少々重さのあるドアを開けた。ドアを開けると少しだけゴリっとした感触があるので、よく見ると型鋼ヒンジが採用されていた。プレスヒンジより剛性があり、配置や意匠自由度があるが、コストが高い為、現代ではLSにしか使わないと思っていた。RXにこれを採用したのは意匠がRXの重要なポイントだったからなのだろう。最低地上高を上げたのが裏目に出たのかヒップポイントが少々高目でよじ登るような感覚で運転席に座る。良いドアしまり音を堪能しつつ、シートベルトを締めるとステアリングとシートがドライビングポジションに移動してくれる。少々のステアリングセンターズレが認められるも、それなりにドラポジも決まるし、SUVらしくアップライトなコマンダーポジションをとってもヘッドクリアランスに余裕がある。
このクラスでは当然EPBなのでドライブレンジに入れれば自動的にPKB解除となる。ズボラな私はすぐHOLDスイッチをONにする。この機能があればDレンジで信号待ちしていてもブレーキをかけ続けておいてくれ、信号が青に変わりアクセルを少し踏めば直ちにPKBは解除される。随分とEPBも一般的になったが、アクセルを踏んで解除する際に飛出し感が出る車種もある中でRX200tのそれは実にスムースだ。EPBと電子制御スロットルの協調性がよく躾けられている。
住宅地の走行では絶え間なくボディサイズを意識させられた。例えば名古屋の八事付近のアップダウンが激しい路地を曲がる際も「曲がりきれるだろうか」と自問自答しながらステアリングを切る。最小回転半径が5.9mという凄い数値なので、せわしなくステアリングを回して角を曲がること複数回。こういうシーンでパノラミックビューモニターは良い仕事をするので、常にモニター映像と予測線を頼りにRX200tを操る。難点は夜間におけるモニターの性能が然程良くないため、見えにくい中で巨体を操る事になり何回か怖い思いをした。
フードがちゃんと見えるデザインなのでフロントの視界は問題ないのだが、サイド、リアの視界はお世辞にも良くない。そもそもガラスまでが遠くて果てしない。視界ついでにウインドシールドガラスの両サイドの下端位置はフードの裏面が見えて不恰好であった。こういう部分はスタイル命のRX200tにとっては好ましくない。新型RAV4は同様の部分をうまくセラミックで消しているのでRXも追随すべきだろう。
市街地へ出ても車体の大きさは常に意識させられる。道路の幅も大きくなるし周囲の車もなんとなく自車を避けて走ってくれるので楽と言えば楽なのだが、何故かメルセデスだけは私たちに厳しかった。早めに方向指示器を出していても車間を詰められて曲がれなかったりしたこと数回。まだまだジャーマン3の壁は高いのかなと。
試乗車はITSコネクトが装備されていた。これは自車と他車、或いは道路と連携するITS機能である。
この機能があれば信号の待ち時間が表示されたり、緊急車両の接近を教えてくれたりする。もちろんタダでついているならありがたいが、わざわざ投資してまで追加しようとは思えなかった。このサービスは限られた地域しか実施されていないので、全車標準には出来なかったのだろう。
星が丘付近を走らせると周囲にRX200tやRX450hがたくさん走っている事に気づいた。確かに高所得層がたくさん住んでいる地域とは言えどもサングラスをかけたマダムが颯爽とRXを走らせている姿を目の当たりにして私はちょっと持て余しながら慎重にドライブしているのが少しかっこ悪くもあった。北米でも「お母さんの車」というイメージらしいのだが、日本でも「ちょっとカッコいいマダムの車」という感じだった。例のレクサス店ではちゃんとお辞儀してくれた。
都市をゆったりと走るRX200tだが、ボディサイズ以外の身のこなしは意外と悪くない。8AR型4気筒2.0Lターボエンジンは低速からトルクがあり、6速ATを介して十分な駆動力を吐き出してくれる。1910kgという車体を感じさせないレスポンスの良い加速はボディサイズを忘れそうになる。やはりRX200tが輝くのは高速道路だろう。個人的には大きい車の試乗機会が増えたが、彼らの例に漏れずRX200tが本領を発揮するのも高速道路だ。
ETCゲートを越えて本線に流入し、しばらく慣熟走行を行いながらレーダークルーズコントロールを作動させた。前車に追突するリスクを軽減しながらロングツーリングの疲労を軽減させる。もはやこの装備も登場から15年以上経過し、軽自動車でも装備される時代になったがRX200tの場合、自車線の前に割り込み車両が入ってきても、急ブレーキをかけずGを出さずに所定の車間距離を確保してくれることに感心した。車間を測定し、車間が詰まるとブレーキをかけるという機能は同じだとしても機能の作り込みのレベルの高さはさすがレクサス品質だった。
一方で感心しない機能もあった。SUVの見晴らしの良さは名港トリトンでもパノラマ感が楽しめる。当日は強い横風が吹いていたがロングホイールベースを誇る割りにとても横風に流されるしステアリングもとられてまっすぐ走らせるのに筋力が要る。これはたまらないと思っていたが実はLTA(レーントレーシングアシスト)が作動していただけだった。LTAは前方の車両を検知し、前車の動きと白線を頼りに車線維持の補助をする装備なのだが、高速道路を真っ直ぐ走れない若葉マークのドライバーの運転をトレースしていただけだったのだ。RX200tはその運転に追従して蛇行しようとするが、ドライバーの私は真っ直ぐ走りたいのでそこでステアリングに抵抗を感じていた。あまりにも抵抗されるのでステアリングから手を離さず力を抜いていると「ステアリングを操作してください」と警告メッセージが出る始末。結局LTAをカットしたほうが疲労感は少なく、時折LTAを使い、違和感を確認しつつ、基本的には自分のステアリング操作で300km以上高速走行を楽しんだ。
LTAや細かい不満点はあれどもそれなりに良いオーディオで音楽が楽しめるし、E/Gからの音も然程気にならないレベルであった。100km/h時の回転数は1800rpm付近。ノーマルモードでも十分なトルクがあり、エコモードに入れてクルーズコントロールでのんびり走った。
一箇所だけ閑散とした長いトンネルがありそこで超高速を確認した。アクセルを深く踏み込むとビッグトルクで車体を引っ張りあっという間に頭打ち。車高が高いSUVで超高速域なので流石にふわついているが、私も含め一般的なドライバーがこの速度域で走り続けることは無いだろう。敢えて強い制動をかけたが、ものすごい運動エネルギーをしっかり熱に変換してくれるブレーキは優秀であった。50年以上前の国産車は高速道路でブレーキをかけただけでフェードしてしまったらしいので重量級のRX200tが安心して減速できることに自動車技術の進歩を感じた。ただし、フットブレーキには満足したがエンジンブレーキに不満が残る。SAやICで100km/hから減速する際にパドルシフトを利用してエンジンブレーキをかけるが、2速まではリズミカルに変速できても1速へは35km/hを下回らないと変速できずストレスが溜まった。「そういえばNXも同じだった」と思い出すまでそれほど時間はかからなかった。同じパワートレーン、ドライブトレーンの宿命か。
走行性能をまとめると確かに高い次元でSUVの見晴らしとセダン感覚の走りが両立していた。ただしボディサイズが大きすぎて乗る場所を選ぶ。