メーカー/モデル名 | フォルクスワーゲン / Type1 1200L (1963年) |
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乗車人数 | 2人 |
使用目的 | その他 |
乗車形式 | 試乗 |
おすすめ度 |
5
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満足している点 |
1.ポルシェ博士の最高傑作 2.基本設計が1930年代なのに現代の道路を普通に走れる 3.扱いやすい低速型エンジン 4.狭さを感じない優れたパッケージング 5.意外と静か(ドアガラス5.0mm) |
不満な点 |
1.現代の目で見ると大きいステアリングの遊び 2.高速域で顕著な浮き上がり 3.横風に対する弱さ 4.意外と小回りが効かない(大径タイヤ) 5.外形発生音が大きい |
総評 |
●1930年代の技術が21世紀まで通用する凄み 世界に名だたる自動車エンジニアであるフェルディナント・ポルシェ博士(1875-1951)の数ある傑作の一つで西ドイツだけでなく世界中のモータリゼーションに貢献した大衆車「フォルクスワーゲン」に短時間ながら試乗する機会に恵まれた。 フェルディナント・ポルシェ博士は数々の自動車メーカーを転々としながら小型大衆車の必要性を説いてきた。 ![]() 独立した後も、大衆車の依頼に基づいて試作を続けてきたが、マスプロダクションに繋がらずにいたところ、時の権力者による民衆に夢を与える政策の一つとして大衆車の開発の協力を取付けることに成功した。 権力者が提示した開発条件は下記の通り。 頑丈で長期間大きな修繕を必要とせず、維持費が低廉であること 標準的な家族である大人2人と子供3人が乗車可能なこと (すなわち、成人であれば4人乗車可能な仕様である) アウトバーンにおける連続巡航速度100 km/h以上 7 Lの燃料で100 kmの走行が可能である (=1 Lあたりの燃費が14.3 km以上である)こと 空冷エンジンの採用 流線型ボディの採用 「この条件を満たしながら、1,000マルク以下で販売できる自動車を作ること」 であった。大変厳しい内容ではあったが、ポルシェ博士はそれまでに開発済の要素技術や日の目を見なかった大衆車プロジェクトで築いた財産を最大限に活用して開発されている。 1934年の契約から1935年の最初の試作車の完成を経て量産体制を整えていた1939年、第二次世界大戦が勃発して大衆車量産の夢はまたしても頓挫した。 ―敗戦後、フランスにて独裁者に協力した罪で収監され、健康を害したポルシェ博士は1947年に釈放されて西ドイツに帰国した。ポルシェ博士は西ドイツの街中を走るフォルクスワーゲン達にさぞかし胸がいっぱいになったことだろう。 そして本国では1978年まで生産が続けられ、海外生産分ではは2003年までメキシコで生産された。フルモデルチェンジ無しで作り続けられた自動車としては今も燦然と輝く2152万9464台という記録を持っている。 改良を続けながらとは言え、1930年代の技術から生まれた乗用車が21世紀まで生き延びたことだけでもポルシェ博士の偉大さが伝わってくる。ポルシェ博士は独創的な技術を0から生み出すと言うより、既存の技術をうまく組み合わせて商品にする事が上手だったと伝えられている。フォルクスワーゲンもまさにその成果であり、当時の技術の中から使える者を上手に選択して普遍的な価値を持った大衆車にまとめ上げた。 ●まとめ 試乗させていただいて、やはり1930年代に企画・開発された乗用車がこれほどまで普通に扱える事実に驚いた。最初の試作車が出来た1935年は2023年の88年前である。紆余曲折を経て量産された1945年は78年前、そして試乗車が生産された1975年ですら48年前なのであるが、これは本当に凄いことではないだろうか。 1930年代という自動車が富裕層の玩具から大衆の道具へ移行する重要な役割を果たした時代から不幸な戦争を経て、戦後復興の外貨を稼ぐ産業となり、開発途上国のモータリゼーションにも寄与し、1960年代以降は北米市場で優れたマーケティングによって小型車の可能性を拡げ、最後はファッションアイテムとしても認められていった。長い時代を経て受け取られ方や存在意義が変わるのはまるで長く歌い継がれる名曲のようでもある。 私は小学生の頃にフェルディナント・ポルシェ博士の伝記を読み、勝手に尊敬していたのだが、その伝記の主人公の最高傑作の一つと言って良いこの小さな大衆車に乗ることが出来たと言うことは本当に幸運だった。オーナーに感謝申し上げたい。 |
走行性能 |
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試乗車はオーナーが「サビートル」とか「ねこバス」と呼ぶ1975年式フォルクスワーゲン1200Lである。(以下ビートルと呼称する)
![]() 放置されていた部品取りのつもりが起こしてしまったと・・・。(オーナーは別にピカピカの1.6L限定車も保有) 既に後継車としてゴルフがデビューした後のモデルであり当時としても時代の潮目を感じさせる状況だったが、当時の大衆車同士でボディサイズを比較してみると、RR-FR-FFそれぞれが近しいホイールベースを持ちながら、ゴルフの全長の短さや全幅の広さが目立っている。今では率先してボディサイズを拡大している欧州車と言えども、この当時はまだ日本の小型車枠にミートする大衆車が作られていた。 ![]() ビートルの基本構成は一枚フロアーにE/G・T/M・サスなどが取付けられたバックボーンフレームに、流線型のボディを載せた構造で、1930年代には当たり前だったフレーム構造でありながら、フレーム単体で全てのストレスを受けず、ボディでも受け持っていた点ではモノコック的な考え方も含まれている。 ![]() 下から覗くと、配管。ロッド類が露出せず、フロア最下面がフラットである点も先進的だ。Frサスはポルシェ独自の上下2本のトーションバーを用いたトレーリングアーム式独立懸架を採用。Rrサスは同じくトーションバースプリングを使ったスイングアクスル式が採用されている。コイルサスではなくねじり(トーション)棒(バー)バネを使うメリットはスペース効率である。 Fr側はE/Gがないのでフロントエンドにトーションバーを車両幅方向に配置できる。そしてトレーリングアーム式なので足元スペースを確保できる。 Rrは水平対向空冷4気筒E/Gがスペースを喰うのでT/M前にトーションバーを置いてトレーリングアームで繋ぐこの方式が最もスペース効率の高いやり方だった。 当時は道路事情も悪く、4輪独立懸架を持っていることは技術的にハイレベルだし悪路でも乗り心地が良いというメリットがあった。道路事情への配慮という面では小型車としては大きな15インチタイヤを履いている。 ![]() 本来、キャビンを少しでも大きく取りたい小型車は小さめのタイヤを履きたがる傾向があったが、ビートルは15インチを選択。ロードクリアランスを確保するためであり、当時のカタログには最低地上高210mmと記載されていた。(初代クラウンや初代RAV4と同値) RRを採用したのも、プロペラシャフトが不要で室内が広く取れること、さらに強制空冷のため、冷却水経路をFrから引かなくてもいいのでさらにシンプルに作れるからである。E/GはRrオーバーハングに積んでいるのでホイールベース間の床面積は乗員のために有効に使える。高性能な等速ジョイントが安価に手に入る前の大衆車にはメリットの多いレイアウトだった。 オーナーが快く試乗させて下ったのでドアを開けた。ドアハンドルを握って開けただけでしっかり感が伝わってくる。ぱっと見のぼろぼろ感(だって元・草ヒロだし)と違い、「生きてるな」という感じのフィーリングであった。 ![]() シート位置を前目に調整し、3点ながら固定式シートベルトを締めてE/Gを始動。当たり前だが一発でかかり、後方からバラバラと空冷E/Gの音がする。 空冷E/Gに乗ったのはいつぶりだろうか・・・・(答えはスバル360以来7年ぶり)。 乗車姿勢としてはステアリングに対してペダルが奥にある感覚で大柄な欧米人のためにペダル類は奥に配置されている。試乗車はRHDだが、ペダルは内側にオフセットしている。ステアリングを握ると少々左右のオフセットがキツ目だ。 ![]() LHDなら左ホイールハウスがフットレスト代わりに使えてドラポジは採りやすいのかも知れない。 フルシンクロメッシュ機構付き4速MTのシフトパターンは前進は一般的HパターンでRはリング(社外品)を引きながら2速の左にシフトする。 RR車で指摘されがちなシフトの曖昧さは社外品のクイックシフトの効果なのか悪くない感触だ。早速1速にシフトして床から生えているクラッチを操作して発進した。典型的低速型E/Gなので20km/hで2速へ、40km/hで3速に入れて、60km/hではもう4速という走り方だ。トルクフルで乗りやすい、実用車の鏡の様な動力性能だ。 ![]() E/Gは様々なバリエーションがある中で試乗車はベーシックな1.2Lである。1192cc 圧縮比7.0 最高出力41.5ps/3900rpm 最大トルク9.0kgm/2400rpmというスペックは同時期のカローラの71ps/6000rpmと比べてかなり劣るように見えるのだが、カローラの最大トルクは9.7kgm/3800rpmであり、ビートルはより高回転を好む特性になっている。 更にビートルは4速ギアがギア比が0.89とO/D(ギア比1以下)になっているのが特徴。前述の大径タイヤと相まって100km/h走行時のE/G回転数は推定3252rpmである。 カタログ記載がある最高速度115km/hは3740rpmであるから、カローラの4000rpm@100km/hと比べると余裕があることが分かる。 カローラを弁護すると、高速道路を最高回転数の75%で走れる設定にしてある。高速道路をより走行する機会が多いユーザー向けには1.4Lや1.6Lの5速MT(E/G回転は然程下がらないが)も存在した。 同じ1.2Lの大衆車だが、低速トルク型のE/Gで静かに走ることができるビートルは連続高速走行時の快適性や耐久性確保(E/G回転低い方が有利)にも心配りが出来ている。 ![]() せっかくなので実際に100km/h走行も試したが日本の法規用のブザーがビィィィィと作動する。E/G音は後方から聞こえてくるが、嫌な音質ではないのでストレスは感じないが、ピラー部やルーフサイドのフランジから聞こえる風切り音が大きい。 また橋の継ぎ目ではギュギュとブッシュのこじれる様な音が確認された。乗り心地としては大きな突き上げもなくファミリーカーとしては不満のないレベルである。写真はFrサスだが、ショックアブソーバー取り付け部の受け側は現代の目で見るとかなり華奢に見える。 ![]() 横風によって進路が乱されやすい(と言うより流されやすい)のはRRであること以上に高速度によって揚力が発生しているからだと感じられた。高速安定性の不足は翼断面のような古典的流線型の持つ弱点としてよく知られている。空気抵抗が小さいことで小さなエンジンでも100km/hで走ることができるが、走行安定性は少なくとも1975年のレベルに差し引いても高くはない。 まぁ、車幅が狭いので100km/h走行で横風に煽られたところで車線内に収まれるので実害はないが、80km/h程度まで落とせばそんな不安も相当軽減される。 少し速度が落ちたので3速にシフトダウンしたところ、全く速度が伸びずに再び4速に上げたところじわじわと加速した。ビートルは本当に低速型なのだ。 (続く) |
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乗り心地 |
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(走行性能続き)
ブレーキはサーボ無しの4輪ドラム式である。この様な仕様は1980年代の軽自動車並みのスペックであり不安を感じざるを得ないのだが、実際には踏めばちゃんと効く。初期にじわっと踏んでライニングをドラムに貼付けた後、踏力を増していけば思いのほか減速・停止は苦にならない。800kg程度の車重に15インチホイールいっぱいのドラム径でブレーキが入っているので能力的には決して低くないのである。勿論、現代のサーボ付きディスクブレーキとは比較にならないが。 またステアリングは現代の標準とも言えるラックアンドピニオン式よりも旧式なボールナット式・・・・でもなくウォームギア&セクターローラー式が採用されている。さすがに操作に対する遊びが大きく「クイック」ではない。一方路面からのキックバックは小さ目で悪路では、この曖昧さがドライバーの疲労を軽減したのかも知れない。また、繊細なステアリングインフォメーション・正確な操縦性よりも耐久性や操作力、外乱遮断特性など求められた性能が違ったのだろう。 直進中ふらふらと±拳1個分ステアリングを振ったが意に介さずビートルは直進した。確かにこの感触は私が運転した経験のある1960年代の乗用車に近い。このクルマでコーナーを曲がるには早めにステアリングを操作してガタを詰めて反応が出てくる部分に「当てて」おかないといけない。一本調子でエイヤとステアリングを回すと応答遅れが出るし、気持ちよい走りは出来ない。そもそもそのステアリングフィールに見合った速度で走らせねばならないだろう。 ごく限られた試乗時間のなかでも1930年代に基本設計がなされた自動車がこれほど「まとも」に走る事実に大変驚いた。1945年の量産開始から1978年まで継続して改良が続けられたという結果であることは勿論理解しているのだが、あらゆる要素が現代の主流と比べると異なった様式でまとめられているので、乗車体験も同じく異なるものになった。うまく表現できないが「伝説を体験させていただいている」という感触で再販ランドクルーザー70以来の感触だった。 ![]() |
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