医療シリーズ（第3回　くすりの効果ってなに？）

今回も医療に関わる研修のレポートをアップします。

「医療シリーズ」第3回目は、くすりの効果についての話です。

皆さんも薬を飲んで「効いた」とか「効かなかった」という経験はありますよね。

その「効いた」「効かなかった」について検証します。


それではスタートです。


薬のエビデンス（裏付けられた根拠）の見方について。

例として、「カナグリフロジン（商品名カナグル：糖尿病の薬）」のエビデンスをあげる。
糖尿病になると「心血管疾患による死亡や、死亡しないまでも心筋梗塞や脳卒中になるリスク」が3.2％／年ある。
カナグリフロジンを飲むと、このリスクを14％改善して、2.7％／年とするエビデンスがある。
計算式は　3.2％／年　×（100％　－　14％）÷　100　＝　2.7％／年
これは、統計学的に有意な効果を示していて、このエビデンスをもとに「カナグリフロジン」は「糖尿病の合併症である心血管や脳血管障害のリスク」を減らす薬として認知されつつある。

しかし、逆の視点から見てみると違った印象になる。
「心血管疾患による死亡や、死亡しないまでも心筋梗塞や脳卒中にならない確率」は96.8％／年である。
カナグリフロジンを服用するとこれが97.3％／年となる。
わずか0.5％の改善しか示さない。
これを見て、「カナグルフロジンを飲むべきだ！」と言えるだろうか？

同じカナグリフロジンの副作用についても見てみる。
糖尿病になると「下肢（足）を切断するリスク」が0.3％／年ある。
カナグリフロジンを飲むと、このリスクが2倍の0.6％／年に上昇する報告がある。
同じように逆の視点でみれば「下肢の切断をしない確率」を99.7％／年から99.4％／年に0.3％悪化させる。

これを見て「カナグリフロジンは危険な薬だ！」と言えるだろうか？

ちなみに下肢切断は、糖尿病が酷くなると足の血液の流れが悪くなり、足先への酸素や栄養が届けられず、足先から壊死してしまう（腐る）ので切断せざるを得なくなることであり、薬の副作用と言ってしまってよいものかも微妙である。

ここで「薬そのものが生命予後（死亡率など）に与える影響は、ごくわずかなものかもしれない」という仮説を立ててみる。
「薬そのものの効果」以外の「その他の影響」には6種類あり「広義のプラセボ効果」と言われる。

①自然治癒力：人には自然治癒力がある。
よくCMで流れている健康食品やサプリメントは、自然治癒については無視している。
「飲んだ」→「効いた！（良くなった）」→「（その商品の）効果があった♪」と宣伝している。
この宣伝方法を「サンタ論法」と言うが、健康食品やサプリメントにはこの論法がよく用いられている。

②プラセボ（偽薬）効果：偽薬としてよく使われる物は、小麦粉や砂糖などの食品が多い。
薬としての効果が無い偽薬を飲んだだけなのに、症状が軽くなったり、病気が治ったりすること。
治療効果に良い影響をもたらす効果。
子供の場合、「甘くて美味しいプラセボほど、症状を改善する効果が高い」との報告もある。

③ノセボ効果：プラセボ効果の逆で、副作用が無い偽薬を飲んだだけなのに、副作用が起こること。
治療効果に悪い影響をもたらす効果。
「この風邪薬は眠くなる」と感じている人は、プラセボを飲んでも眠くなる。

④ピグマリオン効果：教育心理学でよく使われる用語で、学校の教師の期待に比例して教え子の成績が上がる効果。
医療では、医師が治療効果などを期待する姿勢で患者と接すると、実際に治療効果が上がること。
医師が親身になって治療に取り組めば、それが患者に伝わって効果をあらわす。

⑤ゴーレム効果：ピグマリオン効果の逆で、医師が期待しない姿勢で患者と接すると、治療効果が低下すること。
患者の訴えに耳を貸さなければ、治療効果が期待できない。

⑥ホーソン効果：1924年にイリノイ州のホーソン・ウエスタン・エレクトリック工場で行われた、労働者の生産性に関する研究でみられた現象で、労働者は他者から注目されることで、生産効率があがること。
「この医師に診てもらっているんだから、治るように頑張らなきゃ！」など。
ピグマリオン効果との違いは、立場の違いであり、他人が成果を出すのがピグマリオン効果、自らが成果を出すのがホーソン効果である。

薬の効果の割合をイメージした場合、実際の薬剤効果は10％程度で、残りの90％は「広義のプラセボ効果」ではないか？という極端な仮説を立ててみる。
「広義のプラセボ効果」の内訳は、自然治癒20％、プラセボ効果30％、ピグマリオン効果10％、ホーソン効果10％、その他20％（生活環境、家族や友人関係、ストレス、性格など）
しかし、これを証明することは出来ないし、逆に否定することも出来ない。
このような極端な仮説が立てられることからも分かる通り、薬の効果とは曖昧なものであり、そのエビデンスもまた曖昧なものである。

現代の医療は、そのほとんどが薬による治療であり、その薬物治療において思い込みはとても大切であると言える。
「これを飲めば効く！」と思い込むことで、かなりの症状が改善すると期待できる。
昔は「良薬、口に苦し」と言われていた。
「苦い薬ほど良く効く薬だ！」という意味で、思い込み効果の典型例である。



いかがだったでしょうか？

薬の効果っていい加減なものですね。

皆さんも薬を飲むときは「これを飲めば効く！」と念じながら飲めば効果絶大かも！？

今回も、みん友さんのお役に立てれば幸いです。