン車と代替可能な電気自動車を調べてみた。
三菱ミニキャブMiEV、iMiEV、日産リーフとNV200、
BMWのi3、そしてテスラのモデルSやトミーカイラZZ位しか存在しない。
トヨタ車体のコムスに代表されるようなミニカーは高速道路を走れず、今回は対象から外した。
トヨタもホンダも一般に市販されるような電気自動車はラインナップされていなかった。
電気自動車の普及の妨げは価格か?航続距離か?それとも充電インフラか?
たまたま社用車にミニキャブMiEVがあり、この車で往復60km程度の出張に出た。
予約の電話を入れると、
「エアコンをつけたら、ちょっとしか走れないから心配だ、大丈夫か?」
と心配されながらキーを受け取った。
駐車場で出会ったミニキャブMiEVは
パッと見ただけではなんの変哲もない軽箱バンなのだが、
充電口からコードが出ている点が異なっている。
私が子供の頃はEVと言えばタウンエースEVなどに代表されるキワモノで
電気会社のPR用社用車という印象しか無かった。
当時は鉛バッテリしかなく、自動車を走らせようとすると
大量のバッテリーを積む必要があり、それは重量が嵩んだ。
大量のバッテリーなので、
それを市販車のコンバージョンで電気自動車を作ろうとすると
自然とベースが商用バンになってしまっただけの事だ。
EVは未だに販売台数が少ないと書いたが、
巨大な鉛バッテリを積むタウンエースEVは最高速度85km。
航続距離160kmで800万円だった。
これで一般顧客に売れるはずも無く3年間で90台販売したに過ぎない。
このあとRAV4の床下にバッテリーを吊り下げたRAV4_EVではニッケル水素バッテリを採用し、
車載充電器を搭載して家庭用電源で充電できるようになった。
当初は3ドアだったがベースをV(ファイブ)にするなどして
1996年から2003年までで1900台を販売したが、普及には程遠い。
そう考えるとミニキャブMiEVは、リチウムイオン電池を積み、
最高速度100km/hで航続距離100km(150km仕様もあり)、
176.9万円で購入できるようになったのだから、技術の進歩を感じる。
ミニキャブMiEVの場合は箱バンだが、バッテリーの都合ではなく、
企画として商用車である点もかつてのEVと一線を画する。
たくさんの技術者の普段の努力でここまで身近になったこともあり、
私が社用車としてこの車に乗ることが出来たのだろう。
なにやら壮大なことを考えつつ、200Vの充電器からコネクタを抜き、
ミニキャブMiEVに乗り込みイグニッションキーを捻ると満タンで103kmと記載されていた。
エンジンがかからない代わりにREADYと表示される。
シフトレバーは一般的なストレートパターンだが、
通常モードのDとECO、Bが選べる。まずはDを選び走り始めた。
運転方法は他の電気自動車よりも、従来のガソリン車的だ。
商用車ということもあり装飾的なギミックが見当たらないからだ。
アクセルを踏み込むとiMiEVから移植されたメーター中のパワーメーターの針が俊敏な動く。
後輪に40psモーターの動力が伝わり勢いよく加速した。
乗用だったiMiEVと異なりパワーは控えめで、アクセルに対するツキはそれほどでも無いにせよ、
我々が想像する軽箱バンとは明確に異なる俊敏な加速を見せる。
軽ターボだと感じるターボラグが無く、アクセル操作に対してのツキの良さはEVの美点だ。
乗り味はいたってフツー。重いバッテリーを吊り下げており重心が下がっているははずだが、
比較できないため商用車としてはあたりの柔らかい乗り心地と感じた。
軽バンとして見過ごせないのが積載スペースになるのだが、
荷室を確認するとRrシートは畳まれていてガソリン車と同一のスペースが確保されている。
これもバッテリーを吊り下げる方式ならではだろう。
本来バッテリーは水や火に晒したくない。
そのため、室内側にバッテリーを乗せる電動車両もあるが、そうなると
パッケージング上の制約が大きくなる。
三菱は改造範囲を最小にすべく吊り下げ式を選択した上で綿密な試験を行っているという。
季節柄エアコンをつける。
乗用車のエコモデルではオートエアコンが当たり前のところだが、
ミニキャブMiEVは廉価なマニュアルエアコンが装備されている。
ハイブリッドカーでは信号停止中もひんやり快適な電動コンプレッサーも、この日は印象が違った。
なんとエンジン音がしない代わりにコンプレッサーの作動音が気になるではないか。
作動音だけに留まらずバイブレーションまで感じてしまう。
騒音源、振動源が、なくなると新たな音、振動が気になるという悩ましい事実も体感できた。
因みに電動コンプレッサーの作動音と振動は別の社用車の
ヴィッツハイブリッドでも体感出来たので元々存在しているのだろう。
ガンガン冷やしているものの、キャビンと荷室を分割するカーテンが無く、
鉄板剥き出しの内装を冷やすためあまり気持ち良く冷える感覚はない。
この辺りはベース車も似たようなものだろうし、エンジン回転が上がらない渋滞中の、
辛さは電気自動車故に緩和されているのだろう。
メーター内の航続距離を見て思い切って4枚の窓を全開にしてエアコンを切った。
動いてさえいれば耐えられる暑さだった。
水筒のお茶を飲みながら出張先に向かう。
自分が走っていたレーンが無くなる際、車線変更をする場面があった。
この地域は譲り合う文化が無く、更に軽自動車ということもあり指示器を出すと車間を詰められる。
こんな時に俊敏に車線変更を済ませやすいのは
この車の見た目よりも加速性能が良いからだろう。
残り走行距離65kmと表示されて出張先に到着した。
出張先には急速充電器がある。
受付にて名前と連絡先を記載すれば
無料で1.5時間充電サービスを受けられる。
手動で窓を閉め、
充電器を給電口に挿し込み出張先で打ち合わせを行った。
意外と用事が早く済んでしまい、1時間程で車に戻る。
やって来た四人乗車のプリウスPHVからスーツ姿のドライバーが、降りてきた。
早く充電したいんでどかして下さい。
こちらは電気自動車ゆえ、充電は必須だが
相手は電気が無くてもガソリンでも走れるではないか。
私は急いで車を移動させたが、相手の言い方が気に入らなかった。
電気自動車だけ何故か受付の真ん前に駐車できて、一般の駐車場は大渋滞のため、
この会社では真ん前に止める免罪符としての充電行為があるようだ。
さて、新しいプリウスPHVには充電タグにモラルアップを促すタグが付いているらしい。
確かに充電器に対する重要度が高いのは電気自動車なのでこうした取り組みは大切だろう。
ガソリンスタンドは減少傾向にあるとしても充電器よりは圧倒的に多い。
不思議なものでガソリン車を運転していて街中で充電器を見つけると、
あっ、どんどん普及してるな!と思う割に
電気自動車を使用していると、とても少なく感じてしまう。
航続距離が減るたびに心細くなった。
それは出張先で充電できると分かっていてもそうなのだから面白い。
出張からの帰りは残り走行距離85kmまで回復した。
今度はエアコンをガンガンかけて帰ることにした。
帰路のルートも少しバラエティに富んだコースを選んだ。
アップダウンのある道、流れの速いバイパスなど走らせたが、
パワートレーンの素晴らしさは痛感したものの、商用車故に快適性はあまり無い。
結局、残り走行距離45kmまで減った状態で帰着。
充電器に繋いで出張は終わった。
この様子なら充電しなくても往復出来そうだが、仮にフル充電でも、
普通のガソリン車なら
残量警告灯がついたような緊張感に最初から苛まれるミニキャブMiEVは
やはりルート配送など短距離使用にフォーカスしたまとめ方だと感じた。
今回の出張で、電気自動車で全てを賄うのは難しいと感じた。
まさかの車選びという表現を聞いたことがある。
これは年に数回あるか無いかと言える極端なシチュエーションを想定して、
車選びをしてしまうという意味である。
ミニバン愛好家でもないのに、
普段一人でしか乗らないのに8人乗りミニバンを選ぶようなイメージだ。
実際の自動車ユーザーは短距離走行しかしない、と言われても
航続距離が短い電気自動車はどうしても敬遠してしまう。
だから、ミニキャブMiEVはせっかくの低価格の恩恵で電気自動車もいいかな?
と購入を検討しても航続距離のあまりの短さに二の足を踏ませてしまうようにも感じる。
もちろん、ミニキャブMiEVとアイMiEVには航続距離が50km長いグレードもあるが、
価格差38万円(ミニキャブ)は高く感じる。
例えばガソリン車で燃料タンクが5L大きくなるだけで38万円も高くならないからである。
リーフも、テスラもi3も航続距離を伸ばすためには少なくない投資を要求する。
このあたりは電気自動車の価格の成分にはバッテリーの性能が、大きく影響しているらしい。
一般的な軽の箱バンよりも80万円くらい高いミニキャブMiEVだが、
実は中古車価格が安い。
バッテリーの耐久性が懸念されていたり、需要の関係で
中古車価格は低めに推移しているがこれは興味がある方には朗報かもしれない。
今ならEVをよく理解した方のセカンドカー需要以上の普及は難しく、
カーシェアなど自動車の所有体系が大きく変革する時期が来たら
EVが一気に普及する可能性が高くなるように感じた。
さて10年近く前、とある講演会で三菱自動車のEVに関する講演会に出席して
MiEVの責任者の方の公演を聴いたことがある。
EVの可能性を熱心に講演いただいてEVの時代はもうそこまで来ていると感じた。
講演会終了後、縁あって後援車の方と試作車だったiMiEVに同乗させていただいたが、
3人乗車とは思えぬスタートダッシュを披露していただき、
目がキラキラしてしまったことが印象に残っている。
その時はクリープ速度でコギングトルクを体感し、気になったものだが、
ミニキャブMiEVでそれが気になることは無かった。
絶え間ない改良がこの完成度を生んでいるのだろう。
ガソリン価格が想定以上に高騰せず、別の要因で経営が苦しくなっていても
まだ三菱自動車は軽EVを大切にラインナップに加え続けている。
ズスキやダイハツがEVに手を出さない限り、三菱の優位性は揺るがず、
軽EVこそが今もっとも三菱らしいモデルなのかもしれない。
このままEVが爆発的に普及すると昼間は再生可能エネルギによって電気があまり、
夜はEVの充電で火力発電所がフル稼働してCO2が増えるなどと言う見積もりもあるようだ。
急速な普及は望めないにしてもじっくり育てていって欲しい。
そしてEV時代まで車が存続する為にも、魅力的な内燃機関車を開発して欲しい。
(エクリプス・クロスには大いに期待している)