
オレさまFD2のお弟子さんに「TC1000のアドバイスを!」と呼び出されたので,筑波サーキットに行って来ました.
昨年最後の走行だった
日光で41秒台にギリ入れたお弟子さん,その後,年明けのスポーツ走行にも行って更にタイムを縮め,41.5秒まできたとの事.現状のおおまかな目安としては,日光+0.5秒=TC1000なので,42秒フラットくらいは狙えそうです.
ちなみに,彼自身は筑波サーキットのライセンスを取得してからTC1000のファミリー走行を走った事がなく,実に2年振りの走行(前回は走行会)だそうで,その辺りを考慮すると42秒台前半に入れば御の字かなぁ~?と思っていました.
そんなお弟子さんのFD2が履くタイヤは「ATR-K SPORT」の265/35R18.
ZⅢに匹敵するグリップ力と言われますが,摩耗の方はZⅢの3倍(2回で終了)との事.ただ,価格が非常に魅力的なのでポイ捨て前提で使うなら良いのかもしれませんね.
さて,1本目.
まずは外から,お弟子さんの走りを確認します.見ていて気になったのが以下の4点.
①1ヘアで止まりきれてない
全ての周回で狙ったかのようにエイペックスにつけてない.インがガラ空き.縁石にかすりもしない.「ブレーキングに失敗したのか?(突っ込み過ぎか?)」と思って暫く見ていましたが,どうも違う.インに寄せたくても寄せられないような動き.何かが根本的に間違っている.
②インフィールドの立ち上がりで外に膨らみ過ぎ
立ち上がりのクルマの向きが悪い.インフィールド後半(12Rの方)で曲がらず,アクセルを戻してステアリングを切り足しているような動き.あれじゃバックストレッチが伸びない.インフィールドは「イン!イン!イン!だ」と走行前に教えたが,実践出来ているのか・・・?
③洗濯板で急減速し過ぎ
同じ枠で走っているFD2に後ろにつかれた時,洗濯板手前のブレーキングで急激に車間が詰まっている.ブレーキが強過ぎか?
④最終コーナーで幅を使い切れていない
立ち上がりでコースの幅が余ってる.タイヤも鳴ってないし,これはアクセルを踏み切れていないな・・・.
こんな感じで周回が続き,この日は台数が多くてクリアを取るのが大変そうでしたが,徐々に台数が減っていった,最終ラップでセッションベストの42.600をマークしていました.
パドックに戻ってきたところで,早速GPSロガーのデータを吸い上げて分析.
比較対象をEF8にすると重量差があり過ぎて参考にならないため,車格の近い
SE3P(ボンバー赤8さん)のデータを使わせてもらいました(赤:SE3P 青:FD2).
1コーナー
ブレーキングポイントが少し手前だが,SE3PのタイヤはRE-05Dだし,ATR-Kならこんなモンなのかも.問題なし!
2コーナー
幅が使い切れていない.アウト側が余ってる.多分踏み切れていない.
1ヘア
やっぱり行き過ぎ.ブレーキングで止まり切れていない.エイペックス(クリップ)につけていない(SE3Pも外から回り込む「レの字コーナリング」を意識しているのでエイペックスについてない).外から回り込んで立ち上がりを重視するなら,進入でイン側に寄って行ってはダメ.距離的に損している.
インフィールド
FRのSE3Pと同じライン取りが出来ているなら,「イン!イン!イン!」は実践出来ている.確かにこんな事(↓)やっているので,
進入速度とラインは間違ってない.となると,問題は2つ目の縁石(12Rの方)に乗れていない点.1個目を抜けた後,アクセルを踏んでいる可能性がありそう.
洗濯板手前
ちょっとブレーキが早い気もするが,比較対象がRE-05Dだし,そんなに悪くない.ブレーキングで追いつかれるような印象は他に原因がありそう.
最終の複合
ライン取りは悪くない.ただ,最終コーナーはコース幅を使い切れていない.縁石にも乗れてないし,アクセルの踏みが甘い.
・・・といったところを頭に入れつつ,お弟子さんにインタビュー.
私 :最終コーナーが踏み切れてないです.タイヤ鳴ってます?
弟子 :いや,鳴ってない.
私 :コース幅がかなり余ってます.余裕あるのでタイヤが鳴るまでアクセル踏んで下さい.
弟子 :でも,アンダー出て怖い・・・.
私 :だったら,タイヤが鳴った瞬間にアクセル戻して良いです.
私 :タイヤが鳴るまではアクセルを踏み続ける.もっとアンダー出してOKです.
弟子 :分かった.
私 :インフィールドは曲がります?
弟子 :2個目で曲がらない.
私 :1個目を抜けた後,アクセル踏んでません?
弟子 :ちょっと踏んでるかも・・・.
私 :それ,我慢して下さい.「2個目の縁石を踏める!」と思うまでアクセル禁止で.
弟子 :それだと遅いように感じる.
私 :遅いと感じるくらいでちょうど良いです.
私 :縁石を踏む事.とにかく最短距離で駆け抜ける事が重要です.
弟子 :分かった.
私 :1ヘアでアンダー出てますけど,止まれてます?
弟子 :いや,全く止まらない.ABSが作動する.
私 :エイペックスに寄せようとしてます?
弟子 :している.
私 :縁石踏めてます?
弟子 :あ~,踏んでない.
私 :もっとブレーキを強く踏んで止める事は出来ます?
弟子 :いや,無理.踏んだ瞬間にABSが作動するようなイメージだし.
私 :了解.
以上の情報から判断すると,コーナリング中にフロント荷重がキープ出来ていない.
一方で,ABSが作動するくらいなので,ブレーキの踏力自体は問題ない.だとすると原因は1つしかない・・・.
私 :今のタイヤの内圧はいくつですか?
弟子 :フロント・リア共に250kPa.
私 :バネレートは?
弟子 :フロントが14キロ,リアが20キロ.
私 :減衰は?
弟子 :フロントが14段戻し,リアが6段戻し.
私 :では,フロントの減衰を4段上げましょう(10段戻し).
弟子 :えっ? 上げるの? 曲がんないのに?
私 :リアの内圧も20kPaくらい上げたいところですが,1本目でスピンしてましたし,一先ずこのままで.
弟子 :リアだけ上げるの? 危なくない?
私 :FD2なら大丈夫だと思いますが,減衰の効果を見たいので,このままで.
弟子 :本当に減衰上げて大丈夫なの~.
半信半疑のお弟子さんですが,多分これで大半の問題が解消するはず.本当は8段くらい上げたいところですが,それだとリアの内圧もセットでやらないとデメリットの方が大きくなるので,まずは4段くらいで.
そして2本目.いきなりですが結果から.
予想は見事的中.一気に0.6秒近く短縮して 42.106.
1本目の動画と比較してみると違いは一目瞭然ですね.動きが全く違います.
ロガーで1本目と2本目の比較をしてみましょう(青:1本目 緑:2本目).
上が車速,下がタイム差です(上に行くほど2本目の方が速い).今回はタイム差の方(下)で説明します.
1つ目の赤丸
1コーナーの進入です.ここで下に下がっている(1本目より遅れている)のが分かります.これの原因は1コーナーにいたスローダウンの車両です.エイペックスのところに車両がいたので,お弟子さんはその車両を避けるため,大回りして距離的に損しています.このロスが0.25秒ですから,スローダウンした車両がいなかったら,41秒台に入っていましたね.
2つ目の赤丸
1ヘアのブレーキングです.これが大幅にタイムを縮めた理由ですね.このコーナー1個で実に0.55秒も稼いでいます.如何に今まで間違ったセットアップで乗っていたか,よく分かりますね(苦笑).
3つ目の赤丸
インフィールドの立ち上がり.ここで0.1秒損していますね.やっぱりリアの内圧を上げたかったところだなぁ~.
4つ目の赤丸
最終がよく踏めるようになっていますね.0.35秒くらい稼げているでしょうか.
そして,走行終了後のお弟子さんのコメント.
私 :どうですか?
弟子 :1ヘアでちゃんと止まるようになった! 全然違う!
私 :それでも,縁石乗れてないですけどね.
弟子 :それは「レの字コーナリング」を意識しているので.
私 :あ~.それ間違っていると思いますよ(※後述参照).他のコーナーはどうですか?
弟子 :インフィールドも,最終コーナーも,さっきより曲がる!
私 :う~ん.じゃあ,もうちょっとフロントの減衰は上げられたか・・・.
弟子 :なんで!? どうして上げると曲がるの? 日光じゃ下げた方が良かったのに.
私 :でしょうね.だから私,ホームコースをTC1000に変えましたし.
弟子 :えっ? どういう事・・・??
お弟子さんのFD2の何が問題だったのか?というと,フロント荷重のキャパが足りていなかったんです.
つまり,
フロント荷重の"掛け過ぎ".
1ヘアのブレーキング時に開始のタイミングは普通なのに,その後1ヘアの進入までにクルマを止める事が出来ない(ドライバーは「止まらないー」と感じる).結果,ブレーキは自然と強くなり,強くなったが故にABSが介入する.更にABSが介入しているのにターンインでエイペックスにつけないという事は,フロントタイヤの縦のグリップを使い切って,横に使える分が残ってない,という事.
これを解消するには,フロント荷重を弱めてやれば良い.手っ取り早いのはブレーキを緩く踏む事ですが,「止まらないー」と感じている人にそれは無理.それにSE3Pのブレーキングのタイミングと比べても突っ込み過ぎという訳ではないので,「これはブレーキではなく,足回りの問題だ」と判断しました.
そこで,タイヤの内圧・バネレートを確認して,極端に柔らかい仕様ではない事から,原因は減衰と判断.これを上げる事を提案しました.減衰を上げるとブレーキング時に荷重が掛かった際,縮む事に抵抗しようとするのでタイヤに荷重がかかり過ぎず,ブレーキがロックしないのでABSも介入しない.ABSが介入しないという事は単純に制動距離が縮まりますし,縦のグリップに余力がある(=横に使える)という事にもなるので,ターンイン時のハンドリングも良くなります(=自信をもって切り込める).
加えて,減衰を上げると,ダンパーは縮みづらくなりますが,伸びにくくもなります.つまり,一度かけたフロント荷重が抜けにくくなるという事です.これによってコーナーの立ち上がり(アクセルONのタイミング)でもフロント荷重が残っているので,より曲がるようになります.これがお弟子さんが「曲がるようになった!」と感じた理由だと思います.
更に車載を見ると,減衰を上げた事でステアリングレスポンスが良くなり,ステアリングを切ったら即反応が返ってくるので,全体的に舵角が減っているのが見て取れます.特に顕著なのがバックストレッチ後の左コーナー.ステアリングの切り始めからクルマが反応するまでのタイムラグが減っているのが,よく分かります.
このように,クルマが自分の操作に対してダイレクトに反応してくれるようになると,ドライバーは自信が出てくるもんで,例えば,こんな感じ(↓)で2秒以上も格上の相手を追いかけようとしたりする訳です(笑).
つまり,お弟子さんのスランプの原因は,ドライバーがビビっていたのではなく,ドライバーが自信をもって乗れないセッティングになっていた(クルマ側の問題だった)という事なのでしょう.フロント荷重の「掛け過ぎ」「足りな過ぎ」というのは,判断するのが非常に難しいです.履いているタイヤやダンパーの特性によっても違いますし,ドライバーの踏力によっても違います.そして一番厄介なのが「掛け過ぎ」でも「足りな過ぎ」でも結果が「アンダー」という点.操作の結果から判断出来ないんです.
私も以前同じ状況にハマり,「フロント荷重を作り出せないのは,自分の踏力が足りないせいだ」と思い込んで,足の筋力トレーニングをしたりもしました.でも,プロドライバーと比較した結果,踏力に差がない(=減速度が一緒)という事に気づき,ドライバーではなく,クルマ側の問題なのだと考えるようになりました.そこから,どうやったら荷重の「掛け過ぎ」を判断出来るか?をグランツーリスモ(GT6)を使って見極める練習をして,クルマの動きから読み解く方法(&対処方法)を見出しました.これが今回役に立ち,0.5秒以上という成果に繫がったのは素直に嬉しいです♪
今回は時間の都合上,残念ながら2本しか走る事が出来ませんでしたが,減衰を更に4段階上げた状態でもう1本走っておきたかったですね.そうすれば,もしかしたら41秒には入れられたかもしれません.
あと,車載を見て気づいたのですが,このクルマ,ブレーキングで前傾姿勢になった時はよく曲がりますね.FD2のホイールベースで,こんなにキレイにリアが流れるなんて思いませんでした.お弟子さんがフロント荷重を自由自在にコントロール出来るようになったら,私のタイムは抜かれちゃうかも(汗).ただ,反対に後傾姿勢の時は全然曲がりませんね.これじゃ,確かに日光で減衰を弱くしたくなるはずだ・・・.
以上,フロント荷重のお話でした.
今回は予想外に長くなってしまったので,そろそろ終わりにしたいと思いますが,最後に「レの字コーナリング」の話.
「コーナーのエイペックスに対して,外から回り込むようなアプローチを行い,ブレーキングは真っ直ぐ止めて,一気にステアリングを切って(舵角を大きくして)向きを変え,少しでもアクセル全開の区間を長くする事でタイムを稼ぐ」というものですが,私はコレ,有効なのは"最近のクルマだけ"だと思っています.
ここで言う"最近のクルマ"というのは,横滑り防止装置(ホンダならVSA:Vehicle Stability Assist)の介入が強いクルマの事.つまりは,86/BRZレースのように電子制御を完全に切れないクルマ達の事です.そもそも「レの字」にする理由は,ステアリングを切りながらブレーキを踏むと,電子制御が介入して強制的に失速させられるからであり,この失速(介入)を避けるために,なるべく真っ直ぐな状態でフルブレーキングを行い,そこからステアリングブレーキ(舵角による抵抗)に繋げて,フットブレーキを使わない「ブレーキ残し」を作り出す技だったはず.
であるならば,そもそも電子制御が介入しない車種で「レの字」を行なうメリットはほとんどない.むしろ距離的に損する分だけデメリットの方が目立つと思います.
例えば,今回お弟子さんの後ろについた,おだてのまつさん(↑)が「インを開け過ぎるから,刺したくなった(笑)」と仰っていたのもその証拠ではないかと思います.39倶楽部の人が違和感を覚えるという事は,やっぱりラインとして間違っているのだと私は思います.
コーナーの立ち上がりで,アクセル踏んだらオーバーが出るような後輪駆動車ならばともかく,アンダーにしかならないFFで「レの字」をやるメリットはほとんどないと思います.私もかつては「レの字コーナリング」をしていましたが,
広場トレーニングで「それはベターだが,ベストではない」と指摘されてからは使っていません.