かねてより一度運転してみたかったクルマをドライブする機会に恵まれたので、今回取り上げてみる。
そのクルマとは…
トヨタ・プロボックス。
街中でも、田舎でも、どこにいても見かける。そして高速では海外の高性能車たちに引けを取らないハイペースでカッ飛んでいるアレだ。
今回は高速道路でのインプレッションは行っておらず、高速での性能はどんなものなのか実証できなかったが、その辺の下道でも実力を十分に感じられた1台であったことを申し添えておきたい。
まずは概要から。
カローラ/スプリンターバンの後継モデルとして'02年に発売されたモデルで、従来の「乗用車から派生した貨物車」ではなく、開発当初より「商用車」に特化した設計となっていることが特徴で、基本設計は初代ヴィッツのプラットフォームを流用している(そのため、型式もNC「P」となる)ものの、キャビン部分は新たに設計された専用のものとなる。
数年前にプラットフォームを現行ヴィッツなどと同じものに変更される、という大手術を受けており、型式も従来の50系から160系に変わっているが、今回ドライブしたものはそのマイナーチェンジ前のNCP50V型で1300ccエンジンを搭載する廉価版のDXだ。
続いて、スタイル及びサイズを。
全長×全幅×全高:4195×1695×1510(mm)
日本国内で扱いやすい小型車サイズ枠内の全幅、そしてタワーパーキングにも入庫可能な車高など、日常の使いやすさを最優先して設計されている。
スタイルも、従来のカローラバンは乗用モデルの設定を考慮して、「色気」を持たせたものとなっていたが、当初より「商用車」として設計されたプロボックスでは、徹底的に荷室容積を重視し、絞り込みの少ないフォルムとなっている。
まさにその名の通り、「箱」というべきスタイルで、その潔さに「漢気」さえ感じてしまう。
次はインテリアを。
開発にあたって、カローラバン及びスプリンターバンの既納ユーザーに入念なリサーチを行い、使い勝手を徹底的に突き詰めた設計となっており、大容量の収納スペースを多数備えている他、センター部分は最近主流のAVNナビにも対応すべくオーディオのスペースを上に配置、その下に操作のしやすいダイヤル式のヒーターコントロール、大容量の灰皿が備わり、その下には引き出し式のテーブルも設置されている。
車内で弁当を広げて食べるのにはちょうど良いものであるように感じるところであるが、運転席だと目の前にハンドルがあるため、これが邪魔に感じることが多々あるので地味に有難い装備だ。
そのテーブルの下はキー付きの収納スペースとなっており、車検証などはここに入れるよう推奨されている。
そのため、一般的に車検証などを収納する助手席前のスペースにはフタが備わらない(なお、ディーラーオプションにて対応は可能)。
前席は一昔前のクルマでは一般的に見られた、ヘッドレスト一体のハイバックシートとなっているが、長距離走行でも具合の良い作りになっている。
また、リクライニング・スライドは当然として、高さも調節できるようになっており、幅広い体格の乗員に対応している。
前席の出来はなかなかのものだが、その反面で後席の造りは、というとこれは「残念」の一語に尽きるものだった。
シートのクッションが平板そのもので、しかも薄い…、ときたもんだ。
そのため、着座位置もやや低めで、足を前に投げ出すような格好になってしまうのだが、それでもそれなりのスペースは確保されている。
身長166cmで座高は一人前にあるw筆者が合わせた前席で後席に乗車した場合の状況だが、狭苦しくて困る、ということはない。
しかし、平板で薄いシートクッションだけはいかんともしがたいところ。
みんカラ内を巡回してみると、姉妹モデルであるサクシードの座面引き起こし式のものに交換すると多少具合がいいようだが、取り付け穴にネジ山が切られていないなど、交換ができないわけではないもののなかなか苦労しそうな印象だ。
ちなみに、現行モデルだと廉価グレードでもオプションで件の座面引き起こし式シートをオーダー可能であるようで、新車で購入しようとしている方で、後席も使う…という向きにはこちらの方がお薦めできるかもしれない。
後席の座り心地はアレだが、その代わりに後席は背もたれを倒すだけで広大な荷室を得ることができる。
荷室長さは1810mmとなっており、上手いことやればサブロク(3尺×6尺)のコンパネも平積み可能である他、身長166cmで座高(以下略)筆者の体格ならば縦向きで寝ることも可能だ。
続いて動力性能。
搭載されているエンジンは2NZ-FE型・直列4気筒DOHCの1300ccとなるが、組み合わされるトランスミッションは5速マニュアルと4速オートマチックの2種類となる。
今回試乗したものは前者の5速マニュアル。
なお、現行モデルではついに設定が廃止されている。
このような軽量小型車こそMTが相応しいと感じるところであるが、これも時代の流れなのか、と思うと一抹の寂しさを禁じ得ない。
さて、肝心要の走ってみた感想なのだが、これが実にイイ!
そもそも商用車であり、400kgの荷を積んだ状態で走行する前提で設計されていることもあって、全体的にギアレシオもローギヤードに振られており、1速から3速あたりまでの出足の良さは俊敏そのものだ。
ガチャガチャ感のあるシフトフィールと、やや重いクラッチペダルはちょっとアレだが、非常に気持ちよく走ることのできる印象だった。
また、商用車であるため、足回りもそれなりに固められており、低速では路面の荒れを敏感に拾ってゴツゴツ感を感じたが、速度を上げるとなかなかにフラットライド感があって好感触な足回りであった。
惜しむらくは高速道路でのインプレッションができなかったことであるが、一般道でこの乗り味ならば、きっと高速でも優れた性能を発揮するに違いない…、そう感じたところだ。
ということで、総括してみるようなことだが、トヨタというメーカーは本気を出したら驚くべきクオリティを秘めたクルマをブッ込んでくるのだからある意味恐ろしい。
プロボックスしかり、はたまたランクル、ハイエースなど、その実力に唸らされるクルマが多数存在するようなことであるが、とりわけ商用車系は総じて気合の入れ方がハンパないように感じる。
装備品などの「使い勝手」という面ではライバルの日産などに一歩譲る部分はあるが、こと耐久性など、クルマそのもののクオリティ、という面ではトヨタには敵わないかな…、と感じさせるものがある。
実際、今回試乗したプロボックスも、走行距離が実に19万kmに達するという超過走行車だったりするのだが、それを微塵も感じさせないしっかり感は特筆に値するものであろう。
正直な話、コレは筆者も次期愛車に欲しい…、そう感じさせる1台なのだが、今回の試乗車は廉価版のDXで装備仕様は最近の軽自動車にも劣るという代物。
窓は全席手回し、集中ドアロックも無し(バックドアのみ運転席から施錠可能)、ドアミラーも大昔の軽みたいな小さい手動式のもの…、という実に貧相なもので、仕事オンリーで乗るならまだ耐えられるかもしれないが、プライベートで乗るクルマと考えると二の足を踏んでしまうようなことだ。
筆者が買い求めるとすれば、正月の実家への帰省(10数年前だが、大晦日にドカ雪が降ってエライことになったもんなぁ…)などを考慮して4WD、グレードは完璧とまでは言わないものの、プライベートユースでもまぁ不足のない装備内容となるGL(欲を言えば姉妹車・サクシードのUL・Xパッケージなら言うことなし、なのだが…)で、ボディカラーは安定のホワイト。もちろんミッションは5速MTで乗りたいところ。
足元もアルミなどは履かせずに鉄っちんホイール、オプションのカラーエディションも無しで乗るのが「粋」というもの。
本日のクロージングナンバーに選んでみた1曲なのだが、このプロボックスというクルマは白い車体に鉄っちんホイール、さらに無塗装バンパー…という出で立ちだと、出始めの頃のこの方と共通する魅力を感じてしまうのは果たして筆者だけなのだろうか…?