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2025年06月26日 イイね!

2006年式三菱i(アイ)感想文

2006年式三菱i(アイ)感想文






満足している点
1.空前絶後の存在感
2.レトロフューチャーなエクステリア
3.安定したブレーキング時の姿勢
4.「軽」を忘れるターボ×4ATのレスポンス
5.ロングホイールベースを活かした乗り心地

不満な点
1.プレミアムを名乗るには分かりにくい質感表現
2.「軽」のコストに縛られた装備水準
3.高速域で顕著な横風安定性
4.熱環境の厳しさ
5.50km/h以上で気になり始める風切り音

●軽自動車におけるプレミアム性とは何だったのか
1998年10月、軽自動車規格は衝突安全性能拡充のため全長を拡大し「新規格」となった。衝突安全性能確保のために重くなった車重による走行性能悪化を補うために可変バルタイや4速ATの採用が進んだ。それだけに留まらずMターボ(スズキ)、マイルドチャージ(スバル)など過給技術で実用トルクの増強に対応しようとした動きがあった。

ターボをはじめとする各種技術は旧規格の時代から存在していたが、主に若年男性をターゲットとした軽スポーツモデル用の技術であり、実用性を補填するための低圧ターボはこの頃に現れ始めた。

軽自動車は従来から衝突安全性に対する不安や走りの物足りなさを理由にリッターカー(登録車)との間に川が流れていた。

「この軽カワイイ♪」という娘に対して
「軽は危ないから普通車にしなさい」と反対する親・・・
こんな会話を私も身近で複数回聞いてきた。

「軽は所詮軽、ひっくり返ってもファーストカーにはなり得ない」という意見も根強くあった。しかし、軽自動車とリッターカーの性能的な差が埋まってくると「自分はメンツこだわらない」「維持費も安いのだから」と小さな登録車を買う感覚で軽自動車をファーストカーにする人が増えてきた。

そもそも、車庫が狭いなど特殊なニーズによって軽自動車のハイエンドモデルを購入する層は一定数存在したが、ワゴンRに代表される軽ハイトワゴンの台頭により、徐々に「軽自動車だから」と我慢する領域が減ってきた。新規格軽の安全性と走行性能の向上によって登録車からハイエンド軽に流入する消費者の動きを感じ取ったメーカーがあった。

2006年、三菱自動車はダイムラークライスラーとも袂を分かち経営再建中だった。この年の国内市場では初めて200万台を超えた。新車販売台数の1/3が軽自動車であり、そこできちんと収益を出す軽自動車が必要だった。

既に三菱は生活者に寄り添った必要充分な道具感覚の軽自動車「ekワゴン」をヒットさせていた。ekワゴンは安価で実用的でありながらも惨めに感じさせない「ユニクロ」の様な軽自動車として一目置かれていたが、三菱はもう一本の軽の柱が必要である考えたのだ。そこで「プレミアムな軽」として企画・開発したのが「i(以下、アイと記載する)」である。



軽自動車という枠組みでありながら「持つ喜び、使う喜び」をプレミアムとして定義し全く新しいデザインと全く新しいメカニズムをゼロから開発した。普通車には無い「プレミアム軽」の世界を構築しようとう試みたのである。

ベーシックな魅力を持ったekワゴンではどうしても利益を出しにくい。尖った特徴を打ち出してエクストラコストを払って貰えるような魅力的な軽自動車があればファーストカーとしても、輸入車を保有するような富裕層のセカンドカーとしても
振り向いて貰えると考えた。

アイの大きな特徴は①スペアタイヤを持たないリアE/Gパッケージ②繭型の超個性的なエクステリアデザインが挙げられる。つまり、見た目も中身も「フツー」じゃない攻めに攻めた個性がアイに与えられた。



2002年の段階で既に①の企画はあったそうだが、紆余曲折を経て2004年から正式PJTとして開発された。たった2年で開発できたのは恐らく、2002年の段階からの先行試作車などを使った基礎研究のお陰だろう。なぜアイがリアエンジンなのかを理解するために、少し横道に逸れてリアE/Gについて振り返ってみたい。

●リアE/Gに可能性を見いだした2000年代
リアE/Gリア駆動(=RR、MR)というのは1930年代からオイルショックが訪れる1970年代までの大衆車の基本的なレイアウトの一つだった。複雑なE/GとT/Mを後輪付近に集中的に配置し、プロペラシャフトが不要なため広い室内空間が手に入るからだ。



経済的理由から車体を小さくして節約することが求められた大衆車の多くはリアE/Gを採用した。当時はメリットも多く採用例の多い技術だった。

第二次世界大戦後、世界的な経済発展によってある程度の大型化が許容され、モノコックボディの普及も手伝って1960年代にはオペルカデットやカローラ1100のような小型FR車が主流になった。RR車は限界域でシビアな操縦安定性やシフトフィーリングの悪さ、冷却性能確保やラゲージスペースの狭さなどの弱点が目立つようになり始めた。さらにRRと親和性が高い簡素な空冷エンジンでは排ガス規制もクリアが難しくなり雲行きが怪しくなってきた。



RRの雄であったVWは偉大なるビートルの後継車作りに悩んでいた。1966年、ポルシェに依頼して設計されたEA266というスタディモデルは2BOXスタイルでありながらリアE/Gのレイアウトを踏襲している。1.6L水冷E/Gを横倒しして後輪の直前に搭載しミッドシップ(MR)とした。E/G上部はラゲージとしつつも、フランクも設定してビートルの弱点に対応している。スポーツカー顔負けの操縦性を誇っていたが結局、整備性の悪さなど経営判断によりFFのゴルフが開発されている。

等速ジョイントの進化やシャシチューニングのノウハウの蓄積などの背景はあれども、代表的RR車のVWビートルからVWゴルフへの世襲が成功したことは決定的だった。技術の進歩が遅れた共産圏を除き大衆車のリアE/G車の技術は、軽商用車でリアE/Gを堅持して独自の世界観を持っていたスバルサンバーの存在以外はピタリと進歩が止まってしまった。



その後、約30年を経てこのEA266のレイアウトに可能性を見いだしたのはホンダだった。1998年の新規格シリーズの一つとして「ホンダZ」を発売し、EA266に類似したアンダーフロアミッドシップなるレイアウトを採用した。E/Gを縦置きにし、4WDを基本とするなどの機構的独自性をもったホンダZは、RRエンジンでありながらRrシートと積載性を両立させただけで無く、E/Gが無い車体前部のクラッシャブルゾーンを活用して高い衝突安全性を実現するという現代的なメリットも手に入れた。つまり、フロントE/Gの場合衝突時にE/Gが硬くて潰れないため、実際に使えるクラッシュストロークが短く、E/Gが無いホンダZのクラッシュストロークの方が長いため、衝突安全性を高められるという。そんなホンダZは4年間のモデルライフで4万台生産され、残念ながらヒットしなかった。しかし、ekの次を模索していた三菱にとって大いになるヒントを与えたのでは無いだろうか。

上記に前後して、スイスの時計メーカースウォッチとメルセデスベンツが協業でコンパクトカーを開発することが大きな話題となっていた。ホンダZと同じ1998年、「スマートシティクーペ(のちのフォーツー)」として全長が2500mmという2名乗りのマイクロカーを世に問うた。このスマートが国際的にリアE/Gを採用した久々の乗用車となっている。600ccの3気筒ターボ、もしくは800cc3気筒ディーゼルターボが選べた。都市型コミューターとしての注目度が高く、欧州ではスマート専用の駐車区画が設けられたほどである。この区画に駐車できる4人乗りを開発したトヨタiQについても機会があれば取上げたいが、スマートの存在は自動車業界に大きなインパクトを与えている。後に協業関係にあった三菱コルトをベースに「フォーフォー」が発売され、2007年の2代目では三菱との協業によりE/Gが供給されるなど三菱自動車との関係も深いのがスマートである。昨年までは3代目スマートがルノーとの共同開発で作られ、2014年デビューの3代目トゥインゴと共にRRレイアウトを残していた。



他にも経済発展が著しいインドのタタ自動車が2008年、ワンラックカー(10万ルピーで買える車)を目指してナノという超小型車を開発した。簡素なメカニズムを実現するため、リアに2気筒E/Gを積み、ドアミラーなし、バックドア無しという事例もある。この様にリアE/Gというレイアウトには不思議な魅力があるらしく、FFが極めて高い進化を経た現代でも思い出したかのようにリアE/Gの乗用車が現われる。

●エクステリアデザイン
アイは遠くから見てもアイだと分かる特徴的な形状をしている。軽自動車の限界とも思えるロングホイールベースの中に卵がちょこんとくっ付いているようなプロポーションだが、デザイナーは繭をイメージしているという。諸元を見てみると、衝突時に補機が潰れて縮むE/Gを開発して一般的なFF車よりもホイールベースを伸ばしているが、アイの場合は更に30mm長いことからFF軽自動車の限界を超えたリアE/Gにしかできない諸元を実現している。



アイはスポーティブ・キュート(SC)というコンセプトで、スポーツグッズ的なテイストを意識した。他にもリミックス・ボックス(RB)という案があったがモーターショーのショーカー「SERO」になった。量産プロジェクトに移行できたのはSCだけだ。



初期は2003年にモーターショーに出品された「i」に似たブラックアウトされたフロントマスクと湾曲したバックドアガラスが特徴だった。ところが2004年に開発が一旦凍結され、再開された際にもう少し自動車らしさを付加する方向性になり前後のキャラクターラインやヘッドライト形状を変えてシャープな方向性に改めた。



フロントマスクはワンモーションフォルムの極致だ。リアE/Gらしくグリルレススタイルだが、当時のブーレイ顔に見えるようにバンパー形状を工夫して光が当たる斜面を作っているのが面白い。実際はナンバー下部にインタークーラーなど冷却部品が配置されている。さすがにブラックアウト塗装したかっただろうが、コストがかかる上に冷却効率が落ちるため採用できなかったと思われる。三次元曲面の大型ウインドシールドガラスは楕円形に見えるが下部はフードやカウルの一部で上部は別部品でグラスエリアを表現している。普通なら黒塗装あたりで誤魔化すところを別部品を用意するとはとんでもなくデザインが重要視されている。



アイは特徴的なフロントマスクを実現するため、面積が大きく曲率の強いウインドシールドガラスを採用している。ワイパーは特徴なリンク式の一本ワイパーである。吹き払い面積は大きいがブレードが長くなるため拭払面厚の確保が苦しくならないように押しつけ圧力には配慮され、ガッチリとしたアームが付いている。



更に素晴らしいのはウォッシャー液がワイパーアームに取付けられたウエットアーム方式であることだ。当時、同じくワンモーションフォルムだったエスティマも採用していたが無粋なノズルで意匠性が損なわれることが無い点と作動時にワイパーアームや拭払エリア外がウォッシャー液で汚れにくい点もメリットがある。アイの場合、運転席前と外側3方向の合計4カ所からウォッシャー液が出るという軽にしては豪華な構成だが効果は抜群だ。



サイドビューも一筆でエイヤと引いた力強いラインが感じられる。AピラーからCピラーまで引いた円弧がそのままドア開口線になりFrタイヤまで貫くのはシトロエン2CVチャールストンの様でカワイイ。このラインはドア側と車体側で段差があり、後者の方が張り出している。この構造は防錆の観点でドアエッジが飛び石に対して守られる位置関係なので好ましいだけで無く、空力的にもロッカー部が張り出した方が有利という意味もあるだろうが、ドア断面下部を絞ることで繭デザインをスポイルしていない点はうまく処理している。



フロント周りはぎゅっと凝縮感があり、リア周りは少し大味というかボリューミーなのも特徴的だ。縦型Rrコンビランプと曲率の強いバックドアガラスは室内容積より塊感を大切にしている。曲率が強くてもRrワイパーはきちんと窓を拭いてくれる点は実用性が犠牲になっていない。Rrの比較的高いところに目立つ部位があったとしてもアンバランスに見えにくいのは四隅に配置された15インチ大径タイヤのお陰だろう。

アイのエクステリアデザインはかなりお金のかかる構造や部品を多用しているが、デザイン命のプレミアム軽だからと三菱も相当頑張ったのだろう。個人的に惜しいのは全高が1600mmと機械式駐車場に駐車できないことだ。室内の広々感や繭型フォルムを実現するためにはやむを得ない部分とはいえ、ここまでデザインを重視した意匠はむしろ尊い存在と言えよう。

●インテリアデザイン
内装もエクステエリアと同じ丸い感覚を大切にしている。キーワードは「胎内感覚」。やわらかい空間に包まれる安心感を言葉にしているが、丸い断面に薄いシルバーのセンタークラスターがメカメカしくも有機的な世界観を表現。インパネも豪華な緑味がかったグレーとアイボリーの上下分割によってインパネを浮いた感じに見せているが、助手席側トレイに赤い差し色が入る。シートも赤く、なんと3色+シルバーという豪華な塗り分けのインパネになった。(他にグレー仕様もあり)



この赤内装はダイハツがソニカで挑戦しているが、いずれも過去の全面赤内装と違い、力強いアクセントとして使っている点に新しさがあった。願わくばインパネが無塗装で少々グロスが高い(テカっている)のがウインドシールドガラスへの映り込みという点で惜しい。尤も偏光グラスをかけていれば問題ないのだが。



メーターはデジタルとアナログを融合させた専用品でデジタル表示の速度計の周囲にタコメーターが配置されている。ホンダの集中ターゲットメーター的だが非常に読み取りやすい。燃費性能についてまだうるさくない時代ゆえ、燃費計などの機能は無いがツイントリップが備わる点は好ましい。特にメーターのステアリング被りが無い点は高評価。ホンダとスズキの某車に爪の垢を煎じて飲ませたい。



シルバーのセンタークラスターは当時のトレンドである専用オーディオと軽としては珍しいオートエアコンが配置されている。専用オーディオの他に2DINオーディオがつけられる別デザインもあるが、圧倒的に専用オーディオの方が美しい。メーター色と同じく赤いイルミネーションで光るところが特徴だ。内外気切り替えボタンのテルテール(絵文字)がアイのシルエットになっている点もこだわりを感じた。シフトレバーは浮いたように見せてあり、ベゼルはシルバー塗装されてお金がかかっている。

一方、ドアトリムはその割を食った。インサイドグリップとPWスイッチのベゼルはシルバー塗装されているものの、大きな面積がアイボリー一色でシボを変えて頑張っているが広い面積が退屈に見えてしまうのが気になる。妄想でシートと同じ表皮でアクセントを入れたくなるが、せっかくの差し色を多用することでビジーかも知れない。

アイの内外装デザインは昔の人が21世紀の未来を想像したレトロフューチャー的な味わいがある。とても未来的なのに何処か懐かしい、というレトロを指向したパイクカーとは違う独自の世界観を持つ。外装は個性があり、エグ味がない。斜め後ろからのビューで腰高なイメージがあるものの、それを補って余りある凝縮感。カワイイ車が好きな私にとっては文句なしの★5だ。

内装も外装のイメージ通りの丸くてモダンな意匠に赤色の差し色が良い。ドアトリムで力尽きてしまった感があり★4。

●市街地走行



モルカーのキーホルダーが付いたスマートキーで解錠し、運転席に座る。ドラポジはシートスライド、リクライニングに加えバーチカルアジャスターが付いている。ステアリングは固定式でテレスコどころかチルトすら付いていないという漢仕様。自分の場合、ペダル基準だとステアリングが遠くなりがちなのでシートバックを普段より立てて対応した。

前輪との位置関係上、ギリギリまで前出しされたポジションだが、ペダルレイアウトやステアリング中心軸とのズレは気にならないレベルにまとめられている。E/Gがないのでカウル下端が低くワンボックスカーのように見晴らしが良い。囲まれ感を求めて窓を狭めにデザインする車がある中でアイは開放感が売り物だ。



E/Gをかけると新開発3B20型4気筒ターボが背後で目を覚ます。リアE/Gだから音が後から聞こえてくるのだ。変速機はMTの設定が無く全車4速ATのみである。三菱初のゲート式シフトレバーは短い操作量でDレンジに入った。当時は当たり前だった手引きのPKBレバーを降ろし走り出した印象は「静かだ」ということだ。一般的な軽自動車の場合、アクセルペダルのすぐ裏にE/Gがあるがアイは1m後にある。mm単位のせめぎ合いが続く自動車の中で1000mmも離れていれば、それはもう世界が違う。

発進するとトルコンがルーズなのか加速度の割に思いのほか回転が吹け上がる感覚がある。比較的高い回転数を許しているのはE/Gノイズに対してある程度寛容なレイアウトで扱いがイージーだ。

狭い渋滞地でもアイは軽自動車らしい。2550mmという超ロングホイールベースだが、タイヤ切れ角が取れるので最小回転半径は4.5mと小さくぐるぐるとステアリングをたくさん回すと小回りが利いてありがたい。



ただし、ステアリングギア比は17弱、ロックtoロックが3.5回転という設定で確かに小回りは利くが、市街地の右左折や駐車時に操作が忙しいのが気になる点だ。

朝、子供を乗せて保育園へ向かう。乗降性は軽自動車の中でも悪い部類にあるがこれはRrドア下端の開口ラインが気持ちよく円弧を描いているからだ。一旦乗せてしまえば、アイポイントが高いアイは子供から好かれていた。前方視界が良いので集団登校する小学生がよく見えるし、比較的高回転で走るため外ではよく聞こえるE/G音のお陰で子供達にも気づいて貰いやすい。



保育園に到着し、子供が車から降りた。レッグスペースが広いことを活かして運転席からベルトを外してあげれば、自力でチャイルドシートが降りることができる。私がドアを開けるとドアトリムに捕まりながら何とか車から降りられた。乗降のために脚をかけるところが少ない点がアイの子供による乗降のし難さにつながっている。アスレチックのような普段のRAV4と比べれば全然マシだが、ドア開口はデザインのために譲らなかった大事な部分なので理解はしている。



大人の乗降でも身長が高く脚が長い人は問題ないが、小柄な人は足がドア開口ラインに触れて衣服が汚れてしまうなど好ましくない事象が起こりうる。普通ならドア開口はフラットに作るものだ。しつこいようだがアイはデザインコンシャスなので不便は百も承知で押し通したのだろう。

ちょっと順番が逆だが、Frドアはヒンジ配置を工夫して少し開けただけでベルトラインより上が大きく開くように工夫されている。狭いところでの乗り降りをしやすくなるためのちょっとした配慮なのだが、三菱は決して全てにおいて無策なわけではない。やれることはやったのだ。



子供を送ったあと、朝の混雑した道路をひた走り職場へ向かう。青信号で加速させると14km/h2000rpmで2速へ、30km/h2800rpmで3速へ、46km/h2500rpmで4速へ変速する。3速・4速の場合は1600rpm以上でロックアップが作動する。機械式ながらスリップ制御が入っているのでアクセルオフ時に1100rpmを下回るまではロックアップを作動させることでドライバビリティが良いだけで無くエンジンブレーキ時のフューエルカットが効いて燃費にも効果がある。



市街地走行だと前方の交通状況の変化に応じてアクセルオフするようなシーンは少なくないが、あたかもMT車の様に直前の回転数を維持しながらゆっくり減速していく挙動は想像しやすく心地よい。市街地でよく使う40km/h近傍の定常走行も速度管理がし易い。このあたりもギア比とE/G回転が1:1で決まるATの美点が活きている。フル加速をさせれば7000rpm近くまで使った加速も可能だがアイのセッティングは速さに主眼を置いたものでは無く、リニアなフィーリングを大切にしているらしい。



900kgという決して軽くは無いボディの割には、重さを感じさせずに滑らかに加速できる。具体的には4000rpm±500rpmの領域でシフトアップさせるような走り方をすると鋭くもシフトショックを感じさせない電気自動車のような加速感覚だったのは病みつきになる気持ちよさだ。変速前後で駆動力が段付に変化しないのは電子制御スロットルをうまく開け閉めして調整しているのだろうか。回転数が高く過給も効いているからレスポンスも良く、リニアな特性と相まってICEながらBEV感がある。

周囲の流れに沿った加速なら3000rpm程度を行ったり来たりするような加速で充分だ。キツめの上り坂は後輪に高いトラクションがかかるアイが得意とするシーンで、発進からルーズなトルコンをうまく使って適度な回転数を維持したまま登っていく。

雨天時に走らせてみると、アンダーカバーのお陰で水跳ね音がかなり静かな長所を感じたが、それよりもトラクションの良さが際立っていた。強めの発進加速でも挙動が乱れない。ステアリングが取られたり空転するような様子が無く安心感がある。更に、踏切からの発進は誰でもアイの凄さが分かるシチュエーションだ。発進後、凹凸がありレールを跨ぐため、明らかにバタつく挙動が無い。

70年代から80年代の技術開発で「FFのクセを克服した」というコピーが当時のカタログを彩った時代があるようにFFの乗り味は改善されたが、原理的な強みがあるリアE/Gは今でも明確な強みがあると再確認できた。

市街地におけるアイはキビキビと軽快に走る。気持ちよい発進加速も交差点を曲がる際の鼻先の軽さもアクセルオフからの再加速も軽快で赤信号でブレーキを強めに踏んだ際もノーズダイブが小さく、つんのめる感じがなく停止できる点も美しい。また、E/Gが遠いことから振動や騒音が小さいだけで無く、こもり音にも有利である。



また、A/Cがよく効くことにも触れておきたい。アイは全グレードにオートA/Cが標準装備されるが温度設定が1℃刻みで少々大雑把なので暑がりの私は、晴れた日中に24~23℃に設定してA/Cを利用していた。

コルトと共通品らしいとの噂でコンプレッサー能力に余裕があるのかも知れないが、燃費戦争が繰り広げられていた2010年代以降の軽は空調性能を落として燃費悪化を抑えるとか、信号待ちでアイドルストップしてぬるい風で我慢させられるような時代に突入していく事を考えるとアイの時代はまだ快適性のために燃料を噴射できた時代なのだろう。家族4人乗車でA/Cを使っても特に走りが悪くなるような事も無かった。試乗したのが初夏だったのでヒーターを使うことは無かったが、リアE/GのアイはLLCの搭載量が多く暖房が効き始めるまでに多少ラグが懸念されるが、寒冷地仕様にはシートヒーターとPTCヒーター(初期型のみ)が設定されており快適性に配慮されている。



ヒートマネジメントの観点ではリアE/Gの泣き所は冷却問題だ。フロントE/Gは走行風がラジエーターグリルという一等地から導入でき、床下の速い流れに引かれて熱気が逃げていくのだが、リアE/Gになると、冷却風の導入に課題がある。歴史的なリアE/G車は後部に大きな排熱フィンを設けたり、そもそもシンプルな空冷式を選択していた。水冷式のように複雑な冷却系を持たず、トラブルの原因になる冷却水路を持たないというのはリアE/Gにとって合理的だったが、排ガス規制への対応や暖房性能を考えると水冷式が主流となった。

現代のリアE/G車であるアイは当然水冷式だ。ナンバープレートの下にコンデンサーとラジエータを配置。そこから車体後部まで長い水路を設けて冷却水を循環させている。コンベンショナルなFF車である現行型ekワゴンのLLCは4Lで済むところ、アイは7Lも要求する。また、フロアアンダーカバーを設定して床下の気流を整え、E/G付近に風が当たる用に形状を工夫している。このカバーがくせ者で床下のメンバーにクリップで付いているのだが、経年劣化でクリップが徐々に抜けて試乗車のカバーが脱落しかかっていた。完全な脱落に至らぬよう、ボルト等の機械締結を一点くらいは残すのが基本だが、残念だがアイのフロアカバーは基本ができていない。落下物を生まぬよう、オーナーは慎重に点検すべきだ。



借用期間中、A/Cガンかけで真夏のストップアンドゴーの渋滞区間を1時間以上走行したがオーバーヒートするようなトラブルは無かった。ただ、熱的に過酷な状況下で駐車するとOFFでも自動的にE/G付近の電動ファンが作動して強制的に換気するロジックがある。右RRタイヤ付近からモワッと熱気が伝わってきているのでその過酷さが垣間見られる。

三菱らしいハイテク装備もちゃんと準備されている。例えばパワーウィンドウは前席AUTOで挟み込み防止機能まで着いている。あるいはワイパー使用時に、信号待ちから発進するときにワイパーが作動する、或いはRに入れると自動で作動するなどの親切装備が着いている。車速感応ドアロックやPレンジに入れると自動解除なども三菱ディーラーに行けば設定してくれるらしい。

面白いのは電動格納ミラーを畳んだまま発進しても、30km/h以上で自動で起き上がる設定だ。そもそもミラーを畳んだまま発進できる神経の人が自動で起き上がってくださったミラーを確認する感性を持っているのだろか。当時の三菱はそんな優しさも見せてくれた。



お洒落なデザインは都市の中でもひときわ目を引くだけで無く、余裕のある動力性能や路地にどんどん入っていける機動性もある。前席優先のお洒落な生活のお供とするならアイはとても魅力的だ。

軽快な実用車として見れば下手なリッターカーより数段上の運転体験ができる。★4。

●ワインディング路走行
ミッドシップレイアウトは重たいE/Gを車軸間のできるだけ前に置き、ドライバーも前に追いやられるものの圧倒的な旋回性能とトラクションはレーシングカーの技術であり、腕に自信のある玄人系スポーツカーのための技術だった。

アイは速さのためのミッドシップでは無いが、それでもミッドシップレイアウトと聞くと心が躍ってしまうのは、幼い頃に父から与えられたサーキットの狼の古本で薫陶を受けたからなのかも知れない。市街地でもアイの良さは楽しめるが、敢えてアイを近所のテストコースへ連れ出した。



3レンジに入れて発進。変に全開加速させず、4500rpmあたりでシフトアップさせるような加速の方がアイは気持ちいい。上り坂でもするすると加速する。アクセルを少し緩めながら緩い右コーナー。スッとノーズが向きを変えてくれる。もうこれだけでハッキリとFFの軽とは違う坂を登り切って2速へ落とし左コーナーへ。深いコーナーを安定して曲がってゆくが全高1600mmゆえにロールは大きい。直線に戻り3速にシフトアップし下り坂でアイはぐんぐん加速していく。



乗っているとさほど不安に感じないのはシャシーセッティングの良さかも知れないが、外から見ていると結構傾いているはずだ。コーナーをハイペースで抜けると、そこだけ洗濯板のような荒れた路面になっていた。コーナーを終えて直進していたが左右逆位相の凹凸でRrサスが動いて瞬間的に進路が横飛びし、再び直進状態に戻った。Rrの3リンク式サスペンションのアクスルステアが顕著に表れた瞬間だ。私はもちろん分かった上でそこに飛び込んだのだが、サスストロークの小さいスポーツカーではここで強烈な突き上げを食らいうんざりしてしまうところ、アイはアクスルステアがあるものの、突き上げが小さい点が好ましかった。



しばらく先までDレンジにシフトアップし、頭を冷やしつつ緩いコーナーをクリアするが、本当に涼しい顔で上り坂を登っていくのは気持ちが良い。再び深いコーナー区間が近づいてきた。3速にシフトダウンしブレーキを添えながら更に2速に落とした。エンブレを使いながらジワッとステアリングを切って再び左コーナーへ。コーナー出口でステアリングを戻しながら深くアクセルを踏み込んだ。高回転までE/Gを回して右コーナーへ。強めのブレーキをかけても姿勢が安定している。深い右コーナーは上り坂になっていて2速のままアクセルを深く踏み増しながら次のコーナーへ向かう。ちょっとアクセルを抜いて左コーナーへ進入。舵が決まるとアクセルを踏み増してインからアウトへ抜ける。下り坂を一気に駆け抜けて右コーナーを抜けて一連のコースを走りきった。



前輪:145/65R15、後輪:175/55R15という太いタイヤサイズゆえに、絶対的にRrが安定する様に設計されている。後輪駆動ゆえ、後輪が先に滑り出すと私達のようなアマチュアドライバーの手には危険である。そのため、強制的にアンダー傾向になるようにしてあるのだ。ただ、よっぽど酷い運転をしない限り前輪がズルズルと外に逃げ出すような感覚を与えず、じわじわとアンダーが出るようにセッティングされている。もう少し、レベルアップしたいのはシートのホールド性で肩の支持がほとんど無いためコーナリングで上体が動かされやすい場面があった。

私は過去に幾つかのミッドシップスポーツカーに乗ったことがあるが、彼らと較べるとアイの操縦性は死の薫りがせずマイルドだ。だが幅広い層が運転するフレンドリーな軽自動車としてはそんな薫りは好まれないだろう。あまり目を三角にして走るのでは無く、日常域+αで程よく楽しく走るくらいがアイには似合っている。その領域なら快適性やスペース重視のFFのターボモデルと比べものにならない上質な操縦体験が楽しめることは間違いない。



余談だが別日に強い雨の中でも同じコースをそれなりに走らせてみたが、むしろトラクションの良さが輝いて気持ちよく走ることができたのは大きな収穫だった。

ワインディングの印象は★3である。コペンのようにスポーツカーでも無いのに運転が楽しめるのは貴重な存在。ゲート式の4-3間をストレートにしてくれていたら、或いはシートのホールド性が良くなれば★4をつけても良いとさえ思えた。

●高速道路走行
ただでさえ排気量が小さい軽自動車で、全高1600mmと背が高く、直進安定性に劣ると言われている後輪駆動を採用しているアイの高速道路での振る舞いは誰もが気になるところであろう。

合流加速は市街地で確認したとおり4000rpm付近を使えば充分に車速が上がっていく。全開加速を計測すると0-100km/h 12.6秒程度だろうか。(NA車は26.9秒という雑誌データあり)



100km/h時のE/G回転数は3700rpm。私のカローラGTが3500rpmだと考えれば普通に見えるが父のN-WGNターボが2500rpmであることを考えればE/Gが回りすぎる印象を持つのだが、リアE/Gゆえに音源が遠く目立たない点でアイは得をしている。むしろ高回転だからこそ微小なアクセル操作に対するレスポンスが良好で速度管理がし易かった。風切り音は目立ち始めるが「ザー」と連続で気で「バサバサバサ」という変動が無い点は官能に有利だ。だから、意外なほど助手席の人との会話は容易い。

横風が強い伊勢湾岸道ではこれまで色んな軽自動車で走らせてきたのだがアイは確かにFF車と比べて横風で進路を乱されがちだ。アイもそれを知ってか知らずか80km/h付近を閾値にしてパワステの制御が変わって操舵力が重くなるロジックが入れてあるが、それがあるから安心とも感じられず対応が不足気味だ。これだったら、普段から手応えをしっかりさせて必要に応じてEPSが軽くなるFIAT500のTOWNボタンの方が親切だと思う。

横風が強くなくても、例えば速度差のあるトラックを追い越すだけでその気流の乱れを拾ってしまうこともある。同じ後輪駆動のセミキャブーオーバー車で感じた恐怖を思えば、ちょっとステアリングを強めに握っておけば100km/h巡航を続けられる分だけ優位ではある。また、EPSのチューニングの問題なのか中立付近の摩擦感が大きいことも少々気になった。高速域のふらつきなどは後年EPS+として改良型が開発され、ECU交換で改善するそうなのでその真価も確かめてみたいところだ。



動力性能的には充分追い越し車線にも出られる。カッ飛んでくる普通車には敵わないが常識的な速度で走る分には普通車と変わらないペースで走れる。ホイールベースが長いことでピッチングは小さく、ブレーキング時の姿勢も安定している。だから高速域のコーナーも怖くないし、ジャンクションでも活き活きと走ることができる。

せっかくなので新東名高速道路で120km/h区間を試した。静岡県に入り合法的に全開加速させながら120km/hに到達させた。4400rpmはかなり余裕を食い潰している感じがした。追い越しをかける場面では相当流れが速くなる場面もあったが加速が鈍くて後続車が怖い、というシーンは全くなかったので燃費の悪化さえ許せば、新東名で快適なハイスピードドライブが楽しめる。

御殿場で東名と合流し、長い上り坂を一気に駆け上ると足柄SAに辿り着く。私はここの湧き水が子供の頃から大好きだ。久々に顔を洗ったり飲んで楽しんだ。アイはというとE/Gを切ってもE/Gルーム内の冷却ファンが3分程度作動していた。デッキ下の蝶ねじを外してE/Gを点検しようと試みたがねじが熱すぎて触ることができなかった。



帰路は旧道でもある東名高速道路を選択した。より厳しいシチュエーションとして下り線の大井松田から御殿場までの難所も走らせたがRの小さいカーブや延々と続く上り坂をアイは健気に登っていった。車線変更禁止区間をトラックの後について登坂してもロックアップを外さずに静々とE/Gがトルクを出してくれる。もっとイジワルに登坂車線で速度を落としてから、じわじわぐーっとアクセルを踏み増した際もアイはシフトダウンで逃げずに制限速度を超えるかのようなところまで加速する。勿論、アクセル開度を一気に大きくするとシフトダウンするのは当然だし、燃費を考えるならハイギアで粘るよりシフトダウンした方が速く車速が上がるだけでなく、燃費にも有利でもある。だからと言って悪しきCVTマッピングの様に定常で低回転固定、加速のためのスロットル操作でロー側へ変速するとアクセル操作の次に起こることがE/G回転の急上昇なので加速にタイムラグが発生し、その後トルクが出てようやく加速度が上がる。アイのように出せるのならスッとトルクを出してくれた方が絶対的な加速度が小さくても気持ちいい。こうした振る舞いは、いにしえの大排気量車(例えばプログレやマークII)でよく味わえる。無論、キックダウン操作のように深く踏み込めばアイもロックアップを外し、シフトダウンしE/G回転を上昇させて高い加速性能を発揮する。



BEVはこういう瞬発力が必要なシーンでスッとトルクが立ち上がるので気持ちが良い。HEVもE/Gを加速させる傍ら瞬間的にモーターを動かすので音はともかくレスポンス自体は悪くない。かくしてアイは頼もしく標高にして300mの高低差を一気に登り切った。そのまま、私は御殿場JCTを直進して裾野IC方面へ向かった。というのも、アイが発売されていた時期は高速道路の制限速度100km/hだったので100km/h基準の道路で帰ってみたくなったのだが、これは正解だった。



横風があまり吹いていなかったという気象条件もあるが、100km/h近傍で淡々と走らせるとCVTの様にE/G回転が勝手に変動することも無く、一定で回り続ける。あまり騒がしく感じないままラジオを楽しみながら運転を楽しめるのだ。一般に新東名と較べてしまえば昭和40年代に開通した区間ゆえ、カーブもアップダウンも多い。しかしアイが持つ軽快な操縦性やアップダウンに強い動力ドライバビリティ性能が遺憾なく発揮できる舞台としては東名高速道路の方が向いていた。飛ばしすぎないで済むので燃費的にも有利だった。

高速での評価は★3 動力性能の良さは素晴らしいが、ふらつきが出るので1減じる。飛ばさなければ4つけられる。

●居住性
アイの魅力はスタイリングでありパッケージングだ。E/Gをリア床下に置いたことで前輪を前出しし、運転席も前出しできる。その結果、Rr席が広くなるという仕組みである。



前席を前に出して虐めるほど後席が(≒室内が)広くなる理屈だがあんまりやり過ぎると、パーソナルカーとして不適当なものになる。アイの場合、ペダルを基準にシートポジションを決めるとステアリングが遠い。チルト・テレスコが未装着なので背もたれはいつもより起こし気味にするとドラポジが無事採れた。本当はステアリングをもっと手前に引きたかったが、室内長のためにそれはできなかったのだろう。



改めて、確認するとステアリングとペダルレイアウトのズレは許容レベルで見晴らしがいい割にヘッドクリアランスがこぶし2個分もあり開放感としては申し分ない。助手席との感覚は軽自動車なら大きく変わらない相場観だが、キャビン断面が丸いので足元も狭い。このデメリットは積載性の項で触れる。後席はヒップポイント高いもののがヘッドクリアランスはこぶし1個分。膝前こぶし3個は軽としては広い方だと思うが、較べれば(現行型のN BOXは8個分)キリが無い。アップライトに座れてRrリクライニング機構が着いているのは素晴らしい。特にRrリクライニング機構は軽自動車だとすぐ後がバックドアガラスである事も多く、リクライニングの意味が無いものも多いがアイはE/Gがあるため逆説的にシートバックから後の空間が残っている。



後席が広いことはとても魅力的だが一方で、その広い空間でどうやって過ごすかという配慮に乏しいのが後席の欠点だ。具体的には姿勢を保持するアシストグリップが未装備(後の改良で追加)で、シートバックポケットなどモノを置く場所が無い。カップホルダーをセンターコンソール後端に一個分くらいは設定してあげて欲しかったし、携帯はドアのえさ箱に入れておくしかない。後席が広くできるパッケージです!と言いながら意外なほど後席が冷遇されており、せっかくの室内空間をもう少し活用できるようなおもてなしの心が欲しかった。我が家の場合は後席は子供のチャイルドシートが取り付くので、前後の寸法が採れていればアメニティ機能は不要だが大人を乗せた時のことも考えるべきだったのでは無いか。そうでなければもう少し前席のドラポジ改善のために前席を後に置かせてあげても良かった。結果的に後席の余裕を生かし切れていないのが少々残念だ。居住性の評価は★3。

●積載性
軽自動車は定められた3.4mという全長の中で室内空間を優先して場所取りをするので、荷室はベビーカー1台が積めるかどうか程度の容量しかない事が多い。アイは荷室の床面積が奥行き540mm×幅930mmと広いことが特徴だ。



勿論荷室デッキ下にE/Gが積まれているからであり、ローディングハイトの高さも誰もが指摘するところで760mmだという。これでもE/Gを45°傾斜して搭載してデッキ高さを下げる努力をしているが、絶対値として高いことは確かだ。この高さになるとスーツケースのように重いものを持ち上げるのに筋力が必要になる。一方、肩にかけるようなボストンバッグやエコバッグであればそのままヒョイとデッキ床面に置けるのでローディングハイトの高さは一長一短という感じである。さらに後席は5:5分割可倒なので後席に人を乗せながら1250mmまでの長尺物を積むこともできる。後席を前に倒すとシンプルなアクションでデッキ面と面一になるのも便利だ。



我が家は後席に子供を載せて週末の買い出しにアイを使用したが、一週間分の食料品やミネラルウォーターを積んで、さらに子供の習い事の手荷物を載せても問題なかった。このデッキの広さはBセグハッチバックに迫る。ちなみに、デッキ下のE/Gは走行によって高温になり、黒色カチオン塗装のサービスホールカバーは手で触れないほど熱くなる一方、その上に敷かれたウレタン製のインシュレーターは厚く、空気層を含んでいるのでカーペットが熱くなって冷凍食品が溶ける、と言うような事は起こらなかったのでご安心を。



一方で、ポケッテリアという意味では引き出し式のカップホルダーや、インパネトレイ、箱ティッシュが格納できるシークレットボックス、大容量グローブボックスやドアポケットが装備されている。他にシフトレバー前にトレイがあるが、実際にアイを使ってみるともう少し収納が欲しいと感じた。せめて運転席シートバックポケットくらいあっても良いし、キャビン断面が丸いことからドアトリム付近のドア断面が薄く、開口部はあれども収納力不足を呈している。更に良くない事に引き出し式のカップホルダーからは絶えず異音が聞こえてくる。樹脂同士の相性が悪いのか分からないが格納時も異音があまりにうるさいので少しだけ引き出しておくとピタリと異音が止んだ。



後の改良でシートアンダートレーが追加されたようだが、せめてそれくらいは着いていないとグローブボックスに車検証で占拠されるとサングラスや清掃用品、CDケースが入らなかった。ラゲージ下収納が望めないのは承知しているが、人よりどっかでカッコつける軽プレミアムなので、収納性能(=実用性)はやるだけやるけど良いでしょ?的な感覚で仕様選択が行われたのであろう。せめて助手席シートバックにコンビニフックとポケットくらいは欲しいなと思うのは私だけでは無いだろう。ekワゴンのプチゴミ箱があるんだから、アイ専用にメタリック塗装した「スタイリッシュゴミ箱」を用品設定するくらいの勢いが欲しい。

評価は★2。私はラゲージスペースに不満は無かったが、ポケッテリアは改善の余地あり。後年、改良されているあたり市場からの指摘が相当多かったのだろう。それに真摯に答えている点は好感が持てる。

●燃費
カタログ値は後に不正とされる値だが18.4km/L。N兄さんから一ヶ月半お借りして走らせた距離は合計4045kmで14.5km/L。その中でATF交換やE/Gオイル交換を行ってみたり、高速道路を様々なペースで走らせるなどした。

最低燃費は新東名経由で東京へ出張した際の12.5km/L、最高燃費は100km/h巡航を忠実に守った際の17.5km/Lであった。市街地走行を普通に行っていると13km/L程度、高速道路を交えて遠出すると15kmL程度という感覚だ。アイは燃費よりも走りの質感を重視した感覚があり、この値は良いとは思わないが納得できるレベルだと思う。



燃費不正で11%程度の乖離があるとされるので、アイの実際のカタログ値は16.4km/L。市場トータルで見てもカタログ燃費達成率88%となるがハイブリッドカーやアイドルストップ機構付のエコカーと呼ばれるモデルは達成率が6割程度の車もある。アイは燃費のために無理をしていないと考えられる。

アイのデジタルメーターは残量警告が出ると残り7Lとされる。実際に点灯して給油すると30L弱入る。燃料タンク容量は35Lであるから警告灯は比較的正確で、30L使ったときの航続距離は435kmとなる。セグメント表示が完全消灯するまで走らせて給油すると32.6L入ったので多少は余裕を持っている。このとき、トリップは480.8kmも走れたが本当のガス欠までに500kmは走れたようだ。



ちなみにiMiEVは新車当時航続距離は160kmと言われてきた。実際の航続距離は言わずもがなだが、私のように東京まで一気に車で出かける機会がある人にとっては435km一気に走れるガソリン車と較べれば、理想的な条件であっても30分の急速充電を4回実施して肩を並べるという事になる。まぁ、iMiEVは純シティコミュータなので比較すること自体がナンセンスではあるが燃料のエネルギー密度が高いガソリンE/G車の意義はまだある。

話を戻すと、アイの燃費は現代の水準で決して良くない。しかし贅沢のためにそれを使っていることが実感できるし以降の燃費に縛られて走る歓びもが減らされた現代の軽ターボよりもその値に納得感がある。

燃費を評価すると★3。燃費の絶対値は決して良くないが、動力性能のバランスを考えれば充分リーズナブルで燃費が悪いという評価は厳しすぎる。

●価格
軽プレミアムを指向したアイは軽のハイエンドモデルであろうとした。専用P/Fによる唯一無二の存在感や全車ターボ付というキャラクターは親しみやすいポジショニングのekワゴンとは全く違う層を狙っている。下記に価格を示す。



エントリーグレードのS(128.1万円)のスタート価格は軽ターボとしてみれば安いが、後述するとおり敷居の低さをアピールするアリバイのようなグレードである。

メイングレードとなるM(138.6万円)はアイの世界を楽しむにはこれで充分という三菱の思いが伝わってくる。印象を引き締めるドアサッシュブラックアウト塗装や運転席ハイトアジャスター、キーレスオペレーション、UVカットガラス(Rrはプライバシー)、AM/FMチューナー+CDプレーヤー(4SP)が追加され、必要充分な装備内容である。

SにMOPをつけて装備をMに近づけると11万円にもなるので、だったらM買うわ!と言いたくなる価格差になっている。

フラッグシップのG(149.1万円)はMに本革巻きステアリング、本革巻きシフトノブ、アルミホイールやディスチャージヘッドライトなど上級車向けの装備が与えられる。Mにホイールとヘッドライトをグレードアップした差額が9.98万円なのでそこまでつけるなら、+0.6万円で本革ステアリングとシフトノブに加え、マップランプが追加されるので決して割高に感じさせない点が良い。

メーカー発表のデータでは1月末から7月末までの半年間で2.7万台販売され、グレード比率は、G:40% M:50% S:10%という想像通りの結果だ。カラーは1位:シルバー 2位:黒 3位:レッド ということで試乗車のシルバーのGは多数派の仕様と言うことになる。ユーザー層は50代男性が多いことからもセカンドカー需要、独特のメカニズムに惹かれる玄人層に人気が出たことが窺える。



三菱としては更なる拡販を目指して、若年層の女性に向けたプロモーションも実施したが、既に若年層の車離れが叫ばれ始めた時期とも重なっており廉価なNAの発売もあったが、アイが欲しい人に行き渡ったあと目標販売台数のクリアは困難だった模様だ。

当時は軽自動車はこだわらなければ総額100万円前後で買える時代で、ゲタ代わりで良いというならダイハツミラが55.5万円で買えた時代だ。そんな時代にアイは開始価格が128.1万円もしている。後に軽の中心車種になったダイハツタントは相場を意識して99.8万円だった。

後に追加されたNA仕様はオートA/C付で105万円スタートだったが、同時期に発売されたダイハツムーヴは97万円、タントは108.2万円だったことを考えるとプレミアムな軽なら妥当な価格帯に設定してあったものの、当初の高いという印象が拭えなかったのと、メーカーが考えるほどプレミアムな価値を消費者に認めさせられなかったと推測される。

上級仕様で149.1万円というのも、各社が何となく設定している150万円というガラスの天井がそこにあった。ソニカカスタムRSは141.8万円、セルボSRも141.8万円、スバルR2タイプSSは142.3万円、趣味性の高いダイハツコペンも149.8万円、スバルR1_Sは153.7万円であることを考えると、実用性としてはスバルR2やセルボに近いアイが149.1万円というのは少々高いと思われるのが自然だ。



個人的にはアイの最上級仕様は165万円程度に設定して軽を超えるような装備水準にすべきだったと思う。軽だからという言い訳を排してアジャスタブルアンカー、防眩インナーミラーは当然標準装備すべきで、チルト・テレスコピックステアリングも質の高い運転には必要だ。その上で、オーディオの音質向上や専用シートを備えた「EXCEED」があっても良かった。変にガラスの天井近傍で燻っていたのでは他社製品と比較されやすいが、むしろ軽を超えた存在として君臨しておいた方が比較的裕福な輸入車オーナー達へのセカンドカーとしてアピールにもなって収益性も上がったかも知れない。(この場合でも数を売るのはMグレードだろう)

後年になるとスライドドアというキラーコンテンツがあるとは言え、2011年のN BOXカスタムターボは166万円でもちゃんと一定数売れていた。

●プレミアム市場はあったが、コレじゃなかった
アイはリアE/Gを採用することで衝突安全性能を有利にしながらロングホイールベースによってゆとりある室内空間を得た。またスペアタイヤを法規緩和を活かして小さなパンク修理キットに置き換えてスペースを確保し、優れた重量配分(45:55)によって高い操縦性も得ていた。そして、実用性や手軽さを考えて5ドアと2輪駆動を用意した点はホンダZや当時のスマートに対する大きなアドバンテージだった。

当時の流行でもある美しいワンモーションフォルムを描きながらも、四隅に置かれたタイヤの上に繭がちょこんと乗ったようなスタイルは、軽自動車以外を見渡しても誰にも似ておらず、魅力的だった。インテリアも赤いシートがアクセントになって、懐かしくも新しいレトロフューチャー感覚のデザインが楽しめた。



確かに走らせてみると、軽であることを言い訳にしない非凡なる走りが楽しめる。
リアE/Gゆえの静粛性や加速感、普段使いで分かるブレーキング時の姿勢の良さや、操舵時に鼻先がスッと内側を向く操縦性はアイならではの味と言えた。開発車がテーマとして掲げたプレミアム性は確かに実車にも反映されており、アイに乗った多くの人にもアイが力作であったと実感できただろう。

それでは実際にアイはヒットしたのか?というと商業的には失敗ということになっている。奇抜なデザインとマニアックなメカニズムは軽の代表的なユーザーの指向から外れているだけでなく、最初のターボのみという高価格設定や4速ATのみの設定、Rrアシストグリップがない、助手席バニティミラーがない、アジャスタブルベルトアンカーが無い、など装備面の貧弱さも目立っていた。軽を超えるプレミアム軽であろうとしながら、ちゃっかり軽の常識に染まっているのは少々残念である。当時の目線で150万円を超える軽規格というものは本当に割高に見えた。



これはアイを中心とした販売台数のグラフである。デビュー直後はよく売れていたがすぐに失速し低空飛行になってしまった。アイが三菱最量販だったekワゴンを超えることはなく、グラフでは省略したがワゴンRは常に1.4万台以上販売しており、それらメインストリームと較べればアイは失敗に見えるかも知れない。

しかし、アイと同時期に各社から産まれたプレミアム指向の軽乗用車は軒並み「どんぐりの背比べ」である。ソニカも軽自動車でありながらターボ×CVTのみの設定で、空力性能を意識した低い車体とレーダークルコンに代表する上級装備が楽しめたが、販売状況はアイを下回る燦々たる状況であった。競合車と目される車で最もよく売れたのはセルボだ。男性をターゲットにして上質な内外装を与えられている。さすがスズキの販売力と企画力ゆえ、デビュー直後以降は三菱の主力のであるekワゴンに迫る勢いで売れていたが、それすら軽市場の中ではヒットと呼べるものでは無かったのだ。



軽自動車の内外装をレベルアップし、登録車に代わる存在としてエクストラコストを支払って貰える存在だったかというとそうでは無かった。グラフを見る限りアイは期待より売れていなかったものの、自然吸気仕様や廉価な特別仕様車を追加して善戦していたと気づいた。販売目標を満足にクリアできなかったとしても、あれだけ個性的な車が発売後2年で5万台売れていたのだ。メーカー不祥事によるイメージダウンを考えてもアイが純然たる失敗作だったと断罪することは厳しすぎるかなと私は感じた。2006年前後の「プレミアム軽」は内外装や走行性能の質感を引き上げるという付加価値にエクストラコストを支払って貰おうとしていたと思われる。例えば都市部在住の高級輸入ブランド保有層が面白がって買って貰うセカンドカー需要にもアイはある程度食い込むことができたが、彼らが皆アイを買うわけでも無く、発売後しばらくの後に欲しい人には行き渡った感があった。

2025年現在、登録車よりも高額でも売れている「プレミアム軽」はしっかり売れており、いわばトップカテゴリーとも言える存在になっている。ただしそのプレミアム軽はミニバン顔負けのスーパーハイト軽だ。電動スライドドアやサーキュレータ、オットマンやロールシェードを持ち、広大な室内空間を誇りつつも軽自動車らしい扱いやすさは残されている。一方で走行性能や個性的なスタイリングに対しては「それなりのレベル」でお茶を濁している。つまり、軽ユーザーが求めるプレミアムは「実用性」であったということだ。総額200万円を超えていても実用性を飛躍的に高めたプレミアム軽自動車が飛ぶように売れている。

アイに限らず、ソニカ、セルボなどの販売が振るわなかったのは、従来の軽ユーザーにとって過剰だっただけでなく、狙っていたダウンサイザー達も軽には「軽らしさ」や「実用性」を求めていたのではないか。アイと共に暮らしてみてその良さが好ましいものだっただけに、「市場性が無かった」「ビジネスだから仕方ない」からと言って「プレミアム軽」を消し去ってしまうのは非常に勿体なかった。セルボが先行二車種より売れていたのは、プレミアム感が希薄な代わりに機構やコンベンショナルで実用性とのバランスが取れていたのだろう。車好きの一人としてアイの面白さやソニカの方向性が支持されず、途絶えてしまったことは寂しさが残る。

5ドアハッチバックが急にヒットしたり、セダンが斜陽化するなどユーザーのニーズはいつまでも一緒では無い。少子高齢化やxEV化の台頭など市場の背景の変化によってアイやソニカのようなプレミアム性が求められる日が来るかも知れないし、海外でも軽自動車のニーズが認められて
国際商品として市場規模が大きくなることもないとは言えない。



それらのプレミアム軽にはどうか登録車では当たり前になりつつあるアジャスタブルアンカーや防眩ミラー、チルテレなどの基本的な安全装備は省かずに、世界に輸出できる軽を目指すべきだと個人的には思う。800ccを積んだ低所得者向けマイクロカーでは無くグローバルに戦える「日本発のハイテクプレミアム盆栽Kカー」が出てきて欲しいと願わずには居られない。せめてiベースのムルティプラのようなキャブオーバーコンセプト「SERO」も見てみたかった、とか車幅を軽規格を飛び越えればとんでもない可能性を秘めたリッターカーになったんじゃ無いか?など
私の想像力を刺激する存在だった。

●アイは既に2000年代のネオ・クラシックカー予備軍
アイは長いモデルライフの中で、一部改良でサスやEPSの再適合を図り、燃費を向上し、細かい装備類の改訂を行っているが、特に忘れてはならないのは2009年に発売された「i-MiEV」のベースとなったことである。床下に電池を吊り、E/Gの代わりにモーターを積み、一般販売を行った歴史的な軽自動車だ。内容的な先進性と乗り味がマッチしており、初めて運転したときの感動は忘れられない。高速道路を爆走していると「快速急行」に乗っているような感覚があったのが面白い。独特のメカニズムを持ったアイだからこそEVコンバージョンも容易になったのだと思うとアイは充分投資の価値があったと思う。

三菱にとってアイは攻めすぎた失敗事例の一つと捉えることは少し厳しすぎる見方なのかも知れない、と私は同情的になるほどアイは乗れば乗るほど魅力が伝わってくるプロダクトだった。気づけば、異音を修理し、ガタついたロッカーモールをインチキ修理し、脱落したクリップ穴に新品クリップをあてがい、勢い余ってATFとE/Gオイルを交換してしまった。



アイと共に暮らすようになった一時期、街でまだ生き残っているアイを見かけた。マニアが保護していると思われる個体、おじちゃんおばちゃんの生活の足、格安MiEVでEVライフを楽しむ個体、など不人気と言われながらも意外と残存している気がする。息子が通学路にアイがあるというので見に行ってみるとピンク色の後期型が止まっていた。

三菱自動車はパジェロ亡き後もSUVイメージで少しずつイメージの回復を図っている。この流れに水を差すつもりは無いが、例えばアイに向けたリフレッシュプログラムやアップデートキットがあると面白い。ディスプレイオーディオやフル液晶メーターなどである。発売から20年近く経過し、ネオクラシックカー的な立ち位置に差し掛かるとき、少しでもアイが残され、愛される存在に留まれることは三菱自動車にとってもメリットがあると思う。SUV群もエボシリーズも三菱らしいが、アイだって充分イノベーティブな三菱固有のヘリテージなのだ。日産サクラの技術的下敷きになっているだけなのは勿体ない。

2000年代のネオクラシック車をアイして止まないマニアの皆様方におかれましては、そろそろ底値の個体を保護する時期がやって来たと思われる。あっという間に部品がなくなる前に程度の良い中古を確保し、育て始めた方が良い。行動せよ!部品が無くなり、25年ルールで輸出解禁されるなどして日本から中古車が消える日は時々刻々と迫っている。(経験者談)



最後に貴重な初期モデルのシルバー赤内装のGを一ヶ月以上貸して下さったオーナーのN兄さんに感謝申し上げる。有り難うございました。
Posted at 2025/06/27 00:13:14 | コメント(4) | トラックバック(0) | 感想文_三菱 | クルマ
2020年07月01日 イイね!

1990年式ミニキャブブラボー感想文

1990年式ミニキャブブラボー感想文







●要旨
久しぶりのスギレン企画
(私がティーンエイジャー時代からお世話になっている
 「スギ」さんが愛車を一定期間レンタカーとして
 自由に貸してくれる企画である)

箱バンのユーティリティをレジャー指向の顧客に向けて
お化粧直しした乗用箱バン(矛盾)
自動車としての走る曲がる止まるはさておき、
4人をきっちり座らせて十分な積載能力があった。

ブラボーAXは当時の目で見ると十分な豪華装備
乗用ムードあふれる内装を持ち、
欲張らなければマルチパーパスに使える「遊べる軽」である。

旧軽規格ゆえに車体が小さく、
普通車なら躊躇するような路地に
果敢に入り込めるのは痛快ですらあった。

高速道路も通勤で走行したが、横風さえ吹いていなければ
ちゃんと100km/h巡航も可能になっていたのは驚いた。
当時の制限速度の80km/hを守っていれば、
ちょっとした坂でも速度が維持でき相当安楽に走行できた。

休日に家族を乗せて日用品などの買い物に使用した。
市街地をトコトコ走っているシーンが最も輝いていた。
このような軽箱バンのネガが取り払われて
現代のスーパーハイト系ワゴンに繋がっていくのだろう。

●90年時点で普通車に肉薄した軽自動車



軽ワンボックス商用車、いわゆる軽箱バン
荷物をA地点からB地点に輸送する自動車の
最小単位として空間効率MAXで作られている。
この空間効率に目をつけて商用車でありながら
「新しい乗用車の形」のステーションワゴンの様に
豪華な装備を奢ったバンモデルが
80年代以降各社からデビューを果たした。



この流れの起点は間違いなく
商用車をパーソナルカーとして解釈した
スズキ・アルト
と言って間違いない。
軽セダンベースのアルトでは4人乗車は難しいが、
フルキャブオーバーが持つ空間効率の高さを活かし、
軽箱バンの豪華仕様が1980年代近傍に各社から発売されるに至る。

1981年 アクティストリート、ハイゼットアトレー
1982年 エブリィ サンバートライ ミニキャブエステート


と矢継ぎ早に箱バンの競合関係が形成された。
上記モデルはバンとの差別化を行い、
メカニズム面でも上級機種には4輪駆動や過給エンジンを与えて
RV的な楽しみ方が出来るようになっており、
部分的に登録車の下位モデルを食うような商品性も与えられていた。



三菱ミニキャブエステートは1984年にフルモデルチェンジを受け、
専用の角目2灯式ヘッドランプが与えられて一気に洗練された。



技術のデパート的な当時の三菱らしくノーマルルーフ、ハイルーフ、
サンルーフ、FR、フルタイム四駆、パートタイム四駆、
シャイレントシャフト付き3気筒E/Gに加えて
スーパーチャージャー仕様の追加などの変更を経て、
ミニキャブエステートは「ミニキャブブラボー」に名称変更した。

今回の試乗車は軽規格が改定されて
全長が10cm伸び、排気量が660ccの
NewSizeとなった直後の1990年式である。
当時の旧規格は排気量550cc、3200mm×1400mm×2000mmであった。
新規格では660cc、3300mm×1400mm×2000mmとなった。
(現在ではこれも旧規格)

ミニキャブは元々旧規格で設計されているが、
バンパーの先にモールをつけて寸法だけ
新規格ギリギリまでサイズアップされている。





フラッグシップモデルとしてとして
スーパーチャージャー付きのブラボーZRが存在するが、
このグレードのみ550ccのまま据え置かれている。
三菱と言えば「フルラインターボ」の言葉が残っている通り
ターボ一辺倒的なイメージがある。
軽乗用車のミニカにはターボを設定しながら、
ミニキャブの様な性格に合わせて
低回転域からグイグイ過給効果を発揮する
スーパーチャージャーをミニキャブ専用に与える
細やかさと贅沢さを持っていた。

ベーシックなNAエンジンには660ccが載る。
軽自動車用としては異例のサイレントシャフトが採用されて
3気筒特有の振動を軽減している点が三菱らしい。



グレード構成は下からブラボーCS、ブラボーAX、ブラボーCXがある。
今回試乗したのはブラボーAXであるが、CXとAXの装備の差は驚くべき事に
荷室のポケットとチルトステアリングとデジタル時計、
ハロゲンヘッドランプだけなのだが、
エアコンはAXには標準でCXには装備されない逆転現象も生じている。
取説の主要装備一覧表を見る限りはブラボーAXが最もお買い得に映る。

下位のブラボーCSとAXの装備差は大きく、
バックドアの電磁ロックと集中ドアロック、
AM/FMラジオやエアコン、
12インチフルホイールカバーが装備されており、
上級モデルを食うような装備設定であった。

●何故か洗練された内外装

ブラボーのエクステリアは当時の三菱らしい
クリーンなスタイリングが魅力だ。
普通なら角目2灯式ヘッドライトを用いて
面白みの無いスタイリングになるところだが、
直線的でバランスの取れたスタイリング
当時のミニカとのファミリーを意識して開発されたのだろう。

面白いのは、ブラボーとバンでは顔つきが異なる。
前者は角型ヘッドライトで後者は丸目ヘッドライトを採用しており、
上下の高さが異なるのだが、ライト下のモールをうまく活用して
顔違いによるヘッドライトを同じフロントマスクに効率的に押し込んでいる。
また、ワイパーピボット付近にブラックアウト塗装を施して
ウインドシールド周りをすっきり見せている点もちょっと背伸びした印象だ。



サイドはさすがに全長が短く軽自動車然としているが
バンパー意匠が当時のギャラン風の筋肉質なエアロ形状になっている。
自動車のデザインとは面白いもので1984年のデビュー当初の
いかにも80年代的な明るくもクリーンで直線的な意匠だったものが、
丸みを追加したバンパーと2トーンカラーでキャビンの腰高感の軽減と
(当時の)現代的に見せる効果
をもたらしている他、
ホイールアーチの処理も単純に円弧にせずに面白い処理をしている。

インテリアは私が個人的にホロリとしそうになった。
1984年にモデルチェンジした際のミニカと共通のインパネが流用されている。



自身が4歳の頃、親が購入したミニカエコノGの印象が強烈に思い起こされる。
風量が大きいと勝手に閉まってしまう空調噴出口
ガソリンスタンドの伝票を突っ込みまくっていたインパネアッパーボックス、
現代の目では使いにくいステアリングコラム上のハザードスイッチなど
幼稚園時代の懐かしい記憶が甦ってきた。
何を考えているのか自分でも良く分からない時代の私が
Dレンジで走行中、勝手にPに入れてしまい、
この世の終わりみたいな音を立てていたこと、
めちゃくちゃ両親から叱られた記憶もセットで甦った。


●休日のレジャー試乗
運転席に座ってイグニッションキーを捻る。
少しかかりが悪いときはアクセルを少し踏んで助けてやれば
3G83型エンジンが始動する。

アイドル回転は正規位置より少し下目なのか
バランスシャフトが着いているにもかかわらず
ブルブルと振動をしていたが、
少しアクセルを踏むとピタッと振動が止む。
(或いはA/Cを起動させればアイドルアップで快適になる)



フルキャブオーバー故に足元は広いとまでは言えなくとも
実用に耐えうるワークスペースがあるし、脚引き性もまずまずだ。
右からオルガン式アクセルペダルの横にブレーキペダル、
ステアリングシャフトを跨いでクラッチペダルがあるが
当時の軽セダンやセミキャブの様にアクセルが左に片寄ることもなく、
ペダル配置にも無理は無い。
シートのセンター位置とステアリングはずれているが
かつてのデリカほど酷いとは感じなかったのは車幅の狭さと
センター席乗車を考えなくていいメリットか。

PKBを下ろしてギアを入れてクラッチを繋ぐ。
乗用車と違い上から踏み下ろすような操作ゆえ
半クラ操作に慣れない感覚があったが、
キャブ特有のアクセル操作に対する俊敏な
レスポンス
を活用する事で乗り切った。

「1速はあまり使わないよ」と言うスギレンさんの忠告どおり
定積で坂道発進できるように設定されたと思われる1速は
一瞬で吹け切ってしまう。

普通に発進すると1速10km/h、2速20km/h
・・・というペースで5速50km/hまですぐに到達する。
タコメーターが無いのでネットを駆使して
E/G回転表を作成した。

1速10km/h≒2500rpm
2速20km/h≒3000rpm
3速30km/h≒3300rpm
4速40km/h≒3000rpm
5速50km/h≒3000rpm


基本的に2500rpm以上回しておけば
十分な駆動力
が出ている。
今回試乗した1990年式ミニキャブブラボーは
新規格に対応して3気筒のまま660ccとなったことで、
30ps/4.4kgmだった性能が38ps/5.3kgmまで向上している。
5速MTのギア比の変更は無いのでそのまま
走行時の余裕駆動力に割り振られている。



そのため一名乗車で日常的な市街地走行をする場合、
動力性能は十分で周囲の流れに追い付くことは可能だ。
一般道の最高速度60km/hまでは十分使える。
ただ、前方で車線がなくなるから加速して車線変更、
という名古屋的な使い方はできず
並走車にブロックされて立ち往生するのが関の山だ。

ちなみにブレーキは前輪にディスクが奢られ、
ブレーキにもマスターバックが装着されて
板ブレーキ感が無いのはさすがだ。
路面が濡れている状態で前方の信号で強めに制動したところ、
後輪がロックして姿勢が少々乱れた時に、
「ああこの車はムリは利かない」と悟った。



せっかくのミニキャブブラボーなので
家族を乗せて近所の紡績工場跡地に建った
ショッピングセンター
へ向かった。

途中、敢えて自転車で走るとちょうど良い路地を走った。
2速でチョロチョロ走るこの路地はまだまだ家が建ち並び、
家々には自家用車が駐車されているあたり、
卓越した車両感覚を持った人がたくさん住んでいる地区らしい。



たまにRAV4やデミオで走る際はミラーを見ながら慎重に走るが、
ミニキャブの場合はかなりボディサイズが小さいので余裕がある。
デミオなら360°カメラを使い、RAV4なら迷わず車から降りるような
交差点を曲がる際も頭を振って一発で曲がることも出来た。
最小回転半径は3.7mを誇るラックアンドピニオン式のステアリング
勿論ノンパワステなのでパワステに慣れ切った私には重い



タイヤを回しながらステアリングを切ることが鉄則なので、
半クラで頑張りながら、腕をプルプルさせてステアリングを回した。
そのまま走り出してしまえばステアリングに重さは感じないが、
やはり軽自動車と言えどもパーキングスピードのノンパワステは重い。

目的地では長い間リクエストされ続けてきた
「人をダメにするクッション」を購入した。
デミオであれば途方にくれる大きさだが
本来は商用車なのでフラットかつ
実用的な荷室が用意されている
ミニキャブブラボーは余裕綽々で飲み込んだ。



パッケージ的に無理する事なく家族で乗れて、
荷室もセダン以上と来れば
動力性能やフルキャブの運転感覚さえ許せば
十分にファーストカーとして使用できる。

買い物を終えて県内を走らせた。

ETCゲートを潜り、高速道路に合流した。
メーターに書かれている速度まで各ギアで引っ張ると、
制限速度の80km/hに達した。
机上計算による回転数は5000pm弱
既に常用域を外れ、E/Gの最高出力が出る回転数に近い。
しかし、不思議と3気筒E/Gはスムースで
高回転でも音があまり気にならないのは大したものだ。



2020年の現代では軽自動車であっても高速道路で
100km/hを出すことが許される
ようになった。
アクセルを踏み込むとE/G音が騒がしくなりつつも
100km/hを指示している。



机上計算では6000rpm付近までE/Gが回っているが、
タコメーターが無いので把握しておらず、
精神衛生的にはその方が好ましいとさえ思えた。

この手の軽箱バンは高速道路ではステアリングを
しっかり支えなければどこか不安になる。
しかしミニキャブブラボーの場合は、80km/hであれば
意外なほどリラックスして運転が出来た。
あからさまな飛ばし屋が追越し車線に
居なければ5速のまま追い越し加速も可能なほどだ。



以前試乗させてもらったホンダマチックの
ホンダストリートLから10年分の進化を感じた。
ストリートLの時は80km/hが安定して走れる限界で
100km/hなどと言う領域はちょっとした度胸試しのレベルだった。
10インチタイヤから12インチにサイズアップしたことも
操縦性向上に貢献しているはずだ。

流れの速い高速道路においてミニキャブブラボーは少々遅い部類だが、
それでも大型トラックと一緒にのんびり走る分には十分な性能があり、
急ぐ人でなければ長距離ドライブも問題ない。
オーナーのスギレンさんも愛知からFSWまで東名高速を走りきっている。

ついでにワゴンらしく森の中の3桁国道も走らせた。
動力性能・操縦性が問われるこのステージは
最もミニキャブブラボーが輝けないステージだろう。

RAV4なら余裕で、カローラならツインカムの咆哮を楽しみながら
登るような坂道でミニキャブブラボーは3速全開で着実に道路を噛み締める。
普通車ならドライビングを楽しめる類のワインディングでも
さすがに家族を乗せた状態ではローギアードなミッションを駆使しても
非力感が出てしまう
ことはまぁ仕方が無い。
それ以上を望むならスーパーチャージャーという選択肢もある。



ヘアピンカーブが続くような区間ではステアリング操作が忙しい。
乱暴な走りをすれば家族からクレームが届く為、
制限速度域でGを出さないようにジェントルな走りを心掛けた。
これまた普段は走らないような狭い森林の中の一本道を選んだ。
アスファルトも荒れたアップダウンをミニキャブは軽快ではないが
じっくりとクリアしていく。柔らかめのサスはタイヤの直上に座る
キャブオーバーゆえ揺れは大きいが
ドシンと言う角のあるショックはいなしてくれる。
このあたりはバンではなく乗用ワゴン的なセッティングが功を奏していた。
窓を開けると森林の心地よい風が車内を満たす。
エアコンが死に掛けており天然の冷風で生き返る思いだった。

●ちょっとした記憶による脳内比較

せっかくなので私の人生の中で運転した
往年の軽箱バンについて簡単に触れておきたい。

1.ハイゼットアトレー
短時間の試乗だった為、
ただ動いてくれただけで感動できた。
ゆっくりは知らせただけで笑顔になれる
牧歌的なまゆげ。

2.アクティストリート
ホンダマチック初体験。
☆レンジに入れた歓びも束の間、
10吋タイヤで全開加速余裕度0の
高速ドライブは手に汗握るスリルだった。
MTだったら違う結果かもしれない。

3.ハイゼットLXターボ
友達が買った俊足ターボ。
箱バンと過給機は相性が良いと痛感。
タコメーターが付いてるだけで気分がノッた。
名阪国道の五月橋~山添の区間で不調になり、
ちょっとした臨死体験をしたのが青春の思い出。

4.ストリートG
同級生がレーシングカートを運ぶ為に乗っていた車。
ATの為本当に坂道で登らなくて何度も怖い思いをした。
内装の垢抜けたセンスと、
E/GがRrアクスル付近にあったので静粛性が高くて感心した。

5.ディアススーパーチャージャー
例の友達が1万円で購入し、数時間後に試乗。
名阪国道の天理~福住までの追い越し車線を
リードできる箱バンとして稀有な動的性能に感動した数十分後、
冷却系トラブルによりE/G死亡。
初めてカローラで牽引を経験した青春の思い出。

6.ミニキャブMiEV

EVになって動力性能は文句なしのレベルだったが、
セミキャブ化による致命的な足元の狭さと
満充電でも給油警告灯点灯レベルの航続距離にどん引き。
近距離主体のルート配送などには適するも、
まだファーストカーとしては使えない。

●まとめ

現在の軽自動車販売の主流は、
皆さんがご存知の通りスーパーハイト軽
だ。
軽自動車の枠内に収めながら
広大な居住空間とスライドドアによる利便性
広大な荷室(Rrシート格納時)と乗用車ライクな乗り味が人気の理由だ。



装備水準ももはや登録車を凌駕するレベルの仕様もあり、
登録車並の販売価格でも購入後の維持費の安さで相殺されて人気を博している。

スーパーハイト軽の起源について考えた時、
私はブラボーやアトレーのような軽箱バンが思い当たる。

軽箱バンは商用ユースの為に徹底的に積載寸法にこだわった設計と
貨客兼用の為にP/Fを共通化でき、投資を抑えられたかつての
セダンベースのステーションワゴンのような成り立ちだ。

1979年のアルトに端を発する商用車の乗用者的利活用
1980年代のレジャーブームと、
当時普及が進んだ4WDやターボなどの
技術の進化が相乗して乗用箱バン(矛盾)を育んだ。

家族4人が乗車でき、ハッチバック/セダン以上の積載性を誇り、
高速道路も走行することが出来る。
規格の枠内であれば「何でもアリ」が信条の軽自動車らしく
多少いびつでありながらも、少しでも多くの要素を取り込もうとした姿
完全に現代のスーパーハイト軽と通ずるものがある。

この中でもミニキャブブラボーAXは
過給機や四駆などの華々しいメカニズムは持たないが
エアコン、AM/FMチューナー、
集中ドアロックなど必要な装備は備え
3気筒バランスシャフト付きエンジンと
5速MTによって走行性能にも気配りした。
前席のドラポジも少々いびつ、後席の足元スペースも狭い、
38psエンジンの圧倒的な非力さなど、
当時のリッターカーと比較しても
絶対評価では決して高得点は出せないが、
日本独自規格の軽自動車が本来持っている
「軽の枠内でどこまでもやってやろう」という貪欲さが
強く感じられた。



今回も愛車をお貸しいただき、貴重な体験をさせていただいたスギレンさんに感謝。
Posted at 2020/07/01 00:29:04 | コメント(0) | トラックバック(0) | 感想文_三菱 | 日記
2017年08月12日 イイね!

2001年式ランサーセディアワゴン感想文

●スギレンさんがついに21世紀の車に!

家庭の都合により、しばらくマニアのイベントに参加出来ていない間に、
スギレンさんの通勤車両が増えていたらしい。
あるタイミングで仕事終わりのスギレンさんと会う機会が
あり初めて知った次第である。
(最初気づかずに無視してしまったwww)

そのクルマとは標題の三菱ランサーセディアワゴンである。
思えばスギレンさんはワゴンが好きだ。
初代カルディナでカーライフを開始し、
カムリグラシアワゴンカペラワゴンカリーナサーフなど、
セダンベースのステーションワゴンを熟知したスギレンさんが
ついに三菱のステーションワゴンの世界に足を踏み入れたのだ。



ランサーセディアと言えば、我々の世代からすれば、
ランエボのベース車でというだけでなく、
テレビコマーシャルがカッコいいというイメージが強い。



いすゞジェミニのパクリだと言われようと、
趣味のいい「キャラバンの到着」のBGMを響かせながらフランスの町並みを
縦横無尽に疾走するセディアはかっこいい。
セダンからスタートしつつ、ワゴンやエボリューションでも
アレンジ違いのBGMを採用して広告の世界観を守っていた。

セディアは2000年5月にセダンが先行して登場。
ワゴンは同年 11月にフルモデルチェンジされた。
当時はステーションワゴンは富士重工のレガシィにて市民権を得て以来、
ポピュラーなボディタイプとなっており、
特に若者層から選ばれる割合も今よりも高かった。

当時のライバルはカローラフィールダー、
ファミリアSワゴン、インプレッサ、ウィングロードなど。
セディアは若干上級クラスのビスタやカルディナ、
或いはレグナムよりも、小柄だが、上質感を訴求したモデルであった。

外観は当時のトレンドであるキャブフォワードで背の高いパッケージをまといつつ、
不恰好に見えない絶妙なところで抑えている。
旧型に当たるリベロと比べると、ロングホイールベースで全高が高くなっている。
このパッケージは2000年時点では現代的で新しさのあるものだったが、
同世代のビスタに代表されるようにベルトラインから上のDLOが広すぎて不恰好に見える。
例えばビスタより後発のカローラでは全高を1470ミリと先代よりも85ミリも高くなったが、
ベルトラインを高い位置に引き直し、DLOを敢えて小さめにした。
結果、間延びしたドアアウターはサイドプロテクションモールでバランスをとった。



セディア(全高は1470mm)の場合、ベルトラインはビスタのように低目のままだが、
違和感なく背高フォルムを着こなしている。
セディアはフードが低く、カウルが低い。
フードヒンジに注目するとホンダ式のギリギリまで攻めたヒンジが取り付けられている。
同じコンセプトのカローラフィールダーは丸みを帯びてもっちりした印象なのに対し、
セディアワゴンはソリッドな魅力を感じる。
ベルトラインモールは一般的なモールよりも幅広で全高の高さを緩和している。
水平基調で長さ感を出している。
思えば、80年代に背高セダンを完成させている三菱ならではのデザインの力だろう。
昔からセディアワゴンのスタイリングは好みであった。

内装がスポーティかつ高級車ムードあふれるデザインだ。
エアコン吹き出し口は開口が大きく、
周りを黒木目のオーナメントがゆったりとしたワイド感を演出している。
大画面のインテグレーデッドナビがMOPで選択できるが、
試乗車は用品対応の2DINスペースに
三菱電機のDVDナビが装着されていた。



試乗車は最上級グレード(Touring スーパーPKG)のため、
本革内装とパワーシートが追加されて高級感が高い。
特にドアトリムの立体感はクラスを明らかに超えている。
さらにMOMO社製革巻きステアリングが装備され
スポーティかつラグジュアリーな雰囲気だ。

鍵を開けて乗り込んでみる。
ヒップポイントが高くて乗降し易いのが、
アップライトパッケージの美点だ。
ドラポジを合わせてみると、ベルトラインの低さ、
インパネの圧迫感の少なさゆえに抜群の開放感を味わえる。
ただ、ステアリング高さが遠くて低く、
高めに設定されたヒップポイントと整合していないのが気になった。
また、Aピラーが寝ている関係で
ヘッダーと私のおでこの距離が接近して狭く感じる。
パッケージ的には高いところに座っているのに、
低いところにある操作系を見下ろす様な感覚は気になった。
この時代故にテレスコの装備も無く、
比較的手足を投げ出した様なポジションとなる。

私は体格に恵まれない165センチのために、
シートを前に出してシートバックを立て気味のドラポジを好んでいる。
このため、体格の良いスギレンさんでは気にならないという。



シートは本革パワーシートが装備されてヒップポイントが高いだけでなく、
シート座面自体も随分分厚く感じる。シートバックも丈が充分で、
肩甲骨の辺りもキチンと支えてくれて心地よい。
一方、リアシートは標準の背もたれ角度では
カタログ上の室内長を確保するため反った形状をしており、
一段立てた状態がオススメだ。
座面サイズや膝前スペース、私が最近気にしている足引き性は良好だ。

●リーンバーンの新しい世界を切り拓いたGDIエンジンを搭載


ランサーセディアは高級感あふれる内外装と新世代パッケージングが売りだが、
当時最大のセールスポイントとしていたのが
1.8L GDI + INVECS-III CVTという
組み合わせの新時代の走りだ。



GDIと言えば「Gasoline Direct Injection」の略で、
三菱自動車が1996年に世界で始めて量産化した
筒内噴射リーンバーンエンジンの事である。
ジーディーアイ、ジーディーアイ、ジー・ディー・アイ!
という掛け声が今でも思い出される。

GDIについて門外漢の私がサラッと説明すると、

より少ない燃料で車を走らせるアプローチとして当時は
リーンバーン(希薄燃焼)が盛んに研究されてきた。
一般的なエンジンでは燃料1に対し空気14.7という比率で
燃焼させていたが、それを例えば空気20で燃焼させる
(=空気量固定なら燃料を節約して燃やす)技術だ。



吸気ポートに少な目の燃料を噴射し、
シリンダー内に混合気を十分撹拌させて着火させる。
これだけの事だが、
薄い混合気を綺麗に燃焼させる事は大変難しいことであった。

燃料が薄いと火花が混合気に燃え移りにくく、
仮に着火したとても燃焼がゆっくりで燃え広がりにくく、
不完全燃焼に陥りやすく燃え広がるにも時間がかかる。
結果的に出力が小さくなり排ガス性能が悪いという問題がある。

いわば、お母さんが作るカルピスの様に原液に対して
水を入れ過ぎた希薄カルピスだと
味わいというパフォーマンス低下が見られるのと同様の話だ。



エンジンの場合、点火プラグ周辺だけに濃い混合気を集めておいて
上手に着火させる層状燃焼を実現させ、
その火炎をすばやくシリンダー内に拡散させる強い渦を起こせば
リーンバーンが実現できる。
吸気ポート形状を工夫して燃焼室内に強力な渦を作る、
或いは2つの吸気ポートの片側だけ濃い混合気を出すことで
空燃比を1:23あたりまで薄めて、約20%の燃費の向上を実現していた。

それ以上燃料を薄くするためには、より効果的にプラグ周辺に
少量の濃い混合気を集めてやる必要がある。
より高度なリーンバーンを実現する為に生まれたのが筒内直接噴射である。

吸気ポートにインジェクターを置くのではなく、
燃焼室内にインジェクターを置くことで
吸気ポートに付着してしまう燃料のロスを
差っ引いて噴射量の精度が向上する。
そしてインジェクターによる正確な噴霧をいかに
点火プラグの周辺に集め、着火できるように工夫したのか。
GDIは「直立吸気ポート」「湾曲頂面ピストン」
によって解決している。



燃料を含まない吸気を燃焼室に入れる角度がほぼ直上という
特殊な吸気ポートの恩恵で吸気は真上から燃焼室に入る。
ピストンが下死点から上昇している最中に
シリンダ側面にはインジェクターがあり燃料を噴射する。
燃料は吸気と一緒にピストンにぶつかるのだが、
ピストン形状が半球状に凹んでいる為、
跳ね返されて縦型の渦(タンブル)になり、
ピストンの上昇につれて点火プラグ周辺に混合気が集まる。
そこに点火してやれば層状燃焼を実現することが出来る。

インジェクター自身も従来よりも大幅に高圧噴射と
旋回パターンで燃料噴射できる当時として最先端の
高性能インジェクターがあって初めてGDIが実現している。

結果、従来よりも薄い燃料(1:40)でも
燃焼させることとができるようになった。
直噴エンジンの実用化はエンジニアの夢のエンジンとまで
言われていたが、三菱自動車はそれを実用化したのだ。

因みに、水だけを口に含んだ状態で少量のカルピス原液を
ストローで吸う、GENEKI_CALPIS DIRECT INJECTION、
即ちGDI(笑)を実施してみたが、
ストロー捌きを工夫して上手く舌の近傍に原液を運べれば、
味わいを楽しみつつ原液を節約するかも知れないが大変困難で、
三菱が味わった苦労の一端に想いを馳せる事が出来よう。

GDIは低負荷時はリーンバーンで、
高負荷時は従来型エンジンと同じような燃焼を行う。
このときは燃料噴射タイミングをピストン下降中に噴射する。
濃い目の混合気は燃焼室内に広がり、圧縮・点火される。
GDIは筒内直噴であるため、燃料が気化するときに
燃焼室の温度を奪うことで冷却効果が得られて、
ポート噴射よりも多くの空気を吸い込める他、
耐ノック性が強い。
圧縮比が12と当時としては相当高く、理論熱効率も良くなる。
結果的に低燃費(燃費35%UP)かつ高出力(10%UP)と宣伝された。
(GDIは奥が深く様々な工夫・特徴があるが長くなるので割愛する)

当初はギャランの4AT/5MTでスタートしたGDIだが、
ランサーセディアでCVTと初めて組み合わされることになったと先にも述べた。

GDIを含むリーンバーンエンジンの場合、低燃費モードと高出力モードの
トルク変動がドライバビリティを損なうため、
電子制御スロットルを開け閉めして変わり目の段差をぼかす必要がある。

CVTは元々レシオカバレッジが広く、連続的に変速できる為
エンジン回転数を変えずに低燃費モード内で運転できる。
GDIのジキルとハイドの二面性をぼかすデバイスとしてもCVTは有効だ。
従来は発進用クラッチの耐久性が日本の使用環境にマッチしておらず、
早々に故障するケースが多かったが、2000年頃にはAT用のトルクコンバーターと
ロックアップクラッチを利用した新世代CVTが登場し始めており、
セディアもトルコン式CVTを採用している。

ランサーセディアに搭載されたGDIエンジンはギャランと同じ型式だが
最高出力は150psから130psに低められている。
恐らく車格だけではなくCVTとの相性もあったのだろう。

カタログ値は例の件でインターネットで探しても
それらしいものが出てこないが、
スギレンさんが持っていた当時のカタログによると16km/Lだったようだ。
競合関係にあるカローラフィールダー1.8Sは4ATで15km/Lなので
圧倒的な優位性は無い。
ギャランの場合、150psでありながらMTで18.2km/L、
ATで16.2km/Lという驚異的な燃費を誇っていた(偽装データの可能性があるが)が、
ランサーセディアの場合は若干控えめな数字だと感じる。

●現代の目で見れば力強く違和感のない走り

新車当時、既に免許を持っていたが、
これと言って興味の湧かない普通のワゴンだと考えていた。
当時考えもしなかった様な事が起こった後の
2017年に改めてランサーセディアワゴンと向き合う機会を得て、
早速走り始める事にした。

最上級グレードといえどもスマートキーはまだ無く、イグニッションキーを捻る。
一般的なエンジンと同じように始動する。
この車両には三菱電機製のカーナビが取り付けられているが、
スリーダイヤの起動画面が現れる。
スギレンさんの遊び心でオーディオからは「いとしのレイラ」が鳴り始めて、
気分がハートビートな方向に盛り上がってくる。

経年でアイドリングが不安定になるというGDIだが、
この個体は状態が良いらしく安定したアイドリングだ。
メーター内にGDI ECO表示灯が点灯している。
パワーを必要としないアイドリング時は希薄燃焼で充分であるはずだ。
現代にあってはアイドリングストップが一般化しているが、
当時はアイドリングは当たり前であったから、
アイドリング時のリーンバーンは意味ある技術だった。

早速走り出す。
いわゆるCVTライクな燃費の最良点を
ひたすら追いかけて変速するタイプで、
擬似ATのような今時のギミックは使われていない。
私は妻の軽自動車で、普段からCVTには慣れ親しんでいるが、
これと比べれば排気量の差で圧倒的に力強さを感じるし、
変速が穏やかなのである程度の食いつき感を伴うのは好印象だ。
もちろん同年代の競合他社と比べてもCVTの味付けは人間の感性に逆らわない。

定常走行ではハイギアを志向し、
アクセル開度が増えてドライバーの加速欲求を検知すると
途端にシフトダウンしてエンジン回転が上がり、一定の回転数で張り付く。
そうして所定の速度に達して
ドライバーのアクセル開度が小さくなると再び低回転走行となる。
エンジン回転上昇が先行する加速はCVTを否定するときの常套句であるが、
それこそがランサーセディアワゴンの通常メニューであった。
MTやATとは異なるもたつき感は、
右足との一体感を大切にする人には受け入れられない。
しかし、2017年の一般的な日本車を基準に置けば決してダメな部類ではない
実際、私などは社用車や妻の軽自動車でCVTに嫌という程乗っており、
イラつきながらも仕方ないと諦めている節がある。
それと比べればランサーセディアワゴンはエンジンの余裕のおかげで
トルク感はまだまだマシで、リーズナブルだと感じた。
しかもGDI ECOランプはなかなか消えず
一名乗車なら大抵の走行パターンでランプが消えることはない。

一般的な市街地を走っている限り、ランサーセディアワゴンは普通の乗用車、
と言った感覚で極めて快適な車といえよう。
特にロングホイールベースにもかかわらず、
4.9mの最小回転半径を誇り、
見た目のために大径ワイドタイヤを履く現代の小型車よりも
広さの割に使い勝手が良い。



次に走らせたのは早朝の広域農道は私の通勤経路である。
驚いたのはこうしたワインディング路での振舞いが完全に想像以上であったからだ。
カローラクラスのステーションワゴンというカテゴリーから飛躍的に高いレベルの操縦安定性を誇る。

ドイツの田舎道さながらの農道を元気に走らせても
私の技量ではタイヤが鳴く気配は一切無く、
ステアリングの微妙な加減に反応を見せる。

敢えて切り出してもノーズが軽く内側を向いてくれて
ランサーエボリューションのベース車というのも伊達ではないと思わせられた。
CVTをマニュアルモードにして引っ張って走らせた。
当時の競合だったカローラフィールダー、ウイングロードに乗った事があるが、
走りの質としては一線を画すレベルだと感じた。
これがインプレッサスポーツワゴンであったなら分からないが、
ランサーセディアワゴンは見た目の大人しさ以上に俊敏な身のこなしであった。

エンジンの絶対的な出力はそれなりで高回転まで回しても
官能的なフィーリングなどは皆無だが、
前:ストラット 後:マルチリンク式 という贅沢な脚まわりは
オーバークオリティと言えるほどのコーナリング性能を堪能させてくれた。
ロール自体は程々だが、パッケージ的なヒップポイントの高さゆえ、傾く感覚は強めに出る。
完全にエンジンよりシャシーが勝っている。
現代のアンダー200万円クラスの車には到底真似のできないレベルだ。

2010年代に向けた燃費ファーストな思想と
1990年代の動的性能に重きを置いた車らしさが同居する感覚
だ。
エアコンは常時使用でワインディング路を経由して
朝の通勤渋滞の中を走るモードでは燃費が10km/Lちょいという感じだった。
期待ほど燃費は伸びなかったが、スギレンさん曰くエアコンを使うとこんなものらしい。

高速道路を使って遠出を試みた。
高速道路はランサーセディアワゴンが最も輝けるステージで、
見晴らしの良い運転席、ロングホイールベースを活かした安定した走りのおかげで疲れが少なかった。
ワインディングでの安定感は高速道路においてもそのまま安心感に繋がっている。
100km/h時のエンジンの回転数は2000rpm近傍とハイギアード。
加速に入ると2500rpmまでポーンと上がるが、
じわじわアクセル操作をするとハイギアのままトルクで乗り切る努力をしてくれる。
GDI ECOランプは基本的に点灯しっぱなしであった。

堅めの足回り、ロングホイールベースの安定性などが相まってリラックスできる。
多少の風切り音はあるものの基本的にグレード名のツーリングは伊達ではない。
結局、あまり休憩せずに3時間余りの走行が出来た。
気になる燃費は17km/Lとカタログ値超えを果たした。
エアコンをつけて一般的なペースで走らせた結果だ。

ちなみにエンジンを切ったらクーリングファンが 7秒間動作する。
シトロエンDS3も同じ機能が付いていたが、熱害には有効だろう。

乗ってみた感じでは実に高級感があって走りも充分以上
な実力を持つステーションワゴンという感想になる。

それではランサーセディアに死角はないのだろうか。
見た目も良く、内装も高級感があり、
当時最先端のエンジンを搭載していながら
ライバルよりも割安な価格設定だったのには訳がある。

●無い袖は振れぬ、の細部

私が見つけたのは仕様のランクダウンだ。
例えば、この時代の車では徐々にドアシールが二重になりつつあったところを
一重(ドアウェザー)で対応していたり、エンジンルーム内の防水シーラーや
蓋物のヘミングシーラを大幅に削減
していた。



特にヘミングシーラはメーカーによっては軽自動車でもきちんとシールをしているのだが、
ランサーセディアの場合はヘミングした後電着塗装して
そのままボディカラーが塗装されている。
これでは経年時のエッジ錆が懸念される。
長い目で見たときの防錆性能ではライバルよりも明らかな仕様ダウンだ。



また、センターレジスターのシャットダイヤルは、
恐らく金型に起因する段差の公差を緩めて甘くしているのでは無いだろうか。



こうした地道な原価カットの積み重ねがセディアの価格競合性の高さを支えているのだ。

明らかにコストのかかるエンジンと変速機、
世界ラリー選手権を意識したボデーやシャシーと
充実した装備と低価格が両立するはずはない。

●まとめ 三菱が出した5ナンバーセダン/ワゴンの最適解

後年、セディアはGDIターボを採用し、エボリューション仕様が
追加されるなどの展開を見せたが、標準仕様はNOx対応の負担が大きくなり
年々燃費性能においてライバルの後塵を拝するようになり、
ついにGDIはラインナップから落とされてしまった。
今回試乗した初期モデルは三菱が
ギリギリで成立させた最適解であったのだろう。

無い袖は振れない厳しい台所事情も垣間見た。
そうまでして頑張ったGDIエンジンが後年あのような評価になった事は
三菱の担当者は悔しい思いをしたであろうが、
直噴エンジンは現代のエンジンの代表的な技術となっている。
近年トヨタが発表した新世代ガソリンエンジン群も直噴式を採用し、
タンブル流を効果的に利用している。

希薄燃焼の技術も先日、マツダが予混合圧縮自己着火エンジンを
2018年度中にに実用化
するとアナウンスがあった。
マツダはこれも「夢のエンジン」と語っており、GDIを思い出した。

会社の同僚と昼食を食べている間に普段車の話をしないのに
ニュースの話題からマツダのHCCIやGDIの話をした。

「あ、なんかHCCIとかGDI聞いたことあるなぁ・・・・」
「あっ、大学でそれ研究しとったわ!」「10年も前のことやから完全に忘れてた」
「当時はハイブリッド全盛やったからこんな研究意味無いと思ってたわー」
とのこと。地道な研究だったそうだが、同僚曰く
「アレがものになるのはすごい」「全域HCCIは諦めてスパークプラグも併用するんだー」
と当時を懐かしんでいた。

まだ、詳しいことはわからないが、
GDIエンジンが直噴で切り拓いた超リーンバーンの世界が
20年以上の時を経てに進化するというタイミングで
GDIを積むセディアワゴンに乗ることができた。

まるで無かった事にされているGDIだが、
私がGDI搭載のランサーセディアに試乗してみて
当時の三菱の想いや苦しさを感じることが出来た。
近年の燃費の為に全てを捨てたエンジンと比べれば
そのエンジンらしさは十分に良さがあった。
また、エンジンを抜きにしてもスタイリングと居住性を両立させて
競合性のある商品になっていた。

今回、車を貸してくださったスギレンさんに感謝
Posted at 2017/08/12 15:14:40 | コメント(2) | トラックバック(0) | 感想文_三菱 | 日記
2017年06月28日 イイね!

2011年式ミニキャブMiEV感想文



三菱自動車は電気自動車のリーディングメーカーの一つであったが、
最近はPHEVにシフトしていることもあり、
すっかりMiEVという言葉を忘れてしまっていた。

2000年代後半から末期はガソリン価格が高騰し、
ハイブリッドカーがベストセラーになった。
電動車の時代が本当に来るのではないかと感じていたが蓋を開けてみれば、
実際はまだまだ純然たる電気自動車は普及していない。

•2007年・・・234台
•2008年・・・204台
•2009年・・・186台
•2010年・・・141台
•2011年・・・4,637台
•2012年・・・13,267台
•2013年・・・24,984台
•2014年・・・38,796台
•2015年・・・52,641台
•2016年・・・62,136台

これは一般財団法人 自動車検査登録情報協会のサイトより引用したものだ。

2016年の保有台数は6.2万台だが、ハイブリッド車は555万台と大きな開きがある。

2008年ごろはガソリン価格が高騰し、
レギュラーが185円を超えて最高値を更新。
高速道路のサービスエリアの方が価格が安いと知ると、
高速代を払ってサービスエリアの給油施設に殺到、
長い列を作っていた時代がもう一昔前の事だ。

この頃は電気自動車でも経済的にペイできる時代が来て
電気自動車シフトが起こるかもしれないと感じたものだが、
リーマンショック後ガソリン価格が落着きを取り戻した。
2013年には北米でシェールガス革命が起きて、
内燃機関エンジンに対して一気に有利な展開になっている。

2017年の断面で購入できるガソリン車と代替可能な電気自動車を調べてみた。
三菱ミニキャブMiEV、iMiEV、日産リーフとNV200、
BMWのi3、そしてテスラのモデルSやトミーカイラZZ位しか存在しない。

トヨタ車体のコムスに代表されるようなミニカーは高速道路を走れず、今回は対象から外した。

トヨタもホンダも一般に市販されるような電気自動車はラインナップされていなかった。
電気自動車の普及の妨げは価格か?航続距離か?それとも充電インフラか?

たまたま社用車にミニキャブMiEVがあり、この車で往復60km程度の出張に出た。
予約の電話を入れると、
「エアコンをつけたら、ちょっとしか走れないから心配だ、大丈夫か?」
と心配されながらキーを受け取った。

駐車場で出会ったミニキャブMiEVは
パッと見ただけではなんの変哲もない軽箱バンなのだが、
充電口からコードが出ている点が異なっている。

私が子供の頃はEVと言えばタウンエースEVなどに代表されるキワモノで
電気会社のPR用社用車という印象しか無かった。

当時は鉛バッテリしかなく、自動車を走らせようとすると
大量のバッテリーを積む必要があり、それは重量が嵩んだ。
大量のバッテリーなので、
それを市販車のコンバージョンで電気自動車を作ろうとすると
自然とベースが商用バンになってしまっただけの事だ。

EVは未だに販売台数が少ないと書いたが、
巨大な鉛バッテリを積むタウンエースEVは最高速度85km。
航続距離160kmで800万円だった。
これで一般顧客に売れるはずも無く3年間で90台販売したに過ぎない。
このあとRAV4の床下にバッテリーを吊り下げたRAV4_EVではニッケル水素バッテリを採用し、
車載充電器を搭載して家庭用電源で充電できるようになった。
当初は3ドアだったがベースをV(ファイブ)にするなどして
1996年から2003年までで1900台を販売したが、普及には程遠い。

そう考えるとミニキャブMiEVは、リチウムイオン電池を積み、
最高速度100km/hで航続距離100km(150km仕様もあり)、
176.9万円で購入できるようになったのだから、技術の進歩を感じる。
ミニキャブMiEVの場合は箱バンだが、バッテリーの都合ではなく、
企画として商用車である点もかつてのEVと一線を画する。

たくさんの技術者の普段の努力でここまで身近になったこともあり、
私が社用車としてこの車に乗ることが出来たのだろう。



なにやら壮大なことを考えつつ、200Vの充電器からコネクタを抜き、
ミニキャブMiEVに乗り込みイグニッションキーを捻ると満タンで103kmと記載されていた。



エンジンがかからない代わりにREADYと表示される。
シフトレバーは一般的なストレートパターンだが、
通常モードのDとECO、Bが選べる。まずはDを選び走り始めた。

運転方法は他の電気自動車よりも、従来のガソリン車的だ。
商用車ということもあり装飾的なギミックが見当たらないからだ。



アクセルを踏み込むとiMiEVから移植されたメーター中のパワーメーターの針が俊敏な動く。
後輪に40psモーターの動力が伝わり勢いよく加速した。

乗用だったiMiEVと異なりパワーは控えめで、アクセルに対するツキはそれほどでも無いにせよ、
我々が想像する軽箱バンとは明確に異なる俊敏な加速を見せる。
軽ターボだと感じるターボラグが無く、アクセル操作に対してのツキの良さはEVの美点だ。

乗り味はいたってフツー。重いバッテリーを吊り下げており重心が下がっているははずだが、
比較できないため商用車としてはあたりの柔らかい乗り心地と感じた。
軽バンとして見過ごせないのが積載スペースになるのだが、
荷室を確認するとRrシートは畳まれていてガソリン車と同一のスペースが確保されている。
これもバッテリーを吊り下げる方式ならではだろう。




本来バッテリーは水や火に晒したくない。
そのため、室内側にバッテリーを乗せる電動車両もあるが、そうなると
パッケージング上の制約が大きくなる。
三菱は改造範囲を最小にすべく吊り下げ式を選択した上で綿密な試験を行っているという。

季節柄エアコンをつける。
乗用車のエコモデルではオートエアコンが当たり前のところだが、
ミニキャブMiEVは廉価なマニュアルエアコンが装備されている。
ハイブリッドカーでは信号停止中もひんやり快適な電動コンプレッサーも、この日は印象が違った。
なんとエンジン音がしない代わりにコンプレッサーの作動音が気になるではないか。
作動音だけに留まらずバイブレーションまで感じてしまう。
騒音源、振動源が、なくなると新たな音、振動が気になるという悩ましい事実も体感できた。
因みに電動コンプレッサーの作動音と振動は別の社用車の
ヴィッツハイブリッドでも体感出来たので元々存在しているのだろう。
ガンガン冷やしているものの、キャビンと荷室を分割するカーテンが無く、
鉄板剥き出しの内装を冷やすためあまり気持ち良く冷える感覚はない。
この辺りはベース車も似たようなものだろうし、エンジン回転が上がらない渋滞中の、
辛さは電気自動車故に緩和されているのだろう。
メーター内の航続距離を見て思い切って4枚の窓を全開にしてエアコンを切った。
動いてさえいれば耐えられる暑さだった。
水筒のお茶を飲みながら出張先に向かう。



自分が走っていたレーンが無くなる際、車線変更をする場面があった。
この地域は譲り合う文化が無く、更に軽自動車ということもあり指示器を出すと車間を詰められる。
こんな時に俊敏に車線変更を済ませやすいのは
この車の見た目よりも加速性能が良いからだろう。
残り走行距離65kmと表示されて出張先に到着した。

出張先には急速充電器がある。
受付にて名前と連絡先を記載すれば
無料で1.5時間充電サービスを受けられる。
手動で窓を閉め、
充電器を給電口に挿し込み出張先で打ち合わせを行った。

意外と用事が早く済んでしまい、1時間程で車に戻る。
やって来た四人乗車のプリウスPHVからスーツ姿のドライバーが、降りてきた。

早く充電したいんでどかして下さい。

こちらは電気自動車ゆえ、充電は必須だが
相手は電気が無くてもガソリンでも走れるではないか。

私は急いで車を移動させたが、相手の言い方が気に入らなかった。
電気自動車だけ何故か受付の真ん前に駐車できて、一般の駐車場は大渋滞のため、
この会社では真ん前に止める免罪符としての充電行為があるようだ。

さて、新しいプリウスPHVには充電タグにモラルアップを促すタグが付いているらしい。
確かに充電器に対する重要度が高いのは電気自動車なのでこうした取り組みは大切だろう。

ガソリンスタンドは減少傾向にあるとしても充電器よりは圧倒的に多い。
不思議なものでガソリン車を運転していて街中で充電器を見つけると、
あっ、どんどん普及してるな!と思う割に
電気自動車を使用していると、とても少なく感じてしまう。
航続距離が減るたびに心細くなった。
それは出張先で充電できると分かっていてもそうなのだから面白い。

出張からの帰りは残り走行距離85kmまで回復した。
今度はエアコンをガンガンかけて帰ることにした。
帰路のルートも少しバラエティに富んだコースを選んだ。

アップダウンのある道、流れの速いバイパスなど走らせたが、
パワートレーンの素晴らしさは痛感したものの、商用車故に快適性はあまり無い。

結局、残り走行距離45kmまで減った状態で帰着。
充電器に繋いで出張は終わった。

この様子なら充電しなくても往復出来そうだが、仮にフル充電でも、
普通のガソリン車なら
残量警告灯がついたような緊張感に最初から苛まれるミニキャブMiEVは
やはりルート配送など短距離使用にフォーカスしたまとめ方だと感じた。

今回の出張で、電気自動車で全てを賄うのは難しいと感じた。

まさかの車選びという表現を聞いたことがある。
これは年に数回あるか無いかと言える極端なシチュエーションを想定して、
車選びをしてしまうという意味である。

ミニバン愛好家でもないのに、
普段一人でしか乗らないのに8人乗りミニバンを選ぶようなイメージだ。
実際の自動車ユーザーは短距離走行しかしない、と言われても
航続距離が短い電気自動車はどうしても敬遠してしまう。

だから、ミニキャブMiEVはせっかくの低価格の恩恵で電気自動車もいいかな?
と購入を検討しても航続距離のあまりの短さに二の足を踏ませてしまうようにも感じる。
もちろん、ミニキャブMiEVとアイMiEVには航続距離が50km長いグレードもあるが、
価格差38万円(ミニキャブ)は高く感じる。
例えばガソリン車で燃料タンクが5L大きくなるだけで38万円も高くならないからである。

リーフも、テスラもi3も航続距離を伸ばすためには少なくない投資を要求する。
このあたりは電気自動車の価格の成分にはバッテリーの性能が、大きく影響しているらしい。

一般的な軽の箱バンよりも80万円くらい高いミニキャブMiEVだが、
実は中古車価格が安い。
バッテリーの耐久性が懸念されていたり、需要の関係で
中古車価格は低めに推移しているがこれは興味がある方には朗報かもしれない。

今ならEVをよく理解した方のセカンドカー需要以上の普及は難しく、
カーシェアなど自動車の所有体系が大きく変革する時期が来たら
EVが一気に普及する可能性が高くなるように感じた。

さて10年近く前、とある講演会で三菱自動車のEVに関する講演会に出席して
MiEVの責任者の方の公演を聴いたことがある。
EVの可能性を熱心に講演いただいてEVの時代はもうそこまで来ていると感じた。
講演会終了後、縁あって後援車の方と試作車だったiMiEVに同乗させていただいたが、
3人乗車とは思えぬスタートダッシュを披露していただき、
目がキラキラしてしまったことが印象に残っている。
その時はクリープ速度でコギングトルクを体感し、気になったものだが、
ミニキャブMiEVでそれが気になることは無かった。
絶え間ない改良がこの完成度を生んでいるのだろう。

ガソリン価格が想定以上に高騰せず、別の要因で経営が苦しくなっていても
まだ三菱自動車は軽EVを大切にラインナップに加え続けている。
ズスキやダイハツがEVに手を出さない限り、三菱の優位性は揺るがず、
軽EVこそが今もっとも三菱らしいモデルなのかもしれない。



このままEVが爆発的に普及すると昼間は再生可能エネルギによって電気があまり、
夜はEVの充電で火力発電所がフル稼働してCO2が増えるなどと言う見積もりもあるようだ。
急速な普及は望めないにしてもじっくり育てていって欲しい。
そしてEV時代まで車が存続する為にも、魅力的な内燃機関車を開発して欲しい。
(エクリプス・クロスには大いに期待している)
Posted at 2017/06/28 00:48:32 | コメント(1) | トラックバック(0) | 感想文_三菱 | クルマ
2016年06月24日 イイね!

1990年式デリカ・スターワゴンLINKS感想文

●いま三菱と暮らす

2016年の黄金週間前に端を発した燃費偽装騒動。
さらに突然の買収劇は世間を驚かせた。
そんな時期に友人N氏が海外へ輸出されかけたデリカスターワゴンを保護したとのことで
光栄にも長期間レンタルしていただける運びとなった。
2週間ほどこのクルマと生活を共にした。



2代目デリカスターワゴンはモデルライフが1986年~1999年(日本)と
私が物心つく頃から成人するまでの間に売られて車で、
どこに言っても見かけることが出来たクルマだった。

とくに4WDモデルはモデルライフ途中でディーゼル車にATを追加し、
アウトドアブームの時流に上手に乗れたことで
販売台数を伸ばしたため、後継車であるスペースギアが
発売された後も根強い人気に押されて併売されるようなモデルだった。

街中でグリルガードをつけ、リアにはラダーを付け、
「熊出没注意」とか「OFF ROAD EXPRESS」のステッカーを
バックドアガラスに貼り付けたデリカスターワゴンを数多く見てきた。
当時は都会で4WDなんて無意味、なんて声もあったが
当人たちは耳を貸さず、デリカスターワゴンの
本格的なオフロード性能をファッションとして楽しんでいたように感じる。



時々、京都南部の木津川の河原に行くとアウトドアを楽しむ
パジェロやランクルに混じってデリカスターワゴンを良く見かけた。
1BOXカーでありながら河原を不自由なく走れて
カッコがつくモデルの代表はやはりデリカだった。
(子供の頃、川を渡ろうとしてスタックして救援されているデリカを見た)
ライバルのタウンエースやバネットも4WDモデルを持っていはいたが、
世代を追うごとにオフロードイメージよりも生活4駆としての性格を強めていった。

モデル末期の2000年頃、ブームとしてのRVブームも終焉を迎えつつあり、
デリカはすっかり時代遅れの車になっていた。
当時、入り浸っていた2ちゃんねる掲示板では「嫌いな車スレ」では
デリカが上位にランクインしていた。
「背が高くて前が見えない、邪魔」「黒煙だらけの排ガスが汚い」と
街でよく見かけたデリカスターワゴンを叩く声を良く見かけた。
それくらいデリカが街にあふれていたと言うことだ。

2007年、FFベースのD:5がデビューしたが、初代スターワゴン、
スペースギアから続くタフネスさを魅力と感じるファンが
現在までデリカブランドを支えてきた。
我が家でもD:5はライトエースノアの買い替え候補になったが、
やはりデリカといえば2代目スターワゴンがすぐに目に浮かぶ。

1994年当時、我が家は日産バネット・セレナを愛用していた。
1991年に弟が産まれて5人家族となりスターレットでは手狭になったのだ。
3列シートにしようと決めたのだが、
1BOXはクラッシャブルゾーンがないので避けたいし、
バンみたいな見た目もかっこ悪い。
エスティマはかっこいいが3ナンバーで高過ぎる。
シャリオは狭くて埼玉への帰省の荷物が載らない。
そんな理由でデビュー直後のバネット・セレナを購入した。
その後、我が家は2000年にはライトエースノアを購入し、
2007年にはステップワゴンに買い換えて現在に至っている。

●多人数乗車=1BOXだった時代

三菱の代表的な1BOXカー、デリカ。
デリカのスリーサイズは4285×1690×1955とコンパクト。
5ナンバーサイズの大衆車クラスのランサークラスで
当時の1BOXの標準的なサイズだ。




四角い箱だが、プロジェクター式ヘッドランプや台形のリアコンビランプは
充分に個性を発揮している。
試乗車は1994年モデルだが、基本は1990年にフェイスリフトを受けたモデルと同一だ。

2WD最上級グレードのみバンパーも大きかったが、
グリルガード無しの2WDに採用が拡大されて前期モデルよりも表情がついた。
LINKSはグリルガードがないため乗用車然としている。
また、ブルー×シルバーの2トーンカラーだが
これも90年代の乗用車の流行そのものである。

1994年といえば、既にエスティマ、バネットセレナ/ラルゴが世に出ており、
デリカ自身もスペースギアを世に出している。
ミニバンが1.5BOXスタイルへと変貌を遂げる過渡期であった。

単純に全長と室内長のスペース効率で考えれば
キャブオーバータイプの1BOXの方が有利である。

デリカを始めとする1BOXカーは商用車も兼ねているため、
スペース効率を最大限に重視することは必須であった。
RVブーム前夜はこの手の1BOX乗用ワゴンは、
商用バンを元に設計し、味付け違いのワゴンをラインナップするのが常識だった。

販売台数を考えれば当然であったし、貨物用途を考えれば
無理なく多人数乗車可能なワゴンは1BOXになるのが普通であった。

今回試乗したデリカは2Lの電子制御キャブ仕様のエンジンとMTを組み合わせたFR車だ。
デリカといえば2.5Lディーゼルターボの4WDという印象がありながら、
N氏は敢えてガソリンのFRという点に惹かれたのだと言う。
エンジンはあのランエボのエンジンと同じルーツを持つ
G63B型「シリウス80エンジン」だ。
1979年にデビューした鋳鉄ブロックを持つエンジンで水冷直列4気筒OHC、
ボアストロークが85×88とロングストロークタイプ、
電子制御キャブレター採用で最高出力91ps/5500rpm、
最大トルク15.4kgm/3000rpmという非常に大人しい特性が与えられている。
ちなみに10モード燃費は9.7km/Lであった。

多人数乗車を基本とするデリカには華々しい最高出力は必要ないが、今回試乗した1994年頃ではいささか旧式に過ぎるという印象は拭えない。

サスペンション形式も1BOXの定石ともいえる
Fr:トーションバー式ダブルウィッシュボーン/Rr:リーフ式リジッドアクスルであった。
スペース効率とタフネスさを考えると最善の選択ともいえるが、
乗用ワゴンのみRrを5リンク式のコイルばねを採用するモデルがある一方で
デリカは潔ささえ感じた。

つまり、デリカスターワゴンLINKSに採用されているメカニズムは
1994年当時としてはパワートレーン/シャシー共に
時流に対して若干遅れ気味ともいえる立ち位置であった。
むしろ、1980年代の一般的な乗用1BOXカーを体験させてくれる
タイムマシーン的な1台と考えるのが良いのかも知れない。

さて、デリカスターワゴンLINKSに乗り込んでみたい。

H11系ミニカがクルマ原体験の私にとって懐かしいキーでまず興奮する。
安定感のある台形のキーで開錠し、ドアアウトサイドハンドルに手をかける。
手が30年前の記憶を覚えていた。「ミニカと同じ感触がする」
画像検索で見てみるとどうやら類似した形状をしていた。
デリカとH11ミニカは登場年が近く、流用していた可能性は高い。



ドアを開け、デリカに乗り込むためには右足をステップに、
右手をAピラーのアシストグリップにかけて
「どっこいしょ」という掛け声ともによじ登らなければならない。

なぜならばデリカの運転席はFrタイヤとエンジンの直上にあるからだ。

「トラックみたい」
現代人なら口をそろえてこういうだろう。
事実、会社の人や妻を最初に乗せると驚かれた。
どうやって乗るのか?と真面目に尋ねられることもあった。
熱狂的なデリカファンやキャブオーバー型1BOXカーのファンなら
軟弱者のそしりを受けかねないが、足腰の弱った
おっさん、おばはんには少々大変かもしれない。



そうして乗り込むと観光バスのような見晴らしと乗用者的なインパネが広がる。
手触りの良いシート、ソフトパッドのインパネ、
タコつき透過照明式メーター、2本スポークウレタンステアリングなど
当時の小型セダン以上の質感が広がっている。

バンと共通設計ということで空調噴出口などは若干チープさを感じる
(しかしH11系ミニカに似ていて個人的には萌える)が装備内容で
差別化を図っていて実用的には問題ない。

上にも述べたとおりヒップポイントが高く、見晴らしが広大である。
シート位置を合わせるが、ヒールヒップ段差がしっかり取られていて
しかも、足引き性が良い。そして何よりも足元の広さがとても良い。
セダンと違いホイールハウスやダッシュに邪魔されない広大な足元スペースは
キャブオーバー型1BOXならではの美点だ。
その分ペダルは上から踏みつける形になり、ステアリング角はずいぶんと立っている。
チルトステアリングがあるものの、ステアリングをセダンライクに寝かせると
メーターが見えず実用的ではない。



ステアリング自身は運転席の座上センターからの
オフセット量が大きいことが気になる。
特にデミオのような優秀なモデルが存在する現代では気になってしまう。
現行プリウスのようにオールニューのP/Fが与えられても
オフセットしている位なので車を作るうえでどうしてもオフセットしてしまうのだろう。
片手運転するには丁度良いなど諸説あるが、
こういう位置関係は辻褄が合っているに越したことはない。
特にLINKSの場合は1列目が2人乗車だが、グレードによっては
3名乗車のベンチシートがある関係で運転席と助手席の
カップルディスタンスが一般的なセダンと比べて随分と余裕がある。
ドアトリムとの隙関係を考えると、相当外側に座らせているが、
これも変に内側に座らせると乗降性を阻害するのでこれも
キャブオーバー故に仕方ない部分ではある。



2列目シートはコンベンショナルな2人掛けベンチシート+折りたたみ補助席。
特にベンチシートにセンターアームレストが装備されていたり、
ヘッドレストが全数装備されている辺りは豪華だ。
補助席があるのは、3列目へのウォークスルーを考慮した結果と推測する。
デリカのように回転対座が使えて応接間感覚を味わえるという点は
この時代のどのメーカーでも訴求していた。
3列シートは今回は使用できなかったがリクライニングが可能で
タンブル機構でスペースアップが可能であった。
荷物を積む為には跳ね上げ式の方が優れるが、
3人座らせるという意味ではこちらが優れる。

この手のモデルで最も重要なのはエアコンである。
お盆の帰省渋滞でRrの子供がぐずりだすような快適性では
民族大移動を乗り切れない。
特に居住空間が広く、グリーンハウスが広大な1BOXカーでは
空調性能の確保は死活問題と言えた。

デリカも抜かりなくRrにもマニュアルエアコンを装備。
試しに使用してみたが前後ともよく利いた。

●市街地

自宅付近でデリカを走らせる。



乗り込むためには鍵をキーシリンダーに入れて開錠する。
1986年はおろか1994年時点ではキーレスエントリーのようなものは
標準装備されて居らず、高級車や最上級グレードの専用装備位でしか
見かけることはなかった。
集中ドアロックがあるので実用上充分だ。
特にデリカではバックドアロックは集中ドアロックの系統から分かれており、
インパネのシーソースイッチで施錠開錠が出来るようになっている。

クラッチを踏み、アクセルを半分踏み込みながらキーを捻ると
エンジンがかかる。電子制御キャブなので
電子制御式燃料噴射装置のようにキーを回るだけではエンジンは始動しない。

アイドリングはごくごく静か。
調子が悪くなってきた自車よりも快適なアイドリングだ。

経年劣化と思われるギア入りの渋さを除けば
快調そのもので発進は非常に容易だ。

デリカはシンプルなキャブ車なのでワイヤー引きの
スロットル操作に対するエンジンの反応が俊敏でリニア。
だから、繊細な操作を受け付けて繊細に反応する。

ローギアードなので住宅地の狭い路地を走るときでも3速に入ってしまう。
タコメーターは6000rpmまで刻まれているが、
エンジンは低速型なので平坦な市街地なら2000rpm周辺で
次々シフトチェンジして1000rpm~1500rpm位で走るのが丁度良い。

視点が高いし、ボディサイズはコンパクトなので死角が少ない。
スタイリッシュな可倒式ドアミラーは若干天地方向に寸法が欲しいが、
グレードによってはカリフォルニアミラーも選べる。

1BOXカーで注意が必要なのは交差点を曲がるような操舵時だが、
セダンの感覚ではステアリングを早く切りすぎてしまうので、
自分がFrタイヤの直上に座っていることを充分意識して走る必要がある。
最小回転半径は4.5mと相当に小さい。
片側2車線の県道のUターンは得意科目だ。
ただ、ステアリングはスローなので操作量が多く、
ぐるぐるぐるぐるステアリングを回す印象になる。

また、路面状況の悪い道路ではガタガタと振動が容赦なく入る。
乗り心地重視とは言え、あらゆるシーンで1名乗車から
8名乗車までの性能を保証する事を考えれば堅めのセッティングとなるのも無理は無い。
特に運転席が前輪の真上に位置するレイアウト上、最も振動的にきつい位置になる。

例えば主婦がちょっとスーパーへ、ホームセンターへ、ちょっと送り迎え・・・
という使い方を想定した場合は毎回「どっこいしょ」を繰り返す事になってしまう。

●高速道路

週末に妻と高速道路を使って遠出を企てた。
ETCをくぐり、加速車線へ向かうがデリカは
充分な加速性能がある。



60km/hで2000rpm近傍、80km/hで2500rpm近傍、
100km/hで3100rpm近傍を指すようなギアレシオは
車格を考えればローギアードだが、走りっぷりは悪くない。
全開加速も試みたが、充分な加速を見せる。
そもそも、当時のFF小型乗用車の5速でも似たような回転域を使っていて
その意味ではデリカも商品性上問題が無い範囲の回転数だ。
現代のドラビリを無視したCVTのように低回転に貼り付くようなことはなく、
ひたすら右足とタイヤがくっついたようなリニアなMTならではの美点が楽しめる。
エアコンを使用してもさしたる出力低下を感じないのはローギアード故か。

高速道路でのデリカは観光バス感覚が楽しめる。
高い視点が気持ちよく、遠くが見渡せ、
グラスエリアが広いから視界も広くパノラマ感覚。
運転していても充分にその魅力が享受出来る。

例えば伊勢湾岸道の名港付近を夜に走れば右手に工業地帯、
左手に名古屋駅周辺の高層ビル群が楽しめる。

デリカの車高の高さは開放感に貢献しているが、
横風安定性という面ではどうしても不利なのは止むを得ない。
特に開放的な暴風壁がない地域では
車線の中にとどまる為にステアリング操作が常に必要な状態だ。
その傾向は車速が上がるほど強まり、
追い越し車線でセダンに伍して走る為にはそれなりの度胸が必要だ。
スピードメーターは160m/hまで刻まれており、
取扱説明書では4速で150km/hまで引っ張れると記載されているので、
無風状態なら目盛りを振り切れる可能性もあるが、
相当肝が据わった人でなければこの速度域まで到達することは出来ないだろう。

80km/h付近で走行車線を流しながら同乗者と会話を楽しむと、
高い視点が気持ちよく、遠くが見渡せ、
グラスエリアが広いから視界も広く観光バス感覚が楽しめる。
運転していても充分にその魅力が享受出来る。

つまり、目を三角にして追い越し車線で頑張るような性格ではない。

●山道


週末に愛知県の高原道路をドライブした。
国道153号線を長野方面に走行したが、
①信号がなく②適度な山道で③追越し禁止50km/h制限
という快適国道三原則を遵守したこの路線はかつて
スギレン企画でカリーナサーフのドライブでも使用したことがある。

1BOXカーであるデリカもローギアードさを活かして
相当活発に走るポテンシャルを秘めている。
上り坂で登坂車線に避難する様なシチュエーションにはならない。
低速域でのトルクが充分にあるためエンジンスペックから
想像するようなもっさりした走りにはならない。
コーナリングも充分整備されたクロソイド曲線で線形が引かれていれば、
綺麗にカーブをクリアできる。

ただ、重心の高さもありハイレベルなコーナリングを誇るモデルでもないので
下り坂の手前では充分に減速する必要があるし、ブレーキも現代のモデルの感覚としては
少々頼りないのでシフトダウンでエンジンブレーキを強めながら
しっかりと車速を管理して急のつく操作を避けねば、グラリと急に車体が傾いて
同乗者からのクレームを受けることになる。
限界性能としてはまだ先があるが、ビビリミッターが早めに作動する感覚だ。
ヘアピンコーナーではスローなステアリングが災いして操舵量が大きくなり少々忙しい。

別の日には一人で広域農道を運転した。
ギアは5速に入れ、窓を全開にすると気持ちのよい風がキャビンに入ってくる。
少しスポーティな走りも試みたが、良路であれば
ある程度攻め込んだコーナリングも可能だ。
ロールはするもののトルクの厚さを感じながらリズミカルに走ることができた。

一方で、路面がうねっていると大きく振られるので
たとえサスストロークが充分とってあったとしても、
個人的には恐怖を感じるほどキャビンが上下動した。

デリカのような1BOXを綺麗に走らせるには
コーナリング前に充分速度を落とす、
という当たり前の動作を徹底することが必須だ。

●なぜ1BOXカーは3列乗用車の主流から外れたのか

かつての日本では多人数乗車を目的としたモデルは1980年代末までは
キャブオーバー式の1BOXカーであることが多かった。

1980年代にセダンライクなミニバンとして
三菱はFFベースのシャリオを擁していたし、
日産もプレーリーをラインナップしていたが、
1BOXの圧倒的なスペース効率と比較すると、
エンコパの分だけキャビン全長が犠牲になっていた。

足元スペースを犠牲にして3列シートを成立させたとしても、
今度はラゲッジスペースが狭く多人数乗車目的には中途半端だと判断された。

1990年代初頭にはキャブオーバー式1BOXカーの居住性を確保しながら
キャブオーバー式1BOXのネガを潰す車種が多数企画された。

上の試乗記で既に述べているが、
キャブオーバー式1BOXのメリット/デメリットを整理して考えたい。



1990年頃のセダンに対するメリット
1)全長に対する室内が広く効率が良い
2)W/Bが短いので最小回転半径小
3)床が高いので見晴らしが良い
4)運転席足元が広い


1990年ごろのセダンに対するデメリット
1)前輪の直上に座る為、乗降性が劣る
2)上記理由で乗り心地が悪い(揺すられる)
3)全長に対しW/Bが短いので直進安転生に劣る
4)エンジンが1列目席下にあるためにNVに劣る
5)エンジンの真上にシートがある為整備性に劣る
6)クラッシャブルゾーンが短く衝突安全に劣る
7)車高が高く、横風安定性に劣る


まとめて見ると、デメリットの方が多くなってしまった。
先にデメリットについて考えてみたい。

1BOXは前輪/エンジンの真上に運転席を設け、
Frオーバーハングに足元スペースを確保する。
このため、乗降性がセダンと比べると著しく劣る。
ドアを開け、ステップに足を乗せ、アシストグリップで身体を支えながら
「どっこいしょ」の掛け声の共によじ登る。
慣れの問題だが、小柄なドライバー(主に女性)や老人にはハードかも知れない。

また、タイヤの直上という乗員の配置は乗り心地上セダンに劣る。
セダンは前輪と後輪の間に運転席があるため、最も揺れにくい場所に座っている。
前輪の真上は突き上げるような動きや、ブレーキング時のノーズダイブをもろに食らう。
さらに地上からも高い位置に座っている関係でロールに対しても敏感で
ロールさせすぎると乗員が大きく傾き恐怖感を抱きやすい。

またドライビングポジションもステアリング角が水平に対して大きく、
トラックを運転するようにステアリングを抱えるようになることも違和感と言われた。

ホイールベースの短さに関しては、
人間の座る位置(前輪)から足元スペース(=前オーバーハング)が決まる。
また、荷物の積載性を考えると
後のオーバーハングも決まる為、全長に対してホイールベースが短くなってしまう。
最近の例でもマツダアテンザがワゴンとしての積載性を優先して
W/Bをセダンより短縮している例もある。
ゆえに全長が決まればホイールベースが決まるが、デリカスターワゴンの場合、
全長4.2m級ランサーのセダンと比べて200mmほどホイールベースが短くなる。

NVに関しては一般的なFrエンジンのセダンのようにダッシュパネルで
隔てられて乗員の耳と音源が離れている構造と比べると
どうしても不利であることは感覚的に分かりやすい。
事実、今回のデリカスターワゴンもセダンと比べれば
加速時の騒音は大きめであった。

整備性に関してはセダンと比べる顕著である。
フードを開ければ比較的簡単に各部を点検整備できるセダンに対し、
1BOXは運転席or助手席をハネ上げて狭いスペースからしか点検することが出来ない。
しかもキャビン内から作業する為、汚さないように作業しなければならない。

クラッシャブルゾーンという視点も当初は問題にならなかったものの、
1990年代に日本車の衝突安全性能に対する世間の目が厳しくなったことを契機に
鼻が無いからキャブオーバー式1BOXを避けるケースもあった。
事実、過去の1BOXカーは衝突試験をパスすることが出来た事もあり、
比較的安全性は軽視されてきたといっても過言ではない。
ただし、デリカの場合は下面を覘くと強固なY字型フレームが設定されて
衝突安全性に対して配慮もなされているが、安全ブームの中では
鼻が無いだけでフルキャブオーバー式1BOXを敬遠する人も居た。



そしてドライバーを嵩高いエンジンの上に座るように配置すると、
車両の全高が一意的に決まってしまうが、セダンと比べて
横風安定性やコーナリング性能に劣るのは自然の摂理から言っても仕方のないことであった。
また、都市部に見られたタワーパーキングに止められないという弱点があった。

上記のデメリットがありながら、1BOXカーが作られつづけてきた理由は何か?
それはデメリットよりもメリットの恩恵が大きいからに他ならない。
そのメリットとは、スペース効率の高さだ。

一例としてデリカスターワゴンの車体の全長に対する室内長の比率を
同年代の三菱車と比べてみたい。

(車名:室内長/全長=スペース効率)
デリカスターワゴン:3120/4285=0.73
--------------------------------------
3代目ミラージュ(3ドア):1700/3950=0.43
3代目ギャランΣ(H/T):1935/4725=0.41
初代シャリオ:2435/4490=0.54
初代スタリオン:1590/4410=0.36


上記の結果からも限られた車体寸法の中で最大限の
キャビンスペースが確保できる点がキャブオーバー式1BOXの存在意義であった。
特に稼ぐ為のツールとしての車として考えれば、
少しでも荷室が広い方が優れているのは自明だ。
2016年現在でもハイエースやキャラバンというキャブオーバー式1BOXカーが
商用ユースとして残っている理由が分かる。

1986年にデリカスターワゴンがデビューし、
モデルとして円熟味が出てきた1990年ごろは
空前のRVブームを迎え、クロカンと呼ばれていた
トラックペースのフレームつきSUVが持て囃され、
更に多人数でレジャーで出かけられる
3列シートのモデルが注目され始めた。

デリカスターワゴンに限らず、
数多くのメーカーがキャブオーバー式1BOX商用車ベースの
乗用ワゴンをラインナップに持ち、需要に応えていた。
6人以上で快適に移動したい、という要望に沿う乗用車は
1BOXしかない、という状況だが、
徐々に1BOXを検討するユーザーが増え、
更なる3列シート車の拡販を考えるときに、
キャブオーバー式1BOXのネガを潰そうとする試みが
1980年代から徐々に行われてきた。

先にも述べたとおりキャビンが広く取れるFFセダンをベースに
3列シートを実現した元祖ミニバンであるシャリオとプレーリーが1982年にデビューしている。
1988年にはマツダがルーチェのコンポーネントを利用して作った
MPVがデビューしたが、いずれも爆発的なヒットには至っていない。


●セミキャブという思想を切り拓いたエスティマ


そこに一石を投じたのが1990年のトヨタエスティマである。
キャブオーバー式1BOXのエンジンの影響を最小限にとどめる為、
当初は小型高出力の2ストロークエンジンまで研究して
ミッドシップ型低床ミニバンの世界を切り拓いた。



キャブオーバー型1BOXの前輪位置を思い切って車両前方へ追いやった。
こうすることで運転感覚がセダンに近づき、ホイールベースも稼げる。
前方には冷却系やブレーキマスターシリンダーなどの補機類を集約。
更にエンジンを75度傾けて搭載してよじ登る感覚の乗降性を実現した。
特筆すべきは前後ウォークスルーを実現したという事実だ。
エンジンの天地方向のコンパクトさ、3ナンバーの余裕ある車幅を活かして
キャブオーバーでは大きなエンジンルームにより1列目と2列目の距離感の遠さが
気になることもあったが、上記レイアウトにより各列を最適に配置でき、
更に叶わなかった前後席の移動の自由を獲得した功績は大きい。
さらに前:ストラット/後:ダブルウィッシュボーンという
従来の1BOXカーでは考えられないほどの高級な足回りを奢って
セダン感覚、場合によってはセダンを超えるの乗り味が与えられたエスティマは
F1と同じミッドシップ方式の1BOXカーとして大きな注目を浴びた。
先に掲げた計算式によるスペース効率は

(車名:室内長/全長=スペース効率)
デリカスターワゴン:3120/4285=0.73
エスティマ:2810/4750=0.59


スペース効率としてはデリカスターワゴンには及ばなかったが、
エスティマにはセダン感覚の操縦安定性と乗降性、未来的スタイリングが備わった。
ただし、エスティマのデメリットは車体の大きさと専用設計の多さによる価格の高さ
(スタート価格は300万円近傍)が災いして爆発的な普及には至らず、
大衆向け1BOXの主流派はフルキャブ式であった。
エスティマ以降、前輪を前方へ押し出したモデルをセミキャブ式と呼び、
前輪の上に座らせるフルキャブ式と区別した。



大衆向け1BOXカーの変化は1991年の日産がバネットをフルモデルチェンジさせた、
バネット・セレナの発売まで待たねばならない。
セレナはエスティマのようなセミキャブ式でありながら、
旧来のFR方式のエンジンレイアウトを踏襲している。



前輪は前に出しているのでプロポーションはキャブオーバー式1BOXとは
一目見て違いが分かる。エンジンの上に座る感覚は変わらないが、ヒップポイントを少しでも下げようとして1列目シートのクッションが極薄になっていた。

実家の初代セレナで育った私に言わせれば
長時間座るとすぐにお尻が痛くなる残念なシートであった。
前輪を前出しし、ノーズのスペースにテンポラリータイヤ、
冷却系部品を配置できた為にエンジン部分の張り出しは前後方向に縮めることができた。
エンジン部分の張り出しは小さく、特に1列目の足引き性能を犠牲にしたため、
2列目の間のデッドスペースは小さく、全長に対する室内長は大きく採れている。
サスペンションも前:ストラット/後マルチリンクを採用し、
専用部品が多いエスティマほど攻めた設計ではないが、
旧来の1BOXカーとの違いは十分に感じることができた。
また、商用のカーゴモデルも用意し、企画台数を稼ぐことで収益にも配慮したが、
セレナカーゴはスペース効率の悪さが祟り、フルキャブ式のバネットと併売された。

1993年にはセレナの上級車としてラルゴがデビューし、
1995年にはマツダがボンゴフレンディを発売した。
どちらもセレナ式のセミキャブオーバー式1BOXである。
乗降性は改善しないものの衝突安全面や、操縦安定性の面で改善が期待でき
RVブームに乗って順調に販売を伸ばし、1990年代中盤には
フルキャブオーバー式1BOXは旧態依然とした車という見方をされていた。

結婚して家族が増えて、或いは子供とのレジャーや
サッカー少年の試合の送迎に最適なこの手のセミキャブ式1BOXは
引っ張りだこの状況になった。

1990年代の我が家も家にバネットセレナがある事で
親戚一家を乗せてディズニーランドへ行ったり、
家族5人で奈良から埼玉へ帰省したりする場面で3列シートの居住性を
大いに活用していたし、道が狭い奈良の路地では居住性の割りにコンパクトで
最小回転半径が5.2mだったセレナは大活躍していた。

大衆向け1BOXカーがセミキャブ式に移行した1992年、トヨタは
当時としては巨大だったエスティマを5ナンバーサイズに縮小した
エスティマ・ルシーダ、エミーナを追加発売した。
エスティマの革新的なミッドシップレイアウトをそのままに
全長を縮め幅を狭めるというプラットフォーム的には大工事を行った。

さらに、2列目ベンチシートの8人乗りの設定、
普及グレードのRrサスを安い車軸式に変更、
燃料費が安いディーゼルターボ車の設定を行うことで、
大衆向けセミキャブ式に近い価格設定を行い販売台数を伸ばした。

90年代以降、一斉に普及したセミキャブ式であったが、
メリット/デメリットは表裏一体であるがゆえに、
キャブオーバー式から失ってしまったものがある。
それは、①スペース効率と②コンパクトなボディサイズ、
そして③足元スペースの広さ
である。

スペース効率を下記にまとめた。

(車名:室内長/全長=スペース効率)
デリカスターワゴン:3120/4285=0.73
----------------------------------
エスティマ:2810/4750=0.59
バネット・セレナ:2765/4315=0.64
ボンゴ・フレンディ:2815/4585=0.61
エスティマ・ルシーダ:2890/4690=0.61


フルキャブオーバー式1BOXカーは概ね7割のスペース効率を誇っているのに対し、
セミキャブオーバー式は最良のセレナでも0.64と1割ほど効率が悪い。
絶対的な室内長もセミキャブ式は軒並み3000mmを切っている。
前輪を前出しした影響で車両全長も伸びてしまっている。

大きなデメリットは最後に挙げた足元スペースの狭さである。
前輪は操舵を行う為、ホイールハウスは大きな張り出しが必要になる。
フルキャブ式の場合、縦置きエンジンの両脇に前輪があり、
大きなスペースがあるのでタイヤ切れ角を大きくとっても
室内スペースに何の影響もなかった。
ところがセミキャブの場合、張り出しが
そのままキャビン足元スペースを圧迫してしまうのだ。
ホイールベースが伸びた分タイヤ切れ角を大きくしようとしても、
1列目フロアスペースを食ってしまう為、タイヤ切れ角にも限界があった。

右ハンドル車の運転席で考えると、右足が自然に存在する位置には
ホイールハウスが陣取っており、アクセルペダルは左側、車体中央に追いやられる。
このため、不自然なドライビングポジションを強いられる。
特にエスティマ系以外のセミキャブ車(具体的には我が家のバネットセレナ)は
エンジンが大きく、室内長を取る為にフルキャブ式よりも
エンジンが前配置されており足引き性が非常に悪かった。

前輪を前出しする「セミキャブ化」によって
フルキャブのネガを改善したが、
エスティマ以外のモデルでは
嵩高いエンジンの上に座ることによる
乗降性のデメリットは消えずじまいであった。

●セミキャブFRと悪路走破性で勝負を挑んだスペースギア

パジェロが絶好調で勢いのあった三菱は
1986年のデリカスターワゴン発売から
8年後の1994年、後継モデルであるスペースギアを発売した。
従来型からの好評点だったタフさをそのままに
当時求められていたセミキャブ化を実施した。
スペースギアは前輪だけではなく
エンジンをも前出しし、完全なFR車となった。





いわばボンネットバスのようなパッケージングを採用したのだ。
好評点である土臭さはそのままにセダン的なレイアウトを採用し、
衝突安全性を向上させ、運転感覚やステアリング角度などをセダンに近づけた。
デリカスターワゴンといえばパジェロ譲りの悪路走破性と
タフなイメージを連想させるが、外観面ではグリルガードの存在が大きい。
実はこのグリルガード対応バンパーは全長がいたずらに伸びることを避ける為、
短めのバンパーと組み合わされている。
一方、今回試乗したリンクスでは大型バンパーが採用されており、
中にはクラッシュボックスが仕込まれており衝突安全性は後者が優れる。
今回のフルモデルチェンジではそうした劣勢を跳ね返すべく
存在感のあるフロントセクションに構造部材を配置している。

FR化のメリットはエスティマのように
大きな投資をする事無く床をフラットに出来ることであり、
エスティマのように前後ウォークスルーを実現した。
床がフラットなのでキャブオーバー式では広くはなかった
2列目足元のスペースを大きく確保できた。
その分、2列目の位置を前出しして実質的な居住性を確保できる。
室内長は当時のライバルと比べると

(車名:室内長/全長=スペース効率)
デリカスターワゴン:3120/4285=0.73
----------------------------------
デリカスペースギア標準:2915/4730=0.61
デリカスペースギアロング:3050/4995=0.61
----------------------------------
エスティマ:2810/4750=0.59
バネット・セレナ:2765/4315=0.64
ボンゴ・フレンディ:2815/4585=0.61
エスティマ・ルシーダ:2890/4690=0.61


スペース効率ではセレナに劣るものの、
他のセミキャブ競合車と同等の数値を確保している。
特にスペースギアでは荷室スペースが
十分にあるロングボデーもラインナップに加えて
積載性や室内長に拘る1BOXユーザーにも訴求した。

ただのFRミニバンというだけではMPVも既に世の中にはあったが、
デリカスターワゴンの悪路走破性を引き継ぎ、
フラットフロアを実現し、結果的に高い位置に座らされるが
これをも「スターワゴン譲りのアイポイントの高さ」と解釈して
従来のセミキャブとは違うパッケージング形式として世に問うこととなった。

エンジンの上に乗員を座らせるタイプよりもフラットなフロアが
手に入るという特徴はボディを商用車と共用せざるを得なかった
ミニバンに対しては大きなメリットであった。
デリカスペースギアも商用車バージョンをラインナップしていた。

デリカスペースギアは硬派なアウトドア志向のユーザーに受け入れられ、
更にハードなユーザー向けにフルキャブオーバー式のスターワゴンも
併売されていたが、大多数のミニバンを欲しがるユーザーは
多人数乗車できるミニバンとしては少々マニアックに過ぎると判断し、
積極的には選ばなかった。
アウトドアというライフスタイルは継続して人気ではあったが、
昔と比べてデリカやパジェロほどのオフロード性能がなくても
十分楽しめるように敷居が低くなっていた為、
エスティマやボンゴフレンディでも十分にアウトドアレジャーが楽しめた。
3列シート車を欲しがる一般ユーザーは圧倒的な見晴らしよりも乗降性を選んだ。

アウトドアユースには最適の個性的な車ではあったが、
個性的ゆえにクラスの覇者にはならなかった。

ところが、フラットフロアのFRミニバンスタイルを実現した
スペースギアのメリットを理解し、学んだメーカーが他にあったのだ。

それはエスティマを開発したトヨタ自動車だ。
トヨタは理想主義を掲げて乗用車専用のエスティマを世に問うた。
革新的なメカニズムは大いに賞賛されたが、流用が利かず
投資の嵩むこのシステムは非効率であった。
エミーナ・ルシーダを開発して多少は元を取ったが、
エスティマシリーズのほかは乗用/商用兼用の
ハイエース、タウンエース、ライトエースといった
旧態依然としたフルキャブオーバー式1BOXをラインナップしていた。



1995年のグランビア、1996年のライトエース・ノア/タウンエースノア、
1997年のハイエース・レジアスはデリカスペースギアに倣って
立て続けにFRを採用し、全てに商用モデルを設定した(グランビアの商用は輸出のみ)。
これらのモデルは構成部品の多くをフルキャブオーバー式のモデルと共用しながらも
前輪を前出しし、ホイールベースを延長し、ウォークスルー可能な3列シートを実現させた。
そもそも欧州法規を満足させる為にハイエースをセミキャブにする必要があった為に、
一気に共通の設計思想でここまでのフルラインナップを完成させた。
しかも、フロアは強度上許されるまで極力低く抑えて乗降性を確保した。



これらトヨタのFRミニバンをまとめると

(車名:室内長/全長=スペース効率)
デリカスターワゴン:3120/4285=0.73
デリカスペースギア標準:2915/4730=0.61
----------------------------------
エスティマ:2810/4750=0.59
グランビア:2910/4715=0.61
ライトエース・ノア:2605/4435=0.58
ハイエース・レジアス:2930/4695=0.62
----------------------------------
ハイエース:3245/4615=0.70


このように数値で見るとまだまだ圧倒的にフルキャブオーバー式が
有利でありながらも、地道な改良を続けて貨客兼用のパッケージを踏襲した。
特に1列目シートの配置をギリギリまで前出しを行い、
トーボードをエンジンルームに食い込ませることで実質的な室内長を確保。
2000年に我が家では9年乗ったバネットセレナからライトエースの後期型に買い換えており、
セレナと比べてシートや装備が遥かに良くなったことに満足していた。
室内スペースもそれほど狭くなったとは感じず、世代の変化を感じられた。
(ただし、商用車然とした角のある乗り心地と燃費は満足できなかった)

トヨタはこの手の3列シート車が増えると見ると、うまく投資を抑えつつも
コロナクラス(ノア)、マークIIクラス(レジアス)、クラウンクラス(グランビア)に
きめ細かく車種を設定してセダンからの乗り換えを促した。

一方でうまくいかなかったのが商用ユースである。
欧州ではグランビアの商用版をハイエースとして販売。
日本には3ナンバーサイズのバンの市場がないため、
ハイエースバンの代替を目指してハイエースレジアス・バンを設定したが、
市場からはの反応はからっきしであった。
ビジネスユースを考えれば積めるのと積めないのでは大違い。
荷室長拡大を狙って折りたたみ式の助手席を採用したものの、
理解は得られず、結局ハイエースはフルキャブオーバーとして残ることとなった。

タウンエース/ライトエース・バンは2000年代後半まで生き残った後、
クラスチェンジを実施し、軽以上、ボンゴ未満のポジションに疎開した。
(ある意味ミニエースになったとも言える)

実は他社でも状況は似たり寄ったりで、日産はバネットの商用車仕様を
セレナカーゴとマツダボンゴのOEM版の二本立てとするも、
結局後者が残った。三菱も然りである。

1990年代後半の時点で乗用車ユースとしてはセミキャブ化は受け入れられたが、
商用車ユースとしては失敗に終わった。

●割り切りで乗用化を加速させたステップワゴン


3列シートのミニバンは従来は貨客兼用が当たり前で、
ラインナップの中に商用モデルがあり、
これにより乗用車らしい雰囲気を出すことが難しい側面があった。
1980年代まではトヨタ・日産・三菱・マツダが
このような貨客兼用の1BOXカーを販売していた。

1990年代に入り、1BOXカーのセダン化が進んで行く中で
苦しい経営状況だったホンダは1994年にオデッセイという
スマッシュヒットを放った。

いわば三菱シャリオなのだが、当時モデルチェンジしたばかりの
アコードをベースに、3ナンバーながら受け入れられやすいサイズと
十分な性能を武器に危機的だったホンダを救った。

資金的な都合で大きな投資が出来ず、できるだけアコードの設備を使って
生産できるように、という制約も相まって、
当時の日本市場が必要としていた車を送り出すことが出来た。

ホンダが次に目をつけたのは5ナンバーの3列シートミニバン市場である。
1995年、東京モーターショーでF-MXとして発表され、
1996年に発売されたステップワゴンだ。
FRのプラットフォームを持たないホンダは持ち前のコンポーネンツを
うまく使い、FFで3列シートのミニバンを完成させた。



見た目はスペースギアやセレナのようなセミキャブミニバンスタイル。
しかし、駆動系がないため低床でステップワゴンという名前のわりに
乗降用ステップすらない掃きだしの低床フロア。
内外装はポップなセンスで統一され、高級感は無いが
楽しげで若々しさがあった。

走りのホンダ、という旧来のファンを絶望させるのに十分なほどヒットし、
町中にステップワゴンがあふれた。

上に書いたタウンエースノア/ライトエースノアと
ほぼ同時期にデビューしている。
当時の雑誌ではトヨタはFRを採用することでトーボードを深くして
広さではステップワゴンに負けない、とアピールしていたが、
スペース効率を比較すると実はステップワゴンの方が優れていた。

(車名:室内長/全長=スペース効率)
デリカスターワゴン:3120/4285=0.73
デリカスペースギア標準:2915/4730=0.61
----------------------------------
ステップワゴン:2730/4605=0.59
ライトエース・ノア:2605/4435=0.58


敢えて貨物仕様を作らない、多人数乗車に徹した乗用車という意味ではオデッセイと同じだが、
5ナンバーサイズでしっかり8人と荷物を積めるので、
本格的なピープルムーバーとしては画期的なモデルであった。



すぐにステップワゴンはトヨタのノア兄弟、セレナと共に
ミニバン御三家と呼ばれて「結婚して子供が出来たら買う車」リストの上位入りを果たした。
1996年というのは、大衆セミキャブを切り拓いたセレナ、貨客両用を目指したノア兄弟、
そしてFFのステップワゴンの登場というエポックメイキングな年であった。
(ちなみにデリカスターワゴンも継続販売中)

FF化の流れにすぐに追随したのは日産であった。
1998年、ラルゴと統合する形で乗用車専用の
ミニバンとしてセレナをフルモデルチェンジさせた。

2001年にはトヨタもタウンエース・ノア/ライトエースノアを
フルモデルチェンジし、ノア/ヴォクシーを発売した。

これによりミニバンFF化の流れは決定的となり、
商用車はフルキャブ型として独自の進化を遂げ、
トヨタハイエース、マツダボンゴが市場を独占し、
多人数目的の乗用車としてFFのミニバンが市場を席巻した。
(現代では日産NV200のようにFFの商用バンも生まれている)

いままでの3列シートのミニバンは小型セダン並みの全長で
3m「以上」の室内長を誇っていた。
FFになったミニバンは全長を伸ばして3m「近い」室内長を確保している。
思想的には若干後退したが、20年に亘る進化の過程でユーザー自身も馴れてしまった。

●ファンを大切にしたデリカは時代が変わっても残った。

三菱が再び動き出したのは2005年。
デリカの次期モデルを暗示しつつ、
2007年にデリカスペースギアをフルモデルチェンジさせ、
デリカD:5というネーミングとなった。
当時はエンジンは横置きながら駆動方式は4WDのみ。
アウトランダーの設計を最大限応用しながら、
アウトドアイメージあふれるミニバンとなった。



デリカスペースギアがミニバンのパジェロというなら、
デリカD:5はミニバンのアウトランダーである。

デリカユーザーといえばアウトドアが大好きで、
悪路走破性の高さを誇りにしてきた。
だからこそFFベースとなったことによる弱々しいイメージを嫌ったのか
ユーロミルホー・リスボン~ダカール2007にてパジェロのサポートカーとして
コースを走らせてタフさを実証した。



2012年には待望のディーゼル仕様車を追加したことで、
デビューから9年が経とうとしているが、
ディーゼルエンジンを積んだ悪路に強い多人数乗車可能な乗用車は
デリカD:5以外になく、旧来のファンにも振り向いてもらえる個性を身に着けた。

●あとがき

最初、デリカスターワゴンを貸していただいて、
このクルマと二週間暮らした。
今では当たり前の3列ミニバンの元祖とも言える
フルキャブオーバー式のミニバンは
運転感覚が独特でセダンと比べると
走りの面に苦手分野がある一方、
全長の割りに室内が広く、市街地の取りまわりもしやすい。
何よりも見晴らしの良さが決定的だった。

1980年代当時はまだまだセダンが主流であり、
多人数乗車可能な1BOXは特殊な車型であった。
だからこそ貨客兼用のプラットフォームを持つことで
生産規模を確保できたからこそ多人数乗車のニーズに応えていた。
当時からセダンライクな3列シート乗用車が模索されたが、
キャブオーバー式のスペース効率の高さから離れることは難しかった。

1990年代中ごろまでは貨客兼用のプラットフォームを持った
セミキャブ式1BOXカーが市場に多く表れたが、
1996年のステップワゴン以降、貨物ユースを切り離した
FFの1BOXという発想の転換を経てセダンライクな1BOXミニバンの
がパッケージングは各社とも一定の収束を見せた。

私の親は20年かけてバネット・セレナ、
ライトエース・ノア、ステップワゴンを
乗り継いでおり、ミニバンの進化を身をもって感じてきたつもりだが、
今回、デリカスターワゴン乗ることで、前史をも知ることができた。
子供の頃、NHKスペシャルでドイツで起こった初代デリカスターワゴンの
事故の話、ADACがキャブオーバー型1BOXの衝突試験を行い
日本車が酷評されたことを思い出した。
(デリカはFMCして対策を実施、という内容だった)
1991年当時の我が家が新車を選ぶ際は
フルキャブ車ではなくセミキャブのバネット・セレナを選んだのも
時代の空気だったし、私もそれが最善だと信じて疑わなかった。

2016年5月、各種報道で三菱自動車の燃費偽装、
そして急転直下の買収劇を見せ付けられた。
過去のリコール隠しや今回の燃費偽装については
「アカンことはアカン」との思いがある。

さて、私は今回、デリカで二週間生活した。
デリカに乗っている間、たくさんの三菱車を見かけた。
愛知県に住んでいるので三菱関係者が多いだけとの
見方もあるだろうが、それでも少なくない人が三菱車を愛用している。
関係者しか買わない、と小馬鹿にする人も居るが
関係者だけで一体どれだけ多くの人が居るのか。
バカにならない膨大な数ではないか。
こういう人たちに満足してもらえるクルマを
長く手堅く作り続けるという手段もあったと思う。
いっそ、ライバルに勝たなくても正しいと思う価値観を貫いても良かった。
ちゃんと関係者が購入して満足してもらえる出来栄えなら。
(先日出張したロシアでは三菱車を非常に多く見かけた)
今更何を言っても覆水は盆に返らないのだが、
両親が結婚して初めて買った車はH11系ミニカエコノ。
母の友人の夫が三菱自動車の社員だったので紹介で購入したという。
三菱ミニカエコノではじめて自動車に触れた私としては
軽自動車事業が引き金になった今回の事件は大変ショックである。

さてデリカは個性的な3列オフローダーとして初代のC.W.ニコル氏が
イメージキャラクターを演じていたスターワゴン誕生から
D:5の現在まできちんと販売が継続できている。
1980年代、競合他社もデリカスターワゴンに対抗して
1BOXでありながらオフロード志向のグレードを用意したが、
やはりデリカがトップブランドであり続けた。
そのイメージを守り続け、多少旧くなったとしても
今なおデリカD:5は本格的なオフロード走行が可能なミニバンであり続けている。
(もうちょっとC:2が売れたらいいのだが)
作り手はポリシーを持って車を作り、
それに共鳴したユーザーがメーカーを支えてきたからではないか。

個人的には日産のOEM(出来れば顔くらいは変えて欲しい)でもいいから
ラインナップを限界レベルで満たすべきだと個人的に考える。
今、三菱を愛用している人が「買い替える車がない」といって
他社のディーラーへ行くことを見逃すべきではない。
OEM許すまじ、の潔癖症に陥ってしまっては先細るだけだ。



ある程度ラインナップにOEMを許容する代わりに
SUVに注力するべきだ。
SUVは新興国のニーズと先進国のニーズが
ラップする珍しい車型なのでアウトランダーと
RVRをしっかりと作りこんで欲しい。

願わくばデリカもむやみにモデルチェンジせず、
ユーザーの志向にあわせて改良を重ねていけばいいと思う。
クリーンディーゼル追加はなかなか上手だと感じる。
下手にセレナの顔違い版のようなクルマにしてしまうと、
角を矯めて牛を殺す事になりかねない。



ずいぶんと横道に逸れてしまったが、
日本における3列シートミニバンの歴史と
三菱について深く考える機会を作ってくださったN氏に感謝。
Posted at 2016/06/24 19:26:31 | コメント(1) | トラックバック(0) | 感想文_三菱 | 日記

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