長所
1.致命的な欠点のないパッケージ
2.他グレードと2.0Zとの差別化
3.笑みがこぼれるクイックな油圧パワステ
4.ドラビリが良いCVTの制御
5.ブレーキの剛性感
6.大願成就のための弛まぬ努力
短所
1.目立ちすぎるCVTベルトノイズ
2.キャプテンシートの恐ろしいアイドル振動
3.ハザードスイッチの使いにくさ
4.Rrドアの節度感がスカスカ
5.内装の質感がプラスチッキー
6.考える事を放棄して商品性をストリーム任せにした事
本日12月15日からウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年を記念した映画が公開される。これまでディズニー作品の主人公たちは強く願う力で道を切り開いてきたが、本作はそんなどの作品の世界より前から存在するファンタジーの世界、どんな“願い”も叶うと言われている王国を舞台にした物語だという。
―その物語の名前は「ウィッシュ」
2003年、あるお父さんは息子と一緒に富士スピードウェイで車中泊をしたい、そんな願いを叶えるためにやって来たクルマがあった。その息子は多感な時期をそのクルマと共に過ごした。2023年、その息子の強い「願い」は成就し、彼の元に一台のスポーティな3列シート車がやってきたのだった。
ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年を飾る2023年、
―20年ぶりに彼の前に姿を現したそのクルマの名前は「ウィッシュ」。
友人から大切なクルマを6日間お借りして共に暮らした。
●小型セダンライクミニバンの仁義なき戦い
ディズニー創立80年を迎える年、2003年1月。
トヨタは「WISH COME TRUE(多くの人の願いに応えること)」を開発テーマにして7人乗りコンパクト乗用車「ウィッシュ」を発売した。
開発総責任者の吉田チーフエンジニアが三栄書房「ウィッシュのすべて」内で語ったウィッシュの魅力のポイントをここに引用する。

私の解釈だとプレミオ/アリオンをベースに扱いやすい小型車枠のボディサイズと
「いざというときに7人乗れる座席」をスポーティな意匠で包んだ車。普段はステーションワゴンで時々ミニバンになるという利便性を追求した車がウィッシュである。
ウィッシュを語る上で外せないのが当時の苛烈なセダンベースミニバンの主導権争いなので、当時の事情に是非触れておきたい。
元々小型車枠のセダン感覚を持った3列ミニバンといえば、1996年発売のイプサムがあった。トヨタ版オデッセイと言われながらも、5ナンバーサイズとしたことでセダン的な扱いやすさを維持しつつ、ミニバンの価値観が体験できるステーションワゴンだった。オデッセイとの競争のなかで更に上位車種のガイアと2モデルで対抗したが、遂にオデッセイの牙城を切り崩すことは出来なかった。
オデッセイは1999年、キープコンセプトで2代目に移行して市場を引き継いでいたが、トヨタは2001年にボディサイズを拡大し、2.4L_E/Gを搭載したイプサム240シリーズを発売。歴史的に珍しいケースだがトヨタが5ナンバー市場に見切りをつけてホンダの土俵で相撲を取ろうとしたのである。
当のホンダはその1年前の2000年に5ナンバーの「コデッセイ」ことストリームを発売。オデッセイでは取り切れないライトな小型車枠ミニバン需要に応える商品を送り出した。つまり、ライバル関係同士がお互いを羨んで、相手を向いた新商品を開発していたのである。

ストリームは発売後10ヶ月で登録台数10万台を達成し、ホンダとしてはステップWGNを抜く記録を樹立した。センスの良いストリームの「ライオンは寝ている」を使ったCMの効果もあってかモデルライフ69ヶ月では28万5741台を生産(約4141台/月)した。
一方でオデッセイの領域に踏み込んだ2代目イプサムは販売が低迷し、モデルライフ104ヶ月で18万9241台の生産に留まった。(104ヶ月平均で約1820台/月)
このヒットが許せなかったのはトヨタである。イプサム240シリーズは私の目で見ても力作であったが、市場では評価されなかった。そんなトヨタが次に行ったことはストリーム対策だった。
ストリームが売りにしたミニバンに見えないスポーティな感覚と小型車枠の使い勝手を踏襲し、手持ちのコンポーネントをうまく使って手早くトヨタ版ストリームを企画開発することで、商品としては圧倒的勝利をせずとも決して圧倒的敗北を喫さない絶妙なスリップストリームに入ったのだ。
大ヒット商品に限りなく近づけた暁には、今度は圧倒的な販売力・アフターサービス力を以てすれば競合をオーバーテイクできるとトヨタは考えた。
ボディサイズ、室内空間、グレード数、価格などなど・・・数多くの諸元は比較すればするほど類似している。仮にストリームが存在しなったとして、ウィッシュはこの世に生まれていたのだろうか。とにかくライバルに勝ちたい、というトヨタ陣営関係者の「願い」はウィッシュというプロダクトに結実したのだ。
●♪UTADA HIKARU
念には念をということだろうか。TV-CMには宇多田ヒカルの新曲を持ってきた。クルマの車名より先に大きく「♪UTADA HIKARU」という
テロップが映されたTV-CFなんて空前絶後である。(TOP画像参照)

絶対に負けたくないのだから、絶対に負けない商品を作り、絶対に負けないマーケティングを行った。結果、ウィッシュは6年3ヶ月で累計55万台(7333台/月)を売り大成功を収めたのである。特に発売後10ヶ月の平均はウィッシュが13790台/月だったのに対してストリームはたった2998台/月に留まる。
元々ストリームはデビュー後3年で23万台以上の実績があったので単純計算で月販6388台のポテンシャルを持っていたことになる。ところがウィッシュの発売によって少なくとも半分の顧客を奪われた。
確かにトヨタの「願い」は叶ったが、宇多田ヒカルは、ウィッシュVSストリームの結果がはっきりし始めた2004年に発表された曲の中で「誰かの願いが叶うころ、あの子は泣いてるよ」と歌っていたが、あの子とは誰のことなのか。
13790台/月も売れたウィッシュ目線ならばストリームから3000台奪ったところで、残り1万台は自分の実力(含む販売力)で勝ち取ったと主張するだろう。パーソナルユースでもサマになるスポーティなステーションワゴン風3列シート車はこの時代に求められていた潜在的な需要だったと言えそうだ。
ウィッシュは、コアな自動車ファンやメディアから必ずしも賞賛はされなかった(私が調べた限り、硬派なメディアでは酷評する記事が多かった)が、ビジネスでは計画通りの勝利を収めたのである。
事実、ウィッシュは2003年最もヒットした乗用車だった。顧客が求めていた領域に先行するストリームの不満点を解消した上、スペックは同等かそれ以上で価格はほぼ同じで販売店も多い。トヨタという信頼のブランドに安心感を持つ人も居ただろう。
一般的にクルマの開発は企画段階から4年、デザイン決定からは2年はかかるものである。それが90年代終わり頃には20ヶ月くらいになっていたとされているから、恐らくウィッシュは1999年頃には本格的な企画が始まっていただろう。ウィッシュのすべて本によれば2002年1月にデザインが確定したという。
「コデッセイ」の記事が各種自動車メディアで噂されていた時期に企画を始め、ストリームが発売された後に徹底的に研究を重ねて最終デザインを決定し、ストリームの好評な売れ行きを見ながら商品としての仕様を決めていったとしてもおかしくないタイミングなのである。
しかもこの時期、ミニバン主力のイプサムの上級移行が失敗し、更にステップワゴンの上位となるホンダ版エルグランドが開発されていることも既に知られていた時期である。
ホンダはウチが手薄になった小型枠にコデッセイで切り込んでくるらしい…このままでは殺られる…。
トヨタは危機感から来る生存本能によってウィッシュを開発したのだと私は思う。
死ぬ気で作ったからからこそ、ストリームを徹底的に研究しストリームと“並ぶ”商品性をウィッシュに与えたのだ。もしもに世の中にストリームが存在していなければウィッシュは存在しただろうか。単にイプサム3ナンバー化の穴を埋める為に小型ミニバンを作ったとしたら、全長4550mm/全高1590mmだっただろうか。


ほとんどの諸元値がストリームと揃っているか僅かに上回っている事が分かる。きっとウィッシュの開発に携わった全ての人たちがストリームの仕様・諸元値を徹底的に調べ、それを上回る開発をやり遂げたのである。
これがカローラの開発であったなら、ゴルフや307、フォーカスやシビックもベンチマークしてカローラとしての諸元・仕様を決めていただろうが、ウィッシュは恐らくストリームしか見ていない。トラヴィックもリバティもプレマシーもディオンも見ていないと思われる。
こんなクルマはウィッシュ以外に思い浮かばないほど、ここ20年くらいの自動車業界のなかでは特殊な事例である。本来、基本諸元や仕様設定というものは企画部署があらゆる調査レポートや市場動向を基に脳みそフル回転で決めていると考えて間違いないだろう。
ちょっとした寸法の差で売れ行きに影響しかねないものだし、普通は同じ全長、全高にはならないものだ。今でも過酷な販売競争を繰り広げている現行のノアヴォク・セレナ・ステップWGNの諸元を比べれば分かるはずだ。
ウィッシュの場合、企画が進むなかで先行して発売され、市場で好評を博しているストリームがあるのだから、ストリームを研究して、並んでいるか、勝てたかを考えるだけで車が出来上がる。

ストリーム開発チームが諸元を決めるために悩んで決断した経緯をすっ飛ばしてストリームに酷似した数値にしておけば一定の成功が約束された諸元になる。結果として開発時の意志決定が後戻りすることなく早まり、その分開発期間の短縮が大幅に図られたはずだ。
この効果は決して小さくないと私は思う。
●エクステリアデザイン
ウィッシュのデザインはストリームを意識したミニバンに見えないスポーティさを保ちながら、ストリームとは違う見た目になるようにスタイリスト達の腕が振るわれている。だからボディサイズがほぼ同じでも隣に並べて全く一緒に見えないのがその証拠である。

そのデザインテーマは「メタル・カプセル」だという。ウィッシュは実用性や空間容積優先だった従来のミニバンと比べて多人数乗車可能なミニバンであることを意識させないパーソナルなイメージを与えた。「カプセル」から連想するゼリービーンズのような柔らいイメージではなくインゴットのようなカッチリしたメタル感をスポーティな味として表現しているのだ。

開口が小さくアンダープライオリティなグリル開口、縦型風のヘッドライトによって低重心な精悍さを与え、フードからルーフまではワンモーションにすることでストリームとの違いを出している。(ストリームはフードから折ってピラーが出ている)
ヘッドライトはアウトラインだけ見ればストリームそっくりな台形形状をしている。ストリームはマルチリフレクターやターンシグナルを三階建てに積み上げたが、ウィッシュは内部に円筒状のランプが連なった様に見せることでストリームとは全く違った表情に仕上げている点も面白い。

サイドビューは水平基調のベルトラインを引きながらBピラーをボディ同色としつつ、リアドアからRrエンドまでプライバシーガラスでブラックアウトすることでルーフの長さを強調してスポーティに見せた。
(ストリームは911風?スワンボート風のQTRウィンドゥによってクーペ感を演出)
特にDピラーを少しだけ寝かせることでコーダトロンカ的なのストリームとの差別化が図られている。
ウィッシュは初代イプサムのような奇策(斜めピラー)を採らずにスッキリした見た目になっている一方でRrドアガラスと繋がったイメージのQTRガラスが大きいこともあって少しRrが重たく感じる嫌いもある。それを緩和しているのが前述のDピラーの傾斜とストリームより大きめのタイヤ径である。標準グレードでも15インチ、試乗車の2.0Zには17インチという大径タイヤが奢られている。これによりミニバン感を軽減し、見た目の安定感は優位に立っている。
当時の5ナンバークラスの3列シート車はどれも居住性最優先の大きなウィンドゥグラフィックでスライドドア採用者の場合サイドビューに分割線が多く入っておりストリームやウィッシュの「普通車感」はスポーティな魅力になっていた。

リアはシンプルなバックドア面を見せながら両サイドに当時はまだ珍しかったテールとストップランプにLEDを使ったコンビネーションランプが特徴的である。ストリームは縦型コンビランプを上部で繋いだ逆U字テールなどクーペルックだったサイドビューとの辻褄をうまく取っていたが、ウィッシュもLEDによって個性が与えられている。このLEDは豊田合成による新製品で内部に反射鏡を持つので明るく光るのだという。見た目が美しいだけではなく、消費電力が21Wから3.3Wに減ったとインタビューで語られていた。

エクステアリアデザインでストリームとの違いをしっかり打ち出せたことがウィッシュにとって重要であった。諸元が同じで見た目まで似ていたら大陸的模倣品の烙印を押されてしまうところだった。これは「激安コピー」ではなく、「徹底的ベンチマークによって開発された対抗商品」であることが最後の最後の場面では大きな救いになった。
●インテリアデザイン
ウィッシュのインテリアは黒一色のスポーティなイメージでまとめられている。黒一色ではありながら幾何学シボでモダンな印象とクラスター部などの塗装処理によってクールなアクセントが入っているのが特徴だ。(スポーティグレードはカーボン調、その他がチタン調というのは恐ろしいことにストリームと一緒の配色)

インパネシフトによってウォークスルー性能を維持し、センタークラスターは専用のシフトノブ周辺に空調スイッチやハザードスイッチを配しメーターを中心に左右に広がる意匠で包まれ感を演出。ミニバンとして求められるスペックを持ちながら、パーソナル感を手に入れている。
ステアリングはカルディナと共通の3本スポークで奥のコンビネーションメーターは、タコ・速度・燃料の3針式で見易い配列になっている。ちなみにストリームは4本スポークで3眼4針式(水温計がある)だ。
基本的にコストに厳しいクラスゆえ、ハッとするようなソフトな触感やステッチなどは望めないが、新開発のシボやレーザー加工を用いた助手席エアバッグの展開線(展開時に突き破るため肉厚の薄いスリット形状)が見えない面一感のある処理などで質感を保とうとしている。
例えばI/Pアッパーを全面ソフトパッドにしたカローラやプレミオと比べるとハッキリと安っぽい樹脂感丸出しのインパネだが、クラスターの塗装処理によって随分と華やかさを回復しているのは面白い。(ただし、日光の反射によるウインドシールドガラスへの映り込みは最悪レベルだが)

また、トリム類も基本的に硬質プラスチックで覆われており日常使用で傷だらけになってしまうのは気になる。イプサムの時は上面に布張りで華やかでありながら耐傷付き性にも優れていたがウィッシュは布の面積も小さく明らかなコストダウン部位となっている。
イプサムも決して高い質感をアピールする車では無かったが、触感へのこだわりはモケット生地のシートやドアトリムで感じることができた。ウィッシュはこの部分をストリーム相当までグレードダウンしてしまったことは残念だ。
加えて内装色が黒一色というのは少々つまらない部分だ。内装色が選べたりエクセーヌ生地のシートが選べたストリームよりも選択肢が少ないのだが、その辺りはスポーティというキーワードを部品種類削減に対して有効に使ったなという印象だ。
ただ、センターピラーガーニッシュでは現代では決してやらないようなこだわりを見せている。普通のガーニッシュは金型から一発で抜けるように抜き方向に対して抜き角度をつけているが、ウィッシュのガーニッシュはドア開口側に向けて負角になっている。(断面がくの字になっている)

わざわざこんな事をするのはそれはドアを閉めたときに見栄えが良いからだ。下の写真を見て貰えばドアトリムとピラーガーニッシュの間の隙間が見えないことが分かって貰えるはずだ。ドアトリムにも型抜き方向があり、ピラーガーニッシュとの間は大きく開いてしまうのが普通だが、ウィッシュは金型の合わせ位置を工夫してスライド型を追加するなどお金を使ってこの形状を実現している。PLが目に触れやすい位置に来るので、バリが出やすくなるなど量産品質の作り込みは難しくなるのだが、スッキリとした見た目になるのである。

一世代前のプログレですらやっていない高度な見栄え改善技術であり、この時期のトヨタ車はこういうところにこだわってコストをかけていたのだが、世間一般に分かりにくい部位ゆえに今はもうやめてしまった様だ。全面プラスチック感満載だが、魂は細部に宿っているのかも知れない。
他にも細部への拘りがある。下の写真の四角いエリアは当時の車検ステッカーを貼付けるためのスペースでドライバーの視界を邪魔しない場所の黒色セラミックをくり抜いていたのだ。現在は貼付け場所が運転者が自ら車検満了日を確認できるように運転側に貼るように法規が変わってしまったのでこのスペースは使えないのだが、こういう利用者目線の配慮も当時は素晴らしかった。
(いまはあの空間が目立つのでセラミック柄ステッカーがあるらしい)

●積載性・居住性
ラゲージスペースはミニバンとしては小さめなので3列目シートを使用すると、荷室容量は144リッターでミニマムだ。

メーカーが推奨する5名乗車時なら470リッターという広大なラゲージが手に入る。家族旅行や年末年始の帰省の荷物くらいなら余裕で飲み込むだろう。しかもラゲージフックが着いているのでベビーカーも写真の通りしっかり固定できる。
(この後ワインディングへ行ったが固定はバッチリ)

更に2列目と3列目を畳んで自慢の「ビッグキャビンモード」にすると、床面が高い荷室が登場する。ホームセンターで収納用品を買ったり、前輪を外したロードバイクを搭載することが出来る。

さらにX_SパッケージとZは助手席をテーブルモードに倒せばRrデッキからI/Pまで広大なスペースが出現する。IKEAで買った本棚や、カーペット、DIY用の材木などセダンでは諦めざるを得ない荷物を運ぶことが出来る。
元々ステーションワゴン的な意匠にするためにRrバンパー上端が高めに設定してあり、ローディングハイトは650mmと高めである。(ストリームは670mm)そのバックドアは高さ1780mmであり、逆に手が届きやすい高さで止まる。(ストリームは1850mm)
ウィッシュもストリームも3列目はオマケ扱いで普段は畳んで使うのが基本。更に必要に応じて2列目も畳めるように、と言うところまで同じなのだがストリームは畳んだときに高さがバラバラで2列目と3列目の間に段差が残ったり、3列目を畳んだときに小物落ちるような隙間が空いたり端末が浮き上がって目立つような部分に粗さを感じる。ウィッシュは後発らしくこの辺りはしっかり対策されている。
特にウィッシュは3列目シートを5:5分割に改良したことが大きな改良点である。初代オデッセイは一体式ベンチシートで、初代イプサムも一体式だったので、ストリームは一体式を採用するのが当然とも言えた。基本的に畳んで使うシートなので金をかける必要が無いという合理的な理由だったのかも知れない。
ウィッシュの5:5分割シートは2列目ベンチシート使用の場合、片側だけスペースアップして6人乗車できたり、長尺物を積みながら4人乗車が可能になるなど実際の使い勝手が大きく向上する点が大きい。実際、イプサムの不評を受けてガイアでは5:5分割になっていたのでトヨタ目線だと採用はマストだっただろう。
荷室スペースはローディングハイトがステーションワゴンとしては高いが、ハッチバックだと思えば常識的な範囲にある。我が家の様な利用シーンだと必要充分な荷物を積むことが出来る。大多数には丁度良い容量とデザイン性を両立している。
キャビンの居住性は、セダン/ステーションワゴン代替の層に取ってみれば不満の出なさそうな実用的な広さがある。全高がセダン系の1400mm~1500mmよりも高い1590mmなのでヘッドリアランスもあるし、ホイールベースは長いので2列目のレッグスペースも申し分ない。
3列目シートは初代イプサム比で簡素化されており、もっちりした座面厚さは無い。ただ、これは方便のための3列目であり、ストリームと並ぶかほんの少し勝つこと以上の性能は求めていない。
2003年当時の私は「否!7人乗りと書くのであれば、7人の乗員全員に満足いく居住性を提供すべきでウィッシュはけしからん!」とプンスカだったのだが、後に実際に家族を持ち「あと1人だけでも乗せられたら・・・・」というシーンに遭遇する度に考えが柔軟になったのが2023年の私だ。(柔軟になったのか純度が下がったというか劣化したというか・・・)
運転席に座りドラポジを調整したが、チルト機構は備わるがテレスコは未装備でステアリングが遠く低い。シート位置を最下端まで下げても少々気になるのはセダン系のP/F流用の辛いところだろう。

ヒップポイントはイプサムよりも低い600mmであるが、ストリームは560mmである。アルファードの様に競合車を見下ろすようにヒップポイントを設定することで優越感を与えるという思想があるのかは不明だがミニバン的視点を大切にした視点である。この状態でヘッドクリアランスはこぶし2個半。個人的にはステアリングと位置が合わないのでもう少し下まで下げたかった。
とはいえ、小径ステアリングながらメーター被りがほとんど無いのが優秀である。Zグレード以外の3針式のメーターもメーター被りが無い。この辺りは近年の「HUDあるからええやん」的な割り切りとは逆方向で素晴らしい。

2列目は2.0Z専用のキャプテンシートである。現代のミニバンの何でもありのキャプテンシートと比べると寂しい感じもあるが、シートスライドとリクライニング機能の外はアームレストが装備されており機能面は充分だ。若干小振りながら、この手の2列目としては意外なほどまともなキャプテンシートである。
シートスライドが備わるが、最後端に引くとフロアの段差があり余り快適では無い。ただ、シート形状の良さもありヒールヒップ段差が適切なので現代のスーパーハイト軽よりもまともな着座空間である。広さを追い求めてシートをRrモーストまで引くと踵が段差に引っかかってしまう。これを嫌うと、2ndシートにロンスラ機構が着いたミニバンの如くスロープ状の高床フロアになってしまうのでつくづくミニバンのフロアは難しいものだ。

リアモースト位置だと膝前こぶし5個分で頭上は2個分。ヒールヒップ段差が適切で気持ちよく座れる。WISHは基本的に5人乗りメインと思われるが、この室内空間ならステーションワゴンやセダンに乗っていた人からは不満は出ないだろう。
そして3列目は想像通り狭い。荷室のストラップを引いて出現する3列目は平板でホールド性も無いが、とりあえず座ることは出来る。膝前こぶし1個、頭上は0といった限界の着座姿勢である。少し身体を起こせば頭上は空間が出る。近所の駅まで、とかレストランまでとかそういうシーンで充分に活躍するだろうが、飲み会の後、「少し飲み過ぎたかな」状態で友達が駅まで迎えに来てくれたとしたらヤバいなという感じだ。(伝わるだろうか…)
休日にフル7シーターとして友人6人乗せて日帰り200kmドライブ、みたいな使い方が出来るのは大学生までだろう。
このあたりは初代イプサムから企画的に割切られた部分だ。このジャンルに初挑戦した初代イプサムはセダンとミニバンとステーションワゴンの綱引きの中で悩みながら3列とも平等にしない選択をとった。それでもRrシートのクッション性が良かったり、Rrクーラを設定し、アームレストに布を巻くなどの「おもてなし」を織り込んでいた。ウィッシュは更にステーションワゴン色を強めたと感じる。
ストリームの場合、3列目を割切る思想は同じだが、Rrクーラー設定は迷いがあったようで、標準装備では無いがMOPで追加することが出来た。恐らくトヨタは初代イプサムのRrクーラー利用率やストリームのOPT選択率を調査した上で省く判断をしたのだろう。せめてもの罪滅ぼしにインパネから専用の吹出し口を使って冷風を飛ばしている。
試乗したのが真夏では無かったので効果の程は分からないが、当時のミニバンユーザーの一人だった私は実家のライトエースノアと比べて「Rr別体エアコンが無いなんてけしからん!」と思っていた。しかし、3列目を重視しない人達はこれで良かったのだろう。
最後にストリームとのBMC結果を示す。大きくは勝たないが、決して負けない諸元値をじっくり見て欲しい。
較べたし。

<後編へ続く>
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感想文_トヨタ・レクサス | クルマ
Posted at
2023/12/15 00:15:24