長所
1.比類無き2列目の快適性
2.3列目でも充分な静粛性
3.高速道路で快適なソフトな乗り心地
4.内装の高級感
5.従来のポストセダン群と一線を画す動的質感
6.排気量を考えると優れた高速燃費
短所
1.夜間の室内が少々暗い
2.酷暑日には冷房能力がギリギリ
3. 電スロ・CVTなど当時の味付け的な悪癖を全て持っている
4.右左折時の大きなAピラー死角
5.アイドル・ロックアップ起因のこもり音が酷い
6.腰が痛くなる運転席シート
●TOYOTAの最高級ダンゴムシ
戦後日本のベビーブーマーとして最大のボリュームゾーンに位置したのは団塊の世代(1947年から1950年生まれ)である。敗戦後、生命の安全がある程度保証され子供を設ける家庭が増えたことによるものだ。生まれながらに同級生が多いことから競争社会の荒波に揉まれてきた世代故に、大量消費の担い手として日本の発展に寄与してきた世代である。モノ作りの業界でも顧客が多いのだから乳母車、ランドセル、玩具やお菓子、レコード、洋服と年齢を重ねる毎にあらゆる商品を大量に消費してきたが、そんな彼等が成人した1967年~1970年頃は自動車業界もマイカー元年を迎えた後、大衆車のカローラやサニーにクーペが追加されたり、軽自動車にツインキャブのホットモデルが出始めた個性化・差別化のファッション路線に移ろうとしていた時代である。それらは団塊の世代が就職によって経済力を持ち、そして結婚して再び子供(団塊Jr.世代)をもうけて再び大量消費の担い手になる。
一億総中流意識という死語がある。我が国では豊富な労働人口=消費人口のボーナスを得て高度成長を成し遂げた団塊の世代が若い頃にモータリゼーションの薫陶を受けた後、所得が高くなる中年期に差し掛かった際にハイソカーブームが興った。若年層から本来の高級車ターゲット層までが高級車(或いは高級そうに見える車)を持てはやした時代である。例えば1988年デビューのGX81系マークIIはそんな彼等にとって手が届きやすい車種でターゲット層のど真ん中であった。クラウンもカローラのように売れ、マークIIもカローラのように売れた日本のセダンの黄金期の中心的な構成員は団塊の世代と言える。
-そんな団塊の世代が60歳となり定年退職を迎え始めた2007年ごろ。我が国では彼等の旺盛な消費意欲と右肩上がりの年功序列・終身雇用によって得られた潤沢な退職金を目当てにした「団塊マーケティング」が幅を利かせていた。
団塊の世代によって支えられた自動車業界もその一つである。例えば、若年期にモータリゼーションを迎え、ミニバン・SUVカルチャーの少し前を走っておりセダン支持者が多かった彼等のためにV36スカイラインや140系カローラを開発した。これらの特徴は目の肥えたターゲットに合わせて商品力強化をしつつ、車両価格がちょっと高めになっていた点である。例えばスカイラインはV35型後期の250GTが262.5万円~だったものがV36の250GTでは279.3万円~になっていたし、カローラも2000年発売の1.5Gが144.3万円だったが、2006年発売の1.5Gは160.6万円になっていた。自動車と共に時を過ごしたターゲットに振り向いてもらえるように商品力を上げ、それに伴い販売価格も値上げ傾向が大きかった。
前置きが長くなったが、今回取り上げるマークX ZiO(以下、ZiOと省略する)も団塊マーケティングの成果の一つとも言える一台だと私は考える。ライフステージが変わり、子供を中心とした自動車の利用シーンは大きく変化することになる。子供は独立し、例えば孫が誕生し3世代での移動がメインになる。退職によって自由な時間が確保されることから、夫婦、友人とともにアクティブな生活を楽しむためのレクリエーションツールとして自動車の役割が見直されることが予想された。
そんな彼等にとって今までのセダンから、ミニバンに移行するには「生活感」と言うハードルがあった。ミニバンの持つ生活のためのツールという感覚はセダンの持つ良い意味でのフォーマルさが足りず、上級ミニバンと言えども、走る曲がる止まるの基本性能はセダンを知る彼等には物足りなかった。
セダンライクなステーションワゴンは荷室容量は大きいのだが、居住空間はセダンと大差なく、荷室とキャビンが一体であるため、ゲストと荷物を一緒に運んでしまう「申し訳なさ」はミニバンと共通の課題であった。
ZiOは上級セダンユーザーが気兼ねなく移行できるクロスオーバーカーとなるべく「4+Free」というコンセプトで企画された。セダン・ワゴン・ミニバンの良さを兼ね備えた新ジャンルの商品とすることで「新しい物好き」の団塊の世代へのアピールを狙ったのである。
そもそもマークIIには初代からステーションワゴンが存在していた。ステーションワゴンは1989年発売のレガシィがブームの中心となり一気にワゴンが市民権を得たものの、マークIIは1984年から1997年まで同一モデルが継続販売されてきた。
あくまでもマークIIブランドの中心はセダン(H/T)という意識も働いたのか、マークIIワゴンに対する商品力強化に力を入れなかった。
1997年にはカムリグラシアベースで2.2L直4と2.5LV6/3.0LV6を積んだマークIIクオリスを発売。前後の意匠と内装のマテリアルを変えただけのワゴンだったが、グラシアのすっぴん美人っぷり(メイクで化ける)が功を奏してまずまずの成功作となったことで2002年にはマークIIブリットとして後輪駆動セダンベースのステーションワゴンとなった。専用のフロントマスクを持ち、スポーティなiR系(統合型リゾートではない)のみという若向きのキャラクターを与えられたが、当時はステーションワゴンブームが過ぎ去ろうとしておりステージアやアコードワゴン、アテンザワゴン同様にターゲット層がミニバンやSUVへ流出していた。
本流セダンのマークIIは2004年にマークXへと改名してV6エンジンを搭載したスポーティな性格とエグ身のある外観とタイトなキャビンに生まれ変わっていた。
こうした中でブリットをFMCするとなると、コンベンショナルなセダンベースのステーションワゴン市場は縮小傾向で限界がある。過去にはFFで成功したモデルもあるので駆動方式はこだわらなくて良い。セダンからの乗り換えを促進するためにマークXのエッセンスを盛り込む必要がある。そして何より、定年退職する団塊の世代は子供が独立して大柄なミニバンが不要になるのでポストミニバンとしての役割を担わせたい。ミニバン市場は1990年代から急拡大していたので、団塊世代以降のミドルエイジ層も継続的にミニバンを卒業する動きが出るはずである。乗り換えの障壁とならないように簡便な3列目シートを持たせながらあくまでも4人の快適な移動が実現出来るパッケージにしよう。つまり、ステーションワゴンボディだが、言い訳程度の3列シートを持ち、上級セダン並みのクオリティを持たせた車が2007年にデビューしたZiOなのである。
広告でも「ワゴンより贅沢に。ミニバンより優雅に。セダンより自由に」というコピーでワゴンでもミニバンでもセダンでもないことをアピールした。トヨタのオフィシャルサイトのラインナップ中でも「新ジャンル」と記載されていた。(最近もそういう表記の新型車があったような・・・)
●エクステリアデザイン
ZiOのエクステリアデザインにはお手本がある。それは2005年の東京モーターショーに出品されたFSCである。フューチャー・サルーン・コンセプトと言う意味のコンセプトカーは好評を博しており、生産型としてのZiOはフロントマスクを中心にショーカーのエッセンスを極力盛り込んでいる。
四角いグリルやエンジンフードのレリーフはショーモデルのエッセンスを色濃く反映しているし、サイドビューベルトラインしたの凹面やホイールアーチ部のうねり、リアビューのバックドア形状などもショーカー譲りだ。ところが、実際にZiOが世の中に出るとそのエクステリアデザインに対して肯定的では無い反応が見られた。それもそのはずで、作り手としては精一杯ショーモデルに寄せ、ディテールは維持したのだが、そのプロポーションはショーモデルを基準とすれば大きく後退した。
その理由は、設計的成立性を確保する為にオリジナルのスタイリングを変更しなければならない箇所が少なくなかったからだ。アイデアスケッチは絵に描いた餅そのものだが、意匠選択されてモックアップになるとそれは彫刻的(どこから見ても破綻が無い)ことが求められる。そこから幾多の調整を関係部署と行うことで量産車のデザインに生まれ変わっていく。工業デザインであるため、美しさだけでは実用品・量産品としての自動車のエクステリアデザインにはならないのだ。
本来のFSCの持っていた凝縮感は現実的な要件を取り込んだ結果、ダンゴムシのようなずんぐりとしたものになってしまった。例えばフロントマスクはオーバーハングが伸び、歩行者保護要件のためフードが分厚くなったことでプロポーションが悪化し、フードとフェンダーの見切りの面構成もチリの管理が出来るように単純化されることで彫りの深さが失われた。人間の顔も同じようにメイクしても骨格や肉付きで違った印象になってしまう事を経験的に私達は知っている。顔の何倍も面積のある自動車の表層はちょっとしたことで大きく変わるのである。
ショーモデルのままではヘッドランプのすぐ後に前輪があるためヘッドライト機構部が収まらない、ドアがカジって開かない、冷却系が配置できない、視界が悪い、ドアガラスが昇降しない、防錆性能が維持できない、衝突性能が出ない・・・などなど様々なネガを潰していくと彫刻が量産車に落ち着いていく。
セダン・ステーションワゴン・ミニバンの融合というテーマなので、スタイリッシュにしようとしても、ラゲージ面積を追って間延びするし、3列目の最低限の居住性を確保すると厚ぼったくなってしまうのである。目一杯の錯視効果を駆使したとしてもZiOに与えられた欲張りパッケージの難を乗り越えることが出来なかった。
2023年の今なら、こう言うコンセプトはSUVという見せ方があるが、車高の低いステーションワゴンでありながら凝縮感のあるワンモーションフォルムで包もうとすることは過度に挑戦的なアプローチに映る。
試乗車は2009年にテコ入れのために追加されたエアロ仕様「エアリアル」である。トヨペット店としてはカルディナで馴染みのある名称だが、ムーンルーフは装備されず、240Gをベースに幾つかの専用装備をオミットする代わりに不評だったフロントマスクを中心に専用のデザインが施されている。離れ目に見えるヘッドライトの間を埋めるようにワイドなメッキグリルを持ち、サイドマッドガードによって重心を低く見せている。これで今まで獲得できていなかった40代以下の比較的若年層にアピールしようと試みた。意外と大型Rrスポイラーは備わらずオリジナルのままなのは、売れなさすぎて投資して貰えなかった結果か。
2023年の目で見ると決してZiOは目を覆いたくなるほどかっこ悪いクルマでは無いのだが、人々の羨望を集める妖艶さを持つかと言われるとそうではない。私見だが、やはり欲張りすぎる企画とFSCのワンモーションフォルムの両立のハードルが高すぎたのでは無いかと感じる。
私がまず思い出したのはシトロエンDS5だ。同じくショーモデルをベースにステーションワゴンとグランツーリスモを融合させたクーペを思わせるデザイン・・・・とのこと。シトロエンが持つエキセントリックなキャラクターとのシナジー効果で独特の世界観を持って居たが冷静に考えればZiOと似たコンセプトを持っているではないか。
「DS5はこれまでのジャンルの概念を超えたまったく新しいスペシャリティ・セダン」
とプレスリリースにも記載されている。
ショーモデルだったCスポーツラウンジからの後退はZiO同様にあるのだが、その分装飾に力を入れてサーベルをモチーフにしたモールを設定するなどした結果、シトロエン的だと認められた(させた)節がある。3列シートの有無によってルーフラインの丸さは異なるが、こう言うクルマは世界中でみんなが思いついて挑戦するのだが金脈に辿り着いたモデルを私は知らない。DS5もヒットはしなかったので、贅沢なポストセダン枠はハリアーのような立ち位置のDS7クロスバックが引き継いだ。
デザインが販売に影響を及ぼしたという歴史的事実を考えれば★1つなのかもしれないが、2023年の今はエアリアルなら比較的冷静に見られるので★3つ。
●インテリアデザイン
ZiOのインテリアはマークXと設計的な関連性は無いが、イメージを継承しつつ同等の車格を感じさせる。曲面と曲線を使ったデザインで手で触れる部分にはソフトパッドが奢られている他、ドアトリムにマークXと同じ部品や曲線のテーマを使うなど「匂わせ」も行っている。
ソフトパッド以外の内装パネルはコンベンショナルな革シボだけでなく、ヘアライン加工をブラックマイカで塗装したものもアクセントに使用している。これが秀逸でつるつるのピアノブラックだと指紋で表面が汚れやすいのだが、ヘアライン模様のお陰で指紋が目立たない。実用性と意匠性を両立した点を評価したい。最上級グレードの350Gのみは木目調パネルが更に追加されて伝統的な高級感とモダンな印象が入り交じるいんしょうだが、エアリアルの状態でも十分に納得できる質感を確保している。イマドキの国産車の「最上級買わない奴には懲罰的質感でも食らえ」という行きすぎたグレードマネジメントも未実施のため、標準的なグレードでも充分満足できるが、本来はそれが顧客への礼儀だろう。
そしてブレイドと共通のステアリングの奥にはブルーの照明色が新鮮なクリスタルシャインオプティトロンメーターとマルチインフォメーションディスプレイが高級感と先進感を表現しているが、それと関連するZiO最大の特徴はオプティトロンメーターの技術を小型化してエアコンパネルに応用したオプティトロンヒーターコントロールスイッチである。
風量ダイヤルとエア吹出し口ダイヤルにはスピードメーターのように指針が着いており、E/G始動と同時にスピードメーターと一緒に0からMAXまで振り切れるスイープ制御が入っている。そして、例えば暑い日に始動後AUTOボタンを押すと吹出し口がフェイスになり、風量が0から10まで徐々に上がっていく。そして室内が冷えるに従い8→7→6と風量が下がると同時に指針も動き続ける。世界初の指針式のパネルなのだが、確かに新規性と高級感があるではないか。特に現代の目で見れば、全てTFT液晶のアニメ映像で済ませれば良いところを、数多くの構成部品が精度良く組立てられて動作するという多いメカメカしい仕組みが新鮮かつバブリーである。
スピードメーターと見た目が合わせてありちょっとしたときに触りたくなるギミックと言える。この機構を引き立たせるため、温度調整スイッチがダイヤルとダイヤルの間の密集したボタン群の中に窮屈そうに配置されているのはしわ寄せを感じる。思えば名車GX81もスライドアウト式スイッチを採用しており、空調スイッチにこだわることも意外なマークIIの伝統を意識したのだろうか。せっかくE/G始動時にコンビネーションメーターの中央に位置するマルチインフォメーションディスプレイにはMARK X ZiO!とオープニングアニメが流れるのに、私はそれをじっくり見たことが無い。ヒーコンダイヤルの指針に見とれているからである。
恐らく、しっかり原価をかけてドライバーだけで無くパッセンジャーにも驚きを与えうるこの機構だが残念なのは見ているときだけしかその凄みが分からない点である。オートエアコンが標準装備されているZiOの場合、だいたい25.0℃程度に設定されていれば基本的に空調パネルを触る機会が無く、その分運転に集中できる点がオートエアコンの魅力なのに、その表示板が見所と言われてしまっては一体何のためのオートエアコンなのだと言うことになってしまう点が惜しい。
2023年の今となってはそんな空前絶後のメカニズムはその存在だけで尊いと言えるだろう。あのドアハンドルだけで・・・とか、あのスペアタイヤだけで車種が分かってしまうような個性強めの自動車部品があるがZiOのオプティトロンヒーターコントロールスイッチはまさにこの類いの超個性的パーツである。
ZiOの内装の目玉はこれだけでは無く、上級仕様にはルーフライニングに大型照明が備わり、LEDの面発光と4つの読書灯が配置されるのだがエアリアルではなんとこの照明が省かれており、夜間の乗降時はちょっと暗いのが残念な部分だ。
内装は現代でも通用するレベルの独自性と質感を持っているので4★。
●走行性能
プッシュ式スタートスイッチを押してE/Gを起動した。搭載される2.4L4気筒NAの2AZ-FE(167ps/22.8kgm)はオイル消費の問題で保証機関が延長されるなどの曰く付き機種だが、この個体に不具合は無い。
E/G始動直後にアイドル振動の悪さに気づいた。Nレンジに入れていれば大丈夫だが、Dレンジ停止時はブルブルと大きめのバイブレーションが乗員を襲う。Dレンジの場合はA/Cを切ってもブルブルしていたので完全にボディがこの周波数領域で揺れやすい(=音響感度が悪い)のだろう。
走り始めは少し繊細だ。ラフにアクセルをぽんと踏むと、反応が遅れた後でドンとショックが出る。走り始めのアクセル操作は優しく行う事が必要だが、この現象はもしかすると点火プラグの交換によって改善する可能性がある。(自分たちが共同所有するプログレはプラグ交換によって解決した)
走り始めは市街地走行である。車幅が1785mmとワイドなので正直、取り回しは気を遣う。市街地走行では当時の燃費至上主義的なCVT制御が楽しめる。一にも二にも変速という感じだ。アクセル操作とE/G回転数の関係は無限のプーリー比の組み合わせの中から燃費最適の組み合わせを拾っていく感じなのだが、まずE/G回転数を上げてグワッと加速させた後は低回転に張り着くイメージで低速域の車速コントロールは難しい部類だった。不幸中の幸いなのは2.4Lの余裕のあるトルクのおかげで低回転に張り付いてもそれなりにトルクを返してくれる点だ。(これが小排気量だと悲惨なことになる)
前方の信号が赤なのでアクセルオフで減速していくが、燃料カットできるギリギリまで燃料カットできる限界のギア比でコースティングさせるセッティングなのでブレーキペダルに頼った減速になる点は、太古の4速ATでも同じような感覚だった。
減速時、40km/h以下になるとヒューンというCVT特有のベルトノイズが目立つ。これはベルトのコマとプーリーの接触によって生じる音とされているが、回転が高いと高周波過ぎて聞こえにくいが、速度が下がると目立つのであろう。このベルトノイズは、同時期のカローラだと全域で聞こえるレベルだったがZiOは40km/h以下の減速時というシーンに限られているのは高級車ゆえの高周波対策が功を奏したか。
ステアリングは軽くインフォメーションは希薄な性質で一瞬だけ往年のPPS(プログレッシブパワステ)を思い出す。交差点右左折では、Aピラーが視界を遮ってしまうのはワンモーションフォルムの欠点である。ピラーを細くできないのは衝突安全上、エネルギーをルーフに流さないといけないから。大昔のようにフレームやロッカーだけで頑張ると車体が重くなるので入力を分散させるマルチロードパスをやらないといけないという都合上、Aピラーに荷重が流れ、その荷重でAピラーが折れないように強固に作る必要があった。
この点で当時最も進んでいたのはオデッセイだ。衝突用R/Fを円管をハイドロフォーム成型し、片側溶接でボディと接合することでフランジが無い細くて強靭なAピラーを実現していた。対するZiOは恐らくコンベンショナルなアプローチで作られているため、右左折時は身体を動かして積極的に情報を取りに行かなくてはならないのはピラーが立っているカローラやRAV4、プログレでは必要のない動作である。
またCVT故に極低回転が使えてしまうことから上り坂や平坦路の50km/h定常走行ではロックアップ状態でE/Gのトルク変動がナックル経由でボディを共振させて発生するロックアップこもりが発生している。アイドル状態の印象と相まってZiOは周波数の小さいこもり音領域が苦手なミニバン/ステーションワゴンの弱点を受け継いでいるようだ。
少しネガティブな点に先に触れたがこれらの悪癖は当時の横並びで言えばありがちな印象である。コストがかけられない大衆車領域の車種と比べるとZiOはさすがにしっかり対策されており特に高周波の吸音・遮音は丁寧に実施されていると感じられる。例えばドアガラスが分厚い(測ると5.0mm程度)ため、ドアを閉めた際の隔壁感が高くマークX的な世界観は実現されている。1列目から3列目までエンジン音が目立たず、マフラーからの気流音も聞こえないレベルだった。ステーションワゴンやSUVだとRrのラゲージから聞こえてくる音が意外と馬鹿にならないのだが、ZiOは3列目までしっかり対策されていてセダン感覚だった。
高速道路を走らせた。CVT車でありがちなのが高速の方がギア比が固定されてしっくりくることなのだが、ZiOも例外では無い。アクセルを深く踏むと回転数が飛び上がるが、じわっと踏めばトルクで走らせようとする当りが2.4Lエンジンのメリットである。100km/h時の回転数はおよそ1800rpmと低い。新東名のように120km/h走行をすると2200rpm付近を指している。ロングホイールベースを活かしてハイペースながらゆったりとしたリズムでクルーズできる点は美点だ。後述するが、燃費も良好で高速道路のような発進停止を繰り返さない場面ならリッター15km以上は堅い。ミニバンにありがちな横風によるふらつきもなく、ソフトな乗り心地と両立しているのは機械式駐車場OKという車高要件の賜では無いか。ただ、当時の試乗記を読んでいると18インチタイヤ装着車の乗り心地を指摘する内容を目にしたが実際の私の感想としては充分ソフトに感じる。(その分、今の車の乗り心地は突き上げを許容している感がある)
意外と面白かったのはワインディングである。オーナーの趣味でコンチネンタルの新品が奢られていてこいつが非常にグリップ感が良い。いつものテストコースに持ち込んだが、姿勢を決めるために軽く制動して前輪を押しつけた後はオンザレール感覚でコーナーをクリアする。ホイールベースやトレッドが大きいので安定しつつもタイヤはしっかり車体を曲げていく。高周波の静粛性が高いので速度計を確認するとびっくりすることもある。ソフトな乗り心地のお陰で舗装悪路でも凹凸を綺麗に乗り越えてくれる点は良い。ただし、車幅の影響でライン取りはあまり自由度は無い。Aピラーの死角が深いコーナーではちょっと邪魔に映ってしまうのは玉に瑕。パワーも程々にあるので腕に覚えがあればハイスピードドライビングも楽しめるかも。
休日に家族を乗せて市街地を走らせたが、家族の評判もキャビンが広くて快適なので上々だった。ドアが大きいので乗降させやすく、センターアームレストフェチの息子も大満足だった。ドアが大きいことは気になる人がいるかもしれないが、子育て世代でも十分対応しうる後席の広さは素晴らしい。ただし令和の酷暑日ゆえに暑がりの我が家には少々空調性能が不足気味だったが、走らせている内に何とか効いてきた。350Gのみ初代イプサム式のRrクーラーが追加されるのは元々の空調性能不足にメーカー自ら気づいていたのかも。
ZiOの走りは狙い通りミニバン的と言うよりはセダン的なイメージだ。この手のMPVというか次世代サルーンにありがちなカツカツの性能ではなく余裕あるE/G排気量による豊かなトルクや大きな諸元値による穏やかな乗り心地は確かにセダン感覚だ。勿論本物のセダンと比べると視点の高さはミニバン的だが、セダン作りにノウハウを持っていた当時のトヨタらしい味付けだった。CVTの制御など当時のトヨタ全体の問題は持って居るが、それを差し引けば乗り心地や静粛性など美点は少なくない。そのサルーン感覚で言えば、パワーウィンドーを窓閉めると、閉じきり前に速度が遅くなる、この挙動もまるでレクサスのようで気分が上がる。
●ユーティリティ性能
運転席の着座姿勢はマークXよりも75mm高い着座位置がミニバン的だ。アップライトで健康的なパッケージはこの時代は特に珍しいわけではないが、中々快適な空間と言える。シートは長時間運転すると腰が痛くなる悪癖があるものの、サイズや形状は常識的なものだ。
運転席をドラポジを確保した状態で2列目に移った。シートはサイズもたっぷりしており肩のサポートが良いので状態が動かない。センターアームレストに腕を置いて脚が組める余裕がある。(拳3個分)ヘッドクリアランスも拳2個確保されているので充分だ。快適性に意外と貢献しているのがRrドアガラスに固定部が無いため、視界を遮るものが無く、2列目からの景色も良い。必要があればパワーウィンドゥは全部下がりきる点も、ベルトライン下が分厚いデザインであることを考えても優秀。
着座姿勢としてはフロアが前傾しており、階段状フロアの方が好みだがZiOの場合はヒップポイントがフロアより高めなのとシート座面のサイサポートが適切なので気にならない点は素晴らしい。マークXどころかマークIIやクラウンにも引けを取らない居住空間であると感じた。後席のゲストに満足して貰えるという意味ではかつてのセダンが目指したような室内空間である。レッグスペースもRr最後端位置で拳4個分が確保されていて脚も余裕で組めそうだ。また、Cピラーが後ろに引いてあり、角度が立っている(≒3列目乗降性で決まった?)のでベルトアンカーの配置が自然でどのスライド位置でも肩が浮かない点は現行型車でも実現できていない車種もあるので優秀な部分である。近年、後席を優先する人がセダンではなくアルファードのような高級ミニバンに流れるという傾向があるが、ZiOなら、くつろぎ感と優れた乗降性を享受できるので個人的には2列目はZiOの玉座であると結論付けた。2列目だけならZiOの気持ちよさは今でもミドルクラスのミニバントップレベルだ。(そもそもセダンライクなミニバンが絶滅しているが・・・)
そして皆が気になる3列目だが、基本的にはWISH式の畳んで使うジャンプシート的思想の3列目は普段はラゲージのデッキ面と面一の高さに隠れている。背もたれを起こし、座面を引き出すと2人分のスペースが出現する。2列目シートの背もたれを倒すとウォークイン機構によってスライドして乗降できる。自分を含めて乗り込む人たちは何故か嬉しそうに意気揚々と乗り込むのだが着座し2列目シートを元に戻した瞬間から、ここへ座ったことへの後悔が始まるだろう。
2列目の余裕とは対照的に、頭上も膝前も狭いので、まともに座ろうとすると頭が天井に当たるし、膝は2列目のシートバックにめり込む。フロアは本当にここに足を置くのか?と聞きたくなるほどの険しい斜面である。着座姿勢としては、尻を前にずらしてヘッドクリアランスを稼ぎ、体育座りのように膝を前に出すスタイルになる。クオーターガラスから見える外の景色は開口面積が狭く、まるで日本の城の、敵を攻撃するための狭間(さま)に似た感触で、開放感は一切感じられない空間であった。
そのまま、ドライブをしたがRrタイヤ直上に座るので上下動が直接的に乗員に伝わるので快適とは呼べないレベルであった。乗り心地は褒められたものではないし、クッションは最低限という悪条件ながら、以外と遮音吸音が良くて快適なのは2列目の快適性のための結果なのだろうが下手な軽自動車の運転席より静かなんじゃ無いかと思えるほど。アクセサリー的な3列目だとしても3列目両側のトリムにはソフトパッドが貼られているのはマークXであろうとするいじらしさを感じた。
ラゲージは3列目シートを使っていてもBセグエントリークラス並みの201Lを確保しているので、基本パターンとしての3列格納時は充分以上の容量がある。当時の新車情報サイトによれば、奥行き49cm×幅104cmというスペックだが、3列目を格納すれば401L、荷室寸法にして115cm×102cm(11730平方cm)という広大なスペースが出現する。(ちなみにカローラツーリングの後席荷室使用時の床面積は93cm×146cm=13578平方cmなのでワゴン並みのラゲージである)
4+Freeというコンセプトを実現するためにZiOは6kgという非常に質量をかけたデュアルトノホードという装備品が開発されている。
TONNEAU COVERとはフランス語と英語を組み合わせたもので直訳するとトノーは樽なのだそうだ。Wikipedia情報だが、「トノー(Tonneau:発音ta'-no)とは、初期の乗用車で後部座席コンポーネントを指す用語であり、これを装備した乗用車のボディスタイルを表した。フランス語で、酒類を入れる大樽、容器、カバーの意味で、初期のトノーの座席が半円形の樽状であったところに由来する。現代ではオープンカーのフロントシート後部エリアやピックアップトラックの荷台部分を指すのにも用いられている。」
ステーションワゴンの場合、荷物の目隠しのために巻き取り式のカバーをトノカバーと後席後端に取付けてバックドア開口部まで引っ張り、引っかけることで目隠しとしての機能を持たせる例は多い。積んでいるものが丸見えになるのは防犯上好ましくないという理由や、荷物とゲストを同居させるべきでは無いというセダン的価値観に基づく装備品なのだが、ZiOの場合はセダン・ワゴン・ミニバンを行き来するコンセプトを実現するため、トノボードの前後にロール巻き取り機構が着いており、従来のトノボードよりもセダン的な隔壁感を実現出来る点が新しい。ロール式のビニール膜なので本物のセダンと同等レベルで音響的に区切ってモードを合わせたり遮音する効果は期待できないが、ヘッドレスト後端が成型されて見栄えに配慮されている。無論、デッキ下に収納スペースがあり未使用時は格納することが出来る当りはトヨタ的気配りである。ローディングハイトは68cmなので、ビールケースを持ち上げるには高すぎるが一般的な使用で不満が出るレベルでは無い。
シビアに言えばミニバンとして見れば3列目の居住性は最悪レベル。ステーションワゴンとしてはRrオーバーハングが短いためデッキ面積は小さめである。ただし、2列目の居住性は3列全てを通してみても非常に良い。次世代型サルーンというコンセプトのなかで最もうまく行っているのはここだ。スポーティに振りすぎたマークXが失う後席の快適性はこちらでカバーしているとも言えそうだが、3列シート仕様ゆえ出来の悪いミニバンとして受け取られてしまった点は非常に残念である。
採点するなら1列目3★、2列目4.5★ 3列目2.5★ ラゲージ3★ トータル★3つ
●燃費
試乗時は590km走行して62L給油したので満タン法で9.5km/Lであった。
10・15モードのカタログ値は12.8km/Lなのでまずまずの結果だ。
燃費はCVTと電スロ、EPSという燃費のための三悪装備をフル活用。アクセルを小さく踏んで発進させると20km/h以上で完全にロックアップが作動し、E/G回転は1000rpmに張り付く。このままアクセルをふみ混むとCVTの変速のみで車速が上がり60km/hを超えるまでは1000rpmのまま車速が上がる妙な感覚を覚える。
普段から右足とタイヤの接続感を大切にしている私にとっては褒められたものではないが、それでも加速を続けて70km/hになると1200rpm付近になり、これ以降は車速とE/G回転数が比例して上昇するようになる。
アクセルをオフした場合は、同じ車速のまま1200rpmに回転が上がり、そのままフューエルカットを使って転がっていく。車速がどんどん下がってもタコメーターは1200rpmを指したままで極力CVTの力を使ってフューエルカット領域を維持しつつ回転抵抗の少ない低回転を保つロジックである。
CVTによって低燃費領域を使って走行するだけでなく、アクセルオフ時は極力長く燃料をカットして燃費を稼ぐ。まだTHSはプリウスやエスティマなど限られた車種のための技術であり、アイドルストップ装置が流行する前の思想である。
流れの良い一般道や高速道路をツーリングしたときの燃費は、燃費計読みでリッター17km/L以上を記録。ただし、発進停止が多い市街地では一気に10km/L以下に落ち込んでいくのは車体の大きさや排気量の大きさが如何に燃費に影響が大きいかが実感できる。
●価格
2009年時点のZiOエアリアルの当時の価格は286万円(税込)であった。
前輪駆動の他グレードは240:258万円、240F:273万円、240G:288万円、350G:335万円。
2400ccという排気量を考えれば240F当りが量販で+αでGどうですか?という価格設定だ。V6も比較的割安な価格設定なので悪くないが、240系が意外と割安な価格設定なのはFFベースである引け目か。当時はマークXも最廉価の250G_Fパッケージは247.8万円だったので丁度10万円高でワゴンが買えるという設定になっている。
個人的には240F当りで充分満足できると思うのだが、4+Freeのコンセプトに見せられてギラギラしたい場合はG系で決まりだろう。当時よりも今の方が価格は圧倒的に安い上に冷静に見られてエクステリアも気にならなくて良いかも知れない。
●まとめ
結論から先に言えば、トヨタがZiOで企てた団塊マーケティングは失敗に終わった。月間目標台数は4000台であったが、発売月の登録台数が5117台、翌月が4198台と目標を達成するも3ヶ月目には1649台と失速した。
離れ目おちょぼ口のフロントマスクが不評の原因としてエアリアルを追加し、マイナーチェンジでFrバンパーを新設して顔つきを修正したが、不振の流れを食い止めることは出来ず、最後は3列シートを配した2列シート仕様車を追加して9万円値下げするなど苦しみながら6年3ヶ月のモデルライフを経てモデル廃止されてしまった。モデルライフで52190台を販売したが、最初の3ヶ月分(10964台)を差し引けばモデルライフ6年の平均月販台数は41226台/72ヶ月=572台であった。
月販目標台数に75ヶ月をかけると30万台となる。つまり目論見の17.4%しか売れなかったことになる。流石にコレは大惨敗と言わざるを得ない結果である。金型代は回収できたかどうかも怪しいレベルではないか。
当時のユーザーの気持ちで考えれば、同じトヨペット店にはイプサム240が存在していた。ZiOはV6が選べ、内装クオリティも高かったが、3列目シートが余りにも狭かった。機械式駐車場対応の全高1550mmを実現したミニバンという見方をすればホンダオデッセイという強力なライバルが存在した。渾身の低重心構造によってセダン並みの走りと、先代並みの居住空間を持ち、セダンライクミニバンとして充分なユーティリティを持ちながらワルなキャラクターも持ち合わせていたオデッセイと比較検討されると分が悪い。単純なステーションワゴンとしてみても401Lという荷室容積はカローラフィールダー以下である。
窮屈な3列シートによってミニバンという色眼鏡で見られてしまいがちだが、本来はナディア(カムリ)、オーパ(コロナ)の延長線上にある「あの時代特有のトヨタ製ポストセダンのスタディ―」ZiO(マークX)であると考えた方が立ち位置がハッキリするのではないか。
結果的に台数を稼ぎたくてミニバンユーザー吸引を図るための「ちょっとしたスパイス的扱い」だった3列目シートの存在が仇となった様に感じる。あれもこれもと欲張った結果、設計的・意匠的な制約条件が多くなりすぎて掴みどころのない曖昧な存在になってしまった。後に廉価グレードに2列シート仕様を追加したが、一度ついたイメージは覆らなかったようだ。後期型ではSAMURAI Wagonなるコピーが添えらえた上で、トヨタWEBサイト上でもステーションワゴンと再定義されたが、さしたる販売成果を上げぬままモデルライフを終えた。
当時の営業マンの会話を記憶から呼び覚ました。セダン系のマークXという名前を守りたくて当時人気のあったミニバンからの吸引を企てたが、セダン層からは想定以上にZiOに流れたものの、保有母体が多かったミニバン層からの吸引に失敗した時点でZiOの目論見は水の泡となった。
実際のZiOは決して悪いクルマでは無いが、マークXのワゴンとしては・・・・とかオデッセイ対抗ミニバンとしては・・・・とかFSCの市販版としては・・・・そういう観点で見た場合に忌避感が出がちだったのが残念だ。
走らせてみると、当時のほかの車と共通の欠点を有してはいるものの、確かに高級セダンのようなクオリティとミニバンの(二列目の)様な快適なキャビンと、
程々のユーティリティが同時に味わえるのはZiOならではの魅力である。中古価格も手頃なので意外と今、多人数乗車を求めない後席重視の車としては狙い目にも感じるのだが。
ちなみに冒頭に述べた団塊マーケティングは自動車業界以外も期待して様々な商品を出したものの不発に終わっている。
ニッセイ基礎研究所の調査によると、団塊の世代が老後の生活で重視したいこととして興味を示したのは健康(83.8%)、家族との生活(55.2%)、食生活(54.8%)などが多数を占め、車・家電などの耐久消費財を重視するとした回答は全体の6.4%と限定的だった。
レポートでは団塊マーケティングが失敗した理由として「2007年にシニア・マーケットに注目が集まった際、多くの企業は、消費意欲が旺盛、フトコロ事情が良い、多くの時間を持つというマーケティング対象の好条件に注目しすぎてしまったのではないだろうか。つまり、特別な消費活動を行う、特別に高額な消費を行う、特別に多くの時間を費すような非日常的な消費活動を行うマーケットとして意識しすぎてしまい、彼らの本来のニーズを見落としてしまったのではないだろうか。」と指摘していた。
結果的に時代の波を読み違えたのはZiOだけではないのだが、私はZiOを見るたびに団塊マーケティングの失敗と、作り手目線でいいモノだとしても、必ずしも消費者から評価されてヒットに繋がるわけではないという厳しい現実を思い知らされる。しかし、マジョリティには支持されなくとも、試乗車のように初代オーナーから10年以上愛用された後も、次のオーナーからも溺愛されるなどZiOと相性の良いオーナーとはずっと良い関係を築き続けられ、引き継がれていくだけの実力はあると感じられた。
1週間に亘りZiOを貸して下さったオーナーに感謝。